説明

水性殺菌・抗菌剤組成物

【課題】 紫外線照射の影響によって銀イオンが還元等して変色することがなく、塩化物イオンなどによって銀イオンを含む化合物が析出・沈殿したりすることがなく、且つ高粘度である、水性殺菌・抗菌剤組成物を提供する。
【解決手段】 銀−ヒスチジン錯体を含有するpHが9.5〜13で、500mPa・s以上の高粘度の水性殺菌・抗菌剤組成物を得る。本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物を、水性樹脂等に添加して殺菌性または抗菌性に優れた水性樹脂組成物または塗料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性殺菌・抗菌剤組成物に関する。より詳細に、本発明は、銀−ヒスチジン錯体を含有するpHが9.5〜13で高粘度の水性殺菌・抗菌剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
殺菌剤若しくは抗菌剤として、銀イオンを含む錯体が知られている。
例えば、特許文献1には、〔M+x2+y+za+ ・〔(Y)b −(Z)ca-〔式中、M+はアルカリ金属イオン、M2+はアルカリ土類金属イオン 、Yは抗菌性金属イオン、Zはアミノ酸由来の陰イオン、x、y、z、a、bおよびcは、それらイオンのモル数である。〕で表される金属錯塩が記載されている。該金属錯塩溶液のpHが7〜11の場合には、zが非常に小さくなり、xまたはyが大きくなり、安定性を確保する上で金属錯体溶液のアルカリ性の程度は弱アルカリ性(具体的にはpH=7.3〜10.0)であるのが好ましいと教示している。
特許文献2には、硝酸銀20mmolを水50mlに溶解してなる溶液Aを撹拌し、これに、L−ヒスチジン21mmolと水酸化ナトリウム22mmolとを水20mlに溶解してなる溶液Bを徐々に加え、得られた混合液を攪拌している1000mlのアセトン中に滴下し、白色沈殿物としてL−ヒスチジン−銀化合物を抗菌抗カビ剤として製造したことが記載されている。
特許文献3には、比較例2として、硫酸銀0.02質量%およびヒスチジン0.04質量%が溶解してなるpH8.0の液体洗剤助剤組成物が開示されている。また、硝酸銀0.02質量%およびヒスチジン0.3質量%が溶解してなるpH10〜11の液体洗剤助剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−209209号公報
【特許文献2】特開2000−16905号公報
【特許文献3】特開2008−285543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら銀−アミノ酸錯体は、紫外線照射の影響によって銀イオンが還元等して変色することがある。また、塩化物イオンなどによって、銀イオンを含む化合物が析出したり、沈殿したりすることがある。また、従来の銀−アミノ酸錯体の水溶液は低粘度である。
本発明の課題は、変色および析出若しくは沈殿し難い高粘度の水性殺菌・抗菌剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、銀1モル部とヒスチジン1〜3モル部とからなる銀−ヒスチジン錯体および水を含有するpH9.5〜13の水性殺菌・抗菌剤組成物を見出した。この組成物は高粘度で、被塗布面への粘りつきがよく、液垂れし難いという特長を有することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のものを含む。
〔1〕 銀1モル部とヒスチジン1〜3モル部とからなる銀−ヒスチジン錯体および水を含有するpH9.5〜13の水性殺菌・抗菌剤組成物。
〔2〕 pHが11〜12.5である、前記〔1〕に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物。
〔3〕 粘度が500mPa・s以上である、前記〔1〕または〔2〕に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物。
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物と樹脂とを含有する樹脂組成物。
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物を含有する塗料。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る水性殺菌・抗菌剤組成物は、高粘度なコロイドである。本発明に係る水性殺菌・抗菌剤組成物は、被塗布面への粘りつきがよく、液垂れし難いという特長を有する。本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物を、水性樹脂等に添加すると、殺菌性または抗菌性に優れた水性樹脂組成物または塗料を得ることができる。
本発明に係る水性殺菌・抗菌剤組成物は、光を照射させた場合でも、銀イオンの還元反応が起きず、変色することがない。
本発明に係る水性殺菌・抗菌剤組成物は、塩素化物イオンを含有する水溶液と混合した場合にも、塩化銀による白濁あるいは沈殿を生じることがない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
水性殺菌・抗菌剤組成物は、銀−ヒスチジン錯体および水を含有するものである。
【0009】
本発明に用いられる銀−ヒスチジン錯体は、銀1モル部と、ヒスチジン1〜3モル部、好ましくは1.5〜2.5モル部とからなる錯体である。
この銀−ヒスチジン錯体は、銀化合物とヒスチジン化合物とを共存させ、銀イオンにヒスチジンを配位させることによって得ることができる。
【0010】
銀−ヒスチジン錯体の調製に用いられる銀化合物は、特に限定されないが、酸化数1の銀化合物が特に好ましい。例えば、硝酸銀、酸化銀、塩化銀などが挙げられる。これらのうち酸化銀が好ましい。該銀化合物は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
銀−ヒスチジン錯体の調製に用いられるヒスチジン化合物としては、ヒスチジンおよびその塩が挙げられる。
【0011】
銀−ヒスチジン錯体の調製方法は特に制限されない。例えば、硝酸銀などの水溶性銀化合物を水に溶解させ、これにヒスチジン化合物をそのまま若しくは水に溶解させて添加混合することによって、銀−ヒスチジン錯体を調製することができる。また、ヒスチジン化合物を水に溶解させ、これに酸化銀や塩化銀などの水難溶性銀化合物を添加し、撹拌することによって、銀−ヒスチジン錯体を調製することができる。
【0012】
銀−ヒスチジン錯体の調製においては、銀化合物中の銀1モルに対してヒスチジン化合物が好ましくは1〜3モル、より好ましくは1.5〜2.5モル用いられる。3モルを超えるヒスチジン化合物を使用しても、製造コストが高くなるだけで経済的でない。
【0013】
水性殺菌・抗菌剤組成物は、pHが9.5〜13、好ましくは11〜12.5である。水性殺菌・抗菌剤組成物のpHの調整は、銀−ヒスチジン錯体を生成した後に行ってもよいし、銀−ヒスチジン錯体を生成する前に行ってもよいし、銀−ヒスチジン錯体を生成している最中に行ってもよい。
【0014】
pHを調整するために、一般に使用されている公知のpH調整剤を使用することができる。pH調整剤としては、硫酸、硝酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸塩等が挙げられる。これらのうちアルカリ性化合物が好ましい。該アルカリ性化合物は、特に限定されないが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましい。
【0015】
本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、室温下での粘度が、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1000〜10000mPa・sである。この程度の粘度を有するようになると、本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物はゲル状になる。
【0016】
水性殺菌・抗菌剤組成物中に含有する銀−ヒスチジン錯体の量は、該組成物に対して、好ましくは0.0005質量%〜20質量%、より好ましくは0.05質量%〜10質量%、さらに好ましくは0.25質量%〜5質量%である。
【0017】
本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物の製造に使用される水としては、水道水、精製水、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。これらのうち、安定性や経済性の面から、精製水またはイオン交換水が好ましい。水性殺菌・抗菌剤組成物中に含有する水の量は、該組成物に対して、好ましくは80〜99.9995質量%、より好ましくは90〜99.95質量%、さらに好ましくは95〜99.75質量%である。
【0018】
本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物には、さらに他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、錯体安定化剤、界面活性剤、有機溶剤、増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、香料、消泡剤等が挙げられる。
【0019】
本発明において錯体安定化剤は、銀−ヒスチジン錯体中の、銀イオンが還元されたり若しくは塩化物イオンや炭酸イオンなどと難溶性の塩を形成したりすることによる変質を防ぐ効果のある添加剤である。このような錯体安定化剤としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸、多価カルボン酸やそれらの塩、過酸化水素またはそれを放出する物質などが挙げられる。これらのうち、クエン酸、クエン酸塩、または過酸化水素が好ましいものとして挙げられる。
【0020】
界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ポリヘキサメチレンビグアニド等のカチオン性界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩、リグニンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、α−オレフィン脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤;アルキルメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0021】
有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等のグリコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、プロピレンカーボネート等のケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチルピロリドン等の極性溶剤が挙げられる。
【0022】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−t−ブチルフェノール]、アルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−セバケート)等が挙げられる。
【0023】
また、本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物には、その目的及び用途に応じて、公知の殺菌剤、抗菌剤、防カビ剤、防腐剤、防藻剤等の活性成分が含有されていてもよい。
該活性成分としては、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート(DDAA)等の第4級アンモニウム塩系化合物、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、グルコン酸クロルへキシジン等のビグアナイド系化合物、セチルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライド等のピリジニウム系化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物、3−ヨード−2−プロピニル−ブチルカーバメート等の有機ヨウ素系化合物、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン等のピリジン系化合物、ジンクピリチオン、ナトリウムピリチオン等のピリチオン系化合物、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール系化合物、メチル−2−ベンズイミダゾールカーバメート、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチオカーバメート系化合物、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル等のニトリル系化合物、N−(フルオロジクロロメチルチオ)−フタルイミド及びN−(フルオロジクロロメチルチオ)−N,N’−ジメチル−N−フェニル−スルファミド等のハロアルキルチオ系化合物、α−t−ブチル−α(p−クロロフェニルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(慣用名テブコナゾール)等のトリアゾール系化合物、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(慣用名DCMU)等のフェニルウレア系化合物、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−S−トリアジン等のトリアジン系化合物等が挙げられる。
これらの活性成分は、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これら活性成分の配合割合は、用途に応じて任意に決定することができる。
【0024】
本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、そのままで若しくは製剤化して、抗菌剤または殺菌剤として用いることができる。
製剤の形態としては、粉剤、粒剤、ペースト剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。製剤化において、例えば、クレー、タルク、シリカ、アルミナ、モンモリロナイト等に本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物を吸着させることができる。
【0025】
本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、抗菌性もしくは殺菌性の効果を必要とする素材に施用することができる。該素材としては、例えば、繊維、衛生加工品、医療用成形加工品、洗剤、クリーンフィルム、包装材料、保温剤、保冷剤、殺菌性材料、塗料、エマルション樹脂、切削油等の金属加工油、合板、木材、カゼイン、でんぷん糊、にかわ、塗工紙、紙用塗工液、表面サイズ剤、織布、不織布、皮革、接着剤、合成ゴムラテックス、印刷インキ、ポリビニルアルコールフィルム、塩化ビニルフィルム、プラスチック製品、セメント混和剤、シーリング剤、目地剤、防臭剤、消臭剤、人畜用排泄物処理などが挙げられる。
本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、広範な抗菌スペクトルを有し、施用された素材の品質に影響を及ぼさずかつその効果が長期間にわたり持続するものにすることができる。 本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、急性経口毒性、皮膚刺激性、粘膜刺激性等が低いことから安全性が高い。
施用方法は、対象となる素材に応じて、適宜選択できる。例えば、素材に混ぜ合わせる方法、素材に浸み込ませる方法、素材表面に塗布する方法などが挙げられる。
本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、水溶液、水系分散組成物、または水溶性もしくは親水性の固体成分と任意の割合で混合が可能である。混合後においても変色や沈殿を生じにくい。そのため、後に例示するように種々の製品に、本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物を添加混合して使用することができる。
【0026】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、樹脂と、本発明に係る水性殺菌・抗菌剤組成物とを含有するものである。使用する樹脂は、耐久性、耐水性、接着性、耐熱性、耐ブロッキング性、柔軟性等を考慮して適宜選択できる。
本発明の樹脂組成物に用いられる樹脂としては水性樹脂が好ましい。水性樹脂は、水に溶解若しくは乳化分散された樹脂である。
樹脂はゴム状高分子と樹脂状高分子とに大別される。
ゴム状高分子としては、例えば、天然ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
樹脂状高分子としては、例えば、松脂のような天然樹脂、ポリエチレン、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0027】
(塗料)
本発明の塗料は、本発明に係る水性殺菌・抗菌剤組成物を含有するものである。本発明の塗料には、通常の塗料に含有されている成分が含まれている。例えば、バインダー、ワックス、顔料、有機溶剤などが挙げられる。バインダーとしては、水性樹脂、有機溶媒分散性樹脂などが挙げられる。バインダーとしてはアクリル系樹脂が好ましい。
【0028】
(接着剤)
本発明の接着剤は、本発明に係る水性殺菌・抗菌剤組成物を含有するものである。本発明の接着剤には、通常の接着剤に含有されている成分が含まれている。例えば、接着性樹脂、有機溶剤、性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤、界面活性剤、導電性付与剤などが挙げられる。接着性樹脂としては、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0030】
以下の方法で、水溶液または水性組成物の物性を測定した。
(粘度)
粘度は、B型粘度計(M4ローター、回転数60rpm、測定時間1分間)で測定した。
【0031】
(光安定性)
試験対象の水溶液または水性組成物をガラス製試験管に入れ、栓で密封し、蛍光灯照射下(4000Lux)、25℃の室内に1週間放置した。その後、外観を目視観察して、以下の指標にて評価した。
A:均一透明
B:均一微濁または変色
C:沈殿またはガラス器壁への付着物あり
【0032】
(化学的安定性)
20mg/Lの塩化ナトリウム水溶液に、試験対象の水溶液または水性組成物を濃度1重量%となるように添加し、混合した、その後、外観を目視観察して以下の指標にて評価した。
A:均一透明
B:均一微濁または変色
C:沈殿またはガラス器壁への付着物あり
【0033】
(殺菌性試験)
黄色ブドウ球菌、枯草菌、大腸菌または緑膿菌のコロニーを一白金耳かきとって、それぞれをニュートリエントブロス(栄研化学社製普通ブイヨン‘栄研’)液体培地9mLに懸濁し、31±1℃で18時間振盪して前培養を行った。この培養液を新鮮なニュートリエントブロス液体培地で100倍に希釈した。該希釈液を100μLずつ96穴のマイクロプレートに入れた。
実施例1および2で得られた水性組成物並びに比較例1および2で得られた水溶液を表に示す設定濃度になるように精製水で希釈して、試験液を得た。これらを前記マイクロプレートに各50μL加え、希釈液と混ぜた。
マイクロプレートを31±1℃の環境下に48時間静置し、培養した。その後、該培養液をニュートリエントブロス寒天培地に接種して菌が増殖するか否かを観察した。
なお、下記の表において銀濃度0mg/Lは、前記試験液の代わりに精製水を加えたことを意味する。表1には黄色ブドウ球菌の結果を、表2には枯草菌の結果を、表3には大腸菌の結果を、表4には緑膿菌の結果をそれぞれ示した。表中の「+」は菌の増殖有りを、「−」は菌の増殖無しを示す。
【0034】
比較例1
酸化銀1.074g、L−ヒスチジン2.88gおよび水96.046gをビーカーに入れ、室温で30分間以上攪拌し、銀−ヒスチジン錯体2.44重量%(銀として約1.00重量%)を含有する水溶液を得た。該水溶液は、pHが7.9で、粘度が100mPa・s以下であった。また、光安定性および化学的安定性はいずれもCであった。該水溶液の殺菌性試験の結果を表1〜4に示す。
【0035】
比較例2
酸化銀1.074g、L−ヒスチジン2.88g、クエン酸3ナトリウム0.4g、クエン酸0.4gおよび水95.646gをビーカーに入れ、室温で30分間以上攪拌し、銀−ヒスチジン錯体2.44重量%(銀として約1.00重量%)を含有する水溶液を得た。該水溶液は、pHが6.8で、粘度が100mPa・s以下であった。また、光安定性および化学的安定性はいずれもCであった。該水溶液の殺菌性試験の結果を表1〜4に示す。
【0036】
実施例1
比較例1において得られた水溶液に、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、混合することによって、水性組成物を得た。該水性組成物は、pHが12で、粘度が2130mPa・sであった。また、光安定性および化学的安定性はいずれもAであった。該水性組成物の殺菌性試験の結果を表1〜4に示す。
【0037】
実施例2
比較例2において得られた水溶液に、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、混合することによって、水性組成物を得た。該水性組成物は、pHが12で、粘度が1900mPa・sであった。また、光安定性および化学的安定性はいずれもAであった。該水性組成物の殺菌性試験の結果を表1〜4に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
以上のことから次のことがわかる。本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、紫外線照射の影響によって銀イオンが還元等して変色することがなく、塩化物イオンなどによって銀イオンを含む化合物が析出・沈殿したりすることがなく、且つ高粘度である。しかも、本発明の水性殺菌・抗菌剤組成物は、このような特長を持つ上に、低粘度の銀−ヒスチジン錯体水溶液と同等の殺菌性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀1モル部とヒスチジン1〜3モル部とからなる銀−ヒスチジン錯体および水を含有するpH9.5〜13の水性殺菌・抗菌剤組成物。
【請求項2】
pHが11〜12.5である、請求項1に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物。
【請求項3】
粘度が500mPa・s以上である、請求項1または2に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物と樹脂とを含有する樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性殺菌・抗菌剤組成物を含有する塗料。

【公開番号】特開2012−41287(P2012−41287A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182649(P2010−182649)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】