説明

水性潤滑剤における極圧添加剤としてのラメラ微結晶の使用、ラメラ微結晶及びその製造法

【課題】金属変形加工用水性潤滑剤のための摩擦摩耗係数を低くする極圧添加剤。
【解決手段】 0.1μm〜100μmの範囲内の長さ(L)、0.5μm〜30μmの範囲内の幅(l)及び5nm〜200nmの範囲内の厚さを有するラメラ微結晶であって、有機相(O)と水溶液(A)とがO/[A/O]nの順序で積み重なった積層を含み、その積層厚さが5nm〜200nmであり、有機相が、(i)少なくとも5個の炭素原子を含有する飽和又は不飽和カルボン酸、式:(RO)x−P(=O)(OH)x'[Rは任意でポリアルコキシ化される炭化水素基であり、x及びx'は1又は2、x及びx'の合計は3]を有する酸性燐酸エステル、並びに有機又は無機塩基によって任意に中和される前記酸から選択される少なくとも1種の酸、及び多価イオンの形態にある少なくとも1種の金属、又は(ii)好ましくは30〜90℃の範囲内の曇り点を有する少なくとも1種のポリオキシアルキレンブロック重合体を含むことからなるラメラ微結晶及びそれらの取得法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラメラ微結晶を水性潤滑剤中において極圧添加剤として使用することに関する。また、本発明は、これらのラメラ微結晶及びそれらの製造法にも関する。
【背景技術】
【0002】
圧延、引抜加工又は切削の如き金属の変換及び変形操作では、潤滑剤が使用されなければならない。極めて苛酷な速度、圧力及び適用力条件下に実施されるかかる操作では、金属と変換/変形を実施するための工具との間の摩擦係数が極めて高くなる。これは、工具表面の急速な摩耗を引き起こす。かかる急速な摩耗は、工具の破損や変換/変形した金属における表面欠損の出現の原因になる。潤滑剤の使用はこの摩耗係数をかなり低下させることができ、かくして摩耗及び表面欠損の問題を減少させることができる。
【0003】
多数の異なるタイプの潤滑剤、即ち、油性及び水性潤滑剤が存在する。最初のものの適用分野は第二のものよりも多く制限される。というのは、極圧条件下では油性潤滑剤は金属の加熱を十分には補償することができないからである。これは、金属及び工具を一緒に融着する溶融をもたらす。また、かかる融着は、集合体を不動化する。「極圧」添加剤として知られる添加剤を使用すると、かかる現象の出現を遅らせることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、極圧条件下では、水性潤滑剤を使用するのが好ましい。かかる潤滑剤の1つの利益は、それらが水の伝熱能によって金属表面を冷却させることができるという事実にある。この理由のために、加熱に関して油ベース潤滑剤で遭遇する不利益が部分的に解消される。これとは対照的に、摩擦摩耗係数を抑制することに関して“極圧”添加剤に課される要件は厳しいままである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、有機相と水溶液との積層からなるミクロ寸法のラメラ微結晶を水性潤滑剤中において極圧添加剤として使用することに関する。
【0006】
100μm又はそれ以下の長さ、30μm又はそれ以下の幅及び200nm又はそれ以下の厚さを有するかかるラメラ微結晶が変換しようとする金属の表面に接触し、そしてそれらは、そのラメラ微結晶が変換/変形操作中に互いに滑動するにつれて潤滑を促進させることが確かめられた。更に、ラメラ微結晶が分散されるところの水性相のために、金属表面の加熱が観察されない。
【0007】
本発明の他の利益及び特徴は、以下の説明及び実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、透過電子鏡検法(Cryo−TEM;写真の尺度:2μm)を使用して撮った写真を示す。それは、本発明のラメラ微結晶を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
かくして、第一の面では、本発明は、0.1μm〜100μmの範囲内の長さ(L)、0.5μm〜30μmの範囲内の幅(l)及び5nm〜200nmの範囲内の厚さ(e)を有するラメラ微結晶であって、有機相(O)と水溶液(A)とがO/[A/O]n(ここで、nは0以外の整数である)の順序で積み重なった積層を含み、しかもその積層の厚さが5nm〜200nmになる程であり、そして有機相が、
(i) ・少なくとも5個の炭素原子を含有する飽和又は不飽和カルボン酸、
・式:(RO)x−P(=O)(OH)x'
[式中、Rは炭化水素基そして随意にポリアルコキシであり、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する酸性燐酸エステル
・有機又は無機塩基によって随意に中和される前記酸、
から選択される少なくとも1種の酸、及び
多価イオンの形態にある少なくとも1種の金属、又は
(ii)曇り点を示す少なくとも1種のポリオキシアルキレンブロック重合体、
を含むことからなるラメラ微結晶を、金属の変形又は変換のために使用される水性潤滑剤中に使用される極圧添加剤として使用することに関する。
【0010】
第二の面では、本発明は、かかるラメラ微結晶によって構成される。
【0011】
更なる面では、本発明は、ラメラ微結晶の製造法によって構成される。
【0012】
本発明のラメラ微結晶を製造する際の第一変形例では、そしてラメラ微結晶が有機相(i)を含む場合には、本法は、酸(これは中和されることができる)を含む溶液又は分散液をイオン及び/又は金属形態にある金属と接触させることよりなる。
【0013】
本発明のラメラ微結晶を製造する際の第二変形例では、そしてラメラ微結晶が有機相(ii)を含む場合には、重合体を含む水性混合物が調製され、次いでその混合物の温度がブロック重合体の曇り点よりも上の点に局部的に上昇される。より具体的には、この温度上昇は、特に金属の摩擦又は変形から生じる熱の放出によって処理/変形しようとする金属表面に接近して実施される。
【0014】
先ず、ラメラ微結晶について明確にするために説明することにする。
【0015】
先に記載したように、該ラメラ微結晶の長さは0.1μm〜100μmの範囲内である。好ましくは、ラメラ微結晶の長さは、0.5μm〜20μmの範囲内である。更に、ラメラ微結晶の幅は0.5μm〜30μmの間である。特に、ラメラ微結晶の幅は0.5μm〜10μmの範囲内である。最後に、ラメラ微結晶の厚さは5nm〜200nmの範囲内、好ましくは10nm〜100nmの範囲内である。
【0016】
先に記載したラメラ微結晶の寸法は平均値に相当する。換言すれば、先に記載した範囲内に位置する平均を持つラメラ微結晶寸法の分布が存在する。
【0017】
ラメラ微結晶の寸法は、凝固点降下法的にガラス化された試料の透過電子鏡検法によって測定される(Cryo−TEM−O.Aguerre-Chariol, M.Deruelle, T.Boukhnikachvili, M.In, N.Shahidzadeh, “ガラス化試料に対するCryo−TEM:界面活性剤の分散液又はエマルジョンの原理、用途”、Proceedings du Congres Mondial de l'Emulsion,Bordeaux,France,(1997)を参照)
【0018】
より具体的に言えば、ラメラ微結晶は、有機相(O)と水溶液(A)とがO/[A/O]n(ここで、nは0以外の数である)の順序で積み重なった積層であって、積層の厚さが5nm〜200nmになるようにしたものによって構成される。特に、nは、多くて100になりうる正の整数である。好ましくは、nは1〜20の範囲内の整数である。
【0019】
本発明の第一具体例では、ラメラ微結晶は、少なくとも1種の酸と多価イオンの形態にある少なくとも1種の金属とによって構成される有機相を含む。該有機相の組成物中の酸形成性部分は、
・少なくとも5個の炭素原子を含有する飽和又は不飽和カルボン酸、
・式:(RO)x−P(=O)(OH)x'
[式中、Rは炭化水素基そして随意にポリアルコキシであり、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する酸性燐酸エステル、
から選択される。更に、該酸は、有機又は無機塩基によって随意に中和される。有機相は、単一タイプの酸又はこれらの2つのタイプの混合物のどちらも含むことができることを理解すべきである。これらのタイプの各々において、それらは単一酸又はそれらの複数の混合物を含むことができる。
【0020】
特に、本発明のラメラ微結晶の有機相の組成物中に使用することができるカルボン酸は、5〜40個の炭素原子を含有する飽和又は不飽和モノ−又はポリカルボン酸から選択される。好ましくは、これらは、次の式:
1−COOH
[式中、R1は、1個又はそれ以上のエチレン式不飽和結合を含有し且つ5〜40個の炭素原子(カルボキシル基の炭素原子を含めて)を含有する線状又は分岐状アルキル基又はアルケニル基であって、1個又はそれ以上のヒドロキシル基及び/又は少なくとも1種のカルボン酸官能基で随意に置換されるものを表わす]を有する。
【0021】
本発明の有益な実施態様では、酸は、上記式においてR1が7〜30個の炭素原子を含有するアルキル基であって、1個又はそれ以上のヒドロキシル基及び/又は一個又はそれ以上そして好ましくは1個のカルボキシル官能基で随意に置換されるアルキル基を表わすものに相当する。第二カルボキシル基が存在する場合には、それは鎖の末端に存在してもよく又はそうでなくてもよいことを理解されたい。
【0022】
好ましくは、有機相(i)は、少なくとも1種の脂肪酸、特に単一のカルボキシル官能基を含有するものから誘導される。
【0023】
挙げることができる飽和脂肪酸の例は、ステアリン酸、パルミチン酸及びベヘン酸である。不飽和脂肪酸の例としては、単一の二重結合を有する不飽和脂肪酸、例えばリンデル酸、ミリストオレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ペトロセリン酸、ドエグル酸、ガドレイン酸及びエルカ酸、2個の二重結合を含有する不飽和脂肪酸、例えばリノール酸、3個の二重結合を含有する不飽和脂肪酸、例えばリノレン酸、4個よりも多くの二重結合を含有する不飽和脂肪酸、例えばイサン酸、ステアロドン酸、アラキドン酸及びチパノドン酸、ヒドロキシル基を含有する不飽和脂肪酸、例えばリシノール酸、並びにこれらの混合物を挙げることができる。上記の酸のうち、パルミチン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ペトロセリン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸及びリシノール酸を使用するのが好ましい。
【0024】
酸性燐酸エステルは、次の式:
(RO)x−P(=O)(OH)x'
[式中、Rは同種又は同種であって、そして随意にポリアルコキシ化される炭化水素基を表わし、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する。
【0025】
好ましくは、酸性燐酸エステルは、次の式:
[R(OA)yx−P(=O)(OH)x'
[式中、Rは、同種又は異種であってよい1〜30個の炭素原子を含有する炭化水素基を表わし、Aは2〜4個の炭素原子を含有する線状又は分岐状アルキレン基であり、yは平均値であって、0〜100の範囲内であり、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する。
【0026】
特に、Rは、1〜30個の炭素原子を含有する飽和若しくは不飽和脂肪族、シクロ脂肪族又は芳香族炭化水素基である。好ましくは、R基は、同種又は異種であってよく、そして1個又はそれ以上の線状又は分岐状エチレン式不飽和結合を有し且つ8〜26個の炭素原子を含有するアルキル又はアルケニル基である。特に挙げることができるかかる基の例は、ステアリル、オレイル、リノレイル及びリノレニル基である。更に、R基は、同種又は異種であってよく、そしてアルキル、アリールアルキル又はアルキルアリール置換基を有する芳香族基であってよい。これらの基は、6〜30個の炭素原子を含有する。挙げることができるかかる基の例には、ノニルフェニル、モノ−、ジ−及びトリスチリルフェニル基がある。
【0027】
特に、OA基は、オキシエチレン、オキシプロピレン若しくはオキシブチレン基又はそれらの混成基に相当する。好ましくは、該基は、オキシエチレン及び/又はオキシプロピレン基に相当する。平均値であるyの値について言えば、それは、0〜80の範囲内であるのが好ましい。
【0028】
先に記載したように、ラメラ微結晶の有機相の組成物中の酸形成性部分は、随意に、無機又は有機塩基で中和される中和形態にある。酸を中和するのに使用することができる好適な塩基としては、一価種を形成する塩基性化合物が挙げられる。使用される塩基は水溶性であるのが好ましいことを理解されたい。挙げることができるかかる化合物の例には、限定するものではないが、アルカリ金属の水酸化物、ヒドロキシ炭酸塩、炭酸塩及び重炭酸塩、並びにアンモニア性溶液がある。
【0029】
挙げることができる好適な有機塩基の例には、1〜40個の炭素原子を含有する第一、第二又は第三アミンであって、1個又はそれ以上のヒドロキシル基及び/又は1個又はそれ以上のオキシアルキレン基で随意に置換されるものがある。該アルキレン基は、オキシエチレン単位であるのが好ましい。更に、オキシアルキレン単位が存在するときには、その数は100又はそれ以下である。
【0030】
挙げることができる好適なアミンは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、アミノエチルエタノールアミン及びアミノメチルプロパノールアミンである。また、有機塩基として、ポリオキシアルキレン化脂肪アミン、例えば、ローディア・シミによって商品名「Rhodameene CS20」として販売されるものを使用することもできる。
【0031】
また、ラメラ微結晶は、多価イオンの形態にある少なくとも1種の金属を含む。特に、該金属は、二価イオン又は三価イオンの形態にあってよい。また、同じ又は異なってもよい酸化数を有する複数の金属を使用することもできる。
【0032】
本発明の特定の実施態様では、該金属は、第IIA、VIII、IB、IIB族のものから選択される(但し、コバルト及びニッケルを除く)。特に、該金属は、カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛、鉄及びアルミニウムから選択される。
【0033】
ラメラ微結晶は少なくとも2種の金属の混合物を含むことができることに注目すべきであり、そしてこれが本発明の有益な実施態様に相当する。好ましい変形例では、ラメラ微結晶は2種の金属好ましくは亜鉛と銅との混合物を含む。
【0034】
本発明の第二の実施態様では、ラメラ微結晶の有機相は、曇り点を有する少なくとも1種のポリオキシアルキレン化ブロック重合体を含む。曇り点は、重合体相と水との相状態図における臨界点の温度であって、ミセル間の吸引力の発現に相当し、自己組織化ラメラ相と溶液との共存を引き起こす温度を表わすことを理解されたい。
【0035】
本発明の有益な実施態様では、有機相(ii)の組成物中のポリオキシアルキレン化ブロック重合体形成性部分は30℃〜90℃の範囲内の曇り点を示す。更に、このブロック重合体は、500〜50000g/モルの重量平均分子量(GPEによって測定、標準:ポリエチレングリコール)を有するのが好ましい。
【0036】
本発明において使用するのに好適な重合体は、オキシエチレン化及びオキシプロピレン化及び/又はオキシブチレン化単位を含む。特に、かかるブロック重合体におけるオキシエチレン化/(オキシプロピレン化及び/又はオキシブチレン化)単位の割合は1.5〜5の範囲内である。本発明の好ましい実施態様では、ブロック重合体は、オキシエチレン化及びオキシプロピレン化単位を含む。
【0037】
タイプ(ii)の有機相を含むラメラ微結晶の場合には、後者は、該ラメラ微結晶が分散されるところの媒体の温度を該ブロック重合体の曇り点よりも高いか又はそれに等しい温度に局部的に上昇されることによって使用されることに留意すべきである。かかる局部的上昇は、有益には、処理及び/又は変形しようとする金属表面に接近して行うことができる。反応又は変形の間に、金属表面は一般には熱くなる。
【0038】
使用に際して水性潤滑剤中に分散されるラメラ微結晶の量は、通常は、使用中の潤滑剤の総重量に対して0.1重量%〜5重量%に相当する。好ましくは、ラメラ微結晶の量は、同じ基準に関して0.1重量%〜1重量%の範囲内である。
【0039】
本発明のラメラ微結晶は、少なくとも1種の非イオン性界面活性剤の存在下に使用されることができる。非イオン性界面活性剤の例としては、限定するものではないが、
・アルキル置換基がC6〜C12であるところのポリオキシアルキレン化アルキルフェノール、
・アルキル置換基がC1〜C6であるところのポリオキシアルキレン化モノ−、ジ−又はトリ(アルキルアリール)フェノール、
・ポリオキシアルキレン化C8〜C22脂肪族アルコール、
・ポリオキシアルキレン化トリグリセリド、
・ポリオキシアルキレン化脂肪酸、
・ポリオキシアルキレン化ソルビタンエステル、
・C8〜C20脂肪酸アミド(これはポリオキシアルキレン化されてもよい)、
を挙げることができる。
【0040】
これらの非イオン性界面活性剤のポリオキシアルキレン化単位(存在するならば)の数は通常は2〜100である。用語「ポリオキシアルキレン化単位」は、オキシエチレン化、オキシプロピレン化又はこれらの混成単位を表わすことを理解されたい。界面活性剤の量は、通常は、使用中の潤滑剤の総重量に対して0〜5%の範囲内である。
【0041】
ここで、本発明のラメラ微結晶の製造法について説明する。第一の実施態様では、タイプ(i)の有機相を含むラメラ微結晶は、酸(これは随意に中和される)を含む溶液又は分散液をイオン及び/又は金属形態にある金属と接触させることによって製造することができる。用語「分散液」は、ベシクル、液滴又はミセルを水性媒体中に分散させた分散液を意味することを理解されたい。分散液を使用する場合には、上に挙げたリストから選択されるものの如き少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を含む分散液を使用するのが有益になる場合がある。
【0042】
界面活性剤が存在するときには、その量は、通常、濃厚分散液の総重量の1%〜30%の間である。
【0043】
金属に関して言えば、それは、その金属形態で又は多価陽イオンの形態で同等に見い出すことができる。該陽イオンそれ自体は、固体、溶液又は分散液の形態にあってよい。金属が溶液好ましくは水溶液の形態で使用されるときには、鉱酸塩、例えば、塩化物のようなハロゲン化物又は硝酸塩を使用することができ、また、ギ酸塩又は酢酸塩のような有機酸塩も使用することができる。また、酸化物、水酸化物、炭酸塩又は金属それ自体の形態にある金属を使用することを意図することも可能である。
【0044】
好ましくは、接触は、pHに緩衝作用を及ぼすための少なくとも1種の化合物の存在下に行われる。特に、媒体のpHが7〜9好ましくは8〜8.5になるように1種又はそれ以上の化合物が選択される。接触は、撹拌下に行われる。好ましくは、金属は、上に記載した無機又は有機塩基で随意に中和される酸の溶液又は分散液中に選択した形態で導入される。操作は、100℃以下の温度で好ましくは20℃〜60℃の範囲内の温度で実施されるのが有益である。
【0045】
第二の実施態様では、タイプ(ii)の有機相を含むラメラ微結晶は、重合体を含む水性混合物を調製し、次いで該混合物の温度を該重合体の曇り点の値に少なくとも等しいか又はそれよりも大きい値に局部的に上昇されることによって得ることができる。この温度上昇は、金属変換プロセスでの金属及び工具の変形又は摩擦による加熱から単に生じることができ、そして重合体が熱表面の近くでその曇り点を超えて通過すると、本発明のラメラ微結晶が生成することを指摘したい。
【0046】
かくして、本発明のラメラ微結晶は、金属の変形及び変換に使用される水性潤滑剤中において極圧添加剤として使用されるが、これが本発明の更なる面を構成する。用語「変形」は、引抜加工及び圧延の操作を意味する。特に、用語「変換操作」は、金属を切削することを意味する。かかる処理を受けることができる金属は、特にそして原則的には、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、亜鉛、錫、銅基合金(青銅、黄銅)などである。
【0047】
本発明の1つの好ましい実施態様では、本発明のラメラ微結晶を含む水性潤滑剤が黄銅被覆鋼ワイヤの引抜加工において使用される。水性潤滑剤は、一般には、水中型のコロイド分散液である。この分散液は、固体粒子又は有機相を水性媒体中に入れたエマルジョン又は分散液であってよいことを理解されたい。一般には、水性潤滑剤のpHは7〜9の範囲内である。
【0048】
また、それらは、保存剤、腐食防止剤、消泡剤又は安定剤のようなこの分野において慣用の添加剤を含むこともできる。
【0049】
本発明のラメラ微結晶は、新規な金属又はスクラップ金属を処理又は変形するためのタンクに同等に導入されることができる。本発明のラメラ微結晶は、前駆物質の形態でタンクに導入されることができることに注目すべきである。タイプ(i)の有機相によって構成されるラメラ微結晶の場合には、随意に中和される酸溶液を、そしてまた所要の形態にある金属をタンクに加えることが可能である。タイプ(ii)の有機相を含むラメラ微結晶の場合には、曇り点を示すブロック重合体(これは、局部温度が該重合体の曇り点の値に少なくとも等しい値に達するや否やラメラ微結晶に変換される)をタンクに加えることが可能である。
【実施例】
【0050】
ここで、本発明の実施例を提供するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
実施例
水中において、次の混合物を撹拌しながら調製した。
オレイン酸:9重量%
エチレンジアミン:5重量%
「Rhodafac PA35」:5重量%
3PO4/ジエタノールアミン :8〜8.5の範囲内のpHを生じるのに十分な量
(緩衝剤)
次いで、得られた混合物を10倍に希釈した。次いで、粉末黄銅(15g/l)を40℃で撹拌しながら加えた。混合物を前に記載した温度で5日間撹拌した。透過電子顕微鏡分析によって、混合物はラメラ微結晶を含有することが確認された。図面は、50nm〜100nmの範囲内の横断面及び2〜3μmよりも大きい長さ(図面の尺度:2μm)を有するラメラ微結晶を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1μm〜100μmの範囲内の長さ(L)、0.5μm〜30μmの範囲内の幅(l)及び5nm〜200nmの範囲内の厚さ(e)を有するラメラ微結晶であって、有機相(O)と水溶液(A)とがO/[A/O]n(ここで、nは0以外の整数である)の順序で積み重なった積層を含み、しかもその積層の厚さが5nm〜200nmになる程であり、そして有機相が、
(i) ・少なくとも5個の炭素原子を含有する飽和又は不飽和カルボン酸、
・式:(RO)x−P(=O)(OH)x'[式中、Rは炭化水素基そして随意にポリアルコキシであり、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する酸性燐酸エステル
・有機又は無機塩基によって随意に中和される前記酸、
から選択される少なくとも1種の酸、及び
多価イオンの形態にある少なくとも1種の金属、又は
(ii)曇り点を示す少なくとも1種のポリオキシアルキレンブロック重合体、
を含むことからなるラメラ微結晶の、金属の変形又は変換(la deformation ou la transformation de metaux)のために使用される水性潤滑剤中に使用される極圧添加剤としての使用。
【請求項2】
ラメラ微結晶の長さが0.5μm〜20μmの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項3】
ラメラ微結晶の幅が0.5μm〜10μmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
ラメラ微結晶の厚さが10nm〜100nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
有機相(i)の酸が5〜40個の炭素原子を含有する少なくとも1種の飽和又は不飽和モノ−又はポリカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
有機相(i)の酸が、次の式:
1−COOH
[式中、R1は、1個又はそれ以上のエチレン式不飽和結合を含有し且つ5〜40個の炭素原子(カルボキシル基の炭素原子を含めて)を含有する線状又は分岐状アルキル基又はアルケニル基であって、1個又はそれ以上のヒドロキシル基及び/又は少なくとも1種のカルボン酸官能基で随意に置換されるものを表わす]を有する少なくとも1種の酸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
有機相(i)の酸が、次の式:
[R(OA)yx−P(=O)(OH)x'
[式中、Rは1〜30個の炭素原子を含有する炭化水素基を表わし、Aは2〜4個の炭素原子を含有する線状又は分岐状アルキレン基であり、yは平均値であって、0〜100の範囲内であり、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する少なくとも1種の酸性燐酸エステルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
有機相(i)の酸が、一価種を形成する塩基性化合物から選択される塩基を使用して中和されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
無機塩基が、アルカリ金属の水酸化物、ヒドロキシ炭酸塩、炭酸塩及び重炭酸塩、並びにアンモニア性溶液から選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
有機塩基が、1〜40個の炭素原子を含有する第一、第二及び第三アミンであって、1個又はそれ以上のヒドロキシル基で随意に、及び/又は1個又はそれ以上のオキシアルキレン化基によって随意に置換されるものから選択されることを特徴とする請求項8記載の使用。
【請求項11】
有機相(i)が、第IIA、VIII、IB、IIB族から選択される多価陽イオン(但し、コバルト及びニッケルを除く)の形態にある少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の使用。
【請求項12】
有機相(ii)が、30℃〜90℃の範囲内の曇り点を有する少なくとも1種のポリオキシアルキレン化ブロック重合体を含むことを特徴とする請求項1記載の使用。
【請求項13】
有機相(ii)が、500〜50000g/モルの範囲内の重量平均分子量を有する少なくとも1種のブロック重合体を含むことを特徴とする請求項12記載の使用。
【請求項14】
有機相(ii)が、オキシエチレン化並びにオキシプロピレン化及び/又はオキシブチレン化単位を含む少なくとも1種のブロック重合体を含むことを特徴とする請求項12又は13記載の使用。
【請求項15】
有機相(ii)が、1.5〜5の範囲内の割合のオキシエチレン化/(オキシプロピレン化+オキシブチレン化)単位を含有する少なくとも1種のブロック重合体を含むことを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項記載の使用。
【請求項16】
有機相(ii)を含むラメラ微結晶が該有機相の曇り点よりも高い温度において使用されることを特徴とする請求項1及び12〜15のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
水性潤滑剤が少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項記載の使用。
【請求項18】
鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、亜鉛、錫及び銅基合金(青銅、黄銅)の群から選ばれた少なくとも一種の金属の処理及び/又は変形のための請求項1〜17のいずれか一項記載の使用。
【請求項19】
黄銅被覆鋼ワイヤを引抜加工するための請求項1〜18のいずれか一項記載の使用。
【請求項20】
0.1μm〜100μmの範囲内の長さ(L)、0.5μm〜30μmの範囲内の幅(l)及び5nm〜200nmの範囲内の厚さ(e)を有するラメラ微結晶であって、有機層(O)と水溶液(A)とがO/[A/O]n(ここで、nは0以外の整数である)の順序で積み重なった積層を含み、しかもその積層の厚さが5nm〜200nmになる程であり、そして有機相が、
(i) ・少なくとも5個の炭素原子を含有する飽和又は不飽和カルボン酸、
・式:(RO)x−P(=O)(OH)x'[式中、Rは炭化水素基そして随意にポリアルコキシであり、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する酸性燐酸エステル、
・有機又は無機塩基で随意に中和される前記酸、
から選択される少なくとも1種の酸、及び
多価イオンの形態にある少なくとも1種の金属、又は
(ii)曇り点を示す少なくとも1種のポリオキシアルキレンブロック重合体、
を含むことからなるラメラ微結晶。
【請求項21】
少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を含む水性媒体中に分散されることを特徴とする請求項20記載のラメラ微結晶。
【請求項22】
ラメラ微結晶の長さが0.5μm〜20μmの範囲内であることを特徴とする請求項20又は21記載のラメラ微結晶。
【請求項23】
ラメラ微結晶の幅が0.5μm〜10μmの範囲内であることを特徴とする請求項20〜22のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項24】
ラメラ微結晶の厚さが10nm〜100nmの範囲内であることを特徴とする請求項20〜23のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項25】
有機相(i)の酸が5〜40個の炭素原子を含有する少なくとも1種の飽和又は不飽和モノ−又はポリカルボン酸であることを特徴とする請求項20〜24のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項26】
有機相(i)の酸が、次の式:
1−COOH
[式中、R1は、1個又はそれ以上のエチレン式不飽和結合を含有し且つ5〜40個の炭素原子(カルボキシル基の炭素原子を含めて)を含有する線状又は分岐状アルキル基又はアルケニル基であって、1個又はそれ以上のヒドロキシル基及び/又は少なくとも1種のカルボン酸官能基で随意に置換されるものを表わす]を有する少なくとも1種の酸であることを特徴とする請求項20〜25のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項27】
有機相(i)の酸が、次の式:
[R(OA)yx−P(=O)(OH)x'
[式中、Rは1〜30個の炭素原子を含有する炭化水素基を表わし、Aは2〜4個の炭素原子を含有する線状又は分岐状アルキレン基であり、yは平均値であって、0〜100の範囲内であり、そしてx及びx’は1又は2であり、但し、x及びx’の合計は3である]を有する少なくとも1種の酸性燐酸エステルであることを特徴とする請求項20〜26のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項28】
有機相(i)の酸が、一価種を形成する塩基性化合物から選択される塩基を使用して中和されていることを特徴とする請求項20〜27のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項29】
有機相(i)が、第IIA、VIII、IB、IIB族から選択される多価陽イオン(但し、コバルト及びニッケルを除く)の形態にある少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする請求項20〜28のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項30】
有機相(ii)が、30℃〜90℃の範囲内の曇り点を有する少なくとも1種のポリオキシアルキレン化ブロック重合体を含むことを特徴とする請求項20又は21記載のラメラ微結晶。
【請求項31】
有機相(ii)が、500〜50000g/モルの範囲内の重量平均分子量を有する少なくとも1種のブロック重合体を含むことを特徴とする請求項20〜24又は30のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項32】
有機相(ii)が、1.5〜5の範囲内の割合のオキシエチレン化/(オキシプロピレン化+オキシブチレン化)単位を含有する少なくとも1種のブロック重合体を含むことを特徴とする請求項20〜24又は30又は31のいずれか一項記載のラメラ微結晶。
【請求項33】
有機層(ii)が、オキシエチレン化及びオキシプロピレン化及び/又はオキシブチレン化単位を含む少なくとも1種のブロック重合体を含むことを特徴とする請求項20〜24又は30〜32のいずれか一項記載のラメラ微結晶の使用法。
【請求項34】
随意に中和される酸を含む溶液又は分散液を、イオン及び/又は金属形態にある金属と接触させることを特徴とする請求項20〜29のいずれか一項記載のラメラ微結晶の製造法。
【請求項35】
少なくとも1種の非イオン性界面活性剤を含む分散液が使用されることを特徴とする請求項34記載の方法。
【請求項36】
重合体を含む水性混合物が調製され、そして該混合物の温度が少なくとも該重合体の曇り点の値又はそれ以上である値に局部的に上昇されることを特徴とする請求項20〜24又は30〜33のいずれか一項記載のラメラ微結晶の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−287030(P2009−287030A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184750(P2009−184750)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願2001−531946(P2001−531946)の分割
【原出願日】平成12年10月23日(2000.10.23)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【Fターム(参考)】