説明

水性発泡耐火塗料組成物

【課題】水性の発泡耐火塗料組成物であって、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐水性、優れた耐候性を発現できる、水性発泡耐火塗料組成物を提供する。このような水性発泡耐火塗料組成物を用いた複層塗膜形成方法、および、このような複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備える塗装物を提供する。
【解決手段】有機バインダー成分と無機バインダー成分とを含む有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填材(2)とを含み、該発泡充填材(2)が、ポリリン酸塩(2−1)と塩素化樹脂の乳化物(2−2)とを含む、水性発泡耐火塗料組成物であって、該塗料組成物が与える塗膜中の塩素元素濃度が1〜20質量%であり、該塗料組成物中の有機質量率が5〜30%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性発泡耐火塗料組成物に関する。詳細には、住宅外壁に使用される窯業外壁基材等が火炎に晒された際に、素早く発泡断熱層を形成等して該外壁基材等の温度上昇を効果的に低減させることが可能な、水性発泡耐火塗料組成物に関する。また、このような水性発泡耐火塗料組成物を用いた複層塗膜形成方法、および、このような複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備える塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
総務省消防庁によると、住宅火災の出火原因として放火および放火の疑いが全体の30%に達しており、火元が住宅外部となっている火災が増加傾向にあり、住宅外壁の耐火性が重要項目となってきている。
【0003】
近年、窯業建材を使用した住宅外壁は、耐候性の改善に代表される長寿命化や意匠バリエーションの多様化のために、シーラー層+エナメル層+意匠塗装層(インク層)+クリヤー層(+機能層(低汚染化層など))などの複層塗膜を形成させるような塗装を施している。このような多層化に伴い、火災の際に可燃物となる石油系樹脂(有機質と称する場合もある)を多く使用することとなり、燃え易くなっている傾向は否めない。
【0004】
鋼材や、コンクリート、木材、合成樹脂等の基材を火災から保護する材料として、火災時の温度上昇によって発泡層を形成する発泡性耐火塗料が知られている。発泡性耐火塗料は、塗料の成分中に、温度上昇により分解して不燃性のガスを発生する成分と、炭素化して多孔質炭化層を形成する成分とを含有しており、不燃性のガスの発生によって火災の消火効果を発現し、炭素化による多孔質炭化層の形成によって断熱効果を発現するものである。
【0005】
このような発泡性耐火塗料に関し、耐火性等の諸物性向上を目的として、種々の提案がなされている。
【0006】
例えば、水酸基含有合成樹脂エマルションを含む結合材の乾燥皮膜の125℃および190℃におけるメルトマスフローレートを規定することが提案されている(特許文献1)。また、水酸基含有合成樹脂エマルションに対して、3級アミノ基およびポリアルキレンオキシド基を有するウレタン化合物を反応させて架橋することにより、耐水性能を向上させることが提案されている(特許文献2)。しかしながら、これらは、火炎による合成樹脂の燃焼によって塗膜成分の残存量が不十分となり、十分に厚みのある発泡層を形成することが困難であるという問題がある。
【0007】
さらに、有機質結合材としての合成樹脂成分と熱硬化型無機質結合材とを混合する技術が提案されている(特許文献3)。しかしながら、有機質結合材と無機質結合材とが単に混合されているだけであること等の原因により、耐水性能や耐凍結融解性能が十分ではないという問題がある。
【0008】
他方、塗膜に耐火性を付与する技術として、発泡充填材を用いることが知られている。発泡充填材には、塩素ガス発生による消火作用および炭化層形成による断熱作用を発現させるために塩素化パラフィンなどを配合する場合がある。しかしながら、塩素化パラフィンなどは疎水性を有するため、水性塗料にこのような疎水性を示す成分を添加すると塗料中で分離してしまい、乳化状態とすることが難しいという問題がある。このため、このような発泡充填材の水性塗料への添加は困難であり、溶剤系塗料への添加に限定されていた。また、仮に塩素化パラフィン自体を強制撹拌によって一時的に乳化して水性塗料に添加できたとしても、夾雑物が共存する塗料組成物中では、長期保管中に当該乳化物が分離してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−13629号公報
【特許文献2】特開2008−88227号公報
【特許文献3】特許第3455378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、水性の発泡耐火塗料組成物であって、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐水性、優れた耐候性を発現できる、水性発泡耐火塗料組成物を提供することにある。また、このような水性発泡耐火塗料組成物を用いた複層塗膜形成方法、および、このような複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備える塗装物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、有機バインダー成分と無機バインダー成分とを含む有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填材(2)とを含み、該発泡充填材(2)が、ポリリン酸塩(2−1)と塩素化樹脂の乳化物(2−2)とを含む、水性発泡耐火塗料組成物であって、該塗料組成物が与える塗膜中の塩素元素濃度が1〜20質量%であり、該塗料組成物中の有機質量率が5〜30%である。バインダー成分とは塗膜を形成する樹脂のことであり、有機バインダーは塗膜形成性の有機樹脂成分を示し、より具体的には後述する(b)成分を指し、無機バインダーとは塗膜形成性の無機樹脂であって後述する(a)成分を指す。
好ましい実施形態においては、上記有機無機ハイブリッドエマルション(1)と上記発泡充填材(2)との固形分比率(1):(2)が、質量比で、1:9〜7:3である。
好ましい実施形態においては、上記ポリリン酸塩(2−1)と上記塩素化樹脂の乳化物(2−2)との固形分比率(2−1):(2−2)が、質量比で、9:1〜3:7である。
好ましい実施形態においては、上記塩素化樹脂の数平均分子量が500〜5,000である。
好ましい実施形態においては、上記塗料組成物が与える塗膜中の塩素元素の濃度が2〜18質量%であり、上記塗料組成物中の有機質量率が5〜20%である。
好ましい実施形態においては、上記有機無機ハイブリッドエマルション(1)が、オルガノシラン、該オルガノシランの加水分解物、および該オルガノシランの縮合物から選ばれる少なくとも1種(a)とラジカル重合性ビニルモノマー(b)とを含有する混合物を、乳化状態で、加水分解、縮合反応、およびラジカル重合して得られる、水系分散体である。
本発明の別の実施形態においては、複層塗膜形成方法を提供する。本発明の複層塗膜形成方法は、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を用いてシーラー層を形成し、該シーラー層の上に、少なくともベースエナメル層、トップエナメル層、クリヤー層をこの順に有する複層を形成する、複層塗膜の形成方法であって、コーンカロリーメーターでの最大発熱速度が50KW/m以下で継続した燃焼を示さないことを基準とした測定方法により算出した該複層塗膜中の有機質量が、5〜75g/mである。
本発明の別の実施形態においては、塗装物を提供する。本発明の塗装物は、基材の上に、本発明の複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水性の発泡耐火塗料組成物であって、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐水性、優れた耐候性を発現できる、水性発泡耐火塗料組成物を提供することができる。また、このような水性発泡耐火塗料組成物を用いた複層塗膜形成方法、および、このような複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備える塗装物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪A.水性発泡耐火塗料組成物≫
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、有機バインダー成分と無機バインダー成分とを含む有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填材(2)とを含む、水性の発泡耐火塗料組成物であって、該発泡充填材(2)が、ポリリン酸塩(2−1)と塩素化樹脂の乳化物(2−2)とを含む。
【0014】
〔有機無機ハイブリッドエマルション(1)〕
有機無機ハイブリッドエマルション(1)は、有機バインダー成分と無機バインダー成分とを含む。好ましくは、有機無機ハイブリッドエマルション(1)は、オルガノシラン、該オルガノシランの加水分解物、および該オルガノシランの縮合物から選ばれる少なくとも1種(a)とラジカル重合性ビニルモノマー(b)とを含有する混合物を、乳化状態で、加水分解、縮合反応、およびラジカル重合して得られる、水系のエマルションである。
【0015】
上記(a)成分におけるオルガノシランは、好ましくは、一般式(1)で表される。
(RSi(OR4−n ・・・(1)
(一般式(1)中、Rは、2個存在するときは同一または異なり、炭素数1〜8の1価の有機基を示し、Rは、同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示し、nは0〜2の整数である。)
【0016】
上記(a)成分におけるオルガノシランの加水分解物は、上記オルガノシランに2〜4個含まれる上記一般式(1)のOR基がすべて加水分解されている必要はなく、例えば、1個だけが加水分解されているもの、2個以上が加水分解されているもの、あるいはこれらの混合物であっても良い。
【0017】
上記(a)成分におけるオルガノシランの縮合物は、オルガノシランの加水分解物のシラノール基の少なくとも一部が縮合してSi−O−Si結合を形成したものである。すなわち、オルガノシランの縮合物は、オルガノシランの加水分解物のシラノール基がすべて縮合している必要はなく、例えば、僅かな一部のシラノール基が縮合したもの、縮合の程度が異なっているものの混合物であっても良い。
【0018】
一般式(1)において、Rは、2個存在するときは同一または異なり、炭素数1〜8の1価の有機基を示す。炭素数1〜8の1価の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基などのアリール基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基などのアシル基;ビニル基;アリル基;エポキシ基;グリシジル基;(メタ)アクリルオキシ基;ウレイド基;アミド基;フルオロアセトアミド基;イソシアナート基;これらの基の置換誘導体;などが挙げられる。
【0019】
上記置換誘導体における置換基としては、例えば、ハロゲン基、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基などが挙げられる。
【0020】
一般式(1)において、Rは、同一または異なり、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基などが挙げられる。炭素数1〜6のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基などが挙げられる。
【0021】
オルガノシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類のほか、メチルトリアセチルオキシシラン、ジメチルジアセチルオキシシランなどが挙げられる。
【0022】
上記(a)成分におけるオルガノシランとして、好ましくは、トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類である。トリアルコキシシラン類としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが好ましい。ジアルコキシシラン類としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0023】
上記(a)成分は、オルガノシラン、該オルガノシランの加水分解物、および該オルガノシランの縮合物から選ばれる少なくとも1種である。上記(a)成分としては、オルガノシランとオルガノシランの縮合物(以下「ポリオルガノシロキサン」ともいう)との混合物であることが好ましい。オルガノシランとポリオルガノシロキサンとが共縮合すると、硬度、耐薬品性、耐候性、成膜性、透明性、耐クラック性などの特性に優れた被膜を形成することができるからである。また、乳化後にラジカル重合性ビニルモノマーが重合する際の重合安定性が著しく向上し、高固形分で重合できるために工業化が容易であるからである。
【0024】
上記(a)成分が、オルガノシランとポリオルガノシロキサンとの混合物である場合には、オルガノシランとして、ジアルコキシシラン類が好ましい。ジアルコキシシラン類を用いると、分子鎖として直鎖状成分が加わり、得られる粒子の可撓性が増すからである。さらに、得られる水系エマルションを用いて最終的に得られる本発明の水性発泡耐火塗料組成物により塗膜を形成する際に、透明性に優れた塗膜が得られるという効果を奏するからである。上記ジアルコキシシラン類としては、特に、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましい。
【0025】
上記(a)成分が、オルガノシランとポリオルガノシロキサンとの混合物である場合には、ポリオルガノシロキサンとして、トリアルコキシシランのみ、あるいは、トリアルコキシシランとジアルコキシシランとの組み合わせ(トリアルコキシシラン:ジアルコキシシラン=40:60〜95:5(モル比))の縮合物であることが好ましい。ジアルコキシシランをトリアルコキシシランと併用すると、得られる塗膜が柔軟化され、耐アルカリ性を向上させることができる。
【0026】
ポリオルガノシロキサンは、オルガノシランを予め加水分解・縮合させて、オルガノシランの縮合物として使用する。ポリオルガノシロキサンを調製する際に、オルガノシランに適量の水、および必要に応じて、有機溶剤を添加することにより、オルガノシランを加水分解・縮合させることが好ましい。水の使用量は、オルガノシラン1モルに対して、好ましくは1.2〜3.0モル、好ましくは1.3〜2.0モルである。
【0027】
ポリオルガノシロキサンを調製する際に添加し得る上記有機溶剤としては、ポリオルガノシロキサンや後述する(b)成分を均一に混合できるものであれば、任意の適切な有機溶剤を採用し得る。例えば、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。上記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。上記芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。上記エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる。上記ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどが挙げられる。上記エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレンなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種のみで用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、ポリオルガノシロキサンを調製する際に上記有機溶剤を添加する場合には、後述する縮合・重合反応の前に、この有機溶媒を水系分散体から除去しても良い。
【0028】
ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量Mw(ポリスチレン換算)は、好ましくは800〜100000、より好ましくは1000〜50000である。
【0029】
ポリオルガノシロキサンの市販品としては、例えば、三菱化学(株)製のMKCシリケート、コルコート社製のエチルシリケート、東レ・ダウコーニング社製のシリコンレジン、東芝シリコーン(株)製のシリコンレジン、信越化学工業(株)製のシリコンレジン、ダウコーニング・アジア(株)製のヒドロキシル基含有ポリジメチルシロキサン、日本ユニカ(株)製のシリコンオリゴマーなどが挙げられる。これらの市販品は、そのまま用いても良いし、縮合させて用いても良い。
【0030】
上記(a)成分が、オルガノシランとポリオルガノシロキサンとの混合物である場合には、これらの含有割合は、オルガノシラン(完全加水分解縮合物換算)が、好ましくは95〜5質量%、より好ましくは90〜10質量%であり、ポリオルガノシロキサン(完全加水分解縮合物換算)が、好ましくは5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%である(ただし、オルガノシラン+ポリオルガノシラン=100質量%)。ポリオルガノシロキサン(完全加水分解縮合物換算)の含有割合が5質量%未満の場合、得られる塗膜の表面にべとつきが見られるおそれや、塗膜の硬化性が悪化するおそれがある。ポリオルガノシロキサン(完全加水分解縮合物換算)の含有割合が95質量%を超えると、オルガノシラン成分の割合が少なくなりすぎて、(a)成分を含有する混合物の乳化が難しくなるおそれがあり、また、乳化後に(b)成分の重合安定性が低下するおそれや、乳化後のエマルションの安定性が低下するおそれがある。また、最終的に得られる本発明の水性発泡耐火塗料組成物の成膜性が低下するおそれがある。ここで、上記完全加水分解縮合物とは、オルガノシランのRO−基が100%加水分解してSiOH基となり、さらに完全に縮合してシロキサン構造になったものをいう。
【0031】
上記(b)成分であるラジカル重合性ビニルモノマーとしては、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を有するモノマーであれば、任意の適切なラジカル重合性ビニルモノマーを採用し得る。このようなラジカル重合性ビニルモノマーは、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。このようなラジカル重合性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸のエステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリル酸エステル類;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタデカフルオロオクチル(メタ)アクリレートなどのフッ素原子含有(メタ)アクリルエステル類;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、などのアミノ基含有(メタ)アクリルエステル類;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類などの(メタ)アクリル化合物;などが挙げられる。
【0032】
上記(b)成分としては、上記に挙げたものの他に、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシメチルスチレン、4−エチルスチレン、4−エトキシスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,4−ジエチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロ−3−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、1−ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル単量体;ジビニルベンゼンなどの上記以外の多官能性単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N′−メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミドなどの酸アミド化合物;アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物;4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジンなどのピペリジン系モノマー;ジカプロラクトン;などが挙げられる。
【0033】
上記(b)成分としては、さらに、官能基を有する(b)成分として、例えば、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの上記以外の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルなどの上記以外の水酸基含有ビニル系単量体;2−アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ基含有ビニル系単量体;1,1,1−トリメチルアミン(メタ)アクリルイミド、1−メチル−1−エチルアミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2−ヒドロキシプロピル)アミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2′−フェニル−2′−ヒドロキシエチル)アミン(メタ)アクリルイミド、1,1−ジメチル−1−(2′−ヒドロキシ−2′−フェノキシプロピル)アミン(メタ)アクリルイミドなどのアミンイミド基含有ビニル系単量体;アリルグリシジルエーテルなどの上記以外のエポキシ基含有ビニル系単量体;などが挙げられる。
【0034】
上記(b)成分としては、(メタ)アクリル化合物が好ましい。(メタ)アクリル化合物の中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましい。さらに好ましくは、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
【0035】
上記(A)成分と(b)成分との含有割合は、上記(A)成分の全量と(B)成分の全量との合計量を100質量%とした場合、(A)成分の全量(完全加水分解縮合物換算)が、好ましくは1〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、(b)成分の全量が、好ましくは99〜5質量%、より好ましくは90〜10質量%である。(b)成分の含有割合が5質量%未満の場合、成膜性、耐クラック性が低下するおそれがある。(b)成分の含有割合が99質量%を超える場合、耐候性の悪化が顕著となるおそれがある。
【0036】
有機無機ハイブリッドエマルション(1)は、上記(a)成分と上記(b)成分とを含有する混合物を、乳化状態で、加水分解、縮合反応、およびラジカル重合して得られる。好ましくは、上記(a)成分と上記(b)成分とを含有する混合物を、水および界面活性剤の存在下で乳化し、加水分解、縮合反応、およびラジカル重合を行なうことによって得られる。この加水分解、縮合反応、およびラジカル重合においては、乳化状態下で、(a)成分(好ましくはオルガノシランとポリオルガノシロキサンとの混合物)の(共)縮合と、(b)成分(ラジカル重合性ビニルモノマー)のラジカル重合とが同時に進行する。なお、(a)成分がオルガノシランとポリオルガノシロキサンとの混合物であるときは、上記2種が共縮合する場合、および、上記2種がそれぞれ単独で縮合反応する場合があり得る。
【0037】
有機無機ハイブリッドエマルション(1)を調製する際に用い得る上記水は、上記(a)成分と上記(b)成分とを含有する混合物中に存在する水であっても良く、あるいは、該混合物にさらに界面活性剤とともに添加される水であっても良い。水の使用量は、(a)成分(完全加水分解縮合物換算)および(b)成分の合計量100質量部に対し、好ましくは80〜1000質量部、より好ましくは100〜500質量部である。上記水の使用量が80質量部未満では、乳化が困難となるおそれや、乳化後のエマルションの安定性が低下したりする恐れがある。上記水の使用量が1000質量部を超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0038】
上記界面活性剤としては、任意の適切な界面活性剤を採用し得る。例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリール硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪酸塩などのアニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキル四級アミン塩などのカチオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ブロック型ポリエーテルなどのノニオン系界面活性剤;カルボン酸型(例えば、アミノ酸型、ベタイン酸型など)、スルホン酸型などの両性界面活性剤;などが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種のみで用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0039】
上記界面活性剤の使用量は、上記(a)成分(完全加水分解縮合物換算)と上記(b)成分の合計量に対し、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましく0.1〜5質量%である。上記界面活性剤の使用量が0.05質量%未満では、十分に乳化できないおそれや、加水分解、縮合反応、およびラジカル重合の際の反応液の安定性が低下するおそれがある。上記界面活性剤の使用量が10質量%を超えると、泡立ちが問題となるおそれがある。
【0040】
上記の加水分解、縮合反応、およびラジカル重合の際には、ラジカル重合開始剤を用い得る。ラジカル重合開始剤としては、任意の適切なラジカル重合開始剤を採用し得る。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキサイド、2,2’−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノ)プロパン塩酸塩などの水溶性開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤;酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤を併用したレドックス系開始剤;などが挙げられる。ラジカル重合開始剤の使用量は、(b)成分であるラジカル重合性ビニルモノマーに対して、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0041】
上記の加水分解、縮合反応、およびラジカル重合の際には、例えば、高圧ホモジナイザー、超音波、ホモミキサーなどの機械的手段を用いて、水系をミニエマルション化することが好ましい。
【0042】
上記の加水分解、縮合反応、およびラジカル重合の反応条件は、温度が、好ましくは25〜80℃、より好ましくは40〜70℃、反応時間が、好ましくは0.5〜15時間、より好ましくは1〜8時間である。
【0043】
上記の加水分解、縮合反応、およびラジカル重合において、(a)成分や(b)成分がカルボキシル基やカルボン酸無水物基などの酸性基を有する場合には、該加水分解、縮合反応、およびラジカル重合の反応後に、少なくとも1種の塩基性化合物を添加してpHを調節することが好ましい。得られるエマルションの親水性を高めて、分散性を向上させることができるからである。上記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類;カセイカリ、カセイソーダなどのアルカリ金属水酸化物;などが挙げられる。
【0044】
上記の加水分解、縮合反応、およびラジカル重合において、(a)成分や(b)成分がアミノ基やアミンイミド基などの塩基性を有する場合には、該加水分解、縮合反応、およびラジカル重合の反応後に、少なくとも1種の酸性化合物を添加してpHを調節することが好ましい。得られるエマルションの親水性を高めて、分散性を向上させることができるからである。上記酸性化合物としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸などの無機酸類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、アジピン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの有機酸類;などが挙げられる。
【0045】
上記の加水分解、縮合反応、およびラジカル重合において、(a)成分や(b)成分が酸性基と塩基性基とを有する場合には、該加水分解、縮合反応、およびラジカル重合の反応後に、これらの基の割合に応じて、少なくとも1種の塩基性化合物あるいは酸性化合物を添加してpHを調節することが好ましい。得られるエマルションの親水性を高めて、分散性を向上させることができるからである。
【0046】
上記pH調節時のエマルションのpH値は、好ましくは6〜10、より好ましくは7〜8である。エマルションのpH値が上記の好ましい値の下限を下回ると、当該エマルションを使用した塗料の塗装ラインでのサーキュレーション安定性が悪化する場合がある。一方、好ましい値の上限を上回ると、当該エマルションを使用して得られる塗膜の耐水性が悪化する場合があり、好ましくない。
【0047】
上記の加水分解、縮合反応、およびラジカル重合において、反応液中には、任意の適切な添加剤が含有されていても良い。例えば、シランカップリング剤、硬化促進剤、その他の樹脂、無機化合物、顔料、セラミックス、金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、染料、レベリング剤、その他の塗料用組成物に用い得る任意の適切な添加剤、などが挙げられる。
【0048】
有機無機ハイブリッドエマルション(1)は、有機無機ハイブリッド(有機無機複合体)が水系媒体中に分散しているが、その分散状態は、粒子状あるいは水性ゾル状であることが好ましい。この場合、有機無機ハイブリッド(有機無機複合体)の平均粒子径は、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜10μmである。上記平均粒子径は、レーザー光散乱法(大塚電子株式会社製、品番;ELSZ−2)により測定される平均粒子径である。
【0049】
有機無機ハイブリッドエマルション(1)の固形分濃度は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%である。この固形分濃度は、通常、上記水の量によって調整される。
【0050】
有機無機ハイブリッドエマルション(1)における水系媒体は、本質的に水からなるが、場合により、アルコールなどの有機溶媒を数質量%程度まで含有させても良い。また、有機無機ハイブリッドエマルション(1)中に、上記(a)成分の調製時に必要に応じて用いられる有機溶媒を含む場合には、この有機溶媒をエマルションから除去しておくこともできる。さらに、有機無機ハイブリッドエマルション(1)中には、必要に応じて、(a)成分の調製時に用いられる上記のような各種有機溶媒を添加することもできる。
【0051】
有機無機ハイブリッドエマルション(1)には、その他の任意の適切な添加剤が含有されていても良い。このような添加剤としては、通常の耐火塗料に使用可能な各種の添加剤を採用し得る。例えば、シランカップリング剤、硬化促進剤、その他の樹脂、無機化合物、顔料、繊維、増粘剤、セラミックス、金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、触媒、染料、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、架橋剤、その他の塗料用組成物に用い得る任意の適切な添加剤、などが挙げられる。また、膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等の膨張性物質を配合することもできる。
【0052】
〔発泡充填材(2)〕
発泡充填材(2)は、ポリリン酸塩(2−1)と塩素化樹脂の乳化物(2−2)とを含む。
【0053】
ポリリン酸塩(2−1)としては、ポリリン酸の塩であれば任意の適切なポリリン酸塩を採用し得る。好ましくは、ポリリン酸アンモニウムである。発泡充填材(2)がポリリン酸塩(2−1)を含むことにより、火災等による温度上昇によってリン酸ガラス質層が形成され、消火作用、耐火作用、断熱作用を発現することができる。
【0054】
塩素化樹脂の乳化物(2−2)における塩素化樹脂としては、任意の適切な塩素化樹脂を採用し得る。例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリオレフィン、塩化ビニリデンなどが挙げられる。これらの塩素化樹脂は単独で使用しても良く、複数を組み合わせて使用しても良い。
【0055】
塩素化樹脂の乳化物(2−2)における塩素化樹脂の数平均分子量は、好ましくは500〜50,000、より好ましくは500〜5,000である。塩素化樹脂の乳化物(2−2)における塩素化樹脂の分子量がこれらの範囲内に収まることにより、優れた塗料の貯蔵安定性を得ることができるようになる。また塗膜においては、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐温水性、優れた耐候性、優れた上塗り塗膜との付着性を発現できる、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を提供することができる。
【0056】
塩素化樹脂の乳化物(2−2)における塩素化樹脂の塩素含有率は、好ましくは40〜75質量%である。塩素化樹脂の乳化物(2−2)における塩素化樹脂の塩素含有率がこれらの範囲内に収まることにより、優れた塗料の貯蔵安定性を得ることができるようになる。また塗膜においては、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐温水性、優れた耐候性、優れた上塗り塗膜との付着性を発現できる、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を提供することができる。
【0057】
塩素化樹脂の乳化物(2−2)は、任意の適切な方法により調製し得る。例えば、塩素化樹脂と水と乳化剤とを混合し、機械乳化法や転相乳化法などの任意の適切な乳化法を単独あるいは組み合わせて採用して調製し得る。機械乳化法としては、ホモミキサー、バルブホモジナイザー、コロイドミル、超音波法などが挙げられる。乳化剤としては、任意の適切な乳化剤を採用し得る。例えば、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリール硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、脂肪酸塩などのアニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、アルキル四級アミン塩などのカチオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ブロック型ポリエーテルなどのノニオン系界面活性剤;カルボン酸型(例えば、アミノ酸型、ベタイン酸型など)、スルホン酸型などの両性界面活性剤;が挙げられる。
【0058】
発泡充填材(2)において、ポリリン酸塩(2−1)と塩素化樹脂の乳化物(2−2)との固形分比率(2−1):(2−2)は、質量比で、好ましくは9:1〜3:7、より好ましくは7:3〜5:5である。ポリリン酸塩(2−1)と塩素化樹脂の乳化物(2−2)との固形分比率が上記範囲内に収まることにより、優れた塗料の貯蔵安定性を得ることができるようになる。また塗膜においては、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐温水性、優れた耐候性、優れた上塗り塗膜との付着性を発現できる、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を提供することができる。
【0059】
発泡充填材(2)は、ポリリン酸塩(2−1)および塩素化樹脂の乳化物(2−2)以外に、任意の適切な添加剤を含んでいても良い。このような添加剤としては、通常の耐火塗料に使用可能な各種の添加剤を採用し得る。例えば、シランカップリング剤、硬化促進剤、その他の樹脂、無機化合物、顔料、繊維、増粘剤、セラミックス、金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、触媒、染料、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、架橋剤、その他の塗料用組成物に用い得る任意の適切な添加剤、などが挙げられる。また、膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等の膨張性物質を配合することもできる。
【0060】
〔水性発泡耐火塗料組成物〕
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、上記有機無機ハイブリッドエマルション(1)と上記発泡充填材(2)とを含む、水性の発泡耐火塗料組成物である。
【0061】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物中、有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填材(2)との固形分比率(1):(2)は、質量比で、好ましくは1:9〜7:3、より好ましくは3:7〜7:3である。有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填材(2)との固形分比率(1):(2)が上記範囲内に収まることにより、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐温水性、優れた耐候性を発現できる、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を提供することができる。
【0062】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、多価アルコールを含んでいても良い。多価アルコールを含むことにより、断熱性に優れた厚みのある炭化層を形成する助けとなる。多価アルコールとしては、任意の適切な多価アルコールを採用し得る。例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ネオペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、グルコースフルクトース、デンプン、セルロースなどが挙げられる。多価アルコールを含む場合、該多価アルコールの含有割合は、有機無機ハイブリッドエマルション(1)の固形分100質量部に対して、好ましくは5〜1000質量部、より好ましくは10〜500質量部、さらに好ましくは10〜200質量部である。上記多価アルコールの含有割合が上記範囲内に収まっていれば、断熱性に優れた厚みのある炭化層をより効率的に形成することが可能となる。
【0063】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、造膜助剤を含んでいても良い。造膜助剤を含むことにより、塗料組成物中の各成分が塗膜中で偏在化しない優れた均質性を備えた、しかも安定した塗膜を形成する助けとなる。造膜助剤としては、任意の適切な造膜助剤を採用し得る。例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、ベンジルアルコールなどが挙げられる。造膜助剤を含む場合、該造膜助剤の含有割合は、有機無機ハイブリッドエマルション(1)の固形分100質量部に対して、好ましくは0.001〜50質量部、より好ましくは0.01〜40質量部、さらに好ましくは0.1〜30質量部である。上記造膜助剤の含有割合が上記範囲内に収まっていれば、安定した塗膜をより効率的に形成することができる。上記のように塗膜において均質性を備えることは、上塗り塗膜との付着性を改善することにも寄与する。本発明の水性発泡耐火塗料組成物中の各成分が塗膜中で偏在化していると、水性発泡耐火塗料組成物が与える塗膜表面の性質が均質ではないために上塗り塗膜との付着性が確保できない傾向があり、好ましくない。この傾向は、水性発泡耐火塗料組成物が硬化剤を含まないラッカーの場合、より顕著なものとなる。
【0064】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、充填剤を含んでいても良い。充填剤としては、例えば、タルク等の珪酸塩;炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩;酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;粘土、クレー、シラス、マイカ、シリカ等の天然鉱物類;などが挙げられる。充填剤を含む場合、該充填剤の含有割合は、有機無機ハイブリッドエマルション(1)の固形分100質量部に対して、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは5〜500質量部、さらに好ましくは10〜200質量部である。上記充填剤の含有割合が上記範囲内に収まっていれば、安定した塗膜をより効率的に形成することができる。
【0065】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、発泡剤を含んでいても良い。発泡剤を含むことにより、本発明の水性発泡耐火塗料組成物の発泡作用を発現する助けとなる。発泡剤としては、例えば、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾビステトラゾール及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素などが挙げられる。これらの発泡剤は窒素ガスを発生することで消火効果が望める。また、前記塩素化樹脂ほど疎水性が高くないために、前記塩素化樹脂のように乳化してから塗料に添加する必要はない。発泡剤を含む場合、該発泡剤の含有割合は、有機無機ハイブリッドエマルション(1)の固形分100質量部に対して、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは5〜500質量部、さらに好ましくは10〜200質量部である。上記発泡剤の含有割合が上記範囲内に収まっていれば、本発明の水性発泡耐火塗料組成物の発泡作用をより効果的に発現することができる。
【0066】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、任意の適切な添加剤を含んでいても良い。このような添加剤としては、通常の耐火塗料に使用可能な各種の添加剤を採用し得る。例えば、シランカップリング剤、硬化促進剤、その他の樹脂、無機化合物、顔料、繊維、増粘剤、セラミックス、金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、触媒、染料、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、架橋剤、その他の塗料用組成物に用い得る任意の適切な添加剤、などが挙げられる。また、膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等の膨張性物質を配合することもできる。
【0067】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、以上のような各種成分を常法により均一に混合することで製造することができる。通常は、1液型の形態とすればよい。
【0068】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、耐火性を付与すべき基材(被塗物)に塗付積層することによって、その効果をより一層発揮することができる。このような基材としては、任意の適切な基材を採用し得る。例えば、窯業建材、コンクリート、鋼材、木質部材、樹脂系部材などが挙げられる。このような基材には防錆処理等が施されていても良い。
【0069】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、与える塗膜中の塩素元素濃度が1〜20質量%であり、好ましくは2〜18質量%、より好ましくは3〜18質量%である。塗膜中の塩素元素濃度は、蛍光X線分析装置による測定で得られる。塗膜中の塩素元素濃度が1質量%を下回ると、塗膜の燃焼時に、消火性を示す塩素ガスが十分に発生しないおそれがある。塗膜中の塩素元素濃度が20質量%を上回る場合は、本発明の水性発泡耐火塗料組成物において、多量の塩素化樹脂の乳化物(2−2)を含有する必要性が発生し、その結果、得られる本発明の水性発泡耐火塗料組成物の貯蔵安定性が悪化したり、上塗りとの付着性が低下したりするおそれがある。なお、本発明の水性発泡耐火塗料組成物に含まれる塩素化樹脂の乳化物(2−2)の配合量を調整することで、上記塩素元素濃度を調整することができる。
本発明の水性発泡耐火塗料組成物は、有機質量率(%)(=100(%)−500℃灰分(%))が、好ましくは5〜30%、より好ましくは5〜20%である。有機質量率は、有機物の含有割合の指標であり、有機質量率が低いほど、有機物の含有割合が低く、火災の際に可燃物となる有機物が少ないことから、耐火性に優れることを意味する。有機質量率が30%を超えると、耐火性に劣るおそれがある。他方、本発明の水性発泡耐火塗料組成物において有機質量率が5%未満の場合には、本発明の効果を発現するために必要な成分が足りなくなっているおそれがある。また、得られる本発明の水性発泡耐火塗料組成物の安定性が低下したり、塗膜の耐候性、あるいは、下地および/または上塗りの付着性が悪化したりするおそれがある。なお、500℃灰分(%)の測定方法は後述する。
【0070】
≪B.複層塗膜形成方法≫
本発明の複層塗膜形成方法は、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を用いてシーラー層を形成し、該シーラー層の上に、少なくともベースエナメル層、トップエナメル層、クリヤー層をこの順に有する複層を形成する、複層塗膜の形成方法であって、コーンカロリーメーターでの最大発熱速度が50KW/m以下で継続した燃焼を示さないことを基準とした測定方法により算出した該複層塗膜中の有機質量が、5〜75g/mである、複層塗膜形成方法である。
【0071】
本発明の複層塗膜形成方法においては、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を用いてシーラー層を形成し、該シーラー層の上に、少なくともベースエナメル層、トップエナメル層、クリヤー層をこの順に有する複層を形成する。これら上塗り塗膜を追加することで、被塗物に美観を付与することができるだけではなく、耐候性を大幅に改善することが着るようになる。
【0072】
シーラー層は、任意の適切な基材上に、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を塗装して形成する。塗装方法としては、通常の耐火塗料組成物の塗装方法など、任意の適切な塗装方法を採用し得る。例えば、スプレー、ローラー、刷毛、こて、へら等の塗装器具を使用して、一回ないし数回塗り重ねて塗装する方法が挙げられる。塗装後は、必要に応じて、任意の適切な温度と時間によって乾燥させれば良い。塗装時には、必要に応じ、水等で本発明の水性発泡耐火塗料組成物を希釈することもできる。最終的に形成されるシーラー層の厚みは、所望の耐火性能、適用部位等により適宜設定すれば良い。好ましくは0.01〜10mm、より好ましくは0.1〜5mm、さらに好ましくは0.2〜3mmである。
【0073】
本発明の複層塗膜形成方法においては、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を用いて形成される耐火性のシーラー層を保護するために、該シーラー層の上に、少なくともベースエナメル層、トップエナメル層、クリヤー層をこの順に有する複層を形成する。このような複層は、ベースエナメル層、トップエナメル層、クリヤー層として通常用いられるような任意の適切な水性型あるいは溶剤型の塗料を順次塗装することで形成することができる。このような複層を形成するための各種塗料の塗装方法としては、任意の適切な塗装方法を採用し得る。例えば、スプレー、ローラー、刷毛、こて、へら等の塗装器具を使用して、一回ないし数回塗り重ねて塗装する方法が挙げられる。塗装後は、必要に応じて、任意の適切な温度と時間によって乾燥させれば良い。塗装時には、必要に応じ、水等で用いる塗料を希釈することもできる。最終的に形成される複層の厚みは、所望の耐火性能、適用部位等により適宜設定すれば良い。好ましくは0.01〜30mm、より好ましくは0.1〜20mm、さらに好ましくは0.2〜10mmである。
【0074】
本発明の複層塗膜形成方法においては、形成される複層塗膜(上記シーラー層+上記複層)中の有機質量が、5〜75g/mであり、好ましくは25〜65g/mである。本願水性発泡耐火塗料組成物に含まれる塩素化樹脂の乳化物(2−2)の配合比を、前記所定の範囲に設定することで、上記有機質量を充足することができる。この有機質量は、コーンカロリーメーターでの最大発熱速度が50KW/m以下で継続した燃焼を示さないことを基準とした測定方法により算出したものであり、詳細は後述する。形成される複層塗膜中の有機質量が上記範囲内に収まることにより、耐火性に優れた複層塗膜となり得る。複層塗膜中の有機質量が75g/mを超えると、該複層塗膜が耐火性に劣るおそれがある。これは、たとえ本発明の水性発泡耐火塗料組成物を用いて形成されるシーラー層の耐火性が優れていても、上記複層塗膜中の有機質量が75g/mを超えてしまうと、複層塗膜全体として評価した場合の耐火性に劣るということを意味する。
【0075】
本発明の複層塗膜形成方法において形成される複層塗膜は、ISO5660Part1準拠の発熱性試験における総発熱量が、好ましくは8MJ/m以下であり、より好ましくは7.5MJ/m以下であり、さらに好ましくは7.0MJ/m以下であり、特に好ましくは6.5MJ/m以下である。上記総発熱量の下限値は低ければ低いほど良く、好ましい下限値は0MJ/mであるが、現実的な下限値は0.5MJ/mである。本発明の複層塗膜形成方法において形成される複層塗膜の上記総発熱量が8MJ/mを超えると、消火作用、断熱作用、耐火性が十分でないおそれがある。本発明の水性発泡耐火塗料組成物中の有機質量率、および塗膜中の塩素元素濃度を前述の所定の範囲に設定することで、総発熱量を上記の好ましい範囲に設定することができる。また、本発明の水性発泡耐火塗料組成物に含まれる有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填剤(2)の配合比および/または塩素化樹脂の乳化物(2−2)の配合比を、前述の所定の範囲に設定することで、総発熱量を上記の好ましい範囲に設定することができる。
【0076】
本発明の複層塗膜形成方法において形成される複層塗膜は、有機質量率を前述の望ましい範囲に設定することで塗膜自体を燃えにくいものにしつつ、塗膜に含まれる塩素元素が、塗膜が燃焼した際も十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐温水性、優れた耐候性を発現できる。
【0077】
本発明の複層塗膜形成方法において形成される複層塗膜は、ISO5660Part1準拠の発熱性試験における発熱速度の最高値が、好ましくは80KW/m以下であり、より好ましくは70KW/m以下であり、さらに好ましくは60KW/m以下であり、特に好ましくは50KW/m以下であり、最も好ましくは40KW/m以下である。上記発熱速度の下限値は低ければ低いほど良く、好ましい下限値は1KW/mである。本発明の複層塗膜形成方法において形成される複層塗膜の上記発熱速度の最高値が80KW/mを超えると、消火作用、断熱作用、耐火性が十分でないおそれがある。本発明の水性発泡耐火塗料組成物中の有機質量率、および塗膜中の塩素元素濃度を前述の所定の範囲に設定することで、発熱速度の最高値を上記の好ましい範囲に設定することができる。また、本発明の水性発泡耐火塗料組成物に含まれる有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填剤(2)の配合比および/または塩素化樹脂の乳化物(2−2)の配合比を、前述の所定の範囲に設定することで、発熱速度の最高値を上記の好ましい範囲に設定することができる。
【0078】
≪C.塗装物≫
本発明の塗装物は、基材の上に、本発明の複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備える。
【0079】
上記基材としては、任意の適切な基材を採用し得る。例えば、窯業建材、コンクリート、鋼材、木質部材、樹脂系部材などが挙げられる。このような基材には防錆処理等が施されていても良い。
【0080】
上記基材の上に本発明の複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を形成する方法は、前述した通りである。
【0081】
本発明の塗装物は、本発明の複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備えているので、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できるとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐温水性、優れた耐候性を発現できる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。また、表中の数値の単位は、特に明記しない限り、質量部である。また、表における略語の意味は下記の通りである。
【0083】
KR510:メチル/フェニル含有メトキシシランオリゴマー(信越シリコーン社製)
KBM22:ジメチルジメトキシシラン(信越シリコーン社製)
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
AA:アクリル酸
APS:過硫酸アンモニウム
スノーテックスC:コロイダルシリカ(日産化学工業(株)社製)
HALS:光安定剤チヌビン292(チバスペシャリティーケミカルズ(株)社製)
UVA:紫外線吸収剤チヌビン1130(チバスペシャリティーケミカルズ(株)社製)
【0084】
<500℃灰分の測定>
TG/DTA(Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis)320熱質量・示差熱同時測定器(セイコー電子工業(株)製)を用い、昇温速度を10℃/minとし、槽内を窒素還流し、500℃時点での加熱残量を求め、500℃灰分を下記の式で算出した。
500℃灰分(%)=(500℃時点での加熱残量(g))/(初期乾燥質量(g))
【0085】
<有機質量率の算出方法>
有機質量率は、下記の式で算出した。
有機質量率(%)=100(%)−500℃灰分(%)
【0086】
<総発熱量の測定>
ISO5660Part1準拠の発熱性試験を行い、加熱開始後20分間の総発熱量を測定した。ISO5660Part1準拠の発熱性試験の判定基準と同様に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下の場合を合格(○)、8MJ/mを超える場合を不合格(×)とした。
【0087】
<発熱速度の測定>
ISO5660Part1準拠の発熱性試験を行い、加熱開始後20分間における最高発熱速度を測定した。加熱開始後20分間における最高発熱速度が80KW/m以下の場合を合格(○)、80KW/mを超える場合を不合格(×)とした。
【0088】
<耐透水性の評価>
評価対象とする試験板にφ75mmロートを貼り付け、JIS K 5400のロート法に従って耐透水性を評価した。評価は下記の基準に従って行った。
○:24時間後の減水量が500cc/m以下
△:24時間後の減水量が500cc/mを超えて1000cc/m以下
×:24時間後の減水量が1000cc/mを超える
【0089】
<耐温水性の評価>
評価対象とする試験板を60℃の温水に10日間浸漬した際の外観を評価した。評価は下記の基準に従って行った。
○:ブリスターが見られない
△:端部のみブリスターが発生
×:試験板面全体に一様にブリスターが発生
【0090】
<耐候性の評価>
評価対象とする試験板に対し、アイスーパーUVテスター(岩崎電気社製)を用いて4時間照射および4時間湿潤を施し、試験時間16000時間後の塗膜外観について、光沢保持率をデジタル変角光度計(スガ試験機社製)により評価し、色差をSMカラーコンピューター色差計(SM−5、スガ試験機社製)によりΔEで評価した。耐候性の評価は下記の基準に従って行った。
○:光沢保持率が80%以上、色差ΔEが3未満
△:光沢保持率が50%以上、色差ΔEが3以上6未満
×:光沢保持率が50%未満、色差ΔEが6以上
【0091】
[製造例1〜7]:有機無機ハイブリッドエマルション(1)〜(7)の製造
表1に記載の配合比率(質量基準)にて各成分を混合して均一溶液にした後、反応性乳化剤(アデカリアソープSR−1025、ADEKA社製)を混合し、氷冷しながら、乳化器(T.K.ロボミックス、PRIMIX社製)を用いて乳化して乳化物を得た。
別の反応容器に脱イオン水100質量部を入れ、内温を70℃とし、上記で得られた乳化物とラジカル重合開始剤(過硫酸アンモニウム)0.20質量部を2時間で滴下し、さらに2時間エージングを行い、有機成分の重合を完了させた。
その後、反応容器の内温を85℃とし、さらに10時間エージングを行い、無機成分の加水分解、縮合反応を行った。
以上のようにして、有機無機ハイブリッドエマルション(1)〜(7)を得た。
【0092】
【表1】

【0093】
[製造例8]:塩素化樹脂の乳化物(A)の製造
塩素化パラフィン(塩素含有率70%、分子量1156、味の素ファインテクノ社製)250質量部、塩素化パラフィン(塩素含有率40%、分子量611、味の素ファインテクノ社製)250質量部、乳化剤(ニューコール707SF、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、花王社製)200質量部を、攪拌しながら95℃に調整した後に、予め95℃に調整した脱イオン水300質量部を混合し、転送した後に30分攪拌した。その後、乳化器(三和エンジニアリング社製、高圧ホモゲンザイザーH20)を用いて乳化し、塩素化樹脂の乳化物(A)を得た。
塩素化樹脂の乳化物(A)の500℃灰分は25%であった。
【0094】
[製造例9]:塩素化樹脂の乳化物(B)の準備
塩素化パラフィン(塩素含有率70%、分子量1156、味の素ファインテクノ社製)400質量部、塩素化パラフィン(塩素含有率40%、分子量611、味の素ファインテクノ社製)100質量部、乳化剤(ニューコール707SF、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、花王社製)200質量部を、攪拌しながら95℃に調整した後に、予め95℃に調整した脱イオン水300質量部を混合し、転送した後に30分攪拌した。その後、乳化器(三和エンジニアリング社製、高圧ホモゲンザイザーH20)を用いて乳化し、塩素化樹脂の乳化物(B)を得た。
塩素化樹脂の乳化物(B)の500℃灰分は30%であった。
【0095】
[実施例1〜5]:水性発泡耐火塗料組成物(1)〜(5)の製造と評価
表2に記載の配合比率(質量基準)(ただし、表2に記載していない配合物として、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、防腐剤、分散剤、消泡剤も適量配合した)にて各成分を均一に混合した後、過熱残分がNV=45%となるように調整し、水性発泡耐火塗料組成物(1)〜(5)を製造した。
得られた水性発泡耐火塗料組成物(1)〜(5)についての評価結果を表2に示した。
【0096】
[比較例1〜4]:水性発泡耐火塗料組成物(C1)〜(C4)の製造と評価
表2に記載の配合比率(質量基準)(ただし、表2に記載していない配合物として、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、防腐剤、分散剤、消泡剤も適量配合した)にて各成分を均一に混合した後、過熱残分がNV=45%となるように調整し、水性発泡耐火塗料組成物(C1)〜(C4)を製造した。
得られた水性発泡耐火塗料組成物(C1)〜(C4)についての評価結果を表2に示した。
【0097】
【表2】

【0098】
[製造例10]:ベースエナメルの準備
日本ペイント社製のオーデタイト339ベース用(ベージュ色)(過熱残分がNV=47.0%、塗膜固形分中の有機成分の含有率=60.0%)をベースエナメルとした。
【0099】
[製造例11]:トップエナメルの準備
日本ペイント社製のオーデタイト339トップ用(ライトベージュ色)(過熱残分がNV=47.0%、塗膜固形分中の有機成分の含有率=60.0%)をトップエナメルとした。
【0100】
[製造例12〜16]:クリヤー(1)〜(5)の製造
表3に記載の配合比率(質量基準)(ただし、表3に記載していない配合物として、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、防腐剤、分散剤、消泡剤も適量配合した)にて各成分を均一に混合した後、過熱残分がNV=35%となるように調整し、クリヤー(1)〜(5)を製造した。
【0101】
【表3】

【0102】
[実施例6]:複層塗膜(1)および塗装物(1)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、実施例1で得られた水性発泡耐火塗料組成物(1)を表4に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表4に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表4に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例15で得られたクリヤー(4)を表4に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(1)を備えた塗装物(1)を得た。
得られた塗装物(1)について評価した結果を表16に示した。
【0103】
【表4】

【0104】
[実施例7]:複層塗膜(2)および塗装物(2)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、実施例2で得られた水性発泡耐火塗料組成物(2)を表5に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表5に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表5に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例14で得られたクリヤー(3)を表5に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(2)を備えた塗装物(2)を得た。
得られた塗装物(2)について評価した結果を表16に示した。
【0105】
【表5】

【0106】
[実施例8]:複層塗膜(3)および塗装物(3)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、実施例3で得られた水性発泡耐火塗料組成物(3)を表6に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表6に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表6に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例13で得られたクリヤー(2)を表6に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(3)を備えた塗装物(3)を得た。
得られた塗装物(3)について評価した結果を表16に示した。
【0107】
【表6】

【0108】
[実施例9]:複層塗膜(4)および塗装物(4)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、実施例4で得られた水性発泡耐火塗料組成物(4)を表7に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表7に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表7に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例12で得られたクリヤー(1)を表7に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(4)を備えた塗装物(4)を得た。
得られた塗装物(4)について評価した結果を表16に示した。
【0109】
【表7】

【0110】
[実施例10]:複層塗膜(5)および塗装物(5)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、実施例1で得られた水性発泡耐火塗料組成物(1)を表8に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表8に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表8に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例12で得られたクリヤー(1)を表8に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(5)を備えた塗装物(5)を得た。
得られた塗装物(5)について評価した結果を表16に示した。
【0111】
【表8】

【0112】
[実施例11]:複層塗膜(6)および塗装物(6)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、実施例5で得られた水性発泡耐火塗料組成物(5)を表9に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表9に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表9に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例13で得られたクリヤー(2)を表9に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(6)を備えた塗装物(6)を得た。
得られた塗装物(6)について評価した結果を表16に示した。
【0113】
【表9】

【0114】
[比較例5]:複層塗膜(C1)および塗装物(C1)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、比較例3で得られた水性発泡耐火塗料組成物(C3)を表10に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表10に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表10に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例16で得られたクリヤー(5)を表10に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(C1)を備えた塗装物(C1)を得た。
得られた塗装物(C1)について評価した結果を表17に示した。
【0115】
【表10】

【0116】
[比較例6]:複層塗膜(C2)および塗装物(C2)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、比較例3で得られた水性発泡耐火塗料組成物(C3)を表11に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表11に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表11に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例12で得られたクリヤー(1)を表11に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(C2)を備えた塗装物(C2)を得た。
得られた塗装物(C2)について評価した結果を表17に示した。
【0117】
【表11】

【0118】
[比較例7]:複層塗膜(C3)および塗装物(C3)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、比較例3で得られた水性発泡耐火塗料組成物(C3)を表12に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表12に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表12に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。該トップエナメル層の上にはクリヤー層を形成しなかった。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(C3)を備えた塗装物(C3)を得た。
得られた塗装物(C3)について評価した結果を表17に示した。
【0119】
【表12】

【0120】
[比較例8]:複層塗膜(C4)および塗装物(C4)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、比較例2で得られた水性発泡耐火塗料組成物(C2)を表13に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表13に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表13に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例12で得られたクリヤー(1)を表13に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(C4)を備えた塗装物(C4)を得た。
得られた塗装物(C4)について評価した結果を表17に示した。
【0121】
【表13】

【0122】
[比較例9]:複層塗膜(C5)および塗装物(C5)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、比較例1で得られた水性発泡耐火塗料組成物(C1)を表14に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表14に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表14に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例12で得られたクリヤー(1)を表14に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(C5)を備えた塗装物(C5)を得た。
得られた塗装物(C5)について評価した結果を表17に示した。
【0123】
【表14】

【0124】
[比較例10]:複層塗膜(C6)および塗装物(C6)の製造と評価
木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に、比較例4で得られた水性発泡耐火塗料組成物(C4)を表15に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、シーラー層を形成した。次に、該シーラー層の上に、製造例10で得られたベースエナメルを表15に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、ベースエナメル層を形成した。さらに、該ベースエナメル層の上に、製造例11で得られたトップエナメルを表15に記載の塗装条件でスポンジロールコーターにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、トップエナメル層を形成した。その後、該トップエナメル層の上に、製造例14で得られたクリヤー(3)を表15に記載の塗装条件でエアスプレーにて塗装し、100℃×5分間で乾燥させ、クリヤー層を形成した。
以上のようにして、木質セメント系窯業建材(比重1.1)の表面に複層塗膜(C6)を備えた塗装物(C6)を得た。
得られた塗装物(C6)について評価した結果を表17に示した。
【0125】
【表15】

【0126】
【表16】

【0127】
【表17】

【0128】
表16を見ると、本発明の水性発泡耐火塗料組成物を用いて複層塗膜を形成して塗装物を構築した実施例6〜11については、加熱開始後20分間の総発熱量がいずれも8MJ/m以下であり(ISO5660Part1準拠の発熱性試験の判定基準で合格レベル)、加熱開始後20分間における最高発熱速度がいずれも80KW/m以下であり(合格レベル)、耐透水性の評価がいずれも○(24時間後の減水量が500cc/m以下)であり、耐温水性の評価がいずれも○(ブリスターが見られない)または△(端部のみブリスターが発生)であり、耐候性の評価がいずれも○(光沢保持率が80%以上、色差ΔEが3未満)であり、十分な塩素ガス発生による優れた消火作用および十分な炭化層形成による優れた断熱作用を発現できているとともに、優れた耐火性、優れた耐透水性、優れた耐温水性、優れた耐候性を発現できていることが判る。
【0129】
他方、表17を見ると、比較例5(従来における通常の窯業建材塗装条件に相当)については、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/mを大きく超えており(ISO5660Part1準拠の発熱性試験の判定基準で不合格レベル)、加熱開始後20分間における最高発熱速度が80KW/mを大きく超えており(不合格レベル)、耐候性の評価が△(光沢保持率が50%以上、色差ΔEが3以上6未満)であった。
【0130】
比較例6(比較例5においてクリヤー(5)に代えて製造例12で得られたクリヤー(1)を用いたケースに相当)についても、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/mを超えており(ISO5660Part1準拠の発熱性試験の判定基準で不合格レベル)、加熱開始後20分間における最高発熱速度が80KW/mを大きく超えており(不合格レベル)、耐候性の評価が△(光沢保持率が50%以上、色差ΔEが3以上6未満)であった。
【0131】
比較例7(比較例5においてクリヤー層がないケースに相当)については、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/mを超えており(ISO5660Part1準拠の発熱性試験の判定基準で不合格レベル)、加熱開始後20分間における最高発熱速度が80KW/mを超えており(不合格レベル)、耐透水性の評価が△(24時間後の減水量が500cc/mを超えて1000cc/m以下)であり、耐温水性の評価が△(端部のみブリスターが発生)であり、耐候性の評価が×(光沢保持率が50%未満、色差ΔEが6以上)であった。
【0132】
比較例8(比較例2で製造したコロイダルシリカブレンドシーラーである水性発泡耐火塗料組成物(C2)を用いてシーラー層を形成したケースに相当)については、耐透水性の評価が△(24時間後の減水量が500cc/mを超えて1000cc/m以下)であり、耐温水性の評価が×(試験板面全体に一様にブリスターが発生)であり、耐候性の評価が△(光沢保持率が50%以上、色差ΔEが3以上6未満)であった。
【0133】
比較例9(比較例1で製造したアクリルシーラーである水性発泡耐火塗料組成物(C1)を用いてシーラー層を形成したケースに相当)については、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/mを超えていた(ISO5660Part1準拠の発熱性試験の判定基準で不合格レベル)。
【0134】
比較例10(比較例4の水性発泡耐火塗料組成物(C4)を用いてシーラー層を形成したケースに相当)については、総発熱量と発熱速度が規定値を超えていたために評価結果は×であった。また耐候性の評価が△(光沢保持率が50%以上、色差ΔEが3以上6未満)であった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の水性発泡耐火塗料組成物およびそれを用いて形成される複層塗膜は、火炎に晒された際に、素早く発泡断熱層を形成等して該外壁基材等の温度上昇を効果的に低減させることが可能であるため、住宅外壁等の耐火性が要求される塗装物に好ましく適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダー成分と無機バインダー成分とを含む有機無機ハイブリッドエマルション(1)と発泡充填材(2)とを含み、該発泡充填材(2)が、ポリリン酸塩(2−1)と塩素化樹脂の乳化物(2−2)とを含む、水性発泡耐火塗料組成物であって、
該塗料組成物が与える塗膜中の塩素元素濃度が1〜20質量%であり、
該塗料組成物中の有機質量率が5〜30%である、
水性発泡耐火塗料組成物。
【請求項2】
前記有機無機ハイブリッドエマルション(1)と前記発泡充填材(2)との固形分比率(1):(2)が、質量比で、1:9〜7:3である、請求項1に記載の水性発泡耐火塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリリン酸塩(2−1)と前記塩素化樹脂の乳化物(2−2)との固形分比率(2−1):(2−2)が、質量比で、9:1〜3:7である、請求項1または2に記載の水性発泡耐火塗料組成物。
【請求項4】
前記塩素化樹脂の数平均分子量が500〜5,000である、請求項1から3までのいずれかに記載の水性発泡耐火塗料組成物。
【請求項5】
前記塗料組成物が与える塗膜中の塩素元素の濃度が2〜18質量%であり、前記塗料組成物中の有機質量率が5〜20%である、請求項1から4までのいずれかに記載の水性発泡耐火塗料組成物。
【請求項6】
前記有機無機ハイブリッドエマルション(1)が、オルガノシラン、該オルガノシランの加水分解物、および該オルガノシランの縮合物から選ばれる少なくとも1種(a)とラジカル重合性ビニルモノマー(b)とを含有する混合物を、乳化状態で、加水分解、縮合反応、およびラジカル重合して得られる、水系分散体である、請求項1から5までのいずれかに記載の水性発泡耐火塗料組成物。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかに記載の水性発泡耐火塗料組成物を用いてシーラー層を形成し、該シーラー層の上に、少なくともベースエナメル層、トップエナメル層、クリヤー層をこの順に有する複層を形成する、複層塗膜の形成方法であって、
コーンカロリーメーターでの最大発熱速度が50KW/m以下で継続した燃焼を示さないことを基準とした測定方法により算出した該複層塗膜中の有機質量が、5〜75g/mである、複層塗膜形成方法。
【請求項8】
基材の上に、請求項7に記載の複層塗膜形成方法により得られる複層塗膜を備える、塗装物。



【公開番号】特開2011−105855(P2011−105855A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262574(P2009−262574)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【復代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
【Fターム(参考)】