説明

水性硬化性組成物

【課題】 ホルムアルデヒド、オキシム化合物やラクタム化合物を原料に使用せず、これらが焼付け硬化時に揮散する恐れがない水性硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 一般式(I)


[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表されるグリオキシラミド基、
一般式(II)


[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を、Rは炭素数1〜18の有機基を示す]で表されるグリオキシラミドヘミアセタール基、及び、
一般式(III)


[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表される水和されたグリオキシラミド基、からなる群のなかから選ばれる少なくとも1種の有機基を、1分子中にお互いに同じであっても異なっていてもよく2つ以上有する化合物、並びに、(B)ポリオール化合物を含有することを特徴とする水性硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリオキシラミド基やその誘導基を含有する水性硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境対応の観点から水性硬化性組成物が求められている。ポリオールは比較的容易に製造でき、また水性化が可能であることから水性硬化性組成物の架橋成分として多用されている。ポリオールを用いるかかる水性架橋系として、アミノホルムアルデヒド樹脂/ポリオール系(特許文献1)、ブロックポリイソシアネート/ポリオール系(特許文献2)などが知られている。
【0003】
しかしながら、アミノホルムアルデヒド樹脂/ポリオール系では焼付け硬化時にホルムアルデヒドが揮散しやすく、またブロックポリイソシアネート/ポリオール系の場合でもオキシム化合物やラクタム化合物などのブロック剤が揮散するという問題があった。そして、これら揮散成分は毒性が指摘または懸念されている。
【0004】
そのため、ホルムアルデヒド、ブロック剤であるオキシム化合物やラクタム化合物を原料として使用しない架橋系が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭54−16540
【特許文献2】特開昭57−126860
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ホルムアルデヒド、オキシム化合物やラクタム化合物を原料に使用せず、これらが焼付け硬化時に揮散する恐れがない水性硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、特定のグリオキシラミド誘導基を有する化合物を利用することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下に示す、グリオキシラミド基やその誘導基を有する化合物、及びポリオールを含有することを特徴とする水性硬化性組成物を提供するものである。すなわち、
1.(A) 一般式(I)
【0009】
【化1】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表されるグリオキシラミド基、
一般式(II)
【0010】
【化2】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を、Rは炭素数1〜18の有機基を示す]で表されるグリオキシラミドヘミアセタール基、及び、
一般式(III)
【0011】
【化3】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表される水和されたグリオキシラミド基からなる群のなかから選ばれる少なくとも1種の有機基を、1分子中に2個以上有する化合物、
並びに、
(B)ポリオール化合物
を含有することを特徴とする水性硬化性組成物。
2.上記化合物(A)が、一般式(IV)
【0012】
【化4】

[式中、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜18の有機基を、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物と水を反応させて得られることを特徴とする項1に記載の水性硬化性組成物。
3.上記化合物(A)が、一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物と水及びアルコールを反応させて得られることを特徴とする項1に記載の水性硬化性組成物。
4.上記一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物が、
下記一般式(V)
【0013】
【化5】

[式中、Yは炭素数1〜6の有機基を示す。R、R、Rは前記と同じ]で表されるグリオキシラミドアルコールのアセタール化体、及び、イソシアネート基を有する化合物を反応させて得られることを特徴とする項2に記載の水性硬化性組成物。
5.一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物が、
下記一般式(VI)
【0014】
【化6】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜18の有機基を示す。R、Rは前記と同じ]で表されるグリオキシル酸のアセタール化体、又はグリオキシル酸エステルのアセタール化体とアミノ基を有する化合物とを反応させて得られることを特徴とする項2に記載の水性硬化性組成物。
に関する。
【発明の効果】
【0015】
グリオキシラミド基やその誘導基を有する化合物(A)並びにポリオール化合物(B)を含む水性硬化性組成物は、化合物(A)に含まれている硬化に関与する基が一般式(I)で表されるグリオキシラミド基である場合は硬化の際に揮発物が発生しにくく、発生したとしても水である。化合物(A)に含まれている硬化に関与する基が一般式(II)で表されるグリオキシラミドヘミアセタール基である場合は硬化の際に水又はROHで表される炭素数1〜18のアルコールが発生する。かかるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノールなどのアルカノール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、重合度8以下のポリエチレングリコールのモノメチルエーテル、重合度8以下のポリエチレングリコールモノエチルエーテル、重合度5以下のポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、オキシエチレン部分とオキシプロピレン部分の合計の重合度が5以下のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメチルエーテルなどのエーテル基含有モノオール類、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、2−アミノブタノールなどのモノアルカノールアミンなどが挙げられる。
【0016】
そして化合物(A)に含まれている硬化に関与する基が一般式(III)で表される水和されたグリオキシラミド基である場合は硬化の際に水が発生する。
【0017】
いずれにしても本発明による水性硬化性組成物は硬化の際に毒性が指摘又は懸念されているホルムアルデヒド、オキシム化合物、ラクタム化合物の揮散がない架橋系である。
【0018】
また、本発明の水性硬化性組成物は、塗膜形成時に、水の系外への離脱・蒸発により、化合物(A)中のグリオキシラミド基やその誘導基とポリオール化合物(B)中の水酸基とのヘミアセタール又はアセタール縮合反応が円滑に進行するので架橋効率が高い。そのため、常温〜比較的低温であっても、架橋反応が進行し、耐熱性、耐溶剤性、耐水性の良好な架橋塗膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
水性硬化性組成物
本発明の水性硬化性組成物はグリオキシラミド基やその誘導基を有する化合物(A)、及びポリオール化合物(B)を任意に混合した水溶液または水分散液により形成される。また、必要に応じて着色顔料、体質顔料、防錆顔料、有機溶剤、顔料分散剤、表面調整剤などの塗料添加物を配合することができる。
【0020】
本発明の水性硬化性組成物は、ディップ塗装、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装等の公知の方法によって所望の基材表面に塗装することができる。
【0021】
本発明の水性硬化性組成物を用いて形成される塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、一般的には、硬化塗膜に基づいて5〜40μm、特に10〜35μmの範囲内が好ましい。また、本発明の水性硬化性組成物は、加熱したり、酸又は塩基触媒を使用することによって架橋を促進させることもできる。加熱温度は特には限定されないが、80〜200℃、好ましくは100〜180℃の範囲内の温度が適しており、焼き付け時間は5〜200分間程度、好ましくは15〜60分間程度で十分に硬化した塗膜を得る事が出来る。
【0022】
本発明の水性硬化性組成物は、水性塗料として塗装基材の種類を問わず好適に使用されるが、それに限られず、広範に硬化する材料が求められる用途、例えばパテや接着剤として使用することもできる。以下、さらに詳細に説明する。
化合物(A)
化合物(A)は、一般式(I)
【0023】
【化7】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表されるグリオキシラミド基、一般式(II)
【0024】
【化8】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を、Rは炭素数1〜18の有機基を示す]で表されるグリオキシラミドヘミアセタール基、及び、
一般式(III)
【0025】
【化9】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表される水和されたグリオキシラミド基からなる群より選ばれる有機基を1分子中に少なくとも2個以上有する化合物である。
【0026】
化合物(A)は、特に限定されるものではないが、例えば、一般式(IV)
【0027】
【化10】

[式中、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜18の有機基を、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]
で表されるグリオキシラミドアセタール基を1分子中に2個以上有する化合物と水、或いは、水及びアルコール及び/又はポリオールと反応させて得るのが容易で好ましい。
一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を1分子中に2個以上有する化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法で製造するのが容易であり好ましい。
【0028】
1.一般式(V)
【0029】
【化11】

[式中、Yは炭素数1〜6の有機基を示す。R、R、Rは前記と同じ]で表されるグリオキシラミドアルコールのアセタール化体とイソシアネート基を1分子中に2個以上有する化合物を反応させる。ここでの反応は、例えば、以下に示すとおりである。
【0030】
【化12】

【0031】
[式中、Zはイソシアネート基を有する化合物に由来する有機基を、nは2以上の数をそれぞれ示す。]
この反応は、ヒドロキシル基とイソシアネート基からカーバメート基を生成する反応の一種であり、ヒドロキシル基とイソシアネート基の反応における公知の反応条件を適用することができる。例えば、必要に応じて有機錫化合物などのルイス酸触媒やアミンなどの塩基触媒を用いることもできる。
【0032】
2.一般式(VI)
【0033】
【化13】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜18の有機基を示す。R、Rは前記と同じ]で表されるグリオキシル酸のアセタール化体、又はグリオキシル酸エステルのアセタール化体とアミノ基を有する化合物とを反応させる。ここでの反応は、例えば、以下に示すとおりである。
【0034】
【化14】

【0035】
[式中、Tはアミノ基を有する化合物に由来する有機基を示す。またmは任意の正の整数である。]
この反応は、カルボキシル基とアミノ基、又は、エステル基とアミノ基からアミド基を生成する反応の一種であり、カルボキシル基とアミノ基、又は、エステル基とアミノ基の反応における公知の反応条件を適用することができる。例えば、必要に応じてルイス酸触媒や金属アルコキシドなどの塩基触媒を用いることもできる。
【0036】
3.一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基および重合性二重結合を有する化合物を、単独重合、又は、他のビニル系モノマーと共重合させる。重合方法としては公知の方法を用いることができ、例えばラジカル重合、配位重合、グループトランスファー重合(官能基移動重合)、ATRP重合(原子移動重合)、連鎖移動重合などの方法を用いることができる。
【0037】
一般式(V)で表されるグリオキシラミドアルコールのアセタール化体と反応させるイソシアネート基を有する化合物としては、ジイソシアネートやポリイソシアネートなどが好ましい。ジイソシアネートやポリイソシアネートは併用して用いてもよい。
ジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ジイソシアネートペンタン(MPDI)、1,6−ジイソシアネートヘキサン(HDI)、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート、5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン(IPDI:略称イソホロンジイソシアネート)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(HMDI)、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ジイソシアネートノルボルナン、ジ(イソシアネートメチル)ノルボルナンなどの炭素数4〜25のジイソシアネートが挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、特には限定されないが、例えば、イソシアヌレート構造、アロファネート構造、ビウレット構造、ウレトジオン構造及びカーバメート構造から選ばれる1種以上の構造を含有するポリイソシアネートを用いることができる。これらポリイソシアネートは併用して用いてもよい。ここで、ポリイソシアネートとは、1分子中の平均イソシアネート官能基数が2以上のものを指し、特に官能基数が2〜5000のものが粘度の観点から好ましい。
【0038】
イソシアヌレート構造又はアロファネート構造を含有するポリイソシアネートは、上記のジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートを原料として触媒などを用いて公知の方法で製造することができる。ビウレット構造を含有するポリイソシアネートは、ジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートと水を反応させて得ることができる。ウレトジオン構造を含有するポリイソシアネートは、ジイソシアネート及び/又はポリイソシアネート、さらに必要に応じてヒドロキシル基含有化合物などを原料に用いて触媒などを用いて公知の方法で製造することができる。カーバメート構造を含有するポリイソシアネートは、ヒドロキシル基含有化合物とジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートを反応させて得ることができる。
【0039】
ヒドロキシル基含有化合物としては、特には限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノールなどのアルカノール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメチルエーテルなどのエーテル基含有モノオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、メチルプロパンジオール、ペンタンジオール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2’−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ヒドロキシピバリン酸-ネオペンチルグリコールエステル、ジメチロールプロパン酸、ジメチロールブタン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールオクタン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの水酸基をもつ化合物とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、ラクトン及び/又はシクロカーボネートの開環付加物、アミノ基をもつ化合物とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、ラクトン及び/又はシクロカーボネートの開環付加物、1分子中にアミノ基と水酸基の両方をもつ化合物とエポキシ基含有化合物との反応生成物、1分子中にアミノ基と水酸基の両方をもつ化合物とポリイソシアネートとの反応生成物、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有ポリウレタン樹脂、水酸基含有ポリカーボネート樹脂、水酸基含有ビニル系重合体、エポキシ樹脂などのポリオール類が挙げられる。
【0040】
イソシアヌレート構造、アロファネート構造、ビウレット構造、ウレトジオン構造又はカーバメート構造から選ばれる1種以上の構造を含有するポリイソシアネートは、市販されているものを用いても良い。
【0041】
一般式(VI)で表されるグリオキシル酸のアセタール化体、又はグリオキシル酸エステルのアセタール化体と反応させるアミノ基を有する化合物としては、特には限定されないが、例えば、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、ジエチレントリアミン、ポリオキシプロピレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアミンなどの脂肪族アミン類;ジアミノベンゼン、キシリレンジアミンなどの芳香族アミン類が挙げられる。
【0042】
一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物は、ノニオン性親水基を有するものであってもよい。ノニオン性親水基としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基、ポリ(N−ビニルピロリドン)基、ポリ(ビニルホルムアミド)基、ポリ(アクリルアミド)基、ポリ(N−アルキルアクリルアミド)基、ポリ(N,N−ジアルキルアクリルアミド)基などが挙げられる。これらの中でも導入のしやすさという観点からは、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基が好ましい。
【0043】
一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物にノニオン性親水基を導入する手法としては、一般式(V)で表されるグリオキシラミドアルコールのアセタール化体をジイソシアネート及び/又はポリイソシアネートと反応させる場合においては、例えば、反応系中にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類などを共存させる、あるいは、あらかじめポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するジイソシアネート、ポリイソシアネートなどを使用することが挙げられる。また、一般式(VI)で表されるグリオキシル酸のアセタール化体、又はグリオキシル酸エステルのアセタール化体とアミノ基を有する化合物とを反応させる場合においては、例えば、アミノ基を有する化合物として、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基から選ばれる少なくとも1種以上の有機基及びアミノ基を有する化合物を使用することが挙げられる。
【0044】
一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物と水の反応、並びに、一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物と水及びアルコールの反応は、グリオキシラミドアセタール基を、グリオキシラミド基、グリオキシラミドのヘミアセタール基、又は、水和されたグリオキシラミド基へ変換する反応である。この反応は、例えば、以下のようである。
【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

【0049】
[式中、R、R、R、R7、は前記と同じ]
ここで用いられるROHで表されるアルコールは炭素数1〜18の有機基にOHが結合している形のものであり、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノールなどのアルカノール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、重合度8以下のポリエチレングリコールのモノメチルエーテル、重合度8以下のポリエチレングリコールモノエチルエーテル、重合度5以下のポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、オキシエチレン部分とオキシプロピレン部分の合計の重合度が5以下のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメチルエーテルなどのエーテル基含有モノオール類、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、2−アミノブタノールなどのモノアルカノールアミンなどが挙げられる。
【0050】
この反応は、酸触媒で促進されるので、酸触媒を共存させることが好ましい。酸触媒としては、プロトン酸触媒、ルイス酸触媒、固体酸触媒などが挙げられる。必要に応じて、加熱して反応を促進してもよい。酸触媒を用いる場合は、反応後に酸触媒の一部又は全部を中和しても良いし、吸着剤で吸着除去しても良いし、ろ過により除去してもよい。中和する場合は、生成する中和塩をろ過により除去してもよいし、吸着剤で吸着除去しても良いし、分液操作により抽出除去してもよい。
ポリオール化合物(B)
本発明における化合物(B)は1分子中に2つ以上の水酸基を持つポリオール化合物である。
【0051】
本発明に用いる事の出来るポリオール化合物の例を以下に示す。
1.エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、メチルプロパンジオール、ペンタンジオール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2'−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ヒドロキシピバリン酸-ネオペンチルグリコールエステル、ジメチロールプロパン酸、ジメチロールブタン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、グリセリン、ペンタエリスリトールのような多価アルコール化合物。
2.1分子中に2個以上の水酸基をもつ化合物とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、ラクトン及び/又はシクロカーボネートの開環付加物、1分子中にアミノ基と水酸基の両方をもつ化合物とエポキシ基含有化合物との反応生成物、1分子中にアミノ基と水酸基の両方をもつ化合物とポリイソシアネートとの反応生成物、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有ポリカーボネート樹脂、水酸基含有ビニル系共重合体、エポキシ樹脂など。これらのものは公知の手法で合成することができる。
【0052】
これらの中でも水性硬化性組成物としての使い易さの点から、水中に安定に分散又は溶解して、かつ長期貯蔵によっても分解しないこと、及び硬化組成物を塗料として用いた場合、硬化後に脆弱でなくに素材追従性が高い被膜を得られる事を考慮すると、数平均分子量が500以上であるオリゴマー〜ポリマーが好ましい。つまり本発明に用いるポリオール化合物としては数平均分子量が500以上である、1分子中に2個以上の水酸基をもつ化合物とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、ラクトン及び/又はシクロカーボネートの開環付加物、1分子中にアミノ基と水酸基の両方をもつ化合物とエポキシ基含有化合物との反応生成物、1分子中にアミノ基と水酸基の両方をもつ化合物とポリイソシアネートとの反応生成物、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有ポリウレタン樹脂、水酸基含有ポリカーボネート樹脂、水酸基含有ビニル系共重合体、エポキシ樹脂などが好ましい。これら樹脂は一般的に知られている原料を用いて公知の方法で合成される。又は上述の条件を満たしている市販の樹脂を用いても良い。
【0053】
なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定した数平均分子量を、ポリスチレンの数平均分子量を基準にして換算した値である。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に記すが、これらの例は単なる実例であって本発明を限定するものではなく、また、本発明の範囲を脱しない範囲で変化させても良い。なお、以下の例において「部」及び特に断りの無い場合に「%」は重量基準によるものとする。
【0055】
なお、純度(%)は、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から次式により算出した。
純度(%)=(A/B)×100
ただし、Aは目的生成物のピーク面積、Bは全ピークの合計面積を表す。
【0056】
グリオキシラミド基およびその誘導基をもつ化合物(A)の合成
製造例1:まず、ジエトキシ酢酸エチルを精留塔のついた蒸留装置をもちいて、純度が99%以上になるように蒸留精製した。次に、精留塔及び凝縮器のついたフラスコに、2,2−ジエトキシ酢酸エチル352gと2−(N−メチルアミノ)エタノール150gを入れ、撹拌を続けながら、105℃に昇温した。精留塔上部から留出してくるエタノールを凝縮器を通して系外に除去しながら、105℃で10時間撹拌を続けた。その後、50℃へ冷却し、減圧してさらにエタノールを留去し、最終的に圧力5mmHgでエタノールの留出がほとんど認められなくまで濃縮し、N−(2−ヒドロキシエチル)−2,2−ジエトキシアセタミドを得た。ここでの反応は以下の式で表される。
【0057】
【化19】

【0058】
得られた反応物について、核磁気共鳴分光法による分析(H−NMR分析(CDCl))を行ったところ、δ:5.01−5.02(1H,m)、3.54−3.84(8H,m)、2.96−3.19(3H,m)、2.30−2.70(1H,b)、1.24−1.28(6H,m)にピークが見られた。
次に、別のフラスコに、上記で得られたN−(2−ヒドロキシエチル)−2,2−ジエトキシアセタミド197g、「デュラネートTPA−100」(旭化成製、イソシアヌレート構造含有ポリイソシアネート、数平均分子量600、イソシアネート含有量23.1wt%)182g及びジプロピレングリコールジメチルエーテル88gを加え、撹拌した。その後、ジブチル錫ジラウレート0.15gを加え、60℃に昇温した。その後60℃を保持して、18時間撹拌を続けた。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテル38gを加え、さらに60℃で6時間撹拌を続け、1分子中に2個以上グリオキシラミドアセタール基を有する化合物を約75%含有する溶液を得た。ここでの主たる反応はN−(2−ヒドロキシエチル)−2,2−ジエトキシアセタミドとイソシアネート基の反応であり、以下の式で表される。
【0059】
【化20】

【0060】
得られた反応物について、核磁気共鳴分光法による分析(H−NMR分析(DMSO−d))を行ったところ、グリオキシラミドアセタール基に特有のピークがδ:4.97−4,98(1H,m)に見られた。
次に、得られた1分子中に2個以上グリオキシラミドアセタール基を有する化合物を約75%含有する溶液100gと5規定塩酸100gを混合したのち室温で約10時間攪拌し、グリオキシラミド基、グリオキシラミドヘミアセタール基および水和されたグリオキシラミド基を合計で1分子中に2個以上有する化合物を含む溶液を得た。ここでの主たる反応は、グリオキシラミドアセタール基を、グリオキシラミド基、グリオキシラミドヘミアセタール基、又は、水和されたグリオキシラミド基へ変換する反応であり、以下の式で表される。
【0061】
【化21】

【0062】
【化22】

【0063】
【化23】

【0064】
【化24】

【0065】
得られた反応物について、核磁気共鳴分光法による分析(H−NMR分析(DMSO−d))を行ったところ、グリオキシラミド基に特有のピークがδ:9.39−9.45(1H,m)に、グリオキシラミドヘミアセタール基に特有のピークがδ:5.11(1H,s)に、水和されたグリオキシラミド基に特有のピークがδ:5.27−5.28(1H,m)に見られた。プロトン積分値から、グリオキシラミド基、グリオキシラミドヘミアセタール基及び水和されたグリオキシラミド基の存在比は、グリオキシラミド基/グリオキシラミドヘミアセタール基/水和されたグリオキシラミド基=5/22/73(モル比)であった。得られた反応溶液に、1規定の水酸化ナトリウムのプロピレングリコールモノメチルエーテル/水混合液を加えて中和し、グリオキシラミド基、グリオキシラミドヘミアセタール基及び水和されたグリオキシラミド基を合計で1分子中に2個以上有する化合物を含有する溶液(A−1)を得た。この溶液(A−1)の、グリオキシラミド基、グリオキシラミドヘミアセタール基及び水和されたグリオキシラミド基の合計モル濃度は、約0.26モル/Kgであった。
【0066】
ポリオール化合物(B)の合成
製造例2: 攪拌機、温度計、コンデンサー、サーモスタット、滴下ポンプ等を備えた反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテル900gを入れ、窒素気流下90℃に昇温した後、メチルメタクリレート600g、n−ブチルアクリレート600g、2−エチルヘキシルメタクリレート300g、4−ヒドロキシブチルアクリレート300g、アクリル酸200g、プロピレングリコールモノメチルエーテル750g及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)60gの混合液を4時間かけて滴下し、その後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)10g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル450gの混合液を1時間かけて滴下し、更に90℃で1時間熟成し、その後、2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール247gを加えてカルボキシル基を中和し、数平均分子量が約20000でかつ水酸基の含有濃度が約1モル/Kgである水酸基含有ビニル系共重合体を約52%含有する溶液を得た。この溶液200gを、別の容器に入れ、攪拌しながら脱イオン水320gを加えて混合し、水酸基含有ビニル系共重合体を約20%含有する溶液(B−1)を得た。
製造例3: 攪拌機、温度計、コンデンサー、及び水分離器を備えた反応容器に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール218g、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール222g、トリメチロールプロパン158g、アジピン酸135g、ヘキサヒドロ無水フタル酸498g及び酸化ジブチル錫1gを加え、240℃で脱水縮合させたのち、冷却しながら無水トリメリット酸61gを加えて反応させたのち、プロピレングリコールモノプロピルエーテル120gを加え、さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテル300gを加えた。その後、2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール57g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル257gの混合液を加えて攪拌し、数平均分子量が約2000でかつ水酸基の含有濃度が約1.4モル/Kgである水酸基含有ポリエステル樹脂を約65%含有する溶液を得た。この溶液200gを、別の容器に入れ、攪拌しながら脱イオン水320gを加えて混合し、水酸基含有ポリエステル樹脂を約25%含有する溶液(B−2)を得た。
【0067】
水性硬化性組成物の調製
実施例1: 製造例1で得たグリオキシラミド基、グリオキシラミドヘミアセタール基及び水和されたグリオキシラミド基を有する化合物を含有する溶液(A−1)を10部、製造例2で得た水酸基含有ビニル系共重合体を約20%含有する溶液(B−1)を26部混合し、ドデシルベンゼンスルホン酸の2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノールによる中和塩を加えよく混合して水性硬化性組成物1を得た。
実施例2、3及び比較例1、2: 表1に示す配合組成以外は実施例1と同様にして水性硬化性組成物を調製した。
【0068】
硬化性評価結果
実施例及び比較例で作成した水性硬化性組成物の硬化性を表1に併せて示す。なお硬化性は下記の条件で評価したものである。
組成物の硬化性:水性硬化性組成物を硬化膜厚が約20μmになるようにガラス板上に塗布したのち180℃で45分間保持し、得られた膜のアセトン不溶分を測定し、下記の通り評価した。
○:アセトン不溶分70%以上
×:アセトン不溶分70%未満
表1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 下記一般式(I)
【化1】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表されるグリオキシラミド基、下記一般式(II)
【化2】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を、Rは炭素数1〜18の有機基を示す]で表されるグリオキシラミドヘミアセタール基及び下記一般式(III)
【化3】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表される水和されたグリオキシラミド基からなる群のから選ばれる少なくとも1種の有機基を、1分子中に2個以上有する化合物、
並びに
(B)ポリオール化合物
を含有することを特徴とする水性硬化性組成物。
【請求項2】
上記化合物(A)が一般式(IV)
【化4】

[式中、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜18の有機基を、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物と水を反応させて得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の水性硬化性組成物。
【請求項3】
上記化合物(A)が一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物と水及びアルコールを反応させて得られることを特徴とする請求項1に記載の水性硬化性組成物。
【請求項4】
上記一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物が、
下記一般式(V)
【化5】

[式中、Yは炭素数1〜6の有機基を示す。R、R、Rは前記と同じ]で表されるグリオキシラミドアルコールのアセタール化体、および、イソシアネート基を有する化合物を反応させて得られたものであることを特徴とする請求項2に記載の水性硬化性組成物。
【請求項5】
一般式(IV)で表されるグリオキシラミドアセタール基を有する化合物が、下記一般式(VI)
【化6】

[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜18の有機基を示す。R、Rは前記と同じ]で表されるグリオキシル酸のアセタール化体、又はグリオキシル酸エステルのアセタール化体とアミノ基を有する化合物とを反応させて得られたものであることを特徴とする請求項2に記載の水性硬化性組成物。

【公開番号】特開2008−81679(P2008−81679A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266010(P2006−266010)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】