説明

水性磁性塗料組成物

【課題】貯蔵安定性に優れ、被塗物の磁場に対応して立体感を有する磁性模様を形成せしめる水性磁性塗料組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、リン酸と1種以上の元素(a)との化合物であるリン酸塩系防錆顔料、亜リン酸と1種以上の元素(a)との化合物である亜リン酸塩系防錆顔料及び縮合リン酸と1種以上の元素(a)との化合物である縮合リン酸塩系防錆顔料から選択された1種以上の防錆顔料(A)と、鱗片状鉄顔料と、樹脂組成物とを含有する水性磁性塗料組成物であって、該各1種以上の元素(a)が、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、チタン、珪素、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム、バリウム、鉄、ジルコニウム及びセリウムから選択された1種又は2種以上の元素である水性磁性塗料組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、被塗物の磁場に対応して文字や紋様を立体的に表現する磁性模様を形成せしめる水性磁性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の内装部品、電気製品等の工業製品には、素材を保護することを目的として塗装が施されていた。また、近年は、製品の保護に加えてさらに消費者の製品に対する印象を高めるために種々の色に塗装することも行なわれている。近年、様々な工業製品において、その商品力を高めるために表面に単に着色するだけでなく、様々な模様を付与する場合がある。
【0003】
塗装によって表現可能な模様の一つに、文字や紋様を立体的に表現する磁性模様がある。具体的には、塗料中に磁性を持つ磁性顔料を配合しておいて、塗膜形成時に被塗物の周囲に磁場を形成し、形成された磁場に対応して、磁性顔料の配向を制御することによって磁性模様を形成することができる。磁性顔料の中で、磁場への応答が鋭敏であり、磁性顔料を配合した塗料を塗装して得られる塗膜がシャープな模様が形成可能な顔料として、鱗片状鉄顔料を挙げることができる。
【0004】
一方、近年環境負荷を低減するために有機溶剤系の塗料から水性塗料への転換が進みつつある。鱗片状鉄顔料を水性塗料に配合せしめた場合には、鉄と水とが反応して水素ガスを発生して貯蔵性が低下したり、鱗片状鉄顔料の表面が改質して仕上がりが低下する問題を有していた。
【0005】
特許文献1は、磁性模様形成用塗料及びこれを用いた塗膜の形成方法に関するものである。特許文献1には、樹脂成分、磁性金属被覆顔料及び有機溶剤を主成分とする塗料組成物について記載されているが、溶媒として有機溶剤を用いた溶剤型塗料であって、水性塗料については何ら記載も示唆もない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−176452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、塗装される基材周囲に形成された磁場に対応して、シャープな磁性模様を形成可能であり、貯蔵時に鱗片状鉄顔料と水との反応による水素ガス発生が抑制された水性磁性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.リン酸と1種以上の元素(a)との化合物であるリン酸塩系防錆顔料、亜リン酸と1種以上の元素(a)との化合物である亜リン酸塩系防錆顔料及び縮合リン酸と1種以上の元素(a)との化合物である縮合リン酸塩系防錆顔料から選択された1種以上の防錆顔料(A)と、鱗片状鉄顔料と、樹脂組成物とを含有する水性磁性塗料組成物であって、該各1種以上の元素(a)が、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、チタン、珪素、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム、バリウム、鉄、ジルコニウム及びセリウムから選択された1種又は2種以上の元素である水性磁性塗料組成物及び
2.防錆顔料(A)が、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料である1項に記載の水性磁性塗料組成物
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性磁性塗料組成物は、塗装される基材周囲に形成された磁場に対応して、シャープな磁性模様を形成可能であり、貯蔵時に鉄と水とが反応して水素ガスを発生することがなく、さらに塗装して得られる塗膜はハイライトで白く、シェードで色調が黄色く濁らない効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水性磁性塗料組成物は、防錆顔料、鱗片状鉄顔料及び樹脂組成物を含有する。
【0011】
本発明の水性磁性塗料組成物は、塗膜形成時に被塗物の周囲に形成された磁場に対応して、配向する磁性顔料として、鱗片状鉄顔料を含有する。
【0012】
鱗片状鉄顔料は、一般に粒子状の鉄をボールミルやアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕、摩砕して製造され、塗料用としては通常平均粒子径(D50)が1〜50μm、特に5〜20μmの範囲内のものが、また厚さは、0.01μm〜10μm、特に0.1μm〜5μmの範囲内のものが、塗料中における安定性や形成される塗膜の仕上がり性の点から使用される。上記平均粒子径は、長径を意味する。粉砕媒液としてはミネラルスピリットなどの脂肪族系炭化水素が使用される。
【0013】
本発明の水性磁性塗料組成物において、上記鱗片状鉄顔料の配合量は、得られる塗膜の金属感や仕上がり外観の点から、後述する樹脂組成物の固形分100質量部に対して、0.1〜50質量部の範囲内であることが好ましく、5〜25質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0014】
防錆顔料は、鱗片状鉄顔料の表面が、塗料組成物中の水と反応することに起因する水素の発生を抑制することを目的として、配合するものであって、具体的には、リン酸塩系防錆顔料、亜リン酸塩系防錆顔料及び縮合リン酸塩系防錆顔料から選択された1種以上の防錆顔料を使用することができる。
【0015】
リン酸塩系防錆顔料とは、リン酸と、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、チタン、珪素、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム、バリウム、鉄、ジルコニウム及びセリウムから選択された1種又は2種以上の元素との化合物を意味する。
【0016】
亜リン酸塩系防錆顔料とは、亜リン酸と、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、チタン、珪素、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム、バリウム、鉄、ジルコニウム及びセリウムから選択された1種又は2種以上の元素との化合物を意味する。
【0017】
縮合リン酸塩系防錆顔料とは、リン酸が複数以上結合した縮合リン酸の塩であって、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、チタン、珪素、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム、バリウム、鉄、ジルコニウム及びセリウムから選択された1種又は2種以上の元素との化合物である。代表的なものとしては、トリポリリン酸二水素アルミニウムを挙げることができる。
【0018】
本発明の水性磁性塗料組成物に配合せしめる防錆顔料は、上記リン酸塩系防錆顔料、亜リン酸塩系防錆顔料及び縮合リン酸塩系防錆顔料に、表面処理を施したものや金属酸化物や金属塩で変性したものも包含する。
【0019】
本発明の水性磁性塗料組成物は、上記防錆顔料の中から1種類以上を選択して含有することができる。その含有量は、上記鱗片状鉄顔料の固形分100質量部に対して、水性磁性塗料組成物の貯蔵安定性と塗装して得られる塗膜の仕上がり性とから0.1〜50質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5〜25質量部の範囲内である。
【0020】
本発明の水性磁性塗料組成物は、ビヒクル形成成分として樹脂組成物を含有する。該樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂組成物が好ましく、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂を、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤と併用したものが挙げられ、これらは水に溶解または分散して使用できる。特にアクリル樹脂、ポリエステル樹脂及び架橋剤としてメラミン樹脂を組み合わせたものが、仕上がり性及び塗膜性能の点から好ましい。
【0021】
また、本発明の水性磁性塗料組成物には、必要に応じて着色顔料を配合することができる。着色顔料としては、インク用、塗料用として従来公知の顔料を1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。着色顔料の具体例としては、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスレン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴ系顔料等を挙げることができる。
【0022】
本発明の水性磁性塗料組成物におけるこれら着色顔料の好ましい含有量は、塗装して得られる塗膜の色調や仕上がり性の点から、樹脂組成物中の固形分100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1〜30質量部の範囲内である。
【0023】
本発明の水性磁性塗料組成物には、上記鱗片状鉄顔料のほかに光輝性顔料を含有することができる。該光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム、銅などの鱗片状金属顔料(ニッケルやステンレス等磁気を帯びる金属以外)、表面を金属酸化物で被覆した鱗片状金属顔料、表面に着色顔料を化学吸着させた鱗片状金属顔料、表面に酸化還元反応を起こさせることにより金属酸化物層を形成した鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料、表面を金属酸化物で被覆したガラスフレーク顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたガラスフレーク顔料、表面を二酸化チタンで被覆した干渉マイカ顔料、干渉マイカ顔料を還元した還元マイカ顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたり、表面を酸化鉄で被覆した着色マイカ顔料、表面を二酸化チタンで被覆したグラファイト顔料、表面を二酸化チタンで被覆したシリカフレークやアルミナフレーク顔料、ホログラム顔料、合成マイカ顔料、らせん構造を持つコレステリック液晶ポリマー顔料、オキシ塩化ビスマス顔料などが挙げられる。これらの中から1種類以上を求める光輝感に応じて各種光輝性顔料を適宜使用することができる。
【0024】
上記光輝性顔料を使用する場合、その配合量は、鱗片状鉄顔料との合計量として、水性磁性塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、塗装して得られる塗膜の光輝感や仕上がり性の点から50質量部以下が好ましく、より好ましくは1〜30質量部の範囲内である。
【0025】
本発明の水性磁性塗料組成物には、さらに必要に応じて、水あるいは有機溶媒、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0026】
本発明の水性磁性塗料組成物は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製することができる。また、防錆顔料(A)は、予め上記樹脂組成物及び水と混合して防錆顔料分散体を調製し、該防錆顔料分散体を前述の成分と混合して水性磁性塗料組成物に配合せしめることができる。
【0027】
顔料分散体について説明する。塗料組成物に顔料を配合する場合、塗料組成物において良好な分散状態で安定に存在させておく必要がある。そのために、顔料を粉粒体として塗料組成物に配合してその後に分散を行なってもよいが、顔料を高濃度で含み且つ良好な分散状態に保持された顔料分散体を予め調整しておいて、顔料分散体として塗料組成物に配合することができる。
【0028】
本発明の水性磁性塗料組成物に配合するために上記防錆顔料(A)の顔料分散体を調製する場合は、例えば以下のように行なうことができる。本発明の水性磁性塗料組成物のビヒクル形成成分である樹脂組成物と防錆顔料(A)を混合する。このときの配合比率は、樹脂組成物の固形分100質量部に対して、防錆顔料が100〜1000質量部の範囲内となるようにすることが、顔料分散体における分散状態の点から好ましい。さらに水を加えて、固形分が30〜80質量%の範囲内となるように調整する。
得られた防錆顔料(A)と樹脂及び水の混合物を、ガラスビーズやセラミックビーズ等の粉砕メディアを併用し、ビーズミルやペイントコンディショナー等の分散機を使用して分散を行なって、防錆顔料を高濃度に含有する顔料分散体を調整することができる。さらに顔料分散体には、顔料の良好な分散状態を維持することを目的として市販の顔料分散剤を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の水性磁性塗料組成物は、防錆顔料(A)、前述の鱗片状鉄顔料、樹脂組成物及び必要に応じて着色顔料や光輝性顔料等を混合せしめた後に、塩基性中和剤組成物を添加することによりpHを6〜10の範囲内に調整せしめることが、貯蔵中のガス発生抑制効果を高めるために好ましい。
【0030】
塩基性中和剤組成物としては、脂肪族系3級アミン等を挙げることができ、具体的には、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を用いることができる。
【0031】
本発明の水性磁性塗料組成物の製造方法について、説明する。第一の態様としては、鱗片状鉄顔料と有機溶剤とを含む高濃度の鱗片状鉄顔料液を予め調製しておく。次に水性磁性塗料組成物におけるビヒクル形成成分である樹脂組成物の混合物に、該高濃度の鱗片状鉄顔料液を加えて攪拌混合する。さらに光輝性顔料を配合する場合は、予め該光輝性顔料と、例えばエチレングリコールモノブチルエーテルとを含む高濃度の光輝性顔料液を予め調製しておいて加える。着色顔料を配合する場合は、予め前述した防錆顔料分散体を作成するのと同様にして着色顔料分散体を調製しておいて加えることができる。次に前述の防錆顔料分散体を添加してさらに攪拌混合し、さらに塩基性中和剤組成物を添加して水性磁性塗料組成物のpHを調製する。その後に必要に応じて添加剤や水を添加して、塗装に適正な粘度の水性磁性塗料組成物を製造することができる。
【0032】
第二の態様としては、鱗片状鉄顔料、有機溶剤及び防錆顔料を含む高濃度鱗片状鉄顔料液を予め調製しておく。次に水性塗料組成物におけるビヒクル形成成分である樹脂組成物の混合物に、該高濃度鱗片状鉄顔料液を加えて攪拌混合する。それ以降は第一の態様と同様にして塗装に適正な粘度の水性磁性塗料組成物を製造することができる。
【0033】
上記高濃度鱗片状鉄顔料液に使用する有機溶剤は、特に限定されるものではないが、例えばグリコールエーテル系溶剤であるエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ヘキシルセロソルブ、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、メチルメトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピル及びプロピレングリコールモノブチルエーテル、エーテルエステル系溶剤である酢酸メトキシブチル、アルコール系溶剤であるメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール及びn−ブチルアルコール、n−メチルピロリドンやこれらの混合物を使用することができる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0035】
製造例1
(アクリル樹脂エマルションの製造)
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に脱イオン水130質量部、アクアロンKH−10(商品名、界面活性剤、第一工業製薬社製)0.52質量部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温した。次いで下記のモノマー乳化物(1)のうちの全量の1%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液5.3質量部とを反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、残りのモノマー乳化物(1)を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行なった。その後、下記のモノマー乳化物(2)を1時間かけて滴下し、1時間熟成した後、5%ジメチルエタノールアミン水溶液40質量部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、平均粒子径100nm(サブミクロン粒度分布測定装置「COULTER N4型」(ベックマン・コールター社製)を用いて、脱イオン水で希釈し20℃で測定した。)、固形分濃度30%のアクリル樹脂エマルションを得た。得られたアクリル樹脂は、酸価が33mgKOH/g、水酸基価が25mgKOH/gであった。
【0036】
モノマー乳化物(1):脱イオン水42質量部、アクアロンKH−10 0.72質量部、メチレンビスアクリルアミド2.1質量部、スチレン2.8質量部、メチルメタクリレート16.1質量部、エチルアクリレート28質量部及びn−ブチルアクリレート21質量部を混合攪拌して得られたモノマー乳化物(1)。
【0037】
モノマー乳化物(2):脱イオン水18質量部、アクアロンKH−10 0.31質量部、過硫酸アンモニウム0.03質量部、メタクリル酸5.1質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5.1質量部、スチレン3質量部、メチルメタクリレート6質量部、エチルアクリレート1.8質量部及びn−ブチルアクリレート9質量部を混合攪拌して得られたモノマー乳化物(2)。
【0038】
製造例2
(ポリエステル樹脂の製造)
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、トリメチロールプロパン109質量部、1,6−ヘキサンジオール141質量部、ヘキサヒドロ無水フタル酸126質量部及びアジピン酸120質量部を仕込み、160℃から230℃に達するまでの時間を3時間となるように昇温させた後、230℃で4時間縮合反応させた。次いで、得られた縮合反応生成物にカルボキシル基を付加するために、さらに無水トリメリット酸38.3質量部を加え、170℃で30分間反応させた後、2−エチル−1−ヘキサノール(20℃において100gの水に溶解する質量:0.1g)で希釈し、固形分濃度70%であるポリエステル樹脂溶液を得た。得られたポリエステル樹脂は、酸価が46mgKOH/g、水酸基価が150mgKOH/g、重量平均分子量が6,400であった。ここで重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によっ
て標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものを意味する。
【0039】
実施例1
ステンレス製ビーカー内において、STAPA FERRICON(商品名、鱗片状鉄顔料、固形分70質量%、D50=18μm、エカルト社製)100質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル140質量部及びK−WHITE140W(商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料、テイカ社製)4.7質量部を攪拌混合して、高濃度鱗片状鉄顔料液(1)を得た。
【0040】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液57質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(1)52.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合し、さらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(1)を調製した。
【0041】
実施例2
防錆顔料として、K−WHITE105(商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料、テイカ社製)を使用する以外は、実施例1と同様に水性磁性塗料組成物(2)を調製した。
【0042】
実施例3
防錆顔料として、EXPERT NP−530(商品名、リン酸亜鉛、東邦顔料工業社製)を使用する以外は、実施例1と同様水性磁性塗料組成物(3)を調製した。
【0043】
実施例4
防錆顔料として、EXPERT NP−1007(商品名、リン酸亜鉛・亜リン酸カルシウム、東邦顔料工業社製)を使用する以外は、実施例1と同様水性磁性塗料組成物(4)を調製した。
【0044】
実施例5
ステンレス製ビーカー内において、STAPA FERRICON(商品名、鱗片状鉄顔料、固形分70質量%、D50=18μm、エカルト社製)100質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル140質量部及びK−WHITE140W(商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料、テイカ社製)14質量部を攪拌混合して、高濃度鱗片状鉄顔料液(2)を得た。
【0045】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液57質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(2)54.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合し、さらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(5)を調製した。
【0046】
実施例6
防錆顔料として、K−WHITE105(商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料、テイカ社製)を使用する以外は、実施例5と同様に水性磁性塗料組成物(6)を調製した。
【0047】
実施例7
防錆顔料として、EXPERT NP−530(商品名、リン酸亜鉛、東邦顔料工業社製)を使用する以外は、実施例5と同様水性磁性塗料組成物(7)を調製した。
【0048】
実施例8
防錆顔料として、EXPERT NP−1007(商品名、リン酸亜鉛・亜リン酸カルシウム、東邦顔料工業社製)を使用する以外は、実施例5と同様水性磁性塗料組成物(8)を調製した。
【0049】
実施例9
ステンレス製ビーカー内において、STAPA FERRICON(商品名、鱗片状鉄顔料、固形分70質量%、D50=18μm、エカルト社製)100質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル140質量部を攪拌混合して、高濃度鱗片状鉄顔料液(3)を得た。
【0050】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液57質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(3)51.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合した。ついで、K−WHITE140W(商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料、テイカ社製)3質量部を攪拌混合してさらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(9)を調製した。
【0051】
実施例10
225ml容マヨネーズビンに、K−WHITE140Wを50質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液14.3質量部及び脱イオン水45質量部を配合し、さらに1.5mm径のガラスビーズ130質量部を投入して密栓し、振とう型ペイントコンディショナーを使用して120分分散した。分散後100メッシュの金網濾過を行なってガラスビーズを除去して、防錆顔料分散体(1)を得た。得られた防錆顔料分散体(1)を、マイクロトラックMT3000粒度分析計(MICROTRAC社製)にて脱イオン水を媒体に分析したところD50=0.6μmであった。K−WHITE140Wの顔料固体のD50=2.7μmであるので確かに微粒化されているのを確認した。
【0052】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液55.9質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(3)51.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合した。ついで、上記防錆顔料分散体(1)を6.6質量部を攪拌混合してさらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(10)を調製した。
【0053】
実施例11
225ml容マヨネーズビンに、K−WHITE140Wを50質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液14.3質量部及び脱イオン水45質量部を配合し、さらに1.5mm径のジルコニアビーズ130質量部を投入して密栓し、振とう型ペイントコンディショナーを使用して60分分散した。分散後100メッシュの金網濾過を行なってジルコニアビーズを除去して、防錆顔料分散体(2)を得た。得られた防錆顔料分散体(2)を、マイクロトラックMT3000粒度分析計(MICROTRAC社製)にて脱イオン水を媒体に分析したところD50=0.5μmであった。K−WHITE140Wの顔料固体のD50=2.7μmであるので確かに微粒化されているのを確認した。
【0054】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液55.9質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(3)51.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合した。ついで、上記防錆顔料分散体(2)を6.6質量部を攪拌混合してさらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(11)を調製した。
【0055】
実施例12
ステンレス製ビーカー内において、STAPA FERRICON(商品名、鱗片状鉄顔料、固形分70質量%、D50=18μm、エカルト社製)100質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル140質量部及びK−WHITE140W(商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料、テイカ社製)0.7質量部を攪拌混合して、高濃度鱗片状鉄顔料液(4)を得た。
【0056】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液57質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(4)51.6質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合し、さらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(12)を調製した。
【0057】
実施例13
ステンレス製ビーカー内において、STAPA FERRICON(商品名、鱗片状鉄顔料、固形分70質量%、D50=18μm、エカルト社製)100質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル140質量部及びK−WHITE140W(商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料、テイカ社製)28質量部を攪拌混合して、高濃度鱗片状鉄顔料液(5)を得た。
【0058】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液57質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(5)57.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合し、さらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(13)を調製した。
【0059】
実施例14
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液55.3質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(3)51.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合した。ついで、上記防錆顔料分散体(2)を13.1質量部を攪拌混合してさらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(14)を調製した。
【0060】
比較例1
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液57質量部、上記高濃度鱗片状鉄顔料液(3)51.4質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合し、さらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(15)を調製した。
【0061】
比較例2
粒状の金属ニッケル100質量部とミネラルスピリット50質量部を直径3mmの鋼球を1kg挿入した直径10cm、内容積500mlのポットミルに入れて、24時間ボールミル分散した。得られたスラリーをミネラルスピリット700gで洗い出すことにより、鋼球と分離した。これを磁性漏斗で吸引濾過することにより、固形分85質量%の鱗片状ニッケル顔料分散体(D50=18μm:マイクロトラックによる測定)を得た。
【0062】
ステンレス製ビーカー内において、上記鱗片状ニッケル顔料分散体100質量部、エチレングリコールモノブチルエーテル170質量部を攪拌混合して、高濃度鱗片状ニッケル顔料液を得た。
【0063】
製造例1で得られたアクリル樹脂エマルション100質量部、製造例2で得られたポリエステル樹脂溶液57質量部、上記高濃度鱗片状ニッケル顔料液47.6質量部及びサイメル325(商品名、日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5質量部を均一に混合し、さらに、プライマルASE−60(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2−(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、塗料固形分25%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度40秒の水性磁性塗料組成物(16)を調製した。
【0064】
上記実施例及び比較例の概要を表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
(ガス発生量測定)
上記水性磁性塗料組成物(1)〜(16)を作成後1日放置した後、専用のガラス容器(内容積500ml)に塗料を200g入れ、栓をしないで容器を40℃の恒温槽に浸漬し1時間放置した後、ガラス器具の栓をしてスタート(0時間)とし、7日間の累積ガス発生量を測定し、結果を表2に示した。
(試験板の作成)
脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ150×70×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロンGT−100」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネ−ト化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させて電着塗膜を得た。
【0067】
得られた電着塗膜上に、中塗塗料「ル−ガベ−ク中塗りN−2」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂/メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗塗膜を形成した塗板を基材とした。
【0068】
基材裏面上部にドーナツ状のフェライト磁石(外径60mm、内径45mm)を貼り付けて、基材表面に磁場を形成した。
【0069】
基材表面に水性磁性塗料組成物(1)〜(16)を各々エアスプレーにて硬化塗膜に基づいて20μmとなるように塗装し、15分間放置し、80℃で10分間加熱して水分を蒸発させ、次いで磁石を取り外し、これらの未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブ−ス温度25℃、湿度75%の条件で硬化塗膜として、30μmとなるように塗装した。塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱し、複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板1〜16を得た。
(試験板の評価)
1)目視により磁場への模様追随性を評価し、結果を表2に示した。
5:磁石の輪郭が非常に鮮明に表れており、陰影感がある。
4:磁石の輪郭が鮮明に表れており、やや陰影感がある。
3:磁石の輪郭が表れており、陰影感が少しある。
2:磁石の輪郭がやや不鮮明で、陰影感があまりない。
1:磁石の輪郭が不鮮明で、陰影感がない。
2)ハイライト(45度照射、正反射光から15度で受光)のL*値、フェース(45度で受光)のb*を測定し、結果を表2に示した。
【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の水性磁性塗料組成物は、各種工業製品に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸と1種以上の元素(a)との化合物であるリン酸塩系防錆顔料、亜リン酸と1種以上の元素(a)との化合物である亜リン酸塩系防錆顔料及び縮合リン酸と1種以上の元素(a)との化合物である縮合リン酸塩系防錆顔料から選択された1種以上の防錆顔料と、鱗片状鉄顔料と、樹脂組成物とを含有する水性磁性塗料組成物であって、該1種以上の元素(a)が、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、チタン、珪素、マグネシウム、マンガン、ストロンチウム、バリウム、鉄、ジルコニウム及びセリウムから選択された1種又は2種以上の元素である水性磁性塗料組成物。
【請求項2】
防錆顔料(A)が、トリポリリン酸二水素アルミニウムを亜鉛で処理した防錆顔料である請求項1に記載の水性磁性塗料組成物。

【公開番号】特開2009−102549(P2009−102549A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276939(P2007−276939)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】