説明

水性表面処理剤組成物

【課題】合成樹脂製シート、レザー、ターポリン、成型品などに適用して耐ブロッキング性と耐もみ性を両立し、滑性、耐摩耗性、透明性、防汚性に優れる皮膜を低温乾燥で形成することのできる水性表面処理剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)(a)メチルメタクリレート、(b)片末端にアクロイル基を有するシリコーンマクロモノマー、(c)ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体、(d) ケト基またはアルデヒド基に由来するカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体及び(e)メチルメタクリレート以外のエチレン性不飽和単量体を共重合して得られる(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルション並びに(B)1分子当たり少なくとも2つのヒドラジノ基を有するヒドラジン誘導体からなる水性表面処理剤組成物、さらに、それにより被覆された塗装物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製シート、レザー、ターポリン、成型品の表面を保護し、滑性、耐摩耗性、防汚性を付与する皮膜を低温で形成することのできる一液架橋型水性表面処理剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、樹脂製シートは、柔軟性を付与するために添加されている可塑剤が表面にブリードし、ベタツキや汚れ付着の原因となるのを防止するため、(メタ)アクリル系樹脂やウレタン系樹脂などからなるコーティング剤で表面処理がなされている。
従来、これらの表面処理に使用されるコーティング剤は、そのほとんどが溶剤系であったが、近年、VOC排出量の規制や作業環境の改善への意識の高まりから水性化への取り組みが進められている。
しかし水性表面処理剤の場合、溶剤系と比較して低温での造膜性が悪いため、高温での乾燥が必要になり、柔軟性の高いシートでは熱により変形が起こるという問題点があった。
【0003】
そこで造膜助剤として高沸点の有機溶剤を多量に添加したり、Tgの低い樹脂を使用しなければならなかったが、これらは皮膜のブロッキングや、滑性および防汚性の低下の原因となり、満足のできる処理方法ではなかった。
それらの問題を解決するために、ケトン基とヒドラジノ基の常温架橋性を利用した方法が多数開発されているが、これだけでは問題解決には十分ではなく、更なる改良方法が提案されている。
例えば、シランカップリング剤を配合することにより硬度を高めた樹脂と造膜性のよい低Tgの樹脂を多段重合で多層エマルション化したダイアセトンアクリルアミド含有ポリマーエマルジョンとヒドラジド系化合物とを含有する常温硬化型樹脂組成物(特許文献1)、加水分解性シリル基含有エマルションとコロイダルシリカと有機ヒドラジド化合物を含む水性被覆材(特許文献2)などがある。
【0004】
しかし、これらの方法では、皮膜に硬度の高い部分が発生し、柔軟性の高い基材にコーティングすると屈曲した部分が白化し、耐もみ性が悪くなる問題点があった。
耐もみ性と耐ブロッキング性を両立させるために、末端に不飽和二重結合とカルボキシル基を持つアクリル酸系マクロモノマーを共重合したビニル系重合体の水分散体と有機ヒドラジン誘導体とを含有する水性被覆組成物(特許文献3)が提案されているが、ビニル系重合体の疎水基が長いため、疎水性の汚れに対する防汚性が不十分であった。
防汚性を改良するために、環状ジメチルシロキサンオリゴマーをビニル重合性官能基含有シランカップリング剤で開環し作製したシリコンマクロモノマーとカルボニル基含有ビニル重合性単量体、その他のビニル重合性単量体とグラフト共重合したグラフトブロック共重合体エマルジョン及び有機ヒドラジン化合物からなる塗料用樹脂組成物(特許文献4)が提案されている。
【0005】
しかし、この方法では、防汚性は良好であるが、皮膜の滑り性および耐摩耗性に問題があった。
ポリウレタン系では、特定の分子量分布分散比を有するコア/シェル型ポリオールと水分散イソシアネートをウレタン化反応触媒で架橋させる架橋性水性コーティング剤が提案されている(特許文献5)。
これらは、従来のものよりポットライフの改善は図られているが、二液型であり数時間で増粘が起こるため作業工程の厳密な管理が必要となり、依然として課題が残るものであ
る。
【0006】
その他、表面処理されたシート類を縫製する際、皮膜とシートまたは皮膜同士の滑りが悪いため、位置調整が難しいといった問題点(処理面同士の滑性)や、最終製品が鞄や家具、テーブルクロスなど手に触れる用途の場合、さらっとした触感(表面滑性)等滑り性の改善も望まれている。
以上のように、表面処理剤組成物として、造膜性に優れ、耐もみ性と耐ブロッキング性を両立し、滑り性、耐摩耗性、透明性、防汚性に優れた1液架橋型水性表面処理剤組成物は、これまで開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−45397
【特許文献2】特開2009−269972
【特許文献3】特許3421162
【特許文献4】特許3642846
【特許文献5】特開2007−186582
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような問題を解決すべく、造膜性が良好で、耐ブロッキング性と耐もみ性を両立し、滑性、耐摩耗性、透明性、防汚性に優れる皮膜を低温乾燥で形成することのできる一液架橋型水性表面処理剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するため鋭意検討を重ねた結果、
(A)(a)メチルメタクリレート、(b)片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンマクロモノマー、(c)ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体、(d) ケト基またはアルデヒド基に由来するカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体及び(e)メチルメタクリレート以外のエチレン性不飽和単量体をそれぞれ特定量、共重合して得られる(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルション並びに、
(B)1分子当たり少なくとも2つのヒドラジノ基を有するヒドラジン誘導体の特定量からなる水性表面処理剤組成物が上記の目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性表面処理剤組成物は、家具や内装、鞄等に使用される合成樹脂製シート、レザー、ターポリンにグラビアコーターなどで塗工し、50℃以上で0.5〜2分乾燥することで、柔軟で且つ耐ブロッキング性に優れた保護皮膜を形成することができる。
柔軟な基材への追従性に優れ、コーティングされたシートを折り曲げても白化が起こらず耐もみ性が良好である。また、柔軟な皮膜でありながら、架橋させることにより強靭な皮膜となり、基材からの可塑剤のブリードを防止でき、シートを巻き取って積み重ねて保管してもブロッキングを起こさない。
さらに、この皮膜は表面の滑性に優れるため、コーティングされたシートを縫製する際の位置調整が容易になり、最終製品が手に触れる場合における触感にも優れる。透明な皮膜であるため、図柄がプリントされたシートや透明なシートに適用できる。
また、樹脂製品が成型品である場合は、スプレーコート、ディッピングなどの方法で塗工できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明を詳細に説明する。
ベース樹脂となる(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションを得る方法としては特に限定されないが、溶液重合後アルカリで中和し水へ分散させる方法は、樹脂に親水性の官能基を多く導入する必要があり、皮膜が外部の水分を吸収し易くなる。
また、溶液重合で得られる樹脂の分子量は比較的小さく、基材からブリードアウトする可塑剤の表面移行防止効果が劣る。このため、(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションを得る方法としては乳化重合が好ましい。
乳化重合は一般的な方法でよく、界面活性剤はアニオン性、カチオン性、ポリエチレンオキサイドを有するノニオン性アニオン界面活性剤などのいずれか、もしくはノニオン性界面活性剤との併用で使用できる。また分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤も使用できる。
【0012】
(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションの各単量体成分について、説明する。
(a)メチルメタクリレートは、(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションの樹脂固形分のうち、20〜80重量部、好ましくは30〜70重量部、より好ましくは40〜60重量部含有することで、柔軟性と耐ブロッキング性のバランスが取れる。
20重量部未満であると、皮膜の硬度が高くなり折り曲げた時に白化し耐もみ性が悪く、80重量部を超えると柔らかい皮膜となり基材への密着性や追従性が向上する反面、耐ブロッキング性や滑性、防汚性が劣る。
【0013】
(b)片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンマクロモノマーは、化1に示すような構造で、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物と共重合することで(メタ)アクリル系共重合体樹脂の側鎖にシリコーンポリマーを導入することができる。
ゲルパーミエーションによるポリスチレン換算の数平均分子量が10,000〜30,000であると皮膜に滑性が付与され、コーティングされたシートの処理面同士または皮膜と未処理面を重ねてもスムーズに動き、縫製の際の位置調整が容易になる。また、耐摩耗性やシートを手で触れたときの触感も向上する。
数平均分子量が10,000未満の場合、滑性への効果が劣り、30,000を超えると反応性が著しく低下し未反応物として残る。このようなシリコーンマクロモノマーは市販品としてサイラプレーンFM−0725(Mn=10000、チッソ株式会社)、MCR−22(Mn=10000、米Gelest社)、AK−32(Mn=20000、東亞合成株式会社)、AK−30(Mn=30000、東亞合成株式会社)等が使用できるがこれらに限定されない。
含有量は、(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションの樹脂固形分のうち、0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部、より好ましくは1〜2重量部加えればよく、これより少ないと滑性への効果が低く、これより多いと重合安定性が劣り、凝集物が発生する。
【0014】
【化1】

【0015】
(c)ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体は、皮膜の耐ブロッキング性を向上させる。特に塩化ビニル製基材の場合効果が顕著で、コーティングされたシートを巻き取って保管した後、引き出す作業にかかる力(解反強度)が抑えられる。
この(c)成分の具体例としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどが使用でき、求める皮膜のTgによって選択する事ができる。
含有量は、(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションの樹脂固形分のうち、1〜10重量部加えればよく、これより少ないと解反強度の抑制に効果が見られず、これより多いと樹脂の重合安定性が低下する。
【0016】
(d)ケト基またはアルデヒド基に由来するカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体を(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションに共重合することにより、(B)成分であるヒドラジン誘導体との間で脱水反応により架橋される。これにより皮膜は柔軟性と耐ブロッキング性を両立する事ができる。
この(d)成分の具体例としては、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アクロレイン、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトンなどが挙げられる。特にダイアセトンアクリルアミドの使用が好ましい。
含有量は、(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションの樹脂固形分のうち、1〜10重量部、好ましくは3〜7重量部で皮膜物性の向上が図れる。これより少
ないと架橋効果が得られず、これより多いと重合安定性が低下し、また皮膜が過度に親水性となり耐水性が劣る。
【0017】
(e)メチルメタクリレート以外のエチレン性不飽和単量体の具体例としては、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート等のメチルメタクリレート以外のメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ヘキシルアクリレート等のアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド等を例示することができる。この中から、1種類を使用しても、2種類以上を併用しても良い。
含有量は、(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションの樹脂固形分のうち、17.9〜55.0重量部加えればよく、これより少ないと塗膜の耐もみ性が低下し、これより多いと耐ブロッキング性が低下する。
特にアクリル酸もしくはメタクリル酸などのカルボキシル基を含有する単量体は、重合安定性や得られたエマルションの貯蔵安定性を向上させるため(e)のエチレン性不飽和単量体中に1〜3重量部配合することが好ましい。
【0018】
また、(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションのTgが20〜60℃であれば、耐もみ性と耐ブロッキング性が両立できる。
得られたエマルションのpHは、アンモニアやトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類でpH7〜9に中和しておくことが好ましい。pHが7より低いと貯蔵安定性が落ちたり、カルボニル基またはアルデヒド基とヒドラジノ基の架橋が、エマルション粒子間よりエマルション粒子内で優先され皮膜の耐ブロッキング性の改善効果が劣る。pHが9より高いと水性表面処理剤の貯蔵中の粘度変化が大きくなる。
【0019】
(B)1分子当たり少なくとも2つのヒドラジノ基を有するヒドラジン誘導体の具体例としてはシュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバジン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどが挙げられる。アジピン酸ジヒドラジドの使用が特に好ましい。
配合量は、(A)エマルションを構成する(d)成分中のカルボニル基またはアルデヒド基1mol当たり、ヒドラジノ基0.2〜2.0molになる量が必要である。これより少ないと皮膜の耐ブロッキング性、滑性が劣り、これより多いと防汚性および耐水性が
低下する。
【0020】
以上の(A)水性エマルションと(B)ヒドラジン誘導体の他に、塗工される方法や皮膜に求められる各種機能によって艶消し剤、造膜助剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤などの添加剤を添加することができる。
この水性表面処理剤は合成樹脂基材にグラビアコーター、ナイフコーター、ロールコーター、ディッピングなどで塗工し、乾燥することで保護皮膜を形成させるものである。例えばグラビアコーターの場合、100〜200メッシュで塗布し、50〜120℃で0.5〜2分乾燥させれば目的の皮膜が得られる。十分な皮膜強度と透明性を得るためには乾燥温度は50℃以上であることが望ましい。
【0021】
合成樹脂基材との密着性が不十分である場合は、プライマーを使用することが出来る。プライマーは基材の種類によって適切なものを選択することができるが、塗装物の耐候性を損なわないために、無黄変タイプのポリウレタン樹脂、または脂肪族系のアクリル樹脂が好ましい。例えば水性プライマー用の市販樹脂では、塩化ビニル基材に対しては、ボンタイターHUX-232、ボンタイターHUX-420A(以上ADEKA株式会社)、モビニールDM772、モビニールDM774(以上日本合成化学工業株式会社)、PETフィルムに対しては、ボンタイターHUX−1032(ADEKA株式会社)、スーパーフレックス210(第一工業製薬株式会社)、ポリオレフィンシートに対してはモビニール7523(日本合成化学工業株式会社)などが使用できる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。各配合は重量部とする。
((メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルション製造例A)
通常の乳化重合により得られる。表1に示す配合で単量体を計量し、混合撹拌する。プレエマルション用界面活性剤モノゲンY-100(第一工業製薬社製)0.8部および脱イオン水42.9部を混合溶解したものをホモジナイザーで攪拌しているところへ、よく混合した単量体100.0部を投入し5000rpmで5分間攪拌しプレエマルションとした。そのプレエマルションのうち5%、界面活性剤Y-100(第一工業製薬社製)1.7部および脱イオン水7.2部をセパラブルフラスコへ計量し、撹拌機、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、定量ポンプを備えた装置を取り付け、反応容器内を窒素ガスで置換した。200rpmで攪拌しながら加熱し、反応容器内が70℃になったら開始剤の過硫酸アンモニウム(APS)0.5部を脱イオン水4.5部に溶解したものを投入した。開始剤投入10分後より、定量ポンプで残りのプレエマルションを3時間かけて均一に供給し、その間反応容器内を70℃に保持した。プレエマルション供給終了後より反応容器内の温度を75℃に上げ、更に90分間反応させた。反応終了後、フラスコを冷却し30℃以下になったら15%アンモニア水0.6部を投入しpH7.0〜8.0に中和した。ナイロン200メッシュでろ過し、固形分45%の(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを得た。
【0023】
((メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルション製造例B〜L)
単量体組成を表1に示す配合に変更した以外は(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルション製造例Aと同様の反応を行った。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例1)
製造例Aで得た(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルション120部、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)2.8部、ウレタン系増粘剤(プライマルSCT−275:ロームアンドハース社製)9.0部、ブチルカルビトール6.0部、シリコーン系湿潤剤(FZ−77:東レダウ・コーニング社製)1.5部、脱イオン水160.7部を混合し、固形分20%の水性表面処理剤を得た。
【0026】
(実施例2)
実施例1の製造例A(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを製造例Bで得たもの122.0部、ADH1.9部、脱イオン水159.5部に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性処理剤を得た。
【0027】
(実施例3)
実施例1の製造例A(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを製造例Bで得たもの114.0部、ADH5.5部、脱イオン水164.0部に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性処理剤を得た。
【0028】
(実施例4)
実施例1の製造例A(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを製造例Cで得たもの114.7部、ADH5.3部、脱イオン水163.5部に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性処理剤を得た。
【0029】
(比較例1〜6)
実施例1の製造例A(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを製造例D〜GおよびI〜Jで得たもの118.0部、ADH3.8部、脱イオン水161.7部に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性処理剤を得た。製造例Hおよび製造例Lは正常に重合できなかったため、評価から除いた。
【0030】
(比較例7)
実施例1の製造例A(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを製造例Kで得たもの126.7部、ADHなし、脱イオン水156.8部に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性処理剤を得た。
【0031】
(比較例8)
実施例1の製造例A(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを製造例Bで得た
もの125.3部、ADH0.4部、脱イオン水157.8部に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性処理剤を得た。
【0032】
(比較例9)
実施例1の製造例A(メタ)アクリル系共重合体樹脂水性エマルションを製造例Bで得たもの107.3部、ADH8.7部、脱イオン水167.5部に変更した以外は実施例1と同様の方法で水性処理剤を得た。
【0033】
(塗布方法)
上記水性処理剤を150メッシュのグラビアコーターで塩化ビニル製シートに塗布し、50℃で30秒乾燥し、皮膜を形成させた。
【0034】
(重合安定性)
製造例A〜Lのエマルション重合後、ナイロン200メッシュでろ過し、凝集物を目視で確認。
○:凝集物なし
△:凝集物が僅かに発生
×:凝集物が多量に発生
【0035】
(透明性)
塩化ビニル製シートに形成された皮膜の透明性を目視で判定。
○:透明
△:ごく僅かに白濁
×:白濁
【0036】
(表面滑性)
塩化ビニル製シートに形成された皮膜の表面を指触で判定。
○:さらっとしていて滑る
△:べたつきはないが滑らない
×:べたつく
【0037】
(処理面同士の滑性)
塩化ビニル製シートの表面処理された面同士を合わせてこする。
○:軽い力で滑る
△:少し力をかけると滑る
×:滑らない
【0038】
(耐もみ性)
表面処理された塩化ビニル製レザーをスコット型もみ試験機(東洋精機製作所)を用いて、荷重1kgで1000回揉み、皮膜の白化を目視で確認。
○:白化なし
△:僅かに白化
×:全面が白化
【0039】
(耐ブロッキング性)
塩化ビニル製シートに形成された皮膜上に表面処理していない塩化ビニル製シートを合わせて重ね、7.5kg/cmの荷重をかけて60℃の恒温槽で30分間保持後、室温で放冷し、引っ張り試験機(テンシロン万能試験機RTEー1210:オリエンテック社製)で180°T字剥離強度を測定。
○:剥離強度0.3kg/2.5cm以下
△:剥離強度0.6〜1.0kg/2.5cm
×:剥離強度1.0kg/2.5cm以上
【0040】
(耐摩耗性)
水性プライマーを塗布したPETフィルム上に形成された皮膜を染色物摩擦堅牢度試験機(安田精器社製 型式428)を用いて綿布で荷重500g、200往復し、皮膜の傷、破壊の有無を目視で確認。
○:傷、破壊なし
△:皮膜表面に傷つきあり
×:基材に達する皮膜破壊あり
【0041】
(食品に対する防汚性)
塩化ビニル製シートに形成された皮膜上にカレーまたはタバスコを約2g置き室温で8時間放置後、中性洗剤で拭取り、汚れの付着を目視で確認する。
○:汚れがほとんど付着しない。
△:汚れが薄く付着する。
×:汚れが厚く付着する。
【0042】
(屋外の汚れに対する防汚性)
表面処理した塩化ビニル製ターポリンをカーボン、機械油、腐葉土などを配合し人工的に作製した汚れコンパウンド中に入れ、80℃で1時間保持、水洗した後の汚れの付着を目視で確認する。
実施例1〜4および製造例1〜9の性能評価結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表1、表2の結果から明らかなように、実施例1〜4の水性表面処理剤より得られる皮膜はいずれの性能も良好であった。
一方、比較例1のように(メタ)アクリル系共重合体水性エマルション中のメチルメタクリレート含有率が高いと、低温での成膜が不十分で透明な皮膜にならない。逆に比較例2のようにエチルメタクリレート含有率が高いと柔らかい皮膜となり耐ブロッキング性、滑性、防汚性が著しく低下する。
また、比較例3のように、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンマクロモノマーの数平均分子量が10000未満であったり、比較例4のように、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンマクロモノマーを使用しない場合、皮膜の滑性が劣り、特に触感の低下が顕著になる。
【0045】
比較例5のように、水酸基を含有しない場合や、比較例7のように、架橋構造を取らない場合、剥離強度が高くなる。
製造例H、J、Lのように、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンマクロモノマー、水酸基含有エチレン性不飽和単量体あるいはケト基またはアルデヒド基に由来するカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体の配合量が多い場合は、重合安定性が劣り、重合できないか凝集物が多量に発生する。
比較例8のように、ヒドラジン誘導体配合量が少ないと十分な架橋構造をとることができず、滑性および耐ブロッキング性が低下する。反対に、比較例9のように、ヒドラジン誘導体配合量が過剰であると、滑性は良好であっても、防汚性、特にカレーでの汚染が著しい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、合成樹脂製シート、レザー、ターポリン、成型品の表面を保護し、滑性、耐摩耗性、防汚性を付与する皮膜を低温で形成することのできる一液架橋型水性表面処理剤組成物として好的に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) (a)メチルメタクリレート 20〜80重量部、
(b)片末端に(メタ)アクリロイル基を有し、数平均分子量が10,000〜30,000であるシリコーンマクロモノマー 0.1〜5重量部、
(c)ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体 1〜10重量部、
(d) ケト基またはアルデヒド基に由来するカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量
体 1〜10重量部 及び
(e)メチルメタクリレート以外のエチレン性不飽和単量体 17.9〜55.0重量部
を共重合して得られる(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルション 並びに
(B)1分子当たり少なくとも2つのヒドラジノ基を有するヒドラジン誘導体を(A)(メタ)アクリル系共重合体樹脂の水性エマルションの樹脂固形分100重量部に対して1〜10重量部配合してなることを特徴とする水性表面処理剤組成物。
【請求項2】
前記(B)1分子当たり少なくとも2つのヒドラジノ基を有するヒドラジン誘導体の含有量が、前記(d)成分のケト基またはアルデヒド基に由来するカルボニル基の1モルに対して0.2〜2モルであることを特徴とする請求項1に記載の水性表面処理剤組成物。
【請求項3】
上記請求項1又は2に記載の水性表面処理剤組成物を用いて、表面に皮膜を形成したことを特徴とする樹脂製品。

【公開番号】特開2012−56978(P2012−56978A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198463(P2010−198463)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【特許番号】特許第4749500号(P4749500)
【特許公報発行日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000111591)ハニー化成株式会社 (13)
【Fターム(参考)】