説明

水性被覆材

【課題】耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性に優れた水性被覆材を提供する。
【解決手段】SP値が20(J/cm1/2以上のエチレン性不飽和単量体(a)を75〜100質量%含有する単量体を1段以上で乳化重合して重合体(A)を形成し、次いでこのエマルション状態の重合体(A)の存在下で、SP値が20(J/cm1/2未満のエチレン性不飽和単量体(b)を65〜100質量%含有する単量体を乳化重合して重合体(B)を形成し、これによって得られたエマルション粒子を主成分とする水性被覆材であって、前記エチレン性不飽和単量体(a)はメチルメタクリレートを含み、その含有量は乳化重合に供される全単量体基準で30質量%以上である水性被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性に優れた塗膜を形成する水性被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物、土木構造物に使用する塗料分野においては、塗装作業者や周辺住民の健康及び環境保護を考慮して、揮発性有機化合物(以下「VOC」という)を溶媒とする溶剤系塗料から、水を分散媒とする水性塗料への変換が図られている。しかし、水性塗料を代表する水性エマルション塗料に用いられるエマルション樹脂は固有の最低造膜温度(以下「MFT」という)を持っており、塗膜を形成するためにMFT以下の温度で造膜を行う場合、造膜助剤としてのVOCの添加が必要であった。
一方、塗板を積み重ねた際に発生しやすいブロッキングを防止するために、バインダーとして高硬度の樹脂を使用する必要があるが、高硬度の樹脂を使用した被覆材の塗膜は耐凍害性に問題があり、また、MFTも高いことから、造膜助剤を多量に配合する必要がある。従って、水性エマルション塗料も相当量のVOCを含んでおり、塗装後の乾燥が不十分な場合には、残存するVOCにより、塗膜の耐ブロッキング性や耐水性が悪くなるという問題があった。そこで、耐ブロッキング性及び耐凍害性を有し、且つ、耐水性及び耐候性の良好な塗膜を形成する水性被覆材の検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、耐ブロッキング性、低温安定性及び低温造膜性に優れた塗膜を形成する樹脂組成物として、コア/シェル構造を有し、シェル層にポリエチレングリコール鎖又はポリプロピレングリコール鎖を含むエチレン性不飽和単量体を共重合した樹脂組成物が開示されている。しかしながら、樹脂中へのポリエチレングリコール鎖又はポリプロピレングリコール鎖の導入は、特に外装用途に用いた場合、塗膜の耐水性及び耐候性を低下させるという問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、耐ブロッキング性、耐水性、平滑性及び耐候性に優れた塗膜を形成する樹脂として、コア/シェル構造を有し、シェル層にカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合し、且つ、分子内にヒドラジド基を2個以上有する化合物を含有させたものを使用した樹脂組成物が開示されている。しかしながら、シェル層の親水性が高いために、外装用途に用いた場合、塗膜の耐水性及び耐候性を低下させるという問題がある。
【0005】
更に、特許文献3には、耐水性、耐ブロッキング性及び耐凍害性に優れた塗膜を形成する樹脂複合体として、コア/シェル構造を有し、Si含有モノマーを共重合したものを使用した樹脂複合体が開示されている。しかしながら、ガラス転移温度(以下「Tg」という)の高いコア層の含有率が10〜35質量%と少なく、また低MFT化のためにシェル層のTgを0℃以下にしていることから塗膜の耐ブロッキング性が低位である。
【0006】
以上のように、従来の水性塗料は塗膜の耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性を十分に満足するものではなく、これら特性を満足する塗膜を形成する水性被覆材の開発が強く求められている。
【特許文献1】特開2001−164178号公報
【特許文献2】特開2002−3778号公報
【特許文献3】特開2003−226793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性に優れた塗膜を形成する水性被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、SP値が20(J/cm1/2以上のエチレン性不飽和単量体(a)を75〜100質量%含有する単量体を1段以上で乳化重合して重合体(A)を形成し、次いでこのエマルション状態の重合体(A)の存在下で、SP値が20(J/cm1/2未満のエチレン性不飽和単量体(b)を65〜100質量%含有する単量体を乳化重合して重合体(B)を形成し、これによって得られたエマルション粒子を主成分とする水性被覆材であって、前記エチレン性不飽和単量体(a)はメチルメタクリレートを含み、その含有量は乳化重合に供される全単量体基準で30質量%以上である水性被覆材にある。
また、本発明は、乳化重合体(A)を含有する少なくとも1層の内部層及び乳化重合体(B)を含有する最外層を有する多層構造のエマルション粒子を主成分とする水性被覆材であって、乳化重合体(A)は、SP値が20(J/cm1/2以上のエチレン性不飽和単量体(a)単位を75〜100質量%含有し、且つ、エマルション粒子基準でメチルメタクリレート単位を30質量%以上含有し、また乳化重合体(B)は、SP値が20(J/cm1/2未満のエチレン性不飽和単量体(b)単位を65〜100質量%含有する水性被覆材にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性に優れた塗膜を形成する水性被覆材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、SP値は、下記式(1)に記載のFedorsの式(R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14,(2),1974)により求めた値をいう。
【数1】

ここで
δj(J/cm1/2:単量体(j)のSP値
ΔE(J/mol):単量体(j)の凝集エネルギー密度
V(cm/mol):単量体(j)のモル体積
Δei(J/mol):原子又は原子団(i)の蒸発エネルギー
Δvi(cm/mol):原子又は原子団(i)のモル体積
【0011】
重合体(A)は、エチレン性不飽和単量体(a)を75〜100質量%、好ましくは80〜100質量%含有する単量体(以下「単量体(A)」という)を1段以上で乳化重合して得られる。
エチレン性不飽和単量体(a)が75質量%以上であると、重合体(A)と重合体(B)の相溶化を抑制でき、その結果として重合体(A)と重合体(B)がそれぞれ有する機能を発揮することができる。即ち、重合体(A)によって塗膜の耐ブロッキンッグ性を向上することができる。また重合体(B)によって塗膜の耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性を付与することが可能となる。更に、重合体(A)を高Tg化した場合、塗膜の耐凍害性を低下させることなく塗膜の耐ブロッキンッグ性を向上することができる。
【0012】
エチレン性不飽和単量体(a)としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチルアクリレート、メタクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ダイアセトンアクリルアミド、スチレン等のSP値が20〜25(J/cm1/2のエチレン性不飽和単量体;2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、イタコン酸、アクリロニトリル等のSP値が25(J/cm1/2を超えるエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
塗膜の耐水性、耐候性の点からSP値が20〜25(J/cm1/2のエチレン性不飽和単量体を使用することがより好ましい。
【0013】
また、エチレン性不飽和単量体(a)は、塗膜の耐ブロッキング性の面で、メチルメタクリレートを、乳化重合に供される全単量体(以下、単に「全単量体」という)基準で30質量%以上含有する。より好ましくは33質量%以上である。また、塗膜の耐凍害性の面で65質量%以下が好ましい。
【0014】
重合体(A)のTgは塗膜の耐ブロッキング性の面から50℃以上が好ましく、より好ましくは70℃以上である。また、塗膜の耐凍害性の面からTgは150℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。
本発明において、Tgは下記Foxの式により求められる値をいう。
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi))
式中、Wiは単量体iの質量分率、Tgiは単量体iの単独重合体のTg(℃)を示す。
Tgが50〜150℃である重合体(A)の含有量は、塗膜の耐ブロッキング性の面でエマルション粒子中に30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。
また、塗膜の耐凍害性の面で70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
【0015】
単量体(A)としては、Tg等の特定の物性を重合体(A)に持たせること、また高度な塗料物性及び塗膜物性の発現を目的として、メチルメタクリレートを含むエチレン性単量体(a)と共にエチレン性単量体(b)等を併用することができる。
例えば、重合体(A)のTgを50〜150℃とするために、単量体(A)中の単量体として高Tgを与えるメチルメタクリレート以外に、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和単量体を使用できる。しかしながら、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等の疎水性の高いエチレン性不飽和単量体を使用する場合、重合体(A)と重合体(B)の相溶化を制御することが難しくなるので、塗膜の耐凍害性の面で使用量を考慮することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸等の親水性の高いエチレン性不飽和単量体を使用する場合、重合工程での安定性や、塗膜の耐水性、耐候性の面で使用量を考慮することが好ましい。
【0016】
本発明においては、以下に示すように、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、自己架橋性官能基含有エチレン性不飽和単量体及び分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有するエチレン性不飽和単量体を単量体(A)中に含有させることで、より高度な塗料物性、塗膜物性を発現することができる。これらの単量体は必要に応じて2種以上を使用することができる。
水性被覆材を製造する際の配合安定性や、塗膜の耐汚染性、耐候性、耐水性、及び各種下地に対する密着性の点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを単量体(A)中に0.1〜15質量%含有することが好ましい。この含有量が15質量%以下で塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制でき、0.5〜12質量%がより好ましい。
【0017】
塗膜の、耐ブロッキング性、耐汚染性、耐候性、耐水性、及び各種下地に対する密着性の点から、単量体(A)中に自己架橋性官能基含有エチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。この含有量は、単量体(A)中に0.1〜15質量%が好ましい。この含有量が15質量%以下で塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。この含有量は0.5〜12質量%がより好ましい。
自己架橋性官能基含有エチレン性不飽和単量体とは、エマルション粒子中に残存する自己架橋性官能基が、エマルション粒子が室温で分散液として保管されている間は化学的に安定であって、塗装時の乾燥、加熱又は触媒の添加等によって側鎖の官能基同士で反応し、側鎖基間に化学結合を形成させる単量体をいう。
自己架橋性官能基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等のオキシラン基含有エチレン性不飽和単量体、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル化合物が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
【0018】
また、塗膜の耐ブロッキング性、耐水性及び耐候性の点から、単量体(A)中に分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有するエチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。この含有量は、単量体(A)中に0.05〜10質量%が好ましい。この含有量が10質量%以下で塗膜の耐凍害性の低下を抑制できる。この含有量は0.1〜8質量%がより好ましい。
分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
【0019】
重合体(A)は1段以上の乳化重合を行うことによって製造でき、2段以上の場合、多段重合法によって製造できる。多段重合の場合、所定の単量体(A)の組成及び量であれば、必要に応じて各段の重合に使用する単量体組成を変更することが出来る。
乳化重合は、例えば、界面活性剤の存在下、エチレン性不飽和単量体混合物を重合系内に供給し、ラジカル重合開始剤により重合を行わせる公知の方法を使用することができる。
【0020】
ラジカル重合開始剤は、ラジカル重合に使用される公知のものが使用可能である。具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類や2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上の混合物として使用できる。
【0021】
また、重合速度の促進、及び70℃以下での低温の重合が望まれるときには、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
ラジカル重合開始剤の添加量は、通常、全単量体基準で0.01〜10質量%であるが、重合の進行や反応の制御を考慮に入れると、0.05〜5質量%が好ましい。
【0022】
重合体(A)の分子量を調整する場合には、重合する際に、分子量調整剤として、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。耐候性を低下させないために、連鎖移動剤の使用量は単量体(A)中に1質量%以下であることが好ましい。
【0023】
また、単量体(A)100質量部に対して、界面活性剤を0.1〜10質量部含むことが好ましい。界面活性剤を0.1質量部以上とすることによって、エマルションの重合安定性及び貯蔵安定性が向上する。また、界面活性剤を10質量部以下とすることによって、塗膜の耐水性を損なうことなく塗料化時の安定性、塗料の経時的安定性等を維持することができる。この含有量は0.5〜8質量部がより好ましい。
界面活性剤としては、各種のアニオン性、カチオン性、又はノニオン性の界面活性剤、更には高分子乳化剤が挙げられる。また、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、反応性界面活性剤も使用できる。中でも塗膜の耐候性及び耐水性の点から反応性界面活性剤を使用することが好ましい。更に、塗膜の耐水性及び耐候性向上という点から、界面活性剤成分のうち50質量%以上の反応性界面活性剤を用いることが特に好ましい。
また、塗装後の乾燥の際に塗膜の「より」や「マッドクラック」が発生しないために得られる塗膜の平滑性、及びエマルション粒子の分散液での低起泡性の点から、リン酸エステル型反応性界面活性剤を併用して使用することが好ましい。この含有量は、全単量体100質量部に対して0.05〜5質量部が好ましい。この含有量が5質量部以下で塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。この含有量は0.1〜3重量部がより好ましい。
リン酸エステル型反応性界面活性剤は市販品として入手できる。その具体例としては、東邦化学工業(株)社製のサーフマーシリーズであるFP−80、FP−100、FP−120、FP−160、FP−200、FP−125、旭電化工業(株)社製のアデカリアソープシリーズのPP−70、PPE−710等が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
【0024】
重合体(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)を65〜100質量%、好ましくは70〜100質量%含有する単量体(以下「単量体(B)」という)を乳化重合して得られる。
エチレン性不飽和単量体(b)が65質量%以上であると、耐吸水性を向上できることから、塗膜の耐水性、耐候性及び耐凍害性が向上し、平滑性も向上する。また、塗膜の平滑性の点から、エチレン性不飽和単量体(b)のSP値は19.5(J/cm1/2以下であることがより好ましい。
エチレン性不飽和単量体(b)としては、例えば、エチルメタクリレート、i−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルアクリレート、n−プロポキシエチルアクリレート、メトキシエトキシエチルアクリレート等のSP値が19.5(J/cm1/2以上20(J/cm1/2未満のエチレン性不飽和単量体、n−プロピルメタクリレート、i−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2−エトキシエチルメタクリレート、i−プロポキシエチルアクリレート、n−ブトキシエチルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のSP値が19.0〜19.5(J/cm1/2のエチレン性不飽和単量体、i−プロピルメタクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート、t−ブトキシエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のSP値が19.0(J/cm1/2未満のエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0025】
重合体(B)のTgは塗膜の耐ブロッキング性及び耐汚染性の面で−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましい。また、成膜性の面や、塗装後の乾燥が不十分な場合でも、残存するVOCによる塗膜の耐ブロッキング性、耐水性及び耐凍害性への悪影響が少ないことから50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
また、Tgが−50〜50℃である重合体(B)の含有量は、塗膜の耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性の面でエマルション粒子中に30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましい。また、塗膜の耐ブロッキング性の面で70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
【0026】
単量体(B)としては、Tg等の特定の物性を重合体(B)に持たせること、また高度な塗料物性及び塗膜物性の発現を目的として、エチレン性単量体(b)と共にエチレン性単量体(a)等を併用することができる。
例えば、高度な塗料物性及び塗膜物性を発現させるために、単量体(B)として、t−ブチルメタクリレート及び/又はシクロヘキシルメタクリレート、加水分解性シリル基含有エチレン性不飽和単量体、エチレン性不飽和カルボン酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレート、自己架橋性官能基含有エチレン性不飽和単量体、耐紫外線エチレン性不飽和単量体、金属含有エチレン性不飽和単量体、カルボニル基及び/又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体を含有することができる。これらは必要に応じて2種以上を併用することができる。
【0027】
塗膜の耐候性及び耐水性の点から、単量体(B)中にt−ブチルメタクリレート及び/又はシクロヘキシルメタクリレートを含有することが好ましい。この含有量は、単量体(B)中に5〜70質量%が好ましい。この含有量が70質量%以下で、塗膜の耐凍害性の低下を抑制できる。この含有量は10〜60質量%がより好ましい。
【0028】
また、塗膜の耐水性及び耐候性の点から、単量体(B)中に加水分解性シリル基含有エチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。この含有量は、単量体(B)中に0.1〜15質量%が好ましい。この含有量が15質量%以下で、塗膜の耐凍害性の低下を抑制できる。この含有量は0.2〜12質量%がより好ましい。
加水分解性シリル基含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン等のビニルシラン類;γ−(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジクロロシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリクロロシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジクロロシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン類が挙げられる。
【0029】
中でも、ビニル重合反応性並びに塗膜の耐汚染性、耐候性及び耐水性を考慮すると、(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン類が好ましい。特に好ましくはγ−メタクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシエチルメチルジクロロシラン、γ−メタクリロイルオキシエチルトリクロロシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジクロロシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリクロロシランである。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
【0030】
また、エマルション粒子の分散液の貯蔵安定性、及び顔料や添加物を入れて塗料化する際の配合安定性の点から、単量体(B)中にエチレン性不飽和カルボン酸を含有することが好ましい。この含有量は、単量体(B)中に0.1〜10質量%が好ましい。この含有量が10質量%以下で、塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。この含有量は0.5〜8質量%がより好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
また、エマルション粒子の分散液の配合安定性や塗膜の耐汚染性、耐候性、耐水性、及び各種下地に対する密着性の点から、単量体(B)中にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。この含有量は、単量体(B)中に0.1〜15質量%が好ましい。この含有量が15質量%以下で塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。この含有量は0.5〜12質量%がより好ましい。
【0031】
また、エマルション粒子の分散液の配合安定性や塗膜の耐汚染性、耐候性、耐水性、及び各種下地に対する密着性の点から、単量体(B)中にポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。この含有量は、単量体(B)中に0.1〜15質量%が好ましい。この含有量が15質量%以下であると塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。この含有量は0.5〜12質量%がより好ましい。
ポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレートとしては、例えばヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリ(エチレンオキシド/テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリ(プロピレンオキシド/テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート等の末端ヒドロキシ型ポリアルキレンオキシド基含有エチレン性不飽和単量体や、メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシ(ポリエチレンオキシド−プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート等のアルキル基末端封止型ポリアルキレンオキシド基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
【0032】
また、塗膜の耐汚染性、耐候性、耐水性、及び各種下地に対する密着性の点から、単量体(B)中に自己架橋性官能基含有エチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。この含有量は、単量体(B)中に0.1〜15質量%が好ましい。この含有量が15質量%以下で塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。この含有量は0.5〜12質量%がより好ましい。
自己架橋性官能基含有エチレン性不飽和単量体としては、単量体(A)として使用されるものと同様の単量体が挙げられ、必要に応じて1種以上の単量体を選択して使用できる。
【0033】
また、塗膜の耐候性の点から、単量体(B)中に耐紫外線エチレン性不飽和単量体を含有することが好ましい。この含有量は、単量体(B)中に0.1〜10質量%が好ましい。この含有量が10質量%以下で重合安定性の低下を抑制できる。この含有量は0.2〜8質量%がより好ましい。
耐紫外線エチレン性不飽和単量体としては、例えば、光安定化作用を有する(メタ)アクリレート及び紫外線吸収性成分を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
光安定化作用を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
紫外線吸収性成分を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−[2−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−t−アミル−5−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
これら耐紫外線エチレン性不飽和単量体は必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
【0034】
また、高い耐汚染性が要求される場合や、可塑剤のブリードアウトにより塗膜の汚染性が低下する場合には、単量体(B)中に金属含有エチレン性不飽和単量体を含有することができる。更に、後述するように、単量体(B)中にカルボニル基及び/又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体を含有させ、水性被覆材中にヒドラジン化合物を含有させ、塗膜形成時に架橋させることができる。
金属含有エチレン性不飽和単量体としては、下記式(2)で表される単量体が挙げられる。
【0035】
【化2】

式中、Rは水素原子又はメチル基、MはMg、Ca、Fe、Cu、Zn、Zr等の2価の金属イオン、Rは有機酸残基を示す。
【0036】
尚、有機酸残基が(メタ)アクリル酸残基であるときは、2個の重合性不飽和基を有する金属含有エチレン性不飽和単量体であり、例えば、ジ(メタ)アクリル酸マグネシウム、アクリル酸メタクリル酸マグネシウム、ジ(メタ)アクリル酸カルシウム、アクリル酸メタクリル酸カルシウム、ジ(メタ)アクリル酸鉄、アクリル酸メタクリル酸鉄、ジ(メタ)アクリル酸銅、アクリル酸メタクリル酸銅、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛、アクリル酸メタクリル酸亜鉛、ジ(メタ)アクリル酸ジルコニウム、アクリル酸メタクリル酸ジルコニウムが挙げられる。
【0037】
金属含有エチレン性不飽和単量体のRが(メタ)アクリル酸残基以外の有機酸残基であるとき、好ましい有機酸残基として、例えば、モノクロル酢酸、モノフルオロ酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、バーサチック酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、クレソチン酸、α−ナフトエ酸、β−ナフトエ酸、安息香酸、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、キノリンカルボン酸、ニトロ安息香酸、ニトロナフタレンカルボン酸、プルビン酸等の一価の有機酸から誘導されるものが挙げられる。
上記金属含有エチレン性不飽和単量体の具体例としては、モノクロル酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸カルシウム(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸鉄(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸銅(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸カルシウム(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸鉄(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸銅(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、プロピオン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、プロピオン酸カルシウム(メタ)アクリレート、プロピオン酸鉄(メタ)アクリレート、プロピオン酸銅(メタ)アクリレート、プロピオン酸亜鉛(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、オクチル酸マグネシウム(メタ)アクリレート、オクチル酸カルシウム(メタ)アクリレート、オクチル酸鉄(メタ)アクリレート、オクチル酸銅(メタ)アクリレート、オクチル酸亜鉛(メタ)アクリレート、オクチル酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、バーサチック酸マグネシウム(メタ)アクリレート、バーサチック酸カルシウム(メタ)アクリレート、バーサチック酸鉄(メタ)アクリレート、バーサチック酸銅(メタ)アクリレート、バーサチック酸亜鉛(メタ)アクリレート、バーサチック酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、イソステアリン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、イソステアリン酸カルシウム(メタ)アクリレート、イソステアリン酸鉄(メタ)アクリレート、イソステアリン酸銅(メタ)アクリレート、イソステアリン酸亜鉛(メタ)アクリレート、イソステアリン酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、パルミチン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、パルミチン酸カルシウム(メタ)アクリレート、パルミチン酸鉄(メタ)アクリレート、パルミチン酸銅(メタ)アクリレート、パルミチン酸亜鉛(メタ)アクリレート、パルミチン酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、クレソチン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、クレソチン酸カルシウム(メタ)アクリレート、クレソチン酸鉄(メタ)アクリレート、クレソチン酸銅(メタ)アクリレート、クレソチン酸亜鉛(メタ)アクリレート、クレソチン酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸カルシウム(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸鉄(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸銅(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸亜鉛(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸カルシウム(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸鉄(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸銅(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸亜鉛(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、安息香酸マグネシウム(メタ)アクリレート、安息香酸カルシウム(メタ)アクリレート、安息香酸鉄(メタ)アクリレート、安息香酸銅(メタ)アクリレート、安息香酸亜鉛(メタ)アクリレート、安息香酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸カルシウム(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸鉄(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸銅(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸カルシウム(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸鉄(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸銅(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸カルシウム(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸鉄(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸銅(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸亜鉛(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸カルシウム(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸鉄(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸銅(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸亜鉛(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸カルシウム(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸鉄(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸銅(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸亜鉛(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸ジルコニウム(メタ)アクリレート、プルビン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、プルビン酸カルシウム(メタ)アクリレート、プルビン酸鉄(メタ)アクリレートプルビン酸銅(メタ)アクリレート、プルビン酸亜鉛(メタ)アクリレート、プルビン酸ジルコニウム(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できるが、中でも、亜鉛含有エチレン性不飽和単量体が好ましい。
【0038】
金属含有エチレン性不飽和単量体の含有量は、単量体(B)中に0.1〜10質量%が好ましい。この含有量が0.1質量%以上で塗膜の耐汚染性が向上し、10質量%以下で塗膜の耐水性及び耐候性の低下を抑制できる。この含有量は、0.5〜8質量%がより好ましい。
【0039】
更に、本発明では、塗膜の耐ブロッキング性、耐凍害性、耐水性、耐候性、耐汚染性、耐溶剤性及び各種下地に対する密着性の点から、単量体(B)中にカルボニル基及び/又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体を含有させ、水性被覆材を調製する際に、エマルション粒子の分散液中に、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物(以下「ヒドラジン化合物」という)を配合することが好ましい。これは、塗装後の乾燥時に、エマルション粒子中のカルボニル基と、配合されたヒドラジン化合物のヒドラジノ基との間で架橋反応が進行し、優れた塗膜の耐ブロッキング性、耐凍害性、耐水性、耐候性、耐汚染性、耐溶剤性及び各種下地に対する密着性が得られるためである。
【0040】
カルボニル基及び/又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン等が挙げられる。好ましくは、炭素数4〜7個のビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナールの他、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトンが特に好ましい。これらは、必要に応じて1種以上を選択して使用することができる。
カルボニル基及び/又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体の含有量は、単量体(B)中に0.5〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましい。その含有量が0.5質量%以上で、塗膜の耐ブロッキング性、耐凍害性、耐水性、耐候性、耐汚染性、耐溶剤性及び各種下地に対する密着性が向上し、10質量%以下で重合安定性や塗膜の耐水性の低下を抑制できる。
【0041】
重合体(B)の製造に際しては、重合体(A)の製造の場合と同様に、重合開始剤、界面活性剤、連鎖移動剤を使用することが出来る。界面活性剤の使用量は、重合体(A)の製造において使用された界面活性剤の使用量との合計量が、エマルション粒子の原料となる全単量体100質量部に対して0.1〜10質量部となるように含有することが好ましい。
【0042】
本発明においては、1段以上で乳化重合して重合体(A)を形成させ、重合体(A)の存在下で乳化重合により重合体(B)を形成させた多段乳化重合によりエマルション粒子が得られる。
多段乳化重合は、水媒体中で、エチレン性不飽和単量体を公知の乳化重合法にて、2段階以上の重合が繰り返し行われるが、通常、2〜5段重合が一般的である。
【0043】
得られたエマルションは、重合後、塩基性化合物の添加により、系のpHを中性領域〜弱アルカリ性であるpH6.5〜10.0程度に調整することが系の安定性を高める点で好ましい。中でも優れた凍結-融解安定性を付与する点で、pH8.5〜10.0に調整することが望ましい。
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
これらの中で、VOCを含まないことが望まれる内装用途等の場合は、無機系塩基化合物を用いることが好ましい。更に僅かな臭気が問題となる場合は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の非揮発性塩基化合物を用いることが好ましい。
【0044】
エマルション粒子の粒子径としては、粒子の安定性及び塗膜性能のバランスを考慮すると50〜300nmが好ましい。50nm以上の粒子径となる重合条件であれば、重合中に凝集物が生じにくく、少量の界面活性化剤でよいことから、塗膜の耐水性を維持することができる。また300nm以下で造膜欠陥を生じにくくできる。
【0045】
エマルション粒子のMFTは50℃以下とすることが好ましい。より好ましいMFTは40℃以下である。MFTが50℃以下であれば多量の成膜助剤を配合する必要がなくなり、塗装後の乾燥が不十分な場合でも、残存するVOCによる塗膜の耐ブロッキング性や耐水性への悪影響もなく、塗膜の耐凍害性も維持できる。
また、乳化重合体(B)のTgとエマルション粒子のMFTの関係は、(エマルション粒子のMFT)≦(乳化重合体(B)のTg+30℃)であることが好ましく、(エマルション粒子のMFT)≦(乳化重合体(B)のTg+20℃)であることがより好ましい。上記条件を満足することにより、多量の成膜助剤を配合する必要がなくなり、塗装後の乾燥が不十分な場合でも残存するVOCによる塗膜の耐ブロッキング性や耐水性への悪影響もなく、塗膜の耐凍害性も維持できる。
【0046】
また、エマルション粒子100質量部に対して、造膜助剤、可塑剤等の有機揮発化合物を0〜10質量部添加することでMFTが10℃以下となるようにすることが好ましい。造膜助剤及び可塑剤等のVOCの添加量を10質量部とすることで塗装後の乾燥が不十分な場合でも残存するVOCによる塗膜の耐ブロッキング性や耐水性への悪影響もなく、塗膜の耐凍害性も維持できる。
【0047】
本発明の水性被覆材においては、重合体(A)が硬度を有するので良好な耐ブロッキング性を有する塗膜を得る役割を有している。また、重合体(B)が塗膜の耐凍害性、平滑性、耐水性及び耐候性を得る役割を有している。
【0048】
前述の重合体(B)の原料としてカルボニル基及び/又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体を使用する場合、水性被覆材中にヒドラジン化合物を添加することができる。
ヒドラジン化合物の具体例としては、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の炭素数が2〜15のジカルボン酸のジヒドラジド及び1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン、1−ヒドラジノカルボエチル−3−ヒドラジノカルボイソプロピル−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン等のヒダントイン骨格を有する化合物が挙げられる。これらは必要に応じて1種以上を選択して使用できる。
塗膜の耐汚染性を向上させる上で、ヒダントイン骨格を有するヒドラジン化合物が好ましく、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントインが特に好ましい。
【0049】
カルボニル基及び/又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体及びヒドラジン化合物の含有量としては、エマルション粒子中のカルボニル基及び/又はアルデヒド基のモル数を(P)、エマルション粒子の分散液に配合されるヒドラジン化合物のヒドラジノ基のモル数を(Q)としたとき、その比率(P)/(Q)を0.1〜10とすることが好ましく、0.8〜2とすることがより好ましい。これは、(P)/(Q)が0.1以上で、カルボニル基又はアルデヒド基と架橋反応を起こさないヒドラジン化合物が大過剰に存在して塗膜の耐水性が低下しないようにし、(P)/(Q)が10以下で、エマルション粒子の架橋度が低くなり過ぎずに効果を維持できるようにするためである。
水性被覆材は、必要に応じて各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤等を含有してもよい。また、他のエマルション樹脂、水溶性樹脂、粘性制御剤、メラミン類等の硬化剤と混合して使用してもよい。
【0050】
本発明の水性被覆材は、主成分であるエマルション粒子及び前記界面活性剤、添加剤等で固形分を形成し、通常、固形分20〜80質量%の状態で使用される。
各種基材の表面に水性被覆材を塗装する方法としては、例えば、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法、フローコート法等の各種の塗装法を選択できる。また、水性被覆材は、室温乾燥又は50〜180℃の加熱乾燥で十分に造膜した塗膜を得ることができる。
本発明の水性被覆材は、セメントモルタル、スレート板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、防水ゴム材、プラスチック、珪酸カルシウム基材等の各種素材の表面仕上げ被覆材として有用であり、特に建築物、土木構造物等の躯体保護用水性被覆材として有用である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。尚、以下の記載において「部」及び「%」は質量基準である。水性被覆材の評価は下記方法に従って実施した。
【0052】
<評価用水性被覆材(クリヤー塗料)の作製>
エマルション粒子のMFTが10℃を超えるものは、造膜助剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(以下「BDG」という)を添加しMFTを10℃以下にした。次いで、エマルション粒子の分散液100gに対し、RHEOLATE350(RHEOX(株)製、増粘剤)を0.5g、サーフィノールDF−58(エア・プロダクツ(株)製、消泡剤)0.5gを加え、十分に攪拌し、フォードカップ#4で30秒程度になるように脱イオン水を加えて調製した。その後、100メッシュナイロン紗を用いて濾過を行い、評価用水性被覆材を得た。
【0053】
<評価方法>
(1)耐ブロッキング性(高温乾燥)
評価用水性被覆材をガラス板に6ミルアプリケーターにて塗装(縦80mm×横80mm)し、130℃で5分間強制乾燥させた。次いで、50℃まで冷却した後、50℃雰囲気下で塗膜表面にガーゼを載せ、更にその上に事前に50℃まで加温した分銅を置き、1.4kg/cmの荷重をかけ30分間維持した。次いで、常温まで冷却した後、ゆっくりガーゼを剥がし、その時の剥がし難さ及びガーゼの痕跡を目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
◎:ガーゼが自然に落下し、塗膜上にガーゼの痕跡がほとんど残っていない。
○:ガーゼが自然に落下することはないが、塗膜上にガーゼの痕跡はほとんど残っていない。
△:ガーゼが自然に落下することはないが、少しの力で剥離することが出来、ガーゼの痕跡が多少残っている。
×:ガーゼを剥離する時に塗膜の一部も剥離し、ガーゼの痕跡がくっきり残っている。
【0054】
(2)耐ブロッキング性(低温乾燥)
評価用水性被覆材をガラス板に塗装した後の5分間強制乾燥の温度を50℃とする以外は前記(1)耐ブロッキング性(高温乾燥)と同様の評価を実施し、同様の評価基準で評価した。
【0055】
(3)耐凍害性
シーラーとして、ダイヤナールLX−1010(三菱レイヨン(株)製)を使用した白エナメル塗料(顔料質量濃度40%)を用意した。また、中塗り層用塗料として、ダイヤナールLX−2011(三菱レイヨン(株)製)を使用した白エナメル塗料(顔料質量濃度40%)を用意した。
石膏スラグパーライト板(厚12mm×縦150mm×横70mm)の上に、上記シーラーを塗着量が90〜100g/m2(湿潤質量)となるように室温にてスプレー塗装し、130℃で5分間乾燥した。次いで、シーラーの上に、上記中塗り層用塗料を塗着量が90〜100g/m2(湿潤質量)となるように室温にてスプレー塗装し、130℃で5分間乾燥した。次いで、中塗り層の上に上塗り層用塗料として評価用水性被覆材を塗着量が50〜60g/m2(湿潤質量)となるように室温にてスプレー塗装し、130℃で5分間乾燥させ、試験板を作製した。この試験板を1日室温で放置した後、溶剤系の2液硬化型アクリル樹脂を用いて試験板の側面及び背面を、防水機能を有するようにシールした。1日経過後に、凍結融解試験機にて耐凍害性試験を行った。凍結融解条件は、−20℃/2時間(空気中)及び20℃/2時間(水中)のサイクル試験とした。
30倍ルーペを用いて試験板にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、下記の基準に従って評価した。
◎:300サイクルでクラックなし。
○:200サイクル以上、300サイクル未満でクラックあり。
△:100サイクル以上、200サイクル未満でクラックあり。
×:100サイクル未満でクラックあり。
【0056】
(4)平滑性
評価用水性被覆材をガラス板に8ミルアプリケーターにて塗装し(縦100mm×横15mm)、130℃で2分間強制乾燥させた後、塗膜の「より」や「マッドクラック」の有無を目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
◎:「より」や「マッドクラック」が殆ど見られず、連続した塗膜ができている。
○:塗装面の塗膜の端部に「マッドクラック」が多少見られる。
△:「マッドクラック」が見られるが、塗装面の縦方向に対して50%未満である。
×:塗装面の縦方向に対して50%以上の「マッドクラック」が見られる。
【0057】
(5)耐水性
評価用水性被覆材をガラス板に4ミルアプリケーターにて塗装し(縦80mm×横80mm)、130℃で5分間強制乾燥した。次いで、室温まで放冷した。その後、50℃の温水にガラス板ごと24時間浸漬し、更に、室温にて24時間放置後、乾燥した。得られた塗膜外観を目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
◎:塗装面の白化は少なく、乾燥後は完全にクリヤー塗膜となった。
○:多少塗装面の白化は認められるが、乾燥後は2〜3時間程度でほぼクリヤー塗膜となった。
△:多少塗装面の白化が認められ、乾燥24時間後でも少し濁っており、48時間後で辛うじて、クリヤー塗膜となった。
×:かなり塗装面が白化しており、乾燥後も白化したままで、最後までクリヤー塗膜にならなかった。
【0058】
(6)耐候性
耐凍害性評価に使用したものと同様の、側面及び背面をシールした試験板を用い、シール1日経過後に、ダイプラ・メタルウエザーKU−R4−W型(ダイプラ・ウィンテス(株)製)にて耐候性試験を行った。このとき、試験サイクルは、照射4時間(噴霧5秒/15分)/結露4時間、UV強度:85mW/cm、ブラックパネル温度:照射時63℃/結露時30℃、湿度:照射時50%RH/結露時96%RHの条件で、720時間経過後の60°光沢度の保持率を耐候性の指標とし、下記の基準に従って評価した。
◎:90%以上。
○:80%以上、90%未満。
△:60%以上、80%未満。
×:60%未満、又は塗膜の剥離・クラックが生じたもの。
【0059】
<実施例1>
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水76部及び表1に記載の乳化物A(重合体(A)用原料)の5%分を仕込み、フラスコ内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。この後、過硫酸アンモニウム0.1部を脱イオン水1部に溶解した重合開始剤溶液を加えて重合を実施して、シード粒子を形成した。発熱ピークを確認した後内温80℃になったところで、乳化物Aの残りを内温80℃で1時間かけて滴下し、内温80℃のまま1時間重合を継続し、エマルション粒子の重合体(A)を形成した。次に、エマルション粒子の重合体(B)を形成するため、内温80℃で、過硫酸アンモニウム0.1部を脱イオン水3部に溶解した重合開始剤溶液及び表1に記載の乳化物B(重合体(B)用原料)を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、更に80℃で2時間重合を継続した。その後、室温まで冷却し、28%アンモニア水溶液にて中和して、エマルション粒子の分散液を得た。
このエマルション粒子の分散液を用い、造膜助剤BDGを7部添加し、評価用水性被覆材を作製した。
塗膜は耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性、耐候性の全ての性能を兼ね備えていた。
【0060】
<実施例2>
最初にフラスコに仕込む脱イオン水を90部、表1に記載の組成の乳化物A及び乳化物Bを使用し、乳化物Aの残り分の滴下時間を1.25時間及び乳化物Bの滴下時間を1.25時間とした。それ以外の条件は実施例1と同様にしてエマルション粒子の分散液を得た。また、造膜助剤BDGを6部添加し、評価用水性被覆材を作製した。
塗膜は耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性、耐候性の全ての性能を兼ね備えていた。
【0061】
<比較例1>
表4に記載の組成の乳化物A及び乳化物Bを使用する以外は実施例1と同様にしてエマルション粒子の分散液を得た。
このエマルション粒子の分散液を用い、造膜助剤を添加せずに評価用水性被覆材を作製した。
塗膜は耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性、耐候性の物性バランスに劣っていた。
【0062】
<実施例3〜8及び比較例2〜4>
表1、2及び4に記載の組成の乳化物A及び乳化物Bを使用する以外は実施例2と同様にしてエマルション粒子の分散液を得た。
このエマルション粒子の分散液を用い、BDGを添加し、評価用水性被覆材を作製した。
実施例の塗膜は耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性、耐候性の全ての性能を兼ね備えていた。これに対し、比較例の塗膜は耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性、耐候性の物性バランスに劣っていた。
【0063】
<実施例9〜11>
表3に記載の組成の乳化物A及び乳化物Bを使用し、重合終了後28%アンモニア水溶液にて中和した後に、脱イオン水1.5部にアジピン酸ジヒドラジド0.7部を分散したものを添加する以外は実施例2と同様にしてエマルション粒子の分散液を得、評価用水性被覆材を作製した。
これらの塗膜は耐ブロッキング性、耐凍害性、平滑性、耐水性、耐候性の全ての性能を兼ね備えていた。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
尚、表中の略号は以下の通りである。また、単量体の単独重合体のTgをカッコ内に示した。
MMA:メチルメタクリレート[105℃]
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート[55℃]
GMA:グリシジルメタクリレート[46℃]
MAA:メタクリル酸[185℃]
AA:アクリル酸[106℃]
t−BMA:t−ブチルメタクリレート[108℃]
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート[83℃]
n−BMA:n−ブチルメタクリレート[20℃]
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート[−55℃]
n−BA:n−ブチルアクリレート[−45℃]
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
アデカリアソープ SR−1025:反応性アニオン性界面活性剤(固形分25%)(商品名、旭電化(株)製))
SZ−6030:γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)
KBM−502:γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
DAAm:ジアセトンアクリルアミド[65℃]
St:スチレン[100℃]
サーフマーFP−120:リン酸エステル型反応性界面活性剤(商品名、東邦化学工業(株)製)
ADH:アジピン酸ジヒドラジド
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SP値が20(J/cm1/2以上のエチレン性不飽和単量体(a)を75〜100質量%含有する単量体を1段以上で乳化重合して重合体(A)を形成し、次いでこのエマルション状態の重合体(A)の存在下で、SP値が20(J/cm1/2未満のエチレン性不飽和単量体(b)を65〜100質量%含有する単量体を乳化重合して重合体(B)を形成し、これによって得られたエマルション粒子を主成分とする水性被覆材であって、前記エチレン性不飽和単量体(a)はメチルメタクリレートを含み、その含有量は乳化重合に供される全単量体基準で30質量%以上である水性被覆材。
【請求項2】
エマルション粒子がリン酸エステル型反応性界面活性剤の存在下で乳化重合したものである請求項1記載の水性被覆材。
【請求項3】
乳化重合体(A)を含有する少なくとも1層の内部層及び乳化重合体(B)を含有する最外層を有する多層構造のエマルション粒子を主成分とする水性被覆材であって、乳化重合体(A)は、SP値が20(J/cm1/2以上のエチレン性不飽和単量体(a)単位を75〜100質量%含有し、且つ、エマルション粒子基準でメチルメタクリレート単位を30質量%以上含有し、また乳化重合体(B)は、SP値が20(J/cm1/2未満のエチレン性不飽和単量体(b)単位を65〜100質量%含有する水性被覆材。

【公開番号】特開2007−284559(P2007−284559A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113421(P2006−113421)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】