説明

水性被覆用組成物

【課題】
耐チッピング性と共に、優れた制振性を兼備する塗膜を形成することができる水性被覆組成物製造用の水性樹脂分散液、及びそれを用いた水性被覆組成物を提供すること。
【解決手段】
水性媒体中に分散された共重合体微粒子(A)を含有してなる水性樹脂分散液であって、該共重合体微粒子(A)が、アクリル−スチレン共重合体により構成される芯部(A−1)と共役ジエン共重合体により構成される殻部(A−2)からなる複合体粒子であることを特徴とする水性樹脂分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性樹脂分散液に関し、詳しくは、例えば車輌類、特に自動車の床裏、タイヤハウス、ガソリンタンク等室外板金加工部材の飛石などによる擦傷、いわゆる“チッピング”から該板金加工部材を保護するための耐チッピング性と共に、エンジンや路面からの騒音や振動を防止するための、広い温度領域にわたる制振性をも兼備した水性被覆用組成物、特に、塗料としての各種安定性に優れ、フラットで均質な塗膜形成性、板金部などの基材との密着性、耐水性、耐ガソリン性、耐衝撃性、防音性などの耐チッピング用被覆剤としての諸性質をバランスよく兼備し、特に、例えば−30℃などの極低温における耐チッピング性など卓越した低温特性を有すると共に、広い温度領域にわたる制振性をも備えており、このことにより、主として自動車の車内に設けられる制振性塗膜の厚さを低減することのできる水性被覆用組成物製造用として有用な、水性樹脂分散液に関する。
【0002】
さらに詳しくは、水性媒体中に分散された共重合体微粒子(A)を含有してなる水性樹脂分散液であって、該共重合体微粒子(A)が、アクリル−スチレン共重合体からなる芯部(A−1)と共役ジエン共重合体からなる殻部(A−2)とからなる複合体粒子であることを特徴とする水性樹脂分散液に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば自動車などの車輛類の室外板金加工部材に用いられる水性の耐チッピング用被覆剤として、アクリル系(共)重合体エマルジョンの水性樹脂分散液をビヒクルとし、炭酸カルシウム、タルクなどの無機質充填剤を配合したものが知られており、アクリル系(共)重合体水性樹脂分散液をベースとしたものは、例えば特許文献1〜4などに開示されている。
【0004】
しかしながらこれら公報に記載された耐チッピング用水性被覆剤は、耐チッピング性、板金加工部材への優れた密着性、耐衝撃性、特に、例えば−30℃以下の極低温における耐衝撃性(以下、「低温耐衝撃性」ということがある)などの耐チッピング用被覆剤としての諸特性と、例えば600μm以上などの厚い塗膜を形成するときの乾燥工程でのフクレ防止性とを、共に満足させることは容易ではなく、耐チッピング性及び低温耐衝撃性を向上させるため、被覆剤中の無機質充填剤の量を減らすと、焼付工程でフクレが発生し易くなり、またフクレ防止のため該充填剤量を増やすと、耐チッピング性及び低温耐衝撃性を著しく低下させてしまうという問題点がある。
【0005】
また、ビヒクルとしてゴム系ラテックスを用いた耐チッピング用水性被覆剤が、例えば特許文献5〜7などに開示されている。しかしながらこれら公報に記載された耐チッピング用水性被覆剤も、耐チッピング性、密着性及び低温耐衝撃性の何れについても、必ずしも十分とはいい難いという問題点がある。
【0006】
また、ガラス転移温度(以下Tgと略称することがある)の異なる2種以上のアクリル系(共)重合体エマルジョンを混合して用いた耐チッピング用水性被覆剤も知られており、例えば特許文献8に開示されている。そしてこの公報に開示された耐チッピング用水性被覆剤は、Tgの差が10℃以上で、一方のTgが0℃以下、他方のTgが0℃以上の少なくとも2種の樹脂エマルジョンを混合したものである。
【0007】
しかしながら、特許文献8の実施例においては、Tg−35℃のアクリル樹脂エマルジョンと、Tg+9℃のアクリル樹脂エマルジョンが用いられているが、本発明者等の追試によれば、このような耐チッピング用水性被覆剤も、その耐チッピング性や密着性の点で必ずしも十分とはいい難いということがわかった。
【0008】
さらに、これらの問題点を解消するために、特許文献9には、水性媒体中に分散されたアクリル系重合体粒子を、ガラス転移温度が−30℃〜10℃の範囲内にあるカルボキシル基含有アクリル系重合体(A)から主としてなる芯部と、該芯部を被覆するガラス転移温度が−10℃以下で、且つ芯部を形成するアクリル系重合体のガラス転移温度よりも低いアクリル系重合体(B)から主としてなる殻部との特定比率からなる複合体粒子とするアクリル系重合体の水性分散液を、耐チッピング性水性被覆用組成物に用いることついても提案されている。
【0009】
さらにまた、特許文献10には、耐チッピング用被覆剤などに用いられる、水性媒体中に分散された重合体微粒子と無機質充填剤とからなる水性被覆用組成物であって、該重合体微粒子としてガラス転移温度が0℃以下の合成ゴム系エマルジョン重合体粒子(A)及びガラス転移温度が少なくとも20℃の特定のエマルジョン重合体粒子(B)を含む水性被覆用組成物が提案されている。
【0010】
しかしながら、これら特許文献9及び10記載の水性被覆用組成物は、確かに優れた耐チッピング性塗膜を形成することはできるものの、その塗膜が広い温度領域にわたって制振性を兼備するまでには至らなかった。
【0011】
またさらに、特許文献11には、基体樹脂としてスチレン、ブタジエン及びアクリル系モノマーに基づく特定のエマルジョン共重合体を用いた耐寒耐チッピング用被覆組成物が提案されており、その実施例によれば、上記の「基体樹脂」はスチレン−ブタジエンゴムラテックスの存在下にアクリル系モノマーを乳化共重合して調製されている。
【0012】
しかしながら、本発明者らの追試によれば、このような重合方法では、該ラテックスのゴム系ポリマー中の残存二重結合に対して、アクリル系モノマーがグラフト重合して、ゴム弾性を喪失し固くて脆い共重合体となることが多く、このような共重合体を用いた耐チッピング用被覆組成物は、低温耐チッピング性はもとより、常温耐チッピング性の点でも不十分なものであることが判明した。
【0013】
一方、従来から、車両、船舶、各種機械・器具、建築材料等の構造部材の表面における振動を防止して騒音を防止するために、部材自体を厚くしたり、振動の発生を低減するために装置自体の改良を試みたり、部材表面にシート状の制振材を貼り付けたり、制振塗料を塗布又は吹き付けによって施工したりすることによる、振動及び騒音を防止する対策がとられている。
【0014】
しかし、部材自体を厚くすることは、部材のコストアップ、加工性の低下等を招き、さらに自動車車両等の場合には燃費の増大につながる等の問題点がある。また、シート状制振材の貼付では、部材の形状に合わせたカッティング加工が不可欠となり、加工上煩雑であるという難点がある。
【0015】
さらに、制振塗料に関しては、従来から種々のものが提案されており、例えば、ゴム、アスファルト、各種の合成樹脂エマルジョン等の粘弾性的特性をもつ材料をベースにしたものや、これにさらにグラファイト、マイカ、ヒル石、炭酸カルシウム、タルク、クレー等の無機質粉体を配合して、機械的なヒステリシス、内部摩擦等を付与したものなどが知られている。
【0016】
しかし、これら従来提案されている制振塗料の多くは、高い制振性能を有してはいても、制振性能を発揮する温度範囲が狭く、また形成される塗膜が硬くて脆く、耐チッピング性に劣るなどの欠点がある。
【0017】
また水性の制振塗料は、その取り扱い易さ、作業環境の安全性などの点で優れており注目されているが、厚い塗膜の形成が一般に容易でないという問題点がある。
【0018】
制振塗料は、その性能発現という観点から、通常1000μm(1mm)以上という厚い塗膜を形成させなければならず、また生産性の面から、高温で迅速に乾燥するものであること(高温焼付性)が強く望まれているが、厚い塗膜を急速な乾燥すると、塗膜表面が先に乾燥して表皮を形成し、次いで内部に残留する水が蒸発して先に形成された表皮を持ち上げてフクレ(熱ブリスター)を生じたり、表皮が破れてクラックを生じたりするなどの問題が起こり易い。このようなフクレやクラックの発生を避けるため厚い塗膜を常温で乾燥すると、乾燥に長時間を要して生産性を低下させることはもとより、造膜が不十分となって塗膜にひび割れを生じるなどの問題が起きやすい。
【0019】
特許文献12には、低温から高温に至る広い温度領域で優れた制振性能を発揮する水性制振塗料として、エマルジョン状スチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリアミドエポキシ化合物及び/又はメラミン−ホルムアルデヒド化合物、並びに鱗片状無機質粉体を水に分散してなる水性制振塗料が開示され、また特許文献13には、エマルジョン状スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エマルジョン状酢酸ビニル系重合体、架橋剤及び鱗片状無機質粉体を水に分散してなる水性制振塗料がそれぞれ開示されているが、これらの塗料から形成される塗膜は可撓性が不十分であり、耐チッピング性や低温耐衝撃性などの低温物性の点で満足できないものである。
【0020】
本発明者らは、上記従来の水性制振塗料の有する問題点を解決して、広い温度領域で優れた制振性能を示し、且つ柔軟で耐チッピング性及び低温耐衝撃性にも優れた水性塗料を提供すべく研究を行ってきた。その結果、ビヒクル成分として2種以上の特定の複合体粒子を特定量ずつ用いるか、又は、特定の複合体粒子と特定Tgの通常重合体粒子を特定量ずつ用いることにより、これらの目的を達成しうることを見出だし、先に水性樹脂分散液として特許出願を行った(特許文献14)。
【0021】
本発明者等の上記提案に基づく水性塗料は、得られる塗膜が確かに広い温度領域で優れた制振性能を示し、且つ柔軟で耐チッピング性の点では非常に優れた物性を示したが、該塗料の高温焼付性の点では、まだ必ずしも十分とはいえないことが判明した。
【0022】
さらにまた、最近では、環境問題、特に排出二酸化炭素量を削減することや、これにも関連して、自動車の燃費の改善が強く求められるようになってきており、それに伴って自動車の車体重量を軽くすることも極めて重要な要因となっている。
【0023】
通常、自動車には前記のように、飛石などによる“チッピング”から車体の床裏、タイヤハウス、ガソリンタンク等の室外板金加工部材を保護するための耐チッピング用塗膜と、エンジンや路面からの騒音や振動を防止するための制振性塗膜が形成されており、特に該制振性塗膜は、通常、4mm程度の厚さを有し、且つ車体内側のかなり広い範囲に施されているため、車体重量に占めるそれら塗膜の重量は無視できないものとなっている。
【特許文献1】特開昭58−187468号公報(明細書全文)
【特許文献2】特開昭62−230868号公報(明細書全文)
【特許文献3】特開昭63−10678号公報(明細書全文)
【特許文献4】特開昭63−172777号公報(明細書全文)
【特許文献5】特開昭59−75954号公報(明細書全文)
【特許文献6】特開昭59−129213号公報(明細書全文)
【特許文献7】特開昭59−180617号公報(明細書全文)
【特許文献8】特開昭53−64287号公報(第3頁右上欄第8行〜右下欄第7行実施例1)
【特許文献9】特開平5−148446号公報(明細書全文)
【特許文献10】特開平5−194906号公報(明細書全文)
【特許文献11】特開平2−28269号公報(明細書全文)
【特許文献12】特開昭57−167360号公報(特許請求の範囲)
【特許文献13】特開昭58−141251号公報(特許請求の範囲)
【特許文献14】特開平9−111132号公報(明細書全文)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明者等は、このような自動車車体重量増加の一因ともなっている、耐チッピング用塗膜と制振性塗膜の重量を減らすためには、耐チッピング用塗膜自体の制振性を向上させれば、制振性塗膜の厚さを低減させることができ、これら塗膜の重量を全体として減少させることができる可能性に着眼し、このような耐チッピング性と共に、優れた制振性を兼備する水性被覆組成物の製造用として有用な、水性樹脂分散液を得るべく開発研究を行ってきた。
【0025】
その結果、水性媒体中に分散されている共重合体微粒子(A)を、芯−殻構造の複合体粒子、すなわち芯部(A−1)を、例えば20℃など、0〜50℃の範囲のガラス転移温度(TgA1)を有するアクリル−スチレン共重合体で形成し、且つ殻部(A−2)を、例えば−27℃など、20℃以下のガラス転移温度(TgA2)を有する共役ジエン共重合体で形成することにより、前記の問題点をことごとく解決しうる水性樹脂分散液を提供できることを見出だし本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0026】
かくして本発明によれば、水性媒体中に分散された共重合体微粒子(A)を含有してなる水性樹脂分散液であって、該共重合体微粒子(A)が、アクリル−スチレン共重合体により構成される芯部(A−1)と共役ジエン共重合体により構成される殻部(A−2)とからなる複合体粒子であることを特徴とする水性樹脂分散液が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の水性樹脂分散液を用いて作製した水性被覆用組成物は、塗料としての各種安定性に優れ、フラットで均質な塗膜形成性、板金部などの基材との密着性、耐水性、耐ガソリン性、耐衝撃性、防音性、低温特性などの耐チッピング用被覆剤としての諸性質をバランスよく兼備すると共に、広い温度領域にわたる制振性をも備えており、これにより、主として自動車の車内に設けられる制振性塗膜の厚さを低減して、自動車車体重量を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の水性樹脂分散液及び、それを用いた水性被覆用樹脂組成物についてさらに詳細に説明する。
【0029】
〔共重合体微粒子(A)〕
本発明の水性樹脂分散液に含まれる共重合体微粒子(A)は、その粒子の比較的多量の部分を占めるアクリル−スチレン共重合体により構成される芯部(A−1)と、該芯部(A−1)より外側にあり、芯部よりも比較的小部分を占める少なくとも一層からなる、共役ジエン共重合体により構成される殻部(A−2)からなる複合体粒子である。なお殻部(A−2)は、芯部(A−1)をほぼ均一層状に被覆していてもよく、また場合によっては、部分的に、例えば、網目状、島状に被覆してもよい。さらにこのような複層粒子は、必ずしも二層構造である必要はなく、必要に応じて、二層もしくはそれ以上の殻部を有する三層又はそれ以上の構造とすることもできる。
【0030】
このような、本発明における共重合体微粒子(A)は、芯部(A−1)のガラス転移温度(TgA1)が0〜50℃、さらには0〜30℃、特には5〜25℃の範囲であることが好ましい。複合体粒子の芯部(A−1)を形成する共重合体のガラス転移温度(TgA1)が該上限値以下であれば、得られる水性樹脂分散液を用いた被覆用組成物の高温焼付性が優れたものとなり、また得られる塗膜塗膜が十分な柔軟性を有し、20℃付近など低温側の制振特性にも優れているので好ましい。一方、該ガラス転移温度(TgA1)が該下限値以上であれば、該塗膜の60℃付近など高温側の制振特性を含め広い温度領域で優れた制振特性を有しており、また耐チッピング性にも優れているので好ましい。
【0031】
さらに共重合体微粒子(A)を構成する共重合体の殻部(A−2)の(平均)ガラス転移温度(TgA2)は、20℃以下、特には−50〜0℃の範囲であることが好ましい。該ガラス転移温度(TgA2)が該温度範囲であれば、十分な高温焼付性を有する被覆用組成物が得られ、また該被覆用組成物に基づく塗膜が広い温度領域で優れた制振特性を有しているので好ましい。
【0032】
なお、芯部(A−1)を形成する共重合体のガラス転移温度(TgA1)及び殻部(A−2)を形成する共重合体の(平均)ガラス転移温度(TgA2)は、芯部(A−1)及び殻部(A−2)をそれぞれ構成する繰り返し単位(単量体に由来する)の組み合わせに基づいて、すなわち、芯部(A−1)及び殻部(A−2)を形成する共重合体の単量体組成に基づいて、下記の計算式(1)により求めることができる。ただし、殻部(A−2)が2層以上である場合には、これら各層を形成するそれぞれの共重合体の単量体組成の加重平均値をもって、殻部(A−2)の全体としての単量体組成とみなし、これに基づいて平均ガラス転移温度(TgA2)を求めるものとする。
ガラス転移温度(Tg)の計算:
【0033】
【数1】

【0034】
ここでTg、Tg・・・・・・及びTgは成分1、成分2・・・・・・および成分nそれぞれの単独重合体のガラス転移温度であり、絶対温度に換算し計算する。m、m・・・・・及びmはそれぞれの成分のモル分率である。
【0035】
なお、本明細書でいう「単独重合体のガラス転移温度」には、L.E.ニールセン著、小野木宣治訳「高分子の力学的性質」第11〜35頁に記載されている単量体のガラス転移点が適用される。
【0036】
本発明において、共重合体微粒子(A)中に占める殻部(A−2)の割合は、必ずしも限定されるものではないが、該重合体微粒子(A)の重量100重量%に基づいて、一般に5〜40重量%、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは15〜40重量%の範囲であることが好ましい。殻部(A−2)の割合が該上限値以下であれば製造が容易であり、得られる被覆用組成物に基づく塗膜が広い温度領域で優れた制振特性を発現できるので好ましく、該下限値以上であれば、複合体粒子として有効に作用し、該被覆用組成物が十分な高温焼付性を有しているので好ましい。
【0037】
[芯部(A−1)]
本発明の水性樹脂分散液において、共重合体微粒子(A)の芯部(A−1)を構成するアクリル−スチレン共重合体は、必ずしも限定されるものではないが、下記単量体(a)〜(a)の共重合体であることが好ましい。
【0038】
(a11)下記一般式(1)、
C=CHCOOR (1)
(但し、式中Rは炭素数4〜12の直鎖又は分枝アルキル基を示す)
で表され、その単独重合体のガラス転移点が−40℃以下であるアクリル酸エステル、
(a12)スチレン、
(a13)炭素数3〜5のα,β−不飽和モノ−又はジ−カルボン酸、
(a14)下記一般式(2)、
C=CRCOOR (2)
(但し、式中Rは水素又はメチル基、Rは炭素数1〜20の直鎖もしくは分枝アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す)
で表される上記(a11)以外の単量体。
【0039】
上記の単量体(a11)である、単独重合体のガラス転移温度が−40℃以下であるアクリル酸エステルとしては、例えばn−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、i−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、i−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ノニルアクリレート、i−ノニルアクリレート、n−デシルアクリレート等を挙げることができる。
【0040】
上記単量体(a11)の、前記単量体(a11)〜(a14)の合計100重量%中に占める割合は、好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは25〜55重量%の範囲であるのがよい。該割合が該下限値以上であれば、得られる被覆用組成物に基づく塗膜が十分な柔軟性を有しているので好ましく、該上限値以下であれば該塗膜が十分な制振特性を有しているので好ましい。
【0041】
前記の単量体(a12)であるスチレンは、前記単量体(a11)〜(a14)の合計100重量%中に占める割合は、好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは10〜35重量%の範囲であるのがよい。該割合が該下限値以上であれば、得られる被覆用組成物が十分な高温焼付性を有しているので好ましく、該上限値以下であれば、該被覆用組成物に基づく塗膜が広い温度領域で優れた制振特性を発現できるので好ましい。
【0042】
前記の単量体(a13)である、炭素数3〜5のα,β−不飽和モノ−又はジ−カルボン酸(以下、エチレン系カルボン酸ということもある)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸等を挙げることができるが、これらの他に、例えば無水マレイン酸などのこれらエチレン系カルボン酸の無水物;例えばモノ−n−ブチルマレート、モノ−n−ブチルフマレート、モノエチルイタコネート等の2価のエチレン系カルボン酸のモノエステル;例えば、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸アンモニウム等のこれらエチレン系カルボン酸又はエチレン系カルボン酸モノエステルのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩を挙げることができ、これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸の使用が好ましい。
【0043】
上記単量体(a13)の、前記単量体(a11)〜(a14)の合計100重量%中に占める割合は、好ましくは0.3〜5重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%の範囲であるのがよい。該割合が該下限値以上であれば、該複合体粒子の乳化重合に際しての重合安定性並びに、得られる該複合体粒子の水性分散液及び被覆用組成物の機械安定性がよいので好ましく、該上限値以下であれば、該被覆用組成物の塗装に際しての塗装安定性がよいので好ましい。
【0044】
前記の単量体(a14)である、前記一般式(2)で表される単量体(a11)以外の単量体としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート等の前記単量体(a11)以外のアクリル酸エステル単量体;例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−ヘプチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、i−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ノニルメタクリレート、i−ノニルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、t−ドデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル単量体;などの(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。
【0045】
上記単量体(a14)の、前記単量体(a11)〜(a14)の合計100重量%中に占める割合は、好ましくは5〜65重量%、さらに好ましくは10〜50重量%の範囲であるのがよい。該割合が該下限値以上であれば得られる被覆用組成物に基づく塗膜が十分な制振特性を有しているので好ましく、該上限値以下であれば該塗膜が十分な柔軟性を有しているので好ましい。
【0046】
[殻部(A−2)]
本発明における共重合体微粒子(A)は、以上述べたアクリル−スチレン共重合体により構成される芯部(A−1)と、共役ジエン共重合体により構成される殻部(A−2)からなる複合体粒子である。
【0047】
上記殻部(A−2)は、前記のとおり、ガラス転移温度(TgA2)が−50〜0℃の範囲の共役ジエン共重合体により構成されることが好ましく、さらに、該共役ジエン共重合体が、下記単量体(a21)〜(a23)、
(a21)共役ジエン単量体、
(a22)単独重合体のガラス転移点が40℃以上のメタクリル酸エステル単量体、シアン化ビニル単量体及び/又は芳香族ビニル単量体、並びに、必要に応じて、
(a23)単量体(a21)及び(a22)と共重合可能で、該単量体(a21)及び(a22)以外の単量体、
の共重合体であることがさらに好ましい。
【0048】
上記共役ジエン単量体(a21)としては、例えば、ブタジエン、インプレン、クロロプレン等から選ばれる1種又は2種以上の単量体が挙げられ、特にブタジエンが好適である。
【0049】
上記単量体(a21)の、前記単量体(a21)〜(a23)の合計100重量%中に占める割合は、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは25〜60重量%、さらに好ましくは30〜50重量%の範囲であるのがよい。該共重合量が該上限値以下であれば、十分なゴム弾性を有する塗膜が得られるので好ましく、一方該下限値以上であれば該塗膜の基材への密着力が十分なものとなるので好ましい。
【0050】
前記の必須単量体(a22)において、単独重合体のガラス転移点が40℃以上のメタクリル酸エステル単量体としては、例えばメチルメタクリレート等を例示することができ、シアン化ビニル単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を例示することができ、さらに芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられる。これら単量体(a22)のうち、スチレン及び/又はメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0051】
また単量体(a22)は、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができるが、得られる塗膜の基材への密着性及びゴム弾性の優秀さ等の観点から、2種以上組み合わせて使用することが好ましく、スチレン及びメチルメタクリレートを組み合わせて使用することが特に好ましい。組み合わせに際してのスチレンとメチルメタクリレートとの使用割合は、通常、スチレン/メチルメタクリレート=30/70〜70/30、好ましくは40/60〜60/40の範囲である。
【0052】
単量体(a22)の共重合量は、前記単量体(a21)〜(a23)の合計100重量%に基づいて、合計で、一般に30〜80重量%、さらには40〜75重量%、特には50〜70重量%の範囲であることが好ましい。該共重合量が該上限値以下であれば、十分なゴム弾性を有する塗膜が得られるので好ましく、一方該下限値以上であれば、該塗膜の基材への密着性が十分なものとなるので好ましい。
【0053】
本発明における複合体粒子の殻部(A−2)を構成する共役ジエン共重合体は、以上述べた共役ジエン単量体(a21)並びにメタクリル酸エステル単量体、シアン化ビニル単量体及び/又は芳香族ビニル単量体(a22)を必須の単量体成分とし、必要に応じて、これにさらに単量体(a21)及び(a22)と共重合可能で、該単量体(a21)及び(a22)以外の単量体(a23)[以下、任意単量体(a23)ということがある]を組み合わせて共重合させることにより得ることができる。
【0054】
そのような任意単量体(a23)としては、例えば次のものが挙げられる。
(1)アクリル酸エステル及び前記単量体(a22)以外のメタクリル酸エステル:例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、i−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、i−ノニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレートなどのアクリル酸もしくはメタクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル。
【0055】
(2)1つラジカル重合性不飽和基の他に、官能基を少なくとも1つ含有する不飽和単量体:前記単量体(a13)で例示したと同様のエチレン系カルボン酸;例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−n−ブトキシメチルアクリルアミド、N−i−ブトキシメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等のアミド基もしくは置換アミド基含有単量体;例えば、アミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基もしくは置換アミノ基含有単量体;
【0056】
例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート等のヒドロキシル基含有単量体;例えば、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−n−ブトキシエチルアクリレート、2−メトキシエトキシエチルアクリレート、2−エトキシエトキシエチルアクリレート、2−n−ブトキシエトキシエチルアクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−n−ブトキシエチルメタクリレート、2−メトキシエトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエトキシエチルメタクリレート、2−n−ブトキシエトキシエチルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート等の低級アルコキシル基含有単量体;
【0057】
例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルメタリルエーテル等のエポキシ基含有単量体;アリルメルカプタン等のメルカプト基含有単量体;例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリブロモシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−プロポキシシラン、ビニルトリ−i−プロポキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(2−ヒドロキシメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルジエトキシシラノール、ビニルエトキシシラジオール、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、2−アクリルアミドエチルトリエトキシシラン等の珪素含有基を有する単量体;
【0058】
例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の2つ以上のラジカル重合性不飽和基を有する単量体;等。
【0059】
以上述べた共単量体(a23)の共重合量は、前記単量体(a21)〜(a23)の合計100重量%に基づいて、一般に0〜20重量%、さらには0〜15重量%、特には0〜10重量%の範囲であることが好ましい。該共重合量が該上限値以下であれば、得られる塗膜のゴム弾性及び基材密着性が優れているので好ましい。
【0060】
以上述べた本発明における共重合体微粒子(A)を含有してなる水性樹脂分散液の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、まず界面活性剤及び/又は保護コロイドの存在下に、前記の芯部(A−1)形成用単量体(a11)〜(a14)を水性媒体中で乳化重合して、共重合体微粒子(A)の芯部(A−1)を構成する共重合体の水性分散液を調製し(第1段階重合)、次いで該水性分散液の存在下、必要なら所定の加圧下に、さらに前記殻部(A−2)形成用の単量体(a21)〜(a23)を添加してさらに共重合させる(第2段階重合)方法が好適に採用できる。
【0061】
反応温度は、通常、約30〜100℃、好ましくは約40〜90℃程度とするのがよい。殻部を2層以上とするときには、殻部第一層形成用単量体(a211)〜(a213)を添加して(共)重合させ、実質的な反応終了後、殻部第二層形成用単量体(a221)〜(a223)を添加して(共)重合させ、この操作を繰り返すことにより2層以上の殻部を有する複合粒子を製造することができる。この場合、これら殻部形成用単量体(a211)〜(a2n1)、(a212)〜(a2n2)及び(a213)〜(a2n3)の、それぞれの加重平均によって得られる値(a211)〜(a213)を、全体として、殻部形成用単量体とみなし、この単量体組成(a211)〜(a213)に基づく共重合体を仮定して、これを、殻部(A−2)を形成する共重合体とみなす。
【0062】
上記の界面活性剤としては、非イオン系、陰イオン系、陽イオン系又は両性のいずれのタイプの界面活性剤でも使用することができる。
【0063】
非イオン界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;例えば、ポリオキシエチレンオクチルフエノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフエノールエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフエノールエーテル類;例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類;例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;例えば、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類;例えば、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド等のグリセリン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンジスチレン化フェノール類;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー;等が挙げられる。
【0064】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩類;例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン塩酸類;例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類:例えば、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類;例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;例えば、ポリオキシエチレンノニルフエノールエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンジスチレン化フェノールの硫酸エステル塩類;アルキルジフェニルの硫酸エステル塩類等等を例示することができる。
【0065】
また陽イオン界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩;ポリオキシエチルアルキルアミン;等が挙げられ、さらに両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベタインなどのアルキルベタイン等を挙げることができる。
【0066】
さらに、これらの界面活性剤のアルキル基の水素の一部をフッ素で置換したもの;これら界面活性剤の分子構造中にラジカル共重合性不飽和結合を有する、いわゆる反応性界面活性剤;等も使用することができる。
【0067】
これらの界面活性剤のうち、乳化重合時の凝集物発生の少なさなどの観点より、非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフエノールエーテル類;そして陰イオン界面活性剤としては、アルキルアリールスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類、アルキルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシアルキレンアルキルフエノールエーテル硫酸エステル塩類;等を使用することが好ましい。これらの界面活性剤はそれぞれ単独で、又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0068】
これらの界面活性剤の使用量は、用いる界面活性剤の種類等に応じて変えうるが、一般には、得られる重合体複合微粒子100重量部に対して約0.5〜約10重量部の範囲内とすることができるが、水性乳化重合の重合安定性、生成する共重合体微粒子(A)の水性分散液の貯蔵安定性及び、水性被覆用組成物に用いたときの、金属加工部材などの基材との密着性の優秀さ等の観点から、約1〜6重量部、特には約1〜4重量部の範囲内で用いるのが好ましい。
【0069】
また、共重合体微粒子(A)の水性分散液の製造において使用することができる保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;例えば、グアーガムなどの天然多糖類;などが挙げられる。
【0070】
これら保護コロイドの使用量もまた特に制限されるものではなく、その種類等に応じて変えることができるが、通常、得られる共重合体微粒子(A)100重量部に対して0〜3重量部程度の量を例示することができる。
【0071】
前記単量体成分の乳化重合は、重合開始剤を用いて行なわれる。使用しうる重合開始剤として、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩類;例えば、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、p−メンタンハイドロペルオキシドなどの有機過酸化物類;過酸化水素:などが挙げられ、これらは一種のみで、又は複数種組み合わせて使用することができる。
【0072】
上記重合開始剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、その種類や反応条件等に応じて広い範囲で変えることができるが、一般には、得られる共重合体微粒子(A)100重量部に対して約0.05〜1重量部、より好ましくは約0.1〜0.7重量部、特に好ましくは約0.1〜0.5重量部の如き使用量を例示することができる。
【0073】
また乳化重合に際して、所望により、還元剤を併用することができる。使用しうる還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖等の還元性有機化合物;例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物を例示することができる。これら還元剤の使用量もまた特に制限されるものではないが、一般には、得られる共重合体微粒子(A)100重量部に対して約0.05〜1重量部の範囲内を例示することができる。
【0074】
さらにまた、乳化重合に際して、所望により連鎖移動剤を用いることもできる。このような連鎖移動剤としては、例えば、シアノ酢酸;シアノ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類;ブロモ酢酸;ブロモ酢酸の炭素数1〜8のアルキルエステル類;アントラセン、フエナントレン、フルオレン、9−フエニルフルオレンなどの多環式芳香族化合物類;p−ニトロアニリン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、p−ニトロ安息香酸、p−ニトロフエノール、p−ニトロトルエン等の芳香族ニトロ化合物類;ベンゾキノン、2,3,5,6−テトラメチル−p−ベンゾキノン等のベンゾキノン誘導体類;トリブチルボラン等のボラン誘導体;四臭化炭素、四塩化炭素、1,1,2,2−テトラブロモエタン、トリブロモエチレン、トリクロロエチレン、ブロモトリクロロメタン、トリブロモメタン、3−クロロ−1−プロペン等のハロゲン化炭化水素類;クロラール、フラルデヒド等のアルデヒド類;例えば、n−ドデシルメルカプタン等炭素数1〜18のアルキルメルカプタン類;チオフエノール、トルエンメルカプタン等の芳香族メルカプタン類;メルカプト酢酸;メルカプト酢酸の炭素数1〜10のアルキルエステル類;2−メルカプトエタノール等の炭素数1〜12のヒドロキルアルキルメルカプタン類;ビネン、ターピノレン等のテルペン類;などを挙げることができる。
【0075】
上記連鎖移動剤を用いる場合のその使用量は、得られる共重合体微粒子(A)100重量部に対して、約0.005〜3重量部の範囲内が好ましい。
【0076】
以上に述べた乳化重合により形成される共重合体微粒子(A)が分散された水性樹脂分散液は、一般に、10〜70重量%、好ましくは30〜60重量%、さらに好ましくは40〜60重量%の範囲内の固形分を有することができ、また、粘度は通常、10,000mPa・s以下、特に約50〜5,000mPa・s(B型回転粘度計、25℃、20rpmによる;以下同様)の範囲内にあることが望ましい。
【0077】
また共重合体微粒子(A)の平均粒子径は、重合反応性のよさ、得られる水性樹脂分散液の機械安定性及び貯蔵安定性のよさ、被覆用組成物としたときの塗膜形成に際しての乾燥性のよさ、並びに、得られる塗膜の基材密着性のよさ等の観点から、50〜1000nmであるのが好ましく、100〜800nmであるのがより好ましく、150〜400nmであるのが特に好ましい。水性樹脂分散液中の該共重合体微粒子(A)の粒子径のコントロールは、例えば使用する界面活性剤の種類や量、さらには重合温度などを適宜選択することにより行うことができる。
【0078】
なお、本明細書において、共重合体微粒子(A)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値であり、具体的には「マスターサイザー2000」〔シスメックス(株)製〕を用いて測定された重量平均径である。
【0079】
上記水性樹脂分散液は、通常2〜10、特に5〜9の範囲内のpHを有することが望ましく、pH調節は例えばアンモニア水、アミン水溶液、水酸化アルカリの水溶液を用いて行うことができる。
【0080】
〔水性被覆用組成物〕
以上詳述した本発明の水性樹脂分散液は、前記のように、例えば自動車の床裏、タイヤハウス、ガソリンタンク等室外板金加工部材などに用いられる、耐チッピング性と共に、広い温度領域にわたる制振性をも兼備した水性被覆用組成物として好適に用いられる。
【0081】
このような水性被覆用組成物には、上記水性樹脂分散液中に分散している複合体粒子である共重合体微粒子(A)と共に、無機質充填剤(B)が含まれる。
【0082】
無機質充填剤(B)としては、実質的に水に不溶性ないし難溶性の無機質固体粉末、針状粉末、繊維状粉末、鱗片状、真球状の無機質物質、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、タルク、珪藻土、パーライト、水酸化アルミニウム、ガラス粉、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、セピオライト、マイカ、ウォラストナイト、ゼオライト等を使用することができる。また、必要に応じて、上記充填剤の表面処理したものを使用することもできる。これらの無機質充填剤(B)の配合量は、その種類や塗膜に対して望まれる物性等に応じて広い範囲で変化させることができるが、水性樹脂分散液に含有される共重合体微粒子(A)の合計100重量部に対して、一般に100〜390重量部、好ましくは110〜350重量部、さらに好ましくは120〜300重量部の範囲内とすることができる。
【0083】
本発明の水性被覆用組成物には、必要に応じて、防錆顔料及び着色顔料を含有させることができる。
【0084】
上記の防錆顔料としては、鉛丹;例えば、クロム酸亜鉛、クロム酸バリウム、クロム酸ストロンチウムなどのクロム酸金属塩;例えば、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、リン酸珪素、又は、これら金属のオルトもしくは縮合リン酸塩などのリン酸金属塩;例えば、モリブテン酸亜鉛、モリブテン酸カルシウム、モリブテン酸亜鉛カルシウム、モリブテン酸亜鉛カリウム、リンモリブテン酸亜鉛カリウム、リンモリブテン酸カルシウムカリウムなどのモリブテン酸金属塩;例えば、硼酸カルシウム、硼酸亜鉛、硼酸バリウム、メタ硼酸バリウム、メタ硼酸カルシウムなどの硼酸金属塩;等を例示することができる。これらの防錆顔料のうち、リン酸金属塩、モリブテン酸金属塩、硼酸金属塩などの無毒性又は低毒性防錆顔料が好ましい。
【0085】
防錆顔料の配合量としては、水性樹脂分散液に含有される共重合体微粒子(A)の合計100重量部に対して、例えば0〜50重量部、好ましくは5〜30重量部の範囲を例示することができる。
【0086】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、ハンザエロー、ベンジジンエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等の有機もしくは無機の着色顔料を挙げることができる。これらの着色顔料の配合量は、水性樹脂分散液に含有される共重合体微粒子(A)の合計100重量部に対して、例えば0〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部の範囲を例示することができる。
【0087】
なお、これら無機質充填剤、防錆顔料及び着色顔料の粒径は、得られる水性被覆用組成物の形成塗膜の平滑さなどの観点から、10〜50,000nmの範囲内にあるのが好ましい。
【0088】
本発明の水性被覆用組成物には、さらに必要に応じて、通常の水性塗料において用いられる各種の添加剤を含有させることができる。このような添加剤には、軽量化剤、粘度又は粘性調節剤、分散剤、消泡剤、融合助剤などの有機溶媒、老化防止剤、防腐剤・防黴剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加混合することができる。
【0089】
上記のさらなる添加剤としては、例えばシラスバルーン、ガラスバルーン、樹脂バルーン等の軽量化剤;例えばベントナイト、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂、界面活性剤系等の粘度又は粘性調節剤;例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤;例えば「ノブコスパース44C」〔商品名、ポリカルボン酸系分散剤、サンノブコ(株)製〕等の有機質分散剤;エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等の有機溶媒;消泡剤;老化防止剤;防腐剤・防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;などが使用できる。
【0090】
本発明の水性被覆用組成物は、それにより形成される塗膜中に占める総顔料(前記無機質充填剤、着色顔料及び防錆顔料等の合計量)の割合(以下、PWCと略記することがある)が、好ましくは50〜80重量%、より好ましくは55〜77重量%、さらに好ましくは60〜75重量%とするのがよい。該PWCの値が該下限値以上であれば、得られる被覆用組成物が優れた高温焼付性を有すると共に、該被覆用組成物に基づく塗膜の強度及び耐チッピング性が優れているので好ましく、該上限値以下であれば、該被覆用組成物が優れた高温焼付性を有すると共に、得られる塗膜の耐寒性、柔軟性及び耐チッピング性が優れているので好ましい。
【0091】
本発明の水性被覆用組成物は、特に限定されるものではないが、一般に、約40〜90重量%、好ましくは約50〜85重量%、特に好ましくは約60〜80重量%の範囲の固形分を含有し、pHは、通常7〜11、好ましくは8〜10の範囲であり、且つ約3,000〜100,000mPa・s、好ましくは約5,000〜50,000mPa・sの範囲の粘度をもつことができる。
【0092】
本発明の水性被覆用組成物を適用することができる基材は、特に限定されるものではなく、例えば、鋼板;例えば、鉛-錫合金メッキ鋼板(タンシート鋼板)、錫メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板、鉛メッキ鋼板、クロムメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板などの各種メッキ鋼板;電着塗装鋼板などの塗装鋼板(ED鋼板):等をあげることができる。
【0093】
本発明の水性被覆用組成物の塗装は、それ自体既知の塗装法、例えば、刷毛塗り、吹き付け塗装、ローラー塗装等により行うことができるが、一般にエアレス塗装が好適である。その際の塗装膜厚は、基材の用途等に応じて異なるが、通常、約500μm以上、特に約1000〜5000μmの範囲内が適当である。また、塗膜の乾燥は自然乾燥、加熱乾燥等により行うことができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例、比較例及び製造例によりさらに具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例において用いる試験片の作成及びその試験方法は次ぎのとおりである。
【0095】
(1)試験片の作製
JIS G−3141に定める自動車用鋼板に、日本ペイント(株)製のカチオン電着塗料「U−600」を用いて電着塗装した鋼板(ED鋼板)(寸法0.8mm×100mm×200mm)を基材して用い、これに以下の実施例及び比較例により得られる各水性被覆用組成物を、エアレス吹付け塗装法によって乾燥塗膜が500μmの厚さになるように塗装し、常温にて10分間放置後、80℃にて20分間乾燥し、次いで120℃にて60分間乾燥して試験片を作製した。
【0096】
(2)密着性試験
前(1)項で作製した試験片を、ゴバン目試験機〔スガ試験機(株)製〕を用いて、塗装表面から縦、横それぞれ2mm間隔で基材に達する深さのカット線も入れて1cm中に25個のゴバン目を作成した。このゴバン目に24mm幅のセロファンテープ〔ニチバン(株)製〕を貼付け、手で素早く180゜剥離を行い、塗膜に残存した目の数を数えて塗膜残存目数/25と表示した。残存する目数としては20以上であることが好ましい。
【0097】
(3)耐チッピング性試験
前(1)項で作製した試験片を、約25℃の恒温条件下に16時間放置した後、事務用カッターを用いて塗膜表面から基材に達する深さで、4cm中に縦10mm幅×横5mm幅のカットを入れた。試験片は、水平面に対して60゜の角度で立てかけて固定し、その塗面のカット部をめがけて、2mの高さから25mmφのポリ塩化ビニル製パイプを通してナット(M−4)を鉛直方向に連続して落下させ、基材の素地が露出したときの落下したナットの総重量で評価した。
耐チッピング性を示すナットの総重量は、30kg以上、さらには50kg以上であることが好ましい。
【0098】
(4)制振性試験
前(1)項において、ED鋼板の代わりにビーム(制振材料特性評価システム付属の測定試料作成用金属板)を用い、乾燥膜厚の膜厚を500μmとなるように作製する代わりに、2000μmとなるように作製する以外は前(1)項と同様にして試料を作製し、ASTM E756−83に準じ、制振材料特性評価システム「ダンプ・テスト(DAMP TEST)」〔(株)東陽テクニカ製〕を用いて、0℃、20℃、40℃及び60℃の各温度における損失係数〔ロス・ファクター(Loss Factor)〕を測定した。なお、測定は3dB法にて処理し、得られたデータは周波数140Hzに換算したものである。
各温度における損失係数は、何れも0.05以上、さらには0.07以上、特には0.10以上であることが好ましい。
【0099】
(5)高温焼付性試験(フクレ限界膜厚)
前(1)項における吹き付け塗装に当って、乾燥塗膜の厚さを変えて塗装を行い、室温にて10分間放置後、直ちに140℃にて60分間の乾燥を行い、フクレの生じない最大膜厚を求め、フクレ限界膜厚とした。
フクレ限界膜厚は1300μm以上であることが好ましく、1500μm以上であることが更に好ましい。
【0100】
(6)低温屈曲性
前(1)項で作製した試験片を、約25℃の恒温条件下に16時間放置した後、−30℃の冷凍庫中で最低2時間以上放置した。次いで、雰囲気温度−30℃で25mmφの金属パイプを用い、試験片を折り曲げた際の、折り曲げ部の状態を目視にて確認し、以下の基準により評価した。
◎・・・ 亀裂等、全く無し。
○・・・ 極微小なクラックが入る程度。
△・・・ 亀裂幅1mm未満のクラックが入る。
×・・・ 亀裂幅1mm以上の大きなクラックが入る。
【0101】
(7)耐チッピング用塗膜と制振性塗膜の総合評価
制振材料特性評価システム付属の測定試料作成用金属板であるビームの一方の面に、耐チッピング用塗膜形成用の被覆組成物をエアレス吹付け塗装法によって乾燥塗膜が1mmの厚さになるように塗装して、塗膜欠陥が生じないように定法に従い乾燥して耐チッピング用塗膜を形成し、その後ビームの他方の面に、制振性塗膜形成用の被覆組成物を、同様にエアレス吹付け塗装法により乾燥膜厚を変えて制振性塗膜を形成して試験片とする。得られた試験片を用い、前(4)項の制振性試験に準じた方法により、各温度における損失係数を測定し、各温度における損失係数が、0.10以上となるときの制振性塗膜の厚さを求め、その時の耐チッピング用塗膜と制振性塗膜の総重量を求めた。
【0102】
〔共重合体微粒子を含有する水性樹脂分散液の作製〕
実施例1
攪拌機、複数の液体及び気体原料供給装置、並びに温度計を備えたオートクレーブに、脱イオン水90重量部、界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1重量部及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB約16)1重量部を仕込み、窒素フローしながら70℃に昇温した。次に、芯部を形成するための単量体(芯部形成単量体)として、単量体(a11)である2−エチルヘキシルアクリレート(EHA)30.8重量部(芯部形成単量体の合計100重量%に基づいて44重量%)、単量体(a12)であるスチレン(St)16.8重量部(同24重量%)、単量体(a13)であるアクリル酸(AA)1.4重量部(同2重量%)、並びに単量体(a14)であるメチルメタクリレート(MMA)21重量部(同30重量%)を均一に混合した単量体混合液を第一の液体原料供給装置から、重合開始剤水溶液として過硫酸アンモニウム(APS)の5重量%水溶液6重量部を第二の液体原料供給装置から、それぞれ3時間かけて連続的に添加し、その後同温度で2時間保持して複合微粒子の芯部を形成するガラス転移温度(TgA1)約20℃のアクリル・スチレン系共重合体の水性分散液を得た。
【0103】
次いでこのアクリル・スチレン系共重合体の水性分散液に、殻部を形成するための単量体(殻部形成単量体)として、単量体(a22)であるスチレン(St)9重量部(殻部形成単量体の合計100重量%に基づいて30重量%)及びメチルメタクリレート(MMA)9重量部(同30重量%)を均一に混合した単量体混合液を第一の液体原料供給装置から、単量体(a12)である気体のブタジエン(Bd)12重量部(同40重量%)を気体原料供給装置から、そしてAPSの5重量%水溶液2重量部を第二の液体原料供給装置から、それぞれ1時間かけて連続的に添加してガラス転移温度(TgA2)約−27℃の殻部を形成させ、その後同温度で4時間熟成を行った後、苛性ソーダ水溶液にてpHを7〜8に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体を除去し、適量水を添加して複合体粒子である共重合体微粒子の水性分散液を得た。得られた共重合体微粒子の水性分散液は、固形分50.2重量%、pH7.5、粘度140mPa・s、平均粒子径210nmであった。
【0104】
実施例2〜7
実施例1において、芯部形成単量体として、EHA44重量部及びMMA30重量部を用いる代わりに、表1に示すようにこれらの単量体の使用比率を変え、又は単量体(a11)としてEHAを用いる代わりにブチルアクリレート(BA)を用いてその使用量を変える以外は実施例1と同様に重合して、共重合体微粒子の芯部を形成するガラス転移温度(TgA1)の異なるアクリル・スチレン系共重合体の水性分散液を得る以外は実施例1と同様にして、複合体粒子である共重合体微粒子の水性分散液を得た。
【0105】
得られた共重合体微粒子の芯部及び殻部のそれぞれの組成、Tg及び共重合体微粒子中に占める殻部の割合を表1に、得られた共重合体微粒子の水性分散液の固形分、pH、粘度及び平均粒子径を表2に示す。
【0106】
実施例8〜11
実施例1において、殻部形成単量体としてBd40重量部、St30重量部及びMMA30重量部を用いる代わりに、表1に示すような単量体を表1に示すような量で用いる以外は製造例1と同様に重合して、共重合体微粒子の殻部を形成するガラス転移温度(TgA2)の異なる共重合体微粒子の水性分散液を得た。
【0107】
得られた共重合体微粒子の芯部及び殻部のそれぞれの組成、Tg及び共重合体微粒子中に占める殻部の割合を表1に、得られた共重合体微粒子の水性分散液の固形分、pH、粘度及び平均粒子径を表2に示す。
【0108】
実施例12〜15
実施例1において、実施例1と同一組成の芯部形成単量体及び殻部形成単量体を用い、共重合体微粒子中に占める芯部の割合を70重量%とする代わりに、表1に示すように変え、それに伴って、芯部形成単量体の混合液及び5重量%APS水溶液4重量部、並びに殻部形成単量体の混合液及びの5重量%APS水溶液の添加時間を適宜変えて、芯部を形成する共重合体及び殻部を形成する共重合体をそれぞれ重合する以外は実施例1と同様にして、複合体粒子である共重合体微粒子の水性分散液を得た。
【0109】
得られた共重合体微粒子の芯部及び殻部のそれぞれの組成、Tg及び共重合体微粒子中に占める殻部の割合を表1に、得られた共重合体微粒子の水性分散液の固形分、pH、粘度及び平均粒子径を表2に示す。
【0110】
比較例1
攪拌機、還流冷却器および温度計を備えた反応容器に、脱イオン水90重量部、界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1重量部及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB約16)1重量部を仕込み、窒素フローしながら70℃に昇温した。次に、芯部を形成するための単量体(芯部形成単量体)として、単量体(a11)であるEHA30.8重量部(芯部形成単量体の合計100重量%に基づいて44重量%)、単量体(a12)であるSt16.8重量部(同24重量%)、単量体(a13)であるAA1.4重量部(同2重量%)、並びに単量体(a14)であるMMA21重量部(同30重量%)を均一に混合した単量体混合液と、重合開始剤水溶液としてAPSの5重量%水溶液6重量部を3時間かけて連続的に添加し、その後同温度で2時間保持して複合微粒子の芯部を形成するガラス転移温度(TgA1)約20℃のアクリル・スチレン系共重合体の水性分散液を得た。
【0111】
次いでこのアクリル・スチレン系共重合体の水性分散液に、殻部を形成するための単量体(殻部形成単量体)として、単量体(a22)であるSt3.6重量部(殻部形成単量体の合計100重量%に基づいて12重量%)及びMMA3.6重量部(同12重量%)、並びに単量体(a23)であるBA22.8重量部(同76重量%)を均一に混合した単量体混合液と、APSの5重量%水溶液2重量部とを1時間かけて連続的に添加してガラス転移温度(TgA2)約−28℃の殻部を形成させ、その後同温度で4時間熟成を行った後、苛性ソーダ水溶液にてpHを7〜8に調整し、水蒸気蒸留により未反応単量体を除去し、適量水を添加して複合体粒子である共重合体微粒子の水性分散液を得た。得られた共重合体微粒子の水性分散液は、固形分50.1重量%、pH7.3、粘度160mPa・s、平均粒子径220nmであった。
【0112】
参考例1
比較例1で用いたと同様の反応容器に、脱イオン水90重量部、界面活性剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム1重量部及びポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB約16)1重量部を仕込み、窒素フローしながら70℃に昇温した。次に、単量体としてEHA44重量部、St24重量部、AA2重重量部、並びにMMA30重量部を均一に混合した単量体混合液と、重合開始剤水溶液としてAPSの5重量%水溶液8重量部を4時間かけて連続的に添加し、その後、同温度で2時間保持して、均質粒子であるガラス転移温度約20℃のアクリル・スチレン系共重合体微粒子の水性分散液を得た。得られた共重合体微粒子の水性分散液は、固形分50.1重量%、pH7.3、粘度160mPa・s、平均粒子径220nmであった。
【0113】
参考例2
参考例1において、表1に示すとおりに単量体の組成を変更した以外は参考例1と同様にして、均質粒子であるガラス転移温度約−28℃のアクリル系共重合体の水性分散液微粒子を得た。得られた共重合体微粒子の水性分散液は、固形分50.2重量%、pH7.2、粘度120mPa・s、平均粒子径250nmであった。
【0114】
なお、表1において用いられる単量体の略号は次のとおりである。
EHA:2−ヘキシルアクリレート
BA:n−ブチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
AA:アクリル酸
Bd:ブタジエン
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】


〔水性被覆用組成物の作製〕
【0117】
実施例21
殻部にBdを共重合した複合粒子である、実施例1の共重合体微粒子水性分散液199.2重量部(固形分で約100重量部)、分散剤として「ノブコスパース44C」〔サンノプコ(株)製、ポリカルボン酸系分散剤〕2.0重量部(固形分約0.88重量部)、消泡剤として「ノプコ8034L」〔サンノプコ(株)製〕0.2重量部、無機質充填剤として重質炭酸カルシウム100重量部及び軽質炭酸カルシウム50重量部、着色顔料としてカーボンブラック3重量部、並びに防錆顔料としてメタ硼酸バリウム7重量部を、ティスパーを用いて均一に分散させ、次いで界面活性剤系の増粘剤として「アデカノールUH−472」〔旭電化(株)製〕0.5重量部及び「ノプコ8034L」0.2重量部を加えてさらに攪拌して、塗膜中に占める総顔料(炭酸カルシウム、カーボンブラック及びメタ硼酸バリウムの合計量)の割合(以下、PWCと略記することがある)が約62重量%、固形分が71.6重量%、pH8.9で粘度が24000mPa・sの水性被覆用組成物を作製した。
【0118】
得られた水性被覆用組成物を用い、前記(1)〜(6)に従って各種塗膜物性試験を行った。該組成物の各種塗膜物性の測定結果を表4に示す。
【0119】
実施例22及び23
実施例21において、無機質充填剤、着色顔料及び防錆顔料の使用量を変え、必要に応じて、分散剤、消泡剤及び増粘剤の使用量を変える以外はほぼ実施例21と同様にして、水性被覆用組成物を作製し各種塗膜物性試験を行った。得られた水性被覆用組成物の配合組成及びその特性値(PWC、固形分、pH及び粘度)を表3に、各種塗膜物性の測定結果を表4に示す。
【0120】
実施例24〜28
実施例21において、実施例1の共重合体微粒子水性分散液を用いる代わりに、実施例2〜7の複合粒子殻部のガラス転移温度(TgA2)が同一で、複合粒子芯部のガラス転移温度(TgA1)が異なる共重合体微粒子の水性分散液を用いる以外は実施例21と同様にして、水性被覆用組成物を作製し各種塗膜物性試験を行った。該被覆用組成物の配合組成及びその特性値を表3に、各種塗膜物性の測定結果を表4に示した。
【0121】
実施例29〜32
実施例21において、実施例1の共重合体微粒子水性分散液を用いる代わりに、実施例8〜11の共重合体微粒子芯部のガラス転移温度(TgA1)が同一で、共重合体微粒子殻部のガラス転移温度(TgA2)が異なる共重合体微粒子の水性分散液を用いる以外は実施例21と同様にして、水性被覆用組成物を作製し各種塗膜物性試験を行った。該被覆用組成物の配合組成及びその特性値を表3に、各種塗膜物性の測定結果を表4に示した。
【0122】
実施例33〜36
実施例21において、実施例1の共重合体微粒子水性分散液を用いる代わりに、複合粒子の芯部と殻部の割合を変えて作製した実施例12〜15の共重合体微粒子水性分散液を用いる以外は実施例21と同様にして、水性被覆用組成物を作製し各種塗膜物性試験を行った。該被覆用組成物の配合組成及びその特性値を表3に、各種塗膜物性の測定結果を表4に示した。
【0123】
比較例21及び参考例21〜22
実施例21において、実施例1の共重合体微粒子水性分散液を用いる代わりに、殻部にBdを共重合しない複合粒子である比較例1の共重合体微粒子水性分散液、又は均質粒子である参考例1もしくは2の共重合体微粒子水性分散液を用いる以外は実施例21と同様にして、水性被覆用組成物を作製し各種塗膜物性試験を行った。該被覆用組成物の配合組成及びその特性値を表3に、各種塗膜物性の測定結果を表4に示した。
【0124】
【表3】

【0125】
【表4】




【0126】
〔耐チッピング用塗膜と制振性塗膜の総合評価〕
実施例41
前記試験法(6)に従って、耐チッピング用塗膜と制振性塗膜の総合評価を行った。耐チッピング用塗膜形成用の被覆組成物及び制振性塗膜形成用の両方の被覆組成物として、前記実施例21で作製した組成物を用いた。評価の結果を表5に示す。
【0127】
実施例42
実施例41において、制振性塗膜の膜厚を実施例41より少し厚くする以外は実施例41と同様にして総合評価を行った。評価の結果を表5に示す。
【0128】
実施例43
実施例41において、制振性塗膜形成用の被覆組成物だけを参考例21で作製した組成物を用いる以外は実施例41と同様にして総合評価を行った。評価の結果を表5に示す。
【0129】
比較例41
実施例41において、耐チッピング用塗膜形成用の被覆組成物として、ポリ塩化ビニルペーストレジン{鐘淵化学工業(株)製}50重量部及びブレンドレジン50重量部{日本ゼオン(株)製}、可塑剤としてジオクチルフタレート(DOP)100重量部、充填剤として炭酸カルシウム(平均粒径10μm)150重量部を混合したものを用いて、焼付を140℃、30分で行い、また制振性塗膜形成用の被覆組成物を参考例21で作製した組成物を用いる以外は実施例41と同様にして総合評価を行った。評価の結果を表5に示す。
【0130】
比較例42
実施例41において、耐チッピング用塗膜形成用の被覆組成物として、前記参考例22で作製した組成物を用い、制振性塗膜形成用の被覆組成物を参考例21で作製した組成物を用いる以外は実施例41と同様にして総合評価を行った。評価の結果を表5に示す。
【表5】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に分散された共重合体微粒子(A)を含有してなる水性樹脂分散液であって、該共重合体微粒子(A)が、アクリル−スチレン共重合体により構成される芯部(A−1)と共役ジエン共重合体により構成される殻部(A−2)からなる複合体粒子であることを特徴とする水性樹脂分散液。
【請求項2】
芯部(A−1)を構成するアクリル−スチレン共重合体のガラス転移温度(TgA1)が0〜50℃の範囲である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項3】
芯部(A−1)を構成するアクリル−スチレン共重合体が、下記単量体(a11)〜(a14)[但し、単量体(a11)〜(a14)の合計を100重量%とする]、
(a11)下記一般式(1)、
C=CHCOOR (1)
(但し、式中Rは炭素数4〜12の直鎖又は分枝アルキル基を示す)
で表され、その単独重合体のガラス転移点が−40℃以下であるアクリル酸エステル 20〜60重量%、
(a12)スチレン 5〜45重量%、
(a13)炭素数3〜5のα,β−不飽和モノ−又はジ−カルボン酸 0.3〜5重量%、
(a14)下記一般式(2)、
C=CRCOOR (2)
(但し、式中Rは水素又はメチル基、Rは炭素数1〜20の直鎖もしくは分枝アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す)
で表される上記(a11)以外の単量体 5〜65重量%、
の共重合体である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項4】
殻部(A−2)を構成する共重合体の(平均)ガラス転移温度(TgA2)が20℃以下である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項5】
殻部(A−2)のガラス転移温度(TgA2)が−50〜0℃の範囲である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項6】
芯部(A−2)を構成する共役ジエン共重合体が、下記単量体(a21)〜(a23)、
(a21)共役ジエン単量体、
(a22)単独重合体のガラス転移点が40℃以上のメタクリル酸エステル単量体、シアン化ビニル単量体及び/又は芳香族ビニル単量体、並びに、必要に応じて、
(a23)単量体(a21)及び(a22)と共重合可能で、該単量体(a21)及び(a22)以外の単量体、
の共重合体である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項7】
共役ジエン単量体(a21)がブタジエンである請求項6に記載の水性樹脂分散液。
【請求項8】
メタクリル酸エステル単量体、シアン化ビニル単量体及び/又は芳香族ビニル単量体(a22)が、スチレン及び/又はメチルメタクリレートである請求項6に記載の水性樹脂分散液。
【請求項9】
共重合体微粒子(A)を構成する芯部(A−1)/殻部(A−2)の重量比が、50/50〜90/10の範囲である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項10】
共重合体微粒子(A)の平均粒子径が150〜400nmの範囲である請求項1記載の水性樹脂分散液。
【請求項11】
共重合体微粒子(A)が乳化重合により形成される請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項12】
重合体複合微粒子が、芯部(A−1)となるアクリル−スチレン共重合体微粒子の存在下、水性媒体中で、殻部(A−2)を形成するための共役ジエンを含む単量体を乳化重合することにより形成される請求項11に記載の水性樹脂分散液。
【請求項13】
水性媒体中に分散された共重合体微粒子(A)を含む請求項1〜10の何れか1項に記載の水性樹脂分散液、及び無機質充填剤(B)を含有してなる水性被覆用組成物。
【請求項14】
無機質充填剤(B)が、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、タルク、珪藻土、パーライト、水酸化アルミニウム、ガラス粉、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、セピオライト、マイカ、ウォラストナイト及びゼオライトよりなる群から選ばれる請求項13記載の被覆用組成物。
【請求項15】
水性被覆用組成物が、さらに防錆顔料及び着色顔料を含有する請求項13記載の水性被覆用組成物。
【請求項16】
防錆顔料が、リン酸金属塩、モリブテン酸金属塩及び硼酸金属塩から選ばれる請求項15記載の被覆用組成物。
【請求項17】
水性被覆用組成物により形成される塗膜中に占める総顔料(防錆顔料、無機質充填剤及び着色顔料の合計量)の割合(PWC)が、50〜80重量%の範囲である請求項13記載の被覆用組成物。


【公開番号】特開2006−169380(P2006−169380A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363826(P2004−363826)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】