説明

水性製剤の増粘剤

【課題】ヒアルロン酸水溶液にグリセリン、グルコース等の非電解質を加えて増粘することは知られているが食塩などの電解質を含有する場合は適用できない。そのような制約を受けないヒアルロン酸水溶液の増粘剤の提供。
【解決手段】ホウ酸よりなるヒアルロン酸を溶解含有する水性製剤の増粘剤、ホウ酸を配合することを特徴とするヒアルロン酸水性製剤の増粘方法、及び粘度を増加したヒアルロン酸含有水性製剤の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒアルロン酸を溶解含有する水性製剤の増粘剤、増粘方法および増粘されたヒアルロン酸含有水性製剤の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は哺乳動物の結合組織に広く存在する高分子多糖で、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸が交互直鎖状に結合した構造を有し、水溶液は強い粘性を示すので、この性質を利用して白内障や緑内障の治療、角膜移植等の眼手術、変形性関節症、火傷等の処置に注入剤、注射剤や外用剤として用いられている。また眼組織表面の損傷、眼乾燥症候群の処置に点眼剤としても用いられている。ヒアルロン酸水溶液の粘性を利用するには該水溶液の粘度をできるだけ高くするのが望ましく、その目的でヒアルロン酸塩をグリセリンやグルコースのような非電解質で等張化した水に溶解した製剤が提案されている(特開昭58−57319号)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この製剤は食塩などの電解質を含有する製剤の場合には適用できず、実地の応用面における制約を免れない。本発明はそのような制約を受けることなく高粘度化されたヒアルロン酸水溶液を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはヒアルロン酸ナトリウムに塩化ナトリウム及びホウ酸を種々の割合で配合して等張水溶液を調製する場合ホウ酸の濃度を高くすると調製時の粘度が高くなることを発見した。
【0005】
本発明はこの知見に基づくもので、ホウ酸よりなるヒアルロン酸を溶解含有する水性製剤の増粘剤、ホウ酸を配合することを特徴とするヒアルロン酸を溶解含有する水性製剤の増粘方法、及びヒアルロン酸を溶解含有する水性製剤にホウ酸を配合することを特徴とする粘度を増加したヒアルロン酸含有水性製剤の製造法に関する。
【0006】
ヒアルロン酸およびホウ酸は遊離酸もしくは塩の形態で水に溶解し、水溶液中ではpHに従って相互に移行しうるので、本発明においては特記しない限りヒアルロン酸もしくはホウ酸として遊離酸型と塩型を総称するものとする。ヒアルロン酸としては分子量10万〜300万を有するものが一般に用いられる。
【0007】
ヒアルロン酸水溶液の粘度は経日的に次第に低下する傾向を示すが、ホウ酸を配合した場合は配合しない場合に比べ、溶液調製当初の粘度が増加するのみならず、経日後の粘度も、経日的な低下にもかかわらず著しい高粘度を保たせることができる。
【0008】
配合されるホウ酸の水溶液中における濃度は0.1〜3%、好ましくは0.5〜3%、より好ましくは1.5〜2.5%である。水性製剤には上記の成分のほかに、本発明の目的を達し得る限り他の薬効成分、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤を含有させることができる。他の薬効成分としては、たとえば抗菌剤、キレート剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗生物質、鎮痛剤、眼圧降下剤、免疫調節剤等があげられる。等張化剤としては、たとえば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、多価アルコール類等があり、緩衝剤としては、たとえば酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等、あるいはこれらの塩と対応する酸とが併用される。ホウ酸ナトリウムなどのホウ酸塩は緩衝剤としてのみならず増粘剤として作用させることもできる。
【0009】
本発明は、以下を提供する。
(項目1)
ホウ酸よりなるヒアルロン酸を含有する水性製剤の増粘剤。
(項目2)
ヒアルロン酸がナトリウム塩である上記項目1記載の増粘剤。
(項目3)
水性製剤がヒアルロン酸を0.001〜0.5重量%含有する上記項目1記載の増粘剤。
(項目4)
水性製剤のpHが5〜7.5である上記項目1記載の増粘剤。
(項目5)
ホウ酸を配合することを特徴とするヒアルロン酸を含有する水性製剤の増粘方法。
(項目6)
水性製剤がヒアルロン酸を0.001〜0.5重量%含有する上記項目5記載の方法。
(項目7)
ホウ酸が遊離酸として0.1〜5重量%配合される上記項目5記載の方法。
(項目8)
ホウ酸が遊離酸として0.5〜2重量%配合される上記項目6記載の方法。
(項目9)
ヒアルロン酸がナトリウム塩である上記項目5記載の方法。
(項目10)
水性製剤のpHが5〜7.5である上記項目5記載の方法。
(項目11)
ヒアルロン酸を含有する水性製剤にホウ酸を配合することを特徴とする粘度を増加したヒアルロン酸含有水性製剤の製造法。
(項目12)
ヒアルロン酸がナトリウム塩である上記項目11記載の製造法。
(項目13)
水性製剤のpHが5〜7.5である上記項目11記載の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によればヒアルロン酸水溶液にホウ酸を配合することにより簡易に溶液の粘度を上昇させることができ、経日後もなお高い粘度を保たせることができ、また必要に応じて電解質を加えることにより、粘度の調節も可能であるため、たとえば眼科手術時に用いる水性製剤に有利に用いられる。
【0011】
以下に実験例および実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
【0012】
実験例1
表1および表2の処方に従って水溶液を調製し、その粘度を経日的に測定した。結果を表3および表4に示す。
【0013】

【0014】

(表1と2のヒアルロン酸ナトリウムは分子量200万(株)資生堂製)
【0015】
以下の表3、表4および表7、表8において、

【0016】

【0017】

【0018】

【0019】

【0020】
表1、表2および表3、表4から明らかなようにホウ酸の配合量が増加するにつれて調製当初の粘度は増加し、経日後もその傾向は保持された。またグルコン酸クロルヘキシジンの併用でも上記の傾向は変わらなかった。
【0021】
実験例2
表5および表6の処方に従って水溶液を調製し、その粘度を経日的に測定した。結果を表7および表8に示す。
【0022】

(ヒアルロン酸ナトリウムは分子量200万(株)資生堂製)
【0023】

【0024】

〔ヒアルロン酸ナトリウムは分子量60〜120万(平均95.55万)、 (株)資生堂製〕
【0025】

【0026】

【0027】

【0028】

【0029】
表5の処方においては表1の処方に比べ、ヒアルロン酸ナトリウムが2倍に増量されているので、表7に示されるように水溶液の粘度も高くなっているが、ホウ酸の配合量が増加するにつれて調製当初の粘度は増加し経日後もその傾向は保持された。表6および表8から明らかなように、ヒアルロン酸ナトリウムの分子量が表5の場合の200万に比べ約半分に低下してもホウ酸の配合量が増加するにつれて上記の傾向は変わらなかった。また、pH5およびpH7.5についてもホウ酸の配合により当初粘度は増加した。
【実施例1】
【0030】
100 mL中
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01g
塩酸ナファゾリン 0.005g
マレイン酸クロルフェニラミン 0.05g
ホウ酸 1.5g
パラオキシ安息香酸メチル 0.02g
パラオキシ安息香酸プロピル 0.01g
塩酸 適量
滅菌精製水 適量(pH5.0)
【実施例2】
【0031】
100 mL中
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01g
アラントイン 0.005g
メチル硫酸ネオスチグミン 0.005g
フラビンアデニンジヌムレオチド 0.01g
イプシロンアミノカプロン 0.1g
ホウ酸 2.0g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量(pH7.5)
【実施例3】
【0032】
100 mL中
ヒアルロン酸ナトリウム 0.005g
塩化ナトリウム 0.5g
塩化カリウム 0.2g
ホウ酸 1.2g
乾燥炭酸ナトリウム 0.05g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量(pH7.0)
【実施例4】
【0033】
100 mL中
ヒアルロン酸ナトリウム 0.005g
パルミチン酸レチノール 100,000I.U.
ポリソルベート 80 0.2g
濃グリセリン 0.5g
ホウ酸 1.5g
エデト酸ナトリウム 0.05g
ホウ砂 適量
滅菌精製水 適量(pH7.0)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開昭58−57319号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載される発明。

【公開番号】特開2011−42682(P2011−42682A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242734(P2010−242734)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【分割の表示】特願平10−128658の分割
【原出願日】平成10年5月12日(1998.5.12)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】