説明

水性防汚塗料組成物

【課題】耐水性に優れ、長期にわたって防汚効果を持続でき、密着性に優れた塗膜を形成可能な、環境上好ましい水性防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】 少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物と、分散樹脂成分としてカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体とを含有する樹脂水性分散液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性を有する水性塗料組成物に関するものであり、より詳しくは、水中構築物や漁網、船底への海中生物および海藻類の付着を防止する塗膜を形成可能な水性防汚塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防汚塗料から形成される塗膜は、これに含まれる防汚薬剤成分が海中に溶出することによって防汚効果を発揮する。ロジン系化合物を使用した崩壊型防汚塗料から形成される塗膜は、長時間にわたって海中に浸漬されていると、徐々に溶出分が少なくなって、塗膜面が凹凸状となると共に不溶出分が多くなり、これに伴い海中生物等の生物の付着防止効果が著しく低下する。一方、自己研磨型塗料から形成される塗膜は、塗膜表面が徐々に表面更新し(自己研磨)、塗膜表面に常に防汚成分が露出することにより、長期の防汚効果が発揮される。これらの防汚塗料は、キシレンやアルコール等種々の有機溶剤が多量に含まれており、近年のVOC(Volatile Organic Compounds)問題から、これらに代わる水性防汚塗料が種々検討されている。
【0003】
例えば、特開昭60−237003号公報(特許文献1)及び特開平8−81524号公報(特許文献2)には、シリコーンエマルションを用いた水系防汚塗料組成物が開示され、特に特許文献2は、シリコーンエマルション中でエチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる複合樹脂エマルションを含む水系防汚塗料組成物が提案されている。
【0004】
特開2000−109729号公報(特許文献3)においては、樹脂分子中にカルボキシル基及び/又は金属カルボキシレート基を有し、かつエマルション重合によって得られる樹脂酸価が10〜300mgKOH/gの水性エマルション及び必要に応じて水性金属錯体(カルボン酸と2価以上の金属とを有する錯体)を含有する水性防汚塗料が提案されている。
【0005】
特開平9−52803号公報(特許文献4)においては、N−アルキルポリアミン化合物の塩の存在下で(メタ)アクリル系単量体を水性媒体中で乳化重合して得られる樹脂水性エマルションからなる持続性水中防汚剤が提案されている。
【特許文献1】特開昭60−237003号公報
【特許文献2】特開平8−81524号公報
【特許文献3】特開2000−109729号公報
【特許文献4】特開平9−52803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載されているようなシリコーンを含有した防汚塗料は、塗膜の低表面張力を海水中で長期間維持することを目的としているため、特に下地との密着性が悪いという問題がある。
【0007】
特許文献3には、水性エマルションのカルボキシル基が金属と金属カルボキシレートを形成しており、塗膜が海水に触れると塗膜表面の樹脂成分中の金属カルボキシレート基中の金属イオンが水中のナトリウムイオン等とイオン交換を起こして徐々に可溶化するため、長期にわたって防汚性を発揮できることが記載されている。しかし、塗膜を形成する樹脂は酸価が高く、またアンモニアが配位した水性金属錯体を多量に含んでいるため、塗膜の耐水性が低く、長期の防汚性の持続が不十分であり、塗膜の密着性にも問題がある。
【0008】
特許文献4では、酢酸等の酸と塩を形成させたポリアミン化合物を乳化剤として水性媒体中で乳化重合しており、ポリアミン化合物の塩がエマルションと化学的な結合を持っていないため、ポリアミン化合物の塩を通して塗膜が水を吸収しやすく、耐水性や密着性に問題がある。
【0009】
本発明の目的は、環境上好ましい水性防汚塗料組成物を提供するものであり、耐水性に優れ、長期にわたって防汚効果を持続でき、密着性に優れた塗膜を形成可能な水性防汚塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物と、樹脂成分としてカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体とを含有する樹脂水性分散液からなる水性防汚塗料組成物である。
【0012】
また本発明は、前記重合体が、さらにエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及び/又は重合性多価金属塩単量体単位を含む上記の水性防汚塗料組成物である。
【0013】
また本発明は、前記重合体が、さらにヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位及び/又はポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレート単位を含む上記のいずれかの水性防汚塗料組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐水性に優れ、長期にわたって防汚効果を持続でき、密着性に優れた塗膜を形成可能な水性防汚塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水性防汚塗料組成物は、少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物と、樹脂成分としてカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体とを含有する樹脂水性分散液からなる。この重合体としては、ビニル系重合体を好適に用いることができる。ここで、ビニル系重合体とは、炭素−炭素二重結合を持つ化合物(エチレン性不飽和単量体)を、その二重結合が開いて重合する、いわゆるビニル重合して得られる重合体をいう。
【0016】
本発明の水性防汚塗料組成物は、このような樹脂成分と有機ヒドラジン化合物とを含有することにより、塗膜の乾燥時に、樹脂成分中のカルボニル基と、樹脂水性分散液に配合される有機ヒドラジン化合物のヒドラジノ基との間で架橋反応が進行し、防汚持続性、耐水性、密着性に優れた塗膜が形成される。また、海水中では塗膜表層で架橋したヒドラジノ基が加水分解することにより、塗膜の自己研磨性が得られるため、密着性を損なうことなく防汚性を発現することができる。
【0017】
樹脂成分(重合体成分)中のカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量は、重合体を構成する単量体単位の合計を100質量部とするとき、0.5〜15質量部の範囲内にあることが好ましく、1〜10質量部の範囲がより好ましい。この含有量が0.5質量部以上であると、塗膜の防汚持続性、耐水性、密着性が向上し、15質量%以下であると、塗膜の耐水性を低下させることなく塗膜の自己研磨性と密着性をバランスよく得ることができる。
【0018】
カルボニル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン等が挙げられる。ビニルアルキルケトンとしては、炭素原子数4〜7個のビニルアルキルケトンが好ましく、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン等が挙げられる。その他、アルキル基の炭素数が1〜10の((メタ)アクリルオキシアルキル)プロパナール、(メタ)アクリルアミド、ピバリンアルデヒド、ダイアセトン(メタ)アクリレート、アセトニトリルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。重合反応性、架橋反応性を考慮に入れると、ダイアセトンアクリルアミド、アクロレイン、ビニルメチルケトンを使用することが特に好ましい。これらは必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
本発明の水性防汚塗料組成物の樹脂成分(重合体成分)は、その樹脂水性分散液の貯蔵安定性、配合安定性、塗膜の自己研磨性の点から、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及び/又は重合性多価金属塩単量体単位を含有することが好ましい。
【0020】
樹脂成分の重合体中のこれらの単量体単位の含有量は、重合体を構成する単量体単位の合計を100質量部とするとき、0.1〜10質量部の範囲内にあることが好ましく、0.5〜8質量部の範囲がより好ましい。この含有量が0.1質量部以上であると樹脂水性分散液の貯蔵安定性が向上し、本発明の水性ビニル系樹脂分散液とに顔料等を入れた場合、凝集物が発生するような問題を回避することができるとともに塗膜の自己研磨性が発現する。また、この含有量が10質量部以下であると、貯蔵安定性、配合安定性を低下させることなく自己研磨性と耐水性を向上することができる。なお、この含有量は、重合体が両方の単量体単位を含有する場合は、両方の単量体単位の合計含有量を示す。
【0021】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
重合性多価金属塩単量体としては、重合性を有するカルボン酸系多価金属塩、より具体的には、(メタ)アクリル酸金属塩構造を有するカルボン酸系金属塩を用いることができ、その金属としては、マグネシウム、亜鉛、銅等の多価金属が挙げられる。例えば、アクリル酸マグネシウム[(CH2=CHCOO)2Mg]、メタクリル酸マグネシウム[(CH2=C(CH3)COO)2Mg]、アクリル酸亜鉛[(CH2=CHCOO)2Zn]、メタクリル酸亜鉛[(CH2=C(CH3)COO)2Zn]、アクリル酸銅[(CH2=CHCOO)2Cu]、メタクリル酸銅[(CH2=C(CH3)COO)2Cu]等の(メタ)アクリル酸多価金属塩、酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、酢酸銅(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、モノクロル酢酸銅(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、モノフルオロ酢酸銅(メタ)アクリレート、プロピオン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、プロピオン酸亜鉛(メタ)アクリレート、プロピオン酸銅(メタ)アクリレート、カプロン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、カプロン酸亜鉛(メタ)アクリレート、カプロン酸銅(メタ)アクリレート、カプリル酸マグネシウム(メタ)アクリレート、カプリル酸亜鉛(メタ)アクリレート、カプリル酸銅(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル酸亜鉛(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル酸銅(メタ)アクリレート、カプリン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、カプリン酸亜鉛(メタ)アクリレート、カプリン酸銅(メタ)アクリレート、バーサチック酸マグネシウム(メタ)アクリレート、バーサチック酸亜鉛(メタ)アクリレート、バーサチック酸銅(メタ)アクリレート、イソステアリン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、イソステアリン酸亜鉛(メタ)アクリレート、イソステアリン酸銅(メタ)アクリレート、パルミチン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、パルミチン酸亜鉛(メタ)アクリレート、パルミチン酸銅(メタ)アクリレート、クレソチン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、クレソチン酸亜鉛(メタ)アクリレート、クレソチン酸銅(メタ)アクリレート、オレイン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、オレイン酸亜鉛(メタ)アクリレート、オレイン酸銅(メタ)アクリレート、エライジン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、エライジン酸亜鉛(メタ)アクリレート、エライジン酸銅(メタ)アクリレート、リノール酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リノール酸亜鉛(メタ)アクリレート、リノール酸銅(メタ)アクリレート、リノレン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リノレン酸亜鉛(メタ)アクリレート、リノレン酸銅(メタ)アクリレート、ステアロール酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ステアロール酸亜鉛(メタ)アクリレート、ステアロール酸銅(メタ)アクリレート、リシノール酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リシノール酸亜鉛(メタ)アクリレート、リシノール酸銅(メタ)アクリレート、リシノエライジン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、リシノエライジン酸亜鉛(メタ)アクリレート、リシノエライジン酸銅(メタ)アクリレート、ブラシジン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ブラシジン酸亜鉛(メタ)アクリレート、ブラシジン酸銅(メタ)アクリレート、エルカ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、エルカ酸亜鉛(メタ)アクリレート、エルカ酸銅(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸亜鉛(メタ)アクリレート、α−ナフトエ酸銅(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸マグネシウム(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸亜鉛(メタ)アクリレート、β−ナフトエ酸銅(メタ)アクリレート、安息香酸マグネシウム(メタ)アクリレート、安息香酸亜鉛(メタ)アクリレート、安息香酸銅(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸銅(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸マグネシウム(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸亜鉛(メタ)アクリレート、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸銅(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸亜鉛(メタ)アクリレート、キノリンカルボン酸銅(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸亜鉛(メタ)アクリレート、ニトロ安息香酸銅(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸亜鉛(メタ)アクリレート、ニトロナフタレンカルボン酸銅(メタ)アクリレート、プルビン酸マグネシウム(メタ)アクリレート、プルビン酸亜鉛(メタ)アクリレート、プルビン酸銅(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と他のカルボン酸と多価金属とからなる重合性複合多価金属塩が挙げられる。これらは、必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
これらの中でも、得られる重合生成物の透明性が高くなり美しい色調の塗膜が得られる観点から、亜鉛を含有するものが好ましい。特に、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、オレイン酸亜鉛(メタ)アクリレート、バーサチック酸亜鉛(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
本発明の水性防汚塗料組成物の樹脂成分(重合体)は、その樹脂水性分散液の配合安定性および塗膜の自己研磨性の点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位及び/又はポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレート単位を含むことが好ましい。
【0025】
樹脂成分の重合体中のこれらの単量体単位の含有量は、重合体を構成する単量体単位の合計を100質量部とするとき、0.1〜30質量部の範囲内にあることが好ましく、0.5〜20質量部の範囲がより好ましい。この含有量が0.1質量部以上であると樹脂水性分散液の配合安定性および塗膜の自己研磨性が向上し、30質量部以下であると、配合安定性を低下させることなく塗膜の自己研磨性と耐水性を向上することができる。なお、この含有量は、重合体が両方の単量体単位を含有する場合は、両方の単量体単位の合計含有量を示す。
【0026】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレー等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
ポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、(ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、(ポリプロピレングリコール−ポリテトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
本発明における樹脂水性分散液の樹脂成分(重合体)は、上述の3つのグループの単量体、すなわち、(1)カルボニル基含有エチレン性不飽和単量体、(2)エチレン性不飽和カルボン酸単量体及び/又は重合性多価金属塩単量体、(3)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び/又はポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレートのうち、単量体(1)の単位を必須成分とし、単量体(2)又は単量体(3)を併用することが好ましく、特に単量体(2)と単量体(3)の両方を併用することが好ましく、この併用によって、より一層優れた効果を得ることができる。
【0029】
本発明における樹脂水性分散液の樹脂成分(重合体成分)は、上述した3つのグループの単量体の単位に限定されず、必要に応じて、その他のエチレン性不飽和単量体(4)の単位を含有していてもよい。その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシルアクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;p−ヒドロキシシクロヘキシルアクリレート等のヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレート類;ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の他の(メタ)アクリル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪族ビニル化合物が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
上述のエチレン性不飽和単量体(4)の単位の樹脂成分中の含有量は、上記の単量体(1)、(2)及び(3)の単位を除く残分とすることができる。
【0031】
上述のエチレン性不飽和単量体(4)として、コストや重合性、所望の特性の点で、アルキル基の炭素数が1〜10のアルキル(メタ)アクリレートを好適に用いることができ、中でも親水性の高い炭素数が1〜4のアルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。炭素数が1〜4のアルキル(メタ)アクリレートの樹脂成分中の含有量は、重合体を構成する単量体単位の合計を100質量部とするとき、例えば45〜99.3質量部、特に62〜90質量部の範囲に設定することができる。所望の特性に応じて、炭素数が1〜4のアルキル(メタ)アクリレートと他のエチレン性不飽和単量体を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明における樹脂水性分散液の樹脂成分のガラス転移温度は、特に制約を受けないが、塗膜の非粘着性及び耐汚染性の点から、Foxの計算式により求められる計算ガラス転位温度(Tg)が−30℃以上であることが好ましく、−20℃以上がより好ましい。また、温冷繰り返し温度変化や凍結融解状態変化等の環境下での耐クラック性の点から70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0033】
ここで、Foxの式とは、共重合体のガラス転移温度(℃)についての下記の関係式である。
【0034】
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi))
(式中、Wiはモノマーiの質量分率、TgiはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す。ホモポリマーのTgの値は、日本化学会編「化学便覧 応用編」、改訂2版、丸善、1966年、に記載された値を使用することができる。
【0035】
本発明における樹脂水性分散液の樹脂成分は、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法の公知の重合法により重合させて得ることができる。特に、乳化重合法によりエマルション形態の水樹脂水性分散液を得ることが、水性防汚塗料としての貯蔵安定性、塗膜の硬度、耐水性、耐候性、耐汚染性等の諸物性の点から好ましい。
【0036】
乳化重合法によりエマルションを得るためには、例えば、界面活性剤の存在下、単量体混合物を重合系内に供給し、水溶性開始剤により重合を行わせる方法、また例えば、有機過酸化物とチオ硫酸ナトリウム等の還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤により重合を行わせる方法等の公知の方法を使用することができる。
【0037】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物;過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;無機過酸化物と亜硫酸水素ナトリウムまたはロンガリットの組み合わせ、有機化酸化物と硫酸水素ナトリウムまたはロンガリットの組み合わせ等に代表されるレドックス系触媒等が挙げられる。
【0038】
乳化重合法により得られるエマルションは、重合後、塩基性化合物の添加により系のpHを中性領域〜弱アルカリ性、すなわちpH6.5〜10.0程度の範囲に調整することで系の安定性を高めることができる。この塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0039】
樹脂水性分散液の樹脂成分の分子量を調整する場合には、分子量調整剤として、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いることで、その調整が可能である。
【0040】
また、樹脂水性分散液は、樹脂成分100質量部に対し、界面活性剤を0.1〜10質量部含むことが好ましく、0.5〜8質量部がより好ましい。界面活性剤が0.1質量部以上存在することによって、水水性防汚塗料としての貯蔵安定性が向上し、界面活性剤存在下に乳化重合する場合には重合時の安定性も向上する。また、界面活性剤を10質量部以下とすることによって、耐水性を損なうことなく十分な塗料化配合時の安定性、経時的安定性を得ることができる。
【0041】
この界面活性剤としては、従来の各種のアニオン性、カチオン性、またはノニオン性の界面活性剤、さらには高分子乳化剤が挙げられ、また、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、いわゆる反応性乳化剤も使用することができる。
【0042】
上述した各種方法で得ることができる樹脂水性分散液に、少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物を配合することによって、本発明の水性防汚塗料組成物を得ることができる。このような特定の構造を有する有機ヒドラジン化合物を配合することによって、塗膜の耐水性が上がり、特に優れた自己研磨性と密着性のバランス化を実現することができる。
【0043】
少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物の配合量は、樹脂水性分散液の樹脂成分100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲内であることが好ましく、0.5〜12質量部の範囲がより好ましい。この含有量が0.1質量部以上であると、塗膜の防汚持続性、耐水性、密着性が向上し、15質量%以下であると、塗膜の耐水性を低下させることなく塗膜の自己研磨性と密着性をバランスよく得ることができる。ヒドラジン残基としてはヒドラジノ基が挙げられる。
【0044】
この2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物としては、例えば、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン等の炭素数2〜15のアルキレン−ジヒドラジン化合物;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の炭素数2〜15のジカルボン酸のジヒドラジド;1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン、1−ヒドラジノカルボエチル−3−ヒドラジノカルボイソプロピル−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン等のヒダントイン骨格を有する有機ヒドラジン化合物が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。中でも親水性の最も高い1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントインが特に好ましい。
【0045】
また、この有機ヒドラジン化合物と樹脂水性分散液の樹脂成分との配合比は、この有機ヒドラジン化合物のヒドラジノ基1モルに対して、樹脂成分のカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位のカルボニル基が0.5〜4モルとなるように配合することがより好ましく、0.5〜3モルがより好ましく、1〜3モルがさらに好ましい。これにより、上述のように、塗膜の乾燥時に、カルボニル基とヒドラジノ基との間で架橋反応が進行し、塗膜の防汚持続性、耐水性、密着性が向上する。また、海水中では塗膜表層で架橋したヒドラジノ基が加水分解することにより、塗膜の自己研磨性と耐水性及び密着性とをバランスよく得ることができる。
【0046】
本発明の水性防汚塗料組成物は、通常、樹脂水性分散液中の固形分が20〜80質量%の範囲で使用される。
【0047】
本発明の水性防汚性塗料組成物は、必要に応じて、さらに他の防汚剤を配合してもよい。この防汚剤としては、要求性能に応じて適宜選択して使用することができ、例えば、亜酸化銅、チオシアン銅、銅粉末等の銅系防汚剤を始め、鉛、亜鉛、ニッケル等その他の金属化合物、ジフェニルアミン等のアミン誘導体、ニトリル化合物、ベンゾチアゾール系化合物、マレイミド系化合物、ピリジン系化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。より具体的には、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメイト、ジンクジメチルジチオカーバメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバメイ−ト、ロダン銅、4,5−ジクロロ−2−nオクチル−3(2H)イソチアゾロン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩、テトラメチルチウラムジサルファイド、Cu−10%Ni固溶合金、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピニールブチルカーバメイ−ト、ジヨードメチルパラトリスルホン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンツイミダゾール、ピリジン−トリフェニルボランを挙げることができる。
【0048】
本発明の水性防汚塗料組成物には、塗膜表面に潤滑性を付与し、生物の付着を防止する目的で、ジメチルポリシロキサン、シリコーンオイル等のシリコン化合物やフッ化炭素等の含フッ素化合物等を配合することができる。さらに、本発明の防汚性塗料組成物は、各種の顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤、可塑剤、他のエマルション樹脂、水溶性樹脂、粘性制御剤等を含有してもよい。
【0049】
本発明の水性防汚塗料組成物を用いた塗膜は、船舶や各種の漁網、港湾施設、オイルフェンス、橋梁、海底基地等の水中構造物等の基材表面に、直接に、もしくは下地塗膜を介して形成することができる。この下地塗膜としては、ウオッシュプライマー、塩化ゴム系やエポキシ系等のプライマー、中塗り塗料等を用いて形成できる。塗膜の形成方法は、基材表面あるいは基材上の下地塗膜の上に、水性防汚塗料組成物を、刷毛塗り、吹き付け塗り、ローラー塗り、沈漬塗り等の手段で塗布することができる。塗布量は、一般的には乾燥塗膜として10〜400μmの厚さになる量に設定できる。塗膜の乾燥は、通常、室温で行うことができ、必要に応じて加熱乾燥を行ってもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は重量基準である。
【0051】
<アクリルエマルション製造例>
(製造例A1)
下記表1に示される重合体組成に対応する単量体からなる単量体混合物100質量部、界面活性剤2質量部及び脱イオン水35質量部を十分に混合し、均一な乳化状態のプレエマルション(以下「PE液」と略す)を作製した。
【0052】
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に、脱イオン水70質量部、界面活性剤1質量部、PE液10質量部を投入し、反応容器の内温を80℃に昇温してから、過硫酸アンモニウム0.1質量部を脱イオン水1質量部に溶解したものを投入して1時間保った。これによりシード粒子を作製した。
【0053】
次にPE液の残りと、過硫酸ナトリウム0.2質量部を脱イオン水10質量部に溶解したものとを、反応容器の内温を80℃に維持しながら3時間かけて反応容器中に並行滴下し、滴下完了後、内温を80℃に2時間維持して反応を完結した。
【0054】
反応完結後、60℃まで冷却し、エマルションのpHが8〜10の間になるように28質量%アンモニア水溶液を添加した。
【0055】
反応容器の内温を60℃に維持して1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン2.5質量部を脱イオン水8質量部に溶解したものを反応容器に投入し、30分間攪拌して目的のエマルションA1を得た。得られたエマルションA1は、固形分45.1質量%、粘度980mPa・s、pH9.3、平均粒子径120nmであった。
【0056】
(製造例A2〜A9、B2〜B4)
製造例1と同様な方法で、下記表1に示される組成からなるエマルションA2〜A9、B2を作製した。得られたエマルションの、固形分、粘度、pHを下記表1に示す。
【0057】
(製造例B1)
下記表1に示される重合体組成に対応する単量体からなる単量体混合物100質量部、界面活性剤2質量部及び脱イオン水35質量部を十分に混合し、均一な乳化状態のPE液を作製した。
【0058】
攪拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に、脱イオン水70質量部、界面活性剤1質量部、PE液10質量部を投入し、反応容器の内温を80℃に昇温してから、過硫酸アンモニウム0.1質量部を脱イオン水1質量部に溶解したものを投入して1時間保った。これによりシード粒子を作製した。
【0059】
次にPE液の残りと、過硫酸ナトリウム0.2質量部を脱イオン水10質量部に溶解したものとを、反応容器の内温を80℃に維持しながら3時間かけて反応容器中に並行滴下し、滴下完了後、内温を80℃に2時間維持して反応を完結した。
【0060】
反応完結後、60℃まで冷却し、エマルションのpHが8〜10の間になるように28質量%アンモニア水溶液と脱イオン水6質量部を投入し、30分間攪拌して目的のエマルションB1を得た。得られたエマルションB1は、固形分44.8質量%、粘度320mPa・s、pH9.1、平均粒子径125nmであった。
【0061】
【表1】

【0062】
DAAm:ダイアセトンアクリルアミド、
t−BMA:ターシャリーブチルメタクリレート、
MMA:メチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸、
Zn(MAA)2:メタクリル酸亜鉛
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、
ブレンマー70PEP350B:ヒドロキシ(ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール)モノメタクリレート(商品名、日本油脂(株)製)、
i−BMA:イソブチルメタクリレート、
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、
n−BA:ノルマルブチルアクリレート、
VDH(アミキュアVDH):1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン(商品名、味の素ファインテクノ(株)製)、
ADH:アジピン酸ジヒドラジド、
サンノール NP−2030:アニオン系乳化剤(商品名、ライオン(株)製)、
アデカリアソープ SE−10N:反応型アニオン性界面活性剤(商品名、旭電化(株)製)。
【0063】
<水性防汚塗料組成物の作製>
次に、このようにして得られたエマルションA1〜A9を用いて、表2に示す配合割合により本発明の水性防汚塗料組成物(実施例1〜9)を調製した。また、エマルションB1〜B4を用いて、表2に示す配合割合により比較例1〜4の水性防汚塗料組成物を調製した。水性防汚塗料組成物の調製は下記方法に従って実施した。
【0064】
亜酸化銅196.3g、顔料分散剤(商品名:OROTAN SG−1、ローム&ハース(株)製)2g、消泡剤(商品名:サーフィノール DF−58、エアプロダクツ(株)製)0.3g、プロピレングリコール29.4g、脱イオン水34.3g、28質量%アンモニア水溶液1.8gを十分に混合した後、ガラスビーズを加えて高速分散機で30分間顔料分散を行い、次いでガラスビーズ等を300メッシュナイロン紗で濾別し、評価用ミルベースを得た。
【0065】
次に、エマルション40g(固形分45質量%基準)に対し、上記の評価用ミルベースを55g、造膜助剤(商品名:キョウワノールM、協和発酵(株)製)2g、増粘剤(商品名:RHEOLATE350、RHEOX(株)製)0.5gを混合し、十分に攪拌し、脱イオン水2.5gを加えて攪拌した。その後、再度300メッシュナイロン紗を用いて濾過を行い、水性防汚塗料組成物を得た。
【0066】
【表2】

【0067】
次いで、上記のとおり調製した各水性防汚塗料組成物を用いて、下記の要領で塗膜の消耗度試験、防汚性試験、耐水性試験、碁盤目剥離性試験(密着性試験)を行った。
【0068】
(1)塗膜の消耗度試験
各塗料組成物を、それぞれ50mm×50mm×2mm(厚さ)の硬質塩化ビニル板に、乾燥膜厚120μmになるようにアプリケーターで塗布して試験板を作製し、この試験板を海水中に設置した回転ドラムに取り付け、周速7.7m/sで回転させて6カ月間毎の消耗膜厚を12ヶ月測定した。その結果を表3に示した。
【0069】
(2)防汚性試験
各水性塗料組成物を、あらかじめ防錆塗料を塗布してあるサンドブラスト鋼板に、乾燥膜厚が120μmになるように塗布して試験板を作製し、この試験板を広島県広島湾内で24カ月間静置浸漬し、6カ月毎に付着生物の付着面積(試験板全面に対する面積比率(%))を調べた。その結果を表3に示した。
【0070】
(3)耐水性試験
あらかじめ防錆塗料を塗布してあるサンドブラスト鋼板上に、それぞれ実施例1〜9と比較例1〜4の水性防汚塗料組成物を乾燥膜厚が120μmになるように塗布して試験板を作製した。
【0071】
上記試験板を、滅菌濾過海水中に6カ月間浸漬した後、温度20℃の室温で1週間乾燥し、塗膜表面を観察した。
【0072】
クラックおよび剥離が全くないものを◎、クラックが一部しかないものを○、一部剥離があるものを△、クラックが生じて剥離が全面に生じているものを×と表示した。その結果を表に示した。
【0073】
(4)碁盤目剥離性試験
上記の耐水性試験と同様に作製した試験板を、滅菌濾過海水中に6カ月間浸漬した後、温度20℃の室温で1週間乾燥し、碁盤目剥離試験を行った。その結果を表3に示した。
【0074】
碁盤目剥離試験は、2mm間隔で基材まで達するクロスカットを入れ2mm2の碁盤目を25個作り、その上にセロテープ(登録商標)を貼り付け急激に剥がし、剥離した碁盤目の状態を判定した。
【0075】
碁盤目の剥離および碁盤目の角の剥がれも全くないものを◎とし、碁盤目の剥離はないが碁盤目の角だけが剥がれたものを○とし、剥離した碁盤目の数が1〜12個のものを△とし、剥離した碁盤目の数が13〜25個のものを×とした。
【0076】
【表3】

【0077】
樹脂成分にカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含まないエマルション(B2)を使用した水性防汚塗料組成物(比較例2)、及び分子中に少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物を含まないエマルション(B3、B4)を使用した水性防汚塗料組成物(比較例3、4)、樹脂成分にカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含有せず、且つ有機ヒドラジン化合物を含まないエマルション(B1)を使用した水性防汚塗料組成物(比較例1)については、長期防汚性が低く、また耐水性及び密着性も不十分であった。
【0078】
一方、エマルション中に、分子中に少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物が配合され、その樹脂成分にカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含むエマルションA1〜A9を使用した水性防汚塗料組成物(実施例1〜9)については、適度な塗膜の消耗度が見られ、長期防汚性が良好であり、また耐水性及び密着性も良好であった。特に、塗膜消耗度の大きい塗料組成物(実施例5、6及び7)については、耐水性及び密着性と長期防汚性とがバランスよく良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の塗料組成物は、海水中における耐水性に優れ、長期にわたって防汚効果を持続でき、密着性にも優れる塗膜を形成できるため、海水中で使用される部材に対する防汚剤として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物と、樹脂成分としてカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体とを含有する樹脂水性分散液からなる水性防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記重合体は、さらにエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及び/又は重合性多価金属塩単量体単位を含む請求項1に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記重合体は、さらにヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位及び/又はポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレート単位を含む請求項1又は2に記載の水性防汚塗料組成物。

【公開番号】特開2006−335891(P2006−335891A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162601(P2005−162601)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】