説明

水性防湿絶縁用コート剤、これを用いた電気・電子部品及びその製造方法

【課題】
本発明は、溶剤系タイプと同等の高い絶縁性を有するとともに絶縁コート剤を用いて絶縁処理が施された電気・電子部品を積み重ねた際にべたつきのない水性防湿絶縁用コート剤を提供する。
【解決手段】
アクリル系樹脂をからなる水性防湿絶縁用コート剤であって、該アクリル系樹脂が、(A)スチレン由来の構成単位、(B)炭素数3〜10のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位、及び(C)炭素数8〜15のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位からなる共重合体であり、かつ、該(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の配合割合が特定の範囲内にあることを特徴とする水性防湿絶縁用コート剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性防湿絶縁用コート剤、これを用いた電気・電子部品及びその製造方法に関する。特に、有機溶剤を使用することなく電気・電子回路基板に塗布し防湿絶縁用の被膜を設けることにより、電気・電子部品等に絶縁処理を施すことが可能な水性防湿絶縁用コート剤、これを用いた電気・電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器は、総じて小型軽量化及び高機能化の傾向にあり、これらの各種電気・電子機器に搭載されている実装回路基板には、湿気、ほこり等から保護する目的で絶縁処理が施されている。
従来、絶縁処理剤としてアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を、有機溶媒に溶解した溶剤系タイプのものが広く用いられていた。この溶剤系タイプにおいては有機溶媒が含有されているため、加熱乾燥させて塗膜を形成する際に、溶剤が大気中に飛散するという問題があった。
昨今の、環境配慮型の製品設計を考慮すると、有機溶剤を使用しないことが必須となっており、
有機溶媒を使用しない熱硬化型の防湿絶縁コート剤が数多く提案されている(例えば、特許文献1参照)
【0003】
また、同様の理由からUV硬化型の防湿絶縁用コート剤も数多く提案されている(例えば、特許文献2参照)が、粘度が高いために防湿絶縁用コート被膜が必要以上に厚くなってしまいコスト高になったり、複雑な形状の部分を均一な厚みの被膜で覆うことや微細な空間部分に十分に浸透することが難しく、いまだ十分に満足できるものが得られていない。更に既存の加熱乾燥設備のみならずUV照射装置も別途必要となるためコスト面でも必ずしも満足し得るものではなかった。
【0004】
また、電気・電子用に水系の絶縁用コート剤も提案されている(例えば、特許文献3参照)が、このものは高温高湿下における初期及び長期絶縁電気抵抗性については、いまだ十分に満足できるものではなかった。
【0005】
これらの課題を解決するために、本願出願人は、既に水系の絶縁用コート剤として、(A)スチレン由来の構成単位と、(B)(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を質量比で(A):(B)=1:1〜2:1で共重合させたアクリル樹脂を含有する水性防湿絶縁用コート剤を提案した(特許文献4参照)。このものは、従来の水系絶縁用コート剤と比較すると上記絶縁性において優れているものであったが、溶剤系タイプと比較するといまだ十分なものではなかった。更にこのものを用いて絶縁処理が施された電気・電子部品の表面にはべたつきがあるため、この電気・電子部品を積み重ねた際に貼りついてしまうことがあり作業性に劣るという欠点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−279459号公報
【特許文献2】特開2005−036026号公報
【特許文献3】特開2002−155230号公報
【特許文献4】特開2007−154005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の防湿絶縁用コート剤の有する欠点を克服し、溶剤系タイプと同等の高い絶縁性、特に高温高湿環境下における初期絶縁性と長期絶縁性に優れた水性防湿絶縁用コート剤、これを用いて絶縁処理が施された電気・電子部品及びその製造方法を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、水性防湿絶縁用コート剤に用いられるアクリル系樹脂として、スチレン由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位とを特定の割合で配合した共重合体を用いることにより絶縁性と作業性の双方を満足することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、以下の水性防湿絶縁用コート剤及びこれを用いた電気・電子部品を提供するものである。
【0009】
[1]アクリル系樹脂からなる水性防湿絶縁用コート剤であって、該アクリル系樹脂が、(A)スチレン由来の構成単位を有し、その配合割合が25〜60%、(B)炭素数3〜10のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有し、その配合割合が1〜50%及び(C)炭素数8〜15のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有し、その配合割合が20〜50%からなる共重合体であり、かつ、該(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の配合割合の総和が100であることを特徴とする水性防湿絶縁用コート剤。
[2][1]に記載の水性防湿絶縁用コート剤を用いて絶縁処理が施された電気・電子部品。
[3][1]に記載の水性防湿絶縁用コート剤を用いて電気・電子部品に塗布し、乾燥させた[2]に記載の絶縁処理が施された電気・電子部品の製造方法
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶剤系タイプと同等の絶縁性、特に高温高湿環境下における初期絶縁性と長期絶縁性を有し、水性防湿絶縁用コート剤を得ることができる。また、この水性防湿絶縁用コート剤は有機溶剤を含有していないため大気に有機溶剤が放出されることもなく、環境にやさしいものであるとともに溶剤型塗料の際使用されていた製造設備を新しい製造設備を導入することなく活用することができるため、コスト面でも有利なものである。この水性防湿絶縁用コート剤を塗布・乾燥させた電気・電子部品はべたつきがないため、この電気・電子部品を積み重ねた際に貼りついてしまうこともなく作業性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)を具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
[水性防湿絶縁用コート剤]
本発明の水性防湿絶縁用コート剤は、アクリル系樹脂を含有するものであり、前記アクリル系樹脂が(A)スチレン由来の構成単位と(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位とを特定の割合で配合した共重合体であることを特徴としている。なお、本明細書中、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルのことを示す。
【0013】
[アクリル系樹脂]
前記アクリル系樹脂は、(A)スチレン由来の構成単位と、(B)炭素数3〜10のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位と、(C)炭素数8〜15のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位とを有する共重合体であり、該(A)成分、該(B)成分及び該(C)成分の配合割合が質量比で特定の範囲にあることを特徴とするものである。
【0014】
[A成分]
本発明で用いられる(A)成分のスチレン由来の構成単位は、置換基を有してもよく、下記一般式(I)で表される構成単位である。
【0015】
【化1】

【0016】
(A)成分を有することにより、ガラス転移温度を所望の範囲に調整することが容易にすることができ、得られた塗膜のべたつきを抑えることができる。
【0017】
[B成分]
本発明で用いられる(B)成分としては、例えば、アクリル酸シクロプロピル、メタクリル酸シクロプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸ジシクロペンテニル、メタクリル酸ジシクロペンテニル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
(B)成分を有することにより、低温化での伸び性、絶縁性に優れたものとすることができる。なお、明細書中、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルのことを示す。
【0018】
[C成分]
本発明で用いられる(C)成分としては、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸ノニル、アクリル酸デシル基、メタクリル酸デシルアクリル酸ウンデシル基、メタクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。(C)成分を有することにより、被着体に対する密着性と成膜性、耐湿性に優れるものとすることができる。
【0019】
前記アクリル系樹脂中の、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の配合割合は、質量比として(A)成分が25〜60%、(B)成分が1〜50%、(C)成分が20〜50%の範囲であって、かつ該(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の配合割合の総和が100であることが好ましい。(A)成分の配合割合がこの範囲より少ないと電気抵抗性が低下し、この範囲を超えると乾燥後の塗膜が脆く、クラックが発生しやすくなる。また(B)成分の配合割合がこの範囲より少ないと絶縁性を確保することが困難となり、この範囲を超えると形成された塗膜がもろくなる。更に(C)成分の配合割合がこの範囲より少ないと被着体に対する密着性・成膜性が確保できなくなり、この範囲を超えると成膜後の塗膜表面のべたつきが顕著となる。
【0020】
前記アクリル系樹脂は、更に他の単量体由来の構成単位を有してもよい。他の単量体としては、ビニルエステル類、オレフィン類、クロトン酸類、イタコン酸類、マレイン酸類、フマル酸類、アクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、グリシジルエステル類、不飽和ニトリル類、多官能単量体、他各種不飽和酸から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせた単量体を挙げることができる。これらを使用すると、架橋剤と反応させることができ、凝集力を所望の範囲に調整することが可能となるからである。
【0021】
本発明の水性防湿絶縁用コート剤は、水を溶媒又は分散媒として前記アクリル系樹脂を含むコート成分をその水中に溶解又は分散させてなる水系の防湿絶縁用コート剤であるため、有機溶
媒を使用した場合と比較して、大気汚染等、環境負荷の少ないものである。
【0022】
また、前記アクリル系樹脂は電気・電子部品等に均一な塗膜の形成性の面から、水中にアクリル系樹脂の液状微粒子が均一に分散する水中油滴分散型のエマルジョン(以下、「アクリル系樹脂エマルジョン」という)であることが好ましく、特に連続相である水の中に多数の液状微粒子、好ましくは粒径が10〜1000nmの範囲であるものが好ましい。このアクリル系樹脂エマルジョンの構造としては、アクリル系樹脂に乳化剤が覆われた状態でもよいし、アクリル系樹脂が直接露出した状態でもよい。尚、アクリル系樹脂に乳化剤が覆われている場合のアクリル系樹脂エマルジョンの粒径は、乳化剤も含んだ全体の粒径である。尚、アクリル樹脂エマルジョンの合成方法については後述する。
【0023】
アクリル系樹脂のガラス転移温度(以下Tgという)は、樹脂の最低造膜温度(MFT)、耐熱性、高温での透湿性と関係がある。Tgが低すぎると、耐熱性が不足し、高温多湿下において絶縁性が低下する。更に、得られた塗膜表面がべたつく結果、作業性が低下する。逆にTgが高すぎると基板に対する防湿絶縁被膜の密着性が悪くなるとともに、被膜が脆くなり機械的強度が低下することがある。本発明においては、好ましいアクリル系樹脂粒子のTgは10〜40℃の範囲である。Tgが10℃未満である場合には、成膜後の塗膜にべたつきが生るからである。40℃を超えた場合には乾燥性が低下するため成膜性が低下するからである。塗膜のべたつき性と成膜性の観点から20〜30℃の範囲とするのが好ましい。
【0024】
アクリル系樹脂の質量平均分子量は、ポリスチレン換算で1万〜200万の範囲であることが好ましい。上記の範囲より小さい場合には、耐熱性が確保できず変色するからである。
【0025】
本発明の水性防湿絶縁用コート剤には、使用時に泡立ちしないように、消泡剤が含有されていることが好ましい。含有される消泡剤としては、疎水性粒子、破泡性ポリシロキサン及びポリグリコールの混合物が最適である。ここで、疎水性粒子とは、親水性液体中で異種の粒子として働き、凝集力を低下させ泡の安定性を壊すのに役立つものである。具体的には、疎水性のシリカ、金属ステアレート、脂肪酸誘導体、ポリ尿素等を挙げることができる。また、破泡性ポリシロキサンとしては、消泡性を有する従来公知の各種のポリシロキサン化合物を用いることができる。これらの中でも常温で液状のオルガノポリシロキサンが好ましい。オルガノポリシロキサンとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン−ポリジフェニルシロキサンコポリマー等を挙げることができる。ここで、疎水性粒子、破泡性ポリシロキサン及びポリグリコールは、混合物にしてから添加して水性防湿絶縁用コート剤を形成してもよいし、別々に添加して水性防湿絶縁用コート剤を形成してもよい。これにより、本発明の水性防湿絶縁用コート剤を電気・電子部品等の表面に塗布するときに、発泡することなく表面全体により均一な防湿絶縁被膜を形成することができ、防湿絶縁性が高められるからである。水性防湿絶縁用コート剤を電気・電子部品等の表面に塗布するときに泡が形成されると、乾燥させたときにその泡が破れ、防湿絶縁被膜に孔が開いた状態になり、防湿絶縁性を維持することができないため、上述のような消泡機能を有する消泡剤が含有されることが好ましい。
【0026】
本発明の水性防湿絶縁用コート剤中の消泡剤の含有率は、水性防湿絶縁用コート剤全体の質量に対して、0.05〜2.0質量%が好ましい。0.05質量%より少ないと、消泡効果が低くなり、2.0質量%より多いと、水性防湿絶縁用コート剤を電気・電子部品等に塗布した場合、ハジキの発生や電気・電子部品等に対する防湿絶縁被膜の密着性低下の面で好ましくない。
【0027】
本発明の水性防湿絶縁用コート剤には、複雑な表面形状を有する被コート物、例えば電気・電子部品に塗布したときに、その複雑な構成の細部にまでコート剤を浸透させ、かつ被コート物の表面により均一な絶縁被膜を形成し、高い絶縁被膜を形成する目的で、界面活性剤が含有されてもよい。含有される界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等、各種の界面活性剤を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、複数種類を混合して使用してもよい。これらの中でも、陰イオン性界面活性剤が好ましい。陰イオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩及びその他のスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等を挙げることができる。これらの中でも特に、アルキルベンゼンスルホン酸塩及びその他のスルホン酸塩の一種である、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムが好ましい。界面活性剤の配合割合は、水性防湿絶縁用コート剤全体
の質量に対して、0.01〜5質量%の範囲である。
【0028】
本発明の水性防湿絶縁用コート剤中の全固形分量は、水性防湿絶縁用コート剤全体の質量に対し、15〜55質量%の範囲であり、これ以外は溶媒又は分散媒である水である。固形分量がこの範囲を超えると、水性防湿絶縁用コート剤の粘度が高くなり塗布性が低下するし、この範囲未満であっても、水性防湿絶縁用コート剤の粘度が低くなるため、やはり塗布性が低下するので
好ましくない。
【0029】
上記界面活性剤を使用するとともに、水性防湿絶縁用コート剤の粘度を5〜1000mPa・sとすることが好ましい。上記範囲より小さい場合には、粘度が低すぎてはじき等が発生するため、うまく塗装することができない。上記範囲を超えた場合には、粘度が高すぎるため、過剰に塗装されてしまい乾燥性が低下する。塗装性と乾燥性の観点から100〜800mPa・sの範囲にすることが好ましい。
【0030】
上記水性防湿絶縁用コート剤の粘度の測定方法は、回転粘度計を用い、25℃におけるコーンの回転開始から1分後の粘度を測定する。使用する回転粘度計は、B型回転粘度計で、No.4のコーンを使用し回転速度60rpmの条件で測定を行う。回転粘度計としては、例えば、東京計器社製のB型回転粘度計を使用することができる。
【0031】
[製造方法]
本発明の水性防湿絶縁用コート剤の製造方法について説明する。
【0032】
[アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法]
前記アクリル系樹脂エマルジョンは前記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び所望により添加される(A)成分、(B)成分、(C)成分を除く他の単量体由来の構成単位からなる成分を乳化重合させることにより製造することができる。
本発明において用いることが出来るラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル及びその塩酸塩、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系開始剤、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサド等の過酸化物系開始剤等を挙げることができる。
【0033】
ラジカル重合開始剤の使用量は、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び所望により添加される前記(A)成分、(B)成分、(C)成分を除く他の単量体由来の構成単位からなる成分の合計100重量部に対し0.05〜0.5重量部であることが重要であり、好ましくは0.1〜0.3重量部である。即ち、0.5重量部よりも多い量を用いると絶縁性の低下をきたす。また0.05重量部未満の量であると重合安定性に問題が生じる。
【0034】
本発明において使用される乳化剤は、従来から乳化重合で使用されているものをその使用目的に応じて適宜選択して用いることができる。例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩類、ジアルキルスルホサクシネートの塩類等のアニオン乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン乳化剤などを挙げることができる。これらの乳化剤は単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。形成される塗膜の高温高湿下における絶縁性を考慮すると反応性乳化剤を用いることが好ましい。
【0035】
反応性乳化剤の具体例としては、ビニルスルホン酸ソーダ、アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸アンモニウム、メタクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸ソーダ、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート、メタクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸ソーダ等のアニオン系反応性乳化剤、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン メタクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤などを挙げることができる。
【0036】
例えば、反応性乳化剤としては、アニオン型反応性乳化剤として、アクアロンHS−10、KH−10、 ニューフロンティアA−229E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープSE−3N、SE−5N、SE−10N、SE−20N、SE−30N〔以上、旭電化工業(株)製〕、AntoxMS−60、MS−2N、RA−1120、RA−2614〔以上、日本乳化剤(株)製〕、エレミノールJS−2、RS−30〔以上、三洋化成工業(株)製〕、ラテムルS−120A、S−180A、S−180〔以上、花王(株)製〕等を挙げることができ、ノニオン型反応性乳化剤として、アクアロンRN−20,RN−30,RN−50,ニューフロンティアN−177E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープNE−10、NE−20,NE−30、NE−40〔以上、旭電化工業(株)製〕、RMA−564,RMA−568,RMA−1114〔以上、日本乳化剤(株)製〕、NKエステルM−20G、M−40G、M−90G、M−230G〔以上、新中村化学工業(株)製〕等が挙げられ、非反応性乳化剤としては、1118S−70、エマ−ル10〔花王(株)製〕等を挙げることができる。
【0037】
乳化剤の使用量は、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び所望により添加される(A)成分、(B)成分、(C)成分を除く他の単量体由来の構成単位からなる成分の合計100重量部に対し0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることがより好ましい。即ち、5重量部を超えると耐水性の低下をきたす場合があり、また0.1重量部未満であると重合安定性に問題が生じる場合がある。
【0038】
アクリル系樹脂エマルジョン中のアクリル系樹脂の含有率は、15〜50質量%であることが好ましい。15質量%より低いと、濃度が低いため、水性防湿絶縁用コート剤中のアクリル系樹脂の含有率を所望の値にし難くなることがあり、50質量%より高いと、濃度が高いため、アクリル系 樹脂エマルジョンの製造が難しくなることがある。
【0039】
[水性防湿絶縁用コート剤の製造方法]
本発明の水性防湿絶縁用コート剤は、前記方法により重合されたアクリル樹脂エマルジョンに必要に応じて、消泡剤及び界面活性剤以外の添加剤、例えば、架橋剤、増粘剤、レベリング剤、防錆剤等の各種添加剤を加えた後、混合されることにより製造される。
【0040】
前記添加剤のうち、架橋剤は、アクリル系樹脂を架橋させ、アクリル系樹脂による塗膜の凝集力を高めることができる。このような架橋剤としては、アジリジン系架橋剤、ブロック型や自己乳化型のイソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、金属系架橋剤等を挙げることができる。これらの架橋剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。この架橋剤の配合割合は、アクリル系樹脂100質量部に対し、3〜25質量部の範囲である。また、架橋剤は、使用直前に水性防湿絶縁用コート剤の中に添加することが好ましい。架橋剤を予め添加しておくと架橋反応が進行してしまい、被膜形成性や塗布性の低下が見られるからである。
【0041】
さらに、本発明の水性防湿絶縁用コート剤の粘度を調整するために、前記添加剤の中から必要に応じ増粘剤を添加することができる。増粘剤としては、ポリアクリル酸塩、水溶性ウレタン樹脂等を用いることができ、その配合量は、アクリル系樹脂100質量部に対し、0.05〜5質量部である。
【0042】
[電気・電子部品]
本発明による電気・電子部品は、上述した水性湿絶縁用コート剤を用いて絶縁される電気・電子部品である。このような電気・電子部品としては、トランジスタ、コンデンサ、抵抗、リレー、トランス等、及びこれらを搭載した実装回路板などが挙げることができ、さらにこれら電気・電子部品に接合されるリード線、ハーネス、フィルム基板等も含まれる。
【0043】
また、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機エレクトロルミネッセンスパネル、フィールドエミッションディスプレイパネル等のフラットパネルディスプレイパネルの信号入力部等も、電気・電子部品として挙げることができる。
【0044】
[電気・電子部品の製造方法]
本発明の水性防湿絶縁用コート剤を用いて、電気・電子部品に防湿絶縁処理を施す方法としては、一般に知られている方法とすることができる。すなわち、スプレー法、浸漬法、刷毛塗り法などによって水性防湿絶縁用コート剤を電気・電子部品に、乾燥後の防湿絶縁用コート被膜の厚さが2〜50μmになるように塗布、乾燥すればよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各例における物性は以下の方法により、評価した。
【0046】
[水性防湿絶縁用コート剤による電圧印加防湿絶縁試験]
得られた水性防湿絶縁用コート剤(実施例1〜5、比較例1〜7、比較例4を除く)について、JIS Z 3197に準拠した方法で、電圧印加防湿絶縁試験を行った。具体的には以下の通りである。
【0047】
得られた水性防湿絶縁用コート剤のそれぞれを、ガラスエポキシくし型基板に、乾燥後の厚みが10μmになるようにディップコーティングし、85〜100℃で、加熱乾燥させた。このようにして、水性防湿絶縁用コート剤(実施例1〜5、比較例1〜7、比較例4を除く)により防湿絶縁処理を施した10枚のガラスエポキシくし型基板を作製した。
【0048】
得られた10枚のガラスエポキシくし型基板のそれぞれについて、以下の方法で防湿絶縁性を評価した。すなわち、ガラスエポキシくし型基板を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に放置した。そして、そのままの状態で5時間後、100時間後、500時間後及び1000時間後の恒温恒湿槽内での絶縁電気抵抗値を、測定時には印加電圧DC100Vで測定した。結果を表1に示す。尚、後述する成膜性の評価において×のものは本試験を実施しなかった。
【0049】
(べたつき性)
前記水性防湿絶縁用コート剤による電圧印加防湿絶縁試験において作製され、評価に供する前のガラスエポキシくし型基板の塗膜表面の状態を触診し以下の評価基準により評価した。結果を表1に示す。
○ :指につかない
× :指について塗膜が持ち上がる。
【0050】
(ガラス転移温度(℃))
測定対象のアクリル樹脂について、下記条件で示差走査熱量測定(DSC)を行い、ガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。
測定装置:MACサイエンス社製DSC3200S
サンプル量:10mg
測定雰囲気:空気雰囲気
昇温スピード:10℃/分
測定温度:−50℃〜200℃
【0051】
(成膜性)
前記水性防湿絶縁用コート剤による電圧印加防湿絶縁試験において作製され、評価に供する前のガラスエポキシくし型基板の塗膜表面の状態を目視にて観察し以下の評価基準により評価した。結果を表1に示す。
○:くし型電極に塗布したとき平滑な塗膜面である。
△:くし型電極に塗布したとき塗膜は形成されるものの凸凹が生じている。
×:くし型電極に塗布したとき塗膜が形成されず基盤表面が露出しているもの
【0052】
各実施例、比較例で用いた(A)成分、(B)成分及び(C)成分は以下のとおりである。
【0053】
(A)成分:スチレンである。
【0054】
(B1)成分:アクリル酸シクロヘキシルである。
【0055】
(B2)成分:メタクリル酸シクロヘキシルである。
【0056】
(C1)成分:アクリル酸2-エチルヘキシルである。
【0057】
(C2)成分:アクリル酸ラウリルである。
【0058】
(C3)成分:メタクリル酸ラウリルである。
【0059】
その他の成分1:アクリル酸ブチルである。
【0060】
その他の成分2:アクリル酸ステアリルである。
【0061】
実施例1
撹拌機、温度計、環流冷却管を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水272部入れ78℃にまで加温後、30分間窒素バブリングした。
また、別の容器にスチレン240部、アクリル酸シクロヘキシル20部、アクリル酸2−エチルヘキシル100部、アクリル酸ラウリル40部を混合し、モノマー混合物を得た。
イオン交換水200部に乳化剤アクアロンKH-10 8部を溶解したものと上記モノマー混合物をホモミキサーで乳化(3000rpm×10分)してプレエマルションを得た。
調製したプレエマルション30.4部と8%過硫酸アンモニウム5部をセパラブルフラスコに添加後、80℃で10分間保持しプレ重合を行った。その後、残りのプレエマルションを3時間かけて滴下し、滴下後は80℃にて3時間熟成した。冷却後、アンモニア水でpH7〜9に中和し、さらにイオン交換水を添加して不揮発分42%に調製した。200メッシュでろ過してアクリル系樹脂エマルジョンを得、これを本発明水性防湿絶縁用コート剤とした。
【0062】
実施例2〜6
表1に示す組成物をそれぞれ用い、実施例1と同様にして水性防湿絶縁用コート剤を作製した。これらの水性防湿絶縁用コート剤の物性を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
比較例1〜7
表1に示す組成物をそれぞれ用い、実施例1と同様にして水性防湿絶縁用コート剤を作製した。これらの水性防湿絶縁用コート剤の物性を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表1の結果から、実施例1〜5はいずれも10の10乗オーダーの絶縁性を有していることが分かる。特に、実施例3、4においては10の11乗オーダーのきわめて高い絶縁性を有していることが分かる。更に、べたつき性にも優れていることが分かる。
【0067】
表2に示す比較例は比較例4を除き、B成分を含有していないものである。この場合、べたつき性もしくは成膜性に劣ることがわかる。比較例4は、成膜性に劣るため絶縁性を評価することができないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
電気・電子部品の防湿絶縁処理に利用することができる。そして、本発明の水性防湿絶縁用コート剤を電気・電子部品等に塗布し、防湿絶縁被膜を形成させることにより、絶縁電気抵抗性が高く、作業性にも優れる電気・電子部品等を得ることができ、本発明の水性防湿絶縁用コート剤が水系であるため、有機溶剤の揮発による環境汚染がほとんどない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂からなる水性防湿絶縁用コート剤であって、該アクリル系樹脂が、(A)スチレン由来の構成単位を有し、その配合割合が25〜60%、(B)炭素数3〜10のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有し、その配合割合が1〜50%及び(C)炭素数8〜15のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有し、その配合割合が20〜50%からなる共重合体であり、かつ、該(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の配合割合の総和が100であることを特徴とする水性防湿絶縁用コート剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水性防湿絶縁用コート剤を用いて絶縁処理が施された電気・電子部品。
【請求項3】
請求項1に記載の水性防湿絶縁用コート剤を用いて電気・電子部品に塗布し、乾燥させた請求項2に記載の絶縁処理が施された電気・電子部品の製造方法。

【公開番号】特開2011−148868(P2011−148868A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9549(P2010−9549)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000108454)ソマール株式会社 (81)
【Fターム(参考)】