説明

水性難燃剤及び消臭性を有する水性難燃剤、並びに難燃性シート、難燃性ポリウレタン発泡体及び該難燃性ポリウレタン発泡体の製造方法

【課題】 本発明は、加工時や燃焼時に臭素系や塩素系の毒性ガスを発生することがなく、人体に対する安全性が確保され、しかも取扱いが簡便で、シートや成形体等に塗布し乾燥させるだけで難燃化することができ、ポリオ−ルとイソシアネート等の混合物に添加するだけでポリウレタン発泡体を難燃化することができる水性難燃剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の水性難燃剤は、グアニジン骨格を含む窒素化合物と、水溶性有機高分子と、親水基を有する多孔質無機微粒子とを少なくとも含む水性難燃剤であって、該窒素化合物の含有量が水100重量部に対して15重量部以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性難燃剤及び消臭性を有する水性難燃剤、並びに難燃性シート、難燃性ポリウレタン発泡体及び該難燃性ポリウレタン発泡体に関し、詳しくは可燃性の木材、紙、織物、不織布、合成樹脂シート、合成樹脂成形体等に塗布し乾燥させることにより防炎を可能にする水性難燃剤、及び難燃性と共に消臭性を有する水性難燃剤に関し、更に該難燃剤が塗布された紙、織物、不織布、合成樹脂などからなる難燃性シート、及び該難燃剤を含有する難燃性ウレタン発泡体及び該難燃性ウレタン発泡体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、天然の織物、合成樹脂製の織物、不織布などの繊維製品や、シート、合成樹脂成形体等の難燃化は、ハロゲン系や臭素系の難燃剤を用いて行われてきた。しかし、近年、加工時や燃焼時に発生する毒性ガスの問題、人体に対する蓄積性等の安全性の問題を解決することが要求されるようになってきている。
【0003】
また、ウレタン発泡体は、家具や自動車座席用等のクッション材、寝具用マットレス、枕、工業用シール材、防音材等の幅広い用途に用いられており、クッション材や家具やマットレス用途においては難燃性ウレタン発泡体が要求されている。
【0004】
ところが、前記のように毒性ガスの発生の問題、人体に対する蓄積性等の安全性の問題があることから、ハロゲン系や臭素系の防炎剤を用いることは好ましくない。そこで、難燃剤としてメラミン粉末やリン酸エステル系の難燃剤を用いることが提案されている(特許文献1)。しかし、メラミン粉末で難燃性を付与するには、メラミン粉末を多量に添加しなければならないことから、物性が低下し、例えば硬くなってしまうという問題が新たに発生してしまう。また、リン酸エステル系の難燃剤を添加すると、べたついたり、変色したりする発泡体になってしまうという問題が新たに発生してしまう。
【0005】
また、繊維製品やウレタン発泡体は日常生活において使用されるものであることから、難燃性と共に消臭性を有することが期待されている。この消臭性としては、アンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン等の悪臭と共に、悪臭である上に所謂シックハウス症候群を惹き起こすホルムアルデヒド等のアルデヒド類を除去することが要求されている。
【0006】
ところが、アンモニア等の除去に用いられてきた硫酸第一鉄などの消臭性金属塩は酸化されやすく、酸素が存在すると1日もたたないうちに酸化して錆びてしまい、消臭性を失ってしまうものである。この点を解決するために、消臭性金属塩を防錆化する手段として、L−アスコルビン酸を安定剤として添加することが提案され(特許文献2など)、更にL−アスコルビン酸より優れた安定剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加することが提案されている(特許文献3など)。
【0007】
これらの安定剤を用いれば硫酸第一鉄などの消臭性金属塩を防錆化することは可能であるが、より優れた安定剤を用いることにより、防錆化の程度を高めることが期待される。
【0008】
なお、消臭性金属塩はアンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン等との反応性には優れているが、アルデヒド類との反応性が低くアルデヒド類を除去することには不向きである。そこで、アンモニア等とアルデヒド類の双方を除去するために、消臭性金属塩とアジピン酸ジヒドラジドを併用することが行われてきた。しかし、アジピン酸ジヒドラジドは、室温雰囲気下であっても3ppm程度のアンモニアを常時発生してしまうという欠点を有し、この問題は、二価鉄塩などの消臭性金属塩と併用するだけでは、解決することができなかった。
【0009】
【特許文献1】特開2001−2749
【特許文献2】特開平2−211240号公報
【特許文献3】特許第3665970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、加工時や燃焼時に臭素系や塩素系の毒性ガスを発生することがなく、人体に対する安全性が確保され、しかも取扱いが簡便で、シートや成形体等に塗布し乾燥させるだけで難燃化することができ、ポリオ−ルとイソシアネート等の混合物に添加するだけでポリウレタン発泡体を難燃化することができる水性難燃剤を提供することを目的とする。更に、本発明は、該難燃剤を用いた難燃性シート及び、物性の低下がなくべたつくこともない難燃性ポリウレタン発泡体を提供することを目的とする。更にまた、本発明は難燃性と共に消臭性を有する水性難燃剤、消臭性を有する難燃性ポリウレタン発泡体、消臭性、帯電防止性、防曇性を有する難燃性ポリウレタン発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来においては、防炎助剤として用いられていたにすぎないグアニジン系窒素化合物が燃焼時に毒性ガスを発生することがなく、人体に対する危険性も小さいことに着目し、グアニジン系窒素化合物を難燃主剤として用いてシートや成形体等を難燃化することを試みた。その方法として、グアニジン系窒素化合物を主成分とする水性液体を作製し、この水性液体をシートや成形体等に塗布し乾燥させることによりグアニジン系窒素化合物でコーティングして、対象物の表面を窒素で覆うことにより難燃化することを試みた。しかし、この方法ではJIS Z2150の防炎3級程度の難燃性が得られただけであった。その原因は、グアニジン系窒素化合物は、酸性が強ければ水100重量部に対して15重量部以上溶けるが、pH4以上にすると再結晶して沈殿してしまい、水100重量部中には15重量部まで溶解させることはできないことから、防炎2級合格可能な難燃性を付与するのに充分な量のグアニジン系窒素化合物を均一に塗布することができないことにあると考えられた。
【0012】
そこで、本発明者は鋭意研究した結果、水溶性有機高分子(有機系増粘剤)と親水基を有する多孔質無機微粒子(無機系増粘剤)を合わせて用いることにより水性液体の粘度を高めると、15重量部以上のグアニジン系窒素化合物を水性液体中に溶解及び/又は均一に分散させることができ、その結果優れた難燃性を得ることができることを発見し、本発明の水性難燃剤に到達した。
【0013】
また、本発明の水性難燃剤を用いてポリウレタンを製造すれば、難燃性ポリウレタン発泡体を得ることができる可能性がある。しかし、多量の水分を含有する水性難燃剤が存在すると、ポリウレタンの発泡性が阻害されるので、ポリウレタン発泡体には、多量の水分を含む難燃剤をポリウレタンの製造時に含有させることはできないという、強い技術常識が存在した。そのため、殆ど全ての専門家(当業者)は、多量の水分の存存在下では、ポリオールとイソシアネートの良好な反応が阻害されると考えていた。
【0014】
しかしながら、本発明者が鋭意研究した結果、ポリオールと、イソシアネートと、本発明の水性難燃剤とを添加する順番を工夫すれば、驚くべきことに良好なポリウレタン発泡体を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明によれば以下に示す水性難燃剤、難燃性シート、難燃性ポリウレタン発泡体、該難燃性ポリウレタン発泡体の製造方法が提供される。
〔1〕下記一般式(1)で表されるグアニジン骨格を含む窒素化合物と、水溶性有機高分子と、親水基を有する多孔質無機微粒子とを少なくとも含む水性難燃剤であって、該窒素化合物の含有量が水100重量部に対して15重量部以上であることを特徴とする水性難燃剤。
【化2】

〔2〕消臭性金属塩と、リン酸アルカリ金属塩と、ヒドラジド化合物とからなる添加剤Aを含有し、消臭性を有する前記〔1〕に記載の水性難燃剤。
〔3〕前記消臭性金属塩が、硫酸第一鉄及び/又は硫酸亜鉛であり、前記リン酸アルカリ金属塩がリン酸カリウムであり、前記ヒドラジド化合物がアジピン酸ジヒドラジドであることを特徴とする前記〔2〕に記載の消臭性を有する水性難燃剤。
〔4〕有機酸及び/又は有機酸の金属塩を含有することを特徴とする前記〔2〕又は〔3〕に記載の消臭性を有する水性難燃剤。
〔5〕前記有機酸が、クエン酸、りんご酸、酒石酸の群から選択されることを特徴とする前記〔4〕に記載の消臭性を有する水性難燃剤。
〔6〕前記鎖状のグアニジン系窒素化合物がリン酸グアニジン及び/又はスルファミン酸グアニジンである前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の水性難燃剤。
〔7〕前記水溶性有機高分子が、ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーである前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の水性難燃剤。
〔8〕前記親水基を有する多孔質無機微粒子がホワイトカーボン(含水非晶質二酸化ケイ素)、合成ゼオライト、セピオライトの中から選択される前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の水性難燃剤。
〔9〕pHが4〜9である前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の水性難燃剤。
〔10〕メラミンイソシアヌレートを含有する請求項1〜9のいずれかに記載の水性難燃剤。
〔11〕前記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分がコーティングされたことを特徴とする難燃性シート。
〔12〕前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を含有することを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体。
〔13〕前記〔2〕〜〔10〕のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を含有し、消臭性を有することを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体。
〔14〕前記〔4〕〜〔10〕のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を含有し、消臭性、帯電防止性、防曇性を有することを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体。
〔15〕ポリオール成分とイソシアネート成分とを少なくとも含む混合物に前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の水性難燃剤を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体の製造方法。
〔16〕前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を粉末化してポリオール成分に添加し、該ポリオール成分とイソシアネート成分とを少なくとも含む混合物を、発泡剤の存在下で重合反応させることを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性難燃剤は、水溶性有機高分子(有機系増粘剤)と、親水基を有する多孔質無機微粒子(無機系増粘剤)により粘度が高められていることにより、pH4〜9の条件下で水100重量部に対して、15重量部以上のグアニジン骨格を含む窒素化合物が水性液体中に溶解及び/又は均一に分散しているので、可燃性の木材、紙、織物、不織布、合成樹脂シート、合成樹脂成形体などに1回塗布して乾燥させるだけで、これらを難燃化することができ、しかも火炎に曝されても毒性ガスを発生することがなく、人体にしても安全なものである。
また、本発明の難燃剤は、消臭性金属塩と、リン酸アルカリ金属塩と、ヒドラジド化合物とを添加することにより、難燃性と共にアンモニア類及びアルデヒド類に対する消臭性を有し、しかも二価鉄イオンを含有するにもかかわらず、防錆特性に優れ、長期間にわたって錆びが発生することがないものである。
また、紙、織物、不織布、合成樹脂シートなどのシートに本発明の難燃剤が塗布されたシートは、優れた難燃性を有し、火炎に曝されても毒性ガスを発生することがなく、配合によっては、消臭性、帯電防止性、防曇性を有するものとなる、
更にまた、本発明の難燃剤を含有するポリウレタン発泡体は、優れた難燃性、しかも火炎に曝されても毒性ガスを発生することがなく、しかも顕著な物性の変化がなく、べとつくことがなく、変色しないものである。更に、該ポリウレタン発泡体は、配合によっては消臭性、帯電防止性、防曇性を有するものとなる。
本発明の難燃性ポリウレタン発泡体の製造方法によれば、難燃剤が多量の水分を含有するにもかかわらず、優れた難燃性ポリウレタン発泡体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の水性難燃剤について詳細に説明する。
本発明の水性難燃剤は、下記一般式(1)で表されるグアニジン骨格を含む鎖状の窒素化合物(以下、単にグアニジン系鎖状窒素化合物ともいう。)を含有することにより、加熱されると窒素を放出し窒素リッチのガスで被燃焼物を包囲することにより、難燃性を示すものである。
【0018】
【化3】

【0019】
本発明の水性難燃剤は、塩素系や臭素系等のハロゲン系難燃剤を含有しない(ハロゲン系難燃剤は本発明の範囲から除かれる。)ことから、加工時や燃焼時に塩素系や臭素系等の毒性ガスを発生することがないものである。また、人体に対する蓄積性もない。なお、本発明はグアニジン系鎖状窒素化合物を難燃主剤として用いているが、グアニジン系鎖状窒素化合物は、従来においてはハロゲン系難燃剤の難燃助剤として用いられたものである。
【0020】
該グアニジン系鎖状窒素化合物としては、グアニジン骨格を有し、加熱されると窒素を放出するものであればいかなるものでも用いることができるが、例えば、グアニジン、グアジニノ基を有する化合物、グアニル尿素、グアナゾール、ジフェニルグアニジン、アルギニン等が挙げられる。これらの中では、入手しやすく、工業的に利用しやすいグアニジンが好ましい。該グアニジンとしては、グアニジンそのものを用いることもできるが、グアニジンが強アルカリ性であることから、取扱い安く、水に良く解け、pH4〜9の難燃性組成物を得やすいことから、グアニジンと無機酸からなるものが好ましい。具体的には、下記(2)式で表される塩酸グアニジン、下記(3)式で表される硝酸グアニジン、下記(4)式で表される炭酸グアニジン、下記(5)式で表されるスルファミン酸グアニジン、下記(6)式で表される燐酸グアニジン、下記(7)式で表される重炭酸アミノ塩酸グアニジン、下記(8)式で表される塩酸アミノグアニジン等が挙げられ、其の外にグアニル尿素とリン酸からからなる下記(9)式で表されるリン酸グアニル尿素等が挙げられる。
【0021】
なお、pH4〜9の水性難燃剤が好ましいのは、シートや繊維製品に塗布したり、合成樹脂製品やポリウレタン発泡体に含有させたりした場合に、強アルカリ性や強酸性の難燃性組成物は接触するものを損傷する危険性があるからである。、かかる観点から、難燃性組成物のpHは、好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8、更に好ましくは6.5〜7.5である。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
なお、上式においては、特定個数のグアニジン分子と各酸1分子が結合した構造のグアニジン系化合物が示されているが、本発明はこれに限定するものではない。即ち、本発明におけるグアニジン系鎖状窒素化合物には、グアニジンと酸の配合割合を変えることによりpHを調節する観点から、上式とは異なる個数のグアニジン分子と酸1分子とからなるものが含まれる。
【0031】
なお、これらのグアニジンと酸からなるグアニジン系鎖状窒素化合物は水溶性であるが、其の溶解度は、酸性が強い状態で水に多量に溶解していても、pHを4以上、さらに中性に近くすると低下する傾向がある。
【0032】
この傾向を踏まえて、前記のグアニジン系化合物の中では、得られる難燃性組成物をpHが4〜9、好ましくはpH5〜8、より好ましくは6〜8に調整しやすいことから、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジンが好ましい。
【0033】
前記リン酸グアニジンとしては、得られる難燃性組成物のpHを4〜9に容易に調整できることから、其の水溶液のpHは4〜11が好ましく、5〜10がより好ましく、6〜8が更に好ましく、6.5〜7.5が更に好ましい。
【0034】
前記スルファミン酸グアニジンとしては、得られる難燃性組成物のpHを4〜9に容易に調整できることから、其の水溶液のpHは4〜11が好ましく、6〜10がより好ましく、7〜9が更に好ましく、7.5〜8.5が更に好ましい。
【0035】
本発明の水性難燃剤におけるグアニジン系鎖状化合物の含有量は、水100重量部に対して15重量部以上、好ましくは20重量部以上である。15重量部未満では、JIS Z2150の防炎2級の難燃性が発現しない虞がある。なお、該含有量の上限は30重量部である。30重量部超では、グアニジン系化合物が水に均一に分散しない虞がある。なお、後述するように、有機酸を添加することにより50重量部のグアニジン系鎖状化合物を水に溶解させることができる。
【0036】
本発明の難燃性組成物は、前記グアニジン系鎖状窒素化合物と併用して、環状のアミノトリアジン系窒素化合物を含有することができる。殆どの場合、環状のアミノトリアジン系窒素化合物(以下、単にグアニジン系環状窒素化合物ともいう。)は水に不溶性である。
【0037】
本発明において、用いられるグアニジン系環状窒素化合物としては、下記(10)式で表されるホルモグアナミン、下記(11)式で表されるグアニルメラミン、下記(12)式で表されるシアノメラミン、下記(13)式で表されるアリールグアナミン、下記(14)式で表されるメラミン、下記(15)式で表されるアムメリン、下記(16)式で表されるアムメリド、下記(17)式で表されるメラム、下記(18)式で表されるメロン等が挙げられる。
これらの中では、高い温度での難燃化特性、難燃化特性に優れるという点で、メラミン、メロンが好ましい。
【0038】
リン酸グアニジンをはじめとする水溶性のグアニジン系鎖状窒素化合物は、200〜300℃の低温から難燃化特性を発揮するのに対し、環状のグアニジン系鎖状窒素化合物は、鎖状のものに比べると高温での難燃化特性、難燃化特性に優れ、特にメロンなどは600℃を超える高温で難燃化特性を発揮するので、グアニジン系鎖状窒素化合物とグアニジン系環状窒素化合物を併用することにより、低温から高温までの優れた難燃化特性を得ることができる。
【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

(13)式中、Rはアリール基を表す。
【0043】
【化16】

【0044】
【化17】

【0045】
【化18】

【0046】
【化19】

【0047】
【化20】

【0048】
グアニジン系鎖状窒素化合物とグアニジン系環状窒素化合物を併用する場合、グアニジン系鎖状窒素化合物100重量部に対して、グアニジン系環状窒素化合物10〜60重量部を添加することが好ましく、より好ましくは30〜40重量部である。環状のグアニジン系鎖状窒素化合物の含有量が10重量部以上であれば、高温での難燃化特性を発現することができ、60重量部以下であれば、風合いを大きく損なうことがない。
【0049】
本発明の水性難燃剤には、本来の効果を妨げない範囲で難燃性ホスホネート化合物を添加することにより、残塵を低減することができ、更にコストダウンを図ることができる。其の添加量は、前記グアニジン系鎖状窒素化合物100重量部に対して、10〜20重量部である。
【0050】
次に、本発明の水性難燃剤が含有する水溶性有機高分子について説明する。該水溶性有機高分子とは、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基、エーテル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ウレタン基などの極性基を有する有機高分子をいう。
【0051】
本発明で用いることができる水溶性有機高分子として、アラビアゴム、トラガカント、アラビノガラクタン、ローカストビーンガム(キャロブガム)、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード(マルメロ)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、アルゲコロイド、トラントガム等の植物系水溶性有機高分子、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系水溶性有機高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系水溶性有機高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系水溶性有機高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、セルロース末のセルロース系水溶性有機高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系水溶性有機高分子、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子、ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン系水溶性有機高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体系水溶性有機高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリル酸アミド等のアクリル系水溶性有機高分子、ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー等のウレタン系水溶性有機高分子等が挙げられる。

【0052】
本発明においては、水溶性有機高分子の中でも、ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーやカリボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)が好ましい。これらの水溶性有機高分子は粘性に優れ、後述する多孔質無機微粒子と併用して粘度を増大することにより、15重量部以上のグアニジン系鎖状化合物を水中に均一に分散することができる。更に、製膜性を有することから、後述するポリウレタン発泡体において、多孔質無機微粒子により発現する帯電防止性、防曇性を永続化させることができる。
【0053】
本発明で用いられるポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーの好ましい例としては、特公平1−55292号公報に開示されたものが挙げられる。このウレタンポリマーは、少なくとも3個の疎水性基を有し、且つこれらの疎水性基の少なくとも2個が末端基であり、これらの疎水性基は一緒にして全部で少なくとも20個の炭素原子を含み、これらの疎水性基は親水性ポリエステル基を通して連結されており、その分子量が10000〜200000のものである。
【0054】
このものは、少なくとも一種のポリエーテルポリオールからなる反応体(a)、少なくとも一種の有機ポリイソシアネートからなる反応体(b)、単官能活性水素含有化合物及び/又は有機モノイソシアネートから選ばれる少なくとも一種の単官能活性水素有機化合物からなる反応体(c)、少なくとも一種の多価アルール又は多価アルコールエステルからなる反応体(d)を用いて、次の反応の反応生成物として得ることができる。
1)少なくとも3個のヒドロキシル基を含むポリエーテルポリオールからなる反応体(a)と前記有機モノイソシアネートとの反応;
2)反応体(a)と2個のイソシアネート基を含む反応体(b)と前記単官能活性水素含有化合物との反応;
3)反応体(a)と少なくとも3個のイソシアネート基を含む反応体(b)と前記単官能活性水素含有化合物との反応;
4)反応体(a)と反応体(b)と前記有機モノイソシアネートとの反応;
5)反応体(a)と反応体(b)と前記有機モノイソシアネートと反応体(d)
【0055】
上記ポリエーテルポリオールの詳細については、特公平1−55292号公報を参照されたい。
【0056】
また、本発明においては、特開平9−67562号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平9−71766号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平9−110821号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平10−245541号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平11−199854号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開2000−239649号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開2002−226542号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーを用いることもできる。これらのポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーの詳細については、上記公報を参照されたい。
【0057】
本発明において好ましく用いられるポリエーテルポリオール系ウレタンの水溶性有機高分子であって、市販されているものとしては、(株)ADEKA製のアデカノールUH420が挙げられる。また、CMCとしては、市販されているものを用いることができる。
【0058】
水溶性有機高分子の含有量は、前記ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー(固形分を20重量%含有)の場合、水100重量部に対して、5〜30重量部、その下限は、好ましくは10重量部であり、その上限は、好ましくは20重量部である。
【0059】
次に、本発明の水性難燃剤が含有する、親水基を有する多孔質無機微粒子(以下、親水性無機微粒子ともいう。)について説明する。該親水性無機微粒子は親水性であって水を吸収することから、水中で増粘効果を示し無機系増粘剤として働くことができるものであり、疎水性の無機微粒子に親水化処理を施したものも含まれる。該無機微粒子は、前記水溶性有機高分子(有機系増粘剤)で増大した粘度を更に増加させることにより、グアニジン系鎖状窒素化合物を水中に均一に分散することができ、更にポリウレタンを発泡させる場合の気泡形成に好ましい作用を及ぼすことができる。また、親水性無機微粒子は、それ自体が不燃性であることにより、難燃性を更に向上させることができる。
【0060】
該親水性の無機微粒子としては、例えば、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩、二酸化ケイ素(シリカ)を主成分とするものが好ましく挙げられ、これらはセピオライト(含水ケイ酸マグネシウムを主成分とする天然の無機物)、ベントナイト(ケイ酸アルミニウムを主成分とする天然の無機物)、天然ゼオライト、合成ゼオライト(結晶中に微細孔を有するアルミノ珪酸塩)、ホワイトカーボン(含水非晶質二酸化ケイ素)等に含有されている。その他にも、マイカ、酸化ケイ素等の非晶質無機微粒子、酸化アルミニウムの微粒子、酸化チタンの微粒子が挙げられる。

【0061】
これらの中では、合成ゼオライト、ホワイトカーボン(含水非晶質二酸化ケイ素、SiO・nHO)、セピオライトが好ましい。合成ゼオライトは、多孔質で、吸水性に優れるので、増粘剤として機能する上に、グアニジン系鎖状窒素化合物や親水性有機高分子を吸収、吸着等により担持することがことができ、多数の水酸基を有するので、pH調整効果を有し、水性液中での分散性もよい。更に帯電防止性、防曇性も有するので、後述する帯電防止性、防曇性に優れるポリウレタン発泡体の製造に好適に用いることができる。更にまた、合成ゼオライトはスチレンモノマー、トルエンなどの芳香族系モノマーを吸着する性質を有するので、消臭剤としても機能する。
ホワイトカーボンは、吸収、吸着等によるグアニジン系鎖状窒素化合物の担持効果に優れ、水性液中での分散性もよく、更に帯電防止性、防曇性にも優れている。
セピオライトは、増粘性に優れる。
なお、ナトリウム四珪素雲母を元とする膨潤系マイカが増粘効果に優れることから好ましく用いられ、酸化アルミニウムのウィスカーも好ましく用いられる。
これらの無機微粒子は併用することができ、所望される粘度調整効果、pH調整効果、分散性、帯電防止性、防曇性を考慮して、配合を定めることができる。
【0062】
親水性の無機微粒子の平均粒径(レーザー散乱法により測定)は0.1〜20μmが好ましく、その上限は、より好ましくは10μmである。また、その下限は、より好ましくは1.0μmである。該平均粒径がこの範囲内のものは、水性液体の粘度の調整機能に優れ、グアニジン系鎖状窒素化合物の担持効果に優れている。
【0063】
本発明の水性難燃剤において、親水性無機微粒子の含有量は、ホワイトカーボンの場合、水100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。該含有量が少なすぎると、増粘効果が発現しない。一方、該含有量が多すぎると、粘度の増大効果が大きくなりすぎて、水性難燃剤を対象物に均一に塗布できなくなったり、均一に含有させることが難しくなったり、ポリウレタンの均一な気泡を形成できなくなったりする。
かかる観点から、水100重量部に対するホワイトカーボンの含有量の下限は、2重量部がより好ましく、3重量部が更に好ましい。一方、その上限は、8重量部がより好ましく、6重量部が更に好ましい。
【0064】
また、合成ゼオライトを親水性無機微粒子として使用する場合、その含有量は、水100重量部に対して1〜10重量部が好ましい。該含有量が少なすぎると、増粘効果やpH調整効果、帯電防止性、防曇性が発現しない虞がある。一方、該含有量が多すぎると、粘度の増大効果が大きくなりすぎて、水性難燃剤を対象物に均一に塗布できなくなったり、均一に含有させることが難しくなったり、ポリウレタンの均一な気泡を形成できなくなったりする。
かかる観点から、水100重量部に対する合成ゼオライトの含有量の下限は、2重量部がより好ましく、3重量部が更に好ましい。一方、その上限は、8重量部がより好ましく、6重量部が更に好ましい。
【0065】
本発明の水性難燃剤は、前記のように、水溶性有機高分子と、親水性無機微粒子とにより粘度が増大しているので、水100重量部に対して15重量部以上のグアニジン系鎖状窒素化合物を担持できることから、難燃性接着剤の製造や、ポリウレタン発泡体の製造に好適に用いることができる。該粘度が6,000cps以上であれば、発泡ポリウレタンを製造したりすることができる。一方、該粘度が30,000cps以下であれば、グアニジン系鎖状窒素化合物を繊維製品などに均一に塗布したり、合成樹脂中に均一に含有させたり、接着剤中に均一に含有させたりすることができ、ポリウレタンの発泡を阻害することもない。かかる観点から、25℃における粘度は、7,000〜25,000cpsがより好ましく、8,000〜20,000cpsが更に好ましく、10,000〜18,000cpsが特に好ましい。
【0066】
前記粘度の測定は、BM型粘度計(ローター:No4、回転数:60回転)により25℃において行うものとする。
【0067】
本発明の水性難燃剤は、メラミンイソシアヌレートを含有することができ、メラミンイソシアヌレートを含有する水性難燃剤は、後述するようにポリウレタン発泡体の製造に用いることにより、ポリウレタン発泡体の難燃性を更に向上させてJIS Z2150の防炎1級、更にはUL94のV0に合格可能にすることができ、ポリウレタン発泡体の硬さ、コシの強さを増大させることができる。
【0068】
メラミンイソシアヌレートの含有量は、所望されるポリウレタン発泡体のコシの強さ、難燃性によって定められ、グアニジン系鎖状窒素化合物100重量部に対して、メラミンイソシアヌレート60〜200重量部が好ましく、100〜170重量部がより好ましい。
【0069】
本発明の水性難燃剤には、添加剤Aを添加することにより消臭剤としての機能を持たせることができる。添加剤Aは、アンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン等を除去するための消臭性金属塩を含有し、消臭性金属塩の安定剤であると共にそれ自体がアンモニアなどに対する消臭性を有するリン酸アルカリ金属塩を含有し、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類を除去できるヒドラジド化合物を含有することが好ましい。
添加剤Aを含有する水性難燃剤は、添加剤A中の消臭性金属塩及びリン酸アルカリ金属塩が不燃性であることから、添加剤Aが添加された水性難燃剤は、JIS Z2150の防炎1級に合格可能な難燃性を有するものとなる。
【0070】
前記消臭性金属塩を構成する金属としては、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀などの遷移金属が主として挙げられ、その他にも鉛、アルミニウム、マグネシウムなどが挙げられる。これらの金属からなる塩の中では、二価鉄及び/又は亜鉛の塩がアンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン等の消臭特性に優れ、しかも安価であることから好ましく使用される。
【0071】
前記金属が二価鉄である塩には、無機酸塩及び有機酸塩が包含される。無機酸塩としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、臭化第1鉄、ヨウ化第1鉄等が挙げられる。有機酸塩としては、クエン酸第1鉄、りんご酸第1鉄、アスコルビン酸第1鉄、エチレンジアミンテトラカルボン酸(EDTA)第1鉄、乳酸第1鉄、没食子酸第1鉄、リンゴ酸第1鉄、フマル酸第1鉄等が挙げられる。二価鉄塩は、アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン、トリメチルアミン等の悪臭物質、酢酸臭、ニコチン代謝物としてのピリジンを分解・消臭する効果が優れており、更に帯電防止剤、親水化剤、難燃化剤、脱酸素剤としての作用を示すこともできる。なお、前記二価鉄塩の中では、安価に入手でき、安全性に優れる硫酸第一鉄が好ましい。
【0072】
前記金属が亜鉛である塩には、無機酸塩及び有機酸塩が包含される。無機酸塩としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛等が挙げられる。有機酸塩としては、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、クエン酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、フマル酸亜鉛、グリコール酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、グリセリン酸亜鉛、酒石酸亜鉛、アルミノケイ酸亜鉛等が挙げられる。亜鉛の塩は、アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタン、トリメチルアミン等の悪臭物質、酢酸臭、ニコチン代謝物としてのピリジンを分解・消臭する効果が優れており、更に帯電防止剤、親水化剤、難燃化剤、脱酸素剤としての作用を示すこともできる。なお、前記亜鉛の塩の中では、安価に入手でき、安全性に優れる硫酸亜鉛が好ましい。
【0073】
又、前記金属が銅である塩も消臭性金属塩として用いられる。銅化合物としては、例えば、硫酸銅等の無機亜鉛化合物、クエン酸銅、リンゴ酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、乳酸銅、グルコン酸銅、安息香酸銅、サリチル酸銅、グリセリン酸銅、酒石酸銅等が挙げられる。これらの中では、硫酸銅は水溶液中で青色に発色することから、着色剤としても用いることができる。
【0074】
又、前記金属がマグネシウムである塩も消臭性金属塩として用いられる。該マグネシウム塩は、前記二価鉄塩や亜鉛の塩に混合して用いることが好ましい。該マグネシウムの塩としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水酸化マグネシウム、硫酸ナトリウムマグネシウム、硫酸カリウムマグネシウム、炭酸水素カリウムマグネシウムが挙げられる。
【0075】
前記リン酸アルカリ金属塩は、不安定な消臭性金属塩を安定させる作用を有するものであり、難燃性も有している。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウムが挙げられ、より安定化作用(消臭性金属塩の錆の発生が防止される。)に優れるカリウムが好ましい。
なお、リン酸アルカリ金属塩の消臭性金属塩に対する安定性(防錆性)は、従来、硫酸第一鉄などの二価鉄塩に対して用いられてきた安定剤より、優れており、消臭性金属塩を長期間安定させることができるものである。
【0076】
なお、前記リン酸アルカリ金属塩には、リン酸の水素基が部分的にアルカリ金属に置き換わった部分中和塩が含まれる。例えば、リン酸カリウム(KPO)を例にとると、本発明におけるリン酸カリウムには、リン酸カリウム(KPO)、リン酸水素二カリウム(KHPO)、リン酸二水素カリウム(KHPO)が含まれ、具体的にはリン酸カリウム(KPO)とリン酸水素二カリウム(KHPO)からなる場合、リン酸水素二カリウム(KHPO)とリン酸二水素カリウム(KHPO)からなる場合が含まれ、その組成はpHによって定まる。なお、リン酸カリウム(KPO)の水溶液はpH11程度の強アルカリ性であり、pHが小さくなるほどリン酸水素二カリウム(KHPO)、更にリン酸二水素カリウム(KHPO)の含有量が大きくなる傾向がある。
【0077】
リン酸カリウムなどのリン酸アルカリ金属塩は、前記の通りpHによってその組成がかわるものである。このことは、リン酸アルカリ金属塩がアルカリ性や酸性の悪臭物質と反応できることを意味し、リン酸アルカリ金属塩自体が優れた消臭特性を有している。
【0078】
本発明で用いられる添加剤Aにおいては、消臭性金属塩1当量に対してリン酸アルカリ金属塩を5〜60当量含有することが好ましく、9〜40当量含有することがより好ましく、10〜30当量含有することが更に好ましく、13〜26当量含有することが特に好ましい。具体的には、硫酸第一鉄(7水塩)100重量部に対して、リン酸カリウムを300〜3000重量部含有することが好ましく、500〜2000重量部含有することがより好ましく、600〜1500重量部含有することが更に好ましく、700〜1300重量部含有することが特に好ましい。消臭性金属塩に対して、リン酸アルカリ金属塩の量が多すぎると、アンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン等の消臭特性が低下する虞があり、リン酸アルカリ金属塩の量が少なすぎると、リン酸アルカリ金属塩の安定性(防錆性)が低下する虞がある。
【0079】
なお、該添加剤Aにおいては、消臭性金属塩とリン酸アルカリ金属塩とは錯体を構成していると考えられる。例えば、硫酸第一鉄とリン酸カリウムを含有する水溶液をpH4〜10に調節し、これに二価鉄イオンの検知剤であるフェリシアン化カリウムを加えても、実質的な青色の発色を生じない。
【0080】
該添加剤Aは、前記のように二価鉄塩等の消臭性金属塩が結合体を形成しているにもかかわらず、アンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン等の悪臭性物質に対する反応性を示すことができる。従って、それらの悪臭性物質を含む空気を、添加剤Aを含有する水性難燃剤や、該水性難燃剤中の固形分に接触させると、アンモニアなどの悪臭性物質は消臭・難燃性組成物と反応して、空気中から除去されるので、アンモニアなどの悪臭性物質のない空気を得ることができる。
【0081】
本発明で用いられる添加剤Aは、ヒドラジド化合物を含有する。ヒドラジド化合物を含有する添加剤Aは、アルデヒド類を効果的に消臭できる上に、硫酸第一鉄や硫酸亜鉛等の消臭性金属塩の安定性が更に高められるものである。しかも、添加剤Aは、アジピン酸ヒドラジドなどのヒドラジド化合物が添加されていても、アンモニアを発生することがない。このように、消臭性金属塩の安定化(防錆化)とヒドラジド化合物からのアンモニアの発生の防止が同時に達成されることから、ヒドラジド化合物はリン酸アルカリ金属塩及び消臭性金属塩と結合体を形成すると考えられる。即ち、消臭・難燃性金属のイオンにリン酸アルカリ金属塩とヒドラジド化合物とが配位した錯体(キレート)が形成されていると考えられる。
【0082】
なお、従来のヒドラジド化合物が添加された消臭剤は、アルデヒド類を除去することはできても、アンモニアの発生を防止することができないので、消臭剤としては不適格なものであった。
【0083】
該ヒドラジド化合物としては、分子中に少なくとも1個のヒドラジド基を有する化合物の中から適宜選択することができる。例えば、分子中に1個のヒドラジド基を有するモノヒドラジド化合物、分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物、分子中に3個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物、又はこれらの混合物等を挙げることができる。
【0084】
モノヒドラジド化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(19)で表されるモノヒドラジド化合物を挙げることができる。
R−CO−NHNH (11)
[(11)式中、Rは水素原子、アルキル基又は置換基を有することのあるアリール基を示す。]
【0085】
上記一般式(11)において、Rで示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキル基を挙げることができる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。またアリール基の置換基としては、例えば、水酸基、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基等を挙げることができる。
【0086】
モノヒドラジド化合物の具体例として、ラウリン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0087】
ジヒドラジド化合物の具体例としては、例えば、下記一般式(12)で表わされるジヒドラジド化合物を挙げることができる。
NHN−X−NHNH (12)
[(12)式中、Xは基−CO−又は基−CO−A−CO−を示す。Aはアルキレン基又はアリーレン基を示す。]
【0088】
上記一般式(12)において、Aで示されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキレン基を挙げることができる。アルキレン基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば水酸基等を挙げることができる。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基等を挙げることができる。
【0089】
ジヒドラジド化合物の具体例として、炭酸とヒドラジンとの反応により生成するカルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド等の2塩基酸ジヒドラジド等が挙げられる。更に、特公平2−4607号公報に記載の各種2塩基酸ジヒドラジド化合物、2,4−ジヒドラジノ−6−メチルアミノ−sym−トリアジン等が挙げられる。
ポリヒドラジド化合物は、具体的には、ポリアクリル酸ヒドラジド等である。
【0090】
これらのヒドラジン化合物は1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0091】
好ましいヒドラジド化合物としては、水加ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、フェニルヒドラジン、2−ヒドロキシエチルヒドラジン、カルボ(ジ)ヒドラジド、酢酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジドが挙げられる。これらの中では、アルデヒド類との反応性に優れると共に二価鉄塩や亜鉛系等の消臭性金属塩の安定化に優れていることから、アジピン酸ジヒドラジドが特に好ましい。
【0092】
本発明で用いられる添加剤Aは、前記消臭性金属塩1当量に対して、ヒドラジド化合物をNHNH基換算で0.5〜5当量含有することが好ましく、1〜3.5当量含有することがより好ましく、1.4〜2.5当量含有すること更に好ましい。具体的には、硫酸第一鉄(7水塩)100重量部に対して、アジピン酸ジヒドラジド50〜250重量部を含有することが好ましく、70〜200重量部含有することがより好ましく、90〜150重量部含有することが更に好ましい。
消臭性金属塩に対して、ヒドラジド化合物の量が多すぎると、アンモニア等が発生してしまう虞があり、ヒドラジド化合物の量が少なすぎると、消臭性金属塩に対するヒドラジド化合物による防錆特性や、ヒドラジド化合物によるアルデヒド類の消臭特性が発現しない虞がある。
【0093】
なお、ヒドラジド化合物を含有する、本発明の消臭・難燃性組成物の水溶液をpH4〜10に調節し、これに二価鉄イオンの検知剤であるフェリシアン化カリウムを加えても、実質的な青色の発色を生じない。
【0094】
ヒドラジド化合物を含有する、添加剤Aは、ヒドラジド化合物が結合体を形成しているにもかかわらず、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類の悪臭性物質との反応性を示すことができる。同時に前記の通り、二価鉄塩が結合体を形成しているにもかかわらず、アンモニア、アミン、硫化水素、メルカプタン等の悪臭性物質に対する反応性を示すことができる。従って、アンモニアやホルムアルデヒド等の悪臭性物質を共に含む空気を、添加剤Aを含有する水性難燃剤、又は該水性難燃剤中の固形分に接触させると、これらの悪臭性物質は添加剤Aと反応して、空気中から除去されるので、これらの悪臭性物質のない空気を得ることができる。
【0095】
本発明で用いられる添加剤Aは、消臭性金属塩の安定性が更に高まることから、キレート剤を含有することが好ましい。
キレート剤としては、二価鉄イオンや亜鉛イオンなどの消臭性金属イオンに対してキレート化能を有するものであれば任意のものを用いることができる。このようなものとしては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン等のポリアミノカルボン酸又はその水溶性塩;エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)等のポリアミノリン酸又はその水溶性塩;クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸又はその水溶性塩、アルキルジホスホン酸又はその水溶性塩等が挙げられる。これらのキレート剤は、単独又は混合物の形で用いることができる。本発明においては、特に、EDTAやイミノ二酢酸等のポリアミノカルボン酸及びそれらの水溶性塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)の使用が好適である。
【0096】
添加剤Aにおけるキレート剤の含有量としては、消臭性金属塩1当量に対して0.001〜0.04当量が好ましく、0.007〜0.025当量がより好ましい。具体的には、硫酸第一鉄(7水塩)100重量部に対して、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム(EDTA−2Na)0.5〜5重量部が好ましく、1〜3重量部がより好ましい。

【0097】
本発明の水性難燃剤は、前記添加剤Aと共に有機酸を含有していることが好ましい。有機酸の用い方としては、添加剤AのpH調整剤として用いる態様と、燃焼時における炭化促進剤且つグアニジン系鎖状窒素化合物の溶解度向上剤、更に洗浄剤として用いる態様の二通りがある。
【0098】
有機酸を添加剤AのpH調整剤として用いることにより、pH6〜7の添加剤Aを容易に得ることができる。即ち、前記リン酸カリウムのpHは11であるのに対し、有機酸を添加剤Aに添加するとpH調整をしないでも、得られる添加剤AのpHを6〜7にすることができる。また、有機酸を添加剤Aに加えると、塩基性のアンモニア等に対する消臭性が向上する。有機酸の添加量は、消臭性金属塩100重量部に対して10〜60重量部が好ましく、20〜40重量部がより好ましい。
【0099】
有機酸を燃焼時における炭化促進剤且つグアニジン系鎖状窒素化合物の溶解度向上剤として用いることにより、燃焼時にグアニジン系鎖状窒素化合物に起因する窒素を多量に放出させ、窒素リッチの雰囲気下で有機酸により炭化被膜を形成することにより、滴下物着火を防止して、難燃性を向上させることができる。
【0100】
この有機酸による炭化促進機能により、有機金属酸を含有する水性難燃剤が塗布された繊維や、水性難燃剤中の固形分を含有するポリウレタン発泡体などは、炎に晒されると、グアニジン系鎖状窒素化合物に起因する窒素リッチの雰囲気下で炭化しながら収縮するようになる(炭化収縮)。従って、溶融物が燃えながら滴下することがないので(滴下物着火が起きない)、有機酸が添加された本発明の水性難燃剤を用いることにより、規格UL94の「V0」に合格可能な繊維製品やポリウレタン発泡体を得ることができる。
なお、有機酸は酸性が強いので、pH4〜9,、更にpH6〜7の水性難燃剤を得るには、有機酸の金属塩として用いることが好ましく、該金属としてはナトリウムやカリウムが挙げられる。
【0101】
また、有機酸は、pH4〜9、好ましくはpH6〜8の条件下で多量のグアニジン系鎖状窒素化合物を水に溶解させる効果を有している。具体的には、水100重量部にクエン酸ナトリウムを10重量部添加すると、リン酸グアニジン50重量部を溶解させることができる。従って、高度な窒素リッチの雰囲気を容易に達成することができ、難燃性を向上させることができる。
【0102】
有機酸の炭化機能は、次のメカニズムによるものであると考えられる。
難燃化の対象物が炎に晒されると、該難燃化対象物と有機金属塩を構成する有機金属塩とが、グアニジン系鎖状窒素化合物に起因する窒素リッチの雰囲気下で酸素と結合して燃焼し、炭酸ガスと水(水蒸気)と炭が生成し、炭の薄い層(炭化膜)が難燃化対象物の表面に形成される。この炭化膜は、酸素を通さず、燃えない膜であることから、難燃化対象物の燃焼が抑制され、しかも窒素リッチの雰囲気下であることから、優れた難燃化が達成され、該難燃化対象物から炎を遠ざけると炎が出なくなり、火が消える。更に、難燃化対象物が熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の場合、炭化膜の形成と同時に難燃化対象物の収縮(炭化収縮)が起きるので、溶融物が燃えながら滴下することがない(滴下物着火が起きない)。
なお、炭化収縮が起きるのは合成樹脂製品の場合であって、紙などの場合には、単に炭化は起きるが激しい収縮は起きない。
【0103】
本発明における有機酸とは、カルボン酸構造(R−COOH)を酸成分とする化合物をいい、脂肪酸(長鎖炭化水素の1価のカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、オキソカルボン酸を含み、更に不飽和脂肪酸やヒドロキシ基を併せ持つヒドロキシ酸(脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族オキシジカルボン酸、脂肪族オキシトリカルボン酸、芳香族オキシモノカルボン酸、芳香族オキシジカルボン酸、芳香族オキシトリカルボン酸等)等を含む。
【0104】
前記脂肪酸の具体例として、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、エナント酸(ヘプタン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデカン酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸、セタン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸が挙げられる。
【0105】
前記脂肪族オキシカルボン酸の具体例として、乳酸(オキシプロピオン酸)が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸の具体例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、ピメリン酸等が挙げられ、トリカルボン酸の具体例として、トリメリト酸、トリカルバリリル酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸の具体例として、安息香酸が挙げられ、芳香族ジカルボン酸の具体例として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、芳香族トリカルボン酸の具体例として、トリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)が挙げられ、芳香族ヘキサカルボン酸の具体例として、メリト酸が挙げられ、芳香族オキシカルボン酸の具体例として、サリチル酸、没食子酸が挙げられ、不飽和脂肪酸の具体例として、ケイ皮酸が挙げられ、脂肪族オキソカルボン酸の具体例として、ピルビン酸が挙げられ、脂肪族オキシジカルボン酸の具体例として、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられ、脂肪族オキシトリカルボン酸の具体例として、クエン酸が挙げられ、その他の不飽和脂肪酸やヒドロキシ酸などの具体例としてフマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、アミノ酸、ニトロカルボン酸が挙げられる。本発明においては、これらの中から選択された二以上の有機酸を混合したものを用いることができる。
【0106】
本発明における有機酸としては、前記の有機酸の中でも、日常的に用いられる繊維製品や、合成樹脂製品の難燃化に用いられることから、刺激臭、不快臭のないことが好ましい。また、窒素リッチな雰囲気下で前記の通り炭化機能を発揮するためには、酸素を30重量%以上含有するものが好ましく、より好ましくは40重量%以上であり、更に好ましくは50重量%以上である。なお、酸素の含有率の上限は70重量%程度である。この点から、2以上のカルボキシル基を含有するものや、オキシ基(水酸基)と2以上のカルボキシル基とを含有するものが好ましい。また、2以上のカルボキシル基を含有する有機酸はpHの緩衝性に優れるので、pH4〜9、好ましくはpH6〜8の水性難燃剤を容易に得ることができるので好ましい。
【0107】
酸素を30重量%〜40重量%含有する有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸が挙げられる。酸素を40重量%〜50重量%含有する有機酸としては、ピメリン酸、トリメリト酸、トリメシン酸、没食子酸、グルタル酸、アジピン酸、グリシン(アミノ酸)が挙げられる。50重量%以上含有する有機酸としては、乳酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、トリカルバリル酸、メリト酸、クエン酸、りんご酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸が挙げられる。
【0108】
また、これらの有機酸の内で、二個のカルボキシル基を有し、pHの緩衝性が期待されるものとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。三個のカルボキシル基を有するものとしては、クエン酸、アコニット酸、トリメリト酸、トリカリルバリ酸、トリメシン酸が挙げられる。六個のカルボキシル基を有するものとしては、メリト酸が挙げられる。
【0109】
更に、入手しやすさを考慮すると、クエン酸、りんご酸、酒石酸、シュウ酸が好ましく、食用としても用いられ安全性が高いことからクエン酸、りんご酸、酒石酸がより好ましく、pHの緩衝性が高く、優れた洗浄性を示すことからクエン酸が更に好ましい。
【0110】
前記クエン酸は3個のカルボキシル基と1個の水酸基を含み、カルボキシル基に起因する酸素含有率50重量%、全体の酸素含有率58重量%であり、りんご酸は2個のカルボキシル基と1個の水酸基を含み、カルボキシル基に起因する酸素含有率48重量%、全体の酸素含有率60重量%であり、酒石酸は2個のカルボキシル基と2個の水酸基を含み、カルボキシル基に起因する酸素含有率43重量%、全体の酸素含有率64重量%であり、シュウ酸は2個のカルボキシル基を含み、カルボキシル基に起因する酸素含有率51重量%、全体の酸素含有率51重量%である。
【0111】
本発明の水性難燃剤において、炭化促進剤且つグアニジン系鎖状窒素化合物溶解剤として有機酸を用いる場合、その含有量は、前記グアニジン系窒素化合物100重量部に対して20〜70重量部であることが好ましい。有機金属塩の含有量が少なすぎると、前記炭化作用、更に炭化収縮が起きない虞があり、多すぎる量を添加すると、難燃性組成物が塗布されたシートや繊維製品や難燃性組成物を含有するポリウレタン発泡体の風合いが悪くなるので好ましくない。
かかる観点から、有機金属塩の含有量の下限は、グアニジン系窒素化合物100重量部に対して20重量部が好ましく、より好ましくは35重量部である。また、其の上限は60重量部が好ましく、より好ましくは50である。
【0112】
本発明の水性難燃剤には、必要に応じて調色剤や抗菌剤を添加することもできる。また、後述するように、シートに塗布したり、ポリウレタン発泡体に含有させた場合の風合いをよくする為に界面活性剤を添加することもできる。
【0113】
次に、本発明の水性難燃剤の製造方法について、前記グアニジン系鎖状窒素化合物がリン酸グアニジンであり、水溶性有機高分子がポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーであり、親水性無機微粒子がホワイトカーボン、合成ゼオライトである場合について具体的に説明する。
【0114】
<製造例(1)>水性難燃剤の製造
65℃の熱水100重量部に、高速ミキサーを用いて良く攪拌しながら、リン酸グアニジン((株)三和ケミカル製のアピノン−303」2重量%水溶液のpH9)20重量部を添加して溶解、分散させ、次に、水溶性有機高分子としてポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー(株)ADEKA製のアデカノールUH−420(固形分20重量%)17重量部、親水性無機微粒子(例えば、東ソー・シリカ(株)製のホワイトカーボン:含水非晶質二酸化ケイ素「Nipall NS−P」)3.5重量部、親水性無機微粒子(三洋化学(株)製の「ゼオビルダー」)19重量部を順に添加し、良く攪拌しながら室温まで冷却することにより、本発明の水性難燃剤(pH8)を得た。なお、熱水の温度が100℃以下であれば、大気圧下で熱水を取扱うことができ、50℃以上であれば、グアニジン系鎖状窒素化合物を効果的に溶解及び/又は分散させることができる。熱水の温度は、グアニジン系鎖状窒素化合物を溶解、分散させやすいことから、その下限は60℃が好ましい。また、その上限は、取扱いやすいことから、80℃が好ましく、より好ましくは70℃である。
【0115】
なお、リン酸グアニジンの代わりにスルファミン酸グアニジン(例えば、(株)三和ケミカル製「アピノン−101」:1重量%水溶液のpH7.5)を用いることにより、前記と同様に水性難燃剤(pH7)を得ることができた。
また、親水性無機微粒子としてホワイトカーボン、ゼオビルダーの代わりにセピオライト10重量部を用いることにより、本発明の水性難燃剤(pH8)を得た。
このようにして得られた水性難燃剤はナイロンやポリエステルの繊維製品、ポリウレタン発泡体の製造に用いることができ、得られた繊維製品やポリウレタン発泡体にJIS Z2150の防炎2級に合格することができるものであった。更に、親水性無機微粒子としてホワイトカーボン、ゼオビルダーを用いたものは、後述するように帯電防止性、防曇性を付与することができた。
【0116】
次に、本発明で用いられる添加剤Aについて、前記消臭性金属塩が硫酸第一鉄であり、前記リン酸アルカリ金属塩がリン酸カリウムであり、前記ヒドラジド化合物がアジピン酸ヒドラジドである場合について具体的に説明する。但し、本発明はこの組合せに限定されるものではない。なお、添加剤Aと前記水性難燃剤とは別々に作製してから、両者を混合することにより添加剤Aが配合された水性難燃剤を製造することが好ましい。
【0117】
<製造例(2)>添加剤Aの製造
まず、室温においてリン酸75重量%水溶液1000gに水酸化カリウム900gを添加して、濃度71重量%、pH8のリン酸カリウム水溶液を作製した。なお、リン酸水溶液に対する水酸化カリウムの添加量が、得られる添加剤Aの水溶液のpHに対して支配的であることから、添加剤Aの水溶液のpHとして所望される値を基準として定めればよい。通常、pHは3〜9が好ましく、より好ましくは6〜8である。
なお、添加剤AのpHは、硫酸第一鉄が酸性であることから、リン酸カリウム溶液のpHより若干小さくなる傾向がある。リン酸カリウムの水溶液を保存する温度には特に制限はなく、室温程度でかまわない。
【0118】
次に、65℃の熱水500gに、高速ミキサーを用いて良く攪拌しながら、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)50gを溶解させた。次に、アジピン酸ジヒドラジド50gを加えて溶解させた。次に、室温程度の前記リン酸カリウム水溶液600gを添加し、攪拌しながら冷却した。
なお、熱水の温度は、硫酸第一鉄を溶解させやすいことから、その下限は60℃が好ましい。また、その上限は、取扱いやすいことから、80℃が好ましく、より好ましくは60℃である。
【0119】
なお、消臭性金属塩の安定性をより高める場合には、EDTAを添加することができる。
【0120】
熱水に加える各成分の配合量は、例えば、熱水100重量部に対して、硫酸第一鉄(7水塩)5〜20重量部、リン酸カリウム水溶液中のリン酸カリウム15〜600重量部、アジピン酸ジヒドラジド2.5〜50重量部、EDTA−2Na0.025〜1重量部となるようにすればよい。
【0121】
前記溶液を室温まで冷却し、放置しておくと、その上部は透明な溶液状態となり、その下部は粘度の高いスラリー状態となった。上部の上澄み液を取出して必要に応じて水で3〜10倍に希釈すれば、本発明における添加剤Aが得られる。本発明の水性難燃剤における添加剤A(固形分10重量%)の添加量は、前記水性難燃剤(固形分30重量%)100重量部に対して、10〜100重量部が好ましく、15〜30重量部がより好ましい。このようにして得られる消臭性を有する水性難燃剤のpHは5〜9の範囲内にあることが好ましい。前記したように、酸性やアルカリ性が強いと消臭性を阻害し、取扱い難いものになってしまう。また、強いアルカリ性は、グアニジン系鎖状窒素化合物からアンモニアが発生しやすくなるので避けるべきである。かかる観点から、該pHの下限は、5.5がより好ましく、6.0が更に好ましい。一方、その上限は、7.5がより好ましく、7が更に好ましい。
【0122】
<製造例(3)>消臭性を有する水性難燃剤の製造
前記水性難燃剤100重量部に添加剤A30重量部を添加して、消臭性を有する水性難燃剤を得た。このものに含浸させた紙は、JIS Z 2150の防炎1級に合格する難燃性を示した。
なお、水性難燃剤(固形分40重量%)100重量部に対する添加剤A(固形分40重量%)の配合量は、20〜50重量部である。
【0123】
このようにして得られる水性難燃剤のpHは、4〜9の範囲内にあることが好ましい。前記したように、酸性やアルカリ性が強いと、取扱い難いものになってしまう。また、強いアルカリ性は、グアニジン系鎖状窒素化合物からアンモニアが発生しやすくなるので避けるべきである。かかる観点から、該pHの下限は、5がより好ましく、6が更に好ましい。一方、その上限は、8がより好ましく、7が更に好ましく、6.5が特に好ましい。
【0124】
なお、水性難燃剤のpHの最終的な調整は、pHを大きくする場合には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属を用いることができる。また、pHを小さくするにはリン酸等を用いることができる。
【0125】
本発明の難燃性シートは、素材シートを水性難燃剤に含浸したり、又は素材シートに水性難燃剤を塗布することにより、水性難燃剤中の固形分がコーティングされたものである。本発明の水性難燃剤を用いると、重ね塗りをしないでも1回の塗布や、含浸で優れた難燃性、更には防曇性、帯電防止性、防塵性、洗浄性を有するシートを得ることができる。該難燃性シートを構成する素材に制限はないが、例えば、紙、織物、不織布、合成樹脂が代表的なものとして挙げられる。
【0126】
水性難燃剤中の固形分の塗布量は、シートの目付けによって異なるが、例えば目付け100g/mのシートの場合、乾燥した状態で5〜60g/mが好ましく、10〜40g/mがより好ましく、15〜30g/mが更に好ましい。該塗布量が少ないと難燃性、更に消臭性、防曇性、帯電防止性、洗浄性の発現が不十分になり、塗布量が多すぎると風合いが悪くなる虞がある。
【0127】
次に、本発明の難燃性ポリウレタン発泡体について説明する。該難燃性ポリウレタン発泡体は、前記本発明の水性難燃剤中の固形分を含有する難燃性発泡体であり、前記添加剤を配合することにより消臭性を有するものとなり、前記親水性の無機微粒子としてシリカを含有する合成ゼオライト、ホワイトカーボンを用いたものは、防曇性、帯電防止性を併せ持ち、更に有機酸の金属を用いたものは、難燃性が更に向上し、防曇性、帯電防止性、洗浄性を併せ持つ多機能な難燃性ポリウレタン発泡体である。該難燃性ポリウレタン発泡体は、方法aと方法bの二通りの方法で得ることができる。また、水性難燃剤を乾燥することにより得られる粉末状の固形分をポリオールに分散させ、該ポリオールとイソシアネートとを発泡剤の存在下に重合させることにより、得ることもできる。
次に、該方法aと方法bにつき順に説明する。
【0128】
方法aは、ポリオール成分とイソシアネート成分とを少なくとも含む混合物に、前記本発明の水性難燃剤を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることにより、難燃性ポリウレタン発泡体、更には消臭性を有する難燃性ポリウレタン発泡体、帯電防止性、防曇性を有する難燃性ポリウレタン発泡体を得る方法である。
【0129】
このように、ポリオール成分とイソシアネート成分の混合物に、水性難燃剤を添加するという順序(方法a)で製造された、ポリウレタン発泡体は、水を多量に含む水性難燃剤を用いて製造されたにもかかわらず、良好な発泡体であり、難燃性、防曇性、帯電防止性に優れ、水性難燃剤中の固形分を含有するにもかかわらず顕著な物性変化がなく、べとつかず、変色することもなく、風合いの良いものである。なお、ポリオール成分とイソシアネート成分とを混合する前に、本発明の水性難燃剤をイソシアネートに添加すると発泡が阻害されて、得られる発泡体がぼろぼろになってしまう。
【0130】
方法bは、ポリオール成分と前記本発明の水性難燃剤とを少なくとも含む混合物に、イソシアネート成分を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることにより、多機能性ポリウレタン発泡体を得る方法である。方法(b)によれば、上記方法(a)に比較すると見かけ密度が小さい発泡体を得ることができる。
【0131】
このように、ポリオール成分と前記水性難燃剤の混合物に、イソシアネート成分を添加するという順序(方法b)で製造された、ポリウレタン発泡体は、水を多量に含む水性難燃剤を用いて製造されたにもかかわらず、良好な発泡体であり、難燃性、防曇性、帯電防止性に優れ、べとつかず、変色することもなく、風合いの良いものである。なお、イソシアネート成分と水性難燃剤の混合物に、ポリオール成分を添加すると、発泡が阻害されて、得られる発泡体がぼろぼろになってしまう。
【0132】
このポリオール成分とイソシアネート成分の混合物に、水性難燃剤を添加するという構成、更にポリオール成分と水性難燃剤の混合物に、イソシアネート成分を添加するという構成は、単純なようであっても、本発明者が始めて見出したものであり、水が多量に存在すると発泡性が阻害されるという従来の当業者の技術常識を打ち破る方法である。
【0133】
このようにして得られる多機能性ポリウレタン発泡体の見かけ密度は、20〜100kg/mが好ましい。
【0134】
本発明のポリウレタン発泡体の製造にあたって利用するポリオール成分やイソシアネート成分については、特に制限はなく、従来一般にポリウレタンの製造に用いられている各種のものを使用することができる。
【0135】
このうち、ポリオール成分の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、グリセリン、トリメチロールエタン、ペンタエリストリール等の低分子量ポリオール;ポリカプロラクトン、多塩基酸とヒドロキシル化合物から製造されるポリエステルポリオール;ポリオキシエチレングリコール、ポリオシキプロピレングリコール、ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)グリコール、ポリ(オキシブチレン)グルコール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール等のポリエーテルポリオール等を挙げることができる。また、アクリルポリオール;ヒマシ油あるいはトール油誘導体を用いることもできる。
【0136】
また、イソシアネート成分の例としては、脂肪族系イソシアネート、芳香族系イソシアネートや、それらの変性体を挙げることができる。
【0137】
このうち、脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等が、芳香族系イソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等が、またイソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー等がそれぞれ挙げられる。
【0138】
本発明の多機能性ポリウレタン発泡体は、一般に行われる方法に準じて調製することができる。すなわち、ポリウレタン鎖の調製方式としては、ワンショット法、プレポリマー法、擬プレポリマー法等のいずれの方法を利用しも良く、ポリウレタン発泡体の製造方式も、スラブ、モールドのいずれの方法を利用しても良い。
【0139】
本発明方法で用いられる発泡剤は、本発明の水性難燃剤に含まれる水分である。但し、一般にポリウレタンの製造に用いられている各種のものを併せて使用できる。その例としては、有機系発泡剤、無機系発泡剤が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、ニトロアルカン、ニトロ尿素、アルドオキシム、活性メチレン化合物、酸アミド、3級アルコール、しゅう酸水和物が、無機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ホウ酸、固体炭酸、液化炭酸ガス、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0140】
また、ポリオール成分とイソシアネート成分の反応速度を調整するために触媒を添加する必要があり、ポリウレタンの製造に普通一般に用いられる触媒、例えば、アミン類、フォスフィン類のルイス塩基やルイス酸の有機金属化合物(アルミニウム、スズ)等をポットライフに応じて用いることができる。なお、触媒はイソシアネート成分に加えておくことが好ましい。
【0141】
また、整泡剤として公知の有機珪素系界面活性剤を添加することができ、気泡の安定化を目的としてジエタノールアミン又はトリエタノールアミンを添加することが好ましい。
【0142】
前記した各成分を混合、反応させてポリウレタン発泡体とする、反応成型時の攪拌のために用いる混合装置としては、一般にポリウレタン発泡体の成形に用いられる装置、例えば、機械式攪拌機、高圧攪拌機、エアミキシング機等のいずれも用いることができる。
【0143】
本発明の難燃性ポリウレタン発泡体の調製において、その反応に必要な熱は自然反応熱により与えられるが、使用するポリオール成分、イソシアネート成分の反応性によっては、100〜150℃程度の温度まで加熱しても良い。
【0144】
本発明の難燃性ポリウレタン発泡体における水性難燃剤中の固形分の含有量は、5〜50重量%が好ましく、より好ましくは10〜40重量%であり、更に好ましくは15〜30重量%である。該含有量が5重量%以上であれば、難燃性、消臭性、防曇性、、帯電防止性を発現させることができ、50重量%以下であれば、ポリウレタン発泡体の物性が低下する虞がない。

【0145】
ポリオール成分とイソシアネート成分の合計に対する水性難燃剤の配合量は、水性難燃剤の水分含有量の影響を受けるが、前記方法(a)で固形分を40重量%(水分量60重量%)含む水性難燃剤を用いる場合、ポリオール成分とイソシアネート成分の合計100重量部に対して、通常25〜400重量部であり、好ましくは60〜250重量部であり、より好ましくは80〜170重量部である。水性難燃剤の配合量が少なすぎる場合、得られる発泡体の難燃性が低くなる虞があり、多すぎる場合、発泡が阻害される虞がある。なお、ポリオール成分に対するイソシアネート成分の通常の配合量は、ポリオール成分100重量部に対して、イソシアネート成分が15〜40重量部であり、目標とする発泡倍率によって定められる。
【0146】
方法(a)によるポリウレタン発泡体は、具体的には次のようにして得ることができる。
<製造例(4)>ポリウレタン発泡体の製造
ポリオール成分としての旭硝子ウレタン(株)製のポリオールシステム「FNC−4004」(発泡剤としての水を含有する。)80重量部と、イソシアネート成分としての日本ウレタン工業(株)製の「コロネート1025」(2,6−トリレンジイソシアネートを含むトリレンジイソシアネート50重量%と、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート20重量%と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと、触媒の混合物)20重量部を攪拌しながら混ぜ、前記製造例(3)の水性難燃剤80重量部を添加することにより、難燃性ポリウレタン発泡体を得ることができた。
このようにして得られたポリウレタン発泡体は、JIS Z2150の防炎2級に合格することができた。
【0147】
前記方法(b)の場合、ポリオール成分とイソシアネート成分の合計に対する水性難燃剤の配合量は、水性難燃剤中の水分含有量の影響を受けるが、固形分を40重量%(水分量60重量%)含む難燃性組成物を用いる場合、ポリオール成分とイソシアネート成分の合計100重量部に対して、通常25〜400重量部であり、好ましくは60〜250重量部であり、より好ましくは80〜170重量部である。水性難燃剤の配合量が少なすぎる場合、得られる発泡体の難燃性が低くなる虞があり、多すぎる場合、発泡が阻害される虞がある。なお、ポリオール成分に対するイソシアネート成分の配合量は、目標とする発泡倍率によって定められる。
【0148】
<製造例(5)>方法(b)によるポリウレタン発泡体の製造
ポリウレタン発泡体の製造
前記ポリオールシステム「FNC−4004」80重量部と、前記製造例(3)の水性難燃剤80重量部とを混ぜ、次にイソシアネート成分としての前記「コロネート1025」20重量部を添加して、見かけ密度0.13g/cmのポリウレタン発泡体を得た。得られたポリウレタン発泡体にベトツキや変色は全くなく、風合いに問題がなかった。
【0149】
本発明方法の場合、発泡剤として水を使用し、得られる発泡体の発泡倍率の調整は、ポリイソシアネートの添加量により行うことができる。ポリイソシアネートの添加量を多くすれば、発生する二酸化炭素の量が多くなるので発泡倍率が増大し、ポリイソシアネートの添加量を少なくすれば、発生する二酸化炭素の量が少なくなるので発泡倍率が小さくなる。
【0150】
本発明の難燃性ポリウレタン発泡体は、メラミンイソシアヌレートをイソシアネート成分の一部として製造することができる。メラミンイソシアヌレートを用いた難燃性ポリウレタン発泡体は、難燃性が更に向上する。また、硬さが増し、コシが強くなるので、洗浄用具として優れたものとなる。
【0151】
メラミンイソシアヌレートを用いてポリウレタン発泡体を製造する場合、前記方法(a)(b)において、ポリオール成分にメラミンイソシアヌレートを添加し、分散させたものを用いることもできれば、前記方法(a)(b)において、前記水性難燃剤にメラミンイソシアヌレートを添加して、メラミンイソシアヌレートをグアニジン系鎖状窒素化合物や有機金属塩と共に親水性無機微粒子に担持させた水性難燃剤を用いることもできれば、メラミンイソシアヌレートを含有する該水性難燃剤から水分を除去、乾燥し、更に粉末化して得られるものを用いることもできる。
【0152】
メラミンイソシアヌレートの添加量は、所望されるポリウレタン発泡体の難燃性やコシの強さによって定めれ、前記固形分50重量部を含有する水100重量部に対して、メラミンイソシアヌレート20〜60重量部が好ましく、30〜50重量部がより好ましい。
【0153】
<製造例(6)>メラミンイソシアヌレート含有ポリウレタン発泡体の製造
前記水性多機能剤を、乾燥機を用いて120℃で加熱し、得られた固形物をボールミルで粉砕して粉体化した。
【0154】
ポリオール成分としての旭硝子ウレタン(株)製のポリオールシステム「FNC−4004」(発泡剤としての水を含有する。)100重量部と、イソシアネート成分としての日本ウレタン工業(株)製の「コロネート1025」(2,6−トリレンジイソシアネートを含むトリレンジイソシアネート50重量%と、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート20重量%と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと、触媒の混合物)20重量部と前記製造例(3)の水性難燃剤100重量部と、日産化学工業(株)製のメラミンイソシアヌレート100重量部とを攪拌しながら混ぜ、見かけ密度0.27g/cmのポリウレタン発泡体を得た。得られたポリウレタン発泡体にベトツキ、変色は全くなく、コシの強さ十分なものであった。また、難燃性に優れ、JIS Z2150の防炎1級に合格可能であり、更にUL94のV0に合格できるものであった。
【0155】
本発明のポリウレタン発泡体は、難燃性に優れる発泡体であることから、建材、家具、航空機、自動車などの車両の緩衝材として好適に使用できるものである。また、該ポリウレタン発泡体は、添加剤Aを含有させて消臭性を発現させることにより、これらの用途における消臭性及び難燃性を有する緩衝材としてより好適に使用できるものである。また、シリカを含有する親水性無機微粒子を用いることにより、防曇性、帯電防止性を付与することができ、水溶性有機高分子を含有することから製膜性も有している。更に、有機酸を用いて製造した難燃性ポリウレタン発泡体に水を含浸させて洗浄用具として用いると優れた洗浄性を示し、磨いたガラスや鏡は曇りにくいものとなり、自動車のガラスや道路の反射鏡は雨が降っても曇りにくくなり、自動車の車体は汚れにくくなる。
【0156】
本発明の難燃性シートも、添加剤Aを含有させることにより消臭性を有する、難燃性シートとして用いることができる。更に、ポリウレタン発泡体と同様に、配合により、防曇性、帯電防止性、洗浄性を有するものとなるので、水を含浸させて洗浄用具として用いることにより、磨いたガラスや鏡は曇りにくいものとなり、埃が付きにくくなる。
【実施例】
【0157】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、以下において示す部及び%はいずれも重量基準である。
【0158】
実施例1〜3、比較例1〜4
<水性難燃剤の製造>
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用い、65℃の熱水1000mLを高速攪拌しながら、表1、表2に示す種類、量の水溶性有機高分子、親水性無機微粒子を添加して分散させ、次に高速攪拌しながら、表1、表2に示す種類、量のグアニジン系鎖状窒素化合物を添加して、溶解及び/又は分散させ、次に高速攪拌しながら室温まで冷却して、表1、表2に示す成分含有量の水性難燃剤を得た。
なお、比較例2ではポリエーテルポリオール系が添加されていないため、リン酸グアニジンが沈殿してしまい、比較例3ではホワイトカーボン、合成ゼオライトが添加されていないため、リン酸グアニジンが沈殿してしまった。これらについては、難燃性試験は行わなかった。
【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

【0161】
実施例4、5
<添加剤Aの水溶液の製造>
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用いて攪拌しながら、リン酸75重量%水溶液1000gに水酸化カリウム900gを添加して、濃度71重量%、pH8のリン酸カリウム水溶液を作製した(リン酸/水酸化カリウム=7.65モル/16.0モル=1モル/2.1モル)。
【0162】
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用いて攪拌しながら、温度65℃の熱水500gに硫酸第一鉄(FeSO・7HO)50gとアジピン酸ジヒドラジド50gとを加えて溶解させた。次に、室温程度の前記リン酸カリウム水溶液600gを加えた(合計1200g中消臭成分526g)。
【0163】
前記消臭剤を含有する溶液を1週間放置した後、上部は透明な溶液状態で、その下部は粘度の高いスラリー状態となった溶液を得た。上部約2/3の上澄み液を取出し、水で約5倍に希釈して、消臭性成分濃度が8重量%の添加剤A(pH6)を得た。
なお、得られた消臭性水溶液100ccに対し、フェリシアン化カリウムの10%水溶液を10cc加えて攪拌しても、青色の発色を生じなかった。
【0164】
<消臭性を有する水性難燃剤の製造>
実施例2、3の各々と同様に冷却前の水性難燃剤を製造し、各々を高速攪拌しながら、その100重量部に上記添加剤Aを30重量部添加し、pHを調整し、これを高速攪拌しながら室温まで冷却して、表3に示す成分含有量の水性難燃剤(pH7)を得た。
なお、実施例4、5の消臭性を有する水性難燃剤を製造後6ヶ月放置しておいたところ、鉄錆びが沈殿することがなく、上澄みに鉄錆が浮かぶことも、変色することも無かった。
【0165】
【表3】

【0166】
参考比較例2
<添加剤Aの参考比較例の消臭性水溶液の製造>
リン酸カリウムを用いない以外は、実施例4と同様に比較添加剤Aを製造した。このものは、1日後には、硫酸第一鉄が酸化されて沈殿して消臭性を失ってしまったので、消臭性を有する難燃剤を製造することはできなかった。
【0167】
参考比較例3
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用いて攪拌しながら、沸騰させた熱水500gにアジピン酸ジヒドラジド50gを加えて溶解させて消臭性水溶液を得た。
この消臭性水溶液30重量部を実施例4の水性難燃剤100重量部に添加、攪拌して、アルデヒド類に対する消臭性を有する難燃剤を得た。
【0168】
実施例6
<消臭性添加剤Aの製造>
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用いて攪拌しながら、温度65℃の熱水500gに硫酸第一鉄(FeSO・7HO)50gとアジピン酸ジヒドラジド50gとクエン酸30gを加えて溶解させた。次に、室温程度の前記リン酸カリウム水溶液600gを加えた(合計1230g中固形分556g)。
【0169】
前記消臭剤を含有する溶液を1週間放置した後、上部は透明な溶液状態で、その下部は粘度の高いスラリー状態となった溶液を得た。上部約2/3の上澄み液を取出し、水で約5倍に希釈して、消臭・難燃性成物濃度が8重量%の添加剤A(pH6)を得た。
なお、得られた消臭性水溶液100ccに対し、フェリシアン化カリウムの10%水溶液を10cc加えて攪拌しても、青色の発色を生じなかった。
【0170】
<消臭性を有する水性難燃剤の製造>
実施例5と同様に冷却前の水性難燃剤を製造し、各々を高速攪拌しながら、その100重量部に上記添加剤Aを30重量部添加し、これを高速攪拌しながら室温まで冷却して、表3に示す成分含有量の水性難燃剤(pH7)を得た。
なお、実施例6の消臭性を有する水性難燃剤を製造後6ヶ月放置しておいたところ、鉄錆びが沈殿することがなく、上澄みに鉄錆が浮かぶことも、変色することも無かった。
【0171】
参考比較例4
<消臭剤の製造>
リン酸カリウムの代わりに、安定剤としてEDTA15gを加え、クエン酸pH5gを加えて、pH6の消臭剤を得た。この消臭剤の配合は、従来広く用いられてきた公知のものである。
【0172】
<消臭性を有する水性難燃剤の製造>
実施例5と同様に冷却前の水性難燃剤を製造し、各々を高速攪拌しながら、その100重量部に上記添加剤Aを30重量部添加し、これを高速攪拌しながら室温まで冷却して、水性難燃剤(pH7)を得た。
【0173】
実施例7
【0174】
<消臭性を有する、クエン酸ナトリウムを用いた水性難燃剤の製造>
熱水100重量部に対して、リン酸グアニジンを60重量部、クエン酸ナトリウムを12重量部添加した以外には、実施例5と同様に冷却前の水性難燃剤を製造し、各々を高速攪拌しながら、その100重量部に実施例4の添加剤Aを30重量部添加し、これを高速攪拌しながら室温まで冷却して、表3に示す成分含有量の水性難燃剤(pH7)を得た。
なお、実施例6の消臭性を有する水性難燃剤を製造後6ヶ月放置しておいたところ、鉄錆びが沈殿することがなく、上澄みに鉄錆が浮かぶことも、変色することも無かった。

【0175】
難燃性試験(1)
実施例1〜7、比較例1で得られた水性難燃剤6mLを30cm×20cmmの紙に塗布し、乾燥させてからバーナーの炎に10秒接触させたところ、実施例1〜3の水溶液を塗布した紙は、炭化長さが5〜10mmであり、JIS Z 2150の防炎2級に合格する難燃性を示した。実施例4〜7の水溶液を塗布した紙は、炭化長さが5mm以下であり、JIS Z 2150の防炎1級に合格する難燃性を示した。これに対し、比較例1の水溶液を塗布した紙は、炭化長さが10mm以上であり、防炎3級に合格する程度の難燃性を示しただけであった。
【0176】
難燃性試験(2)
実施例7で得られた消臭性を有する水性難燃剤に東レ(株)製のウレタン繊維「アルカンターラ」を20秒浸漬した後、乾燥したものから、各10枚の試験片(幅13mm×長さ125mm×繊維の厚み)を作製した。
各試験片につきUL94に従って耐炎性試験を行った。即ち、通風のないチェンバ内で、クランプのあるリングスタンドを用いて、試験片を垂直に吊るした。ブンゼンバーナの炎を長さ20mmの青い炎になるように調整し、該炎を試験片の下炎の中心点にあて、バーナーの先端が試験片の下端から10mm下に位置するようにし、10秒間接炎(第1回目の接炎)してから炎を取去った。繊維の燃焼が終わってから第1回目の接炎と同様に再度10秒間接炎(第2回目の接炎)してから炎を取去った。各試験片につき、第1回目の残炎時間(t1)、第2回目の残炎時間(t2)、(t1+t2)時間、2回目の残じん(t3)、(t2+t3)時間、クランプまでの残炎・じんの有無、滴下物着火の有無を表4に示す。表4から、実施例7の消臭・難燃性水溶液を塗布したものはUL94の「V0」に合格していることが判る。
【0177】
【表4】

【0178】
消臭試験
実施例4、5、6、参考比較例3で得られた消臭性水溶液6mLを10cm×20cmの不織布に塗布し乾燥させてから、それぞれを5Lのテドラーバックに入れた。次に、アンモニア25ppm、酢酸50ppm、硫化水素2.4ppm、アセトアルデヒド30ppm、ホルムアルデヒド20ppmを含有するガス3Lを各々のテドラーバック内に順に注入し、それぞれのガスについて1時間経過後の各ガスの濃度を検知管により測定した。測定結果を表5に示す。なお、この実験は、温度20℃、湿度65%の雰囲気で行った。
【0179】
【表5】

【0180】
表5より、実施例4、5、6の消臭性を有する水性難燃剤は、硫酸第一鉄とリン酸カリウムとアジピン酸ジヒドラジドを含有するので、アンモニア、酢酸、硫化水素、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドの全てに対して優れた消臭特性を示していることが判る。これに対し、アジピン酸ジヒドラジドを消臭性の主成分とする参考比較例2の水溶液は、酢酸、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドは除去できるが、アンモニア、硫化水素に対する消臭特性は殆どないことが判る。
【0181】
アンモニアガス注入繰り返し消臭試験
実施例4、5、6参考比較例3、4で得られた消臭性水溶液3mLを10cm×10cmの不織布に塗布し乾燥させたものを、それぞれ5Lのテドラーバックに入れた。次に、テドラーバック内の所期濃度を100ppmに調整し、20分ごとに100ppmのアンモニアガスを注入し、そのたびにアンモニア濃度を検知管により測定した。測定結果を表6に示す。
【0182】
【表6】

【0183】
表6の実施例4、5、6と参考比較例3の対比から、本発明の消臭性水性難燃剤は、アジピン酸ジヒドラジドを添加しても、アンモニアを発生することがないことが判る。これに対し、アジピン酸ジヒドラジドを消臭性の主成分とする、参考比較例2の消臭性水溶液は、アンモニアに対する消臭特性がなく、しかも0回目の測定値から、アジピン酸ジヒドラジドそのものがアンモニアを発生していることが判る。また、実施例4、5、6と参考比較例4の対比から、従来の安定剤としてEDTAを用いた消臭剤に対比すると、リン酸カリウムを安定剤として用いた消臭剤は、アンモニアに対する消臭性に優れていることが判る。更に、実施例4、5と実施例6の対比から、添加剤Aにクエン酸を添加すると、アンモニアに対する消臭性が更に向上することが判る。
【0184】
80℃耐熱試験
実施例5、参考比較例3で得られた消臭性水溶液3mLを10cm×10cmの不織布に塗布し乾燥させたものを、それぞれ5Lのテドラーバックに入れた。次に、80℃の雰囲気に20分放置してから、テドラーバック内のアンモニア濃度を検知管により測定した。
その結果、実施例5の消臭性水性難燃剤を塗布した不織布については0ppm、参考比較例3の水溶液を塗布した不織布については5ppmであった。この結果から、本発明の消臭・難燃性組成物は、硫酸第一鉄とリン酸カリウムを含有するので、アジピン酸ジヒドラジドを含有させているにもかかわらず、高温下であってもアンモニアを発生することがないのに対し、アジピン酸ジヒドラジドを消臭性主成分とする消臭性水性難燃剤は高温下ではアンモニアを発生させてしまうことが判る。

【0185】
実施例8
<消臭性、帯電防止性、防曇性を有するポリウレタン発泡体の製造>
ポリオール成分としての旭硝子ウレタン(株)製のポリオールシステム「FNC−4004」(発泡剤としての水を含有する。)80重量部と、イソシアネート成分としての日本ウレタン工業(株)製の「コロネート1025」(2,6−トリレンジイソシアネートを含むトリレンジイソシアネート50重量%と、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート20重量%と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと、触媒の混合物)20重量部を攪拌しながら混ぜ、次に実施例7の水性難燃剤を80重量部添加して、見かけ密度0.11g/cmのポリウレタン発泡体を得た。得られたポリウレタン発泡体にベトツキ、変色は全くなく、風合いに問題が無く、大きな物性の低下も見られなかった。
【0186】
実施例9〜11
実施例8と同様に、実施例4〜6の水性難燃剤を用いて、ポリウレタン発泡体を製造し、見かけ密度0.11g/cmのポリウレタン発泡体を得た。いずれのポリウレタン発泡体にベトツキ、変色は全くなく、風合いに問題が無く、大きな物性の低下も見られなかった。
【0187】
難燃性試験(3)
JIS Z 2150に準拠して、実施8で得られたポリウレタン発泡体にバーナーの炎を10秒接触させたところ、炭化長さが5mm以下であり、防炎1級に合格する程度の難燃性を示した。同様に、実施例9〜11で得られたポリウレタン発泡体も防炎1級に合格する程度の難燃性を示した。
【0188】
難燃性試験(4)
実施例8で得られたポリウレタン発泡体から、各10枚の試験片(幅50mm×長さ150mm×厚み13mm)を作製した。
各試験片につきUL94に従って耐炎性試験を行った。即ち、通風のないチェンバ内で、クランプのあるリングスタンドを用いて、試験片を垂直に吊るした。次に、ブンゼンバーナの炎を長さ38mmの青い炎になるように調整し、該炎を試験片の下炎の中心点にあてて、60秒間接炎してから炎を取去った。各試験片につき、着火時間、残じん時間、破損した長さ、滴下物による綿着火の有無を表7に示す。表7から、実施例8で得られたポリウレタン発泡体は、UL94の「V0」に合格していることが判る。
【0189】
【表7】

【0190】
洗浄性試験
長年にわたって使用した結果、汚れがこびり付いた2m角のガラステーブルを、実施例8で得られたポリウレタン発泡体に水を含浸させて磨いたところ、汚れを容易に落とすことができた。更に、その後、ガラステーブルに埃が付きにくくなった。
これに対し、実施例9〜11のポリウレタン発泡体や、市販のポリウレタン発泡体に水を含浸させて磨いたところ、汚れが容易に落ちるということはなく、こすり落とすことができただけであった。
この結果に基づき、表3の実施例7の洗浄性には◎を記入し、実施例4〜6の洗浄性には△を記入した。
【0191】
防曇性試験
<1> 実施例8で得られたポリウレタン発泡体に水を含浸させて、自動車のレアーガラス(後部ガラス)の外側半分、車体の半分を擦って、親水性塗膜を形成してから、水を布でふきとった。
<2>その後、これに水道水を放流させた。実施例8で得られたポリウレタン発泡体を用いて親水性塗膜を形成した部分においては、水は全面に拡がって流れ、特に水平のルーフ及びボンネットにはきれいな水膜ができた。ここで水道の栓を止めると直ちに放流のやんだ所から、例えば、ボンネットの高い部分から水平に水膜がきれて行き、水切れが非常に良く、水滴が殆ど残らないことが確認された。これに対し、実施例8のポリウレタン発泡体で親水性塗膜を形成しなかった部分においては、撥水加工が施されているため、水平のルーフ及びボンネットには水膜が形成されず、水道の栓を止めると放流のやんだ所には、水滴が散在する状態になった。
<3>また、自動車のレアーガラス(後部ガラス)の外側は、親水性塗膜を形成した部分は、雨が降っても水はけがよく視界を良好に保つことができた。これに対し、親水性塗膜を形成しなかった部分は、雨が降ると水滴(水玉)がレアーガラスの外側に付着し、視界が悪くなった。
<4>また、親水性塗膜を形成した部分は汚れ難く、1週間放置したところ目立つような埃はつかなかった。僅かについた埃も水をかけるだけで簡単に落とすことができた。これに対し、親水性塗膜を形成しなかった部分は、1週間放置しただけで、埃の付着が目立つようになった。
<5>実施例9〜11で得られたポリウレタン発泡体を用いて同様の試験を行ったところ、全てポリウレタンポリオール、ホワイトカーボン、合成ゼオライトを含有していることから、防曇性の効果を示したが、洗浄性が、クエン酸ナトリウムが添加されている実施例8のものに比べると劣るため、表3の実施例4〜6の洗浄性の欄には○を記入し、実施例7の洗浄性の欄には◎を記入した。
【0192】
帯電性試験
実施例8で得られた水溶液を用いて表面処理したポリウレタン発泡体について、JIS L1094法によりその帯電防止性を評価した。その結果、無処理の場合には、その電荷の半減期は120秒以上、その摩擦帯電圧は4000V以上であったのに対し、実施例8のポリウレタン発泡体の場合には、その電荷の半減期は約10秒、その摩擦帯電圧は約1500Vであり、良好な帯電防止性を有することが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるグアニジン骨格を含む窒素化合物と、水溶性有機高分子と、親水基を有する多孔質無機微粒子とを少なくとも含む水性難燃剤であって、該窒素化合物の含有量が水100重量部に対して15重量部以上であることを特徴とする水性難燃剤。
【化1】

【請求項2】
消臭性金属塩と、リン酸アルカリ金属塩と、ヒドラジド化合物とからなる添加剤Aを含有し、消臭性を有する請求項1に記載の水性難燃剤。
【請求項3】
前記消臭性金属塩が、硫酸第一鉄及び/又は硫酸亜鉛であり、前記リン酸アルカリ金属塩がリン酸カリウムであり、前記ヒドラジド化合物がアジピン酸ジヒドラジドであることを特徴とする請求項2に記載の消臭性を有する水性難燃剤。
【請求項4】
有機酸及び/又は有機酸の金属塩を含有することを特徴とする請求項2又は3に記載の消臭性を有する水性難燃剤。
【請求項5】
前記有機酸が、クエン酸、りんご酸、酒石酸の群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の消臭性を有する水性難燃剤。
【請求項6】
前記鎖状のグアニジン系窒素化合物がリン酸グアニジン及び/又はスルファミン酸グアニジンである請求項1〜5のいずれかに記載の水性難燃剤。
【請求項7】
前記水溶性有機高分子が、ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーである請求項1〜6のいずれかに記載の水性難燃剤。
【請求項8】
前記親水基を有する多孔質無機微粒子がホワイトカーボン(含水非晶質二酸化ケイ素)、合成ゼオライト、セピオライトの中から選択される請求項1〜7のいずれかに記載の水性難燃剤。
【請求項9】
pHが4〜9である請求項1〜8のいずれかに記載の水性難燃剤。
【請求項10】
メラミンイソシアヌレートを含有する請求項1〜9のいずれかに記載の水性難燃剤。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分がコーティングされたことを特徴とする難燃性シート。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を含有することを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体。
【請求項13】
請求項2〜10のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を含有し、消臭性を有することを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体。
【請求項14】
請求項4〜10のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を含有し、消臭性、帯電防止性、防曇性を有することを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体。
【請求項15】
ポリオール成分とイソシアネート成分とを少なくとも含む混合物に請求項1〜10のいずれかに記載の水性難燃剤を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれかに記載の水性難燃剤中の固形分を粉末化してポリオール成分に添加し、該ポリオール成分とイソシアネート成分とを少なくとも含む混合物を、発泡剤の存在下で重合反応させることを特徴とする難燃性ポリウレタン発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2009−19184(P2009−19184A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299875(P2007−299875)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(595149221)南姜エフニカ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】