説明

水性顔料インク

【課題】 低コストで得られるとともに吐出安定性に優れ、十分な濃度の画像を紙媒体に形成することが可能な水性顔料インクを提供することにある。
【解決手段】水、顔料、および水溶性高分子化合物を含有する水性顔料インクである。前記水性顔料インク中における前記顔料の量は、5wt%未満である。前記水性顔料インクは、コーンプレート型粘度計を用いて測定された25℃の粘度(mPa・s)が以下の関係を満たす。
0≦(VB−VA)/VB<0.05
C/VA≧1.5
3mPa・s≦VA≦15mPa・s
ここで、
Aは、50rpmの回転数で測定された粘度であり
Bは、2.5rpmの回転数で測定された粘度であり、
Cは、前記水性顔料インクに対して0.5wt%の塩化カルシウムを加えて50rpmの回転数で測定された粘度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施形態は、一般的には水性顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
水を含む媒体に顔料が分散された水性顔料インクには、通常、水の揮発を抑えるための保湿剤が含有されている。水の揮発による粘度上昇を抑制するための粘度調整剤もまた、水性顔料インクに含有されるのが一般的である。
【0003】
保湿剤としては多価アルコールなどが用いられ、粘度調整剤としては水溶性有機溶媒が用いられている。多価アルコールは、紙媒体の主成分であるセルロースとの相性がよく、水溶性有機溶媒は紙への浸透性が高い。このため、水性顔料インクは紙媒体の内部に容易に浸透し、インク中の顔料は紙媒体の表面に残りにくい。所望の濃度の画像を紙媒体に形成できる水性顔料インクを得るには、紙媒体中への浸透を考慮した量で、顔料を含有させることが必要とされていた。
【0004】
インクの製造コストを削減するためには、顔料の含有量を低減することが求められる。しかしながら、顔料の含有量が少なく、紙媒体に十分な濃度の画像を形成できる水性顔料インクは、未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開2005/0204957
【特許文献2】米国特許第5,746,818号
【特許文献3】特許第3760621号公報
【特許文献4】特開2006−159423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、低コストで得られるとともに吐出安定性に優れ、十分な濃度の画像を紙媒体に形成することが可能な水性顔料インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、水性顔料インクは、水、顔料、および水溶性高分子化合物を含有する。前記水性顔料インクにおける前記顔料の量は、5wt%未満である。前記水性顔料インクは、コーンプレート型粘度計を用いて測定された25℃の粘度(mPa・s)が以下の関係を満たす。
【0008】
0≦(VB−VA)/VB<0.05
C/VA≧1.5
3mPa・s≦VA≦15mPa・s
ここで、
Aは、50rpmの回転数で測定された粘度であり、
Bは、2.5rpmの回転数で測定された粘度であり、
Cは、前記水性顔料インクに対して0.5wt%の塩化カルシウムを加えて50rpmの回転数で測定された粘度である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0010】
水性顔料インクが紙媒体上に吐出された際、紙媒体の内部への顔料の浸透を抑制できれば、紙媒体上での画像濃度は高められる。紙媒体内部へのインクの浸透はインクの粘度に関連し、水性顔料インクの粘度が高くなると紙媒体へのインクの浸透は抑制される。その結果、水性顔料インク中の顔料は紙媒体の表面近傍に留まって、得られる画像濃度を高めることができる。
【0011】
また、インクジェットプリントヘッドから安定に吐出するためには、水性顔料インクは、ヘッド駆動時における粘度と静置時における粘度との差が小さいことが求められる。すなわち、粘度のせん断力依存性の小さなインクであれば、ヘッドから安定して吐出することができる。
【0012】
こうした点に着目して鋭意検討した結果、本発明者らは、水性顔料インクの粘度に以下の関係を見出した。粘度は、コーンプレート型粘度計を用いて測定された25℃における値である。
【0013】
0≦(VB−VA)/VB<0.05 式1
C/VA≧1.5 式2
3mPa・s≦VA≦15mPa・s 式3
Aは、50rpmの回転数で測定された粘度である。VAは、与えられるせん断力が強い場合、例えばヘッド駆動時における水性顔料インクの粘度である。ヘッドから吐出されて紙媒体に接触するまでの水性顔料インクの粘度が、VAに相当する。インクジェットインクの粘度は、通常25℃で3〜15mPa・sの範囲内である。式3に示されるように、VAが3〜15mPa・sの範囲内に規定されるので、本実施形態の水性顔料インクは、インクジェット記録用に用いることができる。本実施形態の水性顔料インクは、ペン等の筆記具用として用いてもよい。
【0014】
Bは、2.5rpmの回転数で測定された粘度である。VBは、与えられるせん断力が弱い場合、例えば静置時における水性顔料インクの粘度である。一般的に、インクジェットインクではVB≧VAである。式1は、せん断力の違いによる粘度差が5%未満であることを示している。したがって、式1の関係を満たす水性顔料インクは、粘度のせん断力依存性が小さい。
【0015】
なお、せん断力の違いによる粘度差が5%以上のインクは、インクジェットプリントヘッドから吐出させることが困難となる。せん断力の違いによる粘度差が5%以上のインクを筆記具に用いた場合には、ペン先への固着等が生じる。こうした不都合を避けるために、本実施形態においては、(VB−VA)/VBは0.05未満に規定される。
【0016】
(VB−VA)/VBは、0.042以下が好ましい。
【0017】
Cは、0.5wt%の塩化カルシウムを含有する水性顔料インクを、50rpmの回転数で測定して得られた粘度である。
【0018】
紙媒体には、通常、カルシウムイオンが含有されている。本発明者らは、0.5wt%の塩化カルシウムを水性顔料インクに配合することによって、紙媒体に接触した直後の水性顔料インクの状況を模擬的に得た。VCは、紙媒体に接触した後の水性顔料インクの粘度に相当する。
【0019】
C/VAが大きいほど、紙媒体に浸透しにくいインクとなる。VC/VAは2以上が好ましい。VCの上限は、インク自体の粘度にもよるが、60mPa・s程度であることから、VC/VAの上限は20程度と算出される。
【0020】
上記式2の関係を満たす水性顔料インクは、紙媒体に接触して粘度が上昇し、紙媒体に接触する前の粘度の1.5倍以上になる。紙媒体中のカルシウムイオンとの反応によって、水性顔料インクのゲル化が促されて粘度が上昇したことを意味する。紙媒体中へのインクの浸透を抑制して高い濃度の画像を紙媒体に形成するためには、VC/VAは1.5以上でなければならない。
【0021】
本実施形態の水性顔料インクが紙媒体に吐出された際には、顔料は紙媒体中に浸透せずに表面近傍に留まる。インク中の顔料は、ほぼ全てが発色に寄与する。このため、インク中に含有される顔料の量を通常の水性顔料インクより低減しても、十分な濃度の画像を形成することができる。しかも、本実施形態の水性顔料インクは、粘度のせん断力依存性が小さいことから、インクジェットプリントヘッドから安定して吐出することが可能である。
【0022】
なお、本明細書において、紙媒体とは、一般的には、印刷されることを目的に使用される紙製の媒体をさす。紙媒体は、印刷特性を高めるための材料が塗布されたアート紙やコート紙などの塗工用紙と、紙自体の特性を生かした非塗工用紙とに大別される。紙媒体は、本、書籍、新聞、包装、およびプリンター用紙など、種々の用途に用いられる。また、段ボール、紙製の容器、およびボール紙などの厚紙も紙媒体に含まれる。例えば、オフィスや家庭で使用する複写機、プリンターに使用されるコピー用紙のような、いわゆる普通紙は、典型的な紙媒体である。
【0023】
本実施形態の水性顔料インクは、紙媒体に接触すると粘度が増加する。こうした特性は、カルシウムイオンとの反応によりゲル化する水溶性高分子化合物を配合することによって得られた。所望の作用を発揮して、いわゆる紙上ゲル化剤として作用する水溶性高分子化合物は、本発明者らによって見出された。
【0024】
したがって、本実施形態にかかる水性顔料インクは、水および顔料に加えて、水溶性高分子化合物を含有する。
【0025】
水としては、例えば純水や超純水を用いることができる。水性顔料インクにおける水の量は特に限定されないが、水が過剰に含有されるとカール等が生じて紙媒体が変形するおそれがある。水の量がインク全量の70wt%未満であれば、紙媒体の変形を避けることができる。水性顔料インク中における水の量は、60wt%未満がより好ましく、50wt%未満が最も好ましい。
【0026】
水性顔料インクには、水に加えて、粘度調整剤が含有されることが好ましい。粘度調整剤を配合することによって、インクの保存性安定性に加えて、保湿性および脱泡性を高めることもできる。インクジェットプリントヘッドからのインクの吐出安定性も、よりいっそう高められる。
【0027】
粘度調整剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、およびグリコールエーテルなどが挙げられる。本実施形態の水性顔料インク中における粘度調整剤の量は、例えば、1〜50wt%程度とすることができる。こうした範囲内で粘度調整剤がインク中に含有されていれば、何等不都合を伴なうことなく所望の効果を得ることができる。
【0028】
顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、およびアニリンブラックなどを使用できる。
【0029】
ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、No.2300,No.900,MCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等(三菱化学製)、Raven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等(コロンビア社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400等(キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200, Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex 35,Printex U,PrintexV,Printex 140U,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black 4等(デグッサ社製)などが挙げられる。
【0030】
イエローインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Yellow 1,C.I.Pigment Yellow2,C.I.Pigment Yellow 3,C.I.Pigment Yellow 12,C.I.Pigment Yellow 13,C.I.Pigment Yellow 14C,C.I.Pigment Yellow 16,C.I.Pigment Yellow 17,C.I.Pigment Yellow 73,C.I. Pigment Yellow 74,C.I.Pigment Yellow 75,C.I.Pigment Yellow 83,C.I.Pigment Yellow93,C.I.Pigment Yellow95,C.I.Pigment Yellow97,C.I.Pigment Yellow 98,C.I.PigmentYellow 109,C.I.Pigment Yellow 110,C.I.Pigment Yellow 114,C.I.Pigment Yellow 128, C.I.Pigment Yellow 129,C.I.Pigment Yellow 138,C.I.Pigment Yellow 150,C.I.Pigment Yellow 151,C.I.Pigment Yellow 154,C.I.Pigment Yellow 155,C.I.Pigment Yellow 180,およびC.I.Pigment Yellow 185等が挙げられる。
【0031】
マゼンタインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Red 5,C.I.Pigment Red7,C.I.Pigment Red 12,C.I.Pigment Red 48(Ca),C.I.Pigment Red 48(Mn),C.I.Pigment Red 57(Ca),C.I.Pigment Red 57:1,C.I.Pigment Red 112,C.I.Pigment Red 122,C.I.Pigment Red 123,C.I.Pigment Red 168,C.I.Pigment Red 184,C.I.Pigment Red 202,およびC.I.Pigment Violet19等が挙げられる。
【0032】
シアンインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Blue 1,C.I.Pigment Blue 2,C.I. Pigment Blue 3,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4,C.I.Pigment Blue 15:34,C.I.Pigment Blue 16,C.I.Pigment Blue 22,C.I.Pigment Blue 60,C.I.Vat Blue 4,およびC.I.Vat Blue 60が挙げられる。
【0033】
顔料の平均粒径は10〜300nm程度の範囲内であることが好ましい。こうした範囲内であれば、インクジェット記録装置において使用する際、プリントヘッドの目詰まりを生じることがない。さらに顔料の平均粒径は、10〜200nm程度の範囲内であることが好ましい。
【0034】
顔料の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度分布計を用いて測定することができる。粒度分布計としては、例えば、HPPS(マルバーン社)が挙げられる。
【0035】
顔料は、顔料分散体の状態で用いることができる。顔料分散体は、例えば、分散剤により水やアルコールなどに顔料を分散させて調製することができる。分散剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性樹脂、および非水溶性樹脂などが挙げられる。あるいは、自己分散顔料として用いてもよい。
【0036】
自己分散顔料とは、分散剤なしに水等に分散可能な顔料であり、顔料に表面処理を施して、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基の少なくとも一種の官能基またはその塩を結合させた顔料である。表面処理としては、例えば、真空プラズマ処理、ジアゾカップリング処理、および酸化処理等が挙げられる。所定の表面処理を施すことによって、官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせる。こうして、自己分散顔料が得られる。
【0037】
他の顔料分散体中の顔料と比較して自己分散顔料は、水中での分散安定性に優れるとともに、紙媒体への吸着力が高い。このため、自己分散顔料が含有されたインクは、より高品質な画像を形成することができる。
【0038】
本実施形態においては、水性顔料インク中における顔料の量は、5wt%未満に規定される。5wt%以上の場合には、コストを削減することができないのに加えて、ヘッド内部等での目詰まりが発生しやすくなる。顔料の量は、水性顔料インクの4wt%未満がより好ましく、3wt%未満が最も好ましい。水性顔料インク中には、1.5wt%以上の顔料が含有されるのが一般的である。
【0039】
本実施形態の水性顔料インクには、水溶性高分子化合物が含有される。一般的には、水溶性高分子化合物が含有されると、インクのせん断力依存性は高められる。本実施形態の水性顔料インクに含有される水溶性高分子化合物は、インク粘度のせん断力依存性を高めることなく、紙媒体中のカルシウムイオンと反応してインクのゲル化を促進する。
【0040】
かかる水溶性高分子化合物は、例えば、低メトキシルペクチン(以下、LMペクチンと称する)である。LMペクチンは、ガラクツロン酸部のエステル化度が50%未満のペクチンであり、紙媒体中のカルシウムイオンとの反応性(ゲル化性)に優れている。
【0041】
これは、カルシウムイオンとの反応が、ウロン酸部のカルボキシル基によって起こるためである。水性顔料インクにおけるLMペクチンの含有量は、0.02wt%を超え、かつ0.3wt%未満に規定される。LMペクチンの量が少なすぎる場合には、カルシウムイオンとの反応が、インクのゲル化を促進するのに十分には生じない。このため、紙媒体内部へのインクの浸透を抑制するという効果を得ることができない。一方、LMペクチンが多すぎる場合には、インクの粘度が大きくなる。VAおよびVBが比較的大きくなって、(VB−VA)/VBが0.05以上となる。すなわち、上記式1が満たされない。LMペクチンの重量平均分子量等に応じて、適切な量で配合することが望まれる。LMペクチンの重量平均分子量は、特に制限されない。
【0042】
LMペクチンの量は、水性顔料インクの0.2wt%未満が好ましく、0.15wt%未満がより好ましい。
【0043】
LMペクチンとしては天然系の化合物が望ましいが、これに限定されない。例えば、所望のウロン酸配列として、ゲル化性等をコントロールするように合成されたポリウロン酸複合体化合物を用いてもなんら問題はない。
【0044】
本実施形態にかかる水性顔料インクは、例えば、顔料分散体と水とを混合し、所定量の水溶性高分子化合物を加えて調製することができる。
【0045】
インクの吐出性能や浸透性など、最適な特性条件に調整するために、界面活性剤を配合してもよい。
【0046】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、およびジメチロールヘプタンEO付加物などが挙げられる。
【0047】
さらに、アセチレングリコール系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を用いることもできる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチンー3,6−ジオール、および3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。具体的には、サーフィノール104、82、465、485あるいはTG等(エアープロダクツ社製)である。
【0048】
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、およびパーフルオロアルキルスルホン酸等が挙げられる。具体的にはメガファックF−443、F−444、F−470、F−494(大日本インキ化学工業社)、ノベックFC−430、FC−4430(3M社)、サーフロンS−141、S−145、S−111N、S−113(セイミケミカル社)である。
【0049】
これらの界面活性剤は、インク100重量部に対して1重量部程度で含有されていれば、所望の効果を発揮することができる。しかも、何等不都合を伴なうこともない。
【0050】
必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤等の添加剤を配合することができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0051】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンズイソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN(いずれも登録商標))などを使用することができる。
【0052】
こうした添加剤を配合することによって、得られる画像の品質や保存安定性がさらに高められる。
【0053】
またさらに、インクとしての特性を向上させるための目的に応じた添加剤、例えば浸透剤等を配合することができる。添加剤の配合量は、水に溶解あるいは分散する範囲内で適宜選択すればよい。例えば難溶性の添加剤は、可溶化剤等と併用して用いることができる。いずれの添加剤も、上述した顔料の分散安定性を損なわない範囲で添加されることが望まれる。
【0054】
以下に、水性顔料インクの具体例を示す。
【0055】
下記表1に示す処方で各成分を混合して、水性顔料インクを調製した。下記表1中の数値は、各成分の質量部を示している。界面活性剤としてサーフィノール465(日信化学工業社製)を用いた。LMペクチンは、GENU pectin type LM−104AS−J(三晶社製)である。
【0056】
顔料分散体は、自己分散型顔料の分散体(CAB−O−JET−300、Cabot社製)である。この自己分散型顔料の分散体においては、表面に官能基を有する顔料が水中に分散されている。顔料分散体における顔料の含有量(固形分)は、15wt%である。下記表1には、水と顔料とを含む顔料分散体の量として記載されている。
【表1】

【0057】
粘度調整剤(VC1およびVC2)は、それぞれ以下の化合物である。
【0058】
VC1:PEG200(三洋化成製)
VC2:グリセリンン
最後に1μmのメンブレンフィルターでろ過して、水性顔料インクを得た。下記表2には、水性顔料インク中におけるLMペクチンのwt%をまとめる。
【表2】

【0059】
各水性顔料インクにおける顔料の含有量は、下記表3に示すとおりとなる。
【表3】

【0060】
得られた水性顔料インクについて、コーンプレート型粘度計を用いて粘度を測定した。粘度計は、VISCOMETER TV−22(東機産業社製)である。0.8°×R24のコーンロータを用いて、25℃における各水性顔料インクの粘度を所定の回転数で測定した。
【0061】
50rpmの回転数で測定してVAを得、2.5rpmの回転数で測定してVBを得た。
【0062】
さらに、各水性顔料インクに対して0.5wt%の塩化カルシウムを加えて、50rpmの回転数で測定してVCを得た。
【0063】
測定値(VA,VB,VC)を用いて、(VB−VA)/VBおよびVC/VAを算出した。その結果を、測定値とともに下記表4にまとめる。
【表4】

【0064】
得られた水性顔料インクについて、吐出安定性および画像濃度を調べた。評価方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0065】
(吐出安定性)
CF1ヘッド(型番)(東芝テック社製)を搭載したインクジェット記録装置を用いて、普通紙に連続印字を行なった。普通紙としては、東芝コピーペーパーを使用した。印字直後、画像の乱れおよびかすれの有無を目視により調べ、以下の基準で安定性を判断した。なお、AまたはBであれば、実質上問題ないレベルである。
【0066】
A:かすれ等の発生なし
B:実質上問題ないレベルで、かすれが発生
C:吐出不良あり、実用にならないレベル
(画像濃度)
前述のインクジェット記録装置を用いて普通紙にベタ画像を形成し、その濃度を測定した。1画素を形成するために、1つのノズルから4pl(ピコリットル)のインクを連続的に3滴吐出させて、同一位置に着弾させる。600dpi(ドット/インチ)で、1cm2のベタ画像を形成した。普通紙としては、東芝コピーペーパーを準備した。得られた印刷物を1日間放置した後、分光濃度計(X−Rite社製)を用いて画像濃度を測定した。画像濃度の判断基準は、以下のとおりである。
【0067】
良:画像濃度1.2以上
不良:画像濃度1.2未満
得られた結果を、費用効果性とともに下記表5にまとめる。費用効果性は、インク中における顔料の含有量で評価した。含有量が5.0wt%未満であれば、費用効果性は良とし、5.0wt%以上の場合には不良とした。
【表5】

【0068】
また、各水性顔料インクを65℃の恒温槽に保管し、1週間経過後の粘度変化率を調べた。いずれのインクも粘度変化率は±10%未満であり、保存安定性は良好であることが確認された。
【0069】
上記表5に示されるように、No.9のインクは吐出安定性が劣っている。上記表4に示されるように(VB−VA)/VBが0.083と大きい。このNo.9のインクにおいては、LMペクチンの含有量が多すぎることが上記表2に示されている。
【0070】
No.10のインクは、画像濃度が劣っている。上記表4に示されるようにVC/VAが1.46と小さい。このNo.10のインクにおいては、LMペクチンの含有量が少なすぎることが上記表2に示されている。
【0071】
No.11〜14のインクは、画像濃度と費用効果性とを両立することができない。上記表2に示されるように、No.11〜14のインクは、いずれもLMペクチンが含有されていない。No.12,13のインクは、顔料の含有量が5.0wt%を超えていることが上記表3に示されている。
【0072】
No.1〜8の水性顔料インクは、いずれも(VB−VA)/VBは0.05未満であり、VC/VAは1.5以上である。水溶性高分子化合物としてのLMペクチンが所定の量で含有されているので、粘度の条件を満たすことができた。これに加えて、No.1〜8のインクにおいては、顔料の含有量は5wt%未満である。
【0073】
こうした条件を全て備えているので、吐出安定性に優れるとともに費用効果性の高い水性顔料インクが得られた。しかも、かかるインクは、高品質の画像を紙媒体に形成することができる。
【0074】
本発明の実施形態の水性顔料インクは、低コストで得られるとともに吐出安定性に優れ、十分な濃度の画像を紙媒体に形成することが可能である。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
前記水性顔料インクの5wt%未満の顔料と、
水溶性高分子化合物とを含有し,
コーンプレート型粘度計を用いて測定された25℃の粘度(mPa・s)が以下の関係を満たすことを特徴とする水性顔料インク。
0≦(VB−VA)/VB<0.05
C/VA≧1.5
3mPa・s≦V≦15mPa・s
ここで、
Aは、50rpmの回転数で測定された粘度であり、
Bは、2.5rpmの回転数で測定された粘度であり、
Cは、前記水性顔料インクに対して0.5wt%の塩化カルシウムを加えて50rpmの回転数で測定された粘度である。
【請求項2】
前記(VB−VA)/VBは0.042以下であることを特徴とする請求項1に記載の水性顔料インク。
【請求項3】
前記VC/VAは2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性顔料インク。
【請求項4】
前記VC/VAは20以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項5】
前記水溶性高分子化合物はペクチンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項6】
前記ペクチンは、エステル化度が50%未満であることを特徴とする請求項5に記載の水性顔料インク。
【請求項7】
前記顔料は、自己分散顔料であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項8】
前記顔料の量は前記水性顔料インクの3wt%未満であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項9】
前記顔料の量は前記水性顔料インクの1.5wt%以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項10】
粘度調整剤をさらに含有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項11】
前記粘度調整剤は、グリセリン、ポリエチレングリコールおよびグリコールエーテルからなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の水性顔料インク。
【請求項12】
水と、
前記水性顔料インクの5wt%未満の顔料と、
前記水性顔料インクの0.02wt%を超え0.3wt%未満の低メトキシルペクチンとを含有し、
コーンプレート型粘度計を用いて測定された25℃の粘度が3〜15mPa・sであることを特徴とする水性顔料インク。
【請求項13】
前記低メトキシルペクチンの量は水性顔料インクの0.2wt%未満であることを特徴とする請求項12に記載の水性顔料インク。
【請求項14】
前記低メトキシルペクチンの量は水性顔料インクの0.15wt%未満であることを特徴とする請求項12または13に記載の水性顔料インク。
【請求項15】
前記顔料は、自己分散顔料であることを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項16】
前記顔料の量は前記水性顔料インクの3wt%未満であることを特徴とする請求項12乃至15のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項17】
前記顔料の量は前記水性顔料インクの1.5wt%以上であることを特徴とする請求項12乃至16のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項18】
粘度調整剤をさらに含有することを特徴とする請求項12乃至17のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項19】
前記粘度調整剤は、グリセリン、ポリエチレングリコールおよびグリコールエーテルからなる群から選択されることを特徴とする請求項18に記載の水性顔料インク。

【公開番号】特開2011−225858(P2011−225858A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75713(P2011−75713)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】