説明

水性顔料分散液および筆記具用またはインクジェット用水性顔料インク

【課題】顔料、顔料処理剤、水性媒体および該水性媒体に可溶な分散樹脂を使用し、低粘度で且つ分散安定性が良好な水性顔料分散液および筆記具用またはインクジェット用水性顔料インクの提供。
【解決手段】顔料、顔料処理剤、水性媒体および該水性媒体に可溶な分散樹脂からなる水性顔料分散液において、顔料処理剤が、下記の一般式(I)で表わされる化合物であり、上記水性媒体が水および親水性有機溶剤とからなることを特徴とする水性顔料分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料分散液および筆記具用またはインクジェット用水性顔料インクに関し、さらに詳しくは、低粘度で、分散安定性などに優れ、特に筆記具用またはインクジェット用顔料インクの製造に適した顔料分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具用またはインクジェット用インクは、水性インクと油性インクとに大別される。従来、有機溶剤を利用する油性のインク組成物に関し、多くの提案がなされている(特許文献1、2)。しかしながらその利用については、例えばインクジェットプリンターノズルに生じる目詰りの問題や、溶剤の使用による危険性、有害性、環境の面で問題があり、水性インクの利用が主流となっている。但し、従来の水性インクの多くは着色剤として、酸性染料などの水溶性染料を用いていたため、色調の鮮明性は優れているものの耐水性や耐光性が悪いという欠点を有していた。
【0003】
また、染料は分子レベルで溶解しているため、筆記具またはインクジェット(以下単に「IJ」という)プリンターでオフィスで一般に使用されているコピー用紙などのいわゆる普通紙に印刷すると、髭状のフェザリングと呼ばれるブリードを生じて著しい印刷品質の低下を招いていた。このようなことから色素としては染料から顔料に移行してきている。
【0004】
着色剤として顔料を用いた顔料系インクは、着色剤として染料を用いた染料系インクに比べて、耐光性、耐水性に優れているという長所を有している。顔料は一般に水に不溶であり、従来の技術では塗料などで見られるが如く、顔料を分散樹脂溶液に分散させる際には、分散樹脂の顔料に対する分散力に多くを期待し、分散樹脂の顔料に対する分散力が不十分な場合には顔料処理剤が使用されてきた。通常の塗料では従来の顔料処理剤で十分な顔料の分散が得られた。
【0005】
しかしながら、筆記具用またはIJ用水性顔料インクは、塗料と比べ、要求される粘度が極端に低く、さらに要求される顔料の分散程度も極めて高度である。このような要求に対して、従来の分散樹脂や顔料処理剤の使用では、顔料の十分な分散が得られなかったり、顔料処理剤の顔料からの脱着や顔料と分散樹脂との親和性不足から、顔料分散液の粘度に経時変化が起こり、要求される性能を有する顔料分散液を得ることは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−247370号公報
【特許文献2】特許第3749644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、顔料、顔料処理剤、水性媒体および該水性媒体に可溶な分散樹脂を使用し、低粘度でかつ分散安定性が良好な水性顔料分散液および筆記具用またはIJ用水性顔料インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料、顔料処理剤、水性媒体および該水性媒体に可溶な分散樹脂からなる水性顔料分散液において、顔料処理剤が、下記の一般式(I)で表される化合物であり、上記水性媒体が水および親水性有機溶剤とからなることを特徴とする水性顔料分散液、該分散液からなる筆記具用またはIJ用水性顔料インクおよび該インクを有する筆記具またはIJプリンターを提供する。(以下「顔料分散液、筆記具用インクまたはIJインク」を纏めて単に「インク」という)。
【0009】

【0010】
(但し、上記式中のXは、水素原子、水酸基、アルコキシ基、1級、2級または3級アミノ基、またはアシルアミノ基であり、Yは5位に水素原子、水酸基、アルコキシ基、1級、2級または3級アミノ基、またはアシルアミノ基を有するアントラキノニルアミノ基、フェニルアミノ基或いはフェノキシ基であり、AおよびBはアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、AまたはBの少なくとも一方は塩基性窒素原子を有する置換基を少なくとも1個有する上記の基を表し、Zは水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基またはベンゾイルアミノ基を表す。)
上記「塩基性窒素原子を有する置換基」とは、1級、2級または3級アミノ基、第4級アンモニウム基および/またはピリジニウム基であり、特に3級アミノ基が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、顔料、顔料処理剤、水性媒体および該水性媒体に可溶な分散樹脂を使用し、低粘度でかつ分散安定性が良好な水性顔料分散液および筆記具用またはIJ用水性顔料インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明で用いる顔料処理剤は、水性塗料、水性印刷インク、顔料捺染剤などに使用される従来公知の各種顔料の顔料処理剤として有用である。特に有用な用途は水性インクにおける顔料の顔料処理剤としての用途であり、以下本発明をインクを代表例として説明する。
【0013】
本発明で用いる顔料処理剤は、例えば、特公昭46−33232号公報、特公昭46−33233号公報および特公昭46−34518号公報に開示されている製造方法或いはそれに準じる方法で製造される。一例を挙げれば、1−アミノ−5−ベンゾイルアミノアントラキノン1モルとアニリンまたはフェノール1モルと塩化シアヌル1モルとをo−ジクロロベンゼンなどの不活性な溶剤中で130〜160℃で2〜6時間、さらに少なくとも1個の2級アミノ基と少なくとも1個の3級アミノ基を有しかつ1級アミノ基を有さないポリアミン1モルを添加して150〜170℃で3〜4時間反応させることによって得られる。
【0014】
上記方法において使用する「少なくとも1個の2級アミノ基と少なくとも1個の3級アミノ基を有し、かつ1級アミノ基を有さないポリアミン」としては、例えば、
N,N,N’−トリメチル−エチレンジアミン
N,N−ジメチル−N’−エチル−エチレンジアミン
N,N−ジエチル−N’−メチル−エチレンジアミン
N,N−ジメチル−N’−エチル−プロピレンジアミン
N,N,N’−トリメチル−プロピレンジアミン
N,N,N’−トリエチル−プロピレンジアミン
N,N,N’−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン
N,N−ジエチル−N’−メチル−p−フェニレンジアミン
N,N−ジプロピル−N’−メチル−p−フェニレンジアミン
N,N,N’−トリメチル−p−フェニレンジアミン
N,N,N’−トリメチル−m−フェニレンジアミン
N,N,N’−トリエチル−p−フェニレンジアミン
N,N−ジエチル−N’−メチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン
N,N−ジエチル−N’−メチル−1,3−ジアミノシクロヘキサン
N,N,N’−トリメチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン
N,N,N’−トリエチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン
N−メチルピペラジン
N−エチルピペラジン
N−イソブチルピペラジン
2−クロロフェニルピペラジン
N−(2−ピリジル)ピペラジン
N−(4−ピリジル)ピペラジン
メチルホモピペラジンなどが挙げられる。
【0015】
上記化合物に加えて、特に好ましいものとしては,
N,N,N”,N”−テトラメチルジエチレントリアミン
N,N,N”,N”−テトラ(n−プロピル)ジエチレントリアミン
N,N,N”,N”−テトラ(I−プロピル)ジエチレントリアミン
N,N,N”,N”−テトラ(n−ブチル)ジエチレントリアミン
N,N,N”,N”−テトラ(I−ブチル)ジエチレントリアミン
N,N,N”,N”−テトラ(s−ブチル)ジエチレントリアミン
N,N,N”,N”−テトラ(t−ブチル)ジエチレントリアミン
3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)
3,3’−イミノビス(N,N−ジエチルプロピルアミン)
3,3’−イミノビス〔N,N−ジ(n−プロピル)プロピルアミン〕
3,3’−イミノビス〔N,N−ジ(I−プロピル)プロピルアミン〕
3,3’−イミノビス〔N,N−ジ(n−ブチル)プロピルアミン〕
3,3’−イミノビス〔N,N−ジ(I−ブチル)プロピルアミン〕
3,3’−イミノビス〔N,N−ジ(s−ブチル)プロピルアミン〕
3,3’−イミノビス〔N,N−ジ(t−ブチル)プロピルアミン〕
4,4’−イミノビス(N,N−ジメチルブチルアミン)
4,4’−イミノビス(N,N−ジエチルブチルアミン)
2,9−ジメチル−2,5,9−トリアザデカン
2,12−ジメチル−2,6,12−トリアザトリデカン
2,12−ジメチル−2,5,12−トリアザトリデカン
2,16−ジメチル−2,9,16−トリアザヘプタデカン
3−エチル−10−メチル−3,6,10−トリアザウンデカン
5,13−ジ(n−ブチル)−5,9,13−トリアザヘプタデカン
2,2’−ジピコリルアミン
3,3’−ジピコリルアミンなどが挙げられる。
【0016】
上記方法により得られる顔料処理剤のうちで、好ましい顔料処理剤は下記の一般式(1)で表される化合物であり、さらに好ましい顔料処理剤は下記の一般式(2)で表される化合物であり、特に好ましい顔料処理剤は下記の一般式(3)で表される化合物である。
【0017】

(但し、上記式中のX、YおよびZは前記定義の通りであり、R1〜R4は、同じでも異なってもよく、置換若しくは未置換のアルキル基または置換若しくは未置換のシクロアルキル基であり、R1とR2および/またはR3とR4は、夫々隣接する窒素原子と結合してさらに窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでもよい複素環を形成してもよく、R5およびR6は、アルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基である。)
【0018】

(但し、上記式中のX、Y、ZおよびR1〜R4は前記定義の通りであり、nおよびmは2〜30の整数である。)
なお、前記の式(I)および上記の式(1)〜(2)におけるアシルアミノ基は、−NHCORで示される基であり、Rはフェニル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などである。
【0019】

(但し、上記式中のXは水素原子またはベンゾイルアミノ基であり、Zは水素原子であり、R1〜R4は、同じでも異なってもよく、メチル基またはエチル基を、nおよびmは2または3を表す。)
【0020】
本発明において好ましい顔料処理剤の具体例を以下に挙げるが、本発明で使用する顔料処理剤はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下の式中のXはベンゾイルアミノ基を表わす。
【0021】

【0022】

【0023】

【0024】

および上記具体例1〜4の第4級アンモニウム化合物。
【0025】
本発明のインクは、上記の顔料処理剤、顔料、分散樹脂および水性媒体とから構成される。本発明で使用される顔料としては、従来公知の顔料はいずれも使用することができる。例えば、アゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、ペリレン・ペリノン系、インジゴ・チオインジゴ系、イソインドリノン系、アゾメチン系、アゾメチンアゾ系、キナクリドン系、フタロシアニンブルー、ジオキサジンバイオレット、アニリンブラック系などの有機顔料およびカーボンブラック、チタンブラック、ベンガラなどの無機顔料が使用できる。特に好ましい顔料としては、C.I.ピグメントレッド(以下「P.R.」と称す)122、P.R.177、P.R.242、P.R.254、C.I.ピグメントグリーン(以下「P.G.」と称す)7、P.G.36、C.I.ピグメントブルー(以下「P.B.」と称す)15:2、P.B.15:3、P.B.15:4、P.B.15:6、P.B.60、C.I.ピグメントイエロー(以下「P.Y.」と称す)14、P.Y.74、P.Y.110、P.Y.128、P.Y.138、P.Y.139、P.Y.150、P.Y.155、P.Y.180、P.Y.185、C.I.ピグメントバイオレット(以下「P.V.」と称す)19、P.V.23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブラック7などが挙げられる。
【0026】
本発明で使用する分散樹脂は、水性媒体に可溶であることが必要であり、該分散樹脂は親水性部分が酸基を有する単量体およびこれらと付加重合可能な単量体を構成単量体とする分散樹脂である。以下に本発明に使用される分散樹脂を構成する単量体について説明する。
【0027】
分散樹脂の酸基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基またはリン酸基である。酸基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボン酸基を有する単量体、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体、ビニルホスホン酸、メタアクリロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェートなどのリン酸基を有する単量体が挙げられる。(なお、本発明では、アクリル酸およびメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と称する。)
【0028】
上記の単量体以外に分散樹脂に耐水性や可撓性その他の物性を付与する付加重合可能な単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの水酸基を有する単量体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ブトキシメチルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド基を有する単量体、さらに、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体、酢酸ビニルおよび(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0029】
上記の単量体の混合物を共重合して分散樹脂を得る場合、酸基を有する単量体が単量体混合物中10〜40質量%、好ましくは15〜30質量%である。その他の単量体の使用割合は、得られる分散樹脂が水性媒体に可溶である範囲で、分散樹脂に要求される性能を満足するように適宜決められ、使用割合は特に限定されない。
本発明で使用する分散樹脂は、上記の単量体を使用し、従来公知のラジカル重合開始剤を用いて共重合させることで得ることができる。単量体を通常の重合法、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などいずれの重合法によっても得ることができる。
【0030】
分散樹脂の重量平均分子量(GPCで測定、標準ポリスチレン換算)は、5,000〜100,000が好適である。また、該分散樹脂の酸価は60〜270mgKOH/gである。分散樹脂の酸価が60未満の時は、得られた着色剤粒子の水分散安定性が十分ではなく、また酸価が270を越える場合には、分散樹脂の塩基による中和の際に凝集を生じやすいことから、分散樹脂の酸価は90〜180mgKOH/gが好適である。
【0031】
分散樹脂の親水性部分の少なくとも一部の酸基が、塩基、すなわち、アルカリ性の中和剤によって中和されたものである。塩基(アルカリ性中和剤)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリンなどの塩基性物質の他、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミンが挙げられる。
【0032】
本発明で使用される酸基を有する分散樹脂に、上記の塩基を添加して中和する方法としては、該分散樹脂の水性媒体を混合する際に水媒体中に添加するか、予め調製しておいた塩基の水溶液を該分散樹脂の水性媒体溶液に添加するなどの方法があるが、その採用については最も良い条件を選択すればよい。
本発明で使用される水性媒体は、水および親水性有機溶剤とからなり、親水性有機溶剤としては、水性塗料、水性インクなどに使用されている従来公知の親水性有機溶剤がいずれも使用できる。
【0033】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類など、分散樹脂を溶解させるものであれば使用可能であり、これらは単独でまたは二種以上を混合して使用することができる。
【0034】
水性媒体において使用する水は、筆記具用およびIJ用として使用するため、筆記具のチップ先端部またはIJのノズル目詰まりを回避するためにイオン交換水以上のグレードの水が好ましい。また、インクが乾燥するのを防止するためには、親水性溶剤を乾燥防止剤として当該インク中に存在させておくのが好ましい。かかる乾燥防止剤としては筆記具のチップ部分またはIJの噴射ノズルの口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常、水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては、上記の親水性有機溶剤の内のグリコールエーテル類、ピロリドン類、アミド類の他、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオールなどのグリコール系溶剤、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、ジメチルスルホオキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。本発明において使用する乾燥防止剤はこれらに限定されるものではないが、特にグリセリンが主の乾燥防止剤の場合に最も優れた効果を示す。乾燥防止剤の使用量は、種類によって異なるが、通常、水100質量部に対して1〜50質量部の範囲から適宜選択されるが、グリセリンおよびその他の乾燥防止剤を併用したものを使用する場合には10〜30質量部が好適である。
【0035】
本発明によるインク組成物は中性或いは弱アルカリ性であり、顔料、顔料処理剤、分散樹脂および水性媒体からなり、従来の水性インクや水性塗料の製造におけると同様にして製造することができ、製造方法自体は特に限定されない。例えば、顔料を予め前記の顔料処理剤で処理した後、前記の分散樹脂の水性媒体からなる水溶液に分散させる方法、未処理の顔料と前記の顔料処理剤とを上記の分散樹脂溶液と混合し、さらに分散機で顔料を分散処理する方法などが挙げられる。
【0036】
顔料を予め顔料処理剤で処理した後、分散樹脂の水性媒体からなる水溶液に分散させる方法を採用する場合には、顔料の処理は例えば次のように実施できる。(1)硫酸などに顔料および顔料処理剤を溶解した後、この溶液を水中に注いだ後、液をアルカリ性にして両者を固溶体として析出させ、濾過、水洗してペースト状の処理顔料をまたは乾燥および粉砕により粉末状の処理顔料を得る、(2)顔料処理剤を硫酸、塩酸、または酢酸などの塩とし、これを水中で顔料と混合し、必要に応じ、分散機で分散処理して顔料の表面に顔料処理剤を吸着させた後、アルカリ析出し、濾過、水洗してペースト状の処理顔料をまたは乾燥および粉砕により粉末状の処理顔料を得る、または(3)酢酸などの液状の有機酸に顔料処理剤を溶解し、これに顔料を加えて、必要により、分散機で分散処理をして顔料表面に顔料処理剤を吸着させた後、濾過、アルカリ洗浄、水洗してペースト状の処理顔料をまたは乾燥および粉砕により粉末状の処理顔料を得る。このようにして得られる処理顔料を、分散樹脂の水性媒体からなる水溶液に分散させることにより本発明のインクが製造される。
【0037】
また、未処理顔料と顔料処理剤を分散樹脂溶液に混合し、分散機で分散処理する方法を用いる場合には、分散樹脂の水性媒体からなる水溶液に顔料と顔料処理剤とを添加し、必要であれば、予備混合し、分散機で分散してインクとする。本発明において使用できる分散機は特に制限されず、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスやジルコニアビーズなどを使用したサンドミルや横型メディア分散機、コロイドミルなどが挙げられる。分散処理した顔料を使用する場合には、さらに処理顔料を固形の分散樹脂に分散させて顔料チップを得、該顔料チップを水性媒体に分散し、必要であれば、さらに分散樹脂を追加してインクを得ることもできる。
【0038】
顔料チップを得る方法としては、例えば、(1)懸濁重合で得た固形の分散樹脂または溶液重合で得た分散樹脂の溶液から分離した固形の分散樹脂と分散処理顔料とを、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロールまたは三本ロールなどで混練する操作のいずれかを単独でまたは組み合わせて加熱下に顔料を分散樹脂中に分散させ、次いで粉砕または切断してチップを得る方法、(2)分散樹脂の水性媒体からなる水溶液と、処理顔料のペーストをニーダーで混合し、分散樹脂の軟化温度またはそれ以上に加熱して水を除去し、必要であれば、さらに三本ロールや押し出し機などを用いて顔料を分散させ粉砕または切断して顔料チップを得る方法、(3)分散処理顔料のペーストと固形の分散樹脂とを、分散樹脂の軟化温度以上でフラッシングする方法などがある。
【0039】
本発明のインクにおいては、前記の顔料処理剤は、顔料100質量部に対して、通常、0.1〜50質量部、好ましくは、0.5〜30質量部の割合で使用する。また、前記の分散樹脂に対する顔料の使用割合は、分散樹脂100質量部に対して、通常、50〜1000質量部の範囲である。本発明のインク中の顔料濃度は、顔料の種類にもよるが、通常0.3〜30質量%、好ましくは1.0〜20質量%である。また、インクの粘度は、通常1〜50ミリパスカル・秒(mPa・s)、好ましくは2〜30mPa・sであるが、筆記具の構造により7mPa・sより低いことが必要な場合もある。インクにおいて特に重要なことは、粘度および粒子径の分散安定性に優れていることであるが、本発明のインクは、顔料、顔料処理剤、分散樹脂および水性媒体を用いることで、優れた粘度および粒子径の分散安定性が付与される。
【0040】
本発明のインクには、さらに各種の添加剤を加えることができる。かかる添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、抗酸化剤などの耐久性向上剤、芳香剤、抗菌剤などが使用でき、さらに必要であれば、染料を添加することもできる。また、分散樹脂として、前記の本発明で使用する分散樹脂と相溶性のある分散樹脂を、顔料の分散安定性を低下させない限りにおいて併用することができる。
得られたインクは通常そのままで使用できるが、遠心分離機、超遠心分離機、または濾過機で、場合により僅かに存在するかも知れない顔料の粗大粒子を除去することにより、筆記具用具またはIJプリンターの信頼性を高めることができるので好ましい。
【0041】
本発明によれば、顔料、分散樹脂、水性媒体中での顔料処理剤の使用を検討したところ、低粘度で、かつ、分散安定性が良好な水性顔料分散液および筆記具用またはIJ用水性顔料インクを調製することができた。このことは、該顔料処理剤は顔料への吸着性が大きいこと、さらには該顔料処理剤によってカチオン化処理された顔料と分散樹脂のカルボン酸基、スルホン酸基またはリン酸基との親和力により分散安定性が向上したと考えられる。
【0042】
以上の説明においては、本発明、顔料分散液を使用したインクを代表例として説明したが、本発明の顔料分散液の用途はインクのみに限定されるものではなく、例えば、本発明の顔料分散液は、水性塗料、水性印刷インク、顔料捺染剤などに使用される従来公知の各種顔料の顔料分散液として有用である。
【実施例】
【0043】
次に、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中部または%とあるのは質量基準である。
【0044】
[合成例1]
o−ジクロロベンゼン600部に62部の1−アミノアントラキノンと25部の塩化シアヌルを加え130℃で5時間撹拌する。冷却後、さらにN,N,N”,N”−テトラエチルジエチレントリアミン50部を添加して170℃にて3時間撹拌する。濾過後得られたフィルターケーキをエチルアルコールで洗浄し、乾燥後、前記具体例(1)の顔料処理剤1を得た。
【0045】
[合成例2]
合成例1と同様にして、塩化シアヌルに1−アミノアントラキノンおよび3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)を順次縮合反応させて前記具体例(2)の顔料処理剤2を得た。
【0046】
[合成例3]
合成例1と同様にして、塩化シアヌルに1−アミノアントラキノンおよび3−エチル−10−メチル−3,6,10−トリアザウンデカンを順次縮合反応させて前記具体例(3)の顔料処理剤3を得た。
【0047】
[合成例4]
合成例1と同様にして、塩化シアヌルに1−アミノ−5−ベンゾイルアミノアントラキノンおよび3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン)を順次縮合反応させて前記具体例(4)の顔料処理剤4を得た。
【0048】
[分散樹脂溶液の合成例]
エチルアクリレート40部、エチルメタクリレート30部、スチレン10部、メタクリル酸20部、アゾビスイソブチロニトリル2部、イソプロピルアルコール50部およびジエチレングリコールモノブチルエーテル50部を重合容器に仕込み、冷却管をセットして70℃で8時間重合する。冷却後、水酸化ナトリウム10部と水38部を添加し、樹脂溶液を重合容器から取り出した。これを分散樹脂溶液とする。樹脂分は40%で、粘度は200mPa・sであり、分散樹脂の重量平均分子量(GPCで測定、標準ポリスチレン換算)は9,000であった。
【0049】
[実施例1]
上記の分散樹脂溶液75部と黄色顔料(P.Y.74)100部、実施例1の顔料処理剤(1)10部、エタノール30部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル30部、水255部を横型メディア分散機を使用して分散を行ない、顔料濃度20%の水性顔料分散液を得た。
【0050】
この分散液50部に水110部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル15部およびグリセリン25部を加えて顔料濃度5%に調整した後、超遠心分離により粗大粒子を除去して本発明のインクを得た。顔料の平均粒子径は95nmで、粘度は3.5mPa・sであった。また、該インクを70℃で1週間保存したが顔料の沈降は認められず、平均粒子径を計ったところ95nmであり、変化はなかった。また、粘度を計ったところ3.5mPa・sであり、粘度変化はなかった。
【0051】
次に、上記のインクを繊維束の芯を有するペン体に詰めて普通紙に筆記したところ、良好に筆記できた。また、該インク100部に水10部を追加して得たインクを使用して、IJ印刷機にて普通紙に印刷したところ、良好な印刷物が得られた。
【0052】
[実施例2〜4]
顔料処理剤として、合成例2〜4の顔料処理剤のそれぞれを用いた以外は、実施例1と同様にして黄色インクを得、実施例1と同様にして評価した。この結果を実施例1の結果とともに表1と表2に示す。表中の○は筆記性が良好な場合およびIJ印刷性が良好な場合を、△は筆記性が不充分な場合およびIJ印刷性が不充分な場合を示している。
【0053】
[実施例5]
顔料として赤色顔料(P.R.122)を用いた以外は、実施例1と同様にして赤色インクを得、実施例1と同様にして評価した。この結果を表1と表2に示す。
【0054】
[実施例6]
顔料として青色顔料(P.B.15:3)を用いた以外は、実施例1と同様にして青色インクを得、実施例1と同様にして評価した。この結果を表1と表2に示す。
【0055】
[実施例7]
顔料として黒色顔料(P.Bk.7)を用いた以外は、実施例1と同様にして黒色インクを得、実施例1と同様にして評価した。この結果を表1と表2に示す。
【0056】
[比較例1]
顔料処理剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にして黄色インクを得、実施例1と同様にして評価した。この結果を表1と表2に示す。
【0057】

【0058】

【0059】
表1および表2の結果から、顔料処理剤1〜4を使用した実施例1〜7は、低粘度、微分散化、分散安定性、筆記性、IJ印刷性の良好なインクが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上記本発明によれば、顔料、顔料処理剤、水性媒体および該水性媒体に可溶な分散樹脂を使用し、低粘度でかつ分散安定性が良好な水性顔料分散液および筆記具用またはIJ用水性顔料インクを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料処理剤、水性媒体および該水性媒体に可溶な分散樹脂からなる水性顔料分散液において、顔料処理剤が、下記の一般式(I)で表わされる化合物であり、上記水性媒体が水および親水性有機溶剤とからなることを特徴とする水性顔料分散液。

(但し、上記式中のXは、水素原子、水酸基、アルコキシ基、1級、2級または3級アミノ基、またはアシルアミノ基であり、Yは5位に水素原子、水酸基、アルコキシ基、1級、2級または3級アミノ基、またはアシルアミノ基を有するアントラキノニルアミノ基、フェニルアミノ基或いはフェノキシ基であり、AおよびBはアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、AまたはBの少なくとも一方は塩基性窒素原子を有する置換基を少なくとも1個有する上記の基を表し、Zは水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基またはベンゾイルアミノ基を表す。)
【請求項2】
前記塩基性窒素原子を有する少なくとも1個の置換基が、1級、2級または3級アミノ基、第4級アンモニウム基またはピリジニウム基であり、該塩基性窒素原子を有する置換基が2個以上存在する場合には、それらは同種であっても異種であってもよい請求項1に記載の水性顔料分散液。
【請求項3】
一般式(I)で表わされる化合物が、下記の一般式(1)で表わされる請求項1に記載の水性顔料分散液。

(但し、上記式中のX、YおよびZは前記定義の通りであり、R1〜R4は、同じでも異なってもよく、置換若しくは未置換のアルキル基または置換若しくは未置換のシクロアルキル基であり、R1とR2および/またはR3とR4は、夫々隣接する窒素原子と結合してさらに窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでもよい複素環を形成してもよく、R5およびR6は、アルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基である。)
【請求項4】
一般式(I)で表わされる化合物が、下記の一般式(2)で表わされる化合物である請求項1に記載の水性顔料分散液。

(但し、上記式中のX、YおよびZは前記定義の通りであり、R1〜R4は、同じでも異なってもよく、置換若しくは未置換のアルキル基または置換若しくは未置換のシクロアルキル基であり、R1とR2および/またはR3とR4は、それぞれ隣接する窒素原子と結合してさらに窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでもよい複素環を形成してもよく、nおよびmは2〜30の整数である。)
【請求項5】
一般式(I)で表わされる化合物が、下記一般式(3)で表わされる化合物である請求項1に記載の水性顔料分散液。

(但し、上記式中のXは水素原子またはベンゾイルアミノ基であり、Zは水素原子であり、R1〜R4は、同じでも異なってもよく、メチル基またはエチル基を、nおよびmは2または3を表す。)
【請求項6】
分散樹脂の親水性部分が、カルボン酸基、スルホン酸基またはリン酸基である請求項1に記載の水性顔料分散液。
【請求項7】
分散樹脂の酸価が、60〜270mgKOH/gである請求項6に記載の水性顔料分散液。
【請求項8】
顔料が、赤色顔料、緑色顔料、青色顔料、黄色顔料、紫色顔料、橙色顔料または黒色顔料である請求項1に記載の水性顔料分散液。
【請求項9】
乾燥防止剤として親水性有機溶剤を含有する請求項1に記載の水性顔料分散液。
【請求項10】
乾燥防止剤としての親水性有機溶剤が、グリセリンである請求項9に記載の水性顔料分散液。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の水性顔料分散液からなることを特徴とする筆記具用またはインクジェット用水性顔料インク。
【請求項12】
顔料処理剤を、顔料100質量部に対して0.1〜50質量部の割合で使用し、顔料を分散樹脂100質量部に対して50〜1000質量部の範囲で使用し、インク中の顔料濃度が0.3〜30質量%であり、インクの粘度が1〜50ミリパスカル・秒(mPa・s)である請求項11に記載の筆記具用またはインクジェット用水性顔料インク。
【請求項13】
請求項11または12に記載の筆記具用またはインクジェット用水性顔料インクを有することを特徴とする筆記具またはインクジェットプリンター。

【公開番号】特開2011−57863(P2011−57863A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209427(P2009−209427)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】