説明

水性顔料分散液及びインクジェット記録用インク組成物

【課題】優れた分散性と長期保存安定性を有し、インクジェット記録用インクを作製した場合に、分散性、長期保存安定性に加え、吐出性、長期吐出安定性、印刷画像の高光沢性と耐光性等の諸特性が同時に実現され、生産工程における粗大粒子の残存が極めて少なく、極めて生産効率の高い製造の可能な赤橙色の水性顔料分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】ピグメントレッド149、50〜300の酸価と6000〜40000の重量平均分子量を有し、スチレン系モノマーの構成比が60質量%以上のスチレン−アクリル酸系共重合体、アルカリ金属水酸化物、及び湿潤剤を含有する混合物を混練して、常温で固形の着色混練物を製造する混練工程を有するインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法であって,前記混練工程における着色混練物の固形分率が63〜73質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤橙色顔料を用いた水性顔料分散液及び該顔料分散液を用いたインクジェット記録用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクは、油性インクのような火災の危険性や変異原性などの毒性を低減できるため、産業用途以外のインクジェット記録用途の主流となっている。
係る水性インクとしては、安定性が高く、ノズル目詰まりが少なく吐出性が良好で良好な発色性を有し高画質の印刷を可能とすることから、着色剤として染料が用いられてきたが、染料は、画像の耐水性、耐光性に劣るという問題があった。
【0003】
この問題を解決するため、染料から顔料への着色剤の転換が活発に図られている。顔料インクは優れた耐水性、耐光性が期待できるが、顔料の凝集・沈降に伴うノズル目詰まりが問題となる。そこで、微粒子化した顔料を高分子系の分散剤を用いて水性媒体中に分散させる方法が検討されている。
これら着色剤に顔料を使用したインクは、良好な分散性とその安定性、インクジェットノズルからの吐出性、耐光性、光沢、彩度が満たされねばならい。そこで、それぞれの色に応じて最適な顔料の選定、及びそれぞれの顔料を良好に、かつ安定して分散しうる高分子分散剤の選択、およびそれらを用いた上でさらに水性顔料分散液の製造方法が詳細に検討されている。しかし各色に対応する顔料の種類の多さに加え、用いるべき最適の分散方法の詳細は顔料毎に異なっていて、必ずしも、全ての色について最適なインクジェット記録用インクが得られているわけではない。
【0004】
近年、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの基本色のインクに加え、レッドなどの赤橙色のインクを用いて、印刷画像の色再現性を向上させる試みが行われており、さらに多くの色について分散安定性を満たし、かつ良好な発色性、光沢を有するインクジェット記録用顔料インクが求められている。
例えば赤橙色は、光の三原色の一つであるR(レッド)に用いられるため、カラーフィルター用ペースト製造用の顔料として、ピグメントレッド166、149、177、224、254、ピグメントオレンジ36、43など多くの顔料が例示されている(特許文献1参照)。
これら赤橙色のインクジェット記録用インクとしては、インクジェット記録方法に必要な良好な分散性と、基本4色との色相の良好なバランスを有する種々の赤橙色顔料を用いたものが、基本4色と組み合わせられたインクセットとして提案されている。
しかし多くは赤橙色顔料の発色性と、他の色のインクと組み合わせられた場合の色バランス、色域の拡大に重点が置かれており、赤橙色の発色領域を有するインク自体の分散性、吐出性、保存安定性等の基本特性改良については十分検討がなされているとは言えない状況である(特許文献2、3、4、5参照)。
【0005】
例えば温度制御された工場内で、ほぼ連続的に行われる専用機を用いたカラーフィルターの印刷に比べ、広い温度範囲において不定期な随時の印刷要求に応じ、ほとんどメンテナンスフリーで印刷する必要のある、汎用のインクジェットプリンター機を用いた通常の印刷においては、インクジェット記録用インクに対してより高い分散安定性、長期保存安定性が求められる。
上記カラーフィルター用の赤橙色顔料はカラーフィルター用としての使用実績があるため、インクジェット記録用インクについても同様に使用可能な顔料として、公知文献中に例示されることが多い。しかも通常のインクジェット記録に用いられる基本4色とは異なって、赤橙色の顔料を用いたインクジェット記録用インクのための検討は未だ極めて小数しかなされていない。しかし理想的な発色域を有しつつ、上記のインクジェット適性を有する顔料を選定し、かつ良好な分散性、吐出性、保存安定性を併有するインクジェット記録用インクを実現することは容易ではない。
このため、赤橙色のインクジェット記録用インクは、基本4色と同等の十分な吐出性、分散性、保存安定性が得られることが期待されているにもかかわらず、実際は必ずしも十分な特性を示すものが得られていない。
【0006】
さらにまた近年、印刷画像の発色の長期安定性に対する要求が高まっており、また産業用として被印刷物が野外で使用される機会の増加に伴って、インクジェット記録用顔料インクに対しては、優れた耐光性も併せて要求されるようになった。またサーマルジェット記録用のインクとしての使用が想定される場合には、さらに高温における保存安定性も必須と考えられ、インクに対する要求はより厳しいものとなっている。
そのような要求に応え、例えば顔料自体の分散性を向上させることにより、分散性の向上を図る試みが行われている。(特許文献6参照)しかしそのような多岐に渉る要求を満たすためには、顔料の改良のみならず、組み合わせるべき高分子分散剤や、さらには該分散剤を用いたときの最適な配合、該配合を用いた製造方法についての詳細な検討が必要である。しかし、そのような赤橙色顔料を用いた高性能のインクジェット記録用インクの検討はほとんど成されてきていない。
【0007】
出願人は先に特開2006−233211において、ピグメントレッド168を用いて、特定組成のスチレン−アクリル酸共重合体、アルカリ金属水酸化物、湿潤剤及び水を含有する混合物を混練して固形の着色混練物を製造する混練工程を有する水性顔料分散液の製造方法を検討し、インク画像の高光沢、耐光性と良好な吐出安定性を有し、インクジェット記録法の色域を拡大すると同時に長期保存安定性を満たすインクジェット記録インク用水性顔料分散液が得られることを見出した(特許文献7参照)。しかし形成画像の高画質化、長期保存安定化、良好な吐出性を確保するための粗大粒子の低減の要求はますます高まっており、基本4色に用いるインクジェット記録用インクと共に、これを補って色域を拡大する赤橙色のインクジェット記録用インクのさらなる特性向上が求められている。
【0008】
一方、顔料と組み合わせるべき高分子分散剤としては、別途種々の検討がなされてきた。しかしそれら多くの高分子分散剤の中で、ピグメントレッド149を初めとする、赤橙色を示す顔料に対して、どのような樹脂組成が分散剤として特に適しているかの選択の指針は特に示されていない。例えばインクジェット記録用インクに用いられる高分子分散剤に言及した文献の一つとして、50〜90質量%のスチレン系モノマー単位とアクリル酸モノマー単位またはメタクリル酸モノマー単位とを有し、かつ酸価50〜300のスチレンーアクリル系樹脂、顔料、湿潤剤及び塩基性化合物を混練し、着色混練物を作製する工程を有するインクジェットインク用水性顔料分散液の製造方法が開示されている(特許文献8参照)。しかし、上記公報中には、特に好適に組み合わせられる使用顔料の規定がなく、公知の多くの赤橙色の顔料の中でどの顔料を用いれば、優れた特性の赤橙色のインクジェット記録用インクが得られるかについては全く開示されていない。そもそもピグメントレッド149等の赤橙色顔料を用いて、実際にインクジェット記録用水性顔料分散液を作製している場合は、他色と組み合わせた場合のインクジェット記録用インクの色域の拡大が目的であって、インクセットとしての良好な色バランスの実現が主に検討されている。そのような文献中においては、インクの分散安定性や吐出性等の基本特性を向上させるための、高分子分散剤の選定、水性顔料分散液の最適配合、その製造方法等についてはほとんど検討されていなかった。従って、これら文献を参照したとしても、優れた耐光性、発色性を有するピグメントレッド149を用いて、汎用のインクジェットプリンターに対して使用可能なインクジェット記録用インクを作製したときに、従来に比較して極めて優れた分散性、吐出性、良好な長期保存安定性を発揮するような水性顔料分散液を作製する方法を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開平10−115709号公報
【特許文献2】特開2007−182577号公報
【特許文献3】特開2007−264890号公報
【特許文献4】特開2009−052030号公報
【特許文献5】特開2006−283017号公報
【特許文献6】特開2003−026965号公報
【特許文献7】特開2006−233211号公報
【特許文献8】特開2003−226832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の目的は、優れた分散性を有し粗大粒子が少なく、長期保存安定性を有する赤橙色の水性顔料分散液の製造方法であって、該水性顔料分散液からインクジェット記録用インクを作製した場合に、分散性、長期保存安定性に加え、吐出性、長期吐出安定性、印刷画像の高光沢性と耐光性等の諸特性が同時に実現され、他色のインクと共に用いられてインクジェット記録法の色域拡大、色再現性の向上が達成されるとともに、生産工程における粗大粒子の残存が極めて少なく、極めて生産効率の高い製造の可能な赤橙色の水性顔料分散液の製造方法を提供することである。
さらにまた本願発明の目的は上記特性を有する水性顔料分散液を主成分として含有するインクジェット記録用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願人は、前述のような状況に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構造の赤橙色顔料と、特定の構成を有するスチレン−アクリル酸共重合体とを主成分とする水性顔料分散液が上述の課題を達成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、(a)ピグメントレッド149、(b)スチレン−アクリル酸系共重合体、(c)アルカリ金属水酸化物、及び(d)湿潤剤を含有する混合物を混練して、常温で固形の着色混練物を製造する混練工程を有するインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法であって, 前記(b)スチレン−アクリル酸共重合体は60質量%以上のスチレン系モノマー単位と、130〜170の酸価、及び6000〜40000の重量平均分子量を有し、前記混練工程における着色混練物の固形分率が63〜73質量%であることを特徴とするインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法を提供するものである。尚、本発明で示す酸価はmgKOH/gの単位を有する。
本発明の水性顔料分散液の製造方法は、ピグメントレッド149を用いており、しかも特定の組成と特性を有するスチレン−アクリル酸共重合体を分散剤として用いているため、初期分散粒径が極めて細かく粗大粒子が極めて少なく、分散安定性に優れている。さらに(a)ピグメントレッド149、(b)スチレン−アクリル酸系共重合体、(c)アルカリ金属水酸化物、及び(d)湿潤剤を含有する混合物を混練して、常温で固形の着色混練物を製造する混練工程を有しており、かつ該混練工程における固形分率が最適に調整されているので、水性顔料分散液中の粗大粒子数が少なく、また高温保存時の保存安定性に優れている。
さらに本発明は前記水性顔料分散液を主成分として含有するインクジェット記録用インク組成物を提供する。
本願発明のインクジェット記録用インク組成物は、上記優れた分散性、低減された粗大粒子数、高温保存時の保存安定性に加え、吐出性が良好で、高温保存時も優れた吐出安定性を有すると共に、他の色のインクジェット記録用インク組成物と組み合わせられてインクセットを構成し、色再現性の良い高光沢の画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の水性顔料分散液の製造方法は、上記特定のモノマー組成と酸価、及び分子量を有するスチレン−アクリル酸共重合体とピグメントレッド149を組み合わせ、さらにアルカリ金属水酸化物、及び湿潤剤を含有する混合物を混練して固形の着色混練物を製造する混練工程を有しているため、混練工程で顔料が解砕され微細化され粗大粒子が低減されるとともに、極めて微細に解砕された顔料表面がスチレン−アクリル酸共重合体で被覆される。このため混練工程で作製された固形の着色混練物に水性媒体を混合するだけで、優れた分散性を有する水性顔料分散液を作製することができる。また、混練工程で顔料表面が良好に被覆されているので、高温保存時の良好な保存安定性を有し、また該水性顔料分散液を主成分として含有するインクジェット記録用インクは上記優れた分散性、保存安定性を有すると共に、良好な吐出性、高温保存時の吐出安定性を有し、該インクで形成された画像は良好な光沢と耐光性を発現する。また他の色のインクジェット記録用インクと併用されて、色再現性に優れた多色の印刷画像を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下にまず本発明の製造方法で使用される原料についてそれぞれ詳細な説明を行い。続いてそれらを用いた本発明の水性顔料分散液の製造方法について詳細な説明を行う。
本発明で用いられるC.I.ピグメントレッド149(以降単にピグメントレッド149戸も記す)の化学式は下記、式(1)で表されるペリレン系顔料であり、N,N'-ビス(3,5-ジメチルフェニル)ペリレン-3,4:9,10-ビス(ジカルボイミド)との化合物名称を有する。
【0013】
【化1】

(1)
【0014】
.ピグメントレッド149の粒径は、特に限定されないが、電子顕微鏡観察により得られるその平均一次粒径が200nm以下であることが好ましい。粒径が200nmを超えると、これを含むインクの吐出性が低下する傾向がある。ピグメントレッド149の安定的な分散のためには、顔料表面へ樹脂の吸着を行って立体障害による分散安定化を行うことが重要となる。
【0015】
本発明において用いられる(b)スチレン−アクリル酸共重合体は、その構成モノマーとして少なくともスチレンと、アクリル酸及びメタクリル酸のうちの一種以上を含み、好ましくはスチレン、アクリル酸、メタクリル酸を全て含む。該共重合体は構成モノマー組成比において、スチレンモノマーが60質量%以上であり、好ましくは70〜90質量%である。特に、スチレンモノマー単位とアクリル酸モノマー単位とメタクリル酸モノマー単位の和が95質量%以上であることが好ましい。本発明のスチレン−アクリル酸共重合体は、60質量%以上もの高濃度のスチレンモノマー単位を含むため、疎水性の顔料表面に良好に吸着し、該顔料の分散性を良好に保持することができる。前記吸着は強固であり、特にピグメントレッド149に対しては極めて強固に吸着し、他顔料に適用した場合と比較して、高温ではるかに長期間保存した後も安定した分散性が維持される。
一方でスチレンモノマー単位が60質量%未満であると、(a)ピグメントレッド149への(b)スチレンアクリル酸共重合体の親和性が不充分となり、分散安定性が低下する傾向があり、又得られるインクジェット記録用インク組成物を用いた普通紙記録特性が劣化し、画像記録濃度が低下する傾向があり、耐水特性も低下しやすい。スチレンモノマー単位が90質量%より多いと、(b)スチレンーアクリル酸共重合体の水性媒体に対する溶解性が低下し、水性顔料分散液における顔料の分散性や分散安定性が低下する傾向にあり、インクジェット記録用インクに適用した場合の印字安定性が低下しやすい。
【0016】
本発明の水性顔料分酸液に使用する(b)スチレン−アクリル酸共重合体の酸価は130〜170である。酸価が130より小さいと親水性が小さくなり、顔料の分散安定性が低下する傾向がある。一方酸価が170より大きいと顔料の凝集が発生し易くなり、またインク組成物を用いた印字物の耐水性が低下する傾向がある。酸価の値としては135〜165が好ましく、140から160の範囲であることがより好ましい。
(b)スチレン−アクリル酸共重合体はその構成モノマーとして、アクリル酸とメタクリル酸を併用すると、樹脂合成時のランダム共重合性が向上して、樹脂の溶解性を向上させる効果があり好ましい。
【0017】
(b)スチレン−アクリル酸共重合体には、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸以外のこれらのモノマーと重合可能なモノマー単位が5質量%未満含まれていても良い。このようなモノマーの例としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、3-メチルブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2-エトキシエチルアクリレート、3-エトキシプロピルアクリレート、2-エトキシブチルアクリレート、3-エトキシブチルアクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)アクリレート、メチル-α-(ヒドロキシメチル)アクリレートのような(メタ)アクリル酸エステル誘導体;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸アリールエステル類及び(メタ)アクリル酸アラルキルエステル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ビスフェノールAのような多価アルコール、多価フェノールのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルのようなマレイン酸ジアルキルエステル等を挙げることができる。これらのモノマーはその1種又は2種以上をモノマー単位として添加することができる。
【0018】
本発明において用いられる(b)スチレンーアクリル酸共重合体の重量平均分子量は6,000〜40,000の範囲である。重量平均分子量は7,500〜30,000の範囲内にあることが好ましく、7,500〜12,000の範囲内にあることがより好ましい。重量平均分子量が6,000未満であると、(a)ピグメントレッド149の初期の分散小粒径化は容易であるが、分散液の長期保存安定性が悪くなる傾向にあり、顔料の凝集などによる沈降が発生する場合がある。
(b)スチレンーアクリル酸共重合体の重量平均分子量が40,000を超えると、これを用いた水性顔料分散液から調製したインクジェット記録用インクの粘度が高くなって、インクの吐出安定性が損なわれる傾向にある。
【0019】
本発明において用いられる(b)スチレンーアクリル酸共重合体はランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体の何れであっても良い。グラフト共重合体としてはポリスチレンあるいはスチレンと共重合可能な非イオン性モノマーとスチレンとの共重合体が幹又は枝となり、アクリル酸、メタクリル酸とスチレンを含む他のモノマーとの共重合体を枝又は幹とするグラフト共重合体をその一例として示すことができる。(b)スチレンーアクリル酸共重合体は、上述の共重合体とランダム共重合体の混合物であってもよい。
【0020】
本発明の水性顔料分散液において、(a)ピグメントレッド149の100質量部に対する、(b)スチレンーアクリル酸共重合体の含有量は10〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。(b)スチレンーアクリル酸共重合体の含有量が10質量部未満であると、水性顔料分散液の分散安定性が低下するとともに水性顔料分散液を用いてインクジェット記録用インクにしたとき、耐摩擦性が低下する傾向にあり、50質量部を超えた場合は、インクジェット記録用インクの粘度が高くなる傾向が認められる。
【0021】
本発明において用いられる(c)アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を例示でき、特に水酸化カリウムが好ましい。また、(c)アルカリ金属水酸化物の添加量は、(b)スチレン−アクリル酸共重合体の酸価に基づき、中和率として80〜120%となる範囲であることが好ましい。
中和率を80%以上と設定することが、水性媒体中の分散速度の向上、分散安定性。保存安定性の点から好ましい。また長期保存時におけるゲル化を防ぐ点においても、インク組成物によって作製した印字物の耐水性の点でも120%以下とすることが好ましい。
なお本発明において、中和率とはアルカリ金属水酸化物の配合量がスチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基を中和するのに必要な量に対して何%(何倍)であるかを示す数値であって、以下の式で計算される。
【0022】
【数1】

【0023】
本発明において用いられる(d)湿潤剤としては公知慣用のものが使用でき、例えばグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,2,6-へキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム等のラクタム類、1,3-ジメチルイミダゾリジン等が挙げられる。
【0024】
本発明の水性顔料分散液を調製する方法は、(aピグメントレッド149、(b)スチレン−アクリル酸系共重合体、(c)アルカリ金属水酸化物、及び(d)湿潤剤を含有する混合物を混練して固形の着色混練物を製造する混練工程と、前記固形の着色混練物に水性媒体を添加し混合、撹拌する混合工程を有するインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法であって、前記(b)スチレン−アクリル酸共重合体は60質量%以上のスチレン系モノマー単位と、130〜170の酸価、及び6000〜40000の重量平均分子量を有することを特徴とする水性顔料分散液の製造方法である。
【0025】
本願発明で使用するスチレン−アクリル酸共重合体は、ピグメントレッド149の表面に特に強固に吸着しやすいため、混練工程を用いずに、メディアを用いた分散装置に原材料を一括投入し分散を行うといった、従来良く用いられている方法によっても微細粒径に解砕、分散することができる。そして連続遠心分離工程によって粗大粒子を除去することにより、分散性の良好な水性顔料分散液を製造することができ、インクジェットノズルからの吐出も可能となる。
しかしこの場合は混練工程を行わないため、連続遠心分離工程を行う前の粗大粒子数が極めて多く、この数はたとえ遠心分離工程を行った後でも、混練工程を経た水性顔料分散液の水準までには到達しない。その結果インクジェット記録用インク組成物を作製したときに、形成される画像の光沢が低い。またスチレン−アクリル酸系共重合体が混練工程によって強固に顔料表面に吸着していないため、樹脂が水性媒体中へと遊離して水性媒体の粘度を上昇させ、また顔料のスチレン−アクリル酸系共重合体による被覆が不十分のため、高温保存時の粒径安定性が低下し、吐出性も低下する。
【0026】
より少ない樹脂で効率的に、かつより強固に顔料表面を被覆するためには、スチレン−アクリル酸共重合体、ピグメントレッド149、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を混練して着色混練物を作製する混練工程が必要である。またこのような混練工程を用いて作製された着色混練物は、これに水性媒体を添加し混合、撹拌するだけで、該着色混練物から分散性の良好な水性顔料分散液を作製することができる。このような製造方法を用いて水性顔料分散液を製造することにより、該水性顔料分散液を主成分として含有するインクジェット記録用インク組成物の保存安定性が、高温においてより一層向上するとともに、該インク組成物中に、顔料から遊離して分散もしくは溶解するスチレン−アクリル酸共重合体が減少する。このためノズル内壁への前記共重合体の沈着に起因する、高温保存時のインク目詰まりによる吐出不良が発生し難い。
【0027】
以下に、混練工程を有する本発明の製造方法について各工程毎に説明を行う。
(a)混練工程
本発明における混練工程においては、ピグメントレッド149、60質量%以上のスチレンモノマー単位と、130〜170の酸価、及び6,000〜40,000の重量平均分子量を有するスチレン−アクリル酸共重合体、及びアルカリ金属水酸化物、さらに湿潤剤を含有する混合物を混練する。
本混錬工程において、スチレン−アクリル酸共重合体は、該共重合体中のカルボキシル基がアルカリ金属水酸化物によって中和されることにより分散性が増し、また該共重合体が湿潤剤により膨潤して表面が軟化し、ピグメントレッド149とともにひとかたまりの混合物を形成する。該混合物は常温では固形であるが50〜90℃の混錬温度では極めて強い粘調性を有するため、混錬時に該混合物に大きな剪断力を加えることができ、ピグメントレッド149は微粒子へと解砕され、さらに該微粒子表面がスチレン−アクリル酸共重合体によって被覆される。
【0028】
この混練工程において作製される混合物である着色混練物は、(d)湿潤剤/(a) ピグメントレッド149の質量比を0.40-0.73であることが好ましい。この範囲の下限以上であると顔料表面が湿潤剤によって十分に濡れ、また固形分率が適正値となるため、混練物の硬さが攪拌や混練の容易な程度に維持されるやすい。このため混練物が固すぎるときのように顔料表面が機械的に侵され分散後の安定性が低下する問題を生じることがない傾向にある。またこの範囲の上限以下であると混練物が柔らかすぎず、適正な硬度が維持されるため、十分なせん断力が与えられやすい。このため分散不良とならない傾向がある。上記質量比は0.48〜0.60の範囲であることがより好ましい。
通常混練工程においては、強力な剪断力が混練物にかかるように湿潤剤の量を調整することが好ましい。
(d)湿潤剤/(a)ピグメントレッド149の質量比を最適化することにより、混練工程を経て作製される混合物である着色混練物の固形分率を調整でき、着色混練物により作製される水性顔料分散液の分散性を良好にすることができる。顔料がピグメントレッド149の場合は、比較的広い(d)/(a)の領域で、例えばピグメントレッド168を用いて到達できる最適レベル分散性能と同等の特性を得ることができるが、さらに極めて優れた特性を得るためには、極めて狭い領域の(d)/(a)にまで調整を行う必要がある。
上記の混練工程を経ることにより、樹脂でカプセル化されたピグメントレッド149の水性媒体中への分散が非常に容易となり、作製された常温で固形の着色混練物に水性媒体を混合、撹拌するだけで良好な水性顔料分散液を作製することができる。一度該顔料に吸着しこれを被覆した前記共重合体は以降の工程で脱離しにくく、かつ吸着した前記共重合体は前記水性媒体中に分散された前記ピグメントレッド149同士の凝集を防ぎ、分散安定性を向上させる。
【0029】
本発明の水性顔料分散液の製造方法における混練工程においては、湿潤剤を併用しているため、アルカリ金属水酸化物と湿潤剤の存在下でスチレン系樹脂が膨潤状態となって軟化するため、該樹脂を溶解させるための溶解性の高い溶剤を添加する必要がなく、混練後に該溶剤を留去する工程が不要のため生産効率が高い。
このように、樹脂のガラス転移温度以下の温度で効率的な混練を行うことが可能となる。このため、溶融しにくいために混練が困難とされてきた、高Tgのスチレン−アクリル酸共重合体を用いて水性顔料分散液の製造が出来るようになる。このような製造方法を用いることにより高いガラス転移点を有するスチレン−アクリル酸共重合体を、低温度で混練し水性媒体に分散させることができ、サーマルジェット方式のインクジェット記録に用いられるインクジェット記録用水性インクの製造に適用して、熱安定性の良い水性顔料分散液を容易に製造することができる。
【0030】
本発明の混練工程においては、二本ロール、三本ロールのようなロール練肉機を用いることも出来る。
しかし混練中の固形分率を一定値以内におさめ、安定した剪断力が終始着色混練物に加わるようにするためには、湿潤剤等の揮散を抑えることができる閉鎖系又は閉鎖系となりうる混練機が好ましく、撹拌槽と、撹拌槽の蓋、一軸あるいは多軸の撹拌羽根を備えた混練機を用いると好ましい。撹拌羽根の数は特に限定しないが、高い混練作用を得るためには二つ以上の撹拌羽根を有するものが好ましい。
この様な構成の混練機を用いると、混練工程を経て水性顔料分散液用の着色混練物を製造した後、該混練物を取り出さずに同一撹拌槽中で直接希釈し、そのまま攪拌して初期の分散を施したり、分散を進行させて水性顔料分散液を製造したりすることが可能である。特に顔料にピグメントレッド149を用いた場合は、同一槽内の希釈と撹拌のみで良好な分散性を有する水性顔料分散液を製造することができる。
【0031】
この様な装置としてはヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等が例示され、特にプラネタリーミキサーが好適である。プラネタリーミキサーとはプラネタリー型混練装置のことであり、遊星運動を行う撹拌羽根を有する混練装置の総称である。(以下プラネタリーミキサーとの呼称を用いる。)本発明の製造方法においては、顔料と樹脂を含有する固形分濃度の高い着色混練物の混練を行うため、混練物の混練状態に依存して粘度が広い範囲で変化するが、プラネタリーミキサーは特に低粘度から高粘度まで広範囲に対応することができ、混練開始から混練後の希釈を含む分散工程への移行段階を同一機種内で連続的に実施することができる。更に湿潤剤の追加も容易で減圧蒸留も可能であり混練時の粘度及び剪断力の調整が容易である。
このように混錬工程から連続的に希釈を行うことによって、顔料表面をカプセル状に被覆したスチレン−アクリル酸共重合体中のアニオン性の親水性基を、カプセル状態を保ちつつ徐々に周囲の水性媒体の方向に配向させていくことが可能であり、水性媒体に対する濡れ性が良好で且つ安定な被覆状態を実現できる。
【0032】
本発明の製造方法において、スチレン−アクリル酸共重合体の膨潤状態を保ちつつ、ピグメントレッド149との混練を高粘度下で効率的に行うには、混練中のスチレン−アクリル酸共重合体と、ピグメントレッド149を含有する混合物である着色混練物の固形分率が、63〜73質量%である。固形分率が63質量%未満では混合物の粘度が低下するため、混練が十分に行われなくなりやすく、顔料の解砕が不十分となる傾向がある。一方、固形分率を63〜73質量%の範囲に維持することによって、混練中の着色混練物の粘度を適度に高く保ち、混練機から着色混練物にかかるシェアを大きくして、着色混練物中の顔料の粉砕と、該顔料の樹脂による被覆を同時に進行させることができる。固形分率の範囲は66〜70であることがより好ましい。但し固形分率が73質量%を超えると、粒径0.5μm以上の粗大粒子数が増加して、印刷画像の光沢や彩度が低下する傾向がある。一般的に固形分率が大きくなると、たとえ加温して樹脂を十分に軟化させたとしても混練が困難になりやすく、そのあとの水性媒体を混合し、撹拌する混合工程によるだけだは良好な分散性を有する水性顔料を得ることが困難になる傾向にあり、たとえ分散装置を用いた分散工程を行っても水性媒体中に該着色混練物を分散させにくくなる可能性がある。上記着色混練物の固形分率の調整は、例えば混練工程における混合物の、(d)湿潤剤/(a)ピグメントレッド149の質量比を調整することにより行うことができる。
なお混練工程においては必要に応じて湿潤剤の他に適宜水を加えて混練を行なってもよい。
【0033】
本発明の製造方法における混練工程において固形のインクジェットインク用着色混練物を製造するときは、該着色混練物における、ピグメントレッド149の合計100質量部に対するスチレン−アクリル酸系共重合体の使用量は10〜50質量部であることが好ましく、20〜40質量部であることがさらに好ましい。スチレン−アクリル酸共重合体の使用量が10質量部未満であると、インクジェットインク用水性顔料分散液の分散安定性が低下するとともに、インクジェット記録用インク組成物を調製した時、耐摩擦性が低下する傾向にある。一方、50質量部を超えた場合にはインクジェット記録用インク組成物の粘度が高くなりすぎる傾向がある。混練工程において使用されるアルカリ金属水酸化物は、アルカリ金属水酸化物の水溶液、又は有機溶剤溶液として添加する。この場合、アルカリ金属水酸化物の水溶液又は有機溶剤溶液の濃度は、20質量%〜50質量%であることが好ましい。また、アルカリ金属水酸化物を溶解する有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、等のアルコール系溶剤を用いることが好ましい。中でも本発明の製造方法では、アルカリ金属水酸化物の水溶液を用いることが好ましい。また、該アルカリ金属水酸化物はスチレン−アクリル酸共重合体が有する全カルボキシル基を中和するために必要な量の0.8〜1.2倍に相当する量であることが好ましい。
【0034】
混練工程における湿潤剤の添加量は、ピグメントレッド149の100質量部に対して、53〜73質量部の範囲内が好ましい。湿潤剤の量が73質量部以下であると、固形分濃度が適切な値に維持されるため十分な剪断力を負荷することが可能となる傾向がある。また53質量部以上であると、適切な湿潤剤の添加量により、混練工程において固形物同士を融合して、容易に混練に適したひとかたまりの混合物とすることが可能となる傾向にあり、やはり十分な剪断力を負荷するためのより有利な条件が得られる傾向がある。この結果ピグメントレッド149を十分に粉砕し且つスチレン−アクリル酸共重合体をその表面に強固に吸着させることができ、水性媒体を混合し撹拌した時に容易に分散性の良好な水性顔料分散液の得られる、均一なインクジェットインク用着色混練物を得易くなる。
【0035】
(b)混合工程
この様な混練工程によって得られた常温で固体の着色混練物に、水性媒体を混合して液状混合物とし水性顔料分散液を製造する際には,前述のように撹拌槽を有する混練機で固体の着色混練物を製造した後,該撹拌槽に水性媒体を添加、混合し、必要に応じて撹拌して直接希釈することにより水性顔料分散液を製造できる。また,撹拌翼を備えた別の攪拌機で固体の着色混練物と水性媒体を混合し,必要に応じて撹拌して水性顔料分散液を調製できる。このように撹拌槽と撹拌羽根を有する混練機を用いると、混練工程終了後の撹拌槽内の着色混練物をそのまま連続的に稀釈することが出来好ましい。
水性媒体の混合に関しては、着色混練物に対して必要量を一括混合してもよいが、連続的あるいは断続的に必要量を添加して混合を進めた方が、水性媒体による希釈が効率的に行われ、より短時間で水性顔料分散液を作製することができる。また,この様にして得られた水性顔料分散液を、更に分散機により分散処理しても良い。本発明の製造方法においては顔料の微細化、及びスチレン−アクリル酸共重合体による被覆が効果的に進行しているため、分散機による分散処理を行って、さらなる剪断力を加え顔料を解砕することを行わなくても、固形の着色混練物に水性媒体を混合して固形分率を低下させて液状化させ、必要に応じて撹拌を行うだけで、良好な特性の水性顔料分散液の製造が可能である。しかし顔料特性の変動等で水性顔料分散液中に粗大分散粒子が残存したときでも、分散処理を行うことにより、残存した粗大分散粒子が更に粉砕され、より分散粒子の粒径が小さくなることによって、水性顔料分散液から製造したインクジェット記録用インク組成物の吐出安定性、印字濃度などのインクジェット特性が改善される。
【0036】
分散処理を行う際の分散機としては、公知慣用の機器が使用でき、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、ナノミル、SCミル、ナノマイザー等を挙げることができ、これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。なお本発明における、分散機、分散装置とは分散処理を行う工程に専用に用いられる装置であって、通常の混合、撹拌等にも広く使用される汎用の混合機、攪拌機等は含まないものとする。
【0037】
これらの中でもメディアを用いた分散機は分散能力が高いため好ましい。なお、用いる分散機の種類によっては、分散機で分散(本分散)を行う前に、必要に応じて混練工程終了後の着色混練物に水性媒体を添加し、混合、希釈して、該分散機で処理するのに適した粘度に予め調整すると好ましい(以下、この粘度調整されたものを粘度調整物と呼ぶ場合がある)。この粘度調整は混練工程で撹拌槽と撹拌羽根を有する混練装置を用いた場合には該撹拌槽中で着色混練物の取り出し前に行うことができる。
例えばサンドミルを用いる時には、固形分濃度で10〜40質量%となる様に希釈し数十〜数百mPa・secの粘度に調整した後にサンドミルに移送して分散を行うと好ましい。
【0038】
混合工程または混合工程後の分散処理終了後に作製された水性顔料分散液中の顔料であるピグメントレッド149の濃度は5〜25質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。10〜20質量%であることがさらに好ましい。
インクジェット記録用水性顔料分散液に占める、ピグメントレッド149の量が5質量%より少ない場合は、インクジェットインク用水性顔料分散液から調製したインクジェット記録用インク組成物の着色が不十分であり、十分な画像濃度が得られない傾向にある。また、逆に25質量%よりも多い場合は、インクジェットインク用水性顔料分散液において顔料の分散安定性が低下する傾向がある。
【0039】
本発明において、水性媒体とは、水、又は水と湿潤剤とを主成分とするものである。ここで用いる湿潤剤としては、第1の工程における混練時に使用したものと同様のものを用いることができる。常温で固体の着色混練物から水性顔料分散液を製造する際に使用する水性媒体は,水に加えて、水性顔料分散液の乾燥防止、および分散装置を用いるときの分散処理実施時の粘度調整の必要性から高沸点の水溶性有機溶剤を含んでいても良く、従来公知の湿潤剤を使用することができる。好適に使用される水溶性有機溶剤としては,本発明の混練工程で使用したグリセリンのポリオキシアルキレン付加物(e)および混練工程により固形の着色混練物を製造する際に添加可能であった湿潤剤を例示することができる。水性顔料分散液中の水溶性有機溶剤の総量は,1〜50質量%であることが好ましく3〜40質量%であることがより好ましい。この下限未満では、乾燥防止効果が不十分となる傾向にあり、上記上限を超えると分散液の分散安定性が低下する傾向にある。
【0040】
上記の方法で製造された水性顔料分散液に対しては、遠心分離を行って、水性顔料分散液中に存在する粗大粒子を除去する操作を行っても良い。
分散工程を終了して分散液調整後に遠心分離を行うことにより、分散が不十分であった粗大粒子の除去を行うことが出来る。遠心分離の条件としては、例えば10,000Gで3分間以上の遠心分離を行う方法を用いることができる。かかる粗大粒子の除去工程により、除去工程後の水性顔料分散液中の顔料の沈降が相当程度抑制され、特にこの除去工程を繰り返すと、本発明の実施例に示す通りその効果は一層顕著なものとなる。
但し、これら水性顔料分散液に同等の条件で遠心分離の処理を行った場合には、遠心分離処理前の粗大粒子の多少が、そのまま遠心分離後の粗大粒子数に反映され、吐出性や画像を形成したときの光沢の差として、依然水性顔料分散液の特性差として現れることが多い。このような特性差を回復するためには、これらの水性顔料分散液の粗大粒子を繰り返し遠心分離処理で除去しなくてはならなくなり、その除去工程に多くの時間がかかるため、生産効率が著しく低下することになる。
特にピグメントレッド149は顔料が固く、通常の混練機、分散機では他の顔料に比して解砕に極めて多くの時間を要する。このため粗大粒子が完全に消失するまで混練機、分散機の運転を継続するよりは、適宜、遠心分離装置による粗大粒子の除去作業と組み合わせて分散工程を行う方が、製造効率の点からも、また長時間の運転による顔料微粉の発生を抑制する点からも好ましい、
【0041】
本発明のインクジェット記録用インク組成物は、前記水性顔料分散液を用いて、常法により調製することができる。
本発明の水性顔料分散液を用いてインクジェット記録用インク組成物を調製する場合、使用目的や調整に応じた下記の(i)〜(iv)の処理や添加剤の使用ができる。
【0042】
(i)インクの乾燥防止を目的として、先に例示した(d)湿潤剤を同様に添加することができる。乾燥防止を目的とする(d)湿潤剤のインク中の含有量は3〜50質量%であることが好ましい。
【0043】
(ii)被記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として浸透剤を添加することができる。
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物、プロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
インク中の浸透剤の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0044】
(iii)表面張力等のインク特性を調整するために、界面活性剤を添加することができる。このために添加することのできる界面活性剤は特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0045】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0046】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0047】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0048】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。
また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7〜20の範囲であることが好ましい。
界面活性剤を添加する場合は、その添加量はインクの全質量に対し、0.001〜1質量%の範囲が好ましく、0.001〜0.5質量%であることがより好ましく、0.01〜0.2質量%の範囲であることがさらに好ましい。界面活性剤の添加量が0.001質量%未満の場合は、界面活性剤添加の効果が得られにくい傾向にあり、1質量%を超えて用いると、画像が滲むなどの問題を生じやすくなる。
【0049】
(iV) 必要に応じて防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸
化防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0050】
本発明の水性顔料分散液から調製するインクジェット記録用インク組成物に占める、(a)ピグメントレッド149の量は、充分な画像濃度を得る必要性と、インク中での顔料の分散安定性を確保するために、2〜10質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を用いて、本発明をさらに詳しく説明する。
以下の合成例、実施例、比較例において、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を示す。
<合成例1>
撹拌装置、滴下装置、還流装置を有する反応容器にメチルエチルケトン100部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら加温し、メチルエチルケトン還流状態とした後、滴下装置からスチレン77部、アクリル酸10部、メタクリル酸13部及び重合触媒 (和光純薬工業社製/「V−59」)8部の混合液を2時間かけて滴下した。なお滴下の途中より、反応系の温度を75℃に保った。
滴下終了後、同温度でさらに36時間反応を続けた。なお、反応の途中において、原料の消費状況を確認しながら、適宜、重合触媒を追加した。反応終了後、放冷しメチルエチルケトンを加えて固形分濃度30%のアニオン性基を有するスチレン-アクリル酸共重合体(A−1)の溶液を得た。このスチレン−アクリル酸共重合体(A−1)は酸価153gKOH/g、重量平均分子量11000であった。
【0052】
なお、本発明における重量平均分子量は、GPC(ゲル・浸透・クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。なお測定は以下の装置及び条件により実施した。
送液ポンプ:LC−9A
システムコントローラー:SLC−6B
オートインジェクター:S1L−6B
検出器:RID−6A
以上島津製作所社製
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ社製)。
カラム:GL−R400(ガードカラム)+GL−R440+GL−R450+GL−R400M(日立化成工業社製)
溶出溶媒:THF
溶出流量:2ml/min
カラム温度:35℃
【0053】
合成例1の製造方法に準じ、モノマー種類とモノマー配合量、反応条件を調整して以下のスチレンアクリル酸共重合体を合成した。
<合成例2>
モノマー組成比においてスチレン/アクリル酸/メタクリル酸=82/18/10(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価119mgKOH/gであるスチレン−アクリル酸共重合体(A−2)を合成した。
<合成例3>
モノマー組成比においてスチレン/アクリル酸/メタクリル酸=80/9/11(質量比)であり、重量平均分子量12000、酸価132mgKOH/gであるスチレン−アクリル酸共重合体(A−3)を合成した。
<合成例4>
モノマー組成比においてスチレン/アクリル酸/メタクリル酸=75/11/14(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価169mgKOH/gであるスチレン−アクリル酸共重合体(A−4)を合成した。
<合成例5>
モノマー組成比においてスチレン/アクリル酸/メタクリル酸=73/12/15(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価181mgKOH/gであるスチレン−アクリル酸共重合体(A−5)を合成した。
【0054】
<実施例1>
(着色混練物及び水性顔料分散液の作製)
ピグメントレッド149
(PV Fast Red B クラリアント(株)製) 50部
スチレン−アクリル酸共重合体(A―1) 15部
8Nの水酸化カリウム水溶液(固形分濃度=34質量%) 6.79部
ジエチレングリコール 33部
上記の成分を順に、60℃に保温された、50L容量のプラネタリーミキサー(井上製作所製PLM−50)に投入し、自転回転数60rpm、公転回転数22rpmで混練を開始した。10分後に、混合物が凝集し、棒状となり、以降そのまま120分間混練を続けて、常温で固形の着色混練物を得た。混練中120分間の消費電流値は15〜20アンペアで攪拌翼の回転周期に応じて増減を繰り返した。これは混合物が極めて高粘度の固形または半固形であるために、容器内部に均一に分布せず、攪拌翼が、混合物を周期的にせん断する毎に大きな力がこれに加わることによる。
120分経過後、120部のイオン交換水を90分かけて添加、混合し、顔料濃度が15.6%の均一な混合物を得た。
得られた混合物をステンレスドラムに移送し、イオン交換水44部及びジエチレングリコールを8部を加えてから、ビーズミル(ナノミルNM−G−2L 浅田鉄工製)に通じ、25℃の温度、2.5分の滞留時間で分散し水性顔料分散液を得た。
次いで、この分散液の130部を、連続式遠心分離機(H−600S 国産遠心機製 2L容量)に通じ、35℃の温度、18900Gの遠心力、10分間の滞留時間で、連続的に遠心分離行い粗大粒子を除去した後、イオン交換水、ジエチレングリコールを添加することで顔料濃度を14.5%に調整した水性顔料分散液を得た。
【0055】
(顔料分散液及びインクの調製)
得られた水性顔料分散液を用いて、以下の配合により、顔料濃度が4%のインクジェット記録用インクを調製した。
水性顔料分散液 55.2部
2-ピロリジノン 16部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 16部
アセチレングリコール系界面活性剤サーフィノール440
(日信化学工業(株)) 1部
グリセリン 6部
イオン交換水 約110部
【0056】
<実施例2>
実施例1にて、スチレン−アクリル酸共重合体(A―1) を同(A―3)に変えた以外は実施例1と同様にして、水性顔料分散液を得、以降の評価を行った。
<実施例3>
実施例1にて、スチレン−アクリル酸共重合体(A―1) を同(A―4)に変えた以外は実施例1と同様にして、水性顔料分散液を得、評価を行った。。
<実施例4>
実施例1にて、混練工程で得た混合物をステンレスドラムに移送し、イオン交換水44部及びジエチレングリコールを8部を加えてからの、ビーズミル工程を省いて、直接に連続遠心分離工程に移行する以外は、実施例1と同様にして水性顔料分散液を得、評価を行った。
<実施例5>
実施例1において、ジエチレングリコール33部をジエチレングリコール27.5部とした以外は同様にして、顔料濃度14.8%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<実施例6>
実施例1において、ジエチレングリコール33部をジエチレングリコール34部とした以外は同様にして、顔料濃度14.8%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<実施例7>
実施例1において、ジエチレングリコール33部をジエチレングリコール21部とした以外は同様にして、顔料濃度14.8%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
【0057】
<比較例1>
実施例1において、 ピグメントレッド149(PV Fast Red B クラリアント製)50部に代えて、ピグメントレッド168(Hostaperm Scarlet GO transp クラリアント製)50部を用いた以外は実施例1と同様にして、顔料濃度を14.5%に調整した水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例2>
実施例1のC.I.ピグメントレッド168にかえて、C.I.ピグメントオレンジ16(Symler Fast Orange V 大日本インキ化学工業製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、顔料濃度14.4%の水性顔料分散液を得、評価を行った。。
<比較例3>
実施例1のC.I.ピグメントレッド168にかえて、C.I.ピグメントレッド166(商品名 Cromophtal Scarlet RI チバスペシャリティケミカルズ製)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、顔料濃度14.7%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例4>
実施例1のC.I.ピグメントレッド168にかえて、C.I.ピグメントレッド177(商品名 Cromophtal Red A2B チバスペシャリティケミカルズ製) を用いた以外は、実施例1と同様にして、顔料濃度14.5%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
【0058】
<比較例5>
実施例1のC.I.ピグメントレッド168にかえて、C.I.ピグメントオレンジ38(Novoperm Red HFG クラリアント製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、顔料濃度14.4%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例6>
実施例1のC.I.ピグメントレッド168にかえて、C.I.ピグメントオレンジ43(Hostaperm Orange GR クラリアント製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、顔料濃度14.9%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例7>
実施例1のC.I.ピグメントレッド168にかえて、C.I.ピグメントレッド242(Hostaperm Scarlet 4RF クラリアント製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、顔料濃度15.0%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例8>
実施例1にて、スチレン−アクリル酸共重合体(A―1)を同(A―2)に変えた以外は同様にして、水性顔料分散液を得、評価を行った。
【0059】
<比較例9>
実施例1にて、スチレン−アクリル酸共重合体(A―1)を同(A―5)に変えた以外は同様にして、水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例10>
ピグメントレッド149
(PV Fast Red B クラリアント製) 50部
スチレン−アクリル酸共重合体(A―1) 15部
8Nの水酸化カリウム水溶液(固形分濃度=34質量%) 6.79部
ジエチレングリコール 41部
イオン交換水 560部
を混合し、ビーズミル(ナノミルNM−G−2L 浅田鉄工(株)製)に通じ、25℃の温度、210分の滞留時間で分散し顔料濃度を14.5%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例11>
実施例1において、ジエチレングリコール33部をジエチレングリコール18部とした以外は同様にして、顔料濃度14.8%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例12>
実施例1において、ジエチレングリコール33部をジエチレングリコール37.5部とした以外は同様にして、顔料濃度14.8%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
<比較例13>
実施例1において、ジエチレングリコール33部をジエチレングリコール39.5部とした以外は同様にして、顔料濃度14.8%の水性顔料分散液を得、評価を行った。
【0060】
上記実施例1、比較例1〜8で作製した水性顔料分散液に対して、下記の評価項
目によって評価を行った。
<水性顔料分散液の評価(1)粗大粒子数の測定>
各実施例、比較例で得られた水性顔料分散液を、イオン交換水で100倍に希釈し。のアキュサイザー780APS粒度分析装置(サイジングシステムズ製)に通じ、0.5μm以上の粗粒の濃度を求めた。尚、該濃度は希釈前の水性顔料分散液を基準とする。結果を表1に示す。
<水性顔料分散液の評価(2)分散性評価>
各実施例、比較例で得られた水性顔料分散液の粒径及び粘度を測定した。なお、粒径は「マイクロトラックUPA150」(リージ・アンド・ノースラップ(Leeds & Northrup)社製)を用い、体積平均粒径を水性分散体の粒径として測定した。粘度はE型粘度計(TVE−20L、トキメック社製)を用いて25℃にて測定した。結果を表1に示す。
【0061】
<インクジェット記録用インク適性の評価(1)(吐出性)>
各実施例、比較例で得られた水性顔料分散液を用いて、以下の配合により顔料濃度4質量%のインクジェット記録用インクを調製した。
水性顔料分散液 5.52部
2-ピロリジノン 1.60部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 1.60部
サーフィノール440 (日信化学工業(株)) 0.10部
グリセリン 0.60部
イオン交換水 10.58部
調製したインクを孔径5μmのメンブレンフィルターを用いて濾過した後、インクジェットプリンターノバ・ジェット (NOVA・Jet) PRO36(ENCAD社製)に搭載し、インクジェット記録適性の評価、すなわち、A0サイズ用紙の80%面積範囲に100%画像濃度の連続印字を行い、以下の評価基準で印字前後のインク吐出特性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
吐出性の評価基準:
良:吐出不良が観察されなかった。
不良:連続印字後、インク吐出方向異常や印字濃度むらが認められた。
【0063】
<インクジェット記録用インク適性の評価(2)(耐光性・光沢・彩度)>
インクジェット記録用インキ適性の評価(1)で調製したインクを、インクジェットプリンターEM−930C(EPSON社製)のブラックカートリッジ位置に搭載し、記録媒体としてPremium Glossy Photo Paper(EPSON社製)を用いて、100%画像濃度の記録を行い、得られた画像の彩度をSpectroScan(Gretag Macbeth社製)で測定した。また、95%の画像濃度の記録を行い、各々得られた画像の光沢をmicro-TRI-gloss(BYK-Gardner社製)を用いて、20°の角度で測定した。
また、上記画像の耐光性を、キセノンアークランプで765W/mの光を48時間照射前後の画像劣化を、前記のスペクトルスキャンを用いて得た色差であるΔE値により求めた。
耐光性の評価基準:
良:ΔEが4以下であり、良好であった。
不良 :ΔEが4以上であった。
【0064】
<安定性評価(1)保存安定性>
インクジェット記録用インキ適性の評価(1)で調製したインクを、70℃の温度条件下で4週間静置し、静置前後の粒径、粘度と静置後の凝集物の発生状態を調べ静置前後の粒径の変化率、凝集物の発生の有無を安定性の指標として評価した。粒径、粘度の測定は水性顔料分散液の分散性評価において用いたと同じ装置、方法を用いた。結果を以下の表1に示す。
<安定性評価(2)吐出安定性>
また、実用特性として重要な長期保存後の吐出性の代用試験として、上記の保存安定性の評価の項で記載の温度条件(70℃で4週間)と同様の条件で処理したインクの吐出性を、上記(吐出性)の評価と同様に評価した。
【0065】

【0066】
表1の実施例より明らかなように、本発明の水性顔料分散液は、ピグメントレッド149と、全モノマー成分に対して60質量%以上のスチレン系モノマー単位と、130〜170の酸価、及び6000〜40000の重量平均分子量を有するスチレン−アクリル酸共重合体を組み合わせることにより、分散性、吐出性、保存安定性、吐出安定性、耐光性、光沢に優れた水性顔料分散液を与える。実施例4と実施例5を比較すると、混練工程後に分散装置を用いた分散工程を経なくても、良好な特性の水性顔料分散液、及びインクジェット記録用インク組成物が得られることがわかる。さらに実施例6、実施例7と比較例11、比較例12を比較すると(d)湿潤剤/(a)ピグメントレッド149の比率がわずかに変化するだけで、粗大粒子数は体積平均粒径が大きく変化し、吐出性、吐出安定性、光沢等の特性が大きく変化することがわかる。
またピグメントレッド149以外のオレンジ色顔料を用いた比較例においては、分散後の体積平均粒経、保存安定性、光沢、吐出性等を総合的に考慮して、ピグメントレッド149より劣っている。特に保存安定性の点で実施例に大きく及ばない。比較例2のピグメントレッド16は、唯一優れた保存安定性、吐出性、光沢を有しているが、耐光性が悪く、問題がある。比較例1のピグメントレッド168は光沢、吐出安定性の点で149に及ばない。
このようにピグメントレッド149と、前記特定のスチレン−アクリル産共重合体を特定配合で組み合わせてなる水性顔料分散液を主成分とするインクジェット記録用インクは、長期保存安定性、吐出性を維持しつつ、高耐光性、高光沢、高彩度を共に満足する赤色インクジェット記録に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ピグメントレッド149、(b)スチレン−アクリル酸系共重合体、(c)アルカリ金属水酸化物、及び(d)湿潤剤を含有する混合物を混練して、常温で固形の着色混練物を製造する混練工程を有するインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法であって、(b)スチレン−アクリル酸共重合体は60質量%以上のスチレン系モノマー単位と、130〜170の酸価、及び6000〜40000の重量平均分子量を有し、前記混練工程で製造される着色混練物の固形分率が、63〜73質量%であることを特徴とするインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法。
【請求項2】
前記固形着色混練物における質量比(d)湿潤剤/(a)ピグメントレッド149が、0.40〜0.73である請求項1に記載のインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法。
【請求項3】
前記混練工程の後に、さらに前記着色混練物に水性媒体を混合し液状混合物とする混合工程、及び前記液状混合物から粗大粒子を除去する除去工程を有する請求項1または2に記載のインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程と前記除去工程の間に、さらに分散装置による分散工程を有する請求項3に記載のインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法。
【請求項5】
前記(b)スチレン−アクリル酸系共重合体は70〜90質量%のスチレン系モノマー単位を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項6】
前記(b)スチレン−アクリル酸系共重合体は、構成モノマーとしてスチレン系モノマー、アクリル酸モノマー、及びメタクリル酸モノマーを含有する請求項5に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項7】
前記(b)スチレン−アクリル酸共重合体は、スチレン系モノマー単位とアクリル酸モノマー単位とメタクリル酸モノマー単位の和が95質量%以上である請求項6に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性顔料分散液の製造方法で作製された水性顔料分散液を含有するインクジェット記録用インク組成物。

【公開番号】特開2011−140646(P2011−140646A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276891(P2010−276891)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】