説明

水性顔料分散物の製造方法、及びインクジェット記録用水性顔料インク

【課題】分散安定性、吐出安定性、カール抑制性に優れる水性顔料分散物を、作業性及び経済性の面で好適に作製できる製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される構造単位を8〜65質量%含有し、イオン性基を有する構造単位を2〜20質量%含有する水不溶性ポリマーを、水溶性有機溶媒を含む溶媒中で合成する工程と、該ポリマーと該水溶性有機溶媒とを含む溶液に顔料と水とを混合する工程とを有する。


:H、メチル基;L−COO−、−OCO−、−CONR−(R:H、炭素数1〜6のアルキル基;−:主鎖への結合手)、フェニレン基;L:単結合、連結基群から選ばれる1種もしくは2種以上からなる2価連結基;Ar:芳香環含有基。
(連結基群)炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数2〜12のアルケニレン基、−CO−、−NR−(R:H、炭素数1〜6のアルキル基)、−O−、−S−、−SO−、−SO

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料分散物の製造方法及びこれを用いたインクジェット記録用水性顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源保護、環境保全、作業の安定性の向上等のニーズの高まりによって、塗料ならびにインクの水性化が進行しつつある。水性塗料ならびに水性インクには流動性、貯蔵安定性、皮膜の光沢、鮮明性、着色力等の性能が求められるが、油性塗料または油性インクに匹敵するような高性能のものは得られていない。色材として顔料を用いた場合、これらの性能は顔料分散物の特性によるところが大きいが、大部分の顔料は水性ビヒクルに対して分散性が著しく劣るため、通常の分散方法では満足な性能が得られないのである。
【0003】
そこで従来から各種の添加剤、例えば水性用顔料分散樹脂や界面活性剤の使用が検討されてきたが、上記すべてのインク性能を充分に満足させるものは得られていない。特に、インクジェット記録用インクでは、より粒径の小さい顔料の分散性の向上が求められている。
【0004】
このような問題に関連する技術として、例えば、芳香環を20〜70質量%含有するポリマーでカプセル化された顔料分散物を含む水性顔料インクが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、有機顔料と特定のアクリル系共重合体(A)と塩基性物質と水とからなる水性顔料分散体と、有機顔料を被覆しない特定のアクリル系共重合体(B)とを含有する水性顔料分散体含有組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、カルボキシル基と疎水性基とを含有する顔料分散剤と、該分散剤を溶解する水溶性有機溶剤とからなる水性インキ組成物用水性顔料分散体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第2005/0124726号明細書
【特許文献2】特開2007−51199号公報
【特許文献3】特許第4063859号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、顔料をカプセル化し分散させるポリマーに含まれる芳香環の含率が高すぎ、ここに開示された技術を適用して得られたインクでは、水性インクの諸性能、特に再分散性が充分に満足できるものではなかった。
また、顔料を微細に分散して粒径を下げると分散物の安定性が低下することが一般的に知られており、特許文献2に記載の分散剤を用いて微細な顔料分散物を得ようとした場合、顔料の分散性、経時安定性が充分満足できるものではなかった。
また、特許文献3に記載の顔料分散剤は、主にサインペン、ボールペン等の筆記具用水性インクの調製を目的にした分散剤であり、インクジェット記録法において要求される高い分散安定性を達成することはできなかった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち本発明は、分散安定性に優れ、インク組成物を作製したときの吐出安定性及び画像記録時のカール抑制性に優れる水性顔料分散物を、作業性及び経済性の面で好適に作製することができる製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、吐出安定性及び画像記録時のカール抑制性に優れるインクジェット記録用水性顔料インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 下記一般式(1)で表される構造単位を8質量%以上65質量%以下含有し、かつ、イオン性基を有する構造単位を2質量%以上20質量%以下含有する水不溶性ポリマーを、水溶性有機溶媒を含む溶媒中で合成する工程と、前記水不溶性ポリマーと前記水溶性有機溶媒とを含む溶液に少なくとも顔料と水とを混合する工程と、を有する水性顔料分散物の製造方法である。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−(Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。−は主鎖に連結する結合手を表す。)、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。Lは、単結合、または下記の連結基群から選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせてなる2価の連結基を表す。Arは芳香環を含む基を表す。
(連結基群)
炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数2〜12のアルケニレン基、−CO−、−NR−(Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基)、−O−、−S−、−SO−、−SO
【0011】
<2> 前記一般式(1)におけるLは、−COO−(−は主鎖に連結する結合手を表す。)、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることを特徴とする<1>に記載の水性顔料分散物の製造方法である。
<3> 前記一般式(1)におけるArは、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、トリフェニルメタン、フタルイミド、ナフタルイミド、アクリドン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、ジフェニルメタン、またはカルバゾールから誘導される1価の基であることを特徴とする<1>または<2>に記載の水性顔料分散物の製造方法である。
<4> 前記イオン性基を有する構造単位は、アニオン性基を有する構造単位であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1つに記載の水性顔料分散物の製造方法である。
<5> 前記イオン性基を有する構造単位は、カルボキシル基を有する構造単位であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1つに記載の水性顔料分散物の製造方法である。
<6> 前記水不溶性ポリマーに含有される芳香環が10質量%以上20質量%未満であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1つに記載の水性顔料分散物の製造方法である。
<7> 前記水不溶性ポリマーが、更に(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する疎水性構造単位を含むことを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1つに記載の水性顔料分散物の製造方法である。
【0012】
<8> 前記水溶性有機溶媒は、下記一般式(2)で表される構造を有し、SP値が27.5以下であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか1つに記載の水性顔料分散物の製造方法である。
R−(A)−OH ・・・一般式(2)
式中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数3〜12の糖アルコールに由来する基を表す。Aはエチレンオキシ基およびプロピレンオキシ基から選ばれる少なくとも1種を表す。nは1〜20の整数を表す。
<9> 前記顔料は、有機顔料またはカーボンブラックであることを特徴とする<1>〜<8>のいずれか1つに記載の水性顔料分散物の製造方法である。
【0013】
<10> <1>〜<9>のいずれか1つに記載の水性顔料分散物の製造方法により作製された水性顔料分散物を含むインクジェット記録用水性顔料インクである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分散安定性に優れ、インク組成物を作製したときの吐出安定性及び画像記録時のカール抑制性に優れる水性顔料分散物を、作業性及び経済性の面で好適に作製することができる製造方法、及び吐出安定性及び画像記録時のカール抑制性に優れるインクジェット記録用水性顔料インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の水性顔料分散物の製造方法、及びインクジェット記録用水性顔料インクについて詳細に説明する。
【0016】
<水性顔料分散物の製造方法>
本発明の水性顔料分散物(以下、単に「顔料分散物」、「分散物」ということがある。)の製造方法は、下記一般式(1)で表される構造単位を8質量%以上65質量%以下含有し、かつ、イオン性基を有する構造単位を2質量%以上20質量%以下含有する水不溶性ポリマーを、水溶性有機溶媒を含む溶媒中で合成する工程(以下、「合成工程」ということがある。)と、前記水不溶性ポリマーと前記水溶性有機溶媒とを含む溶液に少なくとも顔料と水とを混合する工程(以下、「混合工程」ということがある。)とを有する。
【0017】
【化2】

【0018】
式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−(Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。−は主鎖に連結する結合手を表す。)、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。Lは、単結合、または下記の連結基群から選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせてなる2価の連結基を表す。Arは芳香環を含む基を表す。
(連結基群)
炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数2〜12のアルケニレン基、−CO−、−NR−(Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基)、−O−、−S−、−SO−、−SO
【0019】
従来、ポリマーを分散剤として用いる水性顔料分散物の製造方法においては、分散剤であるポリマーと該ポリマーを合成する際の溶媒として使用された有機溶媒とが含まれている溶液に、更に顔料、水、有機溶媒(多くの場合、ポリマーを合成する際の溶媒として使用されたものと同種)及び塩基を加えて混合する工程を設けた後に、減圧蒸留等の常法を用いて有機溶媒を除去する工程(以下、「転相工程」ということがある。)を設け、次いで、得られた混合物に、必要に応じて所望の有機溶媒(前記転相工程で除去される有機溶剤とは別種)と水とを混合することにより、水性顔料分散物を調製している。
一方、本発明の水性顔料分散物の製造方法によれば、合成後のポリマーを含む溶液から有機溶媒を除去する転相工程を必要とせず、該有機溶媒は、ポリマーの合成時からポリマーと共に水性顔料分散物に持ち込まれ、そのまま含むことができる。これは、本発明における水不溶性ポリマーが特定の構造を有することにより、該ポリマーに被覆された顔料が有機溶媒を含む水性溶媒中でも安定な分散状態を維持できるからである。本発明の製造方法によれば、有機溶媒を除去する特別な工程を必要としないことから、作業性、経済性の面で好適である。
【0020】
−合成工程−
本発明の水性顔料分散物の製造方法は、上記一般式(1)で表される構造単位(以下、「構造単位(a)」ということがある。)を8質量%以上65質量%以下含有し、かつ、イオン性基を有する構造単位(以下、「構造単位(b)」ということがある。)を2質量%以上20質量%以下含有する水不溶性ポリマー(以下、単に「ポリマー」ということがある。)を、水溶性有機溶媒を含む溶媒中で合成する工程を有する。
【0021】
前記ポリマーは、その全質量に対して、前記構造単位(a)と構造単位(b)とを合わせて10質量%以上85質量%以下含み、その他の構造単位を15質量%以上90質量%以下含む。以下、その他の構造単位を「構造単位(c)」という。
前記ポリマーは、各構造単位(a)、(b)及び(c)を形成し得るモノマーの重合により合成することができる。前記ポリマーは、各構造単位(a)、(b)及び(c)が不規則的に導入されたランダム共重合体であっても、規則的に導入されたブロック共重合体であってもよい。ブロック共重合体である場合の各構造単位は、如何なる導入順序で合成されたものであってもよく、同一の構成成分を2度以上用いてもよい。
【0022】
前記ポリマーは、水溶性有機溶媒を含む溶媒中で合成されること以外に、その合成方法に制限はない。該水溶性有機溶媒は、後述する水溶性有機溶媒(I)であることが好ましい。
【0023】
合成方法としては、種々の重合方法、例えば溶液重合、沈澱重合、懸濁重合、沈殿重合、乳化重合により合成することができる。重合反応は回分式、半連続式、連続式等の公知の操作で行うことができる。
重合の開始方法はラジカル開始剤を用いる方法、光または放射線を照射する方法等がある。これらの重合方法、重合の開始方法は、例えば鶴田禎二著「新訂 高分子合成反応」(日刊工業新聞社、1959年刊)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」(化学同人、昭和47年刊)124〜154頁に記載されている。
【0024】
上記重合方法のうち、特にラジカル開始剤を用いた溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いられる溶媒は、後述する水溶性有機溶媒(I)であることが好ましいが、他の溶媒を加えてもよく、このような溶媒として、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールのような種々の有機溶媒が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上を添加してもよく、さらに水を加えてもよい。
【0025】
重合温度は生成するポリマーの分子量、開始剤の種類などと関連して設定する必要があり、通常、0〜100℃程度であるが、50〜100℃の範囲で重合を行うことが好ましい。反応圧力は、適宜選定可能であるが、通常は、1〜100kg/cm、特に1〜30kg/cm程度が好ましい。反応時間は、5〜30時間程度である。
【0026】
(水不溶性ポリマー)
本発明の水性顔料分散物の製造方法に用いられる水不溶性ポリマーは、水性顔料分散物において、顔料の分散剤としての機能を果たすものである。
ここで、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウムまたは酢酸で100%中和したときの溶解量である。
【0027】
前記ポリマーは、その全質量に対して、前記構造単位(a)を8質量%以上65質量%以下含有し、前記構造単位(b)を2質量%以上20質量%以下含有する。すなわち、前記構造単位(a)と構造単位(b)とを合わせて10質量%以上85質量%以下含み、その他の構造単位である構造単位(c)を15質量%以上90質量%以下含む。
【0028】
前記ポリマーは、疎水性構造単位をポリマー全体の質量に対して80質量%以上含有していることが好ましく、85質量%以上がより好ましく、87質量%以上が特に好ましい。すなわち、親水性構造単位は20質量%以下であることが好ましい。親水性構造単位が20質量%を超える場合には、顔料の分散に寄与せず単独で水性媒体中に溶解するポリマーが増加し、顔料の分散性等の諸性能を悪化させる原因となる。
【0029】
疎水性構造単位の含有量は、構造単位(a)が疎水性であるので、構造単位(a)の含有量と、構造単位(c)のうちの疎水性構造単位の含有量による。
一方、親水性構造単位の含有量は、構造単位(b)が親水性であるので、構造単位(b)の含有量と、構造単位(c)のうちの親水性構造単位の含有量による。
なお、構造単位(c)は、疎水性の構造単位であっても、親水性の構造単位であってもよく、単一の構造単位であっても、2種類以上の構造単位であってもよく、親水性の構造単位と疎水性の構造単位の両方を含んでいてもよい。
【0030】
前記ポリマーは、芳香環を含有する。該芳香環は、前記構造単位(a)に由来するものであっても、他の構造単位に由来するものであってもよいが、少なくとも構造単位(a)の前記Arに由来するものを含有する。前記ポリマーに含有される芳香環の質量は、ポリマーの質量に対し10質量%以上20質量%未満であることが好ましく、より好ましくは12質量%以上20質量%未満であり、特に好ましくは、15質量%以上19質量%以下である。芳香環の含有量が20質量%以上である場合には、前記ポリマーを用いてインクジェット記録用水性顔料インクを調製した際のインク吐出性能(特に吐出回復性)が不十分となり、10質量%未満である場合には顔料の分散性及び分散安定性が悪化する。
【0031】
前記ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量(Mw)で、好ましくは1000〜100万であり、より好ましくは2000〜20万であり、さらに好ましくは2000〜6万である。前記分子量を上記範囲とすることは、分散剤としての立体反発効果が良好となること、また、立体効果により顔料への吸着時間が短縮される傾向を示すことの2つの観点から好ましい。
【0032】
また、前記ポリマーの分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される。)は、1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。前記分子量分布を上記範囲とすることは、顔料の分散時間の短縮、及び分散物の経時安定性の観点から好ましい。
なお、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した。GPCとしてHLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用い、溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用い換算して表した分子量である。
【0033】
[構造単位(a)]
前記ポリマーは、下記一般式(1)で表される構造単位(a)を少なくとも含む。構造単位(a)は、前記ポリマーの全質量に対して、8質量%以上65質量%以下含有され、10質量%以上55質量%以下が好ましく、12質量%以上50質量%以下がより好ましい。構造単位(a)の比率は、8質量%未満であると顔料分散物の分散性に劣り、65質量%を超えると分散安定性が低下し、インクジェット記録用インクとして用いた際の吐出安定性に劣る。
【0034】
【化3】

【0035】
一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−(Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。−は主鎖に連結する結合手を表す。)、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。Lは、単結合、または下記の連結基群から選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせてなる2価の連結基を表す。Arは芳香環を含む基を表す。
(連結基群)
炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数2〜12のアルケニレン基、−CO−、−NR−(Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基)、−O−、−S−、−SO−、−SO
【0036】
上記Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−(Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。−は主鎖に連結する結合手を表す。)、または置換もしくは無置換のフェニレン基のいずれでもよいが、−COO−、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることが好ましく、−COO−または無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
【0037】
で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられ、メチル基が好ましい。
置換のフェニレン基の置換基としては、例えば、アルキル基、ハロゲン原子などが挙げられ、メチル基、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0038】
上記Lは、単結合、または上記の連結基群から選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせてなる2価の連結基を表すが、上記の連結基群から選ばれる2種以上を組み合わせた2価の連結基である場合、同一のものを組み合わせてもよく、異なるものを組み合わせてもよい。
【0039】
上記の連結基群のうち、炭素数1〜12のアルキレン基は、炭素数2〜6のアルキレン基が好ましい。例えば、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ジメチルエチレン基などが挙げられ、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
炭素数2〜12のアルケニレン基は、炭素数2〜4のアルケニレン基が好ましい。例えば、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基などが挙げられ、ビニレン基、プロペニレン基が好ましい。
アルキレン基及びアルケニレン基は、可能であれば、それぞれ独立に、置換基(炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルコキシ基等)によって置換されていてもよい。
【0040】
上記Lは、単結合、または炭素数2〜6のアルキレン基、−O−、−CO−、−NR−(Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基)のいずれかを含む2価の連結基であることが好ましく、炭素数2〜6のアルキレン基、−O−、−CO−のいずれかを含む2価の連結基であることがより好ましい。
【0041】
で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられ、メチル基が好ましい。
【0042】
上記Arは芳香環を含む基を表すが、Arに含まれる芳香環は1つでも2つ以上でもよく、また該芳香環はそれぞれ置換されていてもよく、置換した原子が環を形成していてもよい。これらのうち、置換もしくは無置換のアリール基、炭素数8以上の縮環型芳香環、芳香環が縮環したヘテロ環、または2個以上連結したベンゼン環のいずれかから誘導される1価の基が好ましい。
【0043】
前記炭素数8以上の縮環型芳香環とは、少なくとも2個以上のベンゼン環が縮環した芳香環、及び/又は、少なくとも1種以上の芳香環と該芳香環に縮環した脂環式炭化水素で環が構成される、炭素数8以上の芳香族化合物である。具体的な例としては、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アセナフテンなどが挙げられる。
【0044】
前記芳香環が縮環したヘテロ環とは、ヘテロ原子を含まない芳香族化合物(好ましくはベンゼン環)と、ヘテロ原子を有する環状化合物とが少なくとも縮環した化合物である。ここで、ヘテロ原子を有する環状化合物は5員環または6員環であることが好ましい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子が好ましい。ヘテロ原子を有する環状化合物は複数のヘテロ原子を有していてもよく、この場合、ヘテロ原子は互いに同じでも異なっていてもよい。芳香環が縮環したヘテロ環の具体例としては、フタルイミド、ナフタルイミド、アクリドン、カルバゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0045】
前記2個以上連結されたベンゼン環とは、2個以上のベンゼン環が単結合しているもの、または2価の連結基もしくは3価の連結基を介して結合しているものをいう。2価の連結基としては、炭素数1〜4のアルキレン基、−CO−、−O−、−S−、−SO−、−SO−、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる2価の連結基であることが好ましい。3価の連結基としては、メチン基が挙げられる。ここで、ベンゼン環は互いに複数の連結基で結合されていてもよく、複数の連結基は同じであっても異なっていてもよい。
ベンゼン環の数としては、2〜6個が好ましく、2〜3個がより好ましい。2個以上連結されたベンゼン環の具体例としては、ビフェニル、トリフェニルメタン、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0046】
上記Arとしては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、トリフェニルメタン、フタルイミド、ナフタルイミド、アクリドン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、ジフェニルメタン、カルバゾールのいずれかから誘導される1価の基が好ましく、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、フタルイミド、ナフタルイミド、アクリドンのいずれかから誘導される1価の基がより好ましい。
【0047】
前記Arに含まれる芳香環は置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシル基、アルキルカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルオキシカルボニルオキシ基、ハロゲン基、シアノ基等を挙げることができ、好ましい置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、炭素数1〜10のアルキルカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基、クロロ基、シアノ基等を挙げることができる。
これらの置換基は、さらに他の置換基によって置換されていてもよく、この場合の好ましい置換基も上記と同じである。また、置換基を2つ以上有する場合は、それぞれの置換基は同じであっても異なっていてもよい。また、可能な場合には、置換基同士が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0048】
上記のうち、Rが水素原子またはメチル基であって、L−COO−または無置換のフェニレン基であって、Lが炭素数2〜6のアルキレン基、−O−、−CO−のいずれかを含む2価の連結基であって、Arがベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、フタルイミド、ナフタルイミド、アクリドンのいずれかから誘導される1価の基であることが好ましい。
【0049】
前記構造単位(a)をポリマーに導入する方法としては、上述した各種の官能基を有しないポリマー鎖を得た後にそれらの官能基を高分子反応により導入してもよい。また、前記構造単位(a)に対応する下記一般式(3)で表されるモノマーを原料にしてポリマーを重合することにより導入することができ、こちらの方法が好ましい。
【0050】
【化4】

【0051】
一般式(3)中、R、L、L、Arは、それぞれ対応する一般式(1)のR、L、L、Arと同義であり、好ましい例も同様である。一般式(3)で表されるモノマーは単独で、または2種類以上を混合して用いてもよい。
以下に、一般式(3)で表されるモノマーの具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。
【0052】
【化5】



【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
[構造単位(b)]
前記ポリマーは、イオン性基を有する構造単位(b)を少なくとも含む。構造単位(b)は、前記ポリマーの全質量に対して、2質量%以上20質量%以下含有され、5質量%以上15質量%以下が好ましく、7質量%以上13質量%以下がより好ましい。
構造単位(b)の比率は、2質量%未満であると顔料分散物の分散性に劣り、20質量%を超えると顔料分散物の分散安定性に劣る。
【0056】
前記構造単位(b)は、イオン性基含有モノマーを原料にしてポリマーを重合することにより、ポリマー中に導入することができる。また、イオン性基を有しないモノマーを原料にしてポリマーを重合した後、該ポリマー鎖にイオン性基(アニオン性基又はカチオン性基)を導入してもよい。
【0057】
イオン性基の例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などのアニオン性基、アミノ基、アンモニウム基などのカチオン性基が挙げられ、中でも、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基から選ばれる1種以上のアニオン性基が好ましい。
前記構造単位(b)のポリマーへの導入に用いることができるアニオン性基含有モノマー、及びカチオン性基含有モノマーの具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
アニオン性基含有モノマーのうち、カルボキシル基を含むものとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸モノマー類、及び、β−カルボキシエチルアクリル酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0059】
カチオン性基含有モノマーとしては、3級アミン含有ビニルモノマー及びアンモニウム塩含有ビニルモノマーからなる群より選ばれた1種以上が挙げられる。
3級アミン含有ビニルモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−6−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられる。
アンモニウム塩含有ビニルモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート四級化物等が挙げられる。
【0060】
これらのうち、アニオン性基含有モノマーが好ましく、インク粘度及び吐出性の観点から、不飽和カルボン酸モノマー類が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸が特に好ましい。なお、イオン性基含有モノマーは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0061】
前記ポリマーがカルボキシル基等の酸性基を含有する場合、ポリマーの酸価(mgKOH/g)は10mgKOH/g以上、100mgKOH/g未満であることが好ましく、30mgKOH/g以上、85mgKOH/g未満であることがより好ましく、50mgKOH/g以上、80mgKOH/g未満であることが特に好ましく、70mgKOH/g以上、80mgKOH/g未満であることが最も好ましい。
カルボン酸等の酸性基を含有する場合の前記ポリマーの酸価が10mgKOH/g未満の場合には、解離したカルボキシル基による分散剤の荷電反発が不足し、結果として分散性が低下する傾向となり、また、100mgKOH/g以上では、ポリマーの親水性が高くなり、顔料に吸着せず水性媒体中に溶出する傾向となり好ましくない。
なお、ここでいう酸価とは、ポリマー1gを完全に中和するのに要するKOHの質量(mg)で定義され、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法で測定することができ、本発明においてはこれを採用する。
【0062】
[構造単位(c)]
前記ポリマーは、前記構造単位(a)及び構造単位(b)とは別の構造単位である構造単位(c)を少なくとも含有する。前記ポリマーは、その全質量に対して、構造単位(a)と構造単位(b)とを合わせて10質量%以上85質量%以下含むので、構造単位(c)の含有量は15質量%以上90質量%以下である。
構造単位(c)は、疎水性の構造単位であっても、親水性の構造単位であってもよく、単一の構造単位であっても、2種類以上の構造単位であってもよく、親水性の構造単位と疎水性の構造単位の両方を含んでいてもよい。
【0063】
前記ポリマーが前記構造単位(c)を有することで、本発明の水性顔料分散物は水性媒体中で良好な分散性を示す。その機構は詳しくは不明だが、下記のように推測される。
すなわち、前記ポリマーは主として顔料との親和性を示す疎水性構造単位(a)と、主として水性媒体との親和性を示す親水性構造単位(b)という、いわば相反する性質の構造単位を含む。仮にポリマーがこれらのみで構成された場合には、構造単位(a)と構造単位(b)が互いの機能を阻害し合い、結果、分散性が不十分となってしまう。ポリマーが、構造単位(a)と構造単位(b)との中間的な性質を示す構造単位(c)を有することで、このような問題は解消され、本発明の良好な分散性が示されると考えられる。
【0064】
前記構造単位(c)は、前記ポリマーの全質量に対して、15質量%以上90質量%以下含まれる。構造単位(c)の含有量は、20質量%超80質量%以下とすることが好ましく、30質量%超80質量%以下とすることがより好ましい。
【0065】
前記構造単位(c)が疎水性の構造単位である場合、構造単位(c)は、これに対応するモノマーを原料にしてポリマーを重合することによりポリマー中に導入することができる。また、ポリマーの重合後に、ポリマー鎖に疎水性官能基を導入してもよい。
前記構造単位(c)が疎水性の構造単位である場合の重合に用いるモノマーは、重合体を形成しうる官能基と疎水性の官能基とを有していれば特に制限はなく、公知の如何なるモノマー類をも用いることができる。
【0066】
前記疎水性の構造単位(c)を形成しうるモノマーとしては、入手性、取り扱い性、汎用性の観点から、ビニルモノマー類((メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、ビニルエステル類等)が好ましい。
【0067】
これらの具体例として、(メタ)アクリレート類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらのうち(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルが好ましく、炭素数1〜4のアルキルエステルがより好ましい。
【0068】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチルアクリル(メタ)アミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ビニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、N−アリル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0069】
スチレン類としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、n−ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、酸性物質により脱保護可能な基(例えばt−ブトキシカルボニル基など)で保護されたヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸メチル、及びα−メチルスチレン、ビニルナフタレン等などが挙げられ、中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0070】
ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、および安息香酸ビニル等のビニルエステル類が挙げられ、中でも、ビニルアセテートが好ましい。
【0071】
前記構造単位(c)が疎水性の構造単位である場合、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する構造単位であることがより好ましく、炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位であることが特に好ましく、これらの中でもアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、またはメタクリル酸エチルのいずれかに由来する構造単位であることが最も好ましい。
【0072】
一方、前記構造単位(c)が親水性の構造単位である場合には、構造単位(c)は非イオン性の親水性基を含有することが好ましい。また、構造単位(c)は、これに対応するモノマーを原料にしてポリマーを重合することによりポリマー中に導入することができるが、ポリマーの重合後、ポリマー鎖に親水性官能基を導入してもよい。
【0073】
前記親水性の構造単位(c)を形成するモノマーとしては、重合体を形成しうる官能基と親水性の官能基とを有していれば特に制限はなく、公知の如何なるモノマー類をも用いることができる。入手性、取り扱い性、汎用性の観点からビニルモノマー類が好ましい。
【0074】
これらビニルモノマー類の例として、親水性の官能基を有する(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル類が挙げられる。親水性の官能基としては、水酸基、(窒素原子が無置換の)アミド基、及び、後述するようなポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のアルキレンオキシド重合体が挙げられる。これらのうち、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アルキレンオキシド重合体を含有する(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0075】
前記構造単位(c)として、アルキレンオキシド重合体構造を有する親水性の構造単位を含んでいてもよい。前記アルキレンオキシド重合体のアルキレンとしては、前記ポリマーの親疎水性の観点から炭素数1〜6が好ましく、炭素数2〜6がより好ましく、炭素数2〜4が特に好ましい。また、前記アルキレンオキシド重合体の重合度としては、1〜120が好ましく、1〜60がより好ましく、1〜30が特に好ましい。
【0076】
前記構造単位(c)は、水酸基を有する親水性の構造単位であってもよい。前記構造単位(c)中の水酸基数としては、特に限定されず、前記ポリマーの親疎水性、重合時の溶媒や他のモノマーとの相溶性の観点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0077】
[ポリマーの具体例]
以下に、前記ポリマーとして好ましい化合物B−1〜B−57を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記構造式において、j、k、l、mは質量分率を表し、nは繰り返し数を表す。
【0078】
【化8】

【0079】
【化9】

【0080】
【化10】

【0081】
【化11】

【0082】
以下の各構造単位に付した下付数字は質量分率を表す。各構造式の右に付した数字は、左から重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、酸価(mgKOH/g)である。
【0083】
【化12】

【0084】
【化13】

【0085】
【化14】

【0086】
【化15】

【0087】
【化16】

【0088】
(水溶性有機溶媒)
本発明の水性顔料分散物の製造方法において、前記ポリマーは水溶性有機溶媒(以下、単に「有機溶媒」ということがある。)を含む溶媒中で合成される。
本発明において水溶性有機溶媒とは、100gの水に対して5g以上溶解する有機溶媒を意味する。
【0089】
本発明の水性顔料分散物の製造方法によれば、水溶性有機溶媒はポリマーの合成工程からポリマーと共に水性顔料分散物に持ち込まれ、そのまま分散物中に含まれる。有機溶媒としては、公知の溶媒の中から適宜選択することができる。
前記水溶性有機溶媒は、分散物の分散安定性及びインクを調整して画像記録したときのカール抑制性の観点から、下記一般式(2)で表される構造を有し、SP値が27.5以下であることが好ましい。当該水溶性有機溶媒を水溶性有機溶媒(I)という(単に、「有機溶媒(I)」ということがある。)。
【0090】
R−(A)−OH ・・・一般式(2)
【0091】
一般式(2)において、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数3〜12の糖アルコールに由来する基を表し、Aはエチレンオキシ基およびプロピレンオキシ基から選ばれる少なくとも1種を表し、nは1〜20の整数を表す。
【0092】
上記Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数3〜12の糖アルコールに由来する基のいずれでもよいが、画像記録時のカール抑制効果の観点から、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数3〜6の糖アルコールに由来する基であることが好ましい。
炭素数1〜4のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等である。
【0093】
糖アルコールに由来する基とは、糖アルコールから水酸基を少なくとも一つ取り除いて形成される基を意味する。糖アルコールから除かれる水酸基の位置には特に制限はなく、異なる位置から水酸基が取り除かれて形成された2種以上の基からなる混合物であってもよい。また、2以上の水酸基が取り除かれた2価以上の基であってもよい。
【0094】
上記Aにおいて、エチレンオキシ基とプロピレンオキシ基が合せて2以上ある場合、エチレンオキシ基またはプロピレンオキシ基のいずれか1種のみからなっていてもよく、エチレンオキシ基とプロピレンオキシ基の両方を含んでいてもよい。さらに、Aがエチレンオキシ基とプロピレンオキシ基の両方を含む場合、ブロック重合体であってもランダム重合体であってもよい。
【0095】
上記nは、1〜20の整数を表すが、インクの吐出安定性の観点から1〜12の整数であることが好ましい。
【0096】
本発明における水溶性有機溶媒のSP値は27.5以下であることが好ましいが、16〜27.5であることがより好ましく、18〜26.5であることがさらに好ましい。水溶性有機溶媒のSP値が27.5以下であると、画像記録時のカール抑制効果に優れる。
有機溶媒が2種以上の有機溶媒から構成される場合、SP値が27.5以下の有機溶媒を全部で70質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有していることがより好ましい。
【0097】
本発明におけるSP値は、溶媒の溶解度パラメーターを意味し、分子凝集エネルギーの平方根で表される値である。SP値については、Polymer HandBook(Second Edition)第IV章 Solubility Parameter Valuesに記載があり、その値を本発明におけるSP値とした。また、単位は(MPa)1/2であり、25℃における値を指す。
なお、データの記載がないものについては、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147〜154(1974)に記載の方法で計算した値を本発明におけるSP値とした。
【0098】
以下、前記一般式(2)で表される構造を有し、SP値が27.5以下である水溶性有機溶媒(I)の具体例を以下に示す。いうまでもなく本発明はこれらに限定されるものではない。なお、SP値を括弧内に示した。
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE)(22.4)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE)(21.5)
ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGdEE)(16.8)
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)(21.1)
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME)(20.4)
プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGmEE)(22.3)
ジプロピレングリコール(DPG)(27.1)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGmME)(21.3)
トリプロピレングリコール(TPG)(24.7)
1,2−ヘキサンジオール(27.4)
トリオキシプロピレングリセリルエーテル(26.4)(例えばGP−250(三洋化成工業(株)製))
ヘキサオキシプロピレングリセリルエーテル(23.2)(例えばGP−400(三洋化成工業(株)製))
ヘキサデカオキシプロピレングリセリルエーテル(20.2)(例えばGP−1000(三洋化成工業(株)製))
ジオキシエチレンジオキシプロピレンブチルエーテル(20.1)(例えば50HB−55(三洋化成工業(株)製))
ペンタオキシエチレンペンタオキシプロピレンブチルエーテル(19.7)(例えば50HB−100(三洋化成工業(株)製))
デカオキシエチレンヘプタオキシプロピレンブチルエーテル(19.0)(例えば50HB−260(三洋化成工業(株)製))
POP(4)ジグリセリルエーテル(SP値26.1)(例えばSC−P400(阪本薬品工業(株)製))
POP(9)ジグリセリルエーテル(SP値22.7)(例えばSC−P750(阪本薬品工業(株)製))
POE(20)ジグリセリルエーテル(SP値22.4)(例えばSC−E1000(阪本薬品工業(株)製))
POE(40)ジグリセリルエーテル(SP値21.0)(例えばSC−E2000(阪本薬品工業(株)製))
【0099】
なお、POP(4)ジグリセリルエーテルはジグリセリンにプロピレンオキシドが4つ付加した化合物を意味し、POE(20)ジグリセリルエーテルはジグリセリンにエチレンオキシドが20つ付加した化合物を意味し、他も同様である。
【0100】
また参考のため、SP値が27.5を超える水溶性有機溶媒の例をSP値と共に示す。
グリセリン(33.5)
ジエチレングリコール(DEG)(30.6)
トリエチレングリコール(TEG)(27.8)
トリメチロールプロパン(28.8)
【0101】
本発明における水溶性有機溶媒の分子量は、特に制限はないが、100〜2000であることが好ましい。分子量が100未満の場合、インクの保存安定性が低下することがある。分子量が2000を超えるとインクの粘度が上昇し、吐出安定性が低下したり、インクの保存安定性が低下したりする。分子量の異なる2種類以上の有機溶媒を組み合わせて用いることも、本発明においては好ましい態様である。
本発明の水性顔料分散物の構成として2種類以上の有機溶媒を含む場合、本発明における水不溶性ポリマーを合成する際にはこれらの有機溶媒のうち少なくとも1種を含有する態様でも、2種類以上を含有する態様でもよい。
なお、水溶性有機溶媒の分子量は、水溶性有機溶媒が単一の有機溶媒から構成される場合には構造式から算出される分子量を意味し、複数の有機溶媒の混合物である場合には数平均分子量を意味する。
【0102】
前述の水溶性有機溶媒(I)の具体例のうち、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンオキシ基の含有数が3〜9であるポリオキシプロピレングリセリルエーテル、及び、エチレンオキシ基の含有数とプロピレンオキシ基の含有数の和が3〜20であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルが好ましく、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール、プロピレンオキシ基の含有数が3〜6であるポリオキシプロピレングリセリルエーテル、及び、エチレンオキシ基の含有数とプロピレンオキシ基の含有数の和が3〜12であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテルがより好ましい。
【0103】
−混合工程−
本発明の水性顔料分散物の製造方法は、前記水不溶性ポリマーと前記水溶性有機溶媒とを含む溶液に、少なくとも顔料と水とを混合する工程を有する。
この混合工程は、前記ポリマーの合成工程で得られたポリマーと有機溶媒とを含む溶液に、顔料と水と後述する中和剤を徐々に加えて混合、攪拌して分散物を得る処理であることが好ましい。
該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0104】
なお、本発明における分散状態とは、上記のような処理で分散物を得た後、分散状態が60℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0105】
(水不溶性ポリマーと水溶性有機溶媒とを含む溶液)
前記合成工程で得られたポリマーと有機溶媒とを含む溶液をそのまま用いることができるが、水溶性有機溶媒は、水性顔料分散物に最終的に含まれる量を調整するなどの目的に応じて追加することができる。水性顔料分散物に含まれる水溶性有機溶媒の含有量には特に制限はないが、インクの吐出安定性の観点から、分散物全体に対して、1〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましく、10〜25質量%であることが更に好ましい。
【0106】
(顔料)
混合工程においては、前記合成工程で得られた溶液に、少なくとも1種の顔料を混合する。本発明における顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機顔料及び無機顔料を用いることができる。
【0107】
前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料や、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等が挙げられる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック等が挙げられる。
これらのうち、インク組成物を作製したときの発色性の観点から、有機顔料またはカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0108】
本発明に用いられる有機顔料の具体的な例を以下に示すが、本発明にはこれらに限定されるものではない。
オレンジ又はイエロー用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・オレンジ31、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー13、C.I.ピグメント・イエロー14、C.I.ピグメント・イエロー15、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー93、C.I.ピグメント・イエロー94、C.I.ピグメント・イエロー128、C.I.ピグメント・イエロー138、C.I.ピグメント・イエロー151、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー185等が挙げられる。特に、C.I.ピグメント・イエロー74が好ましい。
【0109】
マゼンタまたはレッド用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・レッド2、C.I.ピグメント・レッド3、C.I.ピグメント・レッド5、C.I.ピグメント・レッド6、C.I.ピグメント・レッド7、C.I.ピグメント・レッド15、C.I.ピグメント・レッド16、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド53:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド123、C.I.ピグメント・レッド139、C.I.ピグメント・レッド144、C.I.ピグメント・レッド149、C.I.ピグメント・レッド166、C.I.ピグメント・レッド177、C.I.ピグメント・レッド178、C.I.ピグメント・レッド222、C.I.ピグメント・バイオレット19等が挙げられる。特に、C.I.ピグメント・レッド122が好ましい。
【0110】
グリーンまたはシアン用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。特に、C.I.ピグメント・ブルー15:3が好ましい。
【0111】
ブラック用の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・ブラック1、C.I.ピグメント・ブラック6、C.I.ピグメント・ブラック7等が挙げられる。
【0112】
カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。具体例は、Raven7000、Raven5750、Raven5250、Raven5000 ULTRAII、Raven 3500、Raven2000、Raven1500、Raven1250、Raven1200、Raven1190 ULTRAII、Raven1170、Raven1255、Raven1080、Raven1060、Raven700(以上コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R、Regal330R、Regal660R、Mogul L、Black Pearls L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400(以上キャボット社製)、Color Black FW1、Color Black FW2,Color Black FW2V、Color Black 18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex35、Printex U、Printex V、Printex140U、Printex140V、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black4(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.45、No.47、No.52、No.900、No.2200B、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0113】
上記の顔料は、単独種で使用してもよく、また上記した各群内もしくは各群間より複数種選択してこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0114】
本発明における水性顔料分散物に含まれる顔料と水不溶性ポリマーとの混合質量比に特に制限はなく、顔料種、ポリマー種及び混合物の撹拌方法などに応じて適宜調整することができる。
【0115】
水性顔料分散物における水不溶性ポリマーに被覆された顔料の平均粒子径としては、10〜150nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。平均粒子径は、150nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布をもつ粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0116】
(水)
混合工程においては、前記合成工程で得られた溶液に、顔料と共に少なくとも水を混合する。水の量に特に制限はなく、顔料種、ポリマー種及び混合物の撹拌方法などに応じて適宜調整することができる。
【0117】
(中和剤)
混合工程においては、中和剤を混合することができる。中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、水不溶性ポリマーが水系で安定した分散状態を形成するために用いることができる。
本発明におけるポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えば、カルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0118】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水系でのポリマーの分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0119】
(界面活性剤)
混合工程においては、界面活性剤を混合することができる。界面活性剤の添加によって水性顔料分散物の表面張力を調整することができる。界面活性剤としてはノニオン、カチオン、アニオン、ベタイン界面活性剤のいずれであってもよい。本発明における界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせもつ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。
界面活性剤の添加量は、インクジェット法で良好に打滴するために、本発明の水性顔料分散物の表面張力を20〜60mN/mに調整する量が好ましく、より好ましくは20〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mに調整できる量である。なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0120】
(その他の有機溶媒)
混合工程においては、水性顔料分散物の分散安定性等を損なわない範囲で、インクの乾燥防止効果、湿潤効果または浸透促進効果などを目的に、水溶性有機溶媒を更に混合することができる。
ここで乾燥防止効果、湿潤効果は、インクジェットプリンタのノズルのインク噴射口においてインクジェット記録用インクが乾燥することによる目詰まりを防止できる効果等を意味する。乾燥防止剤や湿潤剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。
また浸透促進効果は、インクを紙によりよく浸透させる効果を意味し、水溶性有機溶媒が好適に使用される。
【0121】
本発明において更に加えて用いることのできる水溶性有機溶媒の例としては、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類)、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル等のグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0122】
中でも乾燥防止剤や湿潤剤の目的としては、多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0123】
また浸透促進剤の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい。
【0124】
これらの有機溶媒は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
本発明においては、画像記録時のカール抑制効果の観点から、前記水溶性有機溶媒(I)の含有量が全有機溶媒の含有量に対して70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがよりに好ましい。
【0125】
(その他の添加剤)
前記混合工程においては、必要に応じて、その他の添加剤を混合することができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0126】
<インクジェット記録用水性顔料インク>
本発明のインクジェット記録用水性顔料インク(以下、単に「水性顔料インク」、「水性インク」、「インク」ということがある。)は、本発明の水性顔料分散物の製造方法により作製された水性顔料分散物を少なくとも含む。また、本発明における水性顔料インクは、必要に応じて、更にその他の成分を用いて構成することができる。
【0127】
(水性顔料分散物)
本発明の水性顔料インクは、本発明の水性顔料分散物の製造方法により作製された水性顔料分散物の少なくとも1種を含有する。前記水性顔料分散物は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明における水性顔料分散物はそのままインクジェット記録用水性顔料インクとして使用することができるが、必要に応じて、さらに以下のような成分を含むことができる。
【0128】
(水)
本発明における水性顔料分散物は水を含有するが、インクとして用いるときに、顔料濃度の調整などを目的に、さらに水を添加することができる。水の量に特に制限はないが、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0129】
(樹脂)
本発明の水性顔料インクは、必要に応じて、色材の定着性の向上を目的としたバインダとして樹脂を含むことができる。
本発明における樹脂としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性あるいは熱変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などのアニオン性基を有する樹脂の粒子が挙げられる。
【0130】
(その他の添加剤)
本発明の水性顔料インクは、必要に応じて、その他の添加剤を含むことができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0131】
インクの表面張力は、20〜60mN/mが好ましく、20〜45mN/mがより好ましく、25〜40mN/mがさらに好ましい。
インクの表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0132】
インクの粘度としては、吐出安定性の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。
インク組成物の粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて測定することができる。
【実施例】
【0133】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0134】
<モノマーの合成例>
[M−25/M−27混合物の合成]
既述の一般式(3)で表されるモノマーであるM−25とM−27の混合物を以下の方法で合成した。
9(10H)−アクリドン9.76部とt−ブトキシカリウム5.61部とをジメチルスルホキシド30部に溶解させ、45℃に加熱した。ここにクロロメチルスチレン(セイミケミカル(株)製CMS−P、メタ体/パラ体=50/50(mol/mol)の混合物)15.26部を滴下し、50℃で5時間加熱攪拌を行った。この反応液を蒸留水200部に攪拌しながら注ぎ、得られた析出物を濾別、洗浄することで、M−25/M−27混合物を11.9部得た。M−25及びM−27の組成はH-NMRで確認した。
【0135】
(実施例1)
[ポリマーB−2の合成]
既述の具体例B−2(本発明における水不溶性ポリマー)を下記スキームに従って合成した。各構造単位に付した数字は、質量分率を表す。
【0136】
【化17】

【0137】
攪拌機、冷却管を備えた500mlの三口フラスコに、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル88gを加え窒素雰囲気下で75℃に加熱し、ここに、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート1.2gとフェノキシエチルメタクリレート(既述のモノマーM−40)50gとメタクリル酸11gとメチルメタクリレート39gとを溶解させた溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、75℃に維持した状態で1時間撹拌した後、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.36gを溶解させた溶液を加え、78℃に昇温し4時間加熱攪拌した。未反応モノマーの消失は、H−NMRで確認した。得られた溶液を室温まで冷却し、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを加え不揮発分が35質量%となるように調整した。
【0138】
得られたポリマーの組成はH−NMRで確認し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により求めた重量平均分子量(Mw)は40400であった。なお分子量は、GPCとしてHLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用い、溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用い換算して表した分子量である。
JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法によりポリマーの酸価を求めたところ、71.5mgKOH/gであった。
【0139】
上記の合成方法において、構造単位(a)、(b)、(c)に対応する各モノマー及び有機溶媒の種類を変更することで、本発明におけるポリマーに含まれるポリマーを合成することができる。また、分子量の調整は、開始剤であるジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートの添加量を調整することで行うことができる。
【0140】
[顔料分散物D−1の調製]
フリッチュ遊星型ボールミル モデルP−7(フリッチュ社製)を使用し、下記の手順により顔料分散物を調製した。
ジルコニア製45ml容器に、下記の成分と0.1mmΦジルコニアビーズ(TORAY製トレセラムビーズ)40gを加え、スパチュラで軽く混合した。ジルコニア製45ml容器をオーバーポット式特殊雰囲気制御容器に入れ、窒素置換し、回転数300rpmで3時間分散した。分散終了後、ろ布でろ過してビーズを取り除き、分散物を得た。
【0141】
・C.I.ピグメントブルー15:3(PB15:3)(顔料) 10部
(大日精化(株)製、フタロシアニンブルーA220)
・B−2の溶液(ポリマーと有機溶媒を含む溶液) 14.3部
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGmME) 15.7部
(追加有機溶媒(1))
・サンニックスGP−250(ニューポールGP−250) 12.5部
(追加有機溶媒(2))(三洋化成工業(株)製)
・1mol/L NaOH水溶液(中和剤) 6.0部
(分散剤に含まれるカルボン酸の量に対して1当量)
・イオン交換水 総量が150部となる量
【0142】
得られた分散物を、遠心分離機((株)日立製作所製05P−21)により30分5000rpmで遠心分離した後、顔料に対し25質量%のオルフィンE1010(日信化学(株)製、界面活性剤)を加え、顔料濃度が4質量%になるようにイオン交換水を添加し、2.5μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製)を用いて加圧ろ過し、顔料分散物D−1を調製した。
【0143】
(実施例2〜5、実施例8〜10)
[ポリマーB−5、B−7、B−8、B−10、B−27、B−35、B−46の合成]
上記B−2の合成において、使用したモノマー及び溶媒を表1に記載の組み合わせに変更した以外はB−2の合成と同様にして、B−5、B−7、B−8、B−10、B−27、B−35、B−46(それぞれは本発明における水不溶性ポリマー)をそれぞれ合成した。
得られた各ポリマーの組成はH−NMRで確認し、GPCにより重量平均分子量(Mw)を求め、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により酸価を求めた。各ポリマーの物性値を表1に示す。
【0144】
[顔料分散物D−2〜D−5、D−8〜D−10の調製]
上記顔料分散物D−1の調製において、B−2の溶液、追加有機溶媒(1)、追加有機溶媒(2)を、それぞれ表2に記載の成分、含有量に変更した以外はすべて顔料分散物D−1の調製と同様にして、顔料分散物D−2〜D−5、D−8〜D−10をそれぞれ調製した。
【0145】
(実施例12〜16)
[ポリマーB−5、B−7、B−10、B−39の合成]
上記B−2の合成において、使用したモノマー及び溶媒を表1に記載の組み合わせに変更した以外はB−2の合成と同様にして、B−5、B−7、B−10、B−39(それぞれは本発明における水不溶性ポリマー)をそれぞれ合成した。なお、B−5、B−7、B−10は、ポリマー合成に用いたモノマー及び各構造単位の含有量(質量分率)がそれぞれB−5、B−7、B−10と同一であるが、ポリマー合成に用いた有機溶媒がそれぞれB−5、B−7、B−10と異なるポリマーである。
得られた各ポリマーの組成はH−NMRで確認し、GPCにより重量平均分子量(Mw)を求め、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により酸価を求めた。各ポリマーの物性値を表1に示す。
【0146】
[顔料分散物D−12〜D−16の調製]
上記顔料分散物D−1の調製において、C.I.ピグメントブルー15:3、B−2の溶液、追加有機溶媒(1)、追加有機溶媒(2)を、それぞれ表2に記載の成分、含有量に変更した以外はすべて顔料分散物D−1の調製と同様にして、顔料分散物D−12〜D−16をそれぞれ調製した。
なお、表2に記載の顔料の詳細は下記の通りである。
・C.I.ピグメントレッド122(PR122、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ)
・C.I.ピグメントイエロー74(PY74、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名:Irgalite Yellow GS)
・カーボンブラック(CB、Degussa社製、商品名:NIPEX180−IQ)
【0147】
(実施例11)
[ポリマーB−22の合成]
既述の具体例B−22(本発明における水不溶性ポリマー)を下記スキームに従って合成した。各構造単位に付した数字は、質量分率を表す。
【0148】
【化18】

【0149】
攪拌機、冷却管を備えた500mlの三口フラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテル90.9gと、前記合成例で得られたM−25/M−27混合物15gと、メタクリル酸10gと、エチルメタクリレート75gとを加え、窒素雰囲気下で75℃に加熱し、溶解させた。ここに、メチルエチルケトン8.0gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート2.0gを溶解させた溶液を加え、75℃に維持した状態で2時間撹拌した。ここに、メチルエチルケトン1.0gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.5gを溶解させた溶液を加え、75℃に維持した状態でさらに2時間撹拌した。さらに、メチルエチルケトン1.0gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.5gを溶解させた溶液を加え、80℃に昇温し4時間加熱攪拌した。未反応モノマーの消失は、H−NMRで確認した。得られた溶液を室温まで冷却し、ジエチレングリコールモノエチルエーテルを加え不揮発分が35質量%となるように調整した。
【0150】
得られたポリマーの組成はH−NMRで確認した。GPCにより求めた重量平均分子量(Mw)は40300であった。JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法によりポリマーの酸価を求めたところ、65.3mgKOH/gであった。
【0151】
上記の合成方法において、構造単位(a)、(b)、(c)に対応する各モノマー及び有機溶媒の種類を変更することで、本発明におけるポリマーに含まれるポリマーを合成することができる。また、分子量の調整は、開始剤であるジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートの添加量を調整することで行うことができる。
【0152】
[顔料分散物D−11の調製]
上記顔料分散物D−1の調製において、C.I.ピグメントブルー15:3、B−2の溶液、追加有機溶媒(1)、追加有機溶媒(2)を、それぞれ表2に記載の成分、含有量に変更した以外はすべて顔料分散物D−1の調製と同様にして、顔料分散物D−11を調製した。
【0153】
(実施例6、7)
[ポリマーB−22、B−23の合成]
上記B−22の合成において、使用したモノマー及び溶媒を表1に記載の組み合わせに変更した以外はB−22の合成と同様にして、B−22、B−23(それぞれは本発明における水不溶性ポリマー)をそれぞれ合成した。なお、B−22は、ポリマー合成に用いたモノマー及び各構造単位の含有量(質量分率)がB−22と同一であるが、ポリマー合成に用いた有機溶媒がB−22と異なるポリマーである。
得られた各ポリマーの組成はH−NMRで確認し、GPCにより重量平均分子量(Mw)を求め、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により酸価を求めた。各ポリマーの物性値を表1に示す。
【0154】
[顔料分散物D−6、D−7の調製]
上記顔料分散物D−1の調製において、B−2の溶液、追加有機溶媒(1)、追加有機溶媒(2)を、それぞれ表2に記載の成分、含有量に変更した以外はすべて顔料分散物D−1の調製と同様にして、顔料分散物D−6、D−7をそれぞれ調製した。
【0155】
(比較例1、2)
[ポリマーC−1の合成]
上記B−2の合成において、使用したモノマー及び溶媒を表1に記載の組み合わせに変更した以外はB−2の合成と同様にして、C−1を合成した。
得られたポリマーの組成はH−NMRで確認し、GPCにより重量平均分子量(Mw)を求め、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により酸価を求めた。ポリマーの物性値を表1に示す。
【0156】
[顔料分散物E−2の調製]
フリッチュ遊星型ボールミル モデルP−7(フリッチュ社製)を使用し、下記の手順により顔料分散物を調製した。
ジルコニア製45ml容器に、下記の成分と0.1mmΦジルコニアビーズ(TORAY製トレセラムビーズ)40gを加え、スパチュラで軽く混合した。ジルコニア製45ml容器をオーバーポット式特殊雰囲気制御容器に入れ、窒素置換し、回転数300rpmで3時間分散した。分散終了後、ろ布でろ過してビーズを取り除き、分散物を得た。
【0157】
・C.I.ピグメントブルー15:3(PB15:3)(顔料) 10部
(大日精化(株)製、フタロシアニンブルーA220)
・C−1の溶液(ポリマーと有機溶媒を含む溶液) 14.3部
・メチルエチルケトン 32.7部
・1mol/L NaOH水溶液(中和剤) 6.0部
(分散剤に含まれるカルボン酸の量に対して1当量)
・イオン交換水 総量が150部となる量
【0158】
得られた分散物から減圧下55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の顔料含有樹脂粒子の分散物を得た。次いで、遠心分離機((株)日立製作所製05P−21)により30分5000rpmで遠心分離した後、顔料に対し200質量%のジエチレングリコールモノエチルエーテル、顔料に対し200質量%のサンニックスGP−250、顔料に対し25質量%のオルフィンE1010(日信化学(株)製、界面活性剤)を加え、顔料濃度が4質量%になるようにイオン交換水を添加し、2.5μmのメンブレンフィルター(アドバンテック社製)を用いて加圧ろ過し、顔料分散物E−2を調製した。
【0159】
[顔料分散物E−1の調製]
上記顔料分散物E−2の調整において、顔料に対し200質量%のジエチレングリコールモノエチルエーテル及び顔料に対し200質量%のサンニックスGP−250を加えることに代えて、顔料に対し525質量%のトリエチレングリコールを加えた以外は顔料分散物E−2の調整と同様にして、顔料分散物E−1を調整した。
【0160】
(比較例3〜6)
[ポリマーC−2〜C−5の合成]
上記B−2の合成において、使用したモノマー及び溶媒を表1に記載の組み合わせに変更した以外はB−2の合成と同様にして、C−2〜C−5をそれぞれ合成した。
得られた各ポリマーの組成はH−NMRで確認し、GPCにより重量平均分子量(Mw)を求め、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により酸価を求めた。各ポリマーの物性値を表1に示す。
【0161】
[顔料分散物E−3〜E−6の調製]
上記顔料分散物D−1の調製において、B−2の溶液をC−2〜C−5のいずれかの溶液に変更した以外は、顔料分散物D−1の調製と同様にして、顔料分散物E−3〜E−6をそれぞれ調製した。
【0162】
(比較例7、8)
[顔料分散物E−7、E−8の調製]
上記顔料分散物D−1の調製において、B−2の溶液を、米国特許出願第2005/0124726号明細書における段落番号「2038」記載の共重合体(以下、DM−4と称する。)を合成した溶液に変更した以外は、顔料分散物D−1の調製と同様にして、顔料分散物E−7を調整した。なお、DM−4を合成した溶液は、合成に用いた有機溶媒であるメチルエチルケトンを更に加え不揮発分を35質量%に調整して用いた。
また、上記顔料分散物D−1の調製において、B−2の溶液を、米国特許出願第2006/0014855号明細書における段落番号「0036」〜「0037」記載の共重合体(以下、PD−1と称する。)を合成した溶液に変更した以外は、顔料分散物D−1の調製と同様にして、顔料分散物E−8を調製した。なお、PD−1を合成した溶液は、米国特許出願第2006/0014855号明細書に記載のPD−1の合成後にポリマーを取り出す操作及び、次いで水酸化カリウムによって溶液を中和する調製は行わず、合成が完了した状態の溶液に合成に用いた有機溶媒であるジエチレングリコールを更に加え、不揮発分を35質量%に調整して用いた。
【0163】
−水性顔料分散物の評価−
(1)体積平均粒子径
実施例及び比較例の顔料分散物50μlに対しイオン交換水10mlを加え測定用溶液を調製し、25℃の条件下、ナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製UPA−EX150)を用い、動的光散乱法により、得られた顔料分散物の体積平均粒子径を測定した。結果を表2に示す。体積平均粒子径の許容範囲を150nm以下とした。
【0164】
(2)分散安定性
実施例及び比較例の顔料分散物を25℃に温度調製した。振動式粘度計(BROOKFIELD社製DV−II+VISCOMETER)を用いて、25℃、相対湿度50%の環境下で、コーンプレート(φ35mm)を用いて粘度を測定し、トルクが20〜90%の範囲、かつ回転数が0.5〜100rpmの範囲のデータの平均値を測定値とした。調製直後の測定値をインク粘度1とした。
次いで、顔料分散物の一部をガラス製サンプルビンに採取し、密栓した状態で60℃の環境下で1週間放置した後、上記と同様の方法で保存後のインク粘度2を測定した。同時に顔料分散物の状態を目視観察した。
【0165】
上記の保存前後での測定値からインク粘度の変動率{100−(インク粘度2/インク粘度1)×100}を算出した。得られた粘度変動率[%]を分散安定性の指標として表2に示す。粘度変動率の許容範囲を15%以下とした。
【0166】
(3)画像記録物のカール性
実施例及び比較例の顔料分散物を、特菱アートN(三菱製紙(株)製、84.9g/m)をカールしたときに長辺が弧を描くように5mm×50mmに裁断したサンプルに、塗布バーを用いて4g/mの塗布量でそれぞれ塗布した。25℃、相対湿度50%の環境下で一定時間放置し、下記のようにしてサンプルの曲率Cを求めた。下記評価基準に従ってカール性を評価した。結果を表2に示す。
【0167】
〜曲率C〜
カールしたサンプルが描く弧を半径R(m)の円の弧とみなしてRを算出し、下記の式(1)に従って曲率Cを求めた。
C=1/R ・・・式(1)
【0168】
〜評価項目〜
(i)塗布して10分後のサンプルの曲率Cが20を超えなかった。
(ii)塗布して1日後のサンプルの曲率Cが20を超えなかった。
(iii)塗布して7日後のサンプルの曲率Cが20を超えなかった。
【0169】
〜評価基準〜
◎:(i)〜(iii)の全てが満たされていた。
○:(i)、(ii)の2項目が満たされていた。
△:(i)のみが満たされていた。
×:(i)〜(iii)の全てが満たされていなかった。
【0170】
(4)インクジェット吐出性
実施例及び比較例の顔料分散物をインクジェット記録用インクとして用いた際の吐出安定性を評価した。なお、評価環境は25℃、相対湿度50%であった。
評価装置として、ダイマティクス・マテリアル・カートリッジ DMC−11610(10pl)(富士フイルムダイマティックス社製)を搭載したダイマティクス・マテリアル・プリンター DMP−2831(富士フイルムダイマティックス社製)を用い、以下の(i)〜(iii)の評価項目について下記評価基準で評価した。結果を表2に示す。
なお、インクカートリッジは充填液体容量が100mlになるように改造した。また、記録媒体として、上記と同様に5mm×50mmに裁断したサンプル(特菱アートN(三菱製紙(株)製、84.9g/m)を使用した。
【0171】
〜評価項目〜
(i)画像ムラが見られないものを良好であるとした。
(ii)1分間連続吐出後、30分間アンキャップで放置した後に、再吐出した際の吐出率が90%以上(不吐出率が10%未満)を良好であるとした。
(iii)60分間連続吐出後の吐出率が90%以上(不吐出率が10%未満)を良好であるとした。
【0172】
〜評価基準〜
◎:(i)〜(iii)の全てが満たされていた。
○:(i)、(ii)の2項目が満たされていた。
△:(i)のみが満たされていた。
×:(i)〜(iii)の全てが満たされていなかった。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】

【0175】
上記表2から明らかなとおり、本発明の水性顔料分散物は、分散物から有機溶媒を除去する特別な工程を設けることなく、顔料分散物の粒子径が微細で、分散安定性も良好であった。また、画像記録物のカールがよく抑制され、インクの吐出性も良好であった。
比較例E−1及びE−2は、顔料分散物の粒子径及び分散安定性は良好であるが、転相工程を設けたので作業性、経済性の面で劣った。
比較例E−3〜E−8の中には、顔料分散物の粒子径、分散安定性、カール抑制、インク吐出性のすべてを同時に満足させるものはなかった。特に分散安定性については、分散不能なE−5のほかのE−3、E−4、E−6、E−7、E−8のすべてが劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を8質量%以上65質量%以下含有し、かつ、イオン性基を有する構造単位を2質量%以上20質量%以下含有する水不溶性ポリマーを、水溶性有機溶媒を含む溶媒中で合成する工程と、
前記水不溶性ポリマーと前記水溶性有機溶媒とを含む溶液に少なくとも顔料と水とを混合する工程と、
を有する水性顔料分散物の製造方法。
【化1】


[式中、Rは水素原子またはメチル基を表す。Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−(Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。−は主鎖に連結する結合手を表す。)、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。Lは、単結合、または下記の連結基群から選ばれる1種もしくは2種以上を組み合わせてなる2価の連結基を表す。Arは芳香環を含む基を表す。
(連結基群)
炭素数1〜12のアルキレン基、炭素数2〜12のアルケニレン基、−CO−、−NR−(Rは水素原子または炭素数が1〜6のアルキル基)、−O−、−S−、−SO−、−SO−]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるLは、−COO−(−は主鎖に連結する結合手を表す。)、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることを特徴とする請求項1に記載の水性顔料分散物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるArは、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、トリフェニルメタン、フタルイミド、ナフタルイミド、アクリドン、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、ジフェニルメタン、またはカルバゾールから誘導される1価の基であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性顔料分散物の製造方法。
【請求項4】
前記イオン性基を有する構造単位は、アニオン性基を有する構造単位であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水性顔料分散物の製造方法。
【請求項5】
前記イオン性基を有する構造単位は、カルボキシル基を有する構造単位であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水性顔料分散物の製造方法。
【請求項6】
前記水不溶性ポリマーに含有される芳香環が10質量%以上20質量%未満であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水性顔料分散物の製造方法。
【請求項7】
前記水不溶性ポリマーが、更に(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する疎水性構造単位を含むことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水性顔料分散物の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性有機溶媒は、下記一般式(2)で表される構造を有し、SP値が27.5以下であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の水性顔料分散物の製造方法。
R−(A)−OH ・・・一般式(2)
[式中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数3〜12の糖アルコールに由来する基を表す。Aはエチレンオキシ基およびプロピレンオキシ基から選ばれる少なくとも1種を表す。nは1〜20の整数を表す。]
【請求項9】
前記顔料は、有機顔料またはカーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の水性顔料分散物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の水性顔料分散物の製造方法により作製された水性顔料分散物を含むインクジェット記録用水性顔料インク。

【公開番号】特開2010−209252(P2010−209252A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58380(P2009−58380)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】