説明

水性/有機金属酸化物分散液ならびに該分散液で被覆されたウェブおよび該分散液で製造された成形品

15質量%を上廻る金属酸化物含量を有する結合剤不含の金属酸化物分散液であって、この分散液中の金属酸化物粉末が200nm未満の数平均凝集体直径を有し、この分散液が液相として水と水混和性有機溶剤との混合物を有する、結合剤不含の金属酸化物分散液。金属酸化物分散液で被覆されたコーテッドウェブおよび金属酸化物分散液で製造された成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粉末、水および水混和性有機溶剤を含有する金属酸化物分散液ならびに該分散液で被覆されたウェブおよび該分散液で製造された成形品に関する。
【0002】
金属酸化物層、殊に二酸化珪素層をゾルーゲル法によって形成させることは、公知である。前記方法において、シリコンアルコキシドは、触媒の存在で水を添加することによって部分的または完全に加水分解されている。前記方法で得られたゾルは、例えば浸漬塗布法または回転塗布法によって塗布のために使用される。ゾルの製造法は、複雑である。一般に、この方法は、金属アルコキシドを加水分解し、その後にゲル化工程を、ゾルの化学組成に応じて数秒ないし数日間継続させることによるゾルの製造を含む。ゲル化が急速に進行しすぎない場合には、1つの層をゾルからウェブ上に塗布することができる。この方法で形成された層は、一般にせいぜい数百ナノメートルの薄さである。
【0003】
厚手の層を形成すべき場合には、塗布作業を繰り返すことが必要とされる。この方法で形成された層は、その後の乾燥時および焼結時にしばしば亀裂傾向を有し、不規則な層厚を生じる。金属アルコラートの加水分解によって得られたかかるゾルが複雑な"リビング"系であり、この系の挙動が極めて温度、湿分、アルコール含量および他のパラメーターに依存し、制御および再現が困難であることが述べられている。
【0004】
WO 00/14013には、極めて微細に分配され、熱分解法で製造された二酸化珪素粉末を上記の記載と同様にして得られたゾルに添加する方法が記載されている。
【0005】
この方法において、ゾルの充填剤含量は、増加させることができ、数マイクロメートルの層厚は、1回の塗布作業で形成させることができる。この方法の問題のある特徴は、微粒状の熱分解法で製造された二酸化珪素粉末の配合にある。
【0006】
熱分解法で製造された金属酸化物粉末は、一般に金属酸化物前駆体から爆鳴気火炎中での炎内加水分解または炎内酸化によって得られる金属酸化物粉末を意味するものと理解される。この方法において、ほぼ球状の一次粒子は、最初に得られ、この一次粒子は、一緒に焼結され、反応の経過中に凝集体を形成する。更に、凝集体は、結合されてよく、凝塊を形成する。一般にエネルギーの投入によって直ちに凝集体に破壊されうる凝塊とは異なり、凝集体は、そうであったとしても、エネルギーの強力な投入によってのみ破壊されうる。
【0007】
更に、このように熱分解法で製造された金属酸化物粉末が攪拌機のエネルギーによりゾル中に導入される場合には、急激なゲル化の危険が存在する。更に、不均一な層を生じうるゾル中で導入される粉末を均一に分散させることは、困難である。
【0008】
更に、結合剤の添加によって分散液の塗布を改善することは、従来技術である。この場合の欠点は、一般に焼結工程で結合剤の完全な除去を達成させることは、困難であることである。結果として、変色および亀裂が生じうる。
【0009】
本発明の目的は、層の塗布のために適当であり、従来技術の欠点を回避させる分散液を提供することである。殊に、この分散液は、厚手の亀裂のないガラス層またはセラミック層の製造に適しているはずである。また、前記分散液は、亀裂も不均一性も示さない成形品の製造に適しているはずである。
【0010】
ところで、この目的は、15質量%を上廻る金属酸化物含量を有する結合剤不含の金属酸化物分散液によって達成され、この場合この分散液中の金属酸化物粉末は、200nm未満の数に関連した凝集体の平均直径を有し、この分散液は、液相として水と水混和性有機溶剤との混合物を有することが見い出された。
【0011】
高品質の層および成形品を得るために、分散液中の金属酸化物粒子の数に関連した凝集体の平均直径は、200nm未満であることが必要とされる。よりいっそう粗大な凝集体は、非均一性の塗膜および亀裂を塗膜中に生じる。分散液中の金属酸化物粉末は、有利に100nm未満の数に関連した凝集体の平均直径を示す。このような小さな寸法の粒子を有する分散液は、特殊な分散法によって製造されうる。適当な分散装置は、例えば回転子−固定子混合装置または遊星型混練機であることができ、この場合高いエネルギーのミルは、100nm未満の凝集体直径にとって特に好ましい。前記装置において、分散液の2つの加圧され前分散された流れは、ノズルによって減圧される。2つの分散液の噴流は、互いに正確に衝突し、粒子は、互いに粉砕される。他の実施態様において、前分散液は同様に高圧下に置かれるが、しかしながら粒子は壁周囲部分と衝突する。この作業は、望ましい場合には、しばしば繰り返すことができ、よりいっそう小さな粒径を得ることができる。
【0012】
この場合、本発明による分散液は、最初に有利に高エネルギーミルを用いて水中の金属酸化物分散液を製造し、次にこの金属酸化物分散液に、例えば攪拌による低レベルのエネルギーの投入で有機溶剤を添加することによって得ることができる。最初に水および有機溶剤を望ましい比で最初から導入し、金属酸化物粉末を高エネルギーミルにより微粉砕することも可能である。
【0013】
1つの好ましい実施態様において、本発明による分散液中の金属酸化物粉末の含量は、分散液の全量に対して10〜50質量%であってもよい。
【0014】
使用される金属酸化物粉末の由来は、本発明による方法にとって重要ではない。しかし、熱分解法で製造された金属酸化物粉末は、有利に使用されてよいことが見い出された。四塩化珪素の炎内加水分解による二酸化珪素の製造は、実施例により記載されていてよい。混合酸化物は、炎内加水分解または炎内酸化の組合せによって熱分解法で得られてもよい。
【0015】
SiO2、Al23、TiO2、CeO2、ZrO2、In23、SnOまたは記載した金属の混合酸化物は、特に好ましい。この場合、混合酸化物は、ドープされた混合酸化物、例えば銀でドープされた二酸化珪素をも有する。
【0016】
熱分解法金属酸化物粉末は、有利に30〜200m2/gのBET表面積を示す。
【0017】
本発明による分散液中の有機溶剤の選択は、重要ではなく、この場合この有機溶剤は、水混和性である。本発明による分散液は、好ましくはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、グリコール、第三ブタノール、2−プロパノン、2−ブタノン、ジエチルエーテル、第三ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランおよび/または酢酸エチルを含有することができる。
【0018】
本発明による分散液中の有機溶剤と水との比は、主に分散液中の金属酸化物およびその望ましい含量によって定められる。0.5〜5の有機溶剤と水との体積比は、高められた品質の被膜および成形品を生じることが見い出された。
【0019】
更に、本発明による分散液は、酸の作用を有する物質、塩基の作用を有する物質および/または塩を、それぞれ溶解された形で含有することができる。
【0020】
特に好ましい分散液は、次の特徴を示す分散液である:
金属酸化物粉末が40〜120m2/gのBET表面積を有する熱分解法により製造された二酸化チタンであり、
全分散液に対する二酸化チタンの含量が少なくとも15質量%であり、
分散液中の数平均凝集体直径が100nm未満であり、
有機溶剤がエタノールであり、
エタノールと水との体積比が0.5〜2.5であり、かつ
pH値が2.5〜9である。
【0021】
更に、本発明は、本発明による分散液で被覆されたウェブを提供する。
【0022】
コーテッドウェブの製造方法は、浸漬塗布、刷毛塗り、吹付け塗りまたはナイフ塗布、その後のウェブに付着している層の乾燥およびさらに焼結によるウェブ上への分散液の適用を有する。
【0023】
適当なウェブは、金属または合金ウェブ、極めて低い熱膨張係数を有する材料(超低膨張材料(ultra-low expansion materials))、硼珪酸ガラス、シリカガラス、ガラスセラミックまたはシリコンウェーハであることができる。
【0024】
更に、本発明は、本発明による分散液で製造された成形品を提供する。
【0025】
前記の成形品の製造法は、本発明による分散液を有利に疎水性材料の金型中に注入し、次に100℃未満の温度で乾燥させ、場合によっては金型からの取出し後に60℃〜120℃の温度で後乾燥させ、その後に焼結させることよりなる。
【0026】
実施例
出発分散液D−90−0:約90m2/gのBET表面積、87nmの(数)平均凝集体直径および7.2のpH値を有する、熱分解法により製造された二酸化チタン粉末の水中での30質量%分散液。
【0027】
出発分散液D−50−0:約50m2/gのBET表面積、69nmの(数)平均凝集体直径および6.2のpH値を有する、熱分解法により製造された二酸化チタン粉末の水中での40質量%分散液。
【0028】
分散液D−90−1(比較):水100mlは、分散液D−90−0 150ml中に攪拌混入される。
【0029】
分散液D−50−1(比較):水100mlは、分散液D−50−0 150ml中に攪拌混入される。
【0030】
分散液D−90−2(本発明による):エタノール100mlは、分散液D−90−0 150ml中に攪拌混入される。
【0031】
分散液D−50−2(本発明による):エタノール100mlは、分散液D−90−0 150ml中に攪拌混入される。
【0032】
水またはエタノールで希釈された試料中の数平均凝集体直径は、出発分散液からの値と同一である。
【0033】
ガラスウェブは、水またはエタノールで希釈された分散液で浸漬塗布され、次に100℃未満の温度で乾燥され、その後に約500℃の温度で熱処理される。
【0034】
亀裂、表面均一性および層厚に関連する層の品質は、光学顕微鏡法および走査電子顕微鏡法(SEM)によって分析された。
【0035】
これは、出発分散液で形成された層が単に乾燥後に部分的に剥離したことを明らかにした。水で希釈された分散液は、実際に亀裂のない層を生じたが、層厚は、不均一であった(勾配を有していた)。これとは異なり、エタノールで希釈された分散液から形成された層は、亀裂のない、均一な厚さの層を生じた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】均一な層厚を有する分散液D−90−2で被覆されたガラスの金属組織を示すSEM顕微鏡写真図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15質量%を上廻る金属酸化物含量を有する結合剤不含の金属酸化物分散液において、この分散液中の金属酸化物粉末が200nm未満の数平均凝集体直径を有し、この分散液が液相として水と水混和性有機溶剤との混合物を有することを特徴とする、結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項2】
平均二次粒径が100nm未満である、請求項1記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項3】
金属酸化物粉末の含量が10〜50質量%である、請求項1または2記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項4】
金属酸化物粉末が熱分解法により製造されている、請求項1から3までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項5】
熱分解法により製造された金属酸化物粉末がSiO2、Al23、TiO2、CeO2、ZrO2、In23、SnO、SbOまたは記載した金属の混合酸化物である、請求項4記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項6】
熱分解法により製造された金属酸化物粉末が30〜200m2/gのBET表面積を示す、請求項4または5記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項7】
有機溶剤がメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、グリコール、第三ブタノール、2−プロパノン、2−ブタノン、ジエチルエーテル、第三ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランおよび/または酢酸エチルである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項8】
有機溶剤と水との体積比が0.5〜5である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項9】
結合剤不含の金属酸化物分散液が酸の作用を有する物質、塩基の作用を有する物質および/または塩を含有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項10】
金属酸化物粉末が40〜120m2/gのBET表面積を有する熱分解法により製造された二酸化チタンであり、
全分散液に対する二酸化チタンの含量が少なくとも15質量%であり、
分散液中の平均二次粒径が100nm未満であり、
有機溶剤がエタノールであり、
エタノールと水との体積比が0.5〜2.5であり、かつ
pH値が2.5〜9である、請求項1記載の結合剤不含の金属酸化物分散液。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液で被覆されたコーテッドウェブ。
【請求項12】
請求項11記載のコーテッドウェブの製造方法において、請求項1から10までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液を浸漬塗布、刷毛塗り、吹付け塗りまたはナイフ塗布によりウェブ上に塗布し、引続きウェブに付着している層を乾燥させ、その後に焼結させることを特徴とする、請求項11記載のコーテッドウェブの製造方法。
【請求項13】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液で製造された成形品。
【請求項14】
請求項13記載の成形品の製造法において、請求項1から10までのいずれか1項に記載の結合剤不含の金属酸化物分散液を有利に疎水性材料の金型中に注入し、次に100℃未満の温度で乾燥させ、場合によっては金型からの取出し後に60℃〜120℃の温度で後乾燥させ、その後に焼結させることを特徴とする、請求項13記載の成形品の製造法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−503430(P2008−503430A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517131(P2007−517131)
【出願日】平成17年6月11日(2005.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006275
【国際公開番号】WO2005/123980
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】