説明

水晶マイクロバランス腐食センサ、腐食センサシステム及び腐食ガス測定方法

【課題】 水晶マイクロバランス腐食センサ、腐食センサシステム及び腐食ガス測定方法に関し、腐食ガスを長時間継続して測定・監視する。
【解決手段】 水晶円盤と、前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶マイクロバランス腐食センサ、腐食センサシステム及び腐食ガス測定方法、例えば、長時間連続測定が可能な水晶マイクロバランス腐食センサ、腐食センサシステム及び腐食ガス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素等の腐食性ガスは生活環境中の大気に含まれており、このような腐食性ガスはたとえ低濃度であっても電子機器の劣化を促進するなどの悪影響を及ぼすことが良く知られている。このため、電子機器の設置環境では雰囲気中に含まれる腐食性ガスの影響を常に監視する必要がある。
【0003】
従来、このような生活環境中の腐蝕性ガスの監視のために、水晶マイクロバランス(QCM;Quarts Crystal Microbalance)腐食センサが用いられている。
【0004】
このQCM腐食センサの構造は通常のQCMセンサと同様であるが、注目する腐食ガスによって腐食する金属を電極材料として使用するものであり、水晶円盤(ATカット)を2枚のセンサ電極で挟んだ構造である。
【0005】
このQCM腐食センサを腐食性ガス中に設置すると、センサ電極表面が腐食し、この腐食膜厚の厚さに対応してセンサ共振周波数は減少していく。この減少量(率)を時間的にモニタリングすることによって、QCM腐食センサを設置している環境の腐食する程度をリアルタイムで認識することができる。
【0006】
一般に、腐食環境測定では、短くて1週間、普通数ヶ月連続で長時間測定を行い、その期間中の腐食量をモニタリングすることによって環境を監視する。腐食性ガスの発生源は主に製紙工場、ゴム工場、ごみ処理場等であるが、これ以外に生活環境周辺の物が発生源となっていることもある。
【0007】
これら発生源の状況によって周辺に多くの腐食性ガスが放出されることがあり、腐食性ガス濃度は短時間で大きく変化する。このため、腐食性ガスを監視するためには、長時間測定だけでなく連続的測定をすることも重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−222581号公報
【特許文献2】特開平07−113740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したように、QCM腐食センサではセンサ電極自体が腐食反応箇所となる。そのため、腐食環境中に曝露し続ければ腐食が進行して電極が損傷し、やがてQCM腐食センサは動作不能となるという問題がある。
【0010】
図13は、QCM腐食センサの動作特性の説明図であり、図13(a)に示すように、時間の経過とともに腐食が進行して周波数変化が徐々に増大(周波数としては減少)し、ついには測定不能に陥る。図13(b)は、測定初期におけるQCM腐食センサの概念的構成図であり、図13(c)は測定不能に陥ったQCM腐食センサの概念的構成図である。図13(c)に示すように、センサ電極の表面に激しい腐食が見られる。
【0011】
QCM腐食センサを使用できる時間(寿命)は腐食性ガスの種類や腐食性ガス濃度にもよるが、使用しているセンサが1つであれば、このセンサが動作不能となった時点で測定は終了することになる。
【0012】
環境雰囲気中の腐食性ガスの長時間測定は、QCM腐食センサが使用不能になるたびにQCM腐食センサを次々に交換すれば可能である。上述したように環境中の腐食性ガスモニタリングには、連続的に測定することも重要である。つまり、センサが不能となってから新しいセンサに取り替えて再びセンシングを開始するまでの時間をいかに短くするかが重要となる。
【0013】
しかし、そのために測定期間中、常に人がセンサの動作を監視し続けるというのは現実的ではない。また、環境中の腐食性ガスの濃度は測定場所によって大きく異なるうえに、時間によっても大きく変化するため、センサ状況を予測して交換時期を予め設定することは困難である。これらのことから、QCM腐食センサで腐食ガスを長時間継続して測定・監視するのは困難であった。
【0014】
したがって、本発明は、腐食ガスを長時間継続して測定・監視することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
開示する一観点からは、水晶円盤と、前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極とを備えたことを特徴とする水晶マイクロバランス腐食センサが提供される。
【0016】
また、開示する別の観点からは、上記の水晶マイクロバランス腐食センサを複数個、筐体内に互いに隔壁を介して収容し、測定用の前記水晶マイクロバランス腐食センサを測定雰囲気中に晒すと共に、待機用の前記水晶マイクロバランス腐食センサ或いは測定完了した前記水晶マイクロバランス腐食センサを測定雰囲気から隔離するシャッター部材を備え、前記劣化測定用電極からの測定信号により前記シャッター部材を開閉する開閉機構と、前記シャッター部材の開閉に伴って、前記測定用の前記水晶マイクロバランス腐食センサから前記待機用の水晶マイクロバランス腐食センサに切り替える切替機構とを有していることを特徴とする腐食センサシステムが提供される。
【0017】
また、開示するさらに別の観点からは、水晶円盤と、前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極とを備えたことを特徴とする水晶マイクロバランス腐食センサの前記劣化測定用電極からの出力により腐食状態のモニタリングを行うことを特徴とする腐食ガス測定方法が提供される。
【0018】
また、開示するさらに別の観点からは、水晶円盤と、前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極とを備えた水晶マイクロバランス腐食センサを複数個、筐体内に隔壁を介して配置し、測定している前記水晶マイクロバランス腐食センサの前記劣化測定用電極からの出力と、予め定めたセンサ交換指標抵抗値を比較して待機している前記水晶マイクロバランス腐食センサに切り替えることを特徴とする腐食ガス測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
開示の水晶マイクロバランス腐食センサ、腐食センサシステム及び腐食ガス測定方法によれば、腐食ガスを長時間継続して測定・監視することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態のQCM腐食センサの概略的構成図である。
【図2】本発明の実施の形態のQCM腐食センサのセンサ交換時期の説明図である。
【図3】共振周波数の経時変化の一例である。
【図4】本発明の実施例1のQCM腐食センサ素子の構成説明図である。
【図5】本発明の実施例1のQCM腐食センサの装置構成図である。
【図6】本発明の実施例2の腐食センサシステムの概念的システム構成図である。
【図7】センサセル部分の開閉状態の説明図である。
【図8】QCM腐食センサ素子の切り替えと、周波数変化、抵抗変化、ステップモータ電流の相関の説明図である。
【図9】本発明の実施例3の腐食センサシステムの動作の説明図である。
【図10】本発明の実施例4を適用する腐食状態の説明図である。
【図11】本発明の実施例4の腐食センサシステムの途中までの動作の説明図である。
【図12】本発明の実施例4の腐食センサシステムの図11以降の動作の説明図である。
【図13】QCM腐食センサの動作特性の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、図1乃至図3を参照して、本発明の実施の形態のQCM腐食センサを説明する。図1は、本発明の実施の形態のQCM腐食センサの概略的構成図であり、水晶円盤1、水晶円盤1の両主面に設けた一対のセンサ電極2,2、センサ電極2,2に接続する電極引出部3,3を設けてQCM腐食センサ本体部とする。
【0022】
本発明はさらにセンサ電極2,2に対して半径方向に0.5mm〜1.0mmだけ離間した位置に、センサ電極2,2と同じ材料からなり、センサ電極2,2に対して同心円状の弧状電極からなる劣化測定用電極4,4を設ける。
【0023】
この劣化測定用電極4,4には、電極引出部5,5が設けられている。なお、重量的なバランスをとるために表裏に設けているが、一方は測定用に用いる必要はない。電極引出部3,3及び電極引出部5,5は、テフロン(登録商標)等の絶縁体8を挟んで一体化されたバネ支持体となる端子6,6及び端子7,7にそれぞれ接続される。これは、センサの振動支持部分が左右で2か所ずつになると振動モードに影響を与えるためである。
【0024】
なお、水晶円盤1としては、通常は、厚みすべり振動で振動するATカットの水晶円盤を用い、センサ電極2,2としては腐食ガスに対する腐食反応に優れた導電体であれば何でも良いが、典型的にはAg或いはCuを用いる。
【0025】
腐食ガスの測定に際しては、QCM腐食センサ本体部で腐食性ガス環境を測定するのと同時に、劣化測定用電極4の抵抗を測定する。この抵抗値を監視することによってセンサ電極の劣化度をリアルタイムで確認し、それによって抵抗値をセンサ交換時期の指標として用いて、QCM腐食センサを交換するタイミングを計る。
【0026】
図2は、本発明の実施の形態のQCM腐食センサのセンサ交換時期の説明図である。図に示すように、QCMセンサの周波数変化は、時間の経過とともに変化する。即ち、腐食環境にQCM腐食センサを曝露すると、センサ電極が腐食して、腐食の進行によってセンサ電極の質量が増加する。それに伴って、共振周波数が減少する。ただし、図2では測定開始時の共振周波数を基準(=0Hz)とし、減少量を縦軸にして示している
【0027】
さらに、腐食環境の測定を継続的に行うとセンサ電極の腐食が進行し、電極が損傷する。センサ電極の損傷がある程度以上進んだとき、QCM腐食センサの表裏でセンサ電極が対向している円形部分に十分な電流を供給できなくなり、QCM腐食センサはセンシング不能となる。
【0028】
劣化測定用電極の抵抗値は腐食の進行に伴って増加する。そこで、QCM腐食センサを交換する時期の指標とする抵抗値(センサ交換指標抵抗値:Rref)を予め設定しておき、Rrefよりも大きくなったときアラームなどで知らせるようにしておき、QCM腐食センサを交換する。
【0029】
センサ交換指標抵抗値Rrefの設定手順は以下である。測定に使用するQCM腐食センサと同じ仕様のセンサ、即ち、同じ構造、材料、製造工程で製造されたセンサでさらに同じランバードから切り出された水晶円盤を用いているQCMセンサを準備する。
【0030】
このQCMセンサを腐食ガスに曝露していない状況で劣化測定用電極の抵抗値を確認してこれを初期抵抗値とする。次に適当な濃度の腐食性ガス雰囲気中にQCMセンサを挿入して共振周波数と劣化測定用電極の抵抗値を測定する。抵抗測定部は劣化測定用電極の抵抗変化を測定できるものであれば何でも良いが、例えば、ホイートストンブリッジ回路を用いる。
【0031】
図3は、共振周波数の経時変化の一例であり、測定時間に応じて共振周波数は減少して(周波数変化としては増加して)いくが、ある時間から図3(a)に示すように急激な低下や図3(b)に示すように細かく増加と減少を繰り返す不規則な変化を示す。共振周波数経時変化がこのように変化しはじめた時点での劣化測定用電極の抵抗値がセンサ交換指標抵抗値となる。以上の構成装置で測定を行うことによって、センサ故障を事前に認識することができ、故障前にセンサを交換することで長時間センシングが可能となる。
【0032】
このようなQCM腐食センサを用いて長時間連続センシングを行うためには、複数のQCM腐食センサを筐体内に互いに隔壁を介して収容する。稼働しているQCM腐食センサを測定雰囲気中に晒すと共に、待機状態のQCM腐食センサや測定を完了したQCM腐食センサを測定雰囲気から隔離するように、シャッター部材を設け、劣化測定用電極の抵抗値がセンサ交換指標抵抗値となった時点で、稼働しているQCM腐食センサから待機状態のQCM腐食センサに切り替える。
【0033】
この時、各QCM腐食センサに接続している共振周波数測定部と劣化測定部は常時ONにしても良いが、モニタリングしている部分のみONとすると消費電力を節約できる。また、劣化測定用電極の抵抗値Rdegとセンサ交換指標抵抗値Rrefの比が0.8程度になった時点で、次のQCM腐食センサの発振回路及び周波数カウンタを筐体の蓋を閉じたままで始動して待機させておいても良い。
【0034】
この待機動作期間中の共振周波数を計測して、基本共振周波数と大きく異なる場合や、不安定な場合にはこのQCM腐食センサを故障センサと認識して、センシングには使用せず、さらに次のQCM腐食センサを待機動作させる。待機動作で意図した周波数で安定的に共振することが認識できれば、このQCM腐食センサは稼働センサとする。
【0035】
また、使用するセンサ電極の種類によるが、センサ電極が腐食のメカニズムが初期とある程度時間が経過した後では異なり、初期とその後では腐食性ガス濃度と腐食膜厚の増加の対応が違ってしまう場合がある。このような場合は、センサセルの蓋を一つづつ開けて順番にセンシングするような方法では、次のQCM腐食センサに切り替えると急激に腐食膜が増加して前のQCM腐食センサの終了直前の腐食と整合しなくなってしまう。
【0036】
そこで、センサセルの蓋を2つ同時に開けている期間を設ける必要がある。次のQCM腐食センサの待機動作のあとにセンサセルを開けてQCM腐食センサを曝露してセンサ電極の腐食膜厚が比較的緩やかな増加をする領域に到達するまでプレセンシングを行う。実際には腐食初期の急激に腐食膜厚が増加するのは2時間程度であるので、次のQCMセンサは5時間程度のプレセンシングの後、使用可能となる。
【0037】
次のQCM腐食センサのプレセンシングのタイミングは前のQCM腐食センサのセンシング中であればいつでも良い。但し、前のQCM腐食センサのセンシングを開始するのと同時に次のQCM腐食センサのプレセンシングを行い、プレセンシングが終了したときには、センサセルの蓋を閉じて待機動作しているのが最も確実で簡単である。
【0038】
このように、本発明の実施の形態においては、劣化測定用電極をセンサ電極の近傍に設けているので、センサ電極の劣化状態をリアルタイムに監視することができ、それによって長時間の確実なセンシングが可能になる。
【実施例1】
【0039】
次に、図4及び図5を参照して、本発明の実施例1のQCM腐食センサを説明する。図4は、本発明の実施例1のQCM腐食センサ素子の構成説明図である。QCM腐食センサ素子本体部は直径が例えば、8mmでATカットの水晶円盤21と、水晶円盤21の両主面に設けた直径が例えば、5mmで厚さが0.1μmのAg膜からなる一対のセンサ電極22,22を備えている。また、センサ電極22,22に接続するAg膜からなる電極引出部23,23、電極引出部23,23に半田で固定されたAuからなる端子24,24を備えている。なお、水晶円盤21の厚さtは、10MHzの基本周波数で発振させるために、0.167mmとする。
【0040】
また、センサ電極22,22に対して半径方向に0.5mm離れた位置に、幅が電極引出部の幅と同じ、例えば、1.0mmで厚さが0.1μmのAg膜からなる劣化測定用電極25,25を設け、一方の劣化測定用電極25を測定用にモニタリング用として用いる。また、劣化測定用電極25,25に接続するAg膜からなる電極引出部26,26,26,26、電極引出部26,26に半田で固定されたAuからなる端子27,27を備えている。
【0041】
端子24,24と端子27,27とは厚さが0.05mmのテフロン(登録商標)からなる絶縁膜を挟んでバネ支持体28として一体化されている。また、測定端側ではそれぞれ分岐してガラスハーメチックシールで金属ベース29に植設される。
【0042】
図5は、本発明の実施例1のQCM腐食センサの装置構成図であり、QCM腐食センサ素子の発振回路接続用端子となる端子24,24は、発振回路31と周波数カウンタ32とからなる共振周波数測定部30に接続される。
【0043】
一方、QCM腐食センサ素子の劣化測定回路接続端子となる端子27,27はホイートストンブリッジ回路41、直流電源42、電圧計43からなる抵抗測定部40に接続され、劣化測定用電極25の抵抗変化をモニタリングする。
【0044】
ホイートストンブリッジ回路41はブリッジ抵抗をR〜RとしてRと直列にQCM腐食センサ素子を接続している。R=R=R=R=Rとすれば、劣化測定用電極25の抵抗Rdegは、Vを直流電源42の電圧、Eを電圧計43の示す電圧とすると、
deg={4E/(V−2E)}×R
として求まる。なお、図では直流抵抗を測定しているが、電極材料のマイグレーションの発生を考慮しなくてはならない場合がある。このようなときには交流抵抗値で測定しても良い。
【0045】
この時、予め事前にセンサ交換指標抵抗値Rrefを取得しておき、劣化測定用電極25の抵抗Rdegがセンサ交換指標抵抗値Rrefを超えた時点でアラームを発して、QCM腐食センサ素子を交換する。
【0046】
このように、本発明の実施例1においては、センサ電極の近傍に劣化測定用電極を設けているので、センサが故障して測定不能となる前に劣化を検知して交換しているので、長時間の安定した測定が可能になる。
【実施例2】
【0047】
次に、図6乃至図8を参照して、本発明の実施例2の腐食センサシステムを説明する。図6は、本発明の実施例2の腐食センサシステムの概念的システム構成図であり、左側の図は腐食センサシステムの構成説明図であり、断面図と上面図で示している。また、右側の図は、各QCM腐食センサの接続状態を示した図である。
【0048】
左側の図に示すように、腐食センサシステムは、隔壁51で仕切られた筐体50に設けられた4つのセル室52にそれぞれQCM腐食センサ素子20〜20が収容されている。筐体50の上部には、センシング中のQCM腐食センサ素子20以外のQCM腐食センサ素子を測定雰囲気中に晒さないように90°の開口部54を有する蓋53が設けられており、この蓋53は筐体50の底部に設けられたステップモータ55によって駆動される。
【0049】
右側の図に示すように、各QCM腐食センサ素子20〜20には、発振回路31〜31、周波数カウンタ32〜32、抵抗測定部40〜40が接続されており、切り替えスイッチ56により順次切り替えて連続して測定を行う。なお、ステップモータ55、発振回路31〜31、周波数カウンタ32〜32、抵抗測定部40〜40はPC(パーソナルコンピュータ)57で制御される。
【0050】
周波数カウンタ32〜32からPC57へ共振周波数のデータが送られるが、これはPC57内のメモリに記憶される。また、PC57は抵抗測定部40〜40から送られてくる劣化測定用電極の抵抗値Rdegのデータと予めPC57で設定したセンサ交換指標抵抗値Rrefとを比較する。
【0051】
図7は、センサセル部分の開閉状態の説明図である。図に示すように、各QCM腐食センサ素子20〜20の劣化測定用電極の抵抗Rdegがセンサ交換指標抵抗値Rrefに達するたびに、ステップモータ55で蓋53を順次90°回転させてセンシングを行うQCM腐食センサ素子20〜20を順次切り替える。
【0052】
図8は、QCM腐食センサ素子の切り替えと、周波数変化、抵抗変化、ステップモータ電流の相関の説明図である。図に示すように、劣化測定用電極の抵抗値が予め設定したセンサ交換指標抵抗値Rrefに達した時点で、ステップモータを駆動して次のQCM腐食センサ素子20に切り替える。この動作を順次繰り返すことによって、長時間連続測定を行うことが可能になる。
【実施例3】
【0053】
次に、図9を参照して、本発明の実施例3の腐食センサシステムを説明するが、この実施例3は、上記の実施例2における次にセンシングを行うQCM腐食センサ素子をセンシング前に待機状態にしたものである。図9は、本発明の実施例3の腐食センサシステムの動作の説明図である。図9(a)は蓋の開閉状態の説明図であり、図9(b)は次のQCM腐食センサ素子の待機状態の説明図であり、上段はセンシング中のQCM腐食センサ素子の周波数変化特性図であり、下段は待機中のQCM腐食センサ素子の周波数変化特性図である。
【0054】
図9に示すように、まず、QCM腐食センサ素子20で通常の腐食ガスのセンシングを行う。この時、次にセンシングを行うQCM腐食センサ素子20はOFF状態とする。
【0055】
次いで、センシング中のQCM腐食センサ素子20の劣化測定用電極の抵抗値Rdegがセンサ交換指標抵抗値Rrefに対して予め設定した割合、ここでは、0.8倍になった時点で、次のQCM腐食センサ素子20をONにする。なお、この待機動作期間中の共振周波数を計測して、周波数と大きく異なる場合や、不安定な場合にはこのQCM腐食センサ素子20を故障センサと認識して、センシングには使用せず、さらに次のQCM腐食センサ素子20センサを待機動作させる。
【0056】
次いで、センシング中のQCM腐食センサ素子20の劣化測定用電極の抵抗値Rdegが、センサ交換指標抵抗値Rrefと同じになったときに、待機動作しているQCM腐食センサ素子20のセンサセルの蓋53を開き、センシングを開始する。
【0057】
本発明の実施例3においては、次にセンシング予定のQCM腐食センサ素子を事前に待機動作させて予め素子特性を測定しているので、センシング中のQCM腐食センサ素子が故障した場合に、次のQCM腐食センサ素子による測定を支障なく行うことができる。
【実施例4】
【0058】
次に、図10乃至図12を参照して、本発明の実施例4の腐食センサシステムを説明するが、この実施例4は、上記の実施例2における次にセンシングを行うQCM腐食センサ素子をセンシング前にプレセンシングを行うようにしたものである。図10は、本発明の実施例4を適用する腐食状態の説明図である。
【0059】
図10に示すように、使用するセンサ電極の材料と腐蝕性ガスとの相関によるが、センサ電極の腐食のメカニズムが初期とある程度時間が経過した後では異なり、初期とその後では腐食性ガス濃度と腐食膜厚の増加の対応が違ってしまう場合がある。このような事実は事前の実験により確認すれば良く、例えば、Ag電極と硫化水素ガスの関係がこれに当たる。
【0060】
このような場合は、センサセルの蓋を一つづつ開けて順番にセンシングするような方法では、次のセンサに切り替えると急激に腐食膜が増加して前のセンサの終了直前の腐食と整合しなくなってしまう。
【0061】
そこで、センサセルの蓋を2つ同時に開けている期間を設けて、次にセンシング予定のQCM腐食センサ素子をONにしてプレセンシングを行うようにする。この動作をするにはステップモータは1個ではなく2個、蓋は半円形のものが2枚必要となる。
【0062】
図11及び図12は、本発明の実施例4の腐食センサシステムの動作の説明図である。図11(a)及び図11(a)は蓋の開閉状態の説明図であり、図11(b)及び図12(b)は次のQCM腐食センサ素子の動作の説明図であり、上段はセンシング中のQCM腐食センサ素子の周波数変化特性図であり、下段は待機中のQCM腐食センサ素子の周波数変化特性図である。
【0063】
図11に示すように、まず、QCM腐食センサ素子20で通常の腐食ガスのセンシングを行う。この時、次にセンシングを行うQCM腐食センサ素子20はOFF状態とする。
【0064】
次いで、センシング中のQCM腐食センサ素子20の劣化測定用電極の抵抗値Rdegがセンサ交換指標抵抗値Rrefに対して予め設定した割合、ここでは、0.8倍になった時点で、蓋53を閉めたまま、次のQCM腐食センサ素子20をONにする。なお、ここでも、この待機動作期間中の共振周波数を計測して、周波数と大きく異なる場合や、不安定な場合にはこのQCM腐食センサ素子20を故障センサと認識して、センシングには使用せず、さらに次のQCM腐食センサ素子20センサを待機動作させる。
【0065】
次いで、図12に示すように、センシング中のQCM腐食センサ素子20の劣化測定用電極の抵抗値Rdegから予測して故障までの時間が6時間程度と見込まれるタイミングで、QCM腐食センサ素子20の蓋53を開いてプレセンシングを開始する。実際には、腐食初期の急激に腐食膜厚が増加するのは2時間程度であるので、次のセンサは5時間程度のプレセンシングの後、使用可能となる。
【0066】
次いで、センシング中のQCM腐食センサ素子20の劣化測定用電極の抵抗値Rdegが、センサ交換指標抵抗値Rrefと同じになったときに、QCM腐食センサ素子20の蓋53を閉じて、次に待機動作しているQCM腐食センサ素子20によるセンシングを開始する。
【0067】
本発明の実施例4においては、次にセンシング予定のQCM腐食センサ素子を事前にプレセンシングを行って、初期腐食を行っているので、安定した連続長時間測定が可能になる。なお、5時間程度経過してもセンシング中のQCM腐食センサ素子20が故障しない場合には、プレセンシングを終了させてQCM腐食センサ素子20のセンサセルの蓋53を閉じて待機動作を継続させる。
【0068】
なお、上記の実施例2乃至実施例4においては、使用するQCM腐食センサ素子の数を4個としているが、2個以上であればいくつでも良く、使用する個数に合わせてセンサセルの蓋に設ける開口部の角度を調整すれば良い。また、各実施例においては、電極引出部をセンサ電極及び劣化測定用電極と同じ材料で構成しているが、電極引出部の腐食を抑えるために、Au膜で形成しても良い。
【0069】
ここで、実施例1乃至実施例4を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1)水晶円盤と、前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極とを備えたことを特徴とする水晶マイクロバランス腐食センサ。
(付記2)前記センサ電極が円盤状電極であり、前記劣化測定用電極が前記センサ電極に対して半径方向に0.5mm〜1.0mm離間して配置された同心円状の弧状電極であることを特徴とする付記1に記載の水晶マイクロバランス腐食センサ。
(付記3)前記センサ電極に接続しているバネ支持体と、前記劣化測定用電極に接続しているバネ支持体を絶縁層を挟んで対向させて一体化したことを特徴とする付記1または付記2に記載の水晶マイクロバランス腐食センサ。
(付記4)付記1乃至付記3のいずれか1に記載の水晶マイクロバランス腐食センサを複数個、筐体内に互いに隔壁を介して収容し、測定用の前記水晶マイクロバランス腐食センサを測定雰囲気中に晒すと共に、待機用の前記水晶マイクロバランス腐食センサ或いは測定完了した前記水晶マイクロバランス腐食センサを測定雰囲気から隔離するシャッター部材を備え、前記劣化測定用電極からの測定信号により前記シャッター部材を開閉する開閉機構と、前記シャッター部材の開閉に伴って、前記測定用の前記水晶マイクロバランス腐食センサから前記待機用の水晶マイクロバランス腐食センサに切り替える切替機構とを有していることを特徴とする腐食センサシステム。
(付記5)前記シャッター部材は、前記待機用の水晶マイクロバランス腐食センサがプレセンシング状態になった場合に、前記待機用の水晶マイクロバランス腐食センサを前記測定雰囲気に晒すように開閉動作を行う機構を有していることを特徴とする付記4に腐食センサシステム。
(付記6)水晶円盤と、前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極とを備えた水晶マイクロバランス腐食センサの前記劣化測定用電極からの出力により腐食状態のモニタリングを行うことを特徴とする腐食ガス測定方法。
(付記7)水晶円盤と、前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極とを備えたことを特徴とする水晶マイクロバランス腐食センサを複数個、筐体内に隔壁を介して配置し、測定している前記水晶マイクロバランス腐食センサの前記劣化測定用電極からの出力と、予め定めたセンサ交換指標抵抗値を比較して待機している前記水晶マイクロバランス腐食センサに切り替えることを特徴とする腐食ガス測定方法。
(付記8)前記待機している前記水晶マイクロバランス腐食センサに切り替える前に、前記待機している水晶マイクロバランス腐食センサを前記測定雰囲気に晒してプレセンシング期間を設けることを特徴とする付記7に記載の腐食ガス測定方法。
【符号の説明】
【0070】
1 水晶円盤
,2センサ電極
,3 電極引出部
,4 劣化測定用電極
,5電極引出部
,6,7,7 端子
8 絶縁体
20〜20 QCM腐食センサ素子
21 水晶円盤
22,22 センサ電極
23,23 電極引出部
24,24 端子
25,25 劣化測定用電極
26〜26 電極引出部
27,27 端子
28 バネ支持体
29 金属ベース
30 共振周波数測定部
31,31〜31 発振回路
32,32〜32 周波数カウンタ
40,40〜40 抵抗測定部
41 ホイートストンブリッジ回路
42 直流電源
43 電圧計
50 筐体
51 隔壁
52 セル室
53 蓋
54 開口部
55 ステップモータ
56 切り替えスイッチ
57 PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶円盤と、
前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、
前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極と
を備えたことを特徴とする水晶マイクロバランス腐食センサ。
【請求項2】
前記センサ電極が円盤状電極であり、
前記劣化測定用電極が前記センサ電極に対して半径方向に0.5mm〜1.0mm離間して配置された同心円状の弧状電極であることを特徴とする請求項1に記載の水晶マイクロバランス腐食センサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水晶マイクロバランス腐食センサを複数個、筐体内に互いに隔壁を介して収容し、
測定用の前記水晶マイクロバランス腐食センサを測定雰囲気中に晒すと共に、待機用の前記水晶マイクロバランス腐食センサ或いは測定完了した前記水晶マイクロバランス腐食センサを測定雰囲気から隔離するシャッター部材を備え、
前記劣化測定用電極からの測定信号により前記シャッター部材を開閉する開閉機構と、 前記シャッター部材の開閉に伴って、前記測定用の前記水晶マイクロバランス腐食センサから前記待機用の水晶マイクロバランス腐食センサに切り替える切替機構と
を有していることを特徴とする腐食センサシステム。
【請求項4】
水晶円盤と、
前記水晶円盤の表裏に設けたセンサ電極と、
前記水晶円盤の表裏に設けた劣化測定用電極と
を備えた水晶マイクロバランス腐食センサを複数個、筐体内に隔壁を介して配置し、測定している前記水晶マイクロバランス腐食センサの前記劣化測定用電極からの出力と、予め定めたセンサ交換指標抵抗値を比較して待機している前記水晶マイクロバランス腐食センサに切り替えることを特徴とする腐食ガス測定方法。
【請求項5】
前記待機している前記水晶マイクロバランス腐食センサに切り替える前に、前記待機している水晶マイクロバランス腐食センサを前記測定雰囲気に晒してプレセンシング期間を設けることを特徴とする請求項4に記載の腐食ガス測定方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−233715(P2012−233715A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100625(P2011−100625)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】