説明

水晶体の変化による老眼治療

【課題】老眼等を好転させる又は治療すること。
【解決手段】本発明は、ヒト水晶体の遠近調節能力を変化させる様々な還元剤の使用を介して、および/またはヒト水晶体の遠近調節能力の変化に影響するエネルギーを適用することにより、老眼になったヒト水晶体の遠近調節に作用する。本発明は、老眼の発症を予防する及びそれを治療する。水晶体の硬化を生じる水晶体線維を互いに接着させる結合の形成を切断および/または予防することにより、本発明は、水晶体および/または水晶体嚢の弾性および伸展性を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本願の発明者により2001年1月19日に出願された米国仮出願番号60/264,423の出願日の優先権を主張するものである。出願人は、背景情報に関して仮出願番号60/264,423の全体を本明細書中に援用する。
【0002】
本発明は、老眼(Presbyopia)を好転させる及び治療する方法並びに装置に関する。
【背景技術】
【0003】
老眼は、事実上44歳を越えるあらゆる人に影響する。ジョブソンの眼のデータベースによると、45以上の人々の93%が老眼である。老眼は、年とともに生じる遠近調節の幅(amplitude of accommodation)の進行性の損失を引き起こす。参照により本明細書中に援用される「Adler’s Physiology of the Eye」は、ヒトの遠近調節幅(accommodative amplitude)が年齢と共に衰えること、例えば遠近調節が50から55歳付近で実質的に機能しなくなることを開示している。遠近調節能力(米国特許番号5,459,133により定義される。この特許は、Neufeldに対するものであり、そして背景情報に関して参照によりその全体が本明細書中に援用される)は、より凸状となる水晶体の形状の変化による近視野(near vision)に対し焦点を合わせる目の能力である。
【0004】
遠近調節反応に関与する眼球組織は、水晶体、小帯(zonules)、水晶体嚢(lens capsule)、および毛様筋(ciliary muscle)を含む。これらの中で、水晶体は主要な組織である。これらの構造は、共同して機能して水晶体の形状を変化させることにより接近した対象に焦点を合わせることを可能にする。水晶体は、前部眼房および虹彩の瞳孔開口部背後の後部眼房の間の中心に吊り下がっている。水晶体は、放射状に並んだ小帯線維(zonular fibers)の隊列(array)により支持され、この線維は水晶体の側面端(lateral edges)から周囲を囲む毛様筋の内部境界部(inner border)まで達する。毛様筋は、目の強膜コート(scleral coat)に付着している。目が休止状態にある場合には、遠方に焦点が合わせられており、水晶体は幾分平坦であるか若しくは凸状の程度が低い状態である。この形状は、小帯付近の水晶体周囲に付与される張力による。小帯は、水晶体の端を毛様体(ciliary body)に向かって引っ張る。
【0005】
遠近調節の間、水晶体形状は、毛様筋(水晶体に向かって動く小帯の毛様体付着を許容し、前部小帯の張力を減少させる)の収縮を介してより凸状になる。この張力の減退は、水晶体の中央領域の凸状化を増加させ、これにより網膜上に近接する対象のイメージを結像させることができる。遠近調節のプロセスは、とりわけ水晶体、小帯、毛様体、内側直筋(medial rectus muscles)および虹彩(iris)の共同作用(coordinated effort)を必要とするプロセスであり、網膜の付近に明瞭に焦点を合わせる目の能力を発揮させる。
【0006】
いくつかの理論が提出され、年齢に伴う遠近調節の損失を明らかにしている。これらの理論には、年齢に伴う水晶体の硬化(hardening)、毛様筋の強度の損失、水晶体の発育に関連する因子、および水晶体嚢(lens capsule)の弾性の損失が含まれる。毛様筋の強度の損失に関して、年齢に関連した形態変化が認められるが、毛様筋の強度の減弱の証拠は少ないことが示されている。事実、ピロカルピン(pilocarpine)の影響下では、老眼の目においてさえも毛様筋は力強く収縮する。
【0007】
水晶体は一生を通して成長する。小帯が水晶体形状の変化に作用することを妨げる要因は、このサイズの増加であるといくつかの理論は提案している。この可能性を調査している最近の研究は、これまでは広く支持されていない。水晶体の成長の多くは、その直径ではなく、その前部 ― 後部の寸法(dimensions)において認められる。
【0008】
水晶体嚢の変化に関しては、前記嚢の弾性の減少が、老眼に寄与する実際の因子であることが仮定されている。更に、遠近調節は98%まで減少する間、水晶体嚢の弾性のヤング率は、若者から60歳にかけて50%付近まで減少する。このような事情から、老眼の主要な原因は、「水晶体硬化症(lenticular sclerosis)」または水晶体の硬化であると現在考えられている。
【0009】
白内障(cataract)は、水晶体の透明度が減少する状態である。白内障の研究は、水晶体および嚢の変化を理解するのに役立つ。通常の老年性白内障は、目から除去された際には相対的に円盤形状であり、その形状は頑丈な水晶体物質により規定される。液化性の(liquefied)過熟白内障(hypermature cataract)は抽出した際に球状(globular)であり、弾力性のある水晶体嚢により丸くされている。このことは、老眼に関連した水晶体の変化を好転させることが可能であること及び水晶体嚢がなお十分に弾力性があることの間接的な証拠である。
【0010】
現在、老眼の通常の治療には、老眼鏡(reading glasses)、2焦点眼鏡(bifocal glasses)、または単眼視野の(mono−vision)コンタクト水晶体が含まれる。これらの解決手段の全ては、付加的な欠点を有する器具(appliance)の使用を必要とするものである。
【0011】
老眼を治療する別の理論には、強膜の拡大(scleral expansion)および角膜の再形成(corneal reshaping)が含まれる。かかる技術の有効性は確立されていない。そして重要なことにこれらの技術は、以下により完全に説明されるような、通常の老化プロセスに典型的に関連する水晶体の遠近調節幅の損失において対象出願の発明者が実質的な原因と考える事象を好転させる試みを実施していない。更に、強膜の拡大および角膜の再形成は、水晶体および/または角膜の形態の巨視的変化を伴うことから、老眼を好転させることに失敗している。
【0012】
遂に、角膜の再形成の目的で多焦点屈折表面(multifocal refracting surface)を作り出すエキシマーレーザー(excimer laser)の使用が、特許番号5,395,356に開示されている。この方法は有望であるように思われるが、水晶体の老化変化を補償するために、角膜の構造変化をも必要とするものである。老眼によってもたらされた変化を戻す試みよりも、これらの技術は、むしろ眼球の別の構造を変更することにより遠近調節の機能の損失を単に補償するような技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO02/13863
【特許文献2】USP5459133
【特許文献3】USP5395356
【特許文献4】USP5874455
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
何らかの特定の理論に縛られることを望まないが、老眼が水晶体の硬化により生じ、これが構造蛋白質の改変または水晶体線維間の接着の増加によるものである可能性があることが現在信じられている。水晶体内の粘度が、水晶体内のある種の化学結合構造の形成の結果として、年と共に増加することも信じられている。このようなことから、本発明は、水晶体の粘性が減少するような水晶体の治療を介して老眼を予防し及び/又は好転させ、水晶体線維の弾性および動きを復元(restoring)し、並びに水晶体の遠近調節幅を増加させるための方法及び装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求される発明は、遠近調節のプロセスに関連する目の、最も重要なものとして水晶体および/または水晶体嚢の構成要素を構成する分子の構造および/または相互作用において根本的な変化を生じる、老眼を好転させる又は治療する方法に関する。
【0016】
一態様において、本発明は、水晶体の遠近調節幅を復元することによる老眼を好転させる新規の分子的アプローチを提供し、そして別の好適な態様において、水晶体がその復元した遠近調節幅を失う傾向にある老眼を好転させる新規の分子的アプローチを提供する。
【0017】
本発明の別態様において、老眼の発症は、水晶体の弾性および遠近調節能力を復元する定期的に適用される治療によって予防される。30代半ばから後半の(またはもっと若い)人々の目に本明細書中に記載される治療を適用することにより、老眼の発症〔目の遠近調節力(accommodative power)が2.5ジオプター未満であるような遠近調節の損失により定義される〕を回避することが可能である。本発明の一態様において、かかる治療(老眼を予防する又は好転させる目的のいずれであろうと)は、患者の生存期間に時折繰り返される。治療の頻度は、回復させる必要のある遠近調節の損失の程度、単一処置で安全に復元され得る遠近調節の度合い、および望まれる復元の度合いにより決定される。
【0018】
一態様において、本発明は、目、最も重要なものとして水晶体および水晶体嚢の構造を構成する分子のジスルフィド結合を切断することにより老眼を好転させる及び/又は治療するための方法に関し、ここでジスルフィド結合は遠近調節幅の進行性損失の実質的な因子であると信じられている結合である。別態様において、ジスルフィド結合の切断は、ジスルフィド結合の切断の際に形成されるシステイン分子の硫黄部分(sulfur moiety)の化学修飾を伴い、かかる化学修飾は硫黄部分が新規のジスルフィド結合を形成する可能性を低くする。この方法は、それ故、新規のジスルフィド結合を形成する可能性を減退することにより老眼の再発を予防する及び/又は減退する方法を含む。特に、この発明は、下記の手段によりヒト水晶体の遠近調節幅の変化に作用する発明である。その手段とは即ち:(1)ヒト水晶体の遠近調節能力に変化を生じさせる様々な還元剤を使用すること、および/または(2)ヒト水晶体の遠近調節能力の変化に影響する適用エネルギーの使用である。水晶体線維を互いにクロスリンクし、そして水晶体粘性を増加して水晶体皮質(lens cortex)及び水晶体核(lens nucleus)の硬化を生じる結合(ジスルフィドなどの)を切断することにより、本発明は、水晶体皮質、水晶体核、および/または水晶体嚢の弾性および伸展性(distensibility)を増加させると考えられる。
【0019】
老眼(またはレンズの遠近調節幅の損失)は、45歳以上の標準的な人物において、老眼鏡形式のある種の修正レンズまたは他の治療が必要な程度にまでしばしば進行している。遠近調節幅の損失は、45と比較して大変若いか又は年寄りの人物に生じる可能性があると理解され、従って、本発明は、特定の年齢の人物の老眼の治療に限定されると解釈されない。本発明は、ある程度の復元が望まれる程度にまで遠近調節幅が減少した人物において最も有用である。しかしながら、本発明は、老眼の修正に限定されるべきではなく、老眼の発症の予防にも使用し得る。
【0020】
本発明の一態様において、老眼を好転させる又は予防する方法は、少なくとも約0.5ジオプター程度の遠近調節幅の増加を生じる。本発明の別態様において、老眼を好転させる又は予防する方法は、少なくとも約2.0ジオプターの遠近調節幅の増加を生じる。
【0021】
更に別態様において、本発明の老眼を好転させる又は予防する方法は、少なくとも約5ジオプター程度の遠近調節幅の増加を生じる。本発明の別態様において、本発明の老眼を好転させる又は予防する方法は、2.5 ジオプター以上の正常な水晶体の遠近調節幅にまで水晶体の遠近調節幅を増加させ、老眼を復元させる。水晶体の遠近調節幅を正常な遠近調節幅にまで復元することは明らかに最も有益であるが、復元の程度が低い場合も有益であることが留意される。例えば、いくつかのケースでは、進行した老眼は、遠近調節幅の重篤な減退を生じ、前記幅が完全に復元する見込みはない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
水晶体の遠近調節幅は、ジオプター(D)として測定される。遠近調節能力の損失は、非常に早い年齢から始まり、例えば10歳で平均的な目は10D、30歳で5D、そして40歳でほんの2.5Dの遠近調節力を有している。老眼ではない人物の水晶体(即ち、水晶体が正常に遠近調節する)は、典型的には約2.5 ジオプター以上の遠近調節幅を有している。本明細書中に使用される「老眼を好転させる」または「老眼を治療する」という用語は、水晶体の遠近調節幅を増加することを意味する。
【0023】
記載したように、水晶体の非弾性(inelasticity)、またはその硬化(hardening)は、老眼の発症に寄与する原因であると考えられている。水晶体の硬化は、構造蛋白質の改変または水晶体線維間の接着の増加による可能性がある。加えて、水晶体粘性は年齢に伴い増加し、これは水晶体内のある種の化学結合構造の濃度の増加により生じると信じられている。一態様において、本発明は老眼の治療に関し、これは皮質水晶体線維間の分子および/または細胞の結合を改変させることによってなされ、お互いの動きを自由にするために行われる。水晶体機構の弾性の増加は、失った遠近調節の幅を復元できる。特に、適切な遠近調節を担う目の構造を構成する分子のジスルフィド結合は、水晶体硬化および付随する遠近調節幅の損失における重要な因子であると信じられている。
【0024】
従って、本発明の一態様において、治療方法は、ジスルフィド結合を切断することと、および次に新規に形成された硫黄部分を、グルタチオンなどの還元剤で、それに水素原子を与えるためにプロトン化することと、を必要とする。これらの工程は、同時に又は連続的に実施できる。何れのケースにおいても、還元剤は、ジスルフィドの再形成を排除するためにジスルフィド結合が破壊される時点で存在できる。つまり、還元剤は、別のジスルフィド結合の再形成の可能性を阻止または少なくとも減退するように、ジスルフィド結合の切断後に自由になった硫黄に部分(moiety)を導入および結合できる。還元剤は、自由になった硫黄に水素原子を導入し得るが〔このようにしてスルフヒドリル基(−SH)を形成する〕、生じた−SH基は再度酸化され新規のジスルフィド結合を形成する可能性がある。従って、低級アルキル、メチル化化合物(methylating compounds)、または他の薬剤などの新規のジスルフィド結合を形成する傾向を減退する基を、自由になった硫黄部分に導入することは有用である。この方法により、老眼の再発を実質的に予防することができる。
【0025】
記載したように、ジスルフィド結合は、水晶体線維間で、水晶体蛋白質間で、および水晶体線維の中および上において水晶体蛋白質と様々なチオールとの間で、形成されると信じられている。これらは、結合してお互いの動きを容易にする水晶体線維の能力および適切に遠近調節させる水晶体の能力を実質的に減退させる。何らかの特定の理論に縛られることを望まないが、前記結合は光エネルギーを吸収する様式で形成される。この光エネルギーは水晶体蛋白質を酸化してスルフヒドリル結合を生じ、2つの近接する−SH基から水素原子を除去し、そして水とジスルフィド結合を作出する。ジスルフィド結合の還元は、グルタチオンなどの水素供与体または他の分子を必要とする。他の実施可能な事項には、蛋白質−S−S−グルタチオンまたは蛋白質−S−S−システインなどを形成する蛋白質 ― チオール 混合 ジスルフィド結合が含まれる。それ故、グルタチオンは、解決策の一部であり且つ問題の一部であり得る。それ故、如何なる治療計画(treatment regimen)におけるグルタチオンの使用も、望ましくない結合形成の増加の可能性を考慮して慎重に観察しなければならない。
【0026】
水晶体の全体的な屈折力(refractive power)は、曲率(curvature)および屈折率(index of refraction)に基づいて予想される値よりも大きい。記載したように、毛様筋の収縮は、毛様体に水晶体の前方(forward)および赤道部に向かった動きを生じさせる。これにより水晶体嚢上で小帯の張力を弛緩させ、この状態をとることによって中心の水晶体がより球状の形状を取り得る。遠近調節の間、大きな変化が前部 水晶体表面のより中心の曲率半径において生じ、それは非遠近調節性(unaccommodative)の状態において12mmであり、遠近調節の間に中心部で3mmになり得る。前部末端部(the peripheral anterior)および後部の水晶体表面(the posterior lens surfaces)は、遠近調節の間に非常に低い曲率で変化する。軸の厚さは、直径が減少する間に増加する。中心前部水晶体嚢(central anterior lens capsule)は、前部嚢の残りの部分よりも薄い。このことから、なぜ水晶体が遠近調節の間により中心部で膨張するかを説明し得る。前記嚢の最も薄い部分は後部嚢であり、これは非遠近調節状態における前部嚢よりも大きい曲率を有している。水晶体の蛋白質含有量(重量で大体33%)は、身体の他の如何なる器官よりも高い。水晶体内には、特に興味深い多くの化学物質が存在する。例えば、グルタチオンは、水晶体皮質に高濃度で存在することが認められている〔水溶液(the aqueous)では非常に少量ではあるが〕。従って、水晶体は、グルタチオンに高い親和性を有し且つグルタチオンを活発に吸収、輸送および合成する。水晶体内グルタチオンの約93%は、還元型で存在する。グルタチオンは、おそらく水晶体蛋白質〔スルフヒドリル基(−SH)〕の還元状態の維持に必要とされる。つまり、ジスルフィド結合が破壊されて硫黄部分が利用可能になった後に、グルタチオンは水素原子を供与してスルフヒドリル基を形成することができ、これによりジスルフィド結合の再形成を予防または最小化する。加えて、アスコルビン酸も、水晶体内に非常に高濃度で存在することが確認できる。これは水溶液から活発に輸送され、そして血流で認められる濃度の15倍の濃度で存在する。イノシトールおよびタウリンの双方は、水晶体に高濃度で認められるが、その理由は知られていない。
【0027】
本発明の一態様によると、遠近調節幅の増加は、外部水晶体領域(皮質)または内層(核)の治療によって達成される。この治療は、放射線、超音波、電磁気エネルギー、熱、化学物質、粒子ビーム、プラズマビーム、酵素、遺伝子治療、栄養物、他のエネルギー供給源の適用、および/または水晶体の非弾性を担うと考えられるジスルフィド結合を切断するのに十分な上記の任意の処理の任意の組み合わせにより達成される。化学物質は、水晶体線維を支えてそれらの自由な運動および弾性を抑制すると考えれるジスルフィド結合の還元に有用である。前部の皮質および/または核により弾性をもたせることにより、粘性が低下し、そして水晶体は遠近調節の間に特徴的な中央部の隆起(central bulge)を再度形成することができる。
【0028】
還元を生じさせるのに適切な化学物質(例示の目的においてのみ記載される)は、グルタチオン、アスコルビン酸、ビタミンE、テトラエチルチウラムジスルフィル(tetraethylthiuram disulfyl)、即ち、還元剤、任意の生物学的に適切な容易に酸化される化合物、オフタルミン酸、イノシトール、ベータカルボリン(beta−carbolines)、任意の生物学的に適切な還元剤、還元性チオール誘導体(reducing thiol derivatives)であって下記の構造:
【化1】

式中のR,R,RおよびRは、独立して直鎖の又は分枝した低級アルキル(例えばヒドロキシル、低級アルコキシ若しくは低級アルキルカルボニルオキシで置換し得る)、それらの誘導体或いは薬学的に許容されるそれらの塩である。好適で典型的な還元剤には、ジエチルジチオカルバメート、1−メチル−1H−テトラゾール−5−イル−チオール及び1(2−ヒドロキシエチル)−1H−テトラゾール−5−イル−チオール又は 及び薬学的に許容されるその塩が含まれる。他の有用な化合物は、米国特許番号5,874,455に記載されており、この文献は背景情報に関するその内容の全体が参照によって本明細書中に援用される。上記の化学物質は単なる典型例であり、ジスルフィド結合を切断することにより同様に挙動する他の還元剤も本発明の範囲内に含まれる。
【0029】
化学的な還元剤は、単独で又は酵素などの触媒と組み合わせて使用できる。還元を生じさせること又は促進することに適切な酵素および他の栄養物は、例えば、アルドレダクターゼ、グリオキシラーゼ、グルタチオン S−トランスフェラーゼ、ヘキソキナーゼ、チオールレダクターゼ、チオールトランスフェラーゼ、チロシンレダクターゼまたは任意の適合するレダクターゼを含む。ジスルフィド結合を還元するために適用されるエネルギー供給源の必要性は、グルコース−6リン酸(水晶体内に存在する)の添加で満たされるが、通常グルコースをG6Pエネルギー状態に転換するヘキソキナーゼ酵素は、チオール酸化の過程で非機能的となる。この場合も、上記リストに記載された酵素は典型例であり、完全なリストではないことに注意すべきである。前記酵素は、自然状態で目に存在し得るものである。或いは、前記酵素は、化学的な還元剤もしくは本明細書に開示された作用する手段(energetic means)と共に又は別々に目に添加し得るものである。従って、ジスルフィド結合の切断を助けるか又は同様に作用する、他の化学的および生物学的に類似(comparable)する酵素も、本発明の範囲内であると考えられるべきである。
【0030】
本発明の一態様において、水晶体蛋白質のジスルフィド基(disulfide groups)のスルフヒドリル基(sulfhydryl groups)への還元は、水晶体への十分な量のグルタチオン、チオールなどの化合物、または他の物質の輸送により達成され、ジスルフィド結合並びに他の分子および細胞の接着を減退させる。自由な硫黄原子のメチル化に影響する他の酵素もしくは化学物質には、例えば、メチル−メタンチオスルホナート(methyl−methane thiosulfonate)、メチルグルタチオン、S−メチルグルタチオン、S−トランスフェラーゼおよび他の生物学的に適合するメチル化剤が含まれる。水晶体に還元剤 または 酵素を輸送するために、ナノカプセル、アルブミンミクロスフェアなどのエマルジョン、イノシトール、タウリンなどの担体分子、ウイルスファージなどの他の生物学的に適切な手段を使用することは、本発明に不可欠なことである。化学的な還元剤は、典型的には眼科的に許容される担体と共に溶液または懸濁液の形態で輸送される。いくつかのケースにおいて、ジスルフィド結合の還元に、同様に他の結合および接着の崩壊に影響又は触媒するエネルギーの適用は、有益であろう。エネルギー単独の適用は、ジスルフィド結合の切断に使用できる。適用するエネルギーは、任意の形態を有していてもよく、その単なる例示としては、レーザー、超音波、粒子ビーム、プラズマビーム、X線、紫外線、可視光線、赤外線、熱、イオン化、太陽光、磁気的手段(magnetic)、マイクロ波、音波、電気的手段(electrical)のうちの何れかの形態、または単独で若しくは還元剤と併用して使用でき老眼の治療に影響する特に説明していない他の形態、或いはこれらのタイプのエネルギーの任意を組み合わせた形態である。
【0031】
類似する様式で薬剤を水晶体嚢に輸送でき、この薬剤は前記嚢と結合又は相互作用して大きく弾性または伸展性(distensibility)に影響する。かかる薬剤は、前記嚢の表面領域を縮めるか又は水晶体の前部末端部もしくは後部で水晶体嚢の張力を増加させる。適用するエネルギーは、任意の形態であってよく、その単なる例示としては、レーザー、超音波、熱、粒子ビーム、プラズマビーム、X線、紫外線、可視光線、赤外線、イオン化、太陽光、磁気的手段、マイクロ波、音波、電気的手段のうちの何れかの形態、または単独で若しくは還元剤と併用して使用でき老眼の治療に影響する特に説明していない他の形態、或いはこれらのタイプのエネルギーの任意を組み合わせた形態である。
【0032】
本発明の別態様において、適用されるエネルギーは、触媒として使用でき還元反応を誘導するか又は還元反応の速度を増加する。このように、エネルギーを適用することによって、前記嚢の末端部分が優先的に影響され、遠近調節を担う中央の4mm区域には影響をおよぼさないままである。これにより、水晶体をより適応性のある状態にさせる。適用されるエネルギーは単独で適用でき、還元反応と水晶体の皮質に究極的に影響する細胞の変化とを促進する。本発明に有用なレーザーの例には、エキシマー、アルゴンイオン、クリプトンイオン、二酸化炭素、ヘリウム―ネオン、ヘリウム―カドミウム、キセノン、亜酸化窒素(nitrous oxide)、ヨウ素、ホルミウム、イットリウムリチウム、色素、化学物質、ネオジム、エルビウム、ルビー、タイタニウム―サファイア、ダイオード、フェムトセカンド若しくはアトセカンドレーザー、任意の調和振動レーザー(harmonically oscillating laser)、または任意の他の電磁気的な放射が含まれる。熱放射(heating radiation)の典型的な形態は、赤外線、熱、赤外線レーザー、放射線治療、または任意の他の水晶体を熱する方法を含む。最後に、本発明の態様に使用できる音エネルギーの典型的な形態は、超音波、任意の可聴域および非可聴域の音波処理、並びに任意の他の生物学的に適合する音波エネルギーを含む。
【0033】
本発明の更に別の態様において、紫外線光、可視光線、赤外線、マイクロ波、または他の電磁気的なエネルギーなどの放射を、ジスルフィド結合の切断を助けるために目にセットし得る。次に、これはジスルフィド結合の還元を可能とするであろう。
【0034】
本発明の様々な態様および方法に使用される適用エネルギーは、強膜もしくは角膜と接触する手技、非接触性の手技を介して、または眼内への輸送方法を介して適用し得る。2以上の処理が、遠近調節幅の適切な増加に必要とされるだろう。2以上の処理方法が望ましい場合、化学物質処理は、エネルギーの適用の前、後、または同時に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール トランスフェラーゼ、ニコチンアデニンジヌクレオチドリン酸、還元性チオール誘導体、又は、これらの組み合わせを含む、老眼の治療及び/又は予防用薬学的組成物。
【請求項2】
前記還元性チオール誘導体がグルタチオンを含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記還元性チオール誘導体が、1以上の
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは、独立して、直鎖の又は分枝した低級アルキルであり、ヒドロキシル、低級アルコキシ若しくは低級アルキルカルボニルオキシで置換しうる)、 又は、これらの薬学的に許容される塩を含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
生体適合性の担体を更に含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
ウイルスファージに入れ込まれた(encased)、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項6】
局所的に投与される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項7】
全身投与される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項8】
光反応性の化合物を更に含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項9】
レーザー光エネルギーにより活性化される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記チオール トランスフェラーゼが、0〜20重量%の量で存在する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記グルタチオンが、0〜20重量%の量で存在する、請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記ニコチンアデニンジヌクレオチドリン酸が、0〜20重量%の量で存在する、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記グルタチオンが、S−グルタチオンである、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項14】
グルコース−6リン酸を更に含む、請求項1記載の薬学的組成物。

【公開番号】特開2012−149090(P2012−149090A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93632(P2012−93632)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【分割の表示】特願2002−557315(P2002−557315)の分割
【原出願日】平成14年1月18日(2002.1.18)
【出願人】(503260859)エンコア・ヘルス・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】