説明

水晶及び金からなる複合体、製造方法、及び水晶振動子

【課題】本発明の目的は、簡便な方法でしかも優れた接合強度で、材質の異なる二種の部材を接合する技術を提供することである。
【解決手段】水晶21と、金22との複合体の製造する際に、(1)水晶21と金22とを接触させ、次いで(2)水晶21側からレーザ光31を照射して、金22の表面温度を金の沸点以上とし、金22に水晶21との界面でアブレーションを起こさせて、金22を水晶21に接合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶に金が接合されてなる複合体、その製造方法に関する。より詳細には、水晶と金とが高い接合強度で接合されてなる複合体、製造方法、及びその複合体を有する水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材質の異なる2つの部材を重ね合わせて接合した複合材料が、様々な分野で広く使用されている。このような複合材料の代表的なものとして、セラミックスと金属との接合体が挙げられる。このセラミックスと金属の接合体は、精密機械部材、電気機器部材、電子機器や光デバイス等に応用されている。特に、水晶と金の接合体は、水晶振動子等に用いられ、非常に広範囲な工業製品に使用されている。
【0003】
従来、セラミックス部材と金属部材とを接合させる場合、予め、バインダー層として、活性な金属層をセラミックス部材の接合面に形成(メタライズ)し、そこに目的の金属部材を接合する方法が一般的に採用されている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の方法では、セラミックスの表面にバインダー層を形成するために、メッキ法や真空蒸着法等によりセラミックス表面に金属層を形成させた後、真空又は還元雰囲気で、高温にすることにより金属をセラミックス中に拡散させることが必要である。
【0004】
そのため、従来のセラミックス部材と金属部材とを接合させる方法では、バインダー層を形成するための操作が煩雑であり、また、バインダー層としてクロム等の有害金属の使用が必要となる場合がある等の問題点がある。さらに、従来の方法のようにバインダー層を介して得られたセラミックス部材と金属部材との複合材料では、セラミックス部材と金属部材との接合強度が不十分であるという欠点もある。
【0005】
このような従来技術を背景として、簡便な方法で、しかも優れた接合強度で、材質の異なる二種の部材を接合する新たな技術、特に水晶と金とを接合する新たな技術の開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−24943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、簡便な方法でしかも優れた接合強度で、水晶と金からなる複合体、及びその複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る、水晶と金との複合体の製造方法は、(1)水晶と金とを接触させる工程と、(2)水晶側からレーザ光を照射して、金の表面温度を金の沸点以上とし、水晶との界面でアブレーションを起こさせることにより、前記金と前記水晶を接合させる工程とを有することを特徴とする。
【0009】
なお、レーザ光は、可視光であることが好ましい。
また、レーザ光の照射では、1回以上5回以下のパルス照射を行い、且つ1回のパルス照射における照射エネルギーが50μJ以上400μJ以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る水晶と金の複合体は、上述した製造方法により得られることを特徴とする。
さらに、本発明に係る水晶振動子は、上述した水晶と金の複合体を有することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る水晶と金の複合体は、水晶と金を接合させた接合体に限られない。例えば、上記いずれかの方法により、金に水晶を含浸させたものや、仮止め程度に接着させたものなども含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、水晶に対して、直接、金を接合させることよって、これら両部材が接合された複合体を製造できる。それ故、本発明の製造方法は、バインダー層を設ける工程が不要であり、簡便な工程により実施できる。
【0013】
また、本発明の製造方法で得られた複合体は、水晶と金との接合強度が高いので、それ自体有用性が高い。例えば、本発明の方法により製造された水晶と金の接合体は、水晶振動子等の構成部材として好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る金と水晶の複合体の製造方法を詳細に説明する。
本発明に係る製造方法によると、水晶が金に直接的に接合されてなる複合体が製造される。
【0015】
水晶の形状については特に制限されるものではなく、目的製造物である複合体の形状に応じて適宜選定すればよい。
【0016】
水晶の厚みは、20mm以下が好ましく、さらに5mm以下であることが好ましい。レーザ光の透過率を考慮して、水晶と金との接合面へのレーザ光の照射強度を確保するためである。
一方、水晶自体の強度等を確保するという観点から、0.1mm以上であることが好ましい。
また、水晶と接合される金の形状については、特に制限されない。例えば、接合される水晶と同一形状であってもよく、また水晶と異なる形状であってもよい。また、接合される金の厚みについても特に制限されるものではないが、通常0.1〜10mm、好ましくは0.1〜1mm程度が例示される。
【0017】
本発明において使用されるレーザ光は、水晶と金との関係で、水晶を透過し、且つ金で吸収されるような波長を有するものが適宜選択される。レーザ光の具体例としては、COレーザ等の赤外光、エキシマレーザ等の紫外光、YAGレーザ等の可視領域から紫外領域に亘る光、色素レーザ、半導体レーザ、ファイバーレーザ及びチタンサファイアレーザ等を用いることができる。
【0018】
本発明の製造方法では、まず、水晶と金とを接触させる(工程(1))。具体的には、当該工程は、製造目的とする複合体の形状・構造に基づいて、水晶と金の接触位置を決定する。
【0019】
当該工程(1)の実施態様としては、例えば、上記水晶と上記金とを所定の位置関係で重ね合わせる方法が例示される。また例えば、上記水晶と上記金との大きさが異なる場合には、当該工程は、小さい方の部材上に大きい方の部材を所定の位置に置くことにより実施できる。
【0020】
本発明の製造方法では、上記工程(1)に次いで、水晶側からレーザ光を照射して、金に上記水晶との界面でアブレーションを起こさせることにより、金を水晶に接合させる(工程(2))。
【0021】
当該工程(2)において、レーザ光の照射により金にアブレーションを起こさせるには、該金の水晶との界面の温度が、瞬間的に該部材の構成材料の沸点以上の温度になるように、レーザ光を照射すればよい。アブレーションを生じさせるための具体的なレーザ照射条件は、使用する金の種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、レーザ光の照射エネルギーが、50μJ〜400μJ/パルス(ただし、1パルスにおける最大ピーク時のレーザ光の放射照度30MW/mm〜240MW/mm)となることが好ましい。照射エネルギーが50μJ/パルスを下回ると、金の界面で十分にアブレーションを生じさせることができず、十分な接合を行うことができないためであり、逆に照射エネルギーが400μJ/パルスを上回ると、接合される水晶自体にクラックが生じるおそれがあるためである。なお、より十分なアブレーションを生じさせるために、レーザ光の照射エネルギーは100μJ/パルス以上であることがなお好ましく、水晶にクラックが発生するおそれを低減するために、照射エネルギーは300μJ/パルス程度の照射エネルギーであることがなお好ましい。
【0022】
また、レーザ光の照射は、パルス照射とすることが好ましく、界面への照射回数は、1回〜5回程度が好ましい。パルス照射とすることで界面へのレーザ光の照射エネルギーを調整し易いためである。
【0023】
このように、金に水晶との界面でアブレーションを起こさせることにより、水晶側の界面に金の構成材料を付着させ、これをアンカーとして水晶に金を直接接合させることができる。
【0024】
当該工程(2)における金とレーザ光透過性部との接合は、これらの両部材の接触箇所の全てにおいて行ってもよいが、これらの両部材の接触箇所の一部分についてのみ行ってもよい。
【0025】
次に、本発明に係る製造方法を実施する製造装置について説明する。
図1は、本発明に係る製造方法を実施する製造装置10の概略側面図である。
製造装置10は、ステンレス板11の上面に配置された水晶21及び金部材22の界面に対して、レーザ光31を水晶21の側から照射することにより、金部材22にアブレーションを生じさせ、水晶21と金部材22とを接合する装置である。
【0026】
また、製造装置10は、ステンレス部材11、保持用部材13、重り14、レーザ発振器15、ビームスプリッタ16、ハーフミラー17、集光レンズ18、及びCCDカメラ19等で構成される。
【0027】
ステンレス板11は、上面の略中央部に凹部12を有し、その凹部に水晶21と接合する金部材22を保持する。また、ステンレス板11は、レーザ光31の集光点と水晶21と金部材22の界面とが一致するように、水平面内で、互いに直交する2方向に移動可能に構成される。
【0028】
ステンレス板11の凹部12に配置された金部材22の上部には、水晶21が配置される。また、水晶21及び金部材22がステンレス板11に対して移動しないように、水晶21の上部に、ガラスや透明プラスチックといった光透過性部材で造られる保持用部材13が配置され、更に保持用部材13の上部に、重り14が配置される。なお、重り14は、保持用部材13の上面から、水晶21と金部材22との界面をレーザ光で照射可能なように、その界面付近を覆わない形状、例えば、その界面付近を孔部とした円環等に形成される。また重り14は、水晶21及び金部材22を固定でき、かつ水晶21及び金部材22に傷を付けない程度の重量を有するものであればよく、金属材料、樹脂材料、ガラス等で構成することができる。
【0029】
レーザ発振器15は、YAGレーザ等で構成され、水晶21と金部材22との界面において金部材22にアブレーションを生じさせるよう、レーザ光31を照射する。なお、使用可能なレーザはYAGレーザに限られるものではなく、COレーザ、半導体レーザ等、上述した各種のレーザを用いることができる。
【0030】
ビームスプリッタ16は、レーザ発振器15から発振されるレーザ光31の光路上に配置され、レーザ光31を適当な強度に調整する。
【0031】
ハーフミラー17は、ビームスプリッタ16よりも下流側の光路上に配置され、レーザ光31を反射し、水晶21と金部材22の界面へレーザ光31を導く。また、その界面の様子を観察可能なように、その界面で反射された光を透過する。
【0032】
集光レンズ18は、ハーフミラー17よりも下流側の光路上に配置され、レーザ光31を水晶21と金部材22の界面にレーザ光31を集光する。
【0033】
CCDカメラ19は、レーザ光31の照射位置と水晶21と金部材22の界面の位置を一致させるために、水晶21と金部材22の界面からの反射光を検出し、その界面近傍の像を観察可能に構成される。
【0034】
係る構成とすることで、水晶21と金部材22との界面にレーザ光を照射し、水晶21と金部材22の複合体を製造することができる。
【0035】
次に、図2を参照しつつ本発明に係る水晶と金の複合体、及びその複合体を有する水晶振動子について説明する。
図2(a)は、本発明に係る水晶振動子1の概略上面図であり、図2(b)は、水晶振動子1の概略側面図である。
【0036】
水晶振動子1は、セラミックス基板2の上面の中央部に、水晶板3及び金バンプ4が接合されてなる接合体5が接合されたものである。
【0037】
水晶板3は、長手方向6mm×幅方向3mm×厚さ0.16mmの大きさを有する。また水晶板3の長手方向の一方の角部に、直径100μmの一対の金バンプ4が接合されている。水晶板3と一対の金バンプ4との接合は、上述した方法によって接合される。さらに一対の金バンプ4は、公知の接合方法によってセラミックス基板17と接合される。
【0038】
このように、水晶振動子1は、本発明に係る製造方法によって水晶板3の一端を金バンプ4を通じてセラミックス基板2に固定し、振動可能に構成したものである。
【0039】
本発明によると、非常に小さい水晶板と金バンプであっても容易に接合することが可能なため、上述したような小型の水晶振動子も簡便に製造することができる。
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明に係る水晶と金の複合体を製造する方法及びその方法により製造された複合体について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
直径150μmの金球上に、水晶板(縦3mm×横6mm×厚さ0.16mm)を置いた。次いで、YAGレーザ発振器(発振波長:2倍高調波532nm、最大出力:約20mJ)を用いて、金球と水晶板との接触部に対して、水晶板側からパルス光照射を行った。レーザ光による照射エネルギーは、100μJ/パルス(1パルスにおけるレーザ光の最大放射照度60MW/mm)とし、3パルス連続照射した。
【0042】
その結果、金球が水晶板上に接合した複合体が得られた。得られた複合体について、接合強度を測定したところ、85mgであった。また接合部の直径が約50μmの略円形状(面積約0.0020mm)であった。
【実施例2】
【0043】
複合体の製造に用いる金球及び水晶版の大きさ、配置、用いるレーザ発振器は実施例1と同様である。
また実施例2においても、金球と水晶板との接触部に対して、水晶板側からパルス光照射を行った。
ただし、レーザ光による照射エネルギーは、150μJ/パルス(1パルスにおけるレーザ光の最大放射照度90MW/mm)とし、3パルス連続照射した。
【0044】
その結果、金球が水晶板上に接合した複合体が得られた。得られた複合体について、接合強度を測定したところ、104mgであった。また接合部の直径が約50μmの略円形状(面積約0.0020mm)であった。
【実施例3】
【0045】
複合体の製造に用いる金球及び水晶版の大きさ、配置、用いるレーザ発振器は実施例1及び実施例2と同様である。
また実施例3においても、金球と水晶板との接触部に対して、水晶板側からパルス光照射を行った。
【0046】
実施例3では、レーザ光による照射エネルギーを、300μJ/パルス(1パルスにおけるレーザ光の最大放射照度180MW/mm)とし、3パルス連続照射した。
【0047】
その結果、金球が水晶板上に接合した複合体が得られた。得られた複合体について、接合強度を測定したところ、163mgであった。また接合部の直径が約50μmの略円形状(面積約0.0020mm)であった。
【0048】
上述してきたように、本発明によると金と水晶とが強固に接合された複合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る製造方法を実施する製造装置の概略側面図である。
【図2】(a)は本発明に係る複合体を有する水晶振動子の概略平面図であり、(b)は本発明に係る複合体を有する水晶振動子の概略側面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 水晶振動子
2 セラミックス基板
3 水晶板
4 金バンプ
10 製造装置
11 ステンレス部材
12 凹部
13 保持用部材
14 重り
15 レーザ発振器
16 ビームスプリッタ
17 ハーフミラー
18 集光レンズ
19 CCDカメラ
21 水晶
22 金部材
31 レーザ光


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶及び金からなる複合体の製造方法であって、
(1)前記水晶と前記金とを接触させる工程と、
(2)前記水晶側からレーザ光を照射して、前記金の表面温度を金の沸点以上とし、前記水晶との界面でアブレーションを起こさせることにより、前記金と前記水晶を接合させる工程と、
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光が可視光である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記レーザ光の照射では、1回以上5回以下のパルス照射を行い、且つ1回のパルス照射における照射エネルギーが50μJ以上400μJ以下である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかの請求項に記載の製造方法により得られることを特徴とする、水晶と金の複合体。
【請求項5】
請求項4に記載された水晶と金の複合体を有することを特徴とする水晶振動子。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−43453(P2007−43453A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224999(P2005−224999)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(505292937)株式会社エス・ティー・アイ (1)
【出願人】(000000147)伊藤忠商事株式会社 (43)
【Fターム(参考)】