水晶振動デバイス
【課題】 挿入損失等の電気的特性が良好で、生産性の良好な水晶振動デバイスを提供する。
【解決手段】 水晶振動デバイスはベース1に水晶フィルタ素子2、3が気密収納され、リッド4にて気密封止された構成である。ベース1の収納部1A内には水晶フィルタ素子2,3が収納されている。水晶フィルタ素子2、3には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極21、31が形成され、他方の主面(裏面)には2つの電極からなる分割電極22,23、32,33が形成されている。上記各共通電極21,31と上記分割電極22,23,32,33の電極材料は、水晶振動板に接して各々アルミニウム層221,231,321,331が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層222,232,322,332が形成された構成である。上記各アルミニウム層の厚さは銀層の厚さの1/4程度薄い構成となっている。
【解決手段】 水晶振動デバイスはベース1に水晶フィルタ素子2、3が気密収納され、リッド4にて気密封止された構成である。ベース1の収納部1A内には水晶フィルタ素子2,3が収納されている。水晶フィルタ素子2、3には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極21、31が形成され、他方の主面(裏面)には2つの電極からなる分割電極22,23、32,33が形成されている。上記各共通電極21,31と上記分割電極22,23,32,33の電極材料は、水晶振動板に接して各々アルミニウム層221,231,321,331が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層222,232,322,332が形成された構成である。上記各アルミニウム層の厚さは銀層の厚さの1/4程度薄い構成となっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機器や電子機器等に用いられる水晶振動デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば通信機器において、周波数選択デバイスとして水晶フィルタ等の水晶振動デバイスが用いられている。このような水晶フィルタは水晶振動板の表裏面に膜状のアルミニウムからなるアルミニウム電極が形成され、当該水晶振動板をパッケージ内に気密収納された構成である。
【0003】
ところでアルミニウム電極を用いた場合、挿入損失は比較的良好であるが、挿入損失のバラツキが大きいという問題があった。またアルミニウム電極の形成された水晶振動板に気密収納する際、導電性樹脂接合材を用いるが、アルミニウム電極と当該接合材との接合性が充分ではなく、直列抵抗(CI)値等の電気的特性が悪化することがあった。
【0004】
このような問題に対応するために、導電性樹脂接合材との接合部分の電極構成をアルミニウム電極の上部に膜状の銀からなる銀電極を形成した多層膜構成を採用することがあった。またアルミニウム電極の上部全体に銀電極を形成した構成も開示されている(特許文献参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許3063066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のとおり、アルミニウム電極を用いた場合は挿入損失のバラツキが大きくなり、電気的特性の低下により高精度の通信機器に適用できないことがあり、また製造面でも生産性を低下させていた。また銀電極を用いる場合は挿入損失が大きくなり、同様に電気的特性の低下により高精度の通信機器に適用できないことがあり、また製造面でも生産性を低下させていた。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、挿入損失等の電気的特性が良好で、生産性の良好な水晶振動デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載したように、水晶振動板の表裏面に励振電極及び引出電極を形成した水晶振動デバイスであって、前記励振電極及び引出電極は水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄いことを特徴としている。
【0009】
請求項1によれば、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄い構成であるので、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができ、よって生産性を向上させることができる。
【0010】
アルミニウムの密度は2.70 g/cm3と水晶の密度2.65 g/cm3に近い特性を有している。これに対して銀の密度は10.50 g/cm3であり、アルミニウムの密度の約4倍の密度を有している。すなわちアルミニウムに対する銀の比重は4である。このような特性からアルミニウムと水晶は密度が近く、アルミニウムの厚みを増やしても振動を阻害し難い特徴がある。本発明はこのような知見に基づくもので、銀の厚さに対してアルミニウムの厚さを相対的に大きくすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。特に、水晶振動板に接してアルミニウムを形成することにより、より効率的にその効果を得ることができる。
【0011】
またアルミニウム層の上に銀層を形成しているので、導電性樹脂接合材によりパッケージに保持する際においては、良好な導電接合を行うことができ、直列抵抗値等の電気的特性を良好に維持することができる。
【0012】
また請求項2に示すように、前記アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さであることを特徴とする構成であってもよい。
【0013】
アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、また製造工程中の周波数変動を抑制できる等の電気的特性の安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0014】
前述のとおりアルミニウムの比重は銀の比重の約1/4の比重であるが、前述のアルミニウムの厚さに対して銀層の厚さが1/2以上となる場合は、アルミニウムと銀の質量割合において銀層の割合が大きくなりすぎ、挿入損失の低下が顕著になる。この場合、所定の電気的特性を満たさなくなることがある。
【0015】
また前述のアルミニウムの厚さに対して銀層の厚さが1/6以下となる場合は、アルミニウムと銀の質量割合においてアルミニウムの割合が大きくなりすぎ、挿入損失のバラツキが顕著になる。この場合生産性低下を招き、製造コスト増の要因となる。
【0016】
なお、アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さを1/3〜1/5の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失をさらに良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の極めて安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も極めて良好に維持することができる。
【0017】
さらに請求項3に示すように、前記励振電極は前記水晶振動板の一方の主面に共通電極、他方の主面に分割電極が対抗して形成されたモノリシックフィルタを構成する電極構成であることを特徴とする構成であってもよい。分割電極は複数の電極からなり、共通電極に対向して形成されている。
【0018】
請求項3によれば、前記励振電極は前記水晶振動板の一方の主面に共通電極、他方の主面に分割電極が形成されたモノリシックフィルタを構成する電極構成であるので、挿入損失を良好に保ち、また直列抵抗値を良好にしたモノリシックフィルタを構成した水晶振動デバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、挿入損失等の電気的特性が良好で、生産性の良好な水晶振動デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による第1の実施形態を示すリッド封止前の水晶振動デバイスの平面図である。
【図2】図1においてリッドによる封止を行った状態でのA−A断面図
【図3】本発明による他の実施形態を示すリッド封止前の水晶振動デバイスの平面図である。
【図4】図3においてリッドによる封止を行った状態でのB−B断面図
【図5】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図6】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図7】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図8】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図9】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図10】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図11】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図12】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図13】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図14】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図15】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図16】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図17】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図18】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図19】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図20】比較例2の比較検証を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による好ましい実施の形態について図面に基づいて説明する。
本発明による第1の実施の形態を水晶振動デバイスとして表面実装型の水晶フィルタを例にとり図1および図2とともに説明する。
【0022】
水晶フィルタはベース1に水晶フィルタ素子2、3が気密収納され、リッド4にて気密封止された構成である。
【0023】
ベース1はその内外部に金属膜からなる配線が施されたセラミックスからなり、全体として外形が上部が開口した長辺と短辺と高さを有する箱形構成である。またベース1の四隅の側面には角が切り欠かれたキャスタレーション111,112,113,114が形成され、当該キャスタレーション内に各々側面電極(図示せず)が形成されている。これら各側面電極はその一部または全部が後述の外部接続端子(図示せず)に接続されている。
【0024】
ベース1は底部10と底部の外周近傍から上方に伸長した堤部11を有する構成であり、堤部11の内側には収納部1Aが形成されている。上記構成により、堤部11はベース1の外周に形成され、また堤部の上面には周状に金属リング11aが形成されている。当該金属リング11aはコバール(kovar)からなり、その表面に金膜またはニッケル膜がメッキ等の手法により形成されている。
【0025】
収納部1A内には接続電極12,13,14,15,16,17が各々形成されている。各接続電極は収納部の底面であって内壁に近接または接した状態で形成されており、接続電極12,13,14,15は収納部の内側の四隅に各々形成されるとともに、接続電極16,17は長辺の中央部分に対向して形成されている。これら接続電極は平面視矩形状であり、タングステン(W)のメタライズ金属層上にニッケル(Ni)、金(Au)の順で金属層がメッキ等の手法により形成することにより構成される。また各接続電極は前述の外部接続端子に適宜接続されている。外部接続端子は図示していないが、ベースの底面(実装する基板との対向面)に設けられており、入力用外部接続端子と出力用外部接続端子と、複数のアース接続端子が形成されている。
【0026】
収納部1Aには水晶フィルタ素子2,3が収納されている。水晶フィルタ素子2,3は各々板状のATカット水晶振動板からなり、平面視矩形状で長辺と短辺を有している。水晶フィルタ素子2には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極21が形成され、他方の主面(裏面)には2つの電極からなる分割電極22,23が形成されている。これら共通電極と分割電極は圧電振動を励振させるための励振電極を構成している。共通電極21は平面視矩形状で水晶フィルタ素子2の長辺と略平行に長辺を有し、また水晶フィルタ素子2の短辺と略平行に短辺を有する構成である。
【0027】
分割電極22,23は前記共通電極21に対応して形成され、共通電極21の長辺方向に各分割電極22,23が並列する配置となっている。分割電極22,23も平面視矩形形状であり、分割電極の長辺が前記共通電極の短辺に対応した配置および寸法を有している。
【0028】
共通電極21は引出電極21aにより水晶フィルタ素子の一つの隅部に電極が引き出され、分割電極22は引出電極22aにより、また分割電極23は引出電極23aによりそれぞれ水晶フィルタ素子2の隅部に各々電極が引き出された構成である。以上の電極構成により、水晶フィルタ素子2はモノリシックフィルタを構成している。
【0029】
水晶フィルタ素子3にも水晶フィルタ素子2と同様に、水晶フィルタ素子3には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極31が形成され、他方の主面(裏面)には3つの電極からなる分割電極32,33が形成されている。これら共通電極と分割電極は励振電極を構成している。共通電極31は平面視矩形状で水晶フィルタ素子3の長辺と略平行に長辺を有し、水晶フィルタ素子の短辺と略平行に短辺を有する構成である。
【0030】
分割電極32,33は前記共通電極31に対応して形成され、共通電極31の長辺方向に各分割電極32,33が並列する配置となっている。分割電極32,33も平面視矩形形状であり、分割電極の長辺が前記共通電極の短辺に対応した配置および寸法を有している。
【0031】
共通電極31は引出電極31aにより水晶フィルタ素子の一つの隅部に電極が引き出され、分割電極32は引出電極32aにより、また分割電極33は引出電極33aによりそれぞれ水晶フィルタ素子3の隅部に各々電極が引き出された構成である。以上の電極構成により、水晶フィルタ素子3はモノリシックフィルタを構成している。
【0032】
上記共通電極21,31と当該共通電極に続く引出電極21a,31aの電極材料は、水晶振動板に接してアルミニウム層211、31が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層212、312が形成された構成である。また上記分割電極22,23,32,33と各分割共通電極22a,23a,32a,33aに続く引出電極の電極材料は、水晶振動板に接して各々アルミニウム層221,231,321,331が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層222,232,322,332が形成された構成である。
【0033】
上記各アルミニウム層の厚さは例えば800オングストローム、銀層の厚さは例えば200オングストロームと、アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが1/4程度薄い構成となっている。
【0034】
水晶フィルタ素子2は接続電極12,13,16,17上に搭載され、銀からなる導電フィラーを含有したシリコーン系樹脂接合材等の導電性樹脂接合材Sにより各接続電極と導電接合される。これにより、共通電極21は接続電極13と、分割電極22は接続電極12と、分割電極23は接続電極17と各々導電接合される。
【0035】
また水晶フィルタ素子3は接続電極14,15,16,17上に搭載され、導電フィラーを含有したシリコーン系樹脂接合材等の導電性樹脂接合材Sにより各接続電極と導電接合される。これにより、共通電極31は接続電極15と、分割電極32は接続電極16と、分割電極33は接続電極14と各々導電接合される。
【0036】
以上の構成により、水晶フィルタ素子2と3を上記接続電極に導電接合する構成により、4ポール型の水晶フィルタを構成している。なお、接続電極16と17はベース内またはベース外において共通接続されている。
【0037】
リッド4は平面視矩形状で長辺と短辺を有する金属板からなり、前記収納部1Aを被覆し、前記金属リングの全周と接触する領域を有する構成である。具体的にはコア材としてコバール(kovar)を用い、表面にニッケル層を有する構成を有している。不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中でリッドをパッケージにシーム接合することにより、前記収納部内が不活性ガス雰囲気または真空雰囲気の状態で気密封止が行われる。なお、シーム接合に代えて、レーザー等のビーム接合やろう材接合により気密封止を行ってもよい。
【0038】
上記構成によれば、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄い構成であるので、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。
【0039】
前述したとおりアルミニウムは銀に較べて比重が約1/4であり、密度は水晶に近いため水晶振動板の振動を効率よく駆動させることができる。そしてこの比重の小さいアルミニウムの厚さを厚く、比重の大きい銀の厚さを薄くすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。
【0040】
またアルミニウム層の上に銀層を形成しているので、導電性樹脂接合材によりパッケージに保持する際においては、良好な導電接合を行うことができ、直列抵抗値等の電気的特性を良好に維持することができる。
【0041】
また上記構成によれば、前記アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/4の厚さとなっている。アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0042】
なお、アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/3〜1/5の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失をより良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の極めて安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0043】
上記実施の形態において、ベースをガラスや水晶の材料からなり、その内外部に金属膜からなる配線を形成した構成のものを適用してもよい。またベースに形成された接続電極に対して導電性樹脂接合材を用いて導電接合を行った例を示しているが、これに代えて金属バンプにより接続電極と水晶振動板の引出電極とを導電接合する構成であってもよい。
【0044】
次に本発明による水晶振動デバイスの製造方法について説明する。
<水晶フィルタ素子の製造>
平面視矩形状で長辺と短辺を有するATカット水晶振動板は水熱合成法により得られたブロック状の人工水晶を所定の切断角度にて板状に切断し、表裏面を研磨して得られる。
【0045】
このようなATカット水晶振動板は表裏面に励振電極(共通電極及び分割電極)を形成する。具体的には電極形成領域に窓部を有した蒸着マスクをATカット水晶振動板の表裏面に配置し、この状態で真空蒸着法またはスパッタリング法により電極膜を形成する。量産時においては蒸着マスクの窓部は多数形成され、各窓部に対応して水晶振動板を配置することにより、一度に多数のATカット水晶振動板に対し電極形成を行う。なお、蒸着マスクの窓部はATカット水晶振動板の表面側に共通電極用と当該共通電極をATカット水晶振動板の隅部に引き出す引出電極用が形成されている。また同裏面側に2つの分割電極用と各分割電極をATカット水晶振動板の隅部に各々引き出す引出電極用が形成されている。
【0046】
このような蒸着マスクにATカット水晶振動板を収納し、まずアルミニウムを真空蒸着またはスパッタリングして前記窓部から露出した水晶振動板領域にアルミニウム層を形成する。次に銀を真空蒸着またはスパッタリングして前記窓部から露出した水晶振動板領域に銀層を形成する。なお、当該アルミニウム層および銀層の形成は同一の成膜形成装置内で順次行ってもよい。この場合、電極膜の成膜強度を向上させることができ、また蒸着マスク内でATカット水晶振動板がずれる等の問題を生じさせることがないので、水晶振動デバイスの電気的特性を安定化させることができる。
【0047】
なお、アルミニウム層は例えば400オングストローム、銀電極は例えば100オングストロームの厚さに設定され、銀層はアルミニウム層より薄く形成されている。これら金属膜の厚さは一例であり、水晶フィルタ素子の動作周波数や他の電気的パラメータによりその厚さが決定されるが、アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0048】
以上の蒸着マスクを用いた電極形成により、ATカット水晶振動板の表面に共通電極が、裏面に分割電極が形成された水晶フィルタ素子2,3を得ることができる。
以上の水晶フィルタ素子をベースの接続電極に導電接合する。具体的にはベースの接続電極上に導電性接合材Sを塗布する。塗布には所定量の導電性樹脂接合材を供給できるディスペンサを用いた。その後、接続電極12,13,16,17上に水晶フィルタ素子2を搭載することにより、接続電極12と引出電極22a、接続電極13と引出電極21a,接続電極17と引出電極23aが導電性接合材Sにより導電接合される。
【0049】
また接続電極14,15,16,17上に水晶フィルタ素子3を搭載することにより、接続電極16と引出電極32a、接続電極14と引出電極33a,接続電極15と引出電極31aが導電性接合材Sにより導電接合される。
【0050】
導電性樹脂接合材Sを加熱により硬化させた後、ベースの開口部を向いている各共通電極に対して周波数調整を行う。周波数調整は共通電極の金属膜上に付加的に金属膜を部分的に形成するパーシャル蒸着法や共通電極の表面を一部除去するイオンエッチング法により行う。
【0051】
他の実施の形態について図面に基づいて説明する。図3と図4は1つの水晶フィルタ素子を用いた表面実装型の水晶フィルタを示す図であり、図3は気密封止前の平面図、図4は図3のB−B断面図であって、リッド7にて気密封止した状態の図である。
【0052】
ベース5はその内外部に金属膜からなる配線が施されたセラミックスからなり、全体として外形が、上部が開口した長辺と短辺と高さを有する箱形構成である。またベース1の四隅の側面には角が切り欠かれたキャスタレーション511,512,513,514が形成され、当該キャスタレーション内に各々側面電極(図示せず)が形成されている。これら各側面電極はその一部または全部が後述の外部接続端子(図示せず)に接続されている。
【0053】
ベース5は底部50と底部の外周近傍から上方に伸長した堤部51を有する構成であり、堤部51の内側には収納部5Aが形成されている。上記構成により、堤部51はベース5の外周に形成され、また堤部の上面には周状に金属リング51aが形成されている。当該金属リング51aはコバール(kovar)からなり、その表面に金膜またはニッケル膜がメッキ等の手法により形成されている。
【0054】
収納部5A内には接続電極52,53,54,55が各々形成されている。各接続電極は収納部の底面であって内壁に近接または接した状態で形成されており、接続電極52,53,54,55は収納部の内側の四隅に各々形成されている。これら接続電極は平面視矩形状であり、タングステン(W)のメタライズ金属層上にニッケル(Ni)、金(Au)の順で金属層がメッキ等の手法により形成することにより構成される。また各接続電極は前述の外部接続端子に適宜接続されている。外部接続端子は図示していないが、ベースの底面(実装する基板との対向面)に設けられており、入力用外部接続端子と出力用外部接続端子と、複数のアース接続端子が形成されている。
【0055】
収納部5Aには水晶フィルタ素子6が収納されている。水晶フィルタ素子6は板状のATカット水晶振動板からなり、平面視矩形状で長辺と短辺を有している。水晶フィルタ素子6には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極61が形成され、他方の主面(裏面)には2つの電極からなる分割電極62,63が形成されている。これら共通電極と分割電極は励振電極を構成している。共通電極61は平面視矩形状で水晶フィルタ素子6の長辺と略平行に長辺を有し、また水晶フィルタ素子6の短辺と略平行に短辺を有する構成である。
【0056】
分割電極62,63は前記共通電極61に対応して形成され、共通電極61の長辺方向に各分割電極62,63が並列する配置となっている。分割電極62,63も平面視矩形形状であり、分割電極の長辺が前記共通電極の短辺に対応した配線および寸法を有している。
【0057】
共通電極61は引出電極61aにより水晶フィルタ素子の一つの隅部に電極が引き出され、分割電極62は引出電極62aにより、また分割電極63は引出電極63aによりそれぞれ水晶フィルタ素子の隅部に各々電極が引き出された構成である。以上の電極構成により、水晶フィルタ素子6はモノリシックフィルタを構成している。
【0058】
本実施の形態においては共通電極と分割電極の厚さを異ならせている。具体的には共通電極と当該共通電極に続く引出電極の電極材料の構成は、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層が形成されている。アルミニウム層の厚さは例えば1600オングストローム、銀層の厚さは例えば300オングストロームで合計1900オングストロームの厚さである。また、アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが約1/5程度薄い構成となっている。
【0059】
また分割電極と当該分割電極に続く引出電極の電極材料の構成は、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層が形成されている。アルミニウム層の厚さは例えば700オングストローム、銀層の厚さは例えば300オングストロームで合計1000オングストロームの厚さである。また、アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが約1/2程度薄い構成となっている。
【0060】
水晶フィルタ素子6は接続電極52,53,54,55上に搭載され、銀等の導電フィラーを含有したシリコーン系樹脂接合材等の導電性樹脂接合材Sにより各接続電極と導電接合される。これにより、共通電極61は接続電極53と、分割電極62は接続電極52と、分割電極23は接続電極54と各々導電接合される。以上の構成により、水晶フィルタ素子2が上記接続電極への導電接合され、2ポール型の水晶フィルタを構成している。
【0061】
リッド7は平面視矩形状で長辺と短辺を有する金属板からなり、前記収納部5Aを被覆し、前記金属リングの全周と接触する領域を有する構成である。具体的にはコア材としてコバール(kovar)を用い、表面にニッケル層を有する構成を有している。不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中でリッドをパッケージにシーム接合することにより、前記収納部内が不活性ガス雰囲気または真空雰囲気の状態で気密封止が行われる。
【0062】
上記実施の形態においては共通電極と分割電極の膜厚を異ならせている。これによりスプリアスが抑制され、また所望の電気的特性を有する水晶振動デバイスを得ることができる。また、上記構成によれば、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄い構成であるので、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。
【0063】
<比較例>
本発明に関連する比較例を以下に示す。
第1の比較例
第1の比較例に用いた水晶振動デバイスは、水晶フィルタ素子 160MHz帯3倍波2ポール型水晶フィルタであり、水晶フィルタ素子および電極は以下の構成となる。水晶フィルタ素子2,3はATカット水晶板からなり、その外形サイズは長辺が約2.5mm、短辺が約2.0mm、厚さ約0.030mmの構成である。水晶フィルタの一方の主面に形成された共通電極(励振電極)の外形サイズは長辺が約1.2mm、短辺が約0.7mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせている。
【0064】
また水晶フィルタ素子の他方の主面に形成された分割電極(励振電極)はそれそれ同じサイズで、長辺が約0.7mm、短辺が約0.5mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせている。これら共通電極および分割電極に接続される引出電極の厚さも各共通電極および分割電極に対応して構成毎に異ならせている。
【0065】
上記励振電極の構成を変化させた各種膜構成のサンプルを膜構成毎に50個作成し、挿入損失の分布を確認した。構成1aは共通電極と分割電極にアルミニウム(Al)を1600オングストロームの厚さで形成したもので、構成1aにおける挿入損失の分布を図5に示す。
【0066】
構成1bは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を1200オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を100オングストロームの厚さで形成したもので、構成1bにおける挿入損失の分布を図6に示す。
【0067】
構成1cは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を1100オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を150オングストロームの厚さで形成したもので、構成1cにおける挿入損失の分布を図7に示す。
【0068】
構成1dは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を1000オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を170オングストロームの厚さで形成したもので、構成1dにおける挿入損失の分布を図8に示す。
【0069】
構成1eは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を900オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を180オングストロームの厚さで形成したもので、構成1eにおける挿入損失の分布を図9に示す。
【0070】
構成1fは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を800オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を200オングストロームの厚さで形成したもので、構成1fにおける挿入損失の分布を図10に示す。
【0071】
構成1gは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を700オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を220オングストロームの厚さで形成したもので、構成1gにおける挿入損失の分布を図11に示す。
【0072】
構成1hは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を600オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を250オングストロームの厚さで形成したもので、構成1hにおける挿入損失の分布を図12に示す。
【0073】
構成1iは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を400オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を300オングストロームの厚さで形成したもので、構成1iにおける挿入損失の分布を図13に示す。
【0074】
構成1jは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を200オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を350オングストロームの厚さで形成したもので、構成1jにおける挿入損失の分布を図14に示す。
【0075】
比較例1においてはアルミニウムのみの電極構成やまたはアルミニウムの比率が極めて大きいアルミニウムと銀の積層構成の場合は、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキが大きいことが理解できる。
【0076】
またアルミニウムと銀の積層構成の場合、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2〜1/6の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを抑制することができ、さらにはアルミニウムに対して銀の厚さが1/3〜1/5の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失をさらに良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを極めて抑制できていることが理解できる。
【0077】
さらに、またアルミニウムと銀の積層構成において、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2以上になると、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキは良好であるが、挿入損失の値が全体として低下し、電気的特性の低下を招いていることも理解できる。
【0078】
第2の比較例
第2の比較例に用いた水晶振動デバイスは、水晶フィルタ素子を2つ用いた124MHz帯基本波4ポール型水晶フィルタであり、水晶フィルタ素子および電極は以下の構成となる。各水晶フィルタ素子はATカット水晶板からなり、その外形サイズは各々長辺が約1.5mm、短辺が約1.3mm、厚さ約0.013mmの構成である。水晶フィルタの一方の主面に形成された共通電極(励振電極)の外形サイズは長辺が約0.8mm、短辺が約0.4mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせた構成である。
【0079】
また水晶フィルタ素子の他方の主面に形成された分割電極(励振電極)は、それぞれ同じサイズで、長辺が約0.3mm、短辺が約0.2mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせた構成である。なお共通電極および分割電極に接続される引出電極の厚さも共通電極および分割電極の厚さと同様の厚さに設定している。またこの比較例においては共通電極と分割電極の厚さを異ならせている。
【0080】
上記励振電極の構成を変化させた各種膜構成のサンプルを膜構成毎に50個作成し、挿入損失の分布を確認した。構成2aは共通電極にアルミニウム(Al)を2800オングストロームの厚さで形成し、分割電極にアルミニウム(Al)を1900オングストロームの厚さで形成したもので、図15に挿入損失の分布を示す。
【0081】
構成2bは共通電極にアルミニウム(Al)を2800オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を100オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を1500オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を100オングストロームの厚さで形成している。図16に挿入損失の分布を示す。
【0082】
構成2cは共通電極にアルミニウム(Al)を2000オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を200オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を1100オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を200オングストロームの厚さで形成している。図17に挿入損失の分布を示す。
【0083】
構成2dは共通電極にアルミニウム(Al)を1600オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を300オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を900オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を250オングストロームの厚さで形成している。図18に挿入損失の分布を示す。
【0084】
構成2eは共通電極にアルミニウム(Al)を1200オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を400オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を700オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を300オングストロームの厚さで形成している。図19に挿入損失の分布を示す。
【0085】
構成2fは共通電極にアルミニウム(Al)を800オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を500オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を500オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を350オングストロームの厚さで形成している。図20に挿入損失の分布を示す。
【0086】
比較例2においても比較例1と同様の傾向を示し、アルミニウムのみの電極構成やまたはアルミニウムの比率が極めて大きいアルミニウムと銀の積層構成の場合は、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキが大きいことが理解できる。
【0087】
またアルミニウムと銀の積層構成の場合、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2〜1/6の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを抑制することができ、さらにはアルミニウムに対して銀の厚さが1/3〜1/5の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失をさらに良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを極めて抑制できていることが理解できる。なお、比較例2では共通電極に対して分割電極が薄く形成された構成であるが、このような場合においても、両電極ともアルミニウムに対して銀の厚さが1/2〜1/6の範囲とすることにより、良好な特性を確保できていることが理解できる。
【0088】
さらに、またアルミニウムと銀の積層構成において、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2以上になると、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキは良好であるが、挿入損失の値が全体として低下し、電気的特性の低下を招いていることも理解できる。
【0089】
なお、上記各実施の形態において、水晶フィルタ素子を例示したが、これに代えて水晶振動素子を用いた共振子に適用してもよい。また発振回路を構成するIC素子を収納した水晶発振器に適用してもよい。
【0090】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
水晶フィルタ等の水晶振動デバイスの生産に適用できる。
【符号の説明】
【0092】
1、5 ベース
10、50 底部
11、51 堤部
21,31、61 共通電極
22,23,32,33,62,63 分割電極
2、3、6 水晶フィルタ素子(水晶振動板)
4、7 リッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機器や電子機器等に用いられる水晶振動デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば通信機器において、周波数選択デバイスとして水晶フィルタ等の水晶振動デバイスが用いられている。このような水晶フィルタは水晶振動板の表裏面に膜状のアルミニウムからなるアルミニウム電極が形成され、当該水晶振動板をパッケージ内に気密収納された構成である。
【0003】
ところでアルミニウム電極を用いた場合、挿入損失は比較的良好であるが、挿入損失のバラツキが大きいという問題があった。またアルミニウム電極の形成された水晶振動板に気密収納する際、導電性樹脂接合材を用いるが、アルミニウム電極と当該接合材との接合性が充分ではなく、直列抵抗(CI)値等の電気的特性が悪化することがあった。
【0004】
このような問題に対応するために、導電性樹脂接合材との接合部分の電極構成をアルミニウム電極の上部に膜状の銀からなる銀電極を形成した多層膜構成を採用することがあった。またアルミニウム電極の上部全体に銀電極を形成した構成も開示されている(特許文献参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許3063066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のとおり、アルミニウム電極を用いた場合は挿入損失のバラツキが大きくなり、電気的特性の低下により高精度の通信機器に適用できないことがあり、また製造面でも生産性を低下させていた。また銀電極を用いる場合は挿入損失が大きくなり、同様に電気的特性の低下により高精度の通信機器に適用できないことがあり、また製造面でも生産性を低下させていた。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、挿入損失等の電気的特性が良好で、生産性の良好な水晶振動デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載したように、水晶振動板の表裏面に励振電極及び引出電極を形成した水晶振動デバイスであって、前記励振電極及び引出電極は水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄いことを特徴としている。
【0009】
請求項1によれば、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄い構成であるので、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができ、よって生産性を向上させることができる。
【0010】
アルミニウムの密度は2.70 g/cm3と水晶の密度2.65 g/cm3に近い特性を有している。これに対して銀の密度は10.50 g/cm3であり、アルミニウムの密度の約4倍の密度を有している。すなわちアルミニウムに対する銀の比重は4である。このような特性からアルミニウムと水晶は密度が近く、アルミニウムの厚みを増やしても振動を阻害し難い特徴がある。本発明はこのような知見に基づくもので、銀の厚さに対してアルミニウムの厚さを相対的に大きくすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。特に、水晶振動板に接してアルミニウムを形成することにより、より効率的にその効果を得ることができる。
【0011】
またアルミニウム層の上に銀層を形成しているので、導電性樹脂接合材によりパッケージに保持する際においては、良好な導電接合を行うことができ、直列抵抗値等の電気的特性を良好に維持することができる。
【0012】
また請求項2に示すように、前記アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さであることを特徴とする構成であってもよい。
【0013】
アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、また製造工程中の周波数変動を抑制できる等の電気的特性の安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0014】
前述のとおりアルミニウムの比重は銀の比重の約1/4の比重であるが、前述のアルミニウムの厚さに対して銀層の厚さが1/2以上となる場合は、アルミニウムと銀の質量割合において銀層の割合が大きくなりすぎ、挿入損失の低下が顕著になる。この場合、所定の電気的特性を満たさなくなることがある。
【0015】
また前述のアルミニウムの厚さに対して銀層の厚さが1/6以下となる場合は、アルミニウムと銀の質量割合においてアルミニウムの割合が大きくなりすぎ、挿入損失のバラツキが顕著になる。この場合生産性低下を招き、製造コスト増の要因となる。
【0016】
なお、アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さを1/3〜1/5の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失をさらに良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の極めて安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も極めて良好に維持することができる。
【0017】
さらに請求項3に示すように、前記励振電極は前記水晶振動板の一方の主面に共通電極、他方の主面に分割電極が対抗して形成されたモノリシックフィルタを構成する電極構成であることを特徴とする構成であってもよい。分割電極は複数の電極からなり、共通電極に対向して形成されている。
【0018】
請求項3によれば、前記励振電極は前記水晶振動板の一方の主面に共通電極、他方の主面に分割電極が形成されたモノリシックフィルタを構成する電極構成であるので、挿入損失を良好に保ち、また直列抵抗値を良好にしたモノリシックフィルタを構成した水晶振動デバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、挿入損失等の電気的特性が良好で、生産性の良好な水晶振動デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による第1の実施形態を示すリッド封止前の水晶振動デバイスの平面図である。
【図2】図1においてリッドによる封止を行った状態でのA−A断面図
【図3】本発明による他の実施形態を示すリッド封止前の水晶振動デバイスの平面図である。
【図4】図3においてリッドによる封止を行った状態でのB−B断面図
【図5】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図6】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図7】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図8】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図9】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図10】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図11】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図12】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図13】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図14】比較例1の比較検証を示すグラフ
【図15】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図16】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図17】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図18】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図19】比較例2の比較検証を示すグラフ
【図20】比較例2の比較検証を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による好ましい実施の形態について図面に基づいて説明する。
本発明による第1の実施の形態を水晶振動デバイスとして表面実装型の水晶フィルタを例にとり図1および図2とともに説明する。
【0022】
水晶フィルタはベース1に水晶フィルタ素子2、3が気密収納され、リッド4にて気密封止された構成である。
【0023】
ベース1はその内外部に金属膜からなる配線が施されたセラミックスからなり、全体として外形が上部が開口した長辺と短辺と高さを有する箱形構成である。またベース1の四隅の側面には角が切り欠かれたキャスタレーション111,112,113,114が形成され、当該キャスタレーション内に各々側面電極(図示せず)が形成されている。これら各側面電極はその一部または全部が後述の外部接続端子(図示せず)に接続されている。
【0024】
ベース1は底部10と底部の外周近傍から上方に伸長した堤部11を有する構成であり、堤部11の内側には収納部1Aが形成されている。上記構成により、堤部11はベース1の外周に形成され、また堤部の上面には周状に金属リング11aが形成されている。当該金属リング11aはコバール(kovar)からなり、その表面に金膜またはニッケル膜がメッキ等の手法により形成されている。
【0025】
収納部1A内には接続電極12,13,14,15,16,17が各々形成されている。各接続電極は収納部の底面であって内壁に近接または接した状態で形成されており、接続電極12,13,14,15は収納部の内側の四隅に各々形成されるとともに、接続電極16,17は長辺の中央部分に対向して形成されている。これら接続電極は平面視矩形状であり、タングステン(W)のメタライズ金属層上にニッケル(Ni)、金(Au)の順で金属層がメッキ等の手法により形成することにより構成される。また各接続電極は前述の外部接続端子に適宜接続されている。外部接続端子は図示していないが、ベースの底面(実装する基板との対向面)に設けられており、入力用外部接続端子と出力用外部接続端子と、複数のアース接続端子が形成されている。
【0026】
収納部1Aには水晶フィルタ素子2,3が収納されている。水晶フィルタ素子2,3は各々板状のATカット水晶振動板からなり、平面視矩形状で長辺と短辺を有している。水晶フィルタ素子2には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極21が形成され、他方の主面(裏面)には2つの電極からなる分割電極22,23が形成されている。これら共通電極と分割電極は圧電振動を励振させるための励振電極を構成している。共通電極21は平面視矩形状で水晶フィルタ素子2の長辺と略平行に長辺を有し、また水晶フィルタ素子2の短辺と略平行に短辺を有する構成である。
【0027】
分割電極22,23は前記共通電極21に対応して形成され、共通電極21の長辺方向に各分割電極22,23が並列する配置となっている。分割電極22,23も平面視矩形形状であり、分割電極の長辺が前記共通電極の短辺に対応した配置および寸法を有している。
【0028】
共通電極21は引出電極21aにより水晶フィルタ素子の一つの隅部に電極が引き出され、分割電極22は引出電極22aにより、また分割電極23は引出電極23aによりそれぞれ水晶フィルタ素子2の隅部に各々電極が引き出された構成である。以上の電極構成により、水晶フィルタ素子2はモノリシックフィルタを構成している。
【0029】
水晶フィルタ素子3にも水晶フィルタ素子2と同様に、水晶フィルタ素子3には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極31が形成され、他方の主面(裏面)には3つの電極からなる分割電極32,33が形成されている。これら共通電極と分割電極は励振電極を構成している。共通電極31は平面視矩形状で水晶フィルタ素子3の長辺と略平行に長辺を有し、水晶フィルタ素子の短辺と略平行に短辺を有する構成である。
【0030】
分割電極32,33は前記共通電極31に対応して形成され、共通電極31の長辺方向に各分割電極32,33が並列する配置となっている。分割電極32,33も平面視矩形形状であり、分割電極の長辺が前記共通電極の短辺に対応した配置および寸法を有している。
【0031】
共通電極31は引出電極31aにより水晶フィルタ素子の一つの隅部に電極が引き出され、分割電極32は引出電極32aにより、また分割電極33は引出電極33aによりそれぞれ水晶フィルタ素子3の隅部に各々電極が引き出された構成である。以上の電極構成により、水晶フィルタ素子3はモノリシックフィルタを構成している。
【0032】
上記共通電極21,31と当該共通電極に続く引出電極21a,31aの電極材料は、水晶振動板に接してアルミニウム層211、31が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層212、312が形成された構成である。また上記分割電極22,23,32,33と各分割共通電極22a,23a,32a,33aに続く引出電極の電極材料は、水晶振動板に接して各々アルミニウム層221,231,321,331が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層222,232,322,332が形成された構成である。
【0033】
上記各アルミニウム層の厚さは例えば800オングストローム、銀層の厚さは例えば200オングストロームと、アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが1/4程度薄い構成となっている。
【0034】
水晶フィルタ素子2は接続電極12,13,16,17上に搭載され、銀からなる導電フィラーを含有したシリコーン系樹脂接合材等の導電性樹脂接合材Sにより各接続電極と導電接合される。これにより、共通電極21は接続電極13と、分割電極22は接続電極12と、分割電極23は接続電極17と各々導電接合される。
【0035】
また水晶フィルタ素子3は接続電極14,15,16,17上に搭載され、導電フィラーを含有したシリコーン系樹脂接合材等の導電性樹脂接合材Sにより各接続電極と導電接合される。これにより、共通電極31は接続電極15と、分割電極32は接続電極16と、分割電極33は接続電極14と各々導電接合される。
【0036】
以上の構成により、水晶フィルタ素子2と3を上記接続電極に導電接合する構成により、4ポール型の水晶フィルタを構成している。なお、接続電極16と17はベース内またはベース外において共通接続されている。
【0037】
リッド4は平面視矩形状で長辺と短辺を有する金属板からなり、前記収納部1Aを被覆し、前記金属リングの全周と接触する領域を有する構成である。具体的にはコア材としてコバール(kovar)を用い、表面にニッケル層を有する構成を有している。不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中でリッドをパッケージにシーム接合することにより、前記収納部内が不活性ガス雰囲気または真空雰囲気の状態で気密封止が行われる。なお、シーム接合に代えて、レーザー等のビーム接合やろう材接合により気密封止を行ってもよい。
【0038】
上記構成によれば、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄い構成であるので、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。
【0039】
前述したとおりアルミニウムは銀に較べて比重が約1/4であり、密度は水晶に近いため水晶振動板の振動を効率よく駆動させることができる。そしてこの比重の小さいアルミニウムの厚さを厚く、比重の大きい銀の厚さを薄くすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。
【0040】
またアルミニウム層の上に銀層を形成しているので、導電性樹脂接合材によりパッケージに保持する際においては、良好な導電接合を行うことができ、直列抵抗値等の電気的特性を良好に維持することができる。
【0041】
また上記構成によれば、前記アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/4の厚さとなっている。アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0042】
なお、アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/3〜1/5の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失をより良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の極めて安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0043】
上記実施の形態において、ベースをガラスや水晶の材料からなり、その内外部に金属膜からなる配線を形成した構成のものを適用してもよい。またベースに形成された接続電極に対して導電性樹脂接合材を用いて導電接合を行った例を示しているが、これに代えて金属バンプにより接続電極と水晶振動板の引出電極とを導電接合する構成であってもよい。
【0044】
次に本発明による水晶振動デバイスの製造方法について説明する。
<水晶フィルタ素子の製造>
平面視矩形状で長辺と短辺を有するATカット水晶振動板は水熱合成法により得られたブロック状の人工水晶を所定の切断角度にて板状に切断し、表裏面を研磨して得られる。
【0045】
このようなATカット水晶振動板は表裏面に励振電極(共通電極及び分割電極)を形成する。具体的には電極形成領域に窓部を有した蒸着マスクをATカット水晶振動板の表裏面に配置し、この状態で真空蒸着法またはスパッタリング法により電極膜を形成する。量産時においては蒸着マスクの窓部は多数形成され、各窓部に対応して水晶振動板を配置することにより、一度に多数のATカット水晶振動板に対し電極形成を行う。なお、蒸着マスクの窓部はATカット水晶振動板の表面側に共通電極用と当該共通電極をATカット水晶振動板の隅部に引き出す引出電極用が形成されている。また同裏面側に2つの分割電極用と各分割電極をATカット水晶振動板の隅部に各々引き出す引出電極用が形成されている。
【0046】
このような蒸着マスクにATカット水晶振動板を収納し、まずアルミニウムを真空蒸着またはスパッタリングして前記窓部から露出した水晶振動板領域にアルミニウム層を形成する。次に銀を真空蒸着またはスパッタリングして前記窓部から露出した水晶振動板領域に銀層を形成する。なお、当該アルミニウム層および銀層の形成は同一の成膜形成装置内で順次行ってもよい。この場合、電極膜の成膜強度を向上させることができ、また蒸着マスク内でATカット水晶振動板がずれる等の問題を生じさせることがないので、水晶振動デバイスの電気的特性を安定化させることができる。
【0047】
なお、アルミニウム層は例えば400オングストローム、銀電極は例えば100オングストロームの厚さに設定され、銀層はアルミニウム層より薄く形成されている。これら金属膜の厚さは一例であり、水晶フィルタ素子の動作周波数や他の電気的パラメータによりその厚さが決定されるが、アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さとすることにより、水晶振動デバイスの挿入損失を良好に保つとともに、挿入損失のバラツキを抑制することができ、電気的特性の安定した水晶振動デバイスを得ることができる。また直列抵抗等の電気的特性も良好に維持することができる。
【0048】
以上の蒸着マスクを用いた電極形成により、ATカット水晶振動板の表面に共通電極が、裏面に分割電極が形成された水晶フィルタ素子2,3を得ることができる。
以上の水晶フィルタ素子をベースの接続電極に導電接合する。具体的にはベースの接続電極上に導電性接合材Sを塗布する。塗布には所定量の導電性樹脂接合材を供給できるディスペンサを用いた。その後、接続電極12,13,16,17上に水晶フィルタ素子2を搭載することにより、接続電極12と引出電極22a、接続電極13と引出電極21a,接続電極17と引出電極23aが導電性接合材Sにより導電接合される。
【0049】
また接続電極14,15,16,17上に水晶フィルタ素子3を搭載することにより、接続電極16と引出電極32a、接続電極14と引出電極33a,接続電極15と引出電極31aが導電性接合材Sにより導電接合される。
【0050】
導電性樹脂接合材Sを加熱により硬化させた後、ベースの開口部を向いている各共通電極に対して周波数調整を行う。周波数調整は共通電極の金属膜上に付加的に金属膜を部分的に形成するパーシャル蒸着法や共通電極の表面を一部除去するイオンエッチング法により行う。
【0051】
他の実施の形態について図面に基づいて説明する。図3と図4は1つの水晶フィルタ素子を用いた表面実装型の水晶フィルタを示す図であり、図3は気密封止前の平面図、図4は図3のB−B断面図であって、リッド7にて気密封止した状態の図である。
【0052】
ベース5はその内外部に金属膜からなる配線が施されたセラミックスからなり、全体として外形が、上部が開口した長辺と短辺と高さを有する箱形構成である。またベース1の四隅の側面には角が切り欠かれたキャスタレーション511,512,513,514が形成され、当該キャスタレーション内に各々側面電極(図示せず)が形成されている。これら各側面電極はその一部または全部が後述の外部接続端子(図示せず)に接続されている。
【0053】
ベース5は底部50と底部の外周近傍から上方に伸長した堤部51を有する構成であり、堤部51の内側には収納部5Aが形成されている。上記構成により、堤部51はベース5の外周に形成され、また堤部の上面には周状に金属リング51aが形成されている。当該金属リング51aはコバール(kovar)からなり、その表面に金膜またはニッケル膜がメッキ等の手法により形成されている。
【0054】
収納部5A内には接続電極52,53,54,55が各々形成されている。各接続電極は収納部の底面であって内壁に近接または接した状態で形成されており、接続電極52,53,54,55は収納部の内側の四隅に各々形成されている。これら接続電極は平面視矩形状であり、タングステン(W)のメタライズ金属層上にニッケル(Ni)、金(Au)の順で金属層がメッキ等の手法により形成することにより構成される。また各接続電極は前述の外部接続端子に適宜接続されている。外部接続端子は図示していないが、ベースの底面(実装する基板との対向面)に設けられており、入力用外部接続端子と出力用外部接続端子と、複数のアース接続端子が形成されている。
【0055】
収納部5Aには水晶フィルタ素子6が収納されている。水晶フィルタ素子6は板状のATカット水晶振動板からなり、平面視矩形状で長辺と短辺を有している。水晶フィルタ素子6には一方の主面(表面)に1つの電極からなる共通電極61が形成され、他方の主面(裏面)には2つの電極からなる分割電極62,63が形成されている。これら共通電極と分割電極は励振電極を構成している。共通電極61は平面視矩形状で水晶フィルタ素子6の長辺と略平行に長辺を有し、また水晶フィルタ素子6の短辺と略平行に短辺を有する構成である。
【0056】
分割電極62,63は前記共通電極61に対応して形成され、共通電極61の長辺方向に各分割電極62,63が並列する配置となっている。分割電極62,63も平面視矩形形状であり、分割電極の長辺が前記共通電極の短辺に対応した配線および寸法を有している。
【0057】
共通電極61は引出電極61aにより水晶フィルタ素子の一つの隅部に電極が引き出され、分割電極62は引出電極62aにより、また分割電極63は引出電極63aによりそれぞれ水晶フィルタ素子の隅部に各々電極が引き出された構成である。以上の電極構成により、水晶フィルタ素子6はモノリシックフィルタを構成している。
【0058】
本実施の形態においては共通電極と分割電極の厚さを異ならせている。具体的には共通電極と当該共通電極に続く引出電極の電極材料の構成は、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層が形成されている。アルミニウム層の厚さは例えば1600オングストローム、銀層の厚さは例えば300オングストロームで合計1900オングストロームの厚さである。また、アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが約1/5程度薄い構成となっている。
【0059】
また分割電極と当該分割電極に続く引出電極の電極材料の構成は、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、当該アルミニウム層の上部に銀層が形成されている。アルミニウム層の厚さは例えば700オングストローム、銀層の厚さは例えば300オングストロームで合計1000オングストロームの厚さである。また、アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが約1/2程度薄い構成となっている。
【0060】
水晶フィルタ素子6は接続電極52,53,54,55上に搭載され、銀等の導電フィラーを含有したシリコーン系樹脂接合材等の導電性樹脂接合材Sにより各接続電極と導電接合される。これにより、共通電極61は接続電極53と、分割電極62は接続電極52と、分割電極23は接続電極54と各々導電接合される。以上の構成により、水晶フィルタ素子2が上記接続電極への導電接合され、2ポール型の水晶フィルタを構成している。
【0061】
リッド7は平面視矩形状で長辺と短辺を有する金属板からなり、前記収納部5Aを被覆し、前記金属リングの全周と接触する領域を有する構成である。具体的にはコア材としてコバール(kovar)を用い、表面にニッケル層を有する構成を有している。不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中でリッドをパッケージにシーム接合することにより、前記収納部内が不活性ガス雰囲気または真空雰囲気の状態で気密封止が行われる。
【0062】
上記実施の形態においては共通電極と分割電極の膜厚を異ならせている。これによりスプリアスが抑制され、また所望の電気的特性を有する水晶振動デバイスを得ることができる。また、上記構成によれば、水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄い構成であるので、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、そのバラツキを抑制することができる。
【0063】
<比較例>
本発明に関連する比較例を以下に示す。
第1の比較例
第1の比較例に用いた水晶振動デバイスは、水晶フィルタ素子 160MHz帯3倍波2ポール型水晶フィルタであり、水晶フィルタ素子および電極は以下の構成となる。水晶フィルタ素子2,3はATカット水晶板からなり、その外形サイズは長辺が約2.5mm、短辺が約2.0mm、厚さ約0.030mmの構成である。水晶フィルタの一方の主面に形成された共通電極(励振電極)の外形サイズは長辺が約1.2mm、短辺が約0.7mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせている。
【0064】
また水晶フィルタ素子の他方の主面に形成された分割電極(励振電極)はそれそれ同じサイズで、長辺が約0.7mm、短辺が約0.5mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせている。これら共通電極および分割電極に接続される引出電極の厚さも各共通電極および分割電極に対応して構成毎に異ならせている。
【0065】
上記励振電極の構成を変化させた各種膜構成のサンプルを膜構成毎に50個作成し、挿入損失の分布を確認した。構成1aは共通電極と分割電極にアルミニウム(Al)を1600オングストロームの厚さで形成したもので、構成1aにおける挿入損失の分布を図5に示す。
【0066】
構成1bは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を1200オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を100オングストロームの厚さで形成したもので、構成1bにおける挿入損失の分布を図6に示す。
【0067】
構成1cは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を1100オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を150オングストロームの厚さで形成したもので、構成1cにおける挿入損失の分布を図7に示す。
【0068】
構成1dは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を1000オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を170オングストロームの厚さで形成したもので、構成1dにおける挿入損失の分布を図8に示す。
【0069】
構成1eは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を900オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を180オングストロームの厚さで形成したもので、構成1eにおける挿入損失の分布を図9に示す。
【0070】
構成1fは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を800オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を200オングストロームの厚さで形成したもので、構成1fにおける挿入損失の分布を図10に示す。
【0071】
構成1gは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を700オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を220オングストロームの厚さで形成したもので、構成1gにおける挿入損失の分布を図11に示す。
【0072】
構成1hは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を600オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を250オングストロームの厚さで形成したもので、構成1hにおける挿入損失の分布を図12に示す。
【0073】
構成1iは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を400オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を300オングストロームの厚さで形成したもので、構成1iにおける挿入損失の分布を図13に示す。
【0074】
構成1jは共通電極と分割電極それぞれにアルミニウム(Al)を200オングストロームの厚さで形成し、その上に銀(Ag)を350オングストロームの厚さで形成したもので、構成1jにおける挿入損失の分布を図14に示す。
【0075】
比較例1においてはアルミニウムのみの電極構成やまたはアルミニウムの比率が極めて大きいアルミニウムと銀の積層構成の場合は、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキが大きいことが理解できる。
【0076】
またアルミニウムと銀の積層構成の場合、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2〜1/6の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを抑制することができ、さらにはアルミニウムに対して銀の厚さが1/3〜1/5の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失をさらに良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを極めて抑制できていることが理解できる。
【0077】
さらに、またアルミニウムと銀の積層構成において、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2以上になると、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキは良好であるが、挿入損失の値が全体として低下し、電気的特性の低下を招いていることも理解できる。
【0078】
第2の比較例
第2の比較例に用いた水晶振動デバイスは、水晶フィルタ素子を2つ用いた124MHz帯基本波4ポール型水晶フィルタであり、水晶フィルタ素子および電極は以下の構成となる。各水晶フィルタ素子はATカット水晶板からなり、その外形サイズは各々長辺が約1.5mm、短辺が約1.3mm、厚さ約0.013mmの構成である。水晶フィルタの一方の主面に形成された共通電極(励振電極)の外形サイズは長辺が約0.8mm、短辺が約0.4mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせた構成である。
【0079】
また水晶フィルタ素子の他方の主面に形成された分割電極(励振電極)は、それぞれ同じサイズで、長辺が約0.3mm、短辺が約0.2mmであり、電極の厚さを各構成毎に異ならせた構成である。なお共通電極および分割電極に接続される引出電極の厚さも共通電極および分割電極の厚さと同様の厚さに設定している。またこの比較例においては共通電極と分割電極の厚さを異ならせている。
【0080】
上記励振電極の構成を変化させた各種膜構成のサンプルを膜構成毎に50個作成し、挿入損失の分布を確認した。構成2aは共通電極にアルミニウム(Al)を2800オングストロームの厚さで形成し、分割電極にアルミニウム(Al)を1900オングストロームの厚さで形成したもので、図15に挿入損失の分布を示す。
【0081】
構成2bは共通電極にアルミニウム(Al)を2800オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を100オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を1500オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を100オングストロームの厚さで形成している。図16に挿入損失の分布を示す。
【0082】
構成2cは共通電極にアルミニウム(Al)を2000オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を200オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を1100オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を200オングストロームの厚さで形成している。図17に挿入損失の分布を示す。
【0083】
構成2dは共通電極にアルミニウム(Al)を1600オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を300オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を900オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を250オングストロームの厚さで形成している。図18に挿入損失の分布を示す。
【0084】
構成2eは共通電極にアルミニウム(Al)を1200オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を400オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を700オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を300オングストロームの厚さで形成している。図19に挿入損失の分布を示す。
【0085】
構成2fは共通電極にアルミニウム(Al)を800オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を500オングストロームの厚さで形成している。また分割電極はアルミニウム(Al)を500オングストロームの厚さで形成し、その上部に銀(Ag)を350オングストロームの厚さで形成している。図20に挿入損失の分布を示す。
【0086】
比較例2においても比較例1と同様の傾向を示し、アルミニウムのみの電極構成やまたはアルミニウムの比率が極めて大きいアルミニウムと銀の積層構成の場合は、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキが大きいことが理解できる。
【0087】
またアルミニウムと銀の積層構成の場合、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2〜1/6の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失を良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを抑制することができ、さらにはアルミニウムに対して銀の厚さが1/3〜1/5の範囲では、水晶振動デバイスの挿入損失をさらに良好にするとともに、挿入損失特性の分布バラツキを極めて抑制できていることが理解できる。なお、比較例2では共通電極に対して分割電極が薄く形成された構成であるが、このような場合においても、両電極ともアルミニウムに対して銀の厚さが1/2〜1/6の範囲とすることにより、良好な特性を確保できていることが理解できる。
【0088】
さらに、またアルミニウムと銀の積層構成において、アルミニウムに対して銀の厚さが1/2以上になると、水晶振動デバイスの挿入損失特性の分布バラツキは良好であるが、挿入損失の値が全体として低下し、電気的特性の低下を招いていることも理解できる。
【0089】
なお、上記各実施の形態において、水晶フィルタ素子を例示したが、これに代えて水晶振動素子を用いた共振子に適用してもよい。また発振回路を構成するIC素子を収納した水晶発振器に適用してもよい。
【0090】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
水晶フィルタ等の水晶振動デバイスの生産に適用できる。
【符号の説明】
【0092】
1、5 ベース
10、50 底部
11、51 堤部
21,31、61 共通電極
22,23,32,33,62,63 分割電極
2、3、6 水晶フィルタ素子(水晶振動板)
4、7 リッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動板の表裏面に励振電極及び引出電極を形成した水晶振動デバイスであって、
前記励振電極及び引出電極は水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、
前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄いことを特徴とする水晶振動デバイス。
【請求項2】
前記アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さであることを特徴とする請求項1記載の水晶振動デバイス。
【請求項3】
前記励振電極は前記水晶振動板の一方の主面に共通電極、他方の主面に分割電極が対抗して形成されたモノリシックフィルタを構成する電極構成であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の水晶振動デバイス。
【請求項1】
水晶振動板の表裏面に励振電極及び引出電極を形成した水晶振動デバイスであって、
前記励振電極及び引出電極は水晶振動板に接してアルミニウム層が形成され、前記アルミニウム層上に銀層が形成された構成であり、
前記アルミニウム層の厚さより銀層の厚さが薄いことを特徴とする水晶振動デバイス。
【請求項2】
前記アルミニウム層の厚さに対して銀層の厚さが1/2〜1/6の厚さであることを特徴とする請求項1記載の水晶振動デバイス。
【請求項3】
前記励振電極は前記水晶振動板の一方の主面に共通電極、他方の主面に分割電極が対抗して形成されたモノリシックフィルタを構成する電極構成であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の水晶振動デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−23677(P2012−23677A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161994(P2010−161994)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】
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