説明

水晶振動子

【課題】 金属ろう材が励振電極へ拡散することの悪影響をなくし、金属ろう材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子を提供する。
【解決手段】 金属リード端子11,12を有するベース1と、前記金属リード端子のインナー側に設けられた金属サポート13,14と、前記金属サポートに支持される電極形成された板状の水晶振動板2とからなる水晶振動子であって、前記金属サポートは水晶より低熱膨張性の金属材料からなり、金属片を金属ろう材と当該金属ろう材の融点より耐熱温度の高い導電性樹脂接着剤との間に介在させながら、前記金属ろう材と前記金属片、および前記導電性樹脂接着剤と前記金属片をお互いに接合することで、前記金属サポートに前記水晶振動板が接合されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水晶振動子に関するものであり、水晶振動板を保持する金属サポートの構造を改善するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は共振特性に優れることから、周波数、時間の基準源として広く用いられており、水晶振動板の表面に金属薄膜電極を形成し、この金属薄膜電極を外気から保護するため、パッケージ体により気密封止されている。
【0003】
このうちOCXOと称される恒温槽型水晶発振器に用いられる水晶振動子では、金属性のパッケージ体が用いられているのが現状である。具体的には、金属ベースにはガラスなどの絶縁材を介して一対の金属リード端子が植設されており、当該金属リード端子のインナーリード部分には、一対の金属平板のサポート部材が対向して取り付けられている。水晶振動板は、例えば、厚みすべり振動してなるATカット水晶振動板であり、表裏面には励振電極と、各励振電極からの引出電極が形成されている。そして、前記金属サポートの上に水晶振動板が搭載され、導電接合材により電気的機械的に接続されるとともに、前記金属ベースに金属製の蓋を被せて気密封止する構成となっている。
【0004】
なお、OCXOは外部の温度変化に影響することなく、水晶振動子を恒温槽内で温度制御することにより周波数の高安定化を行ったものであり、周波数安定度として1×10-7〜1×10-10程度の水晶振動子で得られる最高水準の周波数安定度を得ることができるため、無線基地局や伝送ラインなどの基準周波数として利用されている。
【0005】
特許文献1では、このようなOCXOに用いられる良好なエージング特性が得られるAuGe(金―ゲルマニウム)などの金属ろう材が用いられた高安定向け水晶振動子の保持構造に対する改善構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−186839号公報
【特許文献2】特開2009−225427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AuGe(金―ゲルマニウム)などの金属ろう材を用いて接合する場合、固形状の金属ろう材ペレットや金属ろう材ボールなどを用いて金属サポートと水晶振動板の間に介在させながら、それぞれを位置決め固定した状態で加熱し前記金属ろう材を溶融して接合する。しかしながら、上記特許文献1の構成では、金属サポートの水晶振動板保持部と水晶振動板の接続電極を金属ろう材を介してお互いに溶融接合する際に、加熱の状態により金属ろう材が励振電極に向かって拡散して金属サポートの水晶振動板保持部と前記水晶振動板の接続電極に介在する金属ろう材が過少状態となることがあった。このため金属サポートと水晶振動板の電気的機械的な接合不良が生じることがあった。また励振電極に金属ろう材が拡散することで水晶振動子の電気的特性の低下を招くという問題点もあった。特に高安定向けの水晶振動子では水晶振動板に形成される電極が金を主成分とする電極材料からなり、AuGe(金―ゲルマニウム)などの金系合金ろう材を用いるため、このような金属ろう材が拡散することによる悪影響が大きい。
【0008】
これらの問題を解決するための従来の手法としては、特許文献2に示すように、金属サポートと水晶振動板との接合が完了した後に、電極形成することで金属ろう材の拡散を防止していた。しかしながらこのような手法では、水晶振動板単体に電極形成する場合に比べて、電極形成する際のズレも生じやすく電気的特性にもばらつきが生じやすいという問題や、金属サポートと水晶振動板が予め接合された部分の上部に電極形成することで最終的な導通を確保することから導通性能が低下する可能性があるなどの問題があった。
【0009】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、金属ろう材などの導電性接合材が励振電極へ拡散することの悪影響をなくし、金属ろう材などの導電性接合材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の水晶振動子は、少なくとも2本の金属リード端子が絶縁材を介して貫通植設されてなるベースと、前記金属リード端子のインナー側に設けられた金属サポートと、前記金属サポートに支持される電極形成された板状の水晶振動板とからなる水晶振動子であって、前記金属サポートは水晶より低熱膨張性の金属材料からなり、前記金属サポートと金属ろう材とが接合され、前記金属ろう材の融点より耐熱温度の高い導電性樹脂接着剤と前記水晶振動板の電極とが接合されてなるとともに、前記金属ろう材との表面のぬれ性が高い金属片を前記金属ろう材と前記導電性樹脂接着剤との間に介在させながら、前記金属ろう材と前記金属片、および前記導電性樹脂接着剤と前記金属片をお互いに接合することで、前記金属サポートに前記水晶振動板が接合されてなることを特徴とする。
【0011】
上記構成により、外部環境温度の変化により金属サポートの熱膨張が水晶振動板に比べて生じることがほとんどなくなり、金属サポートから水晶振動板に対して環境温度の変化による応力を与えることがなくなることで、経年変化に対する応力もより一層抑制できる。また電極の一部が金属ろう材の融点より耐熱温度の高い導電性樹脂接着剤により被覆され、当該導電性樹脂接着剤と金属片が金属ろう材の流れ止め用の防壁として機能することで、金属ろう材が水晶振動板の電極領域に向かって流れ出して拡散することがなくなる。このため金属ろう材が過少状態となるのを回避し、金属サポートと水晶振動板の電気的機械的な接合不良が生じることがなくなる。また、金属ろう材との表面のぬれ性が高い金属片と金属ろう材とを接合することで、お互いの電気的機械的な接合強度を向上させることができるだけでなく、当該金属片と導電性樹脂接着剤とを接合することで、当該金属片が導電性樹脂接着剤に埋め込まれてアンカー材として機能し、これらの接合強度も向上させることができる。つまり、前記金属ろう材との表面のぬれ性が高い金属片を前記金属ろう材と前記導電性樹脂接着剤との間に介在させながら、前記金属ろう材と前記金属片、および前記導電性樹脂接着剤と前記金属片をお互いに接合することで、前記金属サポートや金属片との電気的な接続性が安定しかつ比較的機械的な接合強度が高い金属ろう材が金属サポートと金属片との接合主体として構成され、前記水晶振動板との機械的な接合強度が高くかつ比較的電気的な接続性も安定した導電性樹脂接着剤が水晶振動板の電極と金属片との接合主体として構成されることで、金属サポートと水晶振動板との全体としての電気的な接続性と機械的な接合強度も格段に向上させることができる。そしてエージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子を提供することができる。
【0012】
また、上述の金属サポート構成において、低熱膨張性の金属材料として、ニッケル鉄系の低熱膨張性の合金からなり、例えば水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近いインバー、スーパーインバーを用いてもよい。これらの金属サポートを用いることで、上述の作用効果が得られる高安定向けの水晶振動子に望ましい最適材料が選択できる。
【0013】
また、上述の金属サポート構成において、前記金属ろう材との表面のぬれ性が高い金属片として、銅片あるいは表面に銅メッキが形成された金属片を用いてもよい。これらの金属片を用いることで、金属ろう材と金属片との電気的機械的な接合強度が格段に向上し、かつ熱伝導性も高めることで特性の向上に貢献できる。またCu(銅)メッキのものでは比較的安価で安定供給できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、金属ろう材などの導電性接合材が励振電極へ拡散することの悪影響をなくし、金属ろう材などの導電性接合材を用いて金属サポートと水晶振動板を接合する際の接合性が良好で、エージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態を示す分解斜視図。
【図2】図1を組み立てた状態の正面図。
【図3】図2の正面図のX−X線に沿う断面図。
【図4】図3の一部拡大図。
【図5】本発明の実施形態の製造工程を示す模式図。
【図6】本発明の他の実施形態を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明による実施の形態を、水晶振動子を例にとり、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態を示す分解斜視図であり、図2は図1を組み立てた状態の正面図、図3は図2の正面図のX−X線に沿う断面図、図4は図3の一部拡大図である。図5は本発明の実施形態の製造工程を示す模式図。図6は他の実施形態を示す分解斜視図である。なお、各形態において同様の部分については同番号を付すとともに特に必要がなければ説明の一部を割愛している。
【0017】
−本発明の実施形態−
ベース1は全体として低背の長円柱形状であり、金属製のシェルを主とするベース本体10に金属リード端子11,12が貫通して植設された構成であり、絶縁ガラスGがベース本体の一部に充填されることにより、これら金属リード端子11,12は電気的に独立して一体形成されている。
【0018】
金属リード端子11,12は細長い円柱形状であり、例えばベース上部のインナー側の先端部11a,12aは幅広で上部が平らな釘頭形状に形成されている。このインナーリードの先端部には、後述する金属サポート13,14が溶接の手法(レーザー溶接、スポット溶接等)により対向して取り付けられている。このため、前記金属サポートを金属リード端子に搭載する場合に傾く事なく水平に安定し搭載でき、溶接面積も拡大するので、接合強度が向上し、金属サポートを金属リード端子溶接する際の信頼性が飛躍的に向上する。
【0019】
金属サポート13,14は、例えばニッケル鉄系の低熱膨張性の合金で、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近いもの、あるいは水晶の熱膨張係数に近似している金属材料を用いている。具体的に三菱マテリアル株式会社製のものであれば、MA―INV36<Fe-36Ni>(インバー/アンバー)、MA−S−INVER<Fe-32Ni-5Co>(スーパーインバー)、MA902<Fe-42Ni-Cr-Ti>(NI−SPAN−C)等があげられる。このような金属サポート13,14は、前記金属リード端子と接合されるリード接続部131,141と、断面略コ字形状で後述する水晶振動板を挟み込んだ状態で保持する水晶振動板保持部132,142とを有している。
【0020】
また前記金属サポートの水晶振動板保持部132,142には後述する金属ろう材3が溜まる金属サポートの金属ろう材溜まり部133,143が形成されている。本形態では金属サポートの金属ろう材溜まり部133,143の形状を例えば中央に凸部その周囲にU字状の凹形状により構成している。なお金属サポートの金属ろう材溜まり部133,143はこのような形状に限定されるものではないが、本形態のU字状のようにサポートの上端部にかけて凹部あるいは凸部が端部まで延出した構成することで、対向する金属サポートの間隔を押し広げることなく後述する金属ろう材3のペレットと金属片5とを凹部あるいは凸部に沿って挿入できるため、金属サポートに対して不要な応力がかかるのを抑制できるうえでより好ましい。
【0021】
また金属サポートの水晶振動板保持部132,142の一部には窓部134,144が形成されている。この窓部134,144は切欠部や穴部などにより構成することができ、後述する導電性樹脂接着剤4の一部が外部表面に露出されるよう形成されている。
【0022】
水晶振動板2は例えばATカット水晶振動板からなり、片面プラノ研磨加工された円盤形状に構成されている。この水晶振動板2の表裏主面上には、励振電極25,26と引出電極27,28、引出電極27,28の端部電極である接続電極23,24が形成されている。これら電極は金を主成分とする電極材料により構成されており、例えばCr(クロム)やNi(ニッケル)の下地電極層の上面にAu(金)電極層が形成されている。また水晶振動板の主面の中心点Oを通過するZ’軸に対して当該中心点から板面が+30°あるいはー30°回転させた回転軸と当該水晶振動板の端部が交差し、対向する2点の交差点A,Bの端部にはそれぞれ図示しないオリエンテーションフラットが形成されている。このオリエンテーションフラットを含む近傍領域には、例えば、ダイヤモンド♯600の砥石により、表面粗さ5μm程度の粗面領域21,22が形成されている。この粗面領域21,22の上面には接続電極23,24が位置するように形成されており、後述する導電性樹脂接着剤4が粗面領域21,22の上部で接合されることで、さらなる接合強度の向上に貢献している。なお粗面領域21,22は砥石に限らず他の手法で構成してもよい。また粗面領域21,22はオリエンテーションフラットを含む近傍領域に形成したものに限らず、オリエンテーションフラットの端面領域のみに形成したものであってもよい。
【0023】
金属ろう材3は例えばAuGe(金―ゲルマニウム、融点360℃前後)、AuSn(金―錫、融点280〜300℃前後)などの金系合金ろう材を用いている。このため電極材料や金属ろう材が酸化等の電気的特性の劣化が生じにくい安定した材料となるので、エージング特性もさらに高めることができる。
【0024】
導電性樹脂接着剤4は例えば銀などの金属粉が含有されたポリエーテルサルフォン樹脂からなり、熱分解温度の測定方法による耐熱温度が460℃以上のものを用いている。このため金属ろう材3の融点より耐熱温度の高く、かつ加熱硬化によるガスの発生が少ない最適な導電性樹脂接着剤4が得られる。
【0025】
金属片5は金属ろう材3との表面のぬれ性が高い金属片であり、Cu(銅)片やAu(金)片、あるいは表面にCu(銅)メッキやAu(金)メッキが形成された金属片を用いることで、金属ろう材3と金属片5との電気的機械的な接合強度が格段に向上し、かつ熱伝導性も高めることで特性の向上に貢献できる。特にCu(銅)片やCu(銅)メッキを用いる構成では、比較的安価で安定供給できる。
【0026】
以下、上述の構成物を使用した水晶振動子の構成とその製造方法について図5とともに説明する。図5(a)に示すように、水晶振動板2の表裏主面上には、励振電極25,26(裏面の26については図示せず)と引出電極27,28、引出電極27,28の端部電極である接続電極23,24が真空蒸着法やスパッタリング等の手段にて一体的に形成されている。また接続電極23,24の下面には、あらかじめエッチングなどの手法によって粗面領域21,22が形成されている。
【0027】
次に、図5(b)に示すように、水晶振動板2の粗面領域21,22の上部でかつ接続電極23,24の上部には、ポリエーテルサルフォン樹脂からなる導電性樹脂接着剤4が塗布される。その後、図5(c)に示すように、この導電性樹脂接着剤4の上部に金属片5と固形状の金属ろう材3が取り付けられ、固形状の金属ろう材3と接続電極23,24とが直接接触しない状態で固形状の金属ろう材3と導電性樹脂接着剤4が接合される。
【0028】
次に、図5(d)に示すように、金属サポート13,14に上述のように固形状の金属ろう材3と金属片5と導電性樹脂接着剤4が接合された水晶振動板2が搭載される。この際、金属サポート13,14の金属ろう材溜まり部133,143に、水晶振動板2の固形状の金属ろう材3が取り付けられた部分が近接した状態で配置搭載する。
【0029】
次に、図5(e)に示すように、上記金属ろう材溜まり部133,143と固形状の金属ろう材3とが近接した状態で金属サポートの水晶振動板保持部132,142に対して金属ろう材3と水晶振動板2が取り付けられた気密封止前のベース1(封止前水晶振動子)を加熱炉に搬入する。加熱炉は例えば高真空アニール炉が用いられており、真空雰囲気中で前記封止前水晶振動子全体(ベース)を加熱する。そして例えば金属ろう材3の融点以上の温度に加熱することで、金属サポート13,14の水晶振動板保持部132,142と、水晶振動板2に導電性樹脂接着剤4と金属片5を介して接合された金属ろう材3とが接合される。結果として、図3、図4の断面図に示すように、金属サポート13,14と金属ろう材3とが接合され、水晶振動板2の接続電極23,24と導電性樹脂接着剤4とが接合されてなるとともに、金属ろう材3との表面のぬれ性が高い金属片5を金属ろう材3と導電性樹脂接着剤4との間に介在させながら、金属ろう材3と金属片5、および導電性樹脂接着剤4と金属片5をお互いに接合することで、金属サポート13,14に水晶振動板2が電気機械的に接合されてなる。
【0030】
以上のように構成された封止前水晶振動子は、ベースに図示しない蓋を被覆し例えば真空雰囲気中で気密封止することで第1の実施形態の水晶振動子が完了する。
【0031】
上記実施形態により、外部環境温度の変化により金属サポート13,14の熱膨張が水晶振動板2に比べて生じることがほとんどなくなり、金属サポート13,14から水晶振動板2に対して環境温度の変化による応力を与えることがなくなることで、経年変化に対する応力もより一層抑制できる。また接続電極23,24が導電性樹脂接着剤4により被覆され、当該導電性樹脂接着剤4と金属片5が金属ろう材3の流れ止め用の防壁として機能し、金属ろう材3が水晶振動板2の接続電極23,24から引出電極27,28を経由して励振電極25,26に向かって流れ出して拡散することがなくなる。金属ろう材3が過少状態となるのを回避し、金属サポート13,14と水晶振動板2の電気的機械的な接合不良が生じることがなくなる。また、金属ろう材3との表面のぬれ性が高い金属片5と金属ろう材3とを接合することで、お互いの電気的機械的な接合強度を向上させることができるだけでなく、当該金属片5と導電性樹脂接着剤4とを接合することで、金属片5が導電性樹脂接着剤4に埋め込まれてアンカー材として機能し、これらの接合強度も向上させることができる。つまり、金属片5を金属ろう材3と導電性樹脂接着剤4との間に介在させながら、金属ろう材3と金属片5、および導電性樹脂接着剤4と金属片5をお互いに接合することで、金属サポート13,14や金属片5との電気的な接続性が安定しかつ比較的機械的な接合強度が高い金属ろう材3が金属サポート13,14と金属片5との接合主体として構成され、水晶振動板2との機械的な接合強度が高くかつ比較的電気的な接続性も安定した導電性樹脂接着剤4が水晶振動板2の電極と金属片5との接合主体として構成されることで、金属サポート13,14と水晶振動板2との全体としての電気的な接続性と機械的な接合強度も格段に向上させることができる。そしてエージング特性が良好なより信頼性の高い高安定向け水晶振動子を提供することができる。
【0032】
−本発明の他の実施形態−
次に、本発明の他の実施形態の水晶振動子の構成について、図6とともに説明する。図6の実施形態では、上記実施形態に対して金属サポート13,14の構成の一部が異なっているだけであり、基本的な構成及び製造方法等は同様である。そこで同様の部分については同番号を付して説明の一部を省略するとともに相違点のみを説明する。金属サポート13,14は、例えばニッケル鉄系の低熱膨張性の合金で、水晶の熱膨張係数の半分ぐらいから熱膨張係数がゼロに近いもの、あるいは水晶の熱膨張係数に近似している金属材料を用いている。このような金属サポート13,14の外部表面には当該金属サポートより熱伝導率の高い金属膜Mが形成されている。より具体的には厚みが0.1mmのインバーなどの金属母材の表裏主面に3〜10μmのCu(銅)メッキからなる金属サポート13,14より熱伝導率の高い金属膜Mを形成した。
【0033】
このような構成により、金属サポート13,14が環境温度の変化により熱膨張が生じることがほとんどなくなるか、水晶振動板2と金属サポート13,14の熱膨張差が生じることがほとんどなくなるため、金属サポート13,14から水晶振動板2に対して環境温度の変化による応力を与えることがなくなり、経年変化に対する応力もより一層抑制できる。つまりエージング特性もさらに高めることができる。また、熱伝導率の高い金属膜Mが金属サポート13,14の外部表面に形成されていることで、環境温度の変化による水晶振動子のパッケージ体(蓋と金属等)外部の温度に対して前記金属膜Mが遅れなく水晶振動板2に温度を伝え、温度差が生じることがほとんどなくなる。結果として、より安定した周波数温度特性を得ることができる。またOCXOとして水晶振動子を利用する場合、水晶振動子を恒温槽内で所定温度まで加熱し周波数が安定するまでの時間もより短時間で起動させることができる(起動特性の向上)。
【0034】
このような金属膜Mを形成する場合、金属サポート13,14の表裏主面に形成することがより望ましい。これは金属膜Mを金属サポート13,14の表裏主面に形成することで金属サポート全体としての熱変形に偏りが生じることがなくなり、水晶振動板2に対して余分な応力をかけることがない。なお、上述の金属膜Mを形成することによる効果は、真空雰囲気で気密封止された高安定向け水晶振動子に特に有効である。真空雰囲気で気密封止されると、外部環境に対する温度差はパッケージ体外部からの輻射熱による影響はなく、金属リード端子11,12と金属サポート13,14を介した伝熱のみの影響が強まるため、熱伝導性を高める金属膜Mによる恩恵が特に生じやすい。
【0035】
また、熱伝導率の高い金属膜MとしてCu(銅)メッキが好ましい。Cu(銅)メッキを用いることで、上述の作用効果が得られる高安定向けの水晶振動子に望ましい最適材料が選択できる。つまり、Cu(銅)は金属ろう材3が溶融する際に濡れ性がよく、金属ろう材3による接合力を向上させることができる。Au(金)やAg(銀)などの熱伝導率の高い他の貴金属に比べて安価で安定供給できる熱伝導性能の極めて高い金属材料であり、Cu(銅)メッキも汎用されるメッキ浴を用いて比較的安価かつ容易にメッキ形成することができるものである。また、Cu(銅)はインバーなどと同じエッチング液により加工することができるため、Cu(銅)とインバー、あるいはスーパーインバーとの組み合わせることで、加工性が高いサポート材料が得られる。なお、Cu(銅)メッキにより金属膜Mを構成する場合には、その膜厚を3〜10μm程度に形成することがより望ましい。このようにCu(銅)の膜厚を設定することで、コストを抑えながら安定した伝熱性を維持し、サポート全体としての低熱膨張性能の維持や不要な熱応力の悪影響をなくすことができる。Cu(銅)メッキとして3μmより薄く形成すると伝熱性が低下する。Cu(銅)メッキとして10μmより厚く形成すると金属サポートの曲げ加工等によりメッキの割れの危険性が増したり、サポート全体としての熱膨張性能にも悪影響が生じ水晶振動板に対して不要な熱的な応力を加わりやすくなる危険性が高まる。またこの金属膜Mは金属片5の材料と同材質のものを組み合わせることが好ましく、金属膜MとしてCu(銅)メッキを用いた場合、金属片5はCu(銅)片やCu(銅)メッキを用いると製造面や特性面でもより好ましい。
【0036】
なお、上述の実施形態の構成に限らず、前記リード端子のインナーリード先端部が、釘頭形状のもののみを例にしているが、通常のインナーリード形状のものにでも適用できる。ATカット水晶振動板に限らずSCカットなど他の水晶振動板であってもよい。金属膜Mを金属サポートの表裏のうち一主面に形成したり、部分的に形成してもよい。またCu(銅)メッキに限らずAu(金)、Ag(銀)、Al(アルミ)などの金属膜で形成してもよい。
【0037】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施できるので、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求範囲によって示すものであって、明細書本文に拘束されるものではない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動デバイスに適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ベース
10 ベース本体
11,12 リード端子
13,14 金属サポート
2 水晶振動板
3 金属ろう材
4 導電性樹脂接着剤
5 金属片
M 金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本の金属リード端子が絶縁材を介して貫通植設されてなるベースと、前記金属リード端子のインナー側に設けられた金属サポートと、前記金属サポートに支持される電極形成された板状の水晶振動板とからなる水晶振動子であって、
前記金属サポートは水晶より低熱膨張性の金属材料からなり、
前記金属サポートと金属ろう材とが接合され、
前記金属ろう材の融点より耐熱温度の高い導電性樹脂接着剤と前記水晶振動板の電極とが接合されてなるとともに、
前記金属ろう材との表面のぬれ性が高い金属片を前記金属ろう材と前記導電性樹脂接着剤との間に介在させながら、前記金属ろう材と前記金属片、および前記導電性樹脂接着剤と前記金属片をお互いに接合することで、前記金属サポートに前記水晶振動板が接合されてなることを特徴とする水晶振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−250090(P2011−250090A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120630(P2010−120630)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】