説明

水柱観測装置

【課題】係留索の固定箇所に制約されずに広範囲に水柱が観測できる水柱観測装置を提供する。
【解決手段】水底Bに下端を固定した係留索2の上端に浮力材3を取り付けて前記係留索2を水中に立ち上げ、前記係留索2にセンサ4を取り付け、前記係留索2を移動させることにより、前記センサ4を前記下端固定箇所より離れた所望の場所まで移動させてその場所の水柱における物理量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係留索の固定箇所に制約されずに広範囲に水柱が観測できる水柱観測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋開発においては、環境汚染対策として、開発開始前に海洋環境調査を行っておき、開発中や開発終了後の生産稼働時にも海洋環境調査を行って海洋環境の変化を調べるようにしている。このような人間の生産活動に伴う環境への影響を常時監視することは重要である。海洋に限らず湖沼、河川等でも水中での環境調査は行われる。また、開発現場に限らず、海底火山、湖底火山、泥火山、熱水鉱床なども水中での調査の対象となる。
【0003】
これらの環境調査のための観測装置として水柱観測装置がある。水柱とは、所定の水平領域、例えば、ある半径の円の領域を鉛直方向に伸ばした立体空間を言う。水中に噴出するガスなどは、気泡のまま上昇したり、水中に溶け込んで上昇したりする。よって、そのガスが含まれている水平領域に立てた水柱を観測すれば、水底でのガス噴射量を知ることができる。
【0004】
従来の定置型の水柱観測装置は、係留型観測装置とも呼ばれ、上端に浮力材を取り付けた係留索の下端を水底に固定し、係留索の途中に各種センサを取り付けたものである。浮力材により係留索が水底から例えば数百m立ち上げた状態となり、センサは水底から適宜な高さに設置されていることになる。また、係留索の長手方向に沿わせて複数箇所に同種のセンサを配置したり、センサが上下移動できるようにすることで、水柱内の鉛直方向の物理量変化を測定することもできる。
【0005】
母船(又は水上の定置設備)から係留索下端までケーブルを敷設し、係留索下端から係留索に沿わせてセンサまでケーブルを設けることにより、測定データはリアルタイムで母船に送ることができる。センサで各種の物理量(ガス濃度、水温、流速等)を常時測定し、測定データを母船に送ることにより、リアルタイムに観測を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−338189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、水底から立ち上げた係留索に各種センサを取り付けた従来の水柱観測装置は、その設置位置における鉛直方向の物理量変化を計測の対象としており、水底側の事情により係留索を固定できない場合には当該水底の直上の水柱にセンサを配置することができず当該水柱を観測できない。例えば、ガスが吹き出している場所では岩盤が脆弱であるため、係留索を固定できないことがあり、水柱におけるガス濃度を測定できない。
【0008】
また、従来の水柱観測装置は、当該水柱における物理量は測定できても、当該水柱から離れた場所の物理量は測定できないので、広域を観測したい場合、水柱観測装置を複数箇所に設置するしかない。
【0009】
これに対して、自律航行可能な水中航行体にセンサを搭載してその水中航行体を走行させて物理量を測定すれば、水底側の事情とは関係なく任意の場所にセンサを運ぶことができ、また、広域を観測することができる。しかし、水中航行体は、測定データを蓄積するようになっており、母船に回収するまで、測定データを取り出すことができないため、リアルタイムに観測ができない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、前記課題を解決し、係留索の固定箇所に制約されずに広範囲に水柱が観測できる水柱観測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために本発明の水柱観測方法は、水底に下端を固定した係留索の上端に浮力材を取り付けて前記係留索を水中に立ち上げ、前記係留索にセンサを取り付け、前記係留索を移動させることにより、前記センサを前記下端固定箇所より離れた所望の場所まで移動させてその場所の水柱における物理量を測定するものである。
【0012】
水中に自律航行可能な水中航行体を航行させ、前記係留索に前記水中航行体を捕捉するトラップを取り付け、前記トラップに捕捉された前記水中航行体を航行させて、前記係留索を移動させてもよい。
【0013】
また、本発明の水柱観測装置は、水底に下端が固定される係留索と、前記係留索の上端に取り付けられた浮力材と、前記係留索に取り付けられたセンサと、前記係留索を移動させることにより、前記センサを前記下端固定箇所より離れた所望の場所まで移動させる移動手段とを備えたものである。
【0014】
前記移動手段は、水中を自律航行可能な水中航行体と、前記係留索に取り付けられ、前記水中航行体を捕捉するトラップとからなってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0016】
(1)係留索の固定箇所に制約されずに広範囲に水柱が観測できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態を示す水柱観測装置の構成図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明に用いるトラップの実施形態を示す水柱観測装置の上部分の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
図1に示されるように、本発明に係る水柱観測装置1は、水底Bに下端が固定される係留索2と、係留索2の上端に取り付けられた浮力材3と、係留索2に取り付けられたセンサ4と、係留索2を横方向(以下、水平方向と言うが、厳密に水平である必要はない)に移動させることにより、センサ4を下端固定箇所より横方向に離れた所望の場所まで移動させる移動手段5とを備えたものである。
【0020】
水底Bは、例えば、水深数百mの海底である。水底Bに下端が固定され上端に浮力材3が取り付けられた係留索2は、水底から鉛直方向に立ち上げた状態となる。この係留索2の下端から上端までの適宜な箇所に各種の物理量を測定するセンサ4が取り付けられる。
【0021】
図示しないが、母船(又は水上の定置設備)から係留索2の下端まで通信用ケーブルを敷設し、係留索2の下端から係留索2に沿わせてセンサ4まで通信用ケーブルを設けることにより、測定データはリアルタイムで母船に送ることができる。
【0022】
本発明においては、係留索2の比較的上方を水平方向に移動させて、係留索2を鉛直軸に対して傾けることにより、センサ4を水平方向に移動させることができる。
【0023】
係留索2を水平方向に移動させる移動手段5としては、水中に一様な流れがある場合には、パラシュートのような抵抗体を係留索2に取り付けてもよい。水中に流れがない場合やその他の事情で抵抗体が利用できない場合には、水中ロボット(母船などの水上航行体から索で繋がれ曳航されるもの)、自律航行する水中航行体などを利用するとよい。また、浮力材3に推進機構を取り付けたり、係留索2に推進機構を取り付けてもよい。
【0024】
水中ロボットや水中航行体を利用する場合、係留索2を水平方向に移動させるだけでなく、水平方向の移動量を半径とする水平円に沿って係留索2を移動させることにより、より広域にセンサ4を移動させることが可能となる。さらに、センサ4を係留索2に沿わせて上下移動させることで三次元的な物理量の分布も可能となる。
【0025】
ここでは、移動手段5として、水中を自律航行可能な水中航行体6と、係留索2に取り付けられ、水中航行体6を捕捉するトラップ7(図2参照)とから構成する。
【0026】
トラップ7は、図2(a)に示されるように、水中航行体6にフック8を取り付け、このフック8に係合するリング9を係留索2に取り付けて構成してもよい。また、図2(b)に示されるように、係留索2に片側が大きく開口し反対側が閉じたコーン形状のトラップ7、図2(c)に示されるように、ベル形状のトラップ7を取り付けておき、水中航行体6はトラップ7に突っ込んでいくようにしてもよい。この場合、トラップ7に捕捉されている水中航行体6を後進させることでトラップ7から離脱させることができる。
【0027】
本発明の水柱観測装置1の作用を説明する。
【0028】
本発明の水柱観測装置1は、水底Bに下端を固定した係留索2の上端に浮力材3を取り付けて係留索2を水中に立ち上げ、係留索2にセンサ4を取り付け、係留索2を移動させることにより、センサ4を下端固定箇所より離れた所望の場所まで移動させることができるので、その離れた場所の水柱における物理量を測定することができる。
【0029】
これにより、例えば、海底からの湧水、泥火山からのガス放出等の現場において、水底Bが脆弱になっていたり、熱水やガスが噴出する危険な場所から水平方向に離れた安全な海底に係留索2を固定し、現場直上までセンサ4を移動させて配置することが可能となる。
【0030】
熱水鉱床を観測する場合、吹き出し口が非常に高温であるため、吹き出し口にはセンサ4を配置できない。そこで、吹き出し口の上部にセンサ4を配置することになるが、この場合も、本発明により、吹き出し口から離れた場所に係留索2を固定し、係留索2を移動させて吹き出し口の上部までセンサ4を移動させることができる。
【0031】
本発明は、特に、ガス分析器などのように直接その場所の物理量を測定するセンサを使用する場合に好適である。
【0032】
以上説明したように、本発明の水柱観測装置1は、水底Bに係留索2を固定できない場所であっても、その上方の水柱にセンサ4を配置して観測することができる。
【0033】
また、本発明の水柱観測装置1は、水底Bに係留索2を固定した定置型でありながら、センサ4を移動させて広域観測ができる。したがって、従来の定置型の水柱観測装置を複数基設置して広域観測をしていたところを、本発明の水柱観測装置1を1基設置しただけで、広域観測ができる。
【0034】
また、本発明の水柱観測装置1を複数基設置して、さらに広域を観測する場合に、水中航行体6は1台のみとし、複数基の水柱観測装置1の係留索2を水中航行体6でひとつずつ移動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 水柱観測装置
2 係留索
3 浮力材
4 センサ
5 移動手段
6 水中航行体
7 トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に下端を固定した係留索の上端に浮力材を取り付けて前記係留索を水中に立ち上げ、前記係留索にセンサを取り付け、前記係留索を移動させることにより、前記センサを前記下端固定箇所より離れた所望の場所まで移動させてその場所の水柱における物理量を測定することを特徴とする水柱観測方法。
【請求項2】
水中に自律航行可能な水中航行体を航行させ、前記係留索に前記水中航行体を捕捉するトラップを取り付け、前記トラップに捕捉された前記水中航行体を航行させて、前記係留索を移動させることを特徴とする請求項1記載の水柱観測方法。
【請求項3】
水底に下端が固定される係留索と、前記係留索の上端に取り付けられた浮力材と、前記係留索に取り付けられたセンサと、前記係留索を移動させることにより、前記センサを前記下端固定箇所より離れた所望の場所まで移動させる移動手段とを備えたことを特徴とする水柱観測装置。
【請求項4】
前記移動手段は、水中を自律航行可能な水中航行体と、前記係留索に取り付けられ、前記水中航行体を捕捉するトラップとからなることを特徴とする請求項3記載の水柱観測装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−285072(P2010−285072A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140348(P2009−140348)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】