説明

水棲生物の付着抑制防汚塗料

【課題】
粒度調整した焼成珪藻土粉を船底防汚塗料と混合調合して、船底等に水棲生物が付着することを抑制する効果の持続期間を延長する船底防汚塗料の提供を目的とする。

【解決手段】
本発明は、含有主成分の80パーセント以上が珪藻殻のシリカとモンモリロナイトからなる珪藻土を、摂氏1,000度から1,200度以内で焼成後、5から10ミクロンの球形微粒子状に破砕して、粒度調整した焼成珪藻土粉よりなる混合材料を船底防汚塗料と混合したことを特徴とする水棲生物の付着抑制防汚塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船底などへの水棲生物、特に動物性微生物の付着を抑制するための船底防汚塗料の改良に関するものであり、焼成珪藻土粉を船底防汚塗料と混合して使用することにより、船舶の船底などに貝類や海中微生物が付着することを長期間に渡り抑制する船底防汚塗料を主眼に開発されたものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の船底など長期間海水にさらされる没水部には、フジツボ貝、ムラサキガイ、ユウレイボヤ等の動物系または青藻や黒藻等の植物系の水棲生物が短期間で付着し繁殖して、その外観を損ねたり機能が害される問題があった。特に船舶の場合、船底に貝類が付着することにより、速度の低下や燃費の悪化を招くため、付着した貝などを定期的に除去しなければならず、その作業に多大な労力と費用を要するのが常であった。
【0003】
そこで従来より、付着を抑制してその除去作業の労力と費用を軽減するために、銅や鉛を含有させた船底防汚塗料を塗布し、フジツボ貝など動物系水性生物の付着を抑制したり、或るいは有機系の船底防汚塗料を塗布し、藻類など植物系の水棲生物の付着を抑制する方法が行われていた。
【0004】
従来の船底防汚塗料は、塗膜自体が溶解してゆくことにより、海中生物の付着を防ぐ自己研磨型のものと、特許文献1記載のような塗膜表面の合成高分子樹脂が加水分解により水中に均一に溶解していくことにより海中生物の付着を防ぐ加水分解型とに大別される。近年普及しているFRP素材を使用した小型船舶には加水分解型船底塗料が多く使用されている傾向がある。
【0005】
しかし、船底防汚塗料の溶解速度は海水温度の影響を大きく受けるので、近年の世界的な海水温度の上昇等のために水棲生物付着を抑制する効果が薄れてきているという問題がある。また、河川からの水が流入する入江や湾の汽水域でも、その効果が薄れやすく、実際には数ヶ月程度の短期間でフジツボ貝等が付着してしまっていた。
【0006】
【特許文献1】特開平11−333374号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解消すべく、含有主成分の80パーセント以上が珪藻殻のシリカとモンモリロナイトからなる珪藻土を焼成後、球形微粒子状に破砕して、粒度調整した焼成珪藻土粉を船底防汚塗料と混合調合して、船底等に水棲生物が付着することを抑制する効果の持続期間を延長する船底防汚塗料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、含有主成分の80パーセント以上が珪藻殻のシリカとモンモリロナイトからなる珪藻土を、摂氏1,000度から1,200度以内で焼成後、5から10ミクロンの球形微粒子状に破砕して、粒度調整した焼成珪藻土粉よりなる混合材料を船底防汚塗料と混合したことを特徴とする水棲生物の付着抑制防汚塗料である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に、混合材料が、上記焼成珪藻土粉に、20から45重量パーセントのベントナイトと、1から2重量パーセントの溶媒としてのミネラルスピリットと、2から5重量パーセントの分散剤としてソルビタンモノオレートとソルビタンエステル系の分散剤2種類とを混合したものであることを付加した水棲生物の付着抑制防汚塗料。
【0010】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に、混合材料が、1から20ミクロンに破砕したフライアッシュを5から45重量パーセント含有することを付加した水棲生物の付着抑制防汚塗料である。
【0011】
第4の発明は、第1乃至3の発明のいずれかの発明に、船底防汚塗料が、3から5重量パーセントの亜鉛と、25から30重量パーセントの亜酸化銅と、3から5重量パーセントのチタンと、3から5重量パーセントの酸化第二鉄と、9から10重量パーセントのナフサと、14から15重量パーセントのエチルベンゼンと、5から10重量パーセントのキシレンとから構成されるものであることを付加した水棲生物の付着抑制防汚塗料である。
【0012】
第5の発明は、第1乃至第4の発明のいずれかの発明に、混合材料が、船底防汚塗料に対し3から5重量パーセント配合されたものであることを付加した水棲生物の付着抑制防汚塗料である。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明は、珪藻土を、摂氏1,000度から1,200度以内で焼成後、5から10ミクロンの球形微粒子状に破砕して、粒度調整した焼成珪藻土粉を船底防汚塗料と混合調合したものであるので、水棲生物の付着抑制効果が長期間保持できる船底防汚塗料となった。これは珪藻土粉が多孔質で吸放熱特性に優れたものであり、船底にたまった熱を効果的に吸収して放出することにより当該船底防汚塗料に接触する海水温度の上昇を抑制する、という温度コントロールの作用を有するからであろうと考えられる。
【0014】
尚、焼成珪藻土粉が、珪藻土を摂氏1,000度から1,200度以内で焼成後のものであるので含有水分が適正に除去されており溶剤との結合強度が確保されており、更に、5から10ミクロンの球形微粒子状に破砕してされているため、船底防汚塗料との混合に適するものとされている。また、本発明は船底に利用して効果を発揮するものであるが、海上ブイ、護岸壁、海上構造物などへの水棲生物、特に動物性微生物の付着を抑制するための塗料としての利用も可能である。
【0015】
第2及び第3の発明の効果ではあるが、混合材料が、焼成珪藻土粉と混合しやすく、且つ焼成珪藻土粉と近似する効果の確認されたベントナイトやフライアッシュが付加されているので、これらの付加材料が高価な焼成珪藻土粉の利用割合を少なくすることができ、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例と共に本発明を実施するための最良の形態について説明する。先ず、第1実施例は、混合材料aと、市販の船底防汚塗料P1を混合した付着抑制防汚塗料Aとして作成する。付着抑制防汚塗料Aは、市販の4kg船底防汚塗料缶入りの船底防汚塗料P1が4kgと、混合比率を重量に対して5重量パーセント、すなわち200gの混合材料aとを混合して作られる。
【0017】
混合材料aは、100g(50重量パーセント)の焼成珪藻土粉と、80g(40重量パーセント)のベントナイト粉に、10g(5重量パーセント)のミネラルスピリットを溶剤として加え、更に、5g(2.5重量パーセント)のソルビタンモノオレート及び5g(2.5重量パーセント)のソルビタンエステルを分散剤として加え、これらを混合してコロイダル化して200gを調製したものを利用した。
【0018】
混合材料aの、第1成分である焼成珪藻土粉は、珪藻土を1000から1200℃で焼成後、2から50μm(ミクロン)、好ましくは3から5μm(ミクロン)の球形微粒子状に破砕し、粒度調整して得られたものである。これは多孔質ガラス体のもので、その成分としては、熱酸化シリコン(珪素)を70.3パーセント,酸化アルミニウム(アルミナ)を25.0パーセント,酸化チタンを0.97パーセント,酸化鉄(三酸化二鉄)を1.51パーセント,酸化カルシウム(生石灰)を0.25パーセント,酸化ナトリウムを0.15パーセント含有し、呼放湿特性,遠赤外線放射特性等に優れているものである。
【0019】
上記珪藻土は、含有主成分の80パーセント以上が珪藻殻のシリカとモンモリロナイトからなる珪藻土を用いれば、上記含有成分比を異にするものを用いてもよく、その粒度も5から10ミクロンの範囲内であれば適宜変更できる。
【0020】
尚、上記焼成珪藻土粉の配合量は45から55重量パーセントの範囲で増減することができる。また、ベントナイト粉の配合量は、35から45重量パーセントの範囲で増減してもよいが、ベントナイト粉は使用しなくてもよい。また、溶剤及び分散剤の配合量もたとえば1から5重量パーセントの範囲で適宜増減することができる。
【0021】
第1実施例での船底防汚塗料P1は、比重1.80,粘度85から100KUの市販のFRP用加水分解型船底防汚塗料(大日本塗料株式会社製:商品名「シーブルーエース」、油性、色=ブルー)4kgを用いた。この成分は、おおむね、3から5重量パーセントの亜鉛と、25から30重量パーセントの亜酸化銅と、3から5重量パーセントのチタンと、3から5重量パーセントの酸化第二鉄と、9から10重量パーセントのナフサと、14から15重量パーセントのエチルベンゼンと、5から10重量パーセントのキシレンとから構成された船底防汚塗料である。
尚、混合材料aの船底防汚塗料P1に対する混合量は、適宜増減変更することができる。
【0022】
第2実施例、付着抑制防汚塗料Bは、第1実施例で用いた混合材料a0.2kgと、市販の船底防汚塗料P2(株式会社アサヒペン製:商品名「多用途ペイント」、水性、色=ブルー)4kgに混合したものを用いた。ここでも混合材料aの船底防汚塗料P2に対する添加量は、適宜増減変更することができる。尚、第1実施例及び第2実施例とも混合材料aにフライアッシュを5から45重量パーセント含有とすることもできる。
【0023】
第3実施例、付着抑制防汚塗料Cは、第1実施例と同様の船底防汚塗料P1、すなわち、比重1.80,粘度85から100KUの市販のFRP用加水分解型船底防汚塗料(大日本塗料株式会社製:商品名「シーブルーエース」、油性、色=ブルー)4kgと混合材料bを混合したものを用いた。混合材料bは、第1及び第2実施例で用いた混合材料a中に、5から45重量パーセントのフライアッシュを含有させたものである。
【0024】
このフライアッシュは、粒度1から20μm(ミクロン)、好ましくは7μm(ミクロン)に粉砕された粉状のもので、それは熱酸化シリコン(珪素)を70.9パーセント,酸化アルミニウム(アルミナ)を19.9パーセント,酸化チタンを1.08パーセント,酸化鉄(三酸化二鉄)3.14パーセント,酸化カルシウム(生石灰)を0.96パーセント,酸化マグネシウムを0.74パーセント,酸化カリウムを1.05パーセント,酸化ナトリウムを0.28パーセント含有し、珪藻土粉に似た孔隙構造を有するとともにポゾラン活性を呈し、分子間の安定結合作用による長期強度保持作用や通気性に優れたものである。尚、フライアッシュ粉としては、上に示したものとは含有成分比を異にするものを用いてもよい。
【0025】
尚、上記実施例1及び2における混合材料a、及び実施例3の混合材料bと、船底防汚塗料1又は2の混合によって、船底防汚塗料1及び2の色を変化させたり、その組成に悪影響を与えることはなかった。更に、混合材料a及び混合材料bを、その他の市販の船底防汚塗料に混合した場合も、当該船底防汚塗料の色を変化させたりその組成に悪影響を与えることはなかった。
【0026】
続いて、実験のための比較船底防汚塗料として、3種類の船底防汚塗料を用意した。第1は、船底防汚塗料P1からP2とは別製品である日本国内で市販の船底防汚塗料P3を用意した。これには第1乃至3実施例において使用した混合材料a及びbを調合しなかった。第2は、上記船底防汚塗料P1からP3とは別製品であるアメリカ製の市販の船底防汚塗料P4(商品名「AFO」)を用意した。これにも第1乃至3実施例において使用した混合材料a及びbを調合しなかった。第3は、やはり別製品であるカナダ製の市販の船底防汚塗料P5(商品名「VINKO」)を用意した。これにも第1乃至3実施例で使用した混合材料a及びbを調合しなかった。
【0027】
付着抑制塗料及び船底防汚塗料の性能評価実験第1例として次の実験を行った。
先ず、実施例に係る3種類の付着抑制防汚塗料A,B、C及び上記の各比較例に係る3種類の船底防汚塗料P3からP5の計6種類を準備し、それぞれ300mm×150mmのFRP板の一面に、刷毛とローラーを用いて1回塗りで塗布し4時間乾燥させた。いずれのFRP板についても、反対面には塗料を塗布しなかった。そして、上記FRP板を水中に10から15cmほど沈めた状態にして船着き場に係留し、その経過を観察した。
【0028】
実験開始から14日経過時は、次のような状態であった。船底防汚塗料P3を塗布したFRP板の塗料塗布面には、1mm大のフジツボが50個ほど付着していた。船底防汚塗料P4を塗布したFRP板の塗料塗布面には、1mmほどの緑藻が付着していた。その他のFRP板の塗料塗布面には、水棲生物の付着は認められなかった。
【0029】
実験開始から35日経過時には、次のような状態であった。
船底防汚塗料P3を塗布したFRP板に付着していたフジツボは5mm大にまで成長しており、また、このFRP板の塗料塗布面全面に1mm大のフジツボが付着し、藻も20mmに成長していた。船底防汚塗料P5を塗布したFRP板の塗料塗布面には、スライムが付着し、当該塗料の色が褪せていた。
【0030】
付着抑制防汚塗料A及び付着抑制防汚塗料Cを塗布したFRP板の塗料塗布面には、全く付着物は認められなかった。付着抑制防汚塗料Bを塗布したFRP板には、その塗料塗布面全面に若干の水垢,スライムが付着していた。
【0031】
実験開始から43日経過時には、次のような状態であった。
船底防汚塗料P3を塗布したFRP板には、面塗料塗布全面にフジツボ(5mm大)が付着し、藻も全面に付着して、もとの船底防汚塗料P3の色が全く看取できなくなっていた。船底防汚塗料P4を塗布したFRP板には、塗料塗布面全面にフジツボと藻が付着し、もとの船底防汚塗料の色がほとんど看取できなかった。船底防汚塗料P5を塗布したFRP板の塗料塗布面には、フジツボは付着していなかったが、スライムが付着し、また全体に船底防汚塗料の色が褪せていた。
【0032】
付着抑制防汚塗料A及び付着抑制防汚塗料Cを塗布したFRP板の塗料塗布面には、フジツボ,藻,スライムの付着は全く認められなかった。付着抑制防汚塗料Bを塗布したFRP板の塗料塗布面には、若干の水垢,スライムが付着していた。
【0033】
実験開始から50日経過時には次のような状態であった。
船底防汚塗料P3からP5を塗布した各FRP板の塗料塗布面は、いずれもフジツボが付着していた。付着抑制防汚塗料A、B、及びCを塗布した各FRP板の塗料塗布面は、若干の水垢,スライムが付着していたもののフジツボ,藻の付着は全く認められなかった。また、付着抑制防汚塗料A、B及びCを塗布した各FRP板の塗料塗布面には、塗料自体の色褪せも認められなかった。
【0034】
この実験により、従来市販の船底防汚塗料においても本発明のように構成し、本発明に係る混合材料を混合させた船底防汚塗料とし、これを塗布することで、防汚効果の持続期間を延長できることが確認された。
尚、上記各FRP板の塗料塗布面の反対面には塗料を塗布しなかったので、いずれのものも実験開始より14日を経過した頃からフジツボが付着しはじめ、30日経過時にはその全面に付着していた。
【0035】
付着抑制防汚塗料及び船底防汚塗料の性能評価実験第2例として次の実験を行った。
2トンのFRP製つり船の船底に付着した貝類、藻類を除去して、この船底を水洗いした後乾燥させた。そして、経過観察の便宜のために、その船底を図1に示したブロック1から6の6つのブロックに分けるとともに、そのブロック1から3には付着抑制防汚塗料Aを、ブロック4から6には付着抑制防汚塗料Bを、刷毛とローラーを用いて1平方メートルあたり180から185g、ウェット膜厚80μm(ドライ膜厚40μm)にして1回塗りで塗布し、4時間乾燥させた。その後、船体を着水させ船着き場に長期係留し経過を観察した。尚、ここで使用した防汚塗料A,Bは、上記の通り焼成珪藻土粉とベントナイト粉に溶剤と分散剤を配合し混合したもので、付着抑制防汚塗料Aは油性の、付着抑制防汚塗料Bは水性のものである。
【0036】
実験開始から6ヶ月経過時の状態は次のようであった。
ブロック1から3には、水垢が付着していたが、貝類,藻類の付着は認められなかった。ブロック4から6には、ヌルヌルした水垢が付着していたが、貝類,藻類の付着は認められなかった。
【0037】
実験開始から12ヶ月経過時の状態は次のようであった。
ブロック1から3には、長期係留による水垢が付着していたが、貝類,藻類の付着は認められなかった。ブロック4から6についても、実験開始から6ヶ月経過時と同様、水垢の付着はあったが、貝類,藻類の付着は認められなかった。
【0038】
実験開始から18ヶ月経過時の状態は次の通りであった。
ブロック1から3については、ブロック1の船首側舳部は波の影響で水垢が黒ずんでいたが、その他の部位には貝類,藻類の付着は認められなかった。また、ブロック6の船尾寄りの部分には、1から1.5mm大のフジツボが32から35個付着していた。
【0039】
実験開始から24ヶ月経過時の状態は次の通りであった。
ブロック3の船尾部ヘリに、1mm以下のフジツボが2個付着していた。ブロック4の船首寄りの部分以外の部分及びブロック5,6の全面に5mm大の成長したフジツボが重なり合って付着していた。
【0040】
このように、付着抑制防汚塗料Aを塗布したブロック1から3には、長期間の係留であっても少なくとも18ヶ月もの長期間、水垢の付着はあっても貝類(フジツボ)の付着はほとんど見られなかった。ちなみに、実験開始から28ヶ月経過後には、ブロック3の船尾側から、2mm大のフジツボ貝が付着しはじめた。付着抑制防汚塗料Bを塗布したブロック4から6にも、少なくとも15ヶ月程度は貝類の付着が認められなかったが、18ヶ月経過後には塗料の剥離に伴ってフジツボの付着が始まった。
【0041】
従来の船底防汚塗料は、これを単体でそのまま船底に塗布した場合、早くて5ヶ月、遅くとも10ヶ月程度でフジツボ等が付着してしまっており、通常7ヶ月程度に付着したフジツボ等を除去して船底防汚塗料を塗り直す必要が生じていたが、これに対して、本発明の付着抑制防汚塗料を使用した場合、1回塗りであっても少なくとも1年は水棲生物付着抑制の効果が維持されることが判明した。したがって、船底に付着した水棲生物の除去作業及び再度の船底防汚塗料の塗布作業を行う頻度を減らすことができ、その作業費用の節減と作業労力の低減を図ることができる。
【0042】
付着抑制防汚塗料の性能評価実験第3例として次の実験を行った。
3トンのFRP製つり船の船底に付着した貝類、藻類を除去し、その船底を水洗いした後乾燥させ全面に付着抑制防汚塗料Cを添付し6時間乾燥させた。その後、船体を海上に着水させて週3日乃至5日運行しその経過を観察した。尚、ここで使用した付着抑制防汚塗料Cは、第3実施例に係る塗料で、前記の通り混合材料b中に、焼成珪藻土粉にフライアッシュ粉を配合しているものである。
【0043】
実験開始から6ヶ月経過時では、船体をクレーンで吊り上げて船底の状態を検証したが、貝類の付着は認られなかった。実験開始から12ヶ月経過時に、再び船体をクレーンで吊り上げて船底の状態を検証したが、貝類等の水棲生物の付着は全く認められなかった。ただし、付着抑制防汚塗料Cを塗布しなかったスクリュー回転羽の固定部には5から8mm大のフジツボがびっしりと付着していた。
【0044】
実験開始から16ケ月経過時にも、船底への貝類の付着は依然として認められなかった。ただし、エンジン固定部の金属部分の、付着抑制防汚塗料Cを塗布しなかった部位にはフジツボ貝が隙間なく付着していた。
【0045】
上記の各性能評価実験より明らかな通り、本実施例1乃至3に係る付着抑制防汚塗料を船舶の船底に塗布すれば、動物系水棲生物の付着抑制効果の持続期間を大幅に延長することができる。これは珪藻土粉が多孔質で吸放熱特性に優れたものであり、船底にたまった熱を効果的に吸収して放出することにより当該船底防汚塗料に接触する海水温度の上昇を抑制する、という温度コントロールの作用を有するからであろうと考えられる。
【0046】
したがって、海水温度上昇の影響により海中の水棲生物の付着抑制効果の持続期間が短縮されてしまう従来の船底防汚塗料も、本発明の製法を導入することにより持続期間を延長することができる。船舶の船底に貝等の付着を抑制するだけでなく、海上交通標示ブイ、海上構造物、護岸壁など海水没水部表面に本発明塗料を塗布すれば、構造物の塗布部分に水棲生物の付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】船底の位置を示す説明図
【符号の説明】
【0048】
1......ブロック1
2......ブロック2
3......ブロック3
4......ブロック4
5......ブロック5
6......ブロック6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有主成分の80パーセント以上が珪藻殻のシリカとモンモリロナイトからなる珪藻土を、摂氏1,000度から1,200度以内で焼成後、5から10ミクロンの球形微粒子状に破砕して、粒度調整した焼成珪藻土粉よりなる混合材料を船底防汚塗料と混合したことを特徴とする水棲生物の付着抑制防汚塗料。
【請求項2】
上記混合材料が、焼成珪藻土粉に、20から45重量パーセントのベントナイトと、1から2重量パーセントの溶媒としてのミネラルスピリットと、2から5重量パーセントの分散剤としてソルビタンモノオレートとソルビタンエステル系の分散剤2種類とを混合したものである請求項1記載の水棲生物の付着抑制防汚塗料。
【請求項3】
上記混合材料が、1から20ミクロンに破砕したフライアッシュを5から45重量パーセント含有するものである請求項1または2記載の水棲生物の付着抑制防汚塗料。
【請求項4】
上記船底防汚塗料が、3から5重量パーセントの亜鉛と、25から30重量パーセントの亜酸化銅と、3から5重量パーセントのチタンと、3から5重量パーセントの酸化第二鉄と、9から10重量パーセントのナフサと、14から15重量パーセントのエチルベンゼンと、5から10重量パーセントのキシレンとから構成されるものである請求項1乃至3のいずれかに記載の水棲生物の付着抑制防汚塗料。
【請求項5】
上記混合材料が、船底防汚塗料に対し3から5重量パーセント配合されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水棲生物の付着抑制防汚塗料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−277452(P2007−277452A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107408(P2006−107408)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(506122637)
【Fターム(参考)】