説明

水検出用組成物、および水検出用インジケーター

【課題】青ゲルに代わる新規な水検出用組成物と、この水検出用組成物を利用して構成された水検出用インジケーターを提供すること。
【解決手段】本発明の水検出用組成物は、ポルフィリン錯体と、「アルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、およびFe」の中から選ばれる少なくとも1種の無機酸塩とを、有効成分として含有する。2つの軸配位子がヒドロキシ基またはハロゲン(塩素)となったリンポルフィリン錯体([P(V)TPP(OH)2]Clまたは[P(V)TPP(Cl)2]Cl)とCaCl2とを有効成分とする水検出用組成物の場合、相対湿度20%では緑色、相対湿度50%では茶色または桃色がかった緑、相対湿度90%では茶色または桃色となる、段階的な変色が確認された。また、再び100℃にて乾燥させると緑色に戻り、再び吸湿率試験を行ったところ、初回と同様に相対湿度に依存した段階的な発色が確認され、可逆性を持ち合わせていることが確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水検出用組成物、および水検出用インジケーターに関する。
【背景技術】
【0002】
吸湿(吸水)度合の目安として使用される湿度インジケーターとしては、従来、塩化コバルトを担持させたシリカゲルが知られている。(例えば、非特許文献1参照。)。この塩化コバルト担持シリカゲルは、一般に青ゲルと呼ばれ、湿度インジケーターとして広く使用されている。
【非特許文献1】「シリカゲル試験方法 JIS K 1150−1994」、平成6年8月1日制定、日本工業標準調査会審議、日本規格協会発行、「5.13 青ゲルの変色域」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、公知の「青ゲル」は、用途によっては必ずしも使いやすい訳ではなく、市場では、青ゲルに代わる新たな湿度インジケーターを求める声が高まっていた。
こうした市場の声に応えるべく本件発明者が鋭意検討を重ねていたところ、特定のポルフィリン錯体と特定の無機酸塩とを共存させると、湿度変化に応じて鋭敏に変色することを見いだした。
【0004】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その目的は、青ゲルに代わる新規な水検出用組成物と、この水検出用組成物を利用して構成された水検出用インジケーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、本発明において採用した特徴的構成について説明する。
本発明の水検出用組成物は、下記一般式[I](ただし、Mは「Mg、Al、Si、P、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Re、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、およびBi」の中から選ばれる1種の元素、XはハロゲンまたはOR1(ただし、R1は水素またはこの水素と置換し得る任意の置換基)、R2は水素またはこの水素と置換し得る任意の置換基)で表されるポルフィリン錯体と、「アルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、およびFe」の中から選ばれる少なくとも1種の無機酸塩とを、有効成分として含有することを特徴とする。
【0006】
【化1】

【0007】
この一般式[I]中、錯体の中心元素Mは「Mg、Al、Si、P、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Re、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、およびBi」の中から選ばれる1種である。この中心元素はイオンであってもよく、その場合、一般式[I]で示される錯体は錯イオンとなる。錯イオンとなる場合、錯イオンは、水検出用組成物中において錯塩として含まれていればよい。なお、錯塩を形成させるために共存させるイオンは何でもよいが、例えば、Br-,Cl-,F-などのハロゲンイオン、あるいはOH-などが好適である。
【0008】
また、上記一般式[I]中、Xはハロゲン(例えば、Br,Cl,Fなど)またはOR1であり、XがOR1の場合、R1は水素またはこの水素と置換し得る任意の置換基である。この置換基は、水検出用組成物としての作用を阻害しない基であれば何でもよいが、錯体の製造しやすさ、安定性などを考慮すると、このR1については、水素、フェニル基で置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または、置換基を有していてもよいアシル基のいずれかであると望ましい。中でも、R1が水素である場合には、−OR1がヒドロキシ基となって、シリカゲルのようなヒドロキシ基を有する担体上に固定しやすくなるので特に望ましい。なお、上記「置換基を有していてもよいフェニル基、または、置換基を有していてもよいアシル基」における置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、ホルミル基、フェニル基、アシル基、ニトロ基などを挙げることができる。
【0009】
また、上記一般式[I]中、R2も、水素またはこの水素と置換し得る任意の置換基である。この置換基も、水検出用組成物としての作用を阻害しない基であれば何でもよいが、上記錯体の製造しやすさ、安定性などを考慮すると、このR2については、置換基を有していてもよいフェニル基であると望ましい。なお、フェニル基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、ホルミル基、フェニル基、アシル基、ニトロ基などを挙げることができる。
【0010】
また、「アルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、およびFe」の中から選ばれる少なくとも1種の無機酸塩を得るための無機酸としては、塩酸、硫酸、あるいは硝酸を用いることができる。中でも塩酸、または硫酸を用いると、硝酸を用いた場合に比べ、吸湿による発色変化が大きくなる傾向があるので好ましい。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、およびFeの中では、CaまたはMgを用いると吸湿による発色変化が大きくなる傾向があるので好ましい。
【0011】
以上のように構成される本発明の水検出用組成物によれば、吸湿あるいは水との接触に伴って発色変化を起こすので、例えば、この水検出用組成物を吸湿性のある担体に担持させることにより、湿度インジケーターとして利用することができる。あるいは、吸水性のある担体に担持させることにより、漏水インジケーターとして利用することもできる。
【0012】
これらの湿度インジケーターや漏水インジケーター(以下、水検出用インジケーターと総称する。)を構成するために用いる担体が、どの程度の吸湿性や吸水性を備えるべきかは、検知すべき湿度や水の形態(水蒸気、水)によっても変わるので一概には特定できないが、一例として、湿度インジケーターとしての好ましい具体例を挙げれば、例えば、「JIS Z0701 4.1吸湿性試験」において相対湿度20%における吸湿率が0.1%以上、相対湿度50%における吸湿率が0.3%以上、相対湿度90%における吸湿率が1.0%以上となるような担体が望ましい。特に、無機多孔質担体であると好ましく、中でも、無色の担体の方が吸湿による発色変化を確認しやすいので、その点、シリカゲルが望ましい。
【0013】
このようなシリカゲルは、粒状物として形成されたものであればよい。あるいは、このようなシリカゲルを含有する流動性組成物を、紙やその他の担体にしみこませたりコーティングしたりすることによって吸湿性のある担体を構成してもよい。
【0014】
さらに、公知の湿度インジケーターである青ゲルとの比較で言えば、近年、コバルトおよびその化合物は、人の健康や生態系に有害なおそれがある物質として、化学物質把握管理促進法において第一種指定化学物質に選ばれており、塩化コバルトに代わる、より安全な物質へのニーズが高まっている。
【0015】
その点、本発明の水検出用組成物であれば、錯体の中心元素として、コバルトはもちろんのこと、コバルト以外の元素を選定することもできるので、水検出用組成物の使用目的によっては、あえて第一種指定化学物質を避けて、より安全性の高い元素を選定することにより、人の健康や生態系への悪影響が少なく、安全性が高い水検出用インジケーターを提供することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、具体的な例を挙げて説明する。
[第1実施形態]
まず、以下の手順でリンポルフィリンを合成した。
【0017】
50Lのガラス反応釜に還流装置を設置し、反応釜内に窒素気流下でテトラフェニルポルフィリン(H2TPP;120g)を脱水ピリジン12Lに溶解させ、さらにPOCl3を2.4L添加した。
【0018】
続いて、反応溶液を十分に還流し、反応追跡はUV−visスペクトルで行った。Soret吸収帯が416nmから438nmにシフトした事を確認して反応を終了させた。反応終了後、反応釜を室温まで放冷した。
【0019】
続いて、500Lのガラス釜に120Lのヘキサンを入れ、ヘキサンを攪拌しながら、反応後の反応溶液を1時間程度かけて滴下し再沈殿を行い、沈殿物を36Lのクロロホルムにて30分程度かけてよく目的物を溶解させた。
【0020】
さらに、無機塩除去のためイオン交換水80Lを抽出したクロロホルム溶液に加え、30分攪拌後、30分程度静置して分液した。水層はpHを確認の上、廃棄した。この操作をさらに2回繰り返し、クロロホルム層を十分に水洗した。
【0021】
分液後、クロロホルム層をエバポレーターによって減圧下で蒸発乾固させ、さらに2〜3日間、真空ポンプで減圧乾燥させ、軸配位子として2つの塩素原子を有するリンポルフィリン錯体([P(V)TPP(Cl)2]Cl;以下、リンポルフィリン錯体(A)と称する。)を得た。収率は92%であった。
【0022】
なお、上記手順で合成されたリンポルフィリン錯体(A)は、下記の化学式[II]で表される化合物である。
【0023】
【化2】

【0024】
次に軸配位子をヒドロキシ基へ交換するために、上記リンポルフィリン錯体(A)1.0gを25%含水アセトニトリル水溶液160mlに溶解し、空気下で1時間還流した。反応追跡はUV−Visスペクトルで行った。Soret吸収帯が438nmから423nmにシフトした事を確認して反応を終了させた。エバポレーターでアセトニトリル水溶液を40ml程度まで濃縮後、クロロホルムを加えて分液し、クロロホルム層を分取して溶媒を減圧留去し、目的化合物である2つの軸配位子がヒドロキシ基となったリンポルフィリン錯体([P(V)TPP(OH)2 ]Cl;以下、リンポルフィリン錯体(B)と称する。)を得た。収率は99%であった。
【0025】
なお、上記手順で合成されたリンポルフィリン錯体Bは、下記の化学式[III]で表される化合物である。
【0026】
【化3】

【0027】
次に、上記リンポルフィリン錯体(B)0.42gを、メタノール1L中に溶解させて、リンポルフィリン−メタノール溶液を得た。このリンポルフィリン−メタノール溶液を、トルエン4L中に入れて撹拌し、撹拌後、シリカゲル(比表面積280m2/g、細孔容積1.0ml/g、粒子径1.70−4.00mm)1kgを投入し、投入後、時々撹拌を行いながら一晩放置した。
【0028】
放置後、蒸留装置で蒸留を行い、メタノールを留去した。メタノール留去後3時間還流を行い、放冷後、脱液を行い、乾燥を行った。
得られたリンポルフィリン担持シリカゲルを1重量%塩化カルシウム水溶液中に投入し、投入後、水切り、100℃にて乾燥処理を行いサンプルとした。この時のリンポルフィリンの投入量は、シリカゲル1g対し420μg、塩化カルシウム添加量は0.01gである。
【0029】
得られたサンプルに水を加えることにより赤茶色に変色することが確認された。またこのサンプルを100℃に加熱すると再び緑色に戻り可逆性が有ることも確認された。
[第2実施形態]
上記第1実施形態と同様の手順で合成したリンポルフィリン錯体(B)0.05gをメタノール500ml中に溶解させ、リンポルフィリン−メタノール溶液を得た。また、JIS A形球状シリカゲル(粒子径1.70−4.00mm)200gを用意し、このJIS A形球状シリカゲルに対し、上記リンポルフィリン−メタノール溶液84mlをスプレー噴霧によって噴霧した。なお、噴霧の際には、吸着熱のショックでシリカゲルが割れないように注意深く噴霧した。噴霧後は、100℃にて乾燥を行い、放冷した。
【0030】
続いて、上記噴霧処理後のシリカゲルに対し、さらに1重量%塩化カルシウム溶液84mlを噴霧して、再び100℃にて乾燥を行い、放冷し、サンプルとした。
以上の工程によって得られたサンプルは、シリカゲル1gに対するリンポルフィリン錯体(B)の添加量が42μg、塩化カルシウムの添加量が4.2mgというものであった。
【0031】
次に、得られたサンプルを「JIS Z0701 4.1吸湿率試験」の項目に従い、相対湿度20%、相対湿度50%、相対湿度90%の各条件にて48時間曝露させて色変化を追跡した。その結果、相対湿度20%では緑色、相対湿度50%では茶色がかった緑、相対湿度90%では茶色となる、段階的な変色が確認された。
【0032】
また、このサンプルを再び100℃にて乾燥させると緑色に戻り、再び吸湿率試験を行ったところ、初回と同様に相対湿度に依存した段階的な発色が確認され、可逆性を持ち合わせていることが確認された。
【0033】
このサンプルの初回吸湿時と再乾燥後の吸湿時に測定された吸着等温線を図1に示す。また、図1には、青ゲル(塩化コバルト担持シリカゲル)、および担体として用いたJIS A形球状シリカゲルも併記する。
【0034】
吸着特性については、青ゲルの代表物性値と遜色ない吸着等温線が得られたことより、同等の吸着能力を有していることが確認された。また、再乾燥したものについても同様な結果が得られたことより、再乾燥による劣化が無いことが確認され、このことにより青ゲルとほぼ同様な吸着性能を持ち合わせていることが確認された。
【0035】
[第3実施形態]
上記第1実施形態と同様の手順で合成したリンポルフィリン錯体(B)0.05gをメタノール500ml中に溶解させ、リンポルフィリン−メタノール溶液を得た。さらに、このリンポルフィリンメタノール溶液中に、1重量%塩化カルシウム溶液10mlを添加してリンポルフィリン−塩化カルシウム−メタノール溶液を調製した。
【0036】
JIS A形球状シリカゲル(粒子径1.70−4.00mm)200gを用意し、このJIS A形球状シリカゲルに対し、上記リンポルフィリン−塩化カルシウム−メタノール溶液84mlをスプレー噴霧により噴霧した。なお、噴霧の際には、シリカゲルが吸着熱のショックにて割れないように注意深く噴霧した。噴霧後は、100℃にて乾燥を行い、放冷し、サンプルとした。
【0037】
以上の工程によって得られたサンプルは、シリカゲル1gに対するリンポルフィリン錯体(B)の添加量が41μg、塩化カルシウムの添加量が84μgというものであった。
得られたサンプルについて、上記第2実施形態と同様の試験を行ったところ、第2実施形態と同様に、相対湿度20%では緑色、相対湿度50%では茶色がかった緑、相対湿度90%では茶色となる、段階的な変色が確認された。また、このサンプルを再び100℃にて乾燥させると緑色に戻り、再び吸湿率試験を行ったところ、初回と同様に相対湿度に依存した段階的な発色が確認され、可逆性を持ち合わせていることが確認された。
【0038】
このサンプルの初回吸湿時と再乾燥後の吸湿時に測定された吸着等温線を図2に示す。また、図2には、青ゲル(塩化コバルト担持シリカゲル)、および担体として用いたJIS A形球状シリカゲルも併記する。吸着特性についても、第2実施形態と同様の結果が得られ、青ゲルと同等の吸着能力を有していること、再乾燥による劣化が無いことが確認された。
【0039】
さらに、上記第2実施形態においては、リンポルフィリンをシリカゲルに担持させた後で、塩化カルシウムを担持させていたのに対し、この第3実施形態においては、リンポルフィリンと塩化カルシウムとを混合してから、シリカゲルに担持させているが、どちらも湿度に応じた変色を示し、その発色は塩化カルシウムの添加時期にはとらわれないことが確認された。
【0040】
[第4実施形態]
上記第1実施形態と同様の手順で合成したリンポルフィリン錯体(B)0.1gをメタノール200ml中に溶解させ、リンポルフィリン−メタノール溶液を得た。このリンポルフィリンメタノール溶液中に、1重量%塩化カルシウム溶液10mlを添加してリンポルフィリン−塩化カルシウム−メタノール溶液を調製した。
【0041】
JIS A形球状シリカゲル(粒子径1.70−4.00mm)200gを用意し、このJIS A形球状シリカゲルを上記リンポルフィリン−塩化カルシウム−メタノール溶液に一晩浸漬して、リンポルフィリン−塩化カルシウム溶液をシリカゲルに含浸させ、その後、100℃にて乾燥を行い、放冷後、サンプルとした。
【0042】
以上の工程によって得られたサンプルは、シリカゲル1gに対するリンポルフィリン錯体(B)の添加量が190μg、塩化カルシウム添加量が190μgとなるものであった。
【0043】
得られたサンプルについて、上記第2実施形態と同様の試験を行ったところ、相対湿度20%では緑、相対湿度50%では茶色、相対湿度90%では赤茶色に発色することが確認され、吸着性能に関しても従来の塩化コバルト担持シリカゲルと遜色無い性能が確認された。
【0044】
また、吸湿率測定前、吸湿率測定後のサンプルについて吸収スペクトルを測定し検討を行った。結果を図3に示す。図3からは、波長560nm付のピークが少し長波長側にシフトしていることが確認されるとともに、650nm付近のピークが吸湿により消失していることが確認された。このスペクトル変化が変色の原因であることが本測定より示唆される。
【0045】
[第5実施形態]
第1実施形態で得られたリンポルフィリン錯体(A)1.25mgを15mlメタノールに溶解させ、リンポルフィリン−メタノール溶液を得た。このリンポルフィリン−メタノール溶液中に50重量%塩化カルシウム溶液2mlを添加してリンポルフィリン−塩化カルシウム−メタノール溶液を調製した。
【0046】
球状シリカゲル(比表面積600m2/g、細孔容積0.6ml/g、粒子径1.70−4.00mm)25gを用意し、この球状シリカゲルに対し上記リンポルフィリン−塩化カルシウム−メタノール溶液を17ml添加し、混合撹拌後、100℃にて乾燥を行いサンプルとした。
【0047】
以上の工程によって得られたサンプルは、シリカゲル1gに対するリンポルフィリン錯体(A)の添加量が50μg、塩化カルシウムの添加量が40mgというものであった。得られたサンプルについて、上記第2実施形態と同様の試験を行ったところ、第2実施形態と同様に、相対湿度20%では緑色、相対湿度50%では桃色がかった緑、相対湿度90%では桃色となる、段階的な変色が確認された。また、このサンプルを再び100℃にて乾燥させると緑色に戻り、再び吸湿率試験を行ったところ、初回と同様に相対湿度に依存した段階的な発色が確認され、可逆性を持ち合わせていることが確認された。
【0048】
また、吸湿率測定前、吸湿率測定後のサンプルについて吸収スペクトルを測定し検討を行った。結果を図4に示す。図4からは、波長515nm付近のピークが発現していること、560nm付近のピークが長波長側にシフトしていることが確認されるとともに、650nm付近のピークが吸湿により減少していることが確認された。このスペクトル変化が変色の原因であることが本測定より示唆される。
【0049】
[第6実施形態]
第4実施形態で用いた塩化カルシウムに代えて、硝酸カルシウムを用い、その他の条件は第4実施形態と同様の条件、手順にてサンプルを得た。
【0050】
以上の工程によって得られたサンプルについて、上記第4実施形態と同様の試験を行ったところ、吸湿による発色の変化が確認された。
[第7実施形態]
第4実施形態で用いた塩化カルシウムに代えて、塩化マグネシウムを用い、その他の条件は第4実施形態と同様の条件、手順にてサンプルを得た。
【0051】
以上の工程によって得られたサンプルについて、上記第4実施形態と同様の試験を行ったところ、吸湿による発色の変化が確認された。
[第8実施形態]
第4実施形態で用いた塩化カルシウムに代えて、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化アルミニウム(六水和物)、塩化リチウム、塩化カリウムを用い、その他の条件は第4実施形態と同様の条件、手順にてサンプルを得た。
【0052】
以上の工程によって得られたサンプルについて、上記第4実施形態と同様の試験を行ったところ、吸湿による発色の変化が確認された。
[第9実施形態]
第8実施形態で用いた塩化物に代えて、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、硫酸リチウム、硫酸カリウムを用い、その他の条件は第4実施形態と同様の条件、手順にてサンプルを得た。
【0053】
以上の工程によって得られたサンプルについて、上記第4実施形態と同様の試験を行ったところ、吸湿による発色の変化が確認された。
[第10実施形態]
第8実施形態で用いた塩化物に代えて、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硝酸アルミニウム、硝酸リチウム、硝酸カリウムを用い、その他の条件は第4実施形態と同様の条件、手順にてサンプルを得た。
【0054】
以上の工程によって得られたサンプルについて、上記第4実施形態と同様の試験を行ったところ、吸湿による発色の変化が確認された。
[第11実施形態]
シリカゲル(平均粒子径1.70−4.00mm)20gに対し、1重量%塩化カルシウム溶液20mlを添加して、撹拌後、乾燥し、塩化カルシウムを予め細孔中に担持させたもの(以下、塩化カルシウム担持シリカゲルという)を得た。この塩化カルシウム担持シリカゲルに対し、リンポルフィリン−メタノール溶液(上記第1実施形態と同様の手順で合成したリンポルフィリン錯体(B)0.01gをメタノール20ml中に溶解したもの)20mlを添加後、撹拌、乾燥を行い、サンプルを得た。
【0055】
得られたサンプルについて、上記第4実施形態と同様の試験を行ったところ、吸湿による発色の変化が確認された。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0056】
例えば、上記実施形態では、上記一般式[I]に示した錯体の中心元素Mとして、P(リン)を用いる例を示したが、この錯体の中心元素Mは、Mg、Al、Si、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Re、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、およびBiの中から選ばれるものであれば、吸湿ないし水との接触に伴う変色が発生する。したがって、用途や製造コスト等を考慮して、これらの選択肢から中心元素Mを選定すればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、上記ポルフィリン錯体と上記無機酸塩をシリカゲルに担持させる方法として、スプレー噴霧法および含浸法を例示したが、他の方法で担持させても構わない。
【0058】
また、上記実施形態では、担体として特定の物性を持つシリカゲル(例えば、JIS A形シリカゲル等)を例示したが、シリカゲルの物性については特に限定されず、比表面積:10〜800m2/g、細孔容積:0.2〜2.0ml/gなどのシリカゲルを任意に担体として利用することができる。また、担体はシリカゲルに限定されるものでもなく、他の無機多孔質体に上記ポルフィリン錯体と上記無機酸塩を担持させてもよい。あるいは、水検出用インジケーターの用途によっては、シリカゲルを含有する流動性組成物を、紙やその他の担体にしみこませたりコーティングしたりすることによって吸湿性のある担体を構成し、このような吸湿性担体に上記ポルフィリン錯体と上記無機酸塩を担持させてもよい。さらに、吸湿性のある紙であれば、その紙がシリカゲルやその他の無機多孔質担体を含有していなくても、担体として用いることができる。
【0059】
また、上記実施形態では、上記ポルフィリン錯体の溶媒としてメタノールを用いたが、トルエン、キシレン、アセトン、イソプロピルアルコール等の有機溶媒を用いるか、それらの溶媒の内、水溶性の溶媒に溶解させたものを水で希釈を行い使用しても構わない。
【0060】
また、上記実施形態では、ポルフィリン錯体と無機酸塩の担持量を具体的に例示したが、この担持量については、有意な変色を示すような担持量であれば任意に変更可能である。
【0061】
さらに、上記実施形態では、ポルフィリン錯体の具体例として、テトラフェニルポルフィリンをベースにしたものを示したが、テトラフェニルポルフィリンの持つ軸配位子のヒドロキシ基や4つのフェニル基は、水検出用組成物としての機能を阻害しない基であれば、他の官能基で置換してもよい。
【0062】
具体的には、テトラフェニルポルフィリンの持つ軸配位子のヒドロキシ基については、ポルフィリン錯体の製造しやすさ、安定性などを考慮すると、フェニル基で置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、または、置換基を有していてもよいアシル基のいずれかであると望ましい。「置換基を有していてもよいフェニル基、または、置換基を有していてもよいアシル基」における置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、ホルミル基、フェニル基、アシル基、ニトロ基などを挙げることができる。ただし、軸配位子がヒドロキシ基およびハロゲンである場合には、シリカゲルのようなヒドロキシ基を有する担体上に固定しやすくなるので望ましい。
【0063】
また、テトラフェニルポルフィリンの持つ4つのフェニル基については、ポルフィリン錯体の製造しやすさ、安定性などを考慮すると、置換基を有していてもよいフェニル基であると望ましい。なお、フェニル基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基、ホルミル基、フェニル基、アシル基、ニトロ基などを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第2実施形態で示したサンプルの吸着等温線を示すグラフ。
【図2】第3実施形態で示したサンプルの吸着等温線を示すグラフ。
【図3】第4実施形態で示したサンプルの吸収スペクトルを示すグラフ。
【図4】第5実施形態で示したサンプルの吸収スペクトルを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I](ただし、Mは「Mg、Al、Si、P、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Re、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、およびBi」の中から選ばれる1種の元素、XはハロゲンまたはOR1(ただし、R1は水素またはこの水素と置換し得る任意の置換基)、R2は水素またはこの水素と置換し得る任意の置換基)で表されるポルフィリン錯体と、「アルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、およびFe」の中から選ばれる少なくとも1種の無機酸塩とを、有効成分として含有することを特徴とする水検出用組成物。
【化1】

【請求項2】
前記一般式[I]中、錯体の中心元素Mが、Pであることを特徴とする請求項1に記載の水検出用組成物。
【請求項3】
前記無機酸塩が、CaまたはMgの塩化物または硫酸塩であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水検出用組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の水検出用組成物を、吸湿性のある担体に担持させてなることを特徴とする水検出用インジケーター。
【請求項5】
前記担体が、無機多孔質担体であることを特徴とする請求項4に記載の水検出用インジケーター。
【請求項6】
前記無機多孔質担体が、シリカゲルであることを特徴とする請求項5に記載の水検出用インジケーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−10642(P2007−10642A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334203(P2005−334203)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】