説明

水洗ブース装置

【課題】塗布剤ミストの捕集効率が高く、塗布剤ミストが排気ダクト内に多く流れ込んで排気ダクトの内面に付着、堆積する問題を解決することのできる水洗ブース装置を安価に提供する。
【解決手段】水洗ブース装置において、排気ファン18により吸引される塗布剤ミストを含んだ空気の排気通路途中に、塗布剤捕集用の水にて形成される水壁に対し排気の風の流れを強制通過させることで飛沫発生させ、塗布剤ミストを吸着して含んだ水粒を生成させる水粒生成部78を設けるとともに、排気ダクト16の、水粒生成部78から排気ファン18に到るまでの間に、旋風発生させて塗布剤を含む水粒を空気から遠心分離して円周内面に付着させる円筒状のサイクロン分離部80を上下向きに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は被塗物に向けて吹き付けられた接着剤や塗料等の塗布剤ミストの余剰分を、水洗ブースの水流壁の壁面に形成した水膜にて捕集するようになした水洗ブース装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の水洗ブース装置として、水流壁の壁面に沿って水を流してそこに水膜形成し、被塗物に向けて噴霧装置から噴霧された接着剤や塗料等の塗布剤ミストの余剰分の一部をその水膜にて捕集し、そして水膜にて捕集しきれなかった塗布剤ミストを空気とともに排気通路に導いて、排気通路内に供給した捕集水により捕集するようになしたものが従来から広く用いられている。
【0003】
例えば下記特許文献1に、この種の水洗ブース装置の一例が開示されている。
図5はその具体例を示している。
同図において、200は接着剤,塗料等の塗布剤を塗布すべき対象物としての被塗物で、202はその被塗物200に向けて塗布剤ミストを噴霧するスプレーガン等の噴霧装置である。
【0004】
204は水洗ブースで、206はこの水洗ブース204から立ち上がる排気ダクトである。
排気ダクト206の内部には軸流式の排気ファン208が設けられており、その排気ファン208が、モータ210にて回転させられるようになっている。
水洗ブース204の内部には水流壁としてのスクリーン壁212が縦に設けられており、その裏側(図中左側)に排気ダクト206の内部に連通する排気通路214が形成されている。
【0005】
スクリーン壁212上部裏側には受水室216が設けられており、この受水室216内の水がスクリーン壁212の壁面にオーバーフローして流下し、その流下水によってスクリーン壁212の壁面に水膜が形成されるようになっている。
【0006】
218は床上に設置された水槽、220は汲上げポンプで、水槽218内の水(循環水)が汲上げポンプ220により配管222を通じ、水洗ブース204の上部に汲み上げられる。
【0007】
汲み上げられた水は配管222の先端部に設けられた噴出口224から、水洗ブース204のフードにて構成されたガイド226に向けて噴出される。
ガイド226は図中左向きに傾斜しており、噴出口224から噴出された水は、このガイド226により案内されて図中左向きに流下する。
流下した水は開口228を通じ受水室216へと落下せしめられる。
【0008】
このガイド226の図中下端位置には堰230が設けられており、ガイド226を通じて左向きに流れた水は、その堰230による堰止作用によって水溜部232を形成する。
水溜部232に一旦溜められた水は、ガイド226に沿って引続き下向きに流れる水によって堰230をオーバーフローし、排気通路214に塗布剤ミストの捕集水として供給される。
【0009】
この水洗ブース装置の場合、噴霧装置202から噴霧された塗布剤ミストのうち、被塗物200に塗着しなかった余剰分の一部が、スクリーン壁212の壁面に沿って形成された水膜に当って捕集され、水膜とともに下方の水槽218へと落下する。
【0010】
また水膜にて捕集しきれなかった塗布剤ミストの余剰分の残りが、スクリーン壁212の下側を潜り抜けて排気通路214へと流れ込む。
排気通路214に流れ込んだ排気中の塗布剤ミストは、堰230を乗り越えて排気通路214に供給された水によって捕集され、捕集水とともに水槽218へと落下する。
【0011】
排気通路214に流れ込んだ排気は、排気ファン208による吸引力にて図中上向きに流れ、排気ダクト206内に流入する。
排気ダクト206内に流入した排気は、更に浄化フィルタ等を通過し、浄化された上で外部に排出される。
【0012】
しかしながらこの水洗ブース装置の場合、排気通路214内に流れ込んだ排気中の塗布剤ミストに対する捕集の効率が十分とはいえず、塗布剤ミストが排気ダクト206の内面に付着し、堆積する恐れのある問題があり、改善の余地のあるものであった。
【0013】
特に近年、被塗物200に対する塗布剤の塗着効率を高めるために、噴霧装置202からの塗布剤ミストの噴霧の勢いを弱くする傾向にあり、この場合排気ダクト206内面への塗布剤ミストの付着、堆積を助長してしまう。
【0014】
塗布剤ミストの噴霧の勢いが弱くなると、水膜まで到達できずにスクリーン壁212の下端を潜り抜けて排気通路214側に流れ込む塗布剤ミストの量が多くなる。
一方、これに応じて堰230を越えて排気通路214内に流す捕集水の流量を多くすると、次に挙げる問題が発生する。
【0015】
排気通路214内に供給される捕集水は排気経路の断面積を狭くするとともに狭くなった経路の距離が長くなると排気ファン208による排気の吸引の大きな抵抗となり、捕集水の量が多くなることによって排気ファン208による吸引力,吸引量が落ちてしまう。
その結果、塗布装置202付近における必要な風速(正確には塗布装置202を囲んだ図示しない水洗ブース204の開口部の風速)を確保することができなくなるため、捕集水の量を安易に増すことはできない。
【0016】
而して排気通路214への捕集水の供給水量を増すことが難しければ、排気通路214に流れ込んだ塗布剤ミストを十分に捕集することが難しく、塗布剤ミストが排気の風に乗って空気とともに舞い上がって排気ダクト206内部に流入し、排気ダクト206内面に塗布剤ミストが付着し堆積し易くなってしまう。
【0017】
特に排気ファン208を越えたあたりで排気の流れの勢いが弱くなるため、排気ファン208の上側辺りで排気ダクト206内面に付着、堆積する塗布剤ミストの量が多くなる。
この場合、排気ダクト206の頻繁な清掃が必要となり、清掃のための所要コストが高くなってしまう。
【0018】
この水洗ブース装置の場合、塗布剤が水よりも重いものである場合、受水室216内で塗布剤が沈降して底部に堆積する恐れがあり、この場合、その受水室216は清掃を行い難いところであるため、その清掃のための負担が大きくなってしまう。
而して清掃することなく放置しておくと塗布剤かすが腐敗して臭気を発してしまう。
【0019】
尚この特許文献1に開示の水洗ブース装置では、堰230をオーバーフローして乗り越えた水を排気通路214内部の塗布剤ミストの捕集水としているが、排気通路内にシャワーノズルを配し、シャワーノズルから水をシャワー噴霧してこれを捕集水となし、排気通路内の塗布剤ミストを捕集するようになしたものも公知である。
【0020】
例えば下記特許文献2,特許文献3,特許文献4にこの種の水洗ブース装置が開示されている。
しかしながらこの方式の場合、排気通路内でシャワー水と塗布剤ミストとが衝突し接触する機会は十分とは言えず、そしてシャワー水に接触しなかった塗布剤ミストがそのまま排気通路を通過してしまい、塗布剤ミストに対する捕集効率の点で十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第3899957号公報
【特許文献2】特許第3704083号公報
【特許文献3】特開平5−245417号公報
【特許文献4】特開平6−328025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は以上のような事情を背景とし、塗布剤ミストの捕集効率が高く、塗布剤ミストが排気ダクト内に多く流れ込んで排気ダクトの内面に付着、堆積する問題を解決することのできる水洗ブース装置を安価に提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
而して請求項1のものは、水槽内の循環水を汲み上げ、水洗ブースに設けた水流壁に沿って流下させることで該水流壁の壁面に水膜形成し、被塗物に向けて吹き付けられた塗布剤ミストの余剰分の一部を該水膜で捕集するようになした水洗ブース装置において、排気装置により吸引される前記塗布剤ミストを含んだ空気の排気通路途中に、塗布剤捕集用の水にて形成される水壁に対して排気の風の流れを強制通過させることで飛沫発生させ、該塗布剤ミストを吸着して含んだ水粒を生成させる水粒生成部を設けるとともに、前記排気通路の、該水粒生成部から前記排気装置に到るまでの間に、円周内面に沿って旋風発生させて前記塗布剤を含む水粒を空気から遠心分離して該円周内面に付着させる円筒状のサイクロン分離部を上下向きに設け、且つ該サイクロン分離部は、前記円周内面に付着した水粒にて形成される水分離層の上端が前記排気装置に到達しない長さで設けてあることを特徴とする。
【0024】
請求項2のものは、請求項1において、前記水壁形成用の水の噴出口が前記サイクロン分離部よりも上方に設けられ、該噴出口からの水が前記水粒生成部に向って流れる過程で、前記円周内面に付着した前記塗布剤含有の水を洗い流下させるようになしてあることを特徴とする。
【0025】
請求項3のものは、請求項2において、前記噴出口は、前記旋風と同じ回転方向に水を噴出するものとなしてあることを特徴とする。
【0026】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記水壁形成用の水が前記循環水であり、該循環水は、前記水粒生成部に向って下向きに傾斜したガイド上に落下した後、該水粒生成部に向って流れ、該水粒生成部を通過した水が前記水流壁の壁面に当って該壁面を下向きに流れ、前記水膜を該水粒生成部の下側に形成するものとなしてあることを特徴とする。
【0027】
請求項5のものは、請求項4において、前記ガイドは本体部分としての第1ガイド部と、該第1ガイド部よりも傾斜角度の大きな、前記水粒生成部に近い先端側部分の第2ガイド部とを有していることを特徴とする。
【0028】
請求項6のものは、請求項4,5の何れかにおいて、前記ガイドは前記水粒生成部側の先端に樋状の受水部を有しないものとなし、該ガイドに沿って斜めに流下した水を該先端から飛ばし、前記水流壁に当てるようになしてあることを特徴とする。
【0029】
請求項7のものは、請求項1〜6の何れかにおいて、前記水流壁の少なくとも一部は、前記水洗ブースの後方に取出可能な点検口カバーにて構成してあることを特徴とする。
【0030】
請求項8のものは、請求項1〜7の何れかにおいて、前記サイクロン分離部は、円筒状の排気ダクトの前記排気装置の下方の一部にて構成してあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0031】
以上のように本発明は、塗布剤ミストを含んだ空気の排気通路途中に、水壁に対して排気の風の流れを強制通過させることで水粒生成する水粒生成部を設けるとともに、排気通路の、水粒生成部から排気装置に到るまでの間に、旋風発生させて塗布剤を含む水粒を空気から遠心分離し、円周内面に付着させる円筒状のサイクロン分離部を上下向きに設けたものである。
【0032】
かかる本発明の水洗ブース装置においては、排気の風の流れを水壁に当て強制通過させるものであることから、排気中に含まれている塗布剤ミストを水壁にて吸収させ、効率的にこれを捕集することができる。
【0033】
また水壁に対して排気の風の流れを強制通過させることで発生した水粒、即ち水粒生成部で発生した水粒にも塗布剤ミストを吸着させて水粒中に捕集することができ、塗布剤ミストの余剰分を効率高く捕集することができる。
【0034】
而して塗布剤ミストを吸着して含んだ水粒は、サイクロン分離部を通過する際に遠心分離にて排気中の空気から分離され、円筒状のサイクロン分離部の円周内面に付着せしめられる。
【0035】
このサイクロン分離部は、円周内面に付着した水粒にて形成される水分離層の上端を排気装置に到達せしめない長さで排気装置の下側に形成されている。従って塗布剤ミストを含んだ水粒は、排気装置に到る前に排気中の空気から分離される。即ち塗布剤ミストを含んだ水粒が、排気装置を越えて排気通路の下流側へと流れるのが防止される。
これにより塗布剤が排気装置を越えて排気通路の下流側にまで流れて、そこで排気ダクトの内面に付着し堆積したり、或いは塗布剤が排気ファンに付着し堆積するといったことが効果的に防止される。
【0036】
本発明は、塗布剤ミストを水粒に吸収させ、水粒の形で排気通路を下流側へと流通させる点を特徴としている。
塗布剤ミストは、水粒に比べて粒子の極めて小さいものであり、従ってこれを塗布剤ミストのまま空気とともに排気通路を下流側へと流してサイクロン分離部でこれを空気から分離しようとしても上手く分離することはできない。
しかるに本発明では塗布剤ミストを水粒に吸着させ、粒を大きくした上でサイクロン分離部で遠心分離するようになしていることから、塗布剤ミストを空気から効率高く分離することができる。
【0037】
本発明は、従来の水洗ブース装置のようにシャワーノズルから捕集水をシャワー噴射して、これを塗布剤ミストに当てるものではなく、塗布剤ミストを含んだ排気の風の流れによって水粒生成するものであり、従って水粒中に塗布剤ミストを効率高く吸着させ捕集することができる特長を有するのに加えて、水粒生成に際してノズルを用いるものでないことから、塗布剤ミストがノズルに付着してノズルの孔を目詰まりさせてしまうといった不具合を生じない利点を有している。
また排気通路内にシャワーノズルを設ける必要がないため、シャワーノズル自体及びシャワーノズルに水を送って噴射させるための機構等によって装置が複雑化することもなく、装置を簡素に構成し得、また装置コストを安価となすことができる。
【0038】
次に請求項2は、上記水壁形成用の水の噴出口を、サイクロン分離部よりも上方に設け、噴出口からの水を水粒生成部に向けて流す過程で、上記の円周内面に付着した塗布剤含有の水を洗い流下させるようになしたもので、このようにすれば、水壁形成用の水をそのまま洗浄用の水として用い、遠心分離にてサイクロン分離部の円周内面に付着した水を洗浄でき、サイクロン分離部の円周内面に付着した水に含まれている塗布剤が円周内面に残って、次第にこれが堆積して行くといったことを有効に防止することができる。
尚、この噴出口からの水は間欠的に流しても良いし或いは連続的に流しても良い。
【0039】
この噴出口は、サイクロン分離部における上記の旋風と同じ回転方向に水を噴出するものとなしておくことができる(請求項3)。
このようにしておけば、噴出口から噴出された水によって、サイクロン分離部における旋回流(旋風)の勢いが減殺されるのを防ぐことができる。
【0040】
本発明では、上記水壁形成用の水として循環水を用い、その循環水を、水粒生成部に向けて下向きに傾斜したガイド上に落下させた後、水粒生成部に向けて流し、そして水粒生成部を通過した水を上記の水流壁の壁面に当てて壁面を下向きに流し、壁面に沿った水膜を水粒生成部の下側に形成するようになしておくことができる(請求項4)。
【0041】
このようにすれば、水膜形成用の専用の配管及び噴出口を別途に設けなくても良く、水粒生成用の水をそのまま水流壁に沿って流し、水膜形成することができる。
このようにすることで、装置の構成をより簡素な構成とすることができ、装置のための所要コストをより安価となすことができる。
【0042】
また水粒生成部は水膜の上側に位置することとなり、即ち排気装置による強い吸引力が作用する、排気装置に近い位置で排気の風を水壁に当てて水粒形成するために、水粒を効果的に多量に発生させることができ、更にはこれよりも下流側のサイクロン分離部を排気装置に近い位置に形成でき、従って強い旋回流(旋風)を排気通路内で生ぜしめて、水粒を効果高く排気中の空気から遠心分離することができる。
【0043】
この請求項4においては、上記のガイドを本体部分としての第1ガイド部と、これよりも傾斜角度の大きな先端側の第2ガイド部とを有するものとなしておくことができる(請求項5)。
【0044】
このような傾斜角度の大きな第2ガイド部を、第1ガイド部よりも先端側に設けておくことで、傾斜角度の小さい第1ガイド部によって水洗ブースの幅方向に均一に広がるように流れて来た水をより下向きの流れとし、水流壁に向けて適正な角度で、ガイドを伝って流れて来た水を飛ばし当てることができ、水膜を良好に形成できるようになる。ここで第2ガイド部の水平に対する傾斜角度が小さいと、水流壁に衝突した水が跳ね返りを起こし、被塗物へ付着して重大な品質不良となるため、跳ね返りを起こさないように傾斜角度を大きくする必要がある。
【0045】
上記のガイドを設ける場合において、ガイドの水粒生成部側の先端には樋状の受水部を設けず、ガイドに沿って斜めに流下した水をガイドの先端から飛ばし、水流壁に当てるようになしておくことができる(請求項6)。
【0046】
ガイドの先端に樋状の受水部を設けておき、その受水部に一旦水を溜めて、これをオーバーフローさせることによりガイドから流下させるようになした場合、その樋状の受水部に塗布剤かすが堆積する問題を生じ、またそのような塗布剤の堆積が生じるとこれを清掃しなければならず、清掃せずにそのまま放置すると、塗布剤かすが腐敗して臭気を発するようになってしまう。
しかるにこの請求項6ではそのような受水部を設けていないため、そうした不具合を生じることはない。
【0047】
本発明では、上記水流壁の少なくとも一部を、水洗ブースの後方に取出可能な点検口カバーにて構成しておくことができる(請求項7)。
このようにしておけば、その水流壁に噴霧装置からの塗布剤が付着した場合においても、容易にこれを水洗ブース後方に取り出して清掃することができる。
【0048】
本発明では、上記サイクロン分離部を円筒状の排気ダクトの排気装置の下方の一部にて構成しておくことができる(請求項8)。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態である水洗ブース装置の図である。
【図2】図1の水洗ブース装置の要部を、点検口カバーを取り外した状態で示した図である。
【図3】同実施形態の一作用状態を示す作用説明図である。
【図4】図3とは異なる部分の作用説明図である。
【図5】従来の水洗ブース装置の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は接着剤,塗料等の塗布剤を塗布すべき対象物として被塗物で、12はその被塗物10に向けて塗布剤ミストを噴霧するスプレーガン等の噴霧装置である。
14は水洗ブースで、16はこの水洗ブース14から上向きに立ち上がる排気ダクトである。
【0051】
排気ダクト16の内部には、上下方向の軸線周りに回転する軸流式の排気ファン18が設けられており、その排気ファン18が、排気ダクト16外部に設けられたモータ20にて回転させられるようになっている。
ここで排気ダクト16は、円筒状の第1の管体22と、第2の管体24とを有しており、第1の管体22が水洗ブース14に連結され、そして第1の管体22の上端に第2の管体24が連結されている。
上記排気ファン18及びモータ20は、第2の管体24に設けられている。
【0052】
26は水槽で、28は汲上げポンプであり、この汲上げポンプ28によって水槽26内の水(循環水)が、配管30を通じて上方に汲み上げられる。
配管30は、縦管32と、その上端から水平横向きに延びた短い横管34とを有しており、その横管34の先端に水の噴出口36が設けられている。
【0053】
ここで噴出口36はダクト16、具体的には第1の管体22の上部の内面で開口しており、且つその向きが図4(B)に示しているようにダクト16の接線方向(厳密には接線と平行方向)に向けられている。
従って汲上げポンプ28にて汲み上げられ、噴出口36から噴出された水は、ダクト16の内面に沿って回転運動しながら漸次下向きに流れて行く。
【0054】
38は、水洗ブース14の奥部に設けられた水膜形成用の水流板(水流壁)で、この水流板38の前面(壁面)に沿って水流が流れることで、そこに水膜が形成される。
この実施形態において、水流板38は垂直方向の上部40と、これに続いて水洗ブース14の内方に傾斜して延びる下側の第1傾斜部42と、更にこれに続く下側の第2傾斜部44とから成っている。
ここで第2傾斜部44は、第1傾斜部42に対して傾斜角度が小さくされている。
水流板38に沿って流れた水は、この第2傾斜部44の下端から水槽26へと落下せしめられる。
【0055】
水洗ブース14の後壁には、図2に示しているように点検口46が設けられており、この点検口46が、点検口カバー48にて閉鎖されるようになっている。
水流板38における上記の垂直方向の上部40の大部分は、この点検口カバー48にて構成されている。
点検口カバー48は、上端と下端とに傾斜形状の係合部50,52を有している。
【0056】
一方水洗ブース14の本体側には、対応する傾斜形状の被係合部54,56が設けられており、点検口カバー48は、係合部50と52とを、対応する被係合部54と56とに重ね合せ状態に係合させる状態に水洗ブース14の本体部分に装着される。
【0057】
点検口カバー48の後面上部にはロックレバー58が、図2(B)に示しているように軸60周りに回転可能に設けられており、そのロックレバー58を回転操作することで、ロックレバー58の上端の掛止部62が、点検口46縁部に設けられた被掛止部64に掛止され、或いは掛止解除されるようになっている。
点検口カバー48は、ロックレバー58の掛止部62を被掛止部64に掛止させることで、水洗ブース14の本体部分から外れ防止される。
尚66は、点検口カバー48に設けられた把手である。
【0058】
68は、水洗ブース14のフードにて構成されたガイドで、全体として図中左方向斜め下に傾斜した形状をなしている。
このガイド68は、相対的に緩やかに傾斜した本体部分である第1ガイド部70と、これよりも急角度で折れ曲った第2ガイド部72とを有している。
ここで第2ガイド部72の先端と水流板38との間には間隙が形成されている。
【0059】
この実施形態において、噴出口36からダクト16内部に噴出された水は、ダクト16の内面に沿って下向きに流れた後、ガイド68の上面に落下する。
ガイド68の上面に落下した水は、図3に示しているようにガイド68に案内されてその上面を左向きに水洗ブース14の幅方向に均一に広がるように流れ、そして第2ガイド部72と水流板38との間の間隙に水壁74を形成しながら水流板38に当って、その後水流板38に沿って下向きに流れる水膜76を形成する。
【0060】
ここで第2ガイド部72は、次のような働きを有している。
即ちこのような第2ガイド部72が設けられていないと、第1ガイド部70を流れて来た水は垂直向きの水流板38に急角度で当ってしまい、その下側に水膜76を良好に形成することができない。また、水流板38に衝突した水が跳ね返りを起こし、被塗物10へ付着して重大な品質不良となるため、跳ね返りを起こさないように傾斜角度を大きくする必要がある。
【0061】
そこでこの実施形態では、第1ガイド部70に続けてその先端側に急角度で折れ曲った第2ガイド部72を設け、第1ガイド部70を流れて来た水を、この第2ガイド部72への移流時に紙面と直角方向の水膜76の幅方向に流れを拡がらせ、更にガイド68からの水の流れの向きを水流板38に沿った向きに変えて、これを水流板38に対し柔らかに且つ滑らかに当て、以てその下側に静かな流れの水膜76を良好に形成せしめる。
【0062】
図3に示しているように、この第2ガイド部72の先端には樋状の受水部は設けられておらず、第2ガイド部72上を流れた水は水流板38に向けて飛び、水流板38に沿って水膜76を生成させる。
尚、第2ガイド部72から離れた水は、後述の排気の風の流れによる図中左向きの押圧作用を受け、第2ガイド部72による流れの向きの案内と、この排気の風の流れによる押圧作用とによって水流板38に押し付けられ、下向きに流下する。
【0063】
噴霧装置12から噴霧された塗布剤ミストのうち、被塗物10に塗着されなかった余剰の塗布剤ミストは、その一部がこの水膜76に当って水膜76により捕集され、下方の水槽26へと落下せしめられる。
【0064】
本実施形態では、排気ファン18の回転による吸引力によって、水洗ブース14内部の塗布剤ミストを含んだ空気が排気としてガイド68と水流板38との間の間隙を通過し、ダクト16内に吸引される。
このとき、塗布剤ミストを含んだ空気即ち排気の風が、ガイド68と水流板38との間に形成されている上記の水壁74を強制的に通過せしめられる。
そしてその排気の風の強制的な通過によって、そこで飛沫(水しぶき)発生し、多量の水粒を生成させる。
図3中78は、そのようにして水粒生成させる水粒生成部を表している。
【0065】
而して塗布剤ミストを含んだ排気の風が水壁74を強制通過する際に、排気中に含まれている塗布剤ミストの一部が水壁74に当ってそこに捕集され、また他の一部は発生した水粒中に吸着されて、1つ1つの水粒に捕集される。
ここで排気による空気の流れと落下する水壁74が交錯するが、排気方向と落下方向がクロスするように交錯しているため、排気の吸引力が相殺されにくい。また、その交錯している距離が短いことから排気の吸引に対して大きな抵抗にならず、噴霧装置12付近における必要な風速が落ちるという不具合もない。
このようにして生成した多数の水粒は、その後排気ファン18による吸引力によって、排気ダクト16内部に上向きに流れ込む。
【0066】
ところで排気ダクト16の内部においては、図4に示しているように排気ファン18の高速回転によってダクト16の円周内面に沿って強い旋回流(旋風)が生じており、排気ダクト16内部に流れ込んだ水粒群は、その旋風による遠心力で排気ダクト16の内面に向って飛翔せしめられる。
即ち排気ダクト16内部に排気とともに流れ込んだ水粒は、遠心分離によって排気中の空気から分離されてダクト16の内面に付着せしめられる。
図4中80は、そのようにして水粒を遠心力で分離するサイクロン分離部を表している。
【0067】
図に示しているようにこのサイクロン分離部80において、遠心分離されてダクト16内面に付着した水分離層82は、重力の作用と、排気ファン18による図中上向きの引上力とのバランスによって、図中下側において水量が多く、上方に移行するにつれて水量は漸次少なくなり、最終的にある高さ以上は実質的に水分離層が消失した状態となる。
図中hはそのサイクロン分離部80によって生成した水分離層82の高さを表している。
【0068】
本実施形態において、ダクト16詳しくは第1の管体22の高さHは、このサイクロン分離部80即ち水分離層82の高さhよりも高さが高くしてある。
具体的には、Hはここでは1030mmの高さとされている。尚内径Dはここではφ404.6mmである。また第2管体24の下端から排気ファン18までの高さHは140mmである。
尚排気ファン18(つまりモータ20)は出力が0.4kWで、モータ20の電源周波数は50Hzである。
【0069】
図4に示しているように上記の水の噴出口36は、このサイクロン分離部80よりも、即ち水分離層82よりも上方位置に配置されている。
従ってこの噴出口36から噴出された水は、ダクト16内面を回転運動しつつ下向きに流れ、ダクト16内面に遠心力で付着している水分離層82を洗い流しながら下方へと流下して行く。
【0070】
尚水分離層82はダクト16内の旋風によりダクト16内面に沿って旋風方向に移動しており、その移動に基づいて最終的に噴出口36からの水の流れにより洗われる。
尚噴出口36からの水の噴出の方向は、図4(A)中矢印Pで示す旋回流の向きと同じ回転方向である。
【0071】
以上のように本実施形態の水洗ブース装置においては、排気の風の流れを水壁74に対し強制通過させるものであることから、排気中に含まれている塗布剤ミストを水壁74にて吸収させ、効率的にこれを捕集することができる。
【0072】
また水壁74に対して排気の風の流れを強制通過させることで発生した水粒、即ち水粒生成部78で生成した水粒にも塗布剤ミストを吸着させて水粒中に捕集することができ、塗布剤ミストの余剰分を効率高く捕集することができる。
【0073】
而して塗布剤ミストを吸着して含んだ水粒はサイクロン分離部80を通過する際に遠心分離にて排気中の空気から分離され、円筒状のサイクロン分離部80の円周内面に付着せしめられる。
これにより塗布剤が排気ファン18を越えて排気ダクト16の下流側にまで流れて、そこで排気ダクト16の内面に付着し堆積したり、或いは塗布剤が排気ファン18に付着し堆積するといったことが効果的に防止される。
【0074】
本実施形態では、塗布剤ミストを水粒に吸収させ、水粒の形で排気ダクト16を下流側へと流通させる。
塗布剤ミストは、水粒に比べて粒子の極めて小さいものであり、従ってこれを塗布剤ミストのまま空気とともに排気ダクト16を下流側へと流してサイクロン分離部80でこれを空気から分離しようとしても上手く分離することはできない。
しかるに本実施形態では塗布剤ミストを水粒に吸着させ、粒を大きくした上でサイクロン分離部80で遠心分離するようになしていることから、塗布剤ミストを空気から効率高く分離することができる。
【0075】
更に本実施形態のものは、従来の水洗ブース装置のようにシャワーノズルから捕集水をシャワー噴射して、これを塗布剤ミストに当てるものではなく、塗布剤ミストを含んだ排気の風の流れによって水粒生成するものであり、従って水粒中に塗布剤ミストを効率高く吸着させ捕集することができるのに加えて、水粒生成に際してノズルを用いるものでないことから、塗布剤ミストがノズルに付着してノズルの孔を目詰まりさせてしまうといった不具合を生じない利点を有している。
また排気通路内にシャワーノズルを設ける必要がないため、シャワーノズル自体及びシャワーノズルに水を送って噴射させるための機構等によって装置が複雑化することもなく、装置を簡素に構成し得、また装置コストを安価となすことができる。
【0076】
本実施形態ではまた、水壁78形成用の水の噴出口36を、サイクロン分離部80よりも上方に設け、噴出口36からの水を水粒生成部78に向けて流す過程で、サイクロン分離部80の円周内面に付着した塗布剤含有の水を洗い、流下させるようになしている。
即ち水壁74形成用の水をそのまま洗浄用の水として用い、遠心分離にてサイクロン分離部80の円周内面に付着した水を洗浄するようになしている。従ってサイクロン分離部80の円周内面に付着した水に含まれている塗布剤が円周内面に残って、次第にこれが堆積して行くといったことを有効に防止することができる。
【0077】
更にこの噴出口36は、サイクロン分離部80における旋風と同じ回転方向に水を噴出するものとなしてあるため、噴出口36から噴出された水によって、サイクロン分離部80における旋回流(旋風)の勢いが減殺されるのを防ぐことができる。
【0078】
また本実施形態では、水壁74形成用の水として循環水を用い、その循環水をガイド68上に落下させた後、水粒生成部78に向けて流し、そして水粒生成部78を通過した水を水流板38に当てて、水粒生成部78の下側に水膜76を形成するようになしており、そしてこのようにすることで、水膜形成用の専用の配管及び噴出口を別途に設けなくても良く、水粒生成用の水をそのまま用いて水膜形成することができる。
このようにすることで、装置の構成をより簡素な構成とすることができ、装置のための所要コストをより安価となすことができる。
【0079】
また水粒生成部78は、排気ファン18による強い吸引力が作用する、排気ファン18に近い位置に設けてあり、これにより水粒を効果的に多量に発生させることができ、更にはこれよりも下流側のサイクロン分離部80を排気ファン18に近い位置に設けてあるため、強い旋回流(旋風)を排気ダクト16内で生ぜしめ得て、水粒を効果高く排気中の空気から遠心分離することができる。
【0080】
またこの実施形態では、傾斜角度の大きな第2ガイド部72を、第1ガイド部70よりも先端側に設けてあるため、第1ガイド部70を流れて来た水を水流板38に向けて適正な角度で飛ばして水流板38に当てることができ、水膜76を良好に形成することができる。
またガイド68の先端には樋状の受水部を設けていないため、樋状の受水部に塗布剤かすが堆積する問題を生じない。
【0081】
更に本実施形態では水流板38の一部を、水洗ブース14の後方に取出可能な点検口カバー46にて構成してあるため、そこに噴霧装置12からの塗布剤が付着した場合においても、容易にこれを水洗ブース14後方に取り出して清掃することができる。
【0082】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 被塗物
14 水洗ブース
16 排気ダクト
18 排気ファン
26 水槽
36 噴出口
38 水流板(水流壁)
48 点検口カバー
68 ガイド
70 第1ガイド部
72 第2ガイド部
74 水壁
78 水粒生成部
80 サイクロン分離部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽内の循環水を汲み上げ、水洗ブースに設けた水流壁に沿って流下させることで該水流壁の壁面に水膜形成し、被塗物に向けて吹き付けられた塗布剤ミストの余剰分の一部を該水膜で捕集するようになした水洗ブース装置において、
排気装置により吸引される前記塗布剤ミストを含んだ空気の排気通路途中に、塗布剤捕集用の水にて形成される水壁に対して排気の風の流れを強制通過させることで飛沫発生させ、該塗布剤ミストを吸着して含んだ水粒を生成させる水粒生成部を設けるとともに、
前記排気通路の、該水粒生成部から前記排気装置に到るまでの間に、円周内面に沿って旋風発生させて前記塗布剤を含む水粒を空気から遠心分離して該円周内面に付着させる円筒状のサイクロン分離部を上下向きに設け、
且つ該サイクロン分離部は、前記円周内面に付着した水粒にて形成される水分離層の上端が前記排気装置に到達しない長さで設けてあることを特徴とする水洗ブース装置。
【請求項2】
請求項1において、前記水壁形成用の水の噴出口が前記サイクロン分離部よりも上方に設けられ、該噴出口からの水が前記水粒生成部に向って流れる過程で、前記円周内面に付着した前記塗布剤含有の水を洗い流下させるようになしてあることを特徴とする水洗ブース装置。
【請求項3】
請求項2において、前記噴出口は、前記旋風と同じ回転方向に水を噴出するものとなしてあることを特徴とする水洗ブース装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記水壁形成用の水が前記循環水であり、該循環水は、前記水粒生成部に向って下向きに傾斜したガイド上に落下した後、該水粒生成部に向って流れ、該水粒生成部を通過した水が前記水流壁の壁面に当って該壁面を下向きに流れ、前記水膜を該水粒生成部の下側に形成するものとなしてあることを特徴とする水洗ブース装置。
【請求項5】
請求項4において、前記ガイドは本体部分としての第1ガイド部と、該第1ガイド部よりも傾斜角度の大きな、前記水粒生成部に近い先端側部分の第2ガイド部とを有していることを特徴とする水洗ブース装置。
【請求項6】
請求項4,5の何れかにおいて、前記ガイドは前記水粒生成部側の先端に樋状の受水部を有しないものとなし、該ガイドに沿って斜めに流下した水を該先端から飛ばし、前記水流壁に当てるようになしてあることを特徴とする水洗ブース装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかにおいて、前記水流壁の少なくとも一部は、前記水洗ブースの後方に取出可能な点検口カバーにて構成してあることを特徴とする水洗ブース装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかにおいて、前記サイクロン分離部は、円筒状の排気ダクトの前記排気装置の下方の一部にて構成してあることを特徴とする水洗ブース装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−88078(P2011−88078A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243826(P2009−243826)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】