水洗便器の排水ソケット、及び、水洗便器
【課題】水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、このサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる水洗便器の排水ソケットを提供する。
【解決手段】本発明の水洗便器1の排水ソケット4は、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの出口端部2bに連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口6aを含む縦管路6bを備え、排水配管Dの入口端部D1に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口6cとを含む横管路6dを備えた排水ソケット本体6と、床面F上に配置され排水ソケット本体の下方に位置し、排水ソケット本体を支持する台座部材8と、排水ソケット本体の横管路6d内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路10aを形成するアダプタ10と、を有する。
【解決手段】本発明の水洗便器1の排水ソケット4は、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの出口端部2bに連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口6aを含む縦管路6bを備え、排水配管Dの入口端部D1に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口6cとを含む横管路6dを備えた排水ソケット本体6と、床面F上に配置され排水ソケット本体の下方に位置し、排水ソケット本体を支持する台座部材8と、排水ソケット本体の横管路6d内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路10aを形成するアダプタ10と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器の排水ソケット、及び、水洗便器に係り、特に、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部とを連結する排水ソケット、及び、この排水ソケットを使用した水洗便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の出口端部とを連結する、いわゆる床上排水形の水洗便器においては、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部との高低差に対応できるような排水接続構造を有する排水ソケットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−256662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の排水ソケットにおいては、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部との種々の高低差に応じた排水ソケットを用意しなければならず、多種類の排水ソケットが必要となるが、採用される排水ソケットの種類が変わると、水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の入口部と排水ソケットの排水路の出口端部の排水芯との高低差も変化するため、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用も変化し、洗浄性能に影響を及ぼすという問題がある。
特に、水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の入口部と排水ソケットの排水路の出口端部の排水芯との高低差が小さくなるほど、水洗便器本体の洗浄時のサイホン作用の強さ(負圧による引きの強さ)が弱まるため、水洗便器の洗浄性能が低下するという問題ある。
【0005】
このように、水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の入口部と排水ソケットの排水路の出口端部の排水芯との高低差は、サイホン作用の強さに大きく影響を及ぼすため、このサイホン作用の強さをいかに大きくするかが、水洗便器の洗浄性能を向上させるために従来から要請された課題となっている。
また、水洗便器の洗浄性能を向上させるためには、サイホン作用の強さを大きくする以外にも、サイホン作用のタイミングをいかに早めるか、そして、サイホン作用の継続時間をいかに長くするかについても、従来から要請された課題となっている。
【0006】
そこで、本発明は、上述した従来から要請された課題を解決するためになされたものであり、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、且つこのサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる水洗便器の排水ソケット、及び、水洗便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部とを連結する水洗便器の排水ソケットであって、上記排水路の出口端部に連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口を含む縦管路と、上記排水配管の入口端部に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口を含む横管路と、を備えた排水ソケット本体と、上記排水ソケット本体の横管路内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路を形成する横管路縮減部材と、を有することを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明においては、横管路縮減部材が排水ソケット本体の横管路内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路を形成しているため、水洗便器本体の洗浄時に水洗便器本体の排水路内と横管路縮減部材の通水路内をより早く満水にすることができる。この結果、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、このサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、上記横管路縮減部材は、その通水路の中心軸が上記横管路の中心軸よりも下方に偏心し、且つ水洗便器本体の排水路の入口端部の上端と上記通水路の中心軸との距離が大きくなるように構成されている。
【0010】
このように構成された本発明においては、横管路縮減部材の通水路の中心軸が横管路の中心軸よりも下方に偏心し、且つ水洗便器本体の排水路の入口端部における上端と通水路の中心軸との距離が大きくなるため、水洗便器本体の排水路と横管路縮減部材の通水路との高低差を効果的に作り出すことができる。この結果、より強いサイホン作用(より強い負圧による引き)を生じさせることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、横管路縮減部材は、その通水路の流路断面の直径が38mm〜70mmに設定されるように構成されている。
【0012】
このように構成された本発明においては、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、且つこのサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。また、横管路縮減部材の通水路の流路断面の直径が広がりすぎてサイホン作用が発生するタイミングが遅れたり、持続時間が短くなったりすることを確実に防止することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、更に、床面上に配置され上記排水ソケット本体の下方に位置し、上記排水ソケット本体を支持する支持部材であって、この支持部材が、上記床面に固定可能なベースと、上記排水ソケット本体の床面からの高さを上記排水配管の床面からの高さとほぼ一致するように調整する高さ調整手段と、を備えた上記支持部材を有する。
【0014】
このように構成された本発明においては、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部との高低差が生じたとしても、排水ソケットの床面からの高さ距離を調節して連結することができるため、壁面に設けられた排水芯の異なるあらゆる排水配管への取り付けにも対応することができる。
【0015】
本発明は、上記排水ソケットを備えていることを特徴とする水洗便器である。
【0016】
このように構成された本発明においては、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、且つこのサイホン作用の持続時間を長くすることができ、洗浄性能を向上させた水洗便器とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水洗便器の排水ソケット、及び、水洗便器によれば、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、このサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による排水ソケット、及び、水洗便器を説明する。
まず、図1〜図3により、本発明の第1実施形態による水洗便器を説明する。図1は本発明の第1実施形態の水洗便器を示す全体縦断面図であり、図2は図1における水洗便器の排水ソケットの部分を拡大した拡大断面図であり、図3は、本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットを示す背面図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の第1実施形態の水洗便器1は、陶器製の水洗便器本体2と、この水洗便器本体2の排水路であるトラップ導水路2aの出口端部2bと壁面Wに設けられた排水配管Dとを連結する排水ソケット4(詳細は後述する)と、を有する。
水洗便器本体2は、外部の給水源(図示せず)に接続された給水管(図示せず)から洗浄水が供給される洗浄水タンク2cとボウル部2dとを備えている。すなわち、水洗便器1は、水洗便器本体2に洗浄水タンク2cが設けられたタンク式の水洗便器である。
【0020】
また、水洗便器本体2はトラップ導水路2aを備え、このトラップ導水路2aは、ボウル部2dの底部に設けられた入口端部2eから頂部2fに向かって斜め上方に延びた後、この頂部2fから出口端部2bに向かって下方に延び、その出口端部2bでは鉛直方向下方に向かって開口している。
水洗便器本体2の洗浄水タンク2cに溜められた洗浄水は、所定の導水路(図示せず)を通ってボウル部2dに流入し、ボウル部2dの中の洗浄水は、トラップ導水路2aの入口端部2eから頂部2fに向かって上昇し、最高点である頂部2fを通過した後、出口端部2bから下方に流出するようになっている。
【0021】
つぎに、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態の水洗便器1に使用される排水ソケット4の構成について詳細に説明する。
排水ソケット4は、塩化ビニール等のプラスチック材料で作られており、排水ソケット本体6、台座部材8、及び、アダプタ10によって構成されている。
【0022】
排水ソケット本体6は、トラップ導水路2aの出口端部2bに連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口6aを含む縦管路6bと、壁面Wに設けられた排水配管Dの入口端部D1に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口6cを含む横管路6dとを備え、縦管路6bと横管路6dによって概ねL字形のパイプ状の流路が形成されている。
また、排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aと横管路6dの流出口6cのそれぞれには、パッキン6e,6fがそれぞれ取付けられている。
さらに、排水ソケット本体6は、その下部から鉛直下方に延びる柱状部材6gを備え、この柱状部材6gの外周面には、鉛直方向に雄ネジ部6hが形成されている。
【0023】
台座部材8は、床面F上に配置されて排水ソケット本体6の下方に位置し、排水ソケット本体6と高さ調節可能に連結された支持部材であり、ベース8aと、このベース8aの中央に配置された隆起部8bと、この隆起部8bに対して昇降可能に螺合された入れ子部8cと、を有する。入れ子部8cの内周部には、雌ネジ部8dが形成されており、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hが螺合されるようになっている。
ベース8aは、ボルト8eによって床面Fに固定されており、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hが台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dに螺合されることにより、排水ソケット本体6と台座部材8が高さ調節可能に連結され、排水ソケット本体6が台座部材8を介して床面Fに固定されるようになっている。
【0024】
また、排水ソケット本体6の柱状部材6gと台座部材8のそれぞれは、排水ソケット本体6の床面Fからの高さを調整する高さ調整部材としても機能している。すなわち、台座部材8の隆起部8bと、これに螺合された入れ子部8cは、互いに螺合する割合を変えることにより、隆起部8bに対する入れ子部8cの相対的な高さを調整し、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hと台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dにおいては、排水ソケット本体6を柱状部材6gの中心軸6iを中心に回転させて互いのネジ部同士が螺合する割合を変えることにより、排水ソケット本体6の床面Fからの高さを調整する高さ調整手段として機能している。
ちなみに、図1〜図3においては、台座部材8の入れ子部8cが隆起部8bに完全にねじ込まれ、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hが台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dに完全にねじ込まれており、排水ソケット本体6の床面Fからの高さが排水配管Dの床面Fからの高さとほぼ一致するように調整された状態が示されている。
【0025】
なお、上述した本実施形態の水洗便器の排水ソケットにおいては、台座部材8の隆起部8bとこれに螺合された入れ子部8cの互いに螺合する割合を変えたり、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hと台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dの互いに螺合する割合を変えることによって、排水ソケット本体6の床面Fからの高さ調整を行うようになっている形態について説明しているが、このような形態に限定されず、他の形態についても適用可能である。
例えば、縦方向に延びる長穴が形成されたプレート部材を含むL字形の金具を床面に固定し、排水ソケット本体から突出したボルト部材をこのL字形の金具のプレート部材の長穴に通した後、ナットで締結し、排水ソケット本体をL字形の金具に対して縦方向に摺動可能に取り付けることにより、床面からの排水ソケット本体の高さを調整するようにしてもよい。要するに、床面からの排水ソケット本体の高さが調整できる手段を備えているあらゆる形態に適用可能である。
【0026】
また、排水ソケット本体6内においては、上述したように、縦管路6bから横管路6dにかけて概ねL字形のパイプ状の流路が形成されている。この縦管路6bから横管路6dの流路に切り替わる部分の底部、すなわち、縦管路6bの底部、或いは、横管路6dの入口部6jの底部には、水溜部6kが形成されている。この水溜部6kは、ほぼ下方に球面状に張り出すように形成され、その球面の中心Oが縦管路6bの排水芯6lよりもわずかに偏心しており、排水ソケット本体6内の縦管路6bから横管路6dに切り替わる部分の流路を汚物が通過しやすくするために、流路を部分的に広くしている。
さらに、水洗便器本体2が洗浄される前の水溜部6kにおいては、図2に破線Lで示すように、下方に球面状に張り出している形状部分の水位L付近まで水が溜まるようになっている。したがって、水洗便器本体2が洗浄される前における排水ソケット本体6内の縦管路6bから横管路6dにかけての見かけ上の通路(空気が滞在している通路)は、水溜部6kに水位Lまで水が溜まっている分だけ狭くなっているため、水洗便器本体2が洗浄されると、排水ソケット本体6内の流路が満水になりやすく、サイホン作用が早期に発生するようになっている。そして、サイホン作用が発生すると、排水ソケット本体6内の縦管路6bから横管路6dにかけての流路が水溜部6kによって広くなっているため、汚物が水溜部6kで自由に向きを変えて、詰まることなく通過できるようになっている。
【0027】
アダプタ10は、排水ソケット4と同様に、塩化ビニール等のプラスチック材料で形成された部材であり、排水ソケット本体6の横管路6d内の流路を一部塞ぐように、排水ソケット本体6の横管路6dの流出口6cから横管路6dの内部に嵌め込まれて固着されている。
また、アダプタ10の内部には、排水ソケット本体6の縦管路6b内の流路から横管路6d内の流路に屈曲して切り替わる横管路6dの入口部6jから横管路6dの流出口6cまで延びる通水路10aが形成されている。
【0028】
さらに、アダプタ10の通水路10aは、その流路断面がほぼ円形形状を有しており、通水路10aの流路断面の大きさ(直径d1)が、排水配管Dの入口端部D1における流路断面の大きさ(直径d2)や排水ソケット本体6の横管路6dの横断面の大きさ(直径d3)よりも小さくなっている。
したがって、排水ソケット本体6の横管路6dの流路断面の大きさは、横管路6d内の横断面の大きさ(直径d3)よりも小さく、実質的にアダプタ10の通水路10aの大きさ(直径d1)に相当しており、アダプタ10は、排水ソケット本体6の横管路6dの横断面の大きさを通水路10aの流路断面の大きさ(直径d1)に縮減する横管路縮減部材として機能している。
【0029】
また、アダプタ10の通水路10aの流路断面の中心軸(いわゆる「排水芯」)A1は、横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2よりも下方に偏心しており、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと通水路の中心軸A1との距離h1(図1参照)については、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2との距離h2(図1参照)よりも大きく設定されている。
ちなみに、アダプタ10の通水路10aの流路断面の直径d1については、通水路10a内から通水路流出口10bにおける排水性能を損なわず、且つ水洗便器本体2の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めると共にこのサイホン作用の持続時間を長くするために、38mm〜70mmに設定するのが好ましく、38mm〜60mmに設定するのが最も好ましい。
【0030】
なお、上述した本実施形態の水洗便器の排水ソケット4を構成する排水ソケット本体6、台座部材8、及び、アダプタ10については、プラスチック材料で作られているものについて説明しているが、このような材料で作られているものに限定されず、例えば、金属や陶器等で作られているものでもよい。
【0031】
つぎに、本発明の第1実施形態による水洗便器及びその排水ソケットの設置方法について説明する。
まず、排水ソケット4を排水配管Dの近くの床面Fに配置する。
つぎに、排水ソケット本体6をその柱状部材6gの中心軸6iを中心に回転させ、排水ソケット本体6の横管路6dと排水配管Dの高さが整合するまで、台座部材8の隆起部8bと入れ子部8cとの螺合と、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hと台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dとの螺合を調整する。
【0032】
排水ソケット本体6の高さ調整をした後、排水ソケット本体6の横管路6dの流出口6cを排水配管Dに挿入する。排水ソケット本体6の横管路6dの流出口6cと排水配管Dの間の水密性、気密性は、パッキン6fにより確保される。
つぎに、台座部材8のベース8aをボルト8eによって床面Fに固定する。そして、水洗便器本体2を、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの出口端部2bが排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aに挿入されるように配置する。この際、排水ソケット本体6には鉛直下方に向う力が作用するが、排水ソケット本体6は台座部材8によって下方から支持されているので、排水ソケット本体6の位置は変化しない。
また、排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aと水洗便器本体2のトラップ導水路2aの出口端部2bとの間の水密性、気密性は、パッキン6eによって確保される。最後に、水洗便器本体2をボルト(図示せず)等で床面Fに固定して水洗便器の設置を終了する。
【0033】
つぎに、本発明の第1実施形態による水洗便器及びその排水ソケットの動作(作用)について説明する。
水洗便器1を洗浄する際、水洗便器本体2の洗浄水タンク2cの洗浄水がボウル部2d内に給水され、水洗便器本体2のトラップ導水路2a内及び排水ソケット4のアダプタ10の通水路10a内が満水となると、ボウル部2dから通水路10aにかけてサイホン作用が発生し、ボウル部2d内の汚物をトラップ導水路2aの入口端部2eから頂部2fを経て出口端部2bに吸引する負圧が発生する。
また、トラップ導水路2aの出口端部2bから流出された汚物を含む排水は、排水ソケット4の排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aから排水ソケット本体6内に流入し、アダプタ10の通水路10aを流れ、通水路流出口10bから排水配管Dの入口端部D1を経て排水配管D内に流出される。
所定時間サイホン作用が持続した後、トラップ導水路2a内の排水の減少と共にサイホン作用が弱まり、最終的には、サイホン作用が終了し、水洗便器1の洗浄が完了する。
【0034】
また、本実施形態の水洗便器1の排水ソケット4においては、アダプタ10の通水路10aの流路断面の中心軸(いわゆる「排水芯」)A1が横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2よりも下方に偏心しており、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと通水路の中心軸A1との距離h1が水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2との距離h2(図1参照)よりも大きく設定されているため、この距離h1により、トラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと排水ソケット4のアダプタ10の通水路10aとの高低差を確保することができ、アダプタ10を備えていない排水ソケットよりも、水洗便器本体2の洗浄時におけるトラップ導水路2a内でサイホン作用による強い負圧が発生しやすい状態を作り出すことができる。
【0035】
図4は、本実施形態の水洗便器の排水ソケットにおいて、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合における水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況を比較した実験結果を示すグラフである。
ここで、図4に示すグラフの縦軸は、水洗便器本体の洗浄が開始されてから完了するまでの一連の洗浄工程におけるトラップ導水路内の頂部付近の圧力を示しており、グラフの横軸は時間を示している。
また、図4のグラフ内の点P1,Q1は、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合のそれぞれの場合において、トラップ導水路内の頂部付近の負圧の大きさが最大となる点をそれぞれ示している。
さらに、図4のグラフ内の点P2,Q2は、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合のそれぞれの場合において、サイホン作用が完了し、その後負圧がほぼ一定となる点をそれぞれ示している。
【0036】
図4に示すように、水洗便器本体の洗浄が開始されてから点P1に到達するまでの時間は、点Q1に到達するまでの時間よりも短くなっている。この結果、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりもサイホン作用による負圧が最大に到達するまでの時間が早められることが確認できた。すなわち、アダプタを使用した場合の方が、サイホン作用による負圧が最大に到達するまでの時間が早められた分、サイホン作用が発生するタイミングも早めることができることが確認できた。
また、点P1から点P2までの時間をT(P2−P1)とし、点Q1から点Q2までの時間をT(Q2−Q1)とすると、時間T(P2−P1)及びT(Q2−Q1)のそれぞれは、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合におけるサイホン作用による負圧が最大に到達してからサイホン作用が終了するまでのサイホン作用の持続時間(以下、「サイホン持続時間」)に相当している。図4に示すように、これらのサイホン持続時間T(P2−P1)及びT(Q2−Q1)について比較すると、サイホン持続時間T(P2−P1)がサイホン時間T(Q2−Q1)よりも大きくなっている。この結果、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりも、サイホン作用が長く持続されることが確認できた。
【0037】
上述した本発明の第1実施形態の水洗便器によれば、アダプタ10が排水ソケット本体6の横管路6d内に設けられ、この横管路6d内の流路断面の少なくとも上部を縮減するように通水路10aが形成されているため、アダプタ10を備えていない排水ソケットに比べて、排水ソケット本体6の横管路6dがアダプタ10により通水路10aの流路断面の大きさに縮減されている分だけ、水洗便器本体2の洗浄時に水洗便器本体2のトラップ導水路2a内とアダプタ10の通水路10a内をより早く満水にすることができる。したがって、水洗便器本体2の洗浄時におけるトラップ導水路2a内でサイホン作用による負圧が発生しやすい状態をより早く作り出すため、水洗便器本体2の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、このサイホン作用の持続時間を長くすることができる。
また、アダプタ10の通水路10aの流路断面の中心軸(いわゆる「排水芯」)A1が横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2よりも下方に偏心しており、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと通水路の中心軸A1との距離h1が水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2との距離h2(図1参照)よりも大きく設定されているため、この距離h1により、トラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと排水ソケット4のアダプタ10の通水路10aとの高低差を効果的に作り出すことができ、より強いサイホン作用(より強い負圧による引き)をもたらすことができる。
これらの結果、水洗便器1の洗浄性能を向上させることができる。
【0038】
つぎに、図5及び図6を参照して、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットについて説明する。
図5は、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図であり、図6は、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。ここで、図5及び図6において、第1実施形態の水洗便器における排水ソケットと同一の部分については同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0039】
図5及び図6に示すように、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケット20においては、アダプタ22が排水ソケット本体6の横管路6dにその流路を一部塞ぐように嵌め込まれて固着されており、第1実施形態の排水ソケット4におけるアダプタ10の通水路10aと同一の通水路を備えている点で第1実施形態のものと共通している。
しかしながら、本実施形態の排水ソケット20のアダプタ22においては、排水ソケット本体6の通水路10aの上方に隣接してその軸方向とほぼ平行に延びる通気穴22aが形成されており、この通気穴22aによって、排水ソケット本体6の横管路6dの入口部6j或いはトラップ導水路2aの出口端部2b付近に溜まる空気を排水配管Dの入口端部D1へ逃がすことができるようになっている点で第1実施形態のものと異なっている。
【0040】
上述した本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケット20によれば、排水ソケット本体6の横管路6dの入口部6j或いはトラップ導水路2aの出口端部2b付近に溜まる空気をアダプタ22の通気穴22aによって排水配管Dの入口端部D1へ逃がすことができるため、排水ソケット本体6内の空気を排水配管Dへ円滑に排出することができる。このことに加え、排水ソケット本体6の横管路6dの流路断面がアダプタ22により通水路10aの流路断面の大きさに縮減されているため、より早く排水ソケット本体6内を満水にすることができ、その結果、より早くサイホン作用を発生させることができる。
【0041】
つぎに、図7〜図11を参照して、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットについて説明する。
図7は、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図であり、図8は、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。また、図9は本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め上方から見た斜視図であり、図10は本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め下方から見た斜視図である。ここで、図7〜図10において、第1実施形態の水洗便器における排水ソケットと同一の部分については同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0042】
図7〜図10に示すように、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケット30においては、アダプタ32が排水ソケット本体6の横管路6d内の流路を一部塞ぐように排水ソケット本体6の横管路6dに嵌め込まれて固着されており、このアダプタ32の内部には、横管路6dの入口部6jから横管路6dの流出口6cまで延びる通水路32aが形成されている点で第1実施形態のものと共通している。
しかしながら、本実施形態の排水ソケット30のアダプタ32においては、通水路32aを形成するアダプタ32の内壁面32bの一部には、その軸方向に対してらせん状に延びる凹溝32cが形成されている点で第1実施形態のものと異なっている。
さらに、通水路32aを形成するアダプタ32の内壁面32bにおいては、凹溝32cと対向する部分は一部分断されており、アダプタ32が排水ソケット本体6の横管路6dに嵌め込まれて固着された状態では、凹溝32cと共にらせん状の溝32dを形成している。
【0043】
なお、上述した本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケット30においては、アダプタ32に形成されるらせん状の凹溝32cや溝32dについては、溝の形状や個数等については特に限定されず、種々の形態の溝が適用可能である。また、らせん状の凹溝32cや溝32dの代わりにらせん状の突起のようなものをアダプタ32の内壁面32bに設けてもよい。
【0044】
上述した本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケット30によれば、通水路32a内の汚水がアダプタ32の内壁面32bに形成されたらせん状の凹溝32cや溝32dに沿って流れることによって、この汚水を通水路32a内又は通水路32aの周辺付近の空気を巻き込みながら排水配管Dの入口端部D1へ排出することができる。したがって、排水ソケット本体6内の空気を排水配管Dへ円滑に排出することができる。このことに加え、排水ソケット本体6の横管路6dの流路断面がアダプタ22により通水路10aの流路断面の大きさに縮減されているため、より早く排水ソケット本体6内を満水にすることができ、その結果、より早くサイホン作用を発生させることができる。
【0045】
つぎに、図11は、上述した第1実施形態から第3実施形態までの排水ソケットを用いて、水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況をそれぞれ比較した実験結果を示すグラフである。
ここで、図11に示すグラフの縦軸は、水洗便器本体の洗浄が開始されてから完了するまでの一連の洗浄工程におけるトラップ導水路内の頂部付近の圧力を示しており、グラフの横軸は時間を示している。
また、図11のグラフ内の点P1,Q1,R1,S1は、第1実施形態のアダプタを使用した場合、アダプタを使用しない場合、第2実施形態のアダプタを使用した場合、第3実施形態のアダプタを使用した場合のそれぞれの場合において、トラップ導水路内の頂部付近の負圧の大きさが最大となる点をそれぞれ示している。
さらに、図11のグラフ内の点P2,Q2,R2,S2は、第1実施形態のアダプタを使用した場合、アダプタを使用しない場合、第2実施形態のアダプタを使用した場合、第3実施形態のアダプタを使用した場合のそれぞれの場合において、サイホン作用が完了し、その後負圧がほぼ一定となる点をそれぞれ示している。
【0046】
図11に示すように、サイホン作用による負圧が最大になるまでの時間については、短い時間の順にS1、R1、P1、Q1となり、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりもサイホン作用が発生するタイミングが早められることが確認でき、特に、アダプタを使用した場合においては、第3実施形態、第2実施形態、第1実施形態の順にサイホン作用が早められることが確認できた。
また、サイホン持続時間については、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりも長くなり、特に、アダプタを使用した場合においては、サイホン持続時間が長い順に、T(S2−S1)、T(R2−R1)、T(P2−P1)の順となり、第3実施形態、第2実施形態、第1実施形態の順にサイホン作用が長く持続されることが確認できた。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態では、水洗便器本体が給水タンク一体形の便器である場合について説明したが、水洗便器本体は、給水タンク密結形、水道直結形、給水タンク及び水道直結のハイブリット形等、任意の形式の便器に使用することができる。
また、上述した実施形態の水洗便器の排水ソケットに使用されるアダプタについても、水洗便器本体の洗浄に使用される洗浄水の流量や排水性能、或いは排水配管の流路断面の大きさや排水芯の高さに応じて適宜選択し、排水ソケット本体の横管路に装着することが可能である。
さらに、上述した実施形態の水洗便器の排水ソケットに使用されるアダプタについては、床面からの高さ調整手段を備えていない排水ソケット本体にも装着して使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態の水洗便器を示す全体縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットを示す拡大断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットを示す背面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットにおいて、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合における水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況を比較した実験結果を示すグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。
【図7】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め上方から見た斜視図である。
【図10】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め下方から見た斜視図である。
【図11】本発明の第1実施形態から第3実施形態までの排水ソケットを用いて、水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況をそれぞれ比較した実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1 水洗便器
2 水洗便器本体
2a トラップ導水路
2b トラップ導水路の出口端部
2c 洗浄水タンク
2d ボウル部
2e トラップ導水路の入口端部
2f トラップ導水路の頂部
2g トラップ導水路の入口端部の上端
4,20,30 排水ソケット
6 排水ソケット本体
6a 排水ソケット本体の縦管路の流入口
6b 排水ソケット本体の縦管路
6c 排水ソケット本体の横管路の流出口
6d 排水ソケット本体の横管路
6e,6f パッキン
6g 柱状部材
6h 雄ネジ部
6i 排水ソケット本体の柱状部材の中心軸
6j 入口部
6k 水溜部
6l 縦管路の排水芯
8 台座部材
8a ベース
8b 隆起部
8c 入れ子部
8d 雌ネジ部
8e ボルト
10,22,32 アダプタ
10a,32a 通水路
10b 通水路流出口
22a 通気穴
32b アダプタの内壁面
32c 凹溝
32d 溝
A1 アダプタの通水路の中心軸
A2 横管路の中心軸(排水配管の排水芯)
D 排水配管
D1 排水配管の入口端部
d1 アダプタの通水路の流路断面の直径
d2 排水配管の流路断面の直径
d3 横管路の流路断面の直径
F 床面
h1 トラップ導水路の入口端部の上端とアダプタの通水路の中心軸との距離
h2 トラップ導水路の入口端部の上端と横管路の中心軸(並びに排水配管の排水芯)との距離
L 水溜部の水位
O 水溜部の球面の中心
W 壁面
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器の排水ソケット、及び、水洗便器に係り、特に、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部とを連結する排水ソケット、及び、この排水ソケットを使用した水洗便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の出口端部とを連結する、いわゆる床上排水形の水洗便器においては、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部との高低差に対応できるような排水接続構造を有する排水ソケットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−256662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の排水ソケットにおいては、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部との種々の高低差に応じた排水ソケットを用意しなければならず、多種類の排水ソケットが必要となるが、採用される排水ソケットの種類が変わると、水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の入口部と排水ソケットの排水路の出口端部の排水芯との高低差も変化するため、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用も変化し、洗浄性能に影響を及ぼすという問題がある。
特に、水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の入口部と排水ソケットの排水路の出口端部の排水芯との高低差が小さくなるほど、水洗便器本体の洗浄時のサイホン作用の強さ(負圧による引きの強さ)が弱まるため、水洗便器の洗浄性能が低下するという問題ある。
【0005】
このように、水洗便器本体の排水路(トラップ導水路)の入口部と排水ソケットの排水路の出口端部の排水芯との高低差は、サイホン作用の強さに大きく影響を及ぼすため、このサイホン作用の強さをいかに大きくするかが、水洗便器の洗浄性能を向上させるために従来から要請された課題となっている。
また、水洗便器の洗浄性能を向上させるためには、サイホン作用の強さを大きくする以外にも、サイホン作用のタイミングをいかに早めるか、そして、サイホン作用の継続時間をいかに長くするかについても、従来から要請された課題となっている。
【0006】
そこで、本発明は、上述した従来から要請された課題を解決するためになされたものであり、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、且つこのサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる水洗便器の排水ソケット、及び、水洗便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部とを連結する水洗便器の排水ソケットであって、上記排水路の出口端部に連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口を含む縦管路と、上記排水配管の入口端部に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口を含む横管路と、を備えた排水ソケット本体と、上記排水ソケット本体の横管路内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路を形成する横管路縮減部材と、を有することを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明においては、横管路縮減部材が排水ソケット本体の横管路内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路を形成しているため、水洗便器本体の洗浄時に水洗便器本体の排水路内と横管路縮減部材の通水路内をより早く満水にすることができる。この結果、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、このサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、上記横管路縮減部材は、その通水路の中心軸が上記横管路の中心軸よりも下方に偏心し、且つ水洗便器本体の排水路の入口端部の上端と上記通水路の中心軸との距離が大きくなるように構成されている。
【0010】
このように構成された本発明においては、横管路縮減部材の通水路の中心軸が横管路の中心軸よりも下方に偏心し、且つ水洗便器本体の排水路の入口端部における上端と通水路の中心軸との距離が大きくなるため、水洗便器本体の排水路と横管路縮減部材の通水路との高低差を効果的に作り出すことができる。この結果、より強いサイホン作用(より強い負圧による引き)を生じさせることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、横管路縮減部材は、その通水路の流路断面の直径が38mm〜70mmに設定されるように構成されている。
【0012】
このように構成された本発明においては、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、且つこのサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。また、横管路縮減部材の通水路の流路断面の直径が広がりすぎてサイホン作用が発生するタイミングが遅れたり、持続時間が短くなったりすることを確実に防止することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、更に、床面上に配置され上記排水ソケット本体の下方に位置し、上記排水ソケット本体を支持する支持部材であって、この支持部材が、上記床面に固定可能なベースと、上記排水ソケット本体の床面からの高さを上記排水配管の床面からの高さとほぼ一致するように調整する高さ調整手段と、を備えた上記支持部材を有する。
【0014】
このように構成された本発明においては、壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部との高低差が生じたとしても、排水ソケットの床面からの高さ距離を調節して連結することができるため、壁面に設けられた排水芯の異なるあらゆる排水配管への取り付けにも対応することができる。
【0015】
本発明は、上記排水ソケットを備えていることを特徴とする水洗便器である。
【0016】
このように構成された本発明においては、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、且つこのサイホン作用の持続時間を長くすることができ、洗浄性能を向上させた水洗便器とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水洗便器の排水ソケット、及び、水洗便器によれば、水洗便器本体の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、このサイホン作用の持続時間を長くすることができ、水洗便器の洗浄性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による排水ソケット、及び、水洗便器を説明する。
まず、図1〜図3により、本発明の第1実施形態による水洗便器を説明する。図1は本発明の第1実施形態の水洗便器を示す全体縦断面図であり、図2は図1における水洗便器の排水ソケットの部分を拡大した拡大断面図であり、図3は、本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットを示す背面図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の第1実施形態の水洗便器1は、陶器製の水洗便器本体2と、この水洗便器本体2の排水路であるトラップ導水路2aの出口端部2bと壁面Wに設けられた排水配管Dとを連結する排水ソケット4(詳細は後述する)と、を有する。
水洗便器本体2は、外部の給水源(図示せず)に接続された給水管(図示せず)から洗浄水が供給される洗浄水タンク2cとボウル部2dとを備えている。すなわち、水洗便器1は、水洗便器本体2に洗浄水タンク2cが設けられたタンク式の水洗便器である。
【0020】
また、水洗便器本体2はトラップ導水路2aを備え、このトラップ導水路2aは、ボウル部2dの底部に設けられた入口端部2eから頂部2fに向かって斜め上方に延びた後、この頂部2fから出口端部2bに向かって下方に延び、その出口端部2bでは鉛直方向下方に向かって開口している。
水洗便器本体2の洗浄水タンク2cに溜められた洗浄水は、所定の導水路(図示せず)を通ってボウル部2dに流入し、ボウル部2dの中の洗浄水は、トラップ導水路2aの入口端部2eから頂部2fに向かって上昇し、最高点である頂部2fを通過した後、出口端部2bから下方に流出するようになっている。
【0021】
つぎに、図1〜図3を参照して、本発明の第1実施形態の水洗便器1に使用される排水ソケット4の構成について詳細に説明する。
排水ソケット4は、塩化ビニール等のプラスチック材料で作られており、排水ソケット本体6、台座部材8、及び、アダプタ10によって構成されている。
【0022】
排水ソケット本体6は、トラップ導水路2aの出口端部2bに連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口6aを含む縦管路6bと、壁面Wに設けられた排水配管Dの入口端部D1に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口6cを含む横管路6dとを備え、縦管路6bと横管路6dによって概ねL字形のパイプ状の流路が形成されている。
また、排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aと横管路6dの流出口6cのそれぞれには、パッキン6e,6fがそれぞれ取付けられている。
さらに、排水ソケット本体6は、その下部から鉛直下方に延びる柱状部材6gを備え、この柱状部材6gの外周面には、鉛直方向に雄ネジ部6hが形成されている。
【0023】
台座部材8は、床面F上に配置されて排水ソケット本体6の下方に位置し、排水ソケット本体6と高さ調節可能に連結された支持部材であり、ベース8aと、このベース8aの中央に配置された隆起部8bと、この隆起部8bに対して昇降可能に螺合された入れ子部8cと、を有する。入れ子部8cの内周部には、雌ネジ部8dが形成されており、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hが螺合されるようになっている。
ベース8aは、ボルト8eによって床面Fに固定されており、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hが台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dに螺合されることにより、排水ソケット本体6と台座部材8が高さ調節可能に連結され、排水ソケット本体6が台座部材8を介して床面Fに固定されるようになっている。
【0024】
また、排水ソケット本体6の柱状部材6gと台座部材8のそれぞれは、排水ソケット本体6の床面Fからの高さを調整する高さ調整部材としても機能している。すなわち、台座部材8の隆起部8bと、これに螺合された入れ子部8cは、互いに螺合する割合を変えることにより、隆起部8bに対する入れ子部8cの相対的な高さを調整し、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hと台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dにおいては、排水ソケット本体6を柱状部材6gの中心軸6iを中心に回転させて互いのネジ部同士が螺合する割合を変えることにより、排水ソケット本体6の床面Fからの高さを調整する高さ調整手段として機能している。
ちなみに、図1〜図3においては、台座部材8の入れ子部8cが隆起部8bに完全にねじ込まれ、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hが台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dに完全にねじ込まれており、排水ソケット本体6の床面Fからの高さが排水配管Dの床面Fからの高さとほぼ一致するように調整された状態が示されている。
【0025】
なお、上述した本実施形態の水洗便器の排水ソケットにおいては、台座部材8の隆起部8bとこれに螺合された入れ子部8cの互いに螺合する割合を変えたり、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hと台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dの互いに螺合する割合を変えることによって、排水ソケット本体6の床面Fからの高さ調整を行うようになっている形態について説明しているが、このような形態に限定されず、他の形態についても適用可能である。
例えば、縦方向に延びる長穴が形成されたプレート部材を含むL字形の金具を床面に固定し、排水ソケット本体から突出したボルト部材をこのL字形の金具のプレート部材の長穴に通した後、ナットで締結し、排水ソケット本体をL字形の金具に対して縦方向に摺動可能に取り付けることにより、床面からの排水ソケット本体の高さを調整するようにしてもよい。要するに、床面からの排水ソケット本体の高さが調整できる手段を備えているあらゆる形態に適用可能である。
【0026】
また、排水ソケット本体6内においては、上述したように、縦管路6bから横管路6dにかけて概ねL字形のパイプ状の流路が形成されている。この縦管路6bから横管路6dの流路に切り替わる部分の底部、すなわち、縦管路6bの底部、或いは、横管路6dの入口部6jの底部には、水溜部6kが形成されている。この水溜部6kは、ほぼ下方に球面状に張り出すように形成され、その球面の中心Oが縦管路6bの排水芯6lよりもわずかに偏心しており、排水ソケット本体6内の縦管路6bから横管路6dに切り替わる部分の流路を汚物が通過しやすくするために、流路を部分的に広くしている。
さらに、水洗便器本体2が洗浄される前の水溜部6kにおいては、図2に破線Lで示すように、下方に球面状に張り出している形状部分の水位L付近まで水が溜まるようになっている。したがって、水洗便器本体2が洗浄される前における排水ソケット本体6内の縦管路6bから横管路6dにかけての見かけ上の通路(空気が滞在している通路)は、水溜部6kに水位Lまで水が溜まっている分だけ狭くなっているため、水洗便器本体2が洗浄されると、排水ソケット本体6内の流路が満水になりやすく、サイホン作用が早期に発生するようになっている。そして、サイホン作用が発生すると、排水ソケット本体6内の縦管路6bから横管路6dにかけての流路が水溜部6kによって広くなっているため、汚物が水溜部6kで自由に向きを変えて、詰まることなく通過できるようになっている。
【0027】
アダプタ10は、排水ソケット4と同様に、塩化ビニール等のプラスチック材料で形成された部材であり、排水ソケット本体6の横管路6d内の流路を一部塞ぐように、排水ソケット本体6の横管路6dの流出口6cから横管路6dの内部に嵌め込まれて固着されている。
また、アダプタ10の内部には、排水ソケット本体6の縦管路6b内の流路から横管路6d内の流路に屈曲して切り替わる横管路6dの入口部6jから横管路6dの流出口6cまで延びる通水路10aが形成されている。
【0028】
さらに、アダプタ10の通水路10aは、その流路断面がほぼ円形形状を有しており、通水路10aの流路断面の大きさ(直径d1)が、排水配管Dの入口端部D1における流路断面の大きさ(直径d2)や排水ソケット本体6の横管路6dの横断面の大きさ(直径d3)よりも小さくなっている。
したがって、排水ソケット本体6の横管路6dの流路断面の大きさは、横管路6d内の横断面の大きさ(直径d3)よりも小さく、実質的にアダプタ10の通水路10aの大きさ(直径d1)に相当しており、アダプタ10は、排水ソケット本体6の横管路6dの横断面の大きさを通水路10aの流路断面の大きさ(直径d1)に縮減する横管路縮減部材として機能している。
【0029】
また、アダプタ10の通水路10aの流路断面の中心軸(いわゆる「排水芯」)A1は、横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2よりも下方に偏心しており、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと通水路の中心軸A1との距離h1(図1参照)については、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2との距離h2(図1参照)よりも大きく設定されている。
ちなみに、アダプタ10の通水路10aの流路断面の直径d1については、通水路10a内から通水路流出口10bにおける排水性能を損なわず、且つ水洗便器本体2の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めると共にこのサイホン作用の持続時間を長くするために、38mm〜70mmに設定するのが好ましく、38mm〜60mmに設定するのが最も好ましい。
【0030】
なお、上述した本実施形態の水洗便器の排水ソケット4を構成する排水ソケット本体6、台座部材8、及び、アダプタ10については、プラスチック材料で作られているものについて説明しているが、このような材料で作られているものに限定されず、例えば、金属や陶器等で作られているものでもよい。
【0031】
つぎに、本発明の第1実施形態による水洗便器及びその排水ソケットの設置方法について説明する。
まず、排水ソケット4を排水配管Dの近くの床面Fに配置する。
つぎに、排水ソケット本体6をその柱状部材6gの中心軸6iを中心に回転させ、排水ソケット本体6の横管路6dと排水配管Dの高さが整合するまで、台座部材8の隆起部8bと入れ子部8cとの螺合と、排水ソケット本体6の柱状部材6gの雄ネジ部6hと台座部材8の入れ子部8cの雌ネジ部8dとの螺合を調整する。
【0032】
排水ソケット本体6の高さ調整をした後、排水ソケット本体6の横管路6dの流出口6cを排水配管Dに挿入する。排水ソケット本体6の横管路6dの流出口6cと排水配管Dの間の水密性、気密性は、パッキン6fにより確保される。
つぎに、台座部材8のベース8aをボルト8eによって床面Fに固定する。そして、水洗便器本体2を、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの出口端部2bが排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aに挿入されるように配置する。この際、排水ソケット本体6には鉛直下方に向う力が作用するが、排水ソケット本体6は台座部材8によって下方から支持されているので、排水ソケット本体6の位置は変化しない。
また、排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aと水洗便器本体2のトラップ導水路2aの出口端部2bとの間の水密性、気密性は、パッキン6eによって確保される。最後に、水洗便器本体2をボルト(図示せず)等で床面Fに固定して水洗便器の設置を終了する。
【0033】
つぎに、本発明の第1実施形態による水洗便器及びその排水ソケットの動作(作用)について説明する。
水洗便器1を洗浄する際、水洗便器本体2の洗浄水タンク2cの洗浄水がボウル部2d内に給水され、水洗便器本体2のトラップ導水路2a内及び排水ソケット4のアダプタ10の通水路10a内が満水となると、ボウル部2dから通水路10aにかけてサイホン作用が発生し、ボウル部2d内の汚物をトラップ導水路2aの入口端部2eから頂部2fを経て出口端部2bに吸引する負圧が発生する。
また、トラップ導水路2aの出口端部2bから流出された汚物を含む排水は、排水ソケット4の排水ソケット本体6の縦管路6bの流入口6aから排水ソケット本体6内に流入し、アダプタ10の通水路10aを流れ、通水路流出口10bから排水配管Dの入口端部D1を経て排水配管D内に流出される。
所定時間サイホン作用が持続した後、トラップ導水路2a内の排水の減少と共にサイホン作用が弱まり、最終的には、サイホン作用が終了し、水洗便器1の洗浄が完了する。
【0034】
また、本実施形態の水洗便器1の排水ソケット4においては、アダプタ10の通水路10aの流路断面の中心軸(いわゆる「排水芯」)A1が横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2よりも下方に偏心しており、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと通水路の中心軸A1との距離h1が水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2との距離h2(図1参照)よりも大きく設定されているため、この距離h1により、トラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと排水ソケット4のアダプタ10の通水路10aとの高低差を確保することができ、アダプタ10を備えていない排水ソケットよりも、水洗便器本体2の洗浄時におけるトラップ導水路2a内でサイホン作用による強い負圧が発生しやすい状態を作り出すことができる。
【0035】
図4は、本実施形態の水洗便器の排水ソケットにおいて、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合における水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況を比較した実験結果を示すグラフである。
ここで、図4に示すグラフの縦軸は、水洗便器本体の洗浄が開始されてから完了するまでの一連の洗浄工程におけるトラップ導水路内の頂部付近の圧力を示しており、グラフの横軸は時間を示している。
また、図4のグラフ内の点P1,Q1は、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合のそれぞれの場合において、トラップ導水路内の頂部付近の負圧の大きさが最大となる点をそれぞれ示している。
さらに、図4のグラフ内の点P2,Q2は、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合のそれぞれの場合において、サイホン作用が完了し、その後負圧がほぼ一定となる点をそれぞれ示している。
【0036】
図4に示すように、水洗便器本体の洗浄が開始されてから点P1に到達するまでの時間は、点Q1に到達するまでの時間よりも短くなっている。この結果、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりもサイホン作用による負圧が最大に到達するまでの時間が早められることが確認できた。すなわち、アダプタを使用した場合の方が、サイホン作用による負圧が最大に到達するまでの時間が早められた分、サイホン作用が発生するタイミングも早めることができることが確認できた。
また、点P1から点P2までの時間をT(P2−P1)とし、点Q1から点Q2までの時間をT(Q2−Q1)とすると、時間T(P2−P1)及びT(Q2−Q1)のそれぞれは、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合におけるサイホン作用による負圧が最大に到達してからサイホン作用が終了するまでのサイホン作用の持続時間(以下、「サイホン持続時間」)に相当している。図4に示すように、これらのサイホン持続時間T(P2−P1)及びT(Q2−Q1)について比較すると、サイホン持続時間T(P2−P1)がサイホン時間T(Q2−Q1)よりも大きくなっている。この結果、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりも、サイホン作用が長く持続されることが確認できた。
【0037】
上述した本発明の第1実施形態の水洗便器によれば、アダプタ10が排水ソケット本体6の横管路6d内に設けられ、この横管路6d内の流路断面の少なくとも上部を縮減するように通水路10aが形成されているため、アダプタ10を備えていない排水ソケットに比べて、排水ソケット本体6の横管路6dがアダプタ10により通水路10aの流路断面の大きさに縮減されている分だけ、水洗便器本体2の洗浄時に水洗便器本体2のトラップ導水路2a内とアダプタ10の通水路10a内をより早く満水にすることができる。したがって、水洗便器本体2の洗浄時におけるトラップ導水路2a内でサイホン作用による負圧が発生しやすい状態をより早く作り出すため、水洗便器本体2の洗浄時におけるサイホン作用が発生するタイミングを早めることができると共に、このサイホン作用の持続時間を長くすることができる。
また、アダプタ10の通水路10aの流路断面の中心軸(いわゆる「排水芯」)A1が横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2よりも下方に偏心しており、水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと通水路の中心軸A1との距離h1が水洗便器本体2のトラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと横管路6dの中心軸(並びに排水配管Dの排水芯)A2との距離h2(図1参照)よりも大きく設定されているため、この距離h1により、トラップ導水路2aの入口端部2eの上端2gと排水ソケット4のアダプタ10の通水路10aとの高低差を効果的に作り出すことができ、より強いサイホン作用(より強い負圧による引き)をもたらすことができる。
これらの結果、水洗便器1の洗浄性能を向上させることができる。
【0038】
つぎに、図5及び図6を参照して、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットについて説明する。
図5は、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図であり、図6は、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。ここで、図5及び図6において、第1実施形態の水洗便器における排水ソケットと同一の部分については同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0039】
図5及び図6に示すように、本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケット20においては、アダプタ22が排水ソケット本体6の横管路6dにその流路を一部塞ぐように嵌め込まれて固着されており、第1実施形態の排水ソケット4におけるアダプタ10の通水路10aと同一の通水路を備えている点で第1実施形態のものと共通している。
しかしながら、本実施形態の排水ソケット20のアダプタ22においては、排水ソケット本体6の通水路10aの上方に隣接してその軸方向とほぼ平行に延びる通気穴22aが形成されており、この通気穴22aによって、排水ソケット本体6の横管路6dの入口部6j或いはトラップ導水路2aの出口端部2b付近に溜まる空気を排水配管Dの入口端部D1へ逃がすことができるようになっている点で第1実施形態のものと異なっている。
【0040】
上述した本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケット20によれば、排水ソケット本体6の横管路6dの入口部6j或いはトラップ導水路2aの出口端部2b付近に溜まる空気をアダプタ22の通気穴22aによって排水配管Dの入口端部D1へ逃がすことができるため、排水ソケット本体6内の空気を排水配管Dへ円滑に排出することができる。このことに加え、排水ソケット本体6の横管路6dの流路断面がアダプタ22により通水路10aの流路断面の大きさに縮減されているため、より早く排水ソケット本体6内を満水にすることができ、その結果、より早くサイホン作用を発生させることができる。
【0041】
つぎに、図7〜図11を参照して、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットについて説明する。
図7は、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図であり、図8は、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。また、図9は本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め上方から見た斜視図であり、図10は本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め下方から見た斜視図である。ここで、図7〜図10において、第1実施形態の水洗便器における排水ソケットと同一の部分については同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0042】
図7〜図10に示すように、本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケット30においては、アダプタ32が排水ソケット本体6の横管路6d内の流路を一部塞ぐように排水ソケット本体6の横管路6dに嵌め込まれて固着されており、このアダプタ32の内部には、横管路6dの入口部6jから横管路6dの流出口6cまで延びる通水路32aが形成されている点で第1実施形態のものと共通している。
しかしながら、本実施形態の排水ソケット30のアダプタ32においては、通水路32aを形成するアダプタ32の内壁面32bの一部には、その軸方向に対してらせん状に延びる凹溝32cが形成されている点で第1実施形態のものと異なっている。
さらに、通水路32aを形成するアダプタ32の内壁面32bにおいては、凹溝32cと対向する部分は一部分断されており、アダプタ32が排水ソケット本体6の横管路6dに嵌め込まれて固着された状態では、凹溝32cと共にらせん状の溝32dを形成している。
【0043】
なお、上述した本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケット30においては、アダプタ32に形成されるらせん状の凹溝32cや溝32dについては、溝の形状や個数等については特に限定されず、種々の形態の溝が適用可能である。また、らせん状の凹溝32cや溝32dの代わりにらせん状の突起のようなものをアダプタ32の内壁面32bに設けてもよい。
【0044】
上述した本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケット30によれば、通水路32a内の汚水がアダプタ32の内壁面32bに形成されたらせん状の凹溝32cや溝32dに沿って流れることによって、この汚水を通水路32a内又は通水路32aの周辺付近の空気を巻き込みながら排水配管Dの入口端部D1へ排出することができる。したがって、排水ソケット本体6内の空気を排水配管Dへ円滑に排出することができる。このことに加え、排水ソケット本体6の横管路6dの流路断面がアダプタ22により通水路10aの流路断面の大きさに縮減されているため、より早く排水ソケット本体6内を満水にすることができ、その結果、より早くサイホン作用を発生させることができる。
【0045】
つぎに、図11は、上述した第1実施形態から第3実施形態までの排水ソケットを用いて、水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況をそれぞれ比較した実験結果を示すグラフである。
ここで、図11に示すグラフの縦軸は、水洗便器本体の洗浄が開始されてから完了するまでの一連の洗浄工程におけるトラップ導水路内の頂部付近の圧力を示しており、グラフの横軸は時間を示している。
また、図11のグラフ内の点P1,Q1,R1,S1は、第1実施形態のアダプタを使用した場合、アダプタを使用しない場合、第2実施形態のアダプタを使用した場合、第3実施形態のアダプタを使用した場合のそれぞれの場合において、トラップ導水路内の頂部付近の負圧の大きさが最大となる点をそれぞれ示している。
さらに、図11のグラフ内の点P2,Q2,R2,S2は、第1実施形態のアダプタを使用した場合、アダプタを使用しない場合、第2実施形態のアダプタを使用した場合、第3実施形態のアダプタを使用した場合のそれぞれの場合において、サイホン作用が完了し、その後負圧がほぼ一定となる点をそれぞれ示している。
【0046】
図11に示すように、サイホン作用による負圧が最大になるまでの時間については、短い時間の順にS1、R1、P1、Q1となり、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりもサイホン作用が発生するタイミングが早められることが確認でき、特に、アダプタを使用した場合においては、第3実施形態、第2実施形態、第1実施形態の順にサイホン作用が早められることが確認できた。
また、サイホン持続時間については、アダプタを使用した場合の方が、アダプタを使用しない場合よりも長くなり、特に、アダプタを使用した場合においては、サイホン持続時間が長い順に、T(S2−S1)、T(R2−R1)、T(P2−P1)の順となり、第3実施形態、第2実施形態、第1実施形態の順にサイホン作用が長く持続されることが確認できた。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態では、水洗便器本体が給水タンク一体形の便器である場合について説明したが、水洗便器本体は、給水タンク密結形、水道直結形、給水タンク及び水道直結のハイブリット形等、任意の形式の便器に使用することができる。
また、上述した実施形態の水洗便器の排水ソケットに使用されるアダプタについても、水洗便器本体の洗浄に使用される洗浄水の流量や排水性能、或いは排水配管の流路断面の大きさや排水芯の高さに応じて適宜選択し、排水ソケット本体の横管路に装着することが可能である。
さらに、上述した実施形態の水洗便器の排水ソケットに使用されるアダプタについては、床面からの高さ調整手段を備えていない排水ソケット本体にも装着して使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態の水洗便器を示す全体縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットを示す拡大断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットを示す背面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の水洗便器の排水ソケットにおいて、アダプタを使用した場合とアダプタを使用しない場合における水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況を比較した実験結果を示すグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。
【図7】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す拡大断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットを示す背面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め上方から見た斜視図である。
【図10】本発明の第3実施形態の水洗便器における排水ソケットのアダプタを斜め下方から見た斜視図である。
【図11】本発明の第1実施形態から第3実施形態までの排水ソケットを用いて、水洗便器本体のトラップ導水路内のサイホン作用による負圧の発生状況をそれぞれ比較した実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1 水洗便器
2 水洗便器本体
2a トラップ導水路
2b トラップ導水路の出口端部
2c 洗浄水タンク
2d ボウル部
2e トラップ導水路の入口端部
2f トラップ導水路の頂部
2g トラップ導水路の入口端部の上端
4,20,30 排水ソケット
6 排水ソケット本体
6a 排水ソケット本体の縦管路の流入口
6b 排水ソケット本体の縦管路
6c 排水ソケット本体の横管路の流出口
6d 排水ソケット本体の横管路
6e,6f パッキン
6g 柱状部材
6h 雄ネジ部
6i 排水ソケット本体の柱状部材の中心軸
6j 入口部
6k 水溜部
6l 縦管路の排水芯
8 台座部材
8a ベース
8b 隆起部
8c 入れ子部
8d 雌ネジ部
8e ボルト
10,22,32 アダプタ
10a,32a 通水路
10b 通水路流出口
22a 通気穴
32b アダプタの内壁面
32c 凹溝
32d 溝
A1 アダプタの通水路の中心軸
A2 横管路の中心軸(排水配管の排水芯)
D 排水配管
D1 排水配管の入口端部
d1 アダプタの通水路の流路断面の直径
d2 排水配管の流路断面の直径
d3 横管路の流路断面の直径
F 床面
h1 トラップ導水路の入口端部の上端とアダプタの通水路の中心軸との距離
h2 トラップ導水路の入口端部の上端と横管路の中心軸(並びに排水配管の排水芯)との距離
L 水溜部の水位
O 水溜部の球面の中心
W 壁面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部とを連結する水洗便器の排水ソケットであって、
上記排水路の出口端部に連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口を含む縦管路と、上記排水配管の入口端部に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口を含む横管路と、を備えた排水ソケット本体と、
上記排水ソケット本体の横管路内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路を形成する横管路縮減部材と、
を有することを特徴とする水洗便器の排水ソケット。
【請求項2】
上記横管路縮減部材は、その通水路の中心軸が上記横管路の中心軸よりも下方に偏心し、且つ水洗便器本体の排水路の入口端部の上端と上記通水路の中心軸との距離が大きくなるように構成されている請求項1記載の水洗便器の排水ソケット。
【請求項3】
上記横管路縮減部材は、その通水路の流路断面の直径が38mm〜70mmに設定されるように構成されている請求項1又は2に記載の水洗便器の排水ソケット。
【請求項4】
更に、床面上に配置され上記排水ソケット本体の下方に位置し、上記排水ソケット本体を支持する支持部材であって、この支持部材が、上記床面に固定可能なベースと、上記排水ソケット本体の床面からの高さを上記排水配管の床面からの高さとほぼ一致するように調整する高さ調整手段と、を備えた上記支持部材を有する請求項1乃至3の何れか1項に記載の水洗便器の排水ソケット。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の水洗便器の排水ソケットを備えていることを特徴とする水洗便器。
【請求項1】
壁面に設けられた排水配管の入口端部と水洗便器本体の排水路の出口端部とを連結する水洗便器の排水ソケットであって、
上記排水路の出口端部に連結され且つほぼ鉛直方向上方に向けて開口する流入口を含む縦管路と、上記排水配管の入口端部に連結され且つほぼ水平方向に向けて開口する流出口を含む横管路と、を備えた排水ソケット本体と、
上記排水ソケット本体の横管路内に設けられ、この横管路内の流路断面を縮減するように通水路を形成する横管路縮減部材と、
を有することを特徴とする水洗便器の排水ソケット。
【請求項2】
上記横管路縮減部材は、その通水路の中心軸が上記横管路の中心軸よりも下方に偏心し、且つ水洗便器本体の排水路の入口端部の上端と上記通水路の中心軸との距離が大きくなるように構成されている請求項1記載の水洗便器の排水ソケット。
【請求項3】
上記横管路縮減部材は、その通水路の流路断面の直径が38mm〜70mmに設定されるように構成されている請求項1又は2に記載の水洗便器の排水ソケット。
【請求項4】
更に、床面上に配置され上記排水ソケット本体の下方に位置し、上記排水ソケット本体を支持する支持部材であって、この支持部材が、上記床面に固定可能なベースと、上記排水ソケット本体の床面からの高さを上記排水配管の床面からの高さとほぼ一致するように調整する高さ調整手段と、を備えた上記支持部材を有する請求項1乃至3の何れか1項に記載の水洗便器の排水ソケット。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の水洗便器の排水ソケットを備えていることを特徴とする水洗便器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−121323(P2010−121323A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294636(P2008−294636)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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