説明

水洗便器

【課題】便器の洗浄操作による外部排水管内の圧力変動を抑えること。
【解決手段】便器1内に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、便器1内の後壁下部側に設けられて便器1内に溜水3を溜めるためのトラップ部4と、便器洗浄の際に便器1内の溜水3を外部排水管7に排水する排水制御手段とを備えた水洗便器である。上記排水制御手段は、便器洗浄の際に便器1内の溜水3の一部を予め排出させる予備排出と、予備排出から一定時間経過後に残りの溜水3を排出させる本排出との2段階動作を実行するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器に関し、詳しくは複数個の便器の洗浄操作がほぼ同時になされた場合において外部排水管内の圧力変動を小さく抑えるようにするための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ビルやマンションのような多層階の建物において、各階に設置された便器、浴槽、台所流し台、洗面台、洗濯パン等の各トラップ部からの排水をそれぞれ共通する排水横引管に配管し、さらに排水立て管を経て自然流下方式で下水本管に排水するものが一般的に知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に見られる従来例において、仮りに複数個の便器の洗浄操作ががほぼ同時になされた場合は、各トラップ部からの排水が共通の排水横引管に一気に流入することとなり、これにより排水横引管内に負圧が発生して圧力変動が大きくなるため、同じ排水横引管に接続されている他の排水トラップ(例えば洗濯パンの排水トラップ)の封水が切れてしまうとか、水が排水トラップを逆流して噴き出す噴出し現象が発生してしまう可能性がある。
【0004】
そこで、本発明者らは、本発明に至る過程で、外部排水管への負荷を低減させる手段として、ロータンクから便器内に供給される洗浄水の総水量を減らすようにしたり、或いはロータンクへの給水用の給水バルブを絞ったりして、総水量を減らすことで負圧を調整する方式を考えた。しかしながらこの方式では総水量は減少するものの、便器洗浄の際に外部排水管内での圧力変動を十分に抑えることができないものであった。
【特許文献1】特開平11−152783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、便器の洗浄操作による外部排水管内の圧力変動を抑えることができ、複数個の便器の洗浄操作がほぼ同時になされた場合でも、他の排水トラップの封水切れとか噴出し現象の発生を防止できるようにした水洗便器を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、便器1内に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、便器1内の後壁下部側に設けられて便器1内に溜水3を溜めるためのトラップ部4と、便器洗浄の際に便器1内の溜水3を外部排水管7に排水する排水制御手段6とを備えた水洗便器において、上記排水制御手段6は、便器洗浄の際に便器1内の溜水3の一部を予め排出させる予備排出と、予備排出から一定時間経過後に残りの溜水3を排出させる本排出との2段階動作を実行するように構成されていることを特徴としている。
【0007】
しかして、便器洗浄に先だって便器1内の溜水3の容量を減じる予備排出を予め行なうことにより、便器洗浄時の瞬時排出量を減少できるようになり、これにより外部排水管7内の負圧の発生を抑えることができ、圧力変動による他の排水トラップの封水切れとか噴出し現象の発生を防止できるようになる。
【0008】
また、上記外部排水管7が、複数個の便器1の各トラップ部4がそれぞれ連結される共通の排水横引管7aからなるのが好ましく、この場合、複数個の便器洗浄操作がほぼ同時になされた場合でも、各便器1ごとにおいて便器洗浄時の瞬時排出量をそれぞれ減少させることができるので、排水横引管7a内の圧力変動を抑えることができ、集合住宅のような建物に好適となる。
【0009】
また、上記外部排水管7は、多層階の建物の上下階に各々設置される複数個の便器1の各トラップ部4がそれぞれ連結される共通の排水立て管7bからなるのが好ましく、この場合、各階ごとで便器洗浄操作がほぼ同時になされた場合でも、各階ごとの瞬時排出量をそれぞれ減少させることができるので、排水立て管7b内の圧力変動を抑えることができ、多層階の建物に好適となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、便器洗浄の際に便器内の溜水の一部を予め排出させる予備排出と、予備排出から一定時間経過後に残りの溜水を排出させる本排出との2段階動作を実行するための排水制御手段を備えることにより、簡易に便器洗浄の際の外部排水管内の負圧の発生を抑えることができ、外部排水管内の圧力変動による悪影響、例えば他の排水トラップの封水切れとか噴出し現象の発生を防止できる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0012】
図1はターントラップ式便器1Aの一例を示し、図2は当該便器1Aに備えられる排水制御手段6のブロック図を示している。
【0013】
上記ターントラップ式便器1Aは、ボウル部5を有する便器1と、便器1内に洗浄水を供給するロータンク8(図5)と、便器1内の後壁下部側に設けられて便器1内に一定の溜水3(封水)を溜めるための可動式のトラップ部4(以下「ターントラップ部4」という)と、便器洗浄の際に便器1内の溜水3を外部排水管7(図2)に排水する制御回路6aとを備えている。
【0014】
ちなみに、従来は便器洗浄の際に図8(a)→(b)のように、ターントラップ部4を下向きに回転させることで溜水3を外部排水管7に一気に排水するものであるから、瞬時排出量が多くなり、特に複数個の便器1の洗浄操作がほぼ同時になされた場合には、外部排水管7に負荷を与えてしまう可能性がある。なお、図9は従来のタイムチャートであり、図中のAはターントラップ部4を下向きに回転させる時間、Bはターントラップ部4を上向きに回転させる時間を示している。
【0015】
そこで本発明においては、排水制御手段6は、便器1内の溜水3の一部を予め排出させる予備排出モードと、予備排出から一定時間経過後に残りの溜水3を排出させる本排出モードとの2段階動作を実行するように構成されている。
【0016】
図2に示す例では、ターントラップ部4を上下に回転させるモータ9と、ターントラップ部4の最上位置と最下位置とをそれぞれ検知する検知センサ10と、検知センサ10からの検知信号に応じてモータ9を時間制御するタイマー11を内蔵した制御回路6aとを備えている。洗浄操作部12からの操作信号が制御回路6aに入力されると、制御回路6aはタイマー11にて予め設定された時間だけ一時的にターントラップ部4を下向きM1に小回転させる。これにより図1(b)で示すように溜水3の一部だけが排出されて便器1内の溜水3の容量がEに示す容量分だけ減少する。その後、ターントラップ部4を上向きに保って排水を一旦停止状態とし、さらに一定時間経過後に、本排出を行なう。つまりターントラップ部4を再度下向きMに回転させることで図1(c)に示すように、残りの溜水3を汚物と共に排出させて、便器洗浄が行なわれる。ここで、図3においてターントラップ部4の回転時間を制御することで予備排出と本排出とを行なう場合のタイムチャートを示しており、図中のA1、A2はターントラップ部4を下向きに回転させる時間、Bはターントラップ部4を上向きに回転させる時間、Cは排水を一時的に停止させる時間を示している。なお予備排出時のターントラップ部4の下向きの時間(図3に示す時間C)を調整することで、予備排出のための排水量を容易に調整できるようになる。
【0017】
しかして、便器洗浄を行なう前に、便器1内の溜水3の容量を減じる排出を予め行なうことで、本排出時における瞬時排出量を減少できる。従って、例えばビルとかマンションのような多層階の建物において、外部排水管7が複数個の便器1の各トラップ部4がそれぞれ連結される共通の排水横引管7aである場合とか、或いは上下階の複数個の便器1の各トラップ部4がそれぞれ連結される共通の排水立て管7bである場合において、複数個の便器洗浄操作がほぼ同時になされたときでも、各便器1ごとにおいて便器洗浄時の瞬時排出量をそれぞれ減少させることによって、外部排水管7内の負圧の発生を抑えることができ、圧力変動による悪影響、例えば、共通の外部排水管7に接続される他の排水トラップ(例えば、洗濯パン用トラップ)の封水切れとか噴出し現象の発生を防ぐことが可能となる。
【0018】
なお前記図3では、ターントラップ部4の回転時間を制御することで一時排水動作を行なう時間制御方式の一例を例示しているが、他の実施形態として、ターントラップ部4の上向きと下向きの間の横向き位置を検知することで一時排水動作を行なう位置検知制御方式とすることも可能である。その一例を図4のタイムチャートに示す。洗浄操作部12からの操作信号が制御回路6aに入力されると、制御回路6aはターントラップ部4を上向きから下方に向けて回転させるが、横向き位置までくると横向き位置を検知する専用の検知センサから制御回路6aに検知信号が送られ、制御回路6aはモータ9の回転を図4中の時間Dだけ一時停止させる。これにより、ターントラップ部4は一時横向き姿勢で固定されるので、溜水3の一部だけがオーバーフローで排出されるようになる。これにより便器1内の溜水3の容量が図1(b)のEで示す容量分だけ減少する。その後、再びモータ9を回転させてターントラップ部4を横向きから下向きに回転させることで、残りの溜水3を排出させる本排出を行なうことができる。しかして本例では、ターントラップ部4を上向きから横向きに回転させて予備排出を行ない、さらに横向きから下向きに回転させて本排出を行なうので、前記図3のように予備排出時にターントラップ部4を下向きとし、さらに上向きに戻してから、再度下向きに回転させて本排出を行なうという複雑な動作が不要となるので、制御回路6aの回路構造を簡素化できる利点がある。
【0019】
なお、前記実施形態ではターントラップ式便器1Aを例示したが、サイホン式便器1Bにおいても、予備排出と本排出との2段階動作を実行させることができる。図5はサイホン式便器1Bの一例を示し、図6は排水制御手段6のブロック図を示している。
【0020】
図7に示すように、サイホン式便器1Bのトラップ部4は、ボウル部5の後壁5b下部に開口したトラップ入口21と、上方に向かって略逆U字状に屈曲したトラップ頂部22と、外部排水管に連通するトラップ出口23とが管状に一体形成されている。また、ボウル部5のトラップ入口21が設けられる後壁5bと対向する前壁5a側に、トラップ入口21側に向かって吐水孔40を開設し、一方、ロータンク8の底面に通常設けられている主排出口とは別に副排出口を開設し、上記吐水孔40と副排出口とを便器1の内部(ボウル部5と便器1外壁間の空間部分)に配置されるバイパス管13を介して連結してある。副排出口は副電磁弁14によって開閉される。先ず、洗浄操作部12からの操作信号が制御回路6aに入力されると、制御回路6aはロータンク8の副電磁弁14だけを、タイマー11にて予め設定された時間だけ一時的に開く。これにより、ロータンク8内の洗浄水がバイパス管13を通ってボウル部5内に図5(a)の矢印Fで示す方向に流れ込んで噴流水となり、これによって発生する波動によってボウル部5内の溜水3の一部が外部排水管へと排出される。
【0021】
更に詳述すると、図5において、ロータンク8内の洗浄水3の一部がバイパス管13を介して便器1の吐水孔40からボウル部5内に噴出すると、これがトラップ入口21へと向かう噴流水となり、このとき溜水3にはトラップ入口21側に向かう波動が発生する。この波動に溜水3の一部が巻き込まれてトラップ頂部22に向かって盛り上がるようになり、この盛り上がった水がトラップ出口23へと排出されていく。このときの排水量は、ロータンク8から供給される水量分よりも多く、便器1内の溜水3の一部が含まれる。つまり、排水量は、ロータンク8からの水量と、溜水3の一部とを加えたものであるので、ロータンク8からの水の供給を停止した後は、便器1内の溜水3の水位は、元の水位L(図7)よりも図5のEに示す容量分だけ減少した状態となる。これが予備排出であり、ボウル部5内の溜水3を減らすことで、その後の本排出時の瞬時排出量を減らすことを目的とするものである。更に言えば、通常のオーバーフロー排水や、サイホン式による排水とは異なる。オーバーフロー排水は、ボウル部5内の溜水3が増水したときにその増水分だけ溢れ出して排水されるので、排水前と排水後の溜水量は変化しないものであり、一方、サイホン式はトラップ部の排水路が満水とされたときに生じる引き込み力を利用して汚物と共に溜水3の殆どを排出する方式であり、これに対して、本発明の波動を利用した予備排出は、ボウル部5内に発生させた波動にボウル部5内の溜水3の一部を巻き込ませながらロータンク8から供給される水と一緒にトラップ頂部22に盛り上がらせて排水させるものであるから、排水後でも溜水量が減少するものの一定の溜水量が確保されるものであり、この点で通常のオーバーフロー排水やサイホン式による排水とは相違している。
【0022】
上記の予備排出後に、ロータンク8の副電磁弁14を閉じ、代わりに主電磁弁15を開くと、ロータンク8内の洗浄水が主排出口からボウル部5内に図5(c)の矢印Gで示す方向に流れ込み、このときに発生するサイホン現象によってボウル部5内の溜水3が図5(b)の矢印F2で示す方向に吸い込まれて本排出が行なわれる。しかして、ロータンク8内の洗浄水の一部を利用して予め予備排出を実行することで、その後の便器洗浄時の瞬時排出量を減少させることができるので、結果として外部排水管7内の圧力変動を防止できるようになり、前記実施形態で例示したターントラップ式便器1Aの場合と同じ作用効果が得られるものである。
【0023】
本発明の更に他の実施形態として、予備排出と本排出との2段階動作を実行する洗浄モードとは別に、予備排出を行なわない通常の洗浄モードを設け、これら各モードを切替スイッチにより切替えるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に用いるターントラップ式便器における排水制御を説明する側面断面図であり、(a)は便器洗浄前の状態を示し、(b)は予備排出後の状態を示し、(c)は本排出時の状態を示す。
【図2】同上の排水制御手段に関連するブロック図である。
【図3】同上の予備排出をモータの回転時間制御方式で行なう場合のタイムチャートである。
【図4】同上の予備排出をターントラップ部の位置制御方式で行なう場合のタイムチャートである。
【図5】他の実施形態に用いるサイホン式便器における排水制御を説明する側面断面図であり、(a)は便器洗浄前の状態を示し、(b)は予備排出後の状態を示し、(c)本排出時の状態を示す。
【図6】図5の排水制御手段に関連するブロック図である。
【図7】図5の波動を利用した排水方式を説明する図である。
【図8】(a)(b)は従来のターントラップ式便器における排水動作の説明図である。
【図9】従来の排水動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0025】
1 便器
3 溜水
4 トラップ部
6 排水制御手段
7 外部排水管
7a 排水横引管
7b 排水立て管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器内に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、便器内の後壁下部側に設けられて便器内に溜水を溜めるためのトラップ部と、便器洗浄の際に便器内の溜水を外部排水管に排水する排水制御手段とを備えた水洗便器において、上記排水制御手段は、便器洗浄の際に便器内の溜水の一部を予め排出させる予備排出と、予備排出から一定時間経過後に残りの溜水を排出させる本排出との2段階動作を実行するように構成されていることを特徴とする水洗便器。
【請求項2】
上記外部排水管は、複数個の便器の各トラップ部がそれぞれ接続される共通の排水横引管からなることを特徴とする請求項1記載の水洗便器。
【請求項3】
上記外部排水管は、多層階の建物の上下階に各々設置される複数個の便器の各トラップ部がそれぞれ連結される共通の排水立て管からなることを特徴とする請求項1記載の水洗便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−120258(P2007−120258A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317575(P2005−317575)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】