水洗大便器装置
【課題】排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫してより節水性能を高め、尚かつ非通電時に溜水を利用したアシストを受けなくとも確実に汚物を排出させることを可能とする。
【解決手段】この水洗大便器装置CSdは、便器本体10dと、ボウル部20dへ向けてリム部202dから洗浄水を供給するリム洗浄水供給手段90と、ボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから溜水を引き込んでその一部を汚水の排出に利用する溜水利用洗浄手段と、溜水利用洗浄手段、リム洗浄水供給手段90、引込手段505dおよび帰還手段506dを制御する制御手段と、を備えており、さらに、リム洗浄水供給手段90は、リム部202dへ洗浄水を供給する供給流路91と、電力の供給を受けて駆動して供給流路91を開閉する電動開閉弁813と、使用者の手動操作によって供給流路を開閉する手動開閉弁814と、を備える。
【解決手段】この水洗大便器装置CSdは、便器本体10dと、ボウル部20dへ向けてリム部202dから洗浄水を供給するリム洗浄水供給手段90と、ボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから溜水を引き込んでその一部を汚水の排出に利用する溜水利用洗浄手段と、溜水利用洗浄手段、リム洗浄水供給手段90、引込手段505dおよび帰還手段506dを制御する制御手段と、を備えており、さらに、リム洗浄水供給手段90は、リム部202dへ洗浄水を供給する供給流路91と、電力の供給を受けて駆動して供給流路91を開閉する電動開閉弁813と、使用者の手動操作によって供給流路を開閉する手動開閉弁814と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器装置として、下記特許文献1に記載のものが提案されている。下記特許文献1に記載の水洗大便器装置は、下記特許文献の図1に示されているように、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面を有するボウル部と、ボウル部の上方周縁部に形成されたリム部と、リム部からボウル部に洗浄水を供給する貯水タンクといった洗浄水供給手段と、ボウル部の下方に接続される入口部と、入口部から上方に延びるように形成される上昇管路と、上昇管路の末端から下方に延びるように形成される下降管路とを有し、非使用時には入口部から上昇管路の少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−31551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の従来の水洗大便器装置は、節水化に伴って、洗浄水が排水トラップ管路へ押し込まれる時間やサイホン作用に要する時間を短縮して効率的に汚物を排出することの重要性に鑑みたものとなっている。具体的には、浮遊系汚物をボウル部の溜水中に押し込んで排水トラップ側へ誘導する旋回流以外の洗浄水の流れを、水量を抑えつついかにして形成させるのかに着目している。そして、浮遊系汚物をボウル部の溜水面上に残すことなく確実に排出することができる水洗大便器装置を提供することを目的とし、新たな水洗大便器装置を提案している。
【0005】
このように、節水化の要求に対応するため、ボウル部への洗浄水の供給やボウル部における洗浄水の取り回しに対する様々な工夫が行われている。しかしながら、ボウル部の下部から排水トラップ管路にかけては、封水を形成するために溜水が形成されているところ、この溜水に対する節水の側面からの取り組みは十分にはなされていない。より強い節水化の要求に対応するためには、ボウル部の洗浄面での工夫のみならず、排水トラップ管路における節水面での工夫も必要となってきている。
【0006】
そこで本発明者らは、ボウル部及び排水トラップ管路において封水を形成するために溜められている溜水を一時的に引込水として退避させ、汚物の洗浄時にその退避させた引込水を利用することに着目した。さらに、本発明者は、汚物の洗浄時にその退避させた引込水を利用するようにした水洗大便器装置においては、毎回の溜水利用洗浄において汚物を確実に排出しようとすれば、リム部からの洗浄水供給のタイミングや貯留タンクからの溜水を帰還させるタイミングが、予め決められたシーケンスに基づくものになるであろうことにも着目した。溜水を利用して洗浄するための機構をこのように予め決められたシーケンスに基づいて作動させようとすれば、電力によって駆動するバルブやポンプ等が採用され、これらバルブ等は制御装置(CPU)によって電気的に制御されることになる。そうすると、当然のことながら、停電時やコンセントの挿し忘れのような非通電時にはこれらバルブ等を駆動することができないため、非通電時に使用者が用便した場合に、電動のバルブを開成できない等により大便器に洗浄水を供給できず、洗浄を行えないという課題があった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫してより節水性能を高め、尚かつ非通電時に溜水を利用したアシストを受けなくとも確実に汚物を排出させることが可能な水洗大便器装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するべく、本発明は、汚物を洗浄水とともに汚水として排出させる水洗大便器装置であって、汚物と洗浄水を貯留するボウル部と、該ボウル部の上部に設けられたリム部と、ボウル部の下流側に接続され、貯留する洗浄水である溜水によってボウル部とともに封水を形成する排水トラップ管路と、を有する便器本体と、ボウル部へ向けてリム部から洗浄水を供給するリム洗浄水供給手段と、溜水の一部を一時的に貯留させる貯留タンクと、電力の供給を受けて駆動してボウル部または排水トラップ管路から貯留タンクへ溜水の一部を引き込む引込手段と、電力の供給を受けて駆動して貯留タンクに貯留された溜水をボウル部または排水トラップ管路へ帰還させる帰還手段と、を有し、ボウル部または排水トラップ管路から溜水を引き込んでその一部を汚水の排出に利用する溜水利用洗浄手段と、リム洗浄水供給手段と引込手段と帰還手段とを制御する制御手段であって、通電時に所定の電気信号を受けてボウル部および排水トラップ管路に所定水位以上の溜水が貯留されている状態から引込手段を駆動させた後、リム洗浄水供給手段を駆動させて洗浄水の供給を開始させるとともに、その洗浄水の供給が終了する前に帰還手段を駆動させる溜水利用洗浄モードを実行させる制御手段と、を有しており、リム洗浄水供給手段は、リム部へ洗浄水を供給する供給流路と、電力の供給を受けて駆動して供給流路を開閉する電動開閉弁と、使用者の手動操作によって供給流路を開閉する手動開閉弁と、を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る水洗大便器装置は排水トラップ管路を備えており、排水トラップ管路は、ボウル部の下方に接続される。そして、排水トラップ管路は、非使用時には水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成している。ボウル部及び排水トラップ管路に形成される封水は、下水管からの臭気がトイレ室内に入ってくるのを防いだり、害虫がトイレ室内に入ってくるのを防いだりする役割を果たしている。その役割を確実に果たすため、ボウル部及び排水トラップ管路に形成される封水の封水深は、封水を形成する溜水の蒸発などによって封水切れが起きないように設定されている。
【0010】
一方、水洗大便器装置の使用時に着目すると、ボウル部が一時的に受け止めた汚物は、ボウル部の下方に落ちて行き、排水トラップ管路入口に一時的に貯留される。この状態で、洗浄水供給手段によって洗浄水が供給され、汚物は排水トラップ管路内を通って下水管側に流される。従って、ボウル部及び排水トラップ管路に封水を形成する溜水の一部は、非使用時の封水切れ防止のために用いられるものである。一方、使用時にボウル部が受け止める汚物は、排水トラップ管路の入口付近に一時的に貯留され、その後洗浄水によって流される。この汚物の排出においては、汚物周辺から上流側(ボウル部側)にある溜水や洗浄水供給手段によって供給される洗浄水が寄与するので、排水トラップ管路の汚物周辺から下流側にある溜水は汚物の排出に必ずしも寄与していない。上述のような使用時及び非使用時の水洗大便器装置のボウル部及び排水トラップ管路における特性に着目すれば、封水を形成するための溜水は、使用時も非使用時も同じように溜めておく必要は必ずしも無く、使用時と非使用時とで溜め方を工夫する余地があるものである。
【0011】
そこで本発明では、溜水の一部をボウル部または排水トラップ管路から引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部または排水トラップ管路に帰還させる溜水利用機構を備えている。この溜水利用機構によって、ボウル部が汚物を一時的に受け止めてから、洗浄水と共に排出する際に、引込手段を駆動させた後、帰還手段を駆動させるものとしている。従って、非使用時には封水を確実に形成するようにある程度の余裕をもって溜水を保持するものの、汚物を流す際には引込手段を先に駆動して汚物の影響を受けていない溜水を引き込んで引込水として一時貯留タンクに貯める。帰還手段は、この引込水をボウル部または排水トラップ管路に帰還させるので、汚物の搬送に引込水を寄与させることができる。
【0012】
さらに本発明では、引込手段と帰還手段の挙動を制御する制御手段を有しており、制御手段は、溜水利用洗浄モードを実行可能である。本明細書でいう溜水利用洗浄モードとは、使用者のリモコン操作により発信された電気信号など、制御手段が所定の電気信号を受信することにより実行される通常の洗浄モードをいう。
【0013】
しかも、本発明によれば併せて以下のごとき作用効果を実現することができる。すなわち、電気あるいは電力といった面について考慮すると、本発明のごとく溜水利用洗浄手段を搭載した水洗大便器装置において、洗浄水の供給を電気で駆動する要素によってのみ行うよう構成したとすると、停電時やコンセント挿し忘れのような電力の供給を受けることができない場合(非通電時)が生じうる。つまり、非通電時に使用者が用便した後は洗浄水を供給できないため、便器本体の洗浄および汚物の排出を行えなくなるという課題を内包していたのが従来であった。
【0014】
この点、本発明に係る水洗大便器装置は、使用者の手動操作によって開閉可能な手動開閉弁を備えており、この手動開閉弁を開成させることで、洗浄水がリム部へ供給されるように構成されている。このため、非通電時であっても供給流路からリム部へ洗浄水の供給が可能となる。リム部はボウル部の上部に設けられているため、リム部から供給された洗浄水は落下しながらボウル部を洗浄しつつ、その勢いを増してボウル部の汚物を排出する。これにより使用者は非通電時に用便しても、その後の便器本体の洗浄および汚物の排出が可能となる。
【0015】
また、上述のごとき水洗大便器装置においては、電動開閉弁よりも上流側で供給流路から分岐し、且つ、電動開閉弁よりも下流側の供給流路に合流するバイパス流路を備え、手動開閉弁がバイパス流路に設けられていることが好ましい。このような水洗大便器装置によれば、コンパクトで簡易な構成としながらも、非通電時に使用者の手動操作によってリム部へ洗浄水を供給することが可能となる。
【0016】
さらに、水洗大便器装置において、手動開閉弁は、使用者の操作によって開成して通水を開始するとともに、使用者の操作によらず所定量の洗浄水を通水させるまで開成を継続し、その後自ら閉成するものであり、上記所定量は、溜水利用洗浄モードにおいてリム洗浄水供給手段が供給する洗浄水の量よりも大きく設定されていることも好ましい。
【0017】
このような水洗大便器装置によれば、非通電時にリム部から供給される洗浄水の供給量(総流量)を、溜水利用洗浄モードにおいて供給する量よりも多くなるように手動開閉弁の開成状態を維持してボウル部を洗浄することで、非通電時に使用者が用便しても汚物を排出することを可能にする。すなわち、非通電時に、溜水を利用したアシストを受けなくとも確実に汚物を排出させることが可能な水洗大便器装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫してより節水性能を高め、尚かつ非通電時に溜水を利用したアシストを受けなくとも確実に汚物を排出させることが可能な水洗大便器装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る水洗大便器を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示す引込ポンプ近傍を拡大した図である。
【図4】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置の制御的な構成を示すブロック構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を示すフローチャートである。
【図6】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図7】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図8】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図9】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図10】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図11】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図12】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図13】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図14】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図15】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図16】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を示すタイミングチャートである。
【図17】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図18】図1および図2に示す水洗大便器装置の準備洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図19】本発明の他の実施形態におけるリム洗浄水供給手段の構成例を示す図である。
【図20】本発明のさらに他の実施形態におけるリム洗浄水供給手段の構成例を示す図である。
【図21】本発明のさらにまた他の実施形態におけるリム洗浄水供給手段の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0021】
本発明の実施形態に係る水洗大便器装置について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る水洗大便器装置CSdを示す概略斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る水洗大便器装置CSdを模式的に示す断面図である。図2に示す水洗大便器装置CSdは、主に便器本体10dを描いており、便座や便蓋や洗浄水の給水バルブ、リモコンやその操作パネルといったものは記載を省略している。
【0022】
図1に示すように、水洗大便器装置CSdは、便器本体10dと、衛生洗浄装置70dとを備えている。衛生洗浄装置70dは、洗浄ノズル701dから使用者の局部を洗浄するための洗浄水を吐出することができるように構成されている。
【0023】
図2に示すように、便器本体10dは、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器を構成するものであって、ボウル部20dと、排水トラップ管路40dと、一時貯留タンク50dとを備えている。ボウル部20dは、便器本体10dの一部であって、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面201dと、洗浄水を汚物受け面201dに流すためのリム部202dと、汚物を排水トラップ管路40dに流すためのボウル出口部203dとを有している。リム部202dは、汚物受け面201dの上方周縁部に形成されている。リム部202dには、洗浄水供給穴30dが臨んでいる。ボウル出口部203dは、汚物受け面201dの下方に形成されている。
【0024】
排水トラップ管路40dは、汚物及び洗浄水をボウル部20dから受け入れて、下水管方向に流す部分である。排水トラップ管路40dは、入口部401dと、上昇管路402dと、下降管路403dとを有している。入口部401dは、ボウル部20dの汚物受け面201d下方に形成されているボウル出口部203dに接続される部分である。入口部401dは、ボウル出口部203dから汚物及び洗浄水を受け入れて、上昇管路402dへと流し込む。
【0025】
上昇管路402dは、入口部401dよりも下流側に形成されている部分であって、入口部401dから上方に延びるように形成されている部分である。従って、ボウル出口部203dと、入口部401dと、上昇管路402dとは繋がっていて、全体としてU字形状の管路を形成している。
【0026】
下降管路403dは、上昇管路402dよりも下流側に形成されている部分であって、上昇管路402dの下流側端部から下方に延びるように形成されている部分である。従って、ボウル出口部203dと、入口部401dと、上昇管路402dとによって形成されているU字形状の管路に溜められる溜水WSは、上昇管路402dと下降管路403dとの接続部分まで溜めることができる。水洗大便器装置CSdの非使用時には、入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成している。
【0027】
一時貯留タンク50dは、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから引きこんで、引込水として一時的に貯留するためのタンクである。排水トラップ管路40dと一時貯留タンク50dとは、引込管路503d(第一引込部分)、屈曲部508d(最頂部)、引込管路507d(第二引込部分)によって繋がれている。
【0028】
引込管路503dは、排水トラップ管路40dに繋がっている部分である。引込管路503dは、排水トラップ管路40dに繋がっている部分から上方に傾斜しながら延びている。引込管路503dには屈曲部508dが繋がり、屈曲部508dは引込管路507dに繋がっている。引込管路507dは、屈曲部508dに繋がる部分から下方に傾斜しながら延び、一時貯留タンク50dの上方端に繋がっている。一時貯留タンク50dの上方端には、引込管路507dと繋がっている部分からは離隔させて、通気口50daが形成されている。
【0029】
引込管路503dには、引込ポンプ505dが設けられている。引込ポンプ505dは、ターボ型ポンプである。引込ポンプ505dの拡大断面図を図3に示す。図3に示すように、引込ポンプ505dは、モーター505daと、羽根車505dbとを有している。モーター505daが回転することで羽根車505dbが回転し、羽根車505db周りにある水を吸い上げてモーター505da側に送り込む。従って、羽根車505db周りに水が無くなれば、引込ポンプ505dは水を吸い上げることができないように構成されている。
【0030】
図2に戻って説明を続ける。一時貯留タンク50dに貯められた引込水は、排水トラップ管路40dに戻すことができるように構成されている。一時貯留タンク50dと排水トラップ管路40dとは、帰還管路509d、帰還管路510d(第一帰還部分)、帰還管路511d(第二帰還部分)、帰還管路504dによって繋がれている。
【0031】
帰還管路509dは、一時貯留タンク50dに繋がっている部分である。帰還管路509dは、一時貯留タンク50dの下方端から略水平方向に延びている。帰還管路509dには帰還管路510dが繋がっている。帰還管路510dは、帰還管路509dと繋がっている部分から略垂直方向に立ち上がるように延びている。帰還管路510dには帰還管路511dが繋がっている。帰還管路511dは、帰還管路510dと繋がっている部分から斜め下方に下がりながら延びている。帰還管路511dには帰還管路504dが繋がっている。帰還管路504dは、帰還管路511dと繋がっている部分から屈曲し、排水トラップ管路40dの、入口部401dに繋がっている。
【0032】
帰還管路509dと帰還管路510dとの間には、帰還ポンプ506dが設けられている。帰還ポンプ506dを駆動することで、一時貯留タンク50d内の引込水が排水トラップ管路40dに戻される。
【0033】
続いて、水洗大便器装置CSdの制御的な構成について図4を参照しながら説明する。図4は、水洗大便器装置CSdの制御的な構成を示すブロック図である。図4に示すように、水洗大便器装置CSdは、制御装置80(制御手段)と、一時貯留タンク内水位検知手段801と、トラップ内水位検知センサー802と、着座検知センサー803と、人体接近検知センサー804と、トラップ内汚物検知センサー805と、温度検知センサー806と、リモートコントローラー807と、引込ポンプモーター808と、帰還ポンプモーター809と、便座・便蓋開閉手段810と、計測手段811と、ランプ・スピーカー812と、電動開閉弁(EV)813と、衛生洗浄装置70dとを備え、さらに、手動開閉弁(HV)814と、供給流路91とを備えている(図6等参照)。
【0034】
一時貯留タンク内水位検知手段801、トラップ内水位検知センサー802、着座検知センサー803、人体接近検知センサー804、トラップ内汚物検知センサー805、温度検知センサー806、及びリモートコントローラー807は、所定の計測信号や指示信号を制御装置80に出力する。
【0035】
制御装置80は、引込ポンプモーター808、帰還ポンプモーター809、便座・便蓋開閉手段810、及び計測手段811との間で、所定の計測信号や制御指示信号の授受を行う。制御装置80は、ランプ・スピーカー812、電動開閉弁813、及び衛生洗浄装置70dに所定の制御信号を出力する。後に詳しく説明するように、制御装置80は、電動開閉弁813、引込ポンプモーター808、及び帰還ポンプモーター809の動作を制御することによって、溜水利用洗浄モード(以下、本明細書において通常洗浄モードともいう)及び準備洗浄モードという二つの洗浄モードを実行することができる。
【0036】
続いて、図5、図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16を参照しながら、通常洗浄モードにおける水洗大便器装置CSdの動作を説明する。図5は、水洗大便器装置CSdの通常洗浄モードにおける動作を示すフローチャートである。
【0037】
通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)は、水洗大便器装置CSdに使用者が近づいたことを人体接近検知センサー804が検知することによって開始される(ステップS01)。人体接近検知センサー804が使用者を検知するまでの間は、水洗大便器装置CSdは待機状態となっている。
【0038】
待機状態では、図6に示すように、排水トラップ管路40dの上昇管路402d上端近傍まで溜水WSが溜められている。尚、本実施形態では、上昇管路402dの最も上の部分である最頂部における流路断面下端位置αよりも、帰還管路510dと帰還管路511dとが繋がる部分である帰還管路の最頂部における流路断面下端位置βが高い位置となるように構成されている。また、帰還管路510dと帰還管路511dとが繋がる部分である帰還管路の最頂部における流路断面下端位置βよりも、引込管路の最頂部である屈曲部508dにおける流路断面下端位置γが高い位置となるように構成されている。図6に示す待機状態では、帰還管路511d内にも、溜水WSの一部が流れこみ、排水トラップ管路40d内の溜水と同じ高さまで入り込んでいる。尚、通常洗浄モードは、溜水WSの水位が、引込ポンプ505dによる溜水WSの引き込みが可能な位置以上である状態において実行される。
【0039】
水洗大便器装置CSdに使用者が近づいたことを人体接近検知センサー804が検知すると、人体接近検知センサー804から所定の電気信号が制御装置80に伝達される(ステップS01)。制御装置80はかかる電気信号を受信すると、制御装置80は、内部のタイマーAによる計時を開始する(ステップS02)。
【0040】
ステップS02に続くステップS03では、制御装置80が引込ポンプ505dに、引込指示信号を出力する。引込ポンプ505dは、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから一時貯留タンク50dへ引き込む(時刻t5)。この状態を図7及び図8に示す。
【0041】
図7に示すように、引込ポンプ505dを駆動し、溜水WSから水を引き込んで、引込水として一時貯留タンク50dに供給する。一時貯留タンク50d内に入った引込水は、帰還管路509dに流れこむ。帰還管路509dに対して帰還管路510dは立ち上がっているので、帰還管路510dに入っている空気によって、引込水と溜水とが縁切りされている。
【0042】
続いて、図8に示すように、溜水WSの水位が下がり、やがて引込ポンプ505dを駆動しても水を引き込むことができなくなる。尚、引込ポンプ505dが溜水WSの一部を引き込んでも、下降管路403dとボウル部20d側とが通期しないように、溜水WSは一定の水位を保たれている。一時貯留タンク50dには、通気口50daが形成されているので、引込ポンプ505dの駆動を停止すると(時刻t6)、引込管路503d内に引きこまれた水が排水トラップ管路40d内に戻る(図9参照)。図9に示す状態が、汚物を受け入れる準備が完了した段階となる。
【0043】
ステップS03に続くステップS04では、制御装置80が便座・便蓋開閉手段810に、便蓋開放指示信号を出力する。便座・便蓋開閉手段810は、便蓋を開放する。
【0044】
ステップS04に続くステップS05では、リモートコントローラー807の操作によって、汚物の排出が指示されたか否かを判断する。汚物の排出が指示されていれば、ステップS06の処理に進み、汚物の排出が指示されていなければ、ステップS07の処理に進む。
【0045】
リモートコントローラー807の操作によって、汚物の排出が指示されれば、ボウル部20d内に汚物が排泄された状態となっている。この状態を図10に示す。図10に示されるように、排泄された汚物MBは溜水WSに入り込む。
【0046】
図5に戻り、ステップS06では、制御装置80が電動開閉弁813に、洗浄指示信号を出力する。電動開閉弁813は、洗浄指示信号を受け取ると、内部に設けられた弁体を弁座から引き離し、洗浄水供給穴30dに洗浄水が流れるように作動する(時刻t7)。この状態を図11に示す。図11に示されるように、洗浄水は洗浄水供給穴30dからボウル部20d内に供給される。洗浄水供給穴30dから供給される洗浄水は、リム部202dを流れて汚物受け面201dに流れ込む。汚物受け面201dを洗浄した洗浄水は、ボウル出口部203dから排水トラップ管路40dに流れ込む。汚物MBは、上昇管路402d側に流される。
【0047】
図5に戻り、ステップS07では、人体接近検知センサー804から検知信号が出力され続けているか判断する。人体接近検知センサー804から検知信号が出力され続けていれば、ステップS05の処理に戻り、人体接近検知センサー804から検知信号が出力され続けていなければ、ステップS08の処理に進む。
【0048】
ステップS08では、タイマーAによる計時が、規定時間a1に到達しているか判断する。タイマーAによる計時が規定時間a1に到達していなければ、ステップS05の処理に戻り、タイマーAによる計時が規定時間a1に到達していれば、ステップS06の処理に進む。
【0049】
ステップS06に続くステップS09では、制御装置80は、内部のタイマーBによる計時を開始する。
【0050】
ステップS09に続くステップS10では、タイマーBによる計時が、規定時間b1に到達しているか判断する。タイマーBによる計時が規定時間b1に到達していなければ、ステップS10の処理を続け、タイマーBによる計時が規定時間b1に到達していれば、ステップS11の処理に進む。
【0051】
ステップS11では、一時貯留タンク50d内の引込水を、ボウル部20d及び排水トラップ管路40d側へと差し戻す。具体的には、制御装置80から帰還ポンプ506dに、一時貯留タンク50dに引き込んだ引込水を排水トラップ管路40dに差し戻すための差戻し指示信号を出力する。帰還ポンプ506dは、差戻し指示信号を受け取ると、引込水を排水トラップ管路40dに差し戻す(時刻t8)。この状態を図12、図13、図14、図15に示す。
【0052】
図12に示すように、ステップS11では帰還ポンプ506dを駆動し、一時貯留タンク50d内の引込水を排水トラップ管路40d側に送り込む。このように帰還ポンプ506dを駆動すると、最初に溜水WSと繋がって帰還管路511d内に入り込んでいた水が排水トラップ管路40dに戻される。
【0053】
図12に示す状態から更に帰還ポンプ506dの駆動を継続すると、図13に示すように、溜水と引込水とを縁切っていた空気が排水トラップ管路40d内に吹き出される。そして最後に引込水が順次排水トラップ管路40dに戻され(図14参照)、最後には空気が噴出されるまで引込水が完全に排水トラップ管路40dに戻される(図15参照)。その後、帰還ポンプ506dの駆動が停止される(時刻t9)。
【0054】
帰還ポンプ506dの駆動が停止された後、制御装置80は電動開閉弁813に、洗浄停止信号を出力する。電動開閉弁813は、洗浄停止信号を受け取ると、内部に設けられた弁体を弁座に戻し、洗浄水の供給を停止するように作動する。(時刻t10)。
【0055】
図5に戻り、ステップS11に続くステップS12では、タイマーA及びタイマーBのカウントをリセットする。
【0056】
上述した水洗大便器装置CSdの動作の、洗浄水供給穴30dから供給される洗浄水の供給タイミングと、一時貯留タンク50dに引き込まれてから差し戻される引込水の供給タイミングについて、図16を参照しながら説明する。図16は、水洗大便器装置CSdの動作を示すタイミングチャートである。
【0057】
図16に示すように、水洗大便器装置CSdでは、時刻t7で電動開閉弁813を開いてボウル部20dに洗浄水を供給し、時刻t10でその供給を停止している(図5のステップS06)。また、一時貯留タンク50dから引込水を、時刻t8から時刻t9にかけて差し戻している(図5のステップS11)。このようにボウル部20dへ洗浄水を供給開始してから供給終了するまでの間に、一時貯留タンク50dから引込水を差し戻すことも好ましいけれども、通常洗浄モードにおける引込水の差戻しタイミングはこれに限られるものではない。
【0058】
上述したように本実施形態に係る水洗大便器装置CSdは、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器装置であって、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面201dを有するボウル部20dと、ボウル部20dの上方周縁部に形成されたリム部202dと、リム部202dからボウル部20dに洗浄水を供給する洗浄水供給手段(電動開閉弁813、洗浄水供給穴30d)と、ボウル部20dの下方に接続される入口部401dと、入口部401dから上方に延びるように形成される上昇管路402dと、上昇管路402dの末端から下方に延びるように形成される下降管路403dを有し、非使用時には入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路40dと、溜水WSの一部をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる溜水利用機構と、を備える。
【0059】
溜水利用機構は、引込水を一時的に貯留する一時貯留タンク50dと、ボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから一時貯留タンク50dに溜水WSの一部を引込水として引き込む引込ポンプ505d(引込手段)と、一時貯留タンク50dに一時的に貯留された引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dへ帰還させる帰還ポンプ506d(帰還手段)と、引込ポンプ505d(引込手段)と帰還ポンプ506d(帰還手段)の挙動を制御する制御装置80(制御手段)と、を有する。
【0060】
制御装置80(制御手段)は、制御装置80(制御手段)が所定の電気信号を受信することにより実行される洗浄モードであって、溜水WSの水位が所定水位以上である状態において引込ポンプ505d(引込手段)を駆動させた後、洗浄水供給手段を駆動させることによる洗浄水の供給開始と、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が終了するよりも前の時点における帰還ポンプ506d(帰還手段)の駆動と、を行う通常洗浄モードと、引込ポンプ505d(引込手段)の駆動を行うことなく洗浄水供給手段を駆動させることにより、入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて貯留していた溜水WSを供給された洗浄水によって置換し、溜水の水位が所定水位以上となるように洗浄水を供給する準備洗浄モードと、を実行可能であり、さらに、水洗大便器装置CSdへの通電が開始されたことを検知すると、その後、最初に通常洗浄モードを実行する前に、準備洗浄モードを実行する。
【0061】
本実施形態に係る水洗大便器装置CSdは排水トラップ管路40dを備えており、排水トラップ管路40dは、ボウル部20dの下方に接続される入口部401dと、入口部401dから上方に延びるように形成される上昇管路402dと、上昇管路402dの末端から下方に延びるように形成される下降管路403dとを有する。そして、非使用時には入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成している。ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに形成される封水は、下水管からの臭気がトイレ室内に入ってくるのを防いだり、害虫がトイレ室内に入ってくるのを防いだりする役割を果たしている。その役割を確実に果たすため、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに形成される封水の封水深は、封水を形成する溜水の蒸発などによって封水切れが起きないように設定されている。
【0062】
一方、水洗大便器の使用時に着目すると、ボウル部20dが一時的に受け止めた汚物MBは、ボウル部20dの下方に落ちて行き、排水トラップ管路40d入口に一時的に貯留される。この状態で、洗浄水供給手段によって洗浄水が供給され、汚物MBは排水トラップ管路40d内を通って下水管側に流される。従って、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに封水を形成する溜水WSの一部は、非使用時の封水切れ防止のために用いられるものである。
【0063】
一方、使用時にボウル部20dが受け止める汚物MBは、排水トラップ管路40dの入口付近に一時的に貯留され、その後洗浄水によって流される。この汚物MBの排出においては、汚物周辺から上流側(ボウル部20d側)にある溜水や洗浄水供給手段によって供給される洗浄水が寄与するので、排水トラップ管路40dの汚物周辺から下流側にある溜水は汚物MBの排出に必ずしも寄与していない。上述のような使用時及び非使用時の水洗大便器装置CSdのボウル部20d及び排水トラップ管路40dにおける特性に着目すれば、封水を形成するための溜水は、使用時も非使用時も同じように溜めておく必要は必ずしも無く、使用時と非使用時とで溜め方を工夫する余地があるものである。
【0064】
そこで実施形態では、溜水WSの一部をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる溜水利用機構を備えている。この溜水利用機構によって、ボウル部20dが汚物を一時的に受け止めてから、洗浄水と共に排出する際に、引込ポンプ505dを駆動させた後、帰還ポンプ506dを駆動させるものとしている。従って、非使用時には封水を確実に形成するようにある程度の余裕をもって溜水WSを保持するものの、汚物を流す際には引込ポンプ505dを先に駆動して汚物の影響を受けていない溜水を引き込んで引込水として一時貯留タンク50dに貯める。帰還ポンプ506dは、この引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させるので、汚物の搬送に引込水を寄与させることができる。
【0065】
さらに本実施形態では、引込ポンプ505dと帰還ポンプ506dの挙動を制御する制御装置80を有しており、制御装置80は、通常洗浄モード及び準備洗浄モードという二つの洗浄モードを実行可能である。
【0066】
通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)とは、使用者のリモコン操作により発信された電気信号など、制御装置80が所定の電気信号を受信することにより実行される通常の洗浄モードである。通常洗浄モードにおいては、溜水WSの水位が所定水位以上である状態において引込ポンプ505dを駆動させた後、洗浄水供給手段(電動開閉弁813、洗浄水供給穴30d)を駆動させることによる洗浄水の供給開始と、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が終了するよりも前の時点における帰還ポンプ506dの駆動と、を行う。尚、所定水位とは、引込ポンプ505dによる溜水WSの引き込みが可能な水位のことである。
【0067】
準備洗浄モードとは、通常洗浄モードが実行されるよりも前において、水洗大便器装置CSdへの通電が開始されたことを制御装置80が検知した場合に実行される洗浄モードである。準備洗浄モードにおいては、引込ポンプ505dの駆動を行うことなく洗浄水供給手段を駆動させることにより、入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて貯留していた溜水WSを供給された洗浄水によって置換し、溜水WSの水位が所定水位以上となるように洗浄水を供給する。
【0068】
本実施形態では、制御装置80は、水洗大便器装置CSdへの通電が開始されたことを検知すると、その後、最初に通常洗浄モードを実行する前に、準備洗浄モードを実行する。これにより、溜水WSの水位が低下していた場合であっても、引込ポンプ505dの駆動によって破封状態を引き起こすことがなく、洗浄水が供給されて溜水WSの水位が上昇する。また、溜水WSが汚物により汚染されていた場合であっても、汚染された溜水WSは一時貯留タンク50dに引き込まれることなく、供給された洗浄水によって置換される。
【0069】
準備洗浄モードを実行することにより、通常洗浄モードを実行する直前においては、溜水WSは必ず所定水位以上、すなわち、引込ポンプ505dによる溜水WSの引き込みが可能な水位以上となっており、且つ汚染されていない状態となっている。このため、通常洗浄モードを実行しても、排水トラップ管路40dにおいて破封状態が生じることがなく、一時貯留タンク50dが不衛生となってしまうこともない。
【0070】
また、準備洗浄モードにおいて洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量は、通常洗浄モードにおいて前記洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量よりも多い。
【0071】
準備洗浄モードにおいては、引込ポンプ505dの駆動を行うことなく洗浄水供給手段が駆動される。このため、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させたとしても、十分な量の引込水を帰還させることができない可能性が高い。
【0072】
水洗大便器装置CSdは、汚物の搬送時において引込水を帰還させることにより、洗浄水供給手段から供給される洗浄水を少量としながら、汚物の搬送を可能ならしめるものである。このため、溜水WS内に汚物が存在している状態で準備洗浄モードが行われると、十分な量の引込水を帰還させることができないために汚物が搬送されず、準備洗浄モードが終了した時点においても、溜水WS内に汚物が残留してしまう可能性がある。
【0073】
本実施形態では、準備洗浄モードにおいて洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量が、通常洗浄モードにおいて洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量よりも多い。このため、溜水WS内に汚物が存在している状態で準備洗浄モードが行われた場合であっても、洗浄水供給手段から供給される洗浄水により確実に汚物を搬送し、溜水WSを置換した状態とすることができる。
【0074】
また、制御装置80は、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させる。
【0075】
準備洗浄モードが実行される際は、一時貯留タンク50d内には既に引込水が貯留されている可能性がある。一時貯留タンク50d内に引込水が貯留された状態のまま通常洗浄モードが実行されると、引込ポンプ505dを駆動させた際、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに存在していた溜水WSを十分に引き込むことができない。その状態において洗浄水供給手段により洗浄水が供給されると、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dは一時的に多量の溜水WSを蓄えた状態となり、溜水WSの置換や汚物の搬送の効率が低下してしまう。
【0076】
本実施形態では、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させることにより、一時貯留タンク50d内の引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dへ帰還させる。その結果、通常洗浄モードが実行される時点においては、一時貯留タンク50dは十分な量の溜水WSを引き込むことが可能な状態となっている。通常洗浄モードにおいて引込ポンプ505dを駆動させた際、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに存在していた溜水WSが十分に引き込まれるため、溜水WSの置換や汚物の搬送の効率が低下してしまうことが防止される。
【0077】
また、制御装置80は、準備洗浄モードにおいて、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が完了する時点よりも前に、帰還ポンプ506dの駆動を完了させる。
【0078】
停電などにより、水洗大便器装置CSdへの通電が行われない状態が長時間継続すると、一時貯留タンク50d内の引込水が不衛生な状態となっている可能性がある。この場合、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させた際には、かかる不衛生な状態の引込水がボウル部20d及び排水トラップ管路40dへ流入する。不衛生な水がそのままボウル部20d及び排水トラップ管路40dに残ってしまうと、水洗大便器装置CSdの周囲に悪臭を放つ恐れや、次回、引込ポンプ505dが駆動された際に再び一時貯留タンク50dに流入して、一時貯留タンク50dが更に不衛生な状態となる恐れがある。
【0079】
この好ましい態様では、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させるが、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が完了する時点よりも前に、帰還ポンプ506dの駆動を完了させる。このため、帰還ポンプ506dの駆動によって、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに対し不衛生な水が流入したとしても、帰還ポンプ506dが駆動されている間は、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が継続的に行われている。このため、不衛生な水は全て洗浄水によって排出されるため、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに残留することや、再び一時貯留タンク50dに流入してしまうことが防止される。
【0080】
さらに、上述した実施形態では、電動開閉弁(EV)813を開閉することによって便器本体10dのボウル部20dに洗浄水を流し、あるいはこれを止める態様について説明したが(図6等参照)、本実施形態の水洗大便器装置CSdにおいては、以下に説明するように、停電等の非通電時であっても溜水を利用したアシスト無しで汚物MBを確実に排出させることが可能である。
【0081】
すなわち、本実施形態では、リム洗浄水を供給するための供給流路91に、電動開閉弁813のみならず手動開閉弁814も併せて設置し、停電時やコンセント挿し忘れのような電力の供給を受けることができない非通電時等の場合(図17参照)にも対応できるようにしている。具体的に説明すると、本実施形態では、供給流路91と、電動開閉弁813と、手動開閉弁814とを備えるリム洗浄水供給手段90を構成し、該リム洗浄水供給手段90によってリム部202dへ洗浄水を供給するようにしている(図6等参照)。
【0082】
供給流路91は、洗浄水供給穴30dに連通するようにその一端が接続されているもので、該洗浄水供給穴30dを介してリム部202dへ洗浄水を供給する。供給流路91の途中には、上述の電動開閉弁813と手動開閉弁814とがそれぞれ設けられている。供給流路91等の具体的な構成は特に限定されないが、本実施形態では、電動開閉弁813よりも上流側で供給流路91から分岐し、且つ、電動開閉弁813よりも下流側の供給流路91に合流するバイパス流路92を設け、尚かつ、手動開閉弁814をこのバイパス流路92に設けている(図6等参照)。
【0083】
電動開閉弁813は、電力の供給を受けて駆動する装置であり、信号に応じて弁を電磁的に駆動させて開閉を行う。上述したように、この電動開閉弁813は制御装置80と接続されており、該制御装置80から発信される洗浄指示信号等に応じて作動する。
【0084】
手動開閉弁814は、使用者の手動操作による供給流路91の開閉を可能とする弁である。この手動開閉弁814は、電動開閉弁813の状態にかかわらずリム部202dへ洗浄水を供給することを可能とするもので、これによれば、停電時やコンセント挿し忘れのような電力の供給を受けることができない場合(非通電時)であっても洗浄水を供給することができる(図18参照)。
【0085】
なお、電動開閉弁813の状態にかかわらずリム部202dへの洗浄水供給を可能にするという手動開閉弁814の機能や目的からすれば、リム洗浄水供給手段90の供給流路91を2系統とし、各系統に電動開閉弁813と手動開閉弁814をそれぞれ配置する構成とすることも可能である。この点、上述したように、本実施形態では供給流路91にバイパス流路92を設け、該バイパス流路92に手動開閉弁814を設ける構成としているので、流路全体を2系統とした場合よりもコンパクトで簡易な構成とすることが可能である。
【0086】
手動開閉弁814は、開成または閉成するための操作を使用者が手動で行えるものであれば具体的な態様や構成は問わない。例示すれば、つまみを時計回りまたは反時計回りに回転させることによって開閉する弁を手動開閉弁814として採用することができるし、使用者の操作によって開成して通水を開始するとともに、使用者の操作によらず所定量の洗浄水を通水させるまで開成を継続し、その後自ら閉成する、いわゆるフラッシュバルブのような弁を手動開閉弁814として採用することもできる。
【0087】
また、後者のフラッシュバルブのような弁を手動開閉弁814として採用する場合には、使用者の操作によらず所定量通水する洗浄水の当該所定量を、通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)においてリム洗浄水供給手段90が供給する洗浄水の量よりも大きく設定することは好適な態様である。こうした場合、非通電時にリム部202dから供給される洗浄水の供給量(総流量)が、通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)において供給される量よりも多くなるように手動開閉弁814の開成状態が維持されてボウル部20dが洗浄されることとなる。このように、非通電時の洗浄水量を通常洗浄モード時の洗浄水量よりも多くすることで、非通電時、溜水を利用したアシストを受けなくとも、尚かつ使用者による1回の開成操作のみで、確実に汚物を排出させるようになるという点で好適である。
【0088】
上述した洗浄水の流量について、具体例を挙げて説明する。通電時のリム洗浄水供給量:X[L]、通電時の帰還ポンプからの供給量:Y[L] とした場合、通常洗浄モードの溜水利用洗浄における水供給量:X+Y[L] となる。これに対し、手動開閉弁814からの洗浄水供給量:Z[L] は、Z>X 、望ましくは、Z>X+Y となるようにして、帰還ポンプ506dのアシスト分も洗浄水量でカバーできるようにすることが好適である。
【0089】
なお、ここまでは電動開閉弁813および手動開閉弁814がそれぞれ別個の弁である構成を例示したが、このような構成に限らず、例えばこれら電動開閉弁および手動開閉弁の機能を併有するユニットを採用することとしてもよい。具体例を挙げて説明すると、例えば、水の供給流路91の吐水口911に配置されたタンクであって、手動式のレバーハンドル902、該レバーハンドル902の回転動作を排水弁904に伝達するための異なる長さの一対の玉鎖903、該玉鎖903に引っ張られて2種類の異なる開度で開弁し、洗浄水供給穴30dに洗浄水を供給する排水弁904、貯水量が一定値に達したところで吐水口911を閉じるボールタップ905、貯水量を一定(WL)に保つようにする管907等を備えた公知の給水タンク901がある場合に、上述のレバーハンドル902に電動操作ユニット906を併設し、電動開閉弁および手動開閉弁を有するリム洗浄水供給手段90として利用することができる(図19参照)。このようなリム洗浄水供給手段90を備える水洗大便器装置CSdにおいては、通常洗浄モードにおいては、電動にて作動する電動操作ユニット906(およびこれに付随して作動する玉鎖903、排水弁904)が電動開閉弁のごとく機能し、停電等の非通電時においては、手動にて作動するレバーハンドル902(およびこれに付随して作動する玉鎖903、排水弁904)が手動開閉弁のごとく機能する。このような構成のユニットを採用する場合において、手動開閉弁(レバーハンドル902)により供給される洗浄水の供給量は、電動開閉弁(電動操作ユニット906)により供給される洗浄水の供給量より多いことが好適である。
【0090】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0091】
例えば、本実施形態ではバイパス流路912を有する供給流路91を例示したが(図6等参照)、上述のごとく供給流路91を2系統とし、各系統に電動開閉弁813と手動開閉弁814をそれぞれ配置する構成とすることもできる(図20参照)。この場合においても、電動開閉弁813と手動開閉弁814の下流においては2系統の供給流路91が一本化され、洗浄水供給穴30dに対しては1系統の供給系となっていることが好適である(図20参照)。
【0092】
また、本実施形態では電動開閉弁813と手動開閉弁814とをそれぞれ配置する構成を例示したが(図6等参照)、両方の機能を併有する弁(例えば、電動式であって手動でも開閉させることができる弁)を採用し、これを1系統の供給流路91の途中に配置したリム洗浄水供給手段90とすることもできる(図21参照)。このようなリム洗浄水供給手段90によれば、電力の供給を受けることができない非通電時には、当該電動開閉弁を手動にて操作することによって洗浄水を供給することができる。
【符号の説明】
【0093】
MB:汚物
WS:溜水
CSd:水洗大便器装置
10d:便器本体
20d:ボウル部
40d:排水トラップ管路
50d:一時貯留タンク(貯留タンク)
80:制御装置(制御手段)
90:リム洗浄水供給手段
91:供給流路
92:バイパス流路
202d:リム部
505d:引込ポンプ(引込手段)
506d:帰還ポンプ(帰還手段)
813:電動開閉弁
814:手動開閉弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器装置として、下記特許文献1に記載のものが提案されている。下記特許文献1に記載の水洗大便器装置は、下記特許文献の図1に示されているように、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面を有するボウル部と、ボウル部の上方周縁部に形成されたリム部と、リム部からボウル部に洗浄水を供給する貯水タンクといった洗浄水供給手段と、ボウル部の下方に接続される入口部と、入口部から上方に延びるように形成される上昇管路と、上昇管路の末端から下方に延びるように形成される下降管路とを有し、非使用時には入口部から上昇管路の少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−31551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の従来の水洗大便器装置は、節水化に伴って、洗浄水が排水トラップ管路へ押し込まれる時間やサイホン作用に要する時間を短縮して効率的に汚物を排出することの重要性に鑑みたものとなっている。具体的には、浮遊系汚物をボウル部の溜水中に押し込んで排水トラップ側へ誘導する旋回流以外の洗浄水の流れを、水量を抑えつついかにして形成させるのかに着目している。そして、浮遊系汚物をボウル部の溜水面上に残すことなく確実に排出することができる水洗大便器装置を提供することを目的とし、新たな水洗大便器装置を提案している。
【0005】
このように、節水化の要求に対応するため、ボウル部への洗浄水の供給やボウル部における洗浄水の取り回しに対する様々な工夫が行われている。しかしながら、ボウル部の下部から排水トラップ管路にかけては、封水を形成するために溜水が形成されているところ、この溜水に対する節水の側面からの取り組みは十分にはなされていない。より強い節水化の要求に対応するためには、ボウル部の洗浄面での工夫のみならず、排水トラップ管路における節水面での工夫も必要となってきている。
【0006】
そこで本発明者らは、ボウル部及び排水トラップ管路において封水を形成するために溜められている溜水を一時的に引込水として退避させ、汚物の洗浄時にその退避させた引込水を利用することに着目した。さらに、本発明者は、汚物の洗浄時にその退避させた引込水を利用するようにした水洗大便器装置においては、毎回の溜水利用洗浄において汚物を確実に排出しようとすれば、リム部からの洗浄水供給のタイミングや貯留タンクからの溜水を帰還させるタイミングが、予め決められたシーケンスに基づくものになるであろうことにも着目した。溜水を利用して洗浄するための機構をこのように予め決められたシーケンスに基づいて作動させようとすれば、電力によって駆動するバルブやポンプ等が採用され、これらバルブ等は制御装置(CPU)によって電気的に制御されることになる。そうすると、当然のことながら、停電時やコンセントの挿し忘れのような非通電時にはこれらバルブ等を駆動することができないため、非通電時に使用者が用便した場合に、電動のバルブを開成できない等により大便器に洗浄水を供給できず、洗浄を行えないという課題があった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫してより節水性能を高め、尚かつ非通電時に溜水を利用したアシストを受けなくとも確実に汚物を排出させることが可能な水洗大便器装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するべく、本発明は、汚物を洗浄水とともに汚水として排出させる水洗大便器装置であって、汚物と洗浄水を貯留するボウル部と、該ボウル部の上部に設けられたリム部と、ボウル部の下流側に接続され、貯留する洗浄水である溜水によってボウル部とともに封水を形成する排水トラップ管路と、を有する便器本体と、ボウル部へ向けてリム部から洗浄水を供給するリム洗浄水供給手段と、溜水の一部を一時的に貯留させる貯留タンクと、電力の供給を受けて駆動してボウル部または排水トラップ管路から貯留タンクへ溜水の一部を引き込む引込手段と、電力の供給を受けて駆動して貯留タンクに貯留された溜水をボウル部または排水トラップ管路へ帰還させる帰還手段と、を有し、ボウル部または排水トラップ管路から溜水を引き込んでその一部を汚水の排出に利用する溜水利用洗浄手段と、リム洗浄水供給手段と引込手段と帰還手段とを制御する制御手段であって、通電時に所定の電気信号を受けてボウル部および排水トラップ管路に所定水位以上の溜水が貯留されている状態から引込手段を駆動させた後、リム洗浄水供給手段を駆動させて洗浄水の供給を開始させるとともに、その洗浄水の供給が終了する前に帰還手段を駆動させる溜水利用洗浄モードを実行させる制御手段と、を有しており、リム洗浄水供給手段は、リム部へ洗浄水を供給する供給流路と、電力の供給を受けて駆動して供給流路を開閉する電動開閉弁と、使用者の手動操作によって供給流路を開閉する手動開閉弁と、を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る水洗大便器装置は排水トラップ管路を備えており、排水トラップ管路は、ボウル部の下方に接続される。そして、排水トラップ管路は、非使用時には水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成している。ボウル部及び排水トラップ管路に形成される封水は、下水管からの臭気がトイレ室内に入ってくるのを防いだり、害虫がトイレ室内に入ってくるのを防いだりする役割を果たしている。その役割を確実に果たすため、ボウル部及び排水トラップ管路に形成される封水の封水深は、封水を形成する溜水の蒸発などによって封水切れが起きないように設定されている。
【0010】
一方、水洗大便器装置の使用時に着目すると、ボウル部が一時的に受け止めた汚物は、ボウル部の下方に落ちて行き、排水トラップ管路入口に一時的に貯留される。この状態で、洗浄水供給手段によって洗浄水が供給され、汚物は排水トラップ管路内を通って下水管側に流される。従って、ボウル部及び排水トラップ管路に封水を形成する溜水の一部は、非使用時の封水切れ防止のために用いられるものである。一方、使用時にボウル部が受け止める汚物は、排水トラップ管路の入口付近に一時的に貯留され、その後洗浄水によって流される。この汚物の排出においては、汚物周辺から上流側(ボウル部側)にある溜水や洗浄水供給手段によって供給される洗浄水が寄与するので、排水トラップ管路の汚物周辺から下流側にある溜水は汚物の排出に必ずしも寄与していない。上述のような使用時及び非使用時の水洗大便器装置のボウル部及び排水トラップ管路における特性に着目すれば、封水を形成するための溜水は、使用時も非使用時も同じように溜めておく必要は必ずしも無く、使用時と非使用時とで溜め方を工夫する余地があるものである。
【0011】
そこで本発明では、溜水の一部をボウル部または排水トラップ管路から引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部または排水トラップ管路に帰還させる溜水利用機構を備えている。この溜水利用機構によって、ボウル部が汚物を一時的に受け止めてから、洗浄水と共に排出する際に、引込手段を駆動させた後、帰還手段を駆動させるものとしている。従って、非使用時には封水を確実に形成するようにある程度の余裕をもって溜水を保持するものの、汚物を流す際には引込手段を先に駆動して汚物の影響を受けていない溜水を引き込んで引込水として一時貯留タンクに貯める。帰還手段は、この引込水をボウル部または排水トラップ管路に帰還させるので、汚物の搬送に引込水を寄与させることができる。
【0012】
さらに本発明では、引込手段と帰還手段の挙動を制御する制御手段を有しており、制御手段は、溜水利用洗浄モードを実行可能である。本明細書でいう溜水利用洗浄モードとは、使用者のリモコン操作により発信された電気信号など、制御手段が所定の電気信号を受信することにより実行される通常の洗浄モードをいう。
【0013】
しかも、本発明によれば併せて以下のごとき作用効果を実現することができる。すなわち、電気あるいは電力といった面について考慮すると、本発明のごとく溜水利用洗浄手段を搭載した水洗大便器装置において、洗浄水の供給を電気で駆動する要素によってのみ行うよう構成したとすると、停電時やコンセント挿し忘れのような電力の供給を受けることができない場合(非通電時)が生じうる。つまり、非通電時に使用者が用便した後は洗浄水を供給できないため、便器本体の洗浄および汚物の排出を行えなくなるという課題を内包していたのが従来であった。
【0014】
この点、本発明に係る水洗大便器装置は、使用者の手動操作によって開閉可能な手動開閉弁を備えており、この手動開閉弁を開成させることで、洗浄水がリム部へ供給されるように構成されている。このため、非通電時であっても供給流路からリム部へ洗浄水の供給が可能となる。リム部はボウル部の上部に設けられているため、リム部から供給された洗浄水は落下しながらボウル部を洗浄しつつ、その勢いを増してボウル部の汚物を排出する。これにより使用者は非通電時に用便しても、その後の便器本体の洗浄および汚物の排出が可能となる。
【0015】
また、上述のごとき水洗大便器装置においては、電動開閉弁よりも上流側で供給流路から分岐し、且つ、電動開閉弁よりも下流側の供給流路に合流するバイパス流路を備え、手動開閉弁がバイパス流路に設けられていることが好ましい。このような水洗大便器装置によれば、コンパクトで簡易な構成としながらも、非通電時に使用者の手動操作によってリム部へ洗浄水を供給することが可能となる。
【0016】
さらに、水洗大便器装置において、手動開閉弁は、使用者の操作によって開成して通水を開始するとともに、使用者の操作によらず所定量の洗浄水を通水させるまで開成を継続し、その後自ら閉成するものであり、上記所定量は、溜水利用洗浄モードにおいてリム洗浄水供給手段が供給する洗浄水の量よりも大きく設定されていることも好ましい。
【0017】
このような水洗大便器装置によれば、非通電時にリム部から供給される洗浄水の供給量(総流量)を、溜水利用洗浄モードにおいて供給する量よりも多くなるように手動開閉弁の開成状態を維持してボウル部を洗浄することで、非通電時に使用者が用便しても汚物を排出することを可能にする。すなわち、非通電時に、溜水を利用したアシストを受けなくとも確実に汚物を排出させることが可能な水洗大便器装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫してより節水性能を高め、尚かつ非通電時に溜水を利用したアシストを受けなくとも確実に汚物を排出させることが可能な水洗大便器装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る水洗大便器を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示す引込ポンプ近傍を拡大した図である。
【図4】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置の制御的な構成を示すブロック構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を示すフローチャートである。
【図6】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図7】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図8】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図9】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図10】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図11】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図12】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図13】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図14】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図15】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図16】本発明の実施形態に係る水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を示すタイミングチャートである。
【図17】図1および図2に示す水洗大便器装置の通常洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図18】図1および図2に示す水洗大便器装置の準備洗浄モードにおける動作を説明するための模式的な断面図である。
【図19】本発明の他の実施形態におけるリム洗浄水供給手段の構成例を示す図である。
【図20】本発明のさらに他の実施形態におけるリム洗浄水供給手段の構成例を示す図である。
【図21】本発明のさらにまた他の実施形態におけるリム洗浄水供給手段の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0021】
本発明の実施形態に係る水洗大便器装置について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る水洗大便器装置CSdを示す概略斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る水洗大便器装置CSdを模式的に示す断面図である。図2に示す水洗大便器装置CSdは、主に便器本体10dを描いており、便座や便蓋や洗浄水の給水バルブ、リモコンやその操作パネルといったものは記載を省略している。
【0022】
図1に示すように、水洗大便器装置CSdは、便器本体10dと、衛生洗浄装置70dとを備えている。衛生洗浄装置70dは、洗浄ノズル701dから使用者の局部を洗浄するための洗浄水を吐出することができるように構成されている。
【0023】
図2に示すように、便器本体10dは、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器を構成するものであって、ボウル部20dと、排水トラップ管路40dと、一時貯留タンク50dとを備えている。ボウル部20dは、便器本体10dの一部であって、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面201dと、洗浄水を汚物受け面201dに流すためのリム部202dと、汚物を排水トラップ管路40dに流すためのボウル出口部203dとを有している。リム部202dは、汚物受け面201dの上方周縁部に形成されている。リム部202dには、洗浄水供給穴30dが臨んでいる。ボウル出口部203dは、汚物受け面201dの下方に形成されている。
【0024】
排水トラップ管路40dは、汚物及び洗浄水をボウル部20dから受け入れて、下水管方向に流す部分である。排水トラップ管路40dは、入口部401dと、上昇管路402dと、下降管路403dとを有している。入口部401dは、ボウル部20dの汚物受け面201d下方に形成されているボウル出口部203dに接続される部分である。入口部401dは、ボウル出口部203dから汚物及び洗浄水を受け入れて、上昇管路402dへと流し込む。
【0025】
上昇管路402dは、入口部401dよりも下流側に形成されている部分であって、入口部401dから上方に延びるように形成されている部分である。従って、ボウル出口部203dと、入口部401dと、上昇管路402dとは繋がっていて、全体としてU字形状の管路を形成している。
【0026】
下降管路403dは、上昇管路402dよりも下流側に形成されている部分であって、上昇管路402dの下流側端部から下方に延びるように形成されている部分である。従って、ボウル出口部203dと、入口部401dと、上昇管路402dとによって形成されているU字形状の管路に溜められる溜水WSは、上昇管路402dと下降管路403dとの接続部分まで溜めることができる。水洗大便器装置CSdの非使用時には、入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成している。
【0027】
一時貯留タンク50dは、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから引きこんで、引込水として一時的に貯留するためのタンクである。排水トラップ管路40dと一時貯留タンク50dとは、引込管路503d(第一引込部分)、屈曲部508d(最頂部)、引込管路507d(第二引込部分)によって繋がれている。
【0028】
引込管路503dは、排水トラップ管路40dに繋がっている部分である。引込管路503dは、排水トラップ管路40dに繋がっている部分から上方に傾斜しながら延びている。引込管路503dには屈曲部508dが繋がり、屈曲部508dは引込管路507dに繋がっている。引込管路507dは、屈曲部508dに繋がる部分から下方に傾斜しながら延び、一時貯留タンク50dの上方端に繋がっている。一時貯留タンク50dの上方端には、引込管路507dと繋がっている部分からは離隔させて、通気口50daが形成されている。
【0029】
引込管路503dには、引込ポンプ505dが設けられている。引込ポンプ505dは、ターボ型ポンプである。引込ポンプ505dの拡大断面図を図3に示す。図3に示すように、引込ポンプ505dは、モーター505daと、羽根車505dbとを有している。モーター505daが回転することで羽根車505dbが回転し、羽根車505db周りにある水を吸い上げてモーター505da側に送り込む。従って、羽根車505db周りに水が無くなれば、引込ポンプ505dは水を吸い上げることができないように構成されている。
【0030】
図2に戻って説明を続ける。一時貯留タンク50dに貯められた引込水は、排水トラップ管路40dに戻すことができるように構成されている。一時貯留タンク50dと排水トラップ管路40dとは、帰還管路509d、帰還管路510d(第一帰還部分)、帰還管路511d(第二帰還部分)、帰還管路504dによって繋がれている。
【0031】
帰還管路509dは、一時貯留タンク50dに繋がっている部分である。帰還管路509dは、一時貯留タンク50dの下方端から略水平方向に延びている。帰還管路509dには帰還管路510dが繋がっている。帰還管路510dは、帰還管路509dと繋がっている部分から略垂直方向に立ち上がるように延びている。帰還管路510dには帰還管路511dが繋がっている。帰還管路511dは、帰還管路510dと繋がっている部分から斜め下方に下がりながら延びている。帰還管路511dには帰還管路504dが繋がっている。帰還管路504dは、帰還管路511dと繋がっている部分から屈曲し、排水トラップ管路40dの、入口部401dに繋がっている。
【0032】
帰還管路509dと帰還管路510dとの間には、帰還ポンプ506dが設けられている。帰還ポンプ506dを駆動することで、一時貯留タンク50d内の引込水が排水トラップ管路40dに戻される。
【0033】
続いて、水洗大便器装置CSdの制御的な構成について図4を参照しながら説明する。図4は、水洗大便器装置CSdの制御的な構成を示すブロック図である。図4に示すように、水洗大便器装置CSdは、制御装置80(制御手段)と、一時貯留タンク内水位検知手段801と、トラップ内水位検知センサー802と、着座検知センサー803と、人体接近検知センサー804と、トラップ内汚物検知センサー805と、温度検知センサー806と、リモートコントローラー807と、引込ポンプモーター808と、帰還ポンプモーター809と、便座・便蓋開閉手段810と、計測手段811と、ランプ・スピーカー812と、電動開閉弁(EV)813と、衛生洗浄装置70dとを備え、さらに、手動開閉弁(HV)814と、供給流路91とを備えている(図6等参照)。
【0034】
一時貯留タンク内水位検知手段801、トラップ内水位検知センサー802、着座検知センサー803、人体接近検知センサー804、トラップ内汚物検知センサー805、温度検知センサー806、及びリモートコントローラー807は、所定の計測信号や指示信号を制御装置80に出力する。
【0035】
制御装置80は、引込ポンプモーター808、帰還ポンプモーター809、便座・便蓋開閉手段810、及び計測手段811との間で、所定の計測信号や制御指示信号の授受を行う。制御装置80は、ランプ・スピーカー812、電動開閉弁813、及び衛生洗浄装置70dに所定の制御信号を出力する。後に詳しく説明するように、制御装置80は、電動開閉弁813、引込ポンプモーター808、及び帰還ポンプモーター809の動作を制御することによって、溜水利用洗浄モード(以下、本明細書において通常洗浄モードともいう)及び準備洗浄モードという二つの洗浄モードを実行することができる。
【0036】
続いて、図5、図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16を参照しながら、通常洗浄モードにおける水洗大便器装置CSdの動作を説明する。図5は、水洗大便器装置CSdの通常洗浄モードにおける動作を示すフローチャートである。
【0037】
通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)は、水洗大便器装置CSdに使用者が近づいたことを人体接近検知センサー804が検知することによって開始される(ステップS01)。人体接近検知センサー804が使用者を検知するまでの間は、水洗大便器装置CSdは待機状態となっている。
【0038】
待機状態では、図6に示すように、排水トラップ管路40dの上昇管路402d上端近傍まで溜水WSが溜められている。尚、本実施形態では、上昇管路402dの最も上の部分である最頂部における流路断面下端位置αよりも、帰還管路510dと帰還管路511dとが繋がる部分である帰還管路の最頂部における流路断面下端位置βが高い位置となるように構成されている。また、帰還管路510dと帰還管路511dとが繋がる部分である帰還管路の最頂部における流路断面下端位置βよりも、引込管路の最頂部である屈曲部508dにおける流路断面下端位置γが高い位置となるように構成されている。図6に示す待機状態では、帰還管路511d内にも、溜水WSの一部が流れこみ、排水トラップ管路40d内の溜水と同じ高さまで入り込んでいる。尚、通常洗浄モードは、溜水WSの水位が、引込ポンプ505dによる溜水WSの引き込みが可能な位置以上である状態において実行される。
【0039】
水洗大便器装置CSdに使用者が近づいたことを人体接近検知センサー804が検知すると、人体接近検知センサー804から所定の電気信号が制御装置80に伝達される(ステップS01)。制御装置80はかかる電気信号を受信すると、制御装置80は、内部のタイマーAによる計時を開始する(ステップS02)。
【0040】
ステップS02に続くステップS03では、制御装置80が引込ポンプ505dに、引込指示信号を出力する。引込ポンプ505dは、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから一時貯留タンク50dへ引き込む(時刻t5)。この状態を図7及び図8に示す。
【0041】
図7に示すように、引込ポンプ505dを駆動し、溜水WSから水を引き込んで、引込水として一時貯留タンク50dに供給する。一時貯留タンク50d内に入った引込水は、帰還管路509dに流れこむ。帰還管路509dに対して帰還管路510dは立ち上がっているので、帰還管路510dに入っている空気によって、引込水と溜水とが縁切りされている。
【0042】
続いて、図8に示すように、溜水WSの水位が下がり、やがて引込ポンプ505dを駆動しても水を引き込むことができなくなる。尚、引込ポンプ505dが溜水WSの一部を引き込んでも、下降管路403dとボウル部20d側とが通期しないように、溜水WSは一定の水位を保たれている。一時貯留タンク50dには、通気口50daが形成されているので、引込ポンプ505dの駆動を停止すると(時刻t6)、引込管路503d内に引きこまれた水が排水トラップ管路40d内に戻る(図9参照)。図9に示す状態が、汚物を受け入れる準備が完了した段階となる。
【0043】
ステップS03に続くステップS04では、制御装置80が便座・便蓋開閉手段810に、便蓋開放指示信号を出力する。便座・便蓋開閉手段810は、便蓋を開放する。
【0044】
ステップS04に続くステップS05では、リモートコントローラー807の操作によって、汚物の排出が指示されたか否かを判断する。汚物の排出が指示されていれば、ステップS06の処理に進み、汚物の排出が指示されていなければ、ステップS07の処理に進む。
【0045】
リモートコントローラー807の操作によって、汚物の排出が指示されれば、ボウル部20d内に汚物が排泄された状態となっている。この状態を図10に示す。図10に示されるように、排泄された汚物MBは溜水WSに入り込む。
【0046】
図5に戻り、ステップS06では、制御装置80が電動開閉弁813に、洗浄指示信号を出力する。電動開閉弁813は、洗浄指示信号を受け取ると、内部に設けられた弁体を弁座から引き離し、洗浄水供給穴30dに洗浄水が流れるように作動する(時刻t7)。この状態を図11に示す。図11に示されるように、洗浄水は洗浄水供給穴30dからボウル部20d内に供給される。洗浄水供給穴30dから供給される洗浄水は、リム部202dを流れて汚物受け面201dに流れ込む。汚物受け面201dを洗浄した洗浄水は、ボウル出口部203dから排水トラップ管路40dに流れ込む。汚物MBは、上昇管路402d側に流される。
【0047】
図5に戻り、ステップS07では、人体接近検知センサー804から検知信号が出力され続けているか判断する。人体接近検知センサー804から検知信号が出力され続けていれば、ステップS05の処理に戻り、人体接近検知センサー804から検知信号が出力され続けていなければ、ステップS08の処理に進む。
【0048】
ステップS08では、タイマーAによる計時が、規定時間a1に到達しているか判断する。タイマーAによる計時が規定時間a1に到達していなければ、ステップS05の処理に戻り、タイマーAによる計時が規定時間a1に到達していれば、ステップS06の処理に進む。
【0049】
ステップS06に続くステップS09では、制御装置80は、内部のタイマーBによる計時を開始する。
【0050】
ステップS09に続くステップS10では、タイマーBによる計時が、規定時間b1に到達しているか判断する。タイマーBによる計時が規定時間b1に到達していなければ、ステップS10の処理を続け、タイマーBによる計時が規定時間b1に到達していれば、ステップS11の処理に進む。
【0051】
ステップS11では、一時貯留タンク50d内の引込水を、ボウル部20d及び排水トラップ管路40d側へと差し戻す。具体的には、制御装置80から帰還ポンプ506dに、一時貯留タンク50dに引き込んだ引込水を排水トラップ管路40dに差し戻すための差戻し指示信号を出力する。帰還ポンプ506dは、差戻し指示信号を受け取ると、引込水を排水トラップ管路40dに差し戻す(時刻t8)。この状態を図12、図13、図14、図15に示す。
【0052】
図12に示すように、ステップS11では帰還ポンプ506dを駆動し、一時貯留タンク50d内の引込水を排水トラップ管路40d側に送り込む。このように帰還ポンプ506dを駆動すると、最初に溜水WSと繋がって帰還管路511d内に入り込んでいた水が排水トラップ管路40dに戻される。
【0053】
図12に示す状態から更に帰還ポンプ506dの駆動を継続すると、図13に示すように、溜水と引込水とを縁切っていた空気が排水トラップ管路40d内に吹き出される。そして最後に引込水が順次排水トラップ管路40dに戻され(図14参照)、最後には空気が噴出されるまで引込水が完全に排水トラップ管路40dに戻される(図15参照)。その後、帰還ポンプ506dの駆動が停止される(時刻t9)。
【0054】
帰還ポンプ506dの駆動が停止された後、制御装置80は電動開閉弁813に、洗浄停止信号を出力する。電動開閉弁813は、洗浄停止信号を受け取ると、内部に設けられた弁体を弁座に戻し、洗浄水の供給を停止するように作動する。(時刻t10)。
【0055】
図5に戻り、ステップS11に続くステップS12では、タイマーA及びタイマーBのカウントをリセットする。
【0056】
上述した水洗大便器装置CSdの動作の、洗浄水供給穴30dから供給される洗浄水の供給タイミングと、一時貯留タンク50dに引き込まれてから差し戻される引込水の供給タイミングについて、図16を参照しながら説明する。図16は、水洗大便器装置CSdの動作を示すタイミングチャートである。
【0057】
図16に示すように、水洗大便器装置CSdでは、時刻t7で電動開閉弁813を開いてボウル部20dに洗浄水を供給し、時刻t10でその供給を停止している(図5のステップS06)。また、一時貯留タンク50dから引込水を、時刻t8から時刻t9にかけて差し戻している(図5のステップS11)。このようにボウル部20dへ洗浄水を供給開始してから供給終了するまでの間に、一時貯留タンク50dから引込水を差し戻すことも好ましいけれども、通常洗浄モードにおける引込水の差戻しタイミングはこれに限られるものではない。
【0058】
上述したように本実施形態に係る水洗大便器装置CSdは、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器装置であって、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面201dを有するボウル部20dと、ボウル部20dの上方周縁部に形成されたリム部202dと、リム部202dからボウル部20dに洗浄水を供給する洗浄水供給手段(電動開閉弁813、洗浄水供給穴30d)と、ボウル部20dの下方に接続される入口部401dと、入口部401dから上方に延びるように形成される上昇管路402dと、上昇管路402dの末端から下方に延びるように形成される下降管路403dを有し、非使用時には入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路40dと、溜水WSの一部をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる溜水利用機構と、を備える。
【0059】
溜水利用機構は、引込水を一時的に貯留する一時貯留タンク50dと、ボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから一時貯留タンク50dに溜水WSの一部を引込水として引き込む引込ポンプ505d(引込手段)と、一時貯留タンク50dに一時的に貯留された引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dへ帰還させる帰還ポンプ506d(帰還手段)と、引込ポンプ505d(引込手段)と帰還ポンプ506d(帰還手段)の挙動を制御する制御装置80(制御手段)と、を有する。
【0060】
制御装置80(制御手段)は、制御装置80(制御手段)が所定の電気信号を受信することにより実行される洗浄モードであって、溜水WSの水位が所定水位以上である状態において引込ポンプ505d(引込手段)を駆動させた後、洗浄水供給手段を駆動させることによる洗浄水の供給開始と、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が終了するよりも前の時点における帰還ポンプ506d(帰還手段)の駆動と、を行う通常洗浄モードと、引込ポンプ505d(引込手段)の駆動を行うことなく洗浄水供給手段を駆動させることにより、入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて貯留していた溜水WSを供給された洗浄水によって置換し、溜水の水位が所定水位以上となるように洗浄水を供給する準備洗浄モードと、を実行可能であり、さらに、水洗大便器装置CSdへの通電が開始されたことを検知すると、その後、最初に通常洗浄モードを実行する前に、準備洗浄モードを実行する。
【0061】
本実施形態に係る水洗大便器装置CSdは排水トラップ管路40dを備えており、排水トラップ管路40dは、ボウル部20dの下方に接続される入口部401dと、入口部401dから上方に延びるように形成される上昇管路402dと、上昇管路402dの末端から下方に延びるように形成される下降管路403dとを有する。そして、非使用時には入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成している。ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに形成される封水は、下水管からの臭気がトイレ室内に入ってくるのを防いだり、害虫がトイレ室内に入ってくるのを防いだりする役割を果たしている。その役割を確実に果たすため、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに形成される封水の封水深は、封水を形成する溜水の蒸発などによって封水切れが起きないように設定されている。
【0062】
一方、水洗大便器の使用時に着目すると、ボウル部20dが一時的に受け止めた汚物MBは、ボウル部20dの下方に落ちて行き、排水トラップ管路40d入口に一時的に貯留される。この状態で、洗浄水供給手段によって洗浄水が供給され、汚物MBは排水トラップ管路40d内を通って下水管側に流される。従って、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに封水を形成する溜水WSの一部は、非使用時の封水切れ防止のために用いられるものである。
【0063】
一方、使用時にボウル部20dが受け止める汚物MBは、排水トラップ管路40dの入口付近に一時的に貯留され、その後洗浄水によって流される。この汚物MBの排出においては、汚物周辺から上流側(ボウル部20d側)にある溜水や洗浄水供給手段によって供給される洗浄水が寄与するので、排水トラップ管路40dの汚物周辺から下流側にある溜水は汚物MBの排出に必ずしも寄与していない。上述のような使用時及び非使用時の水洗大便器装置CSdのボウル部20d及び排水トラップ管路40dにおける特性に着目すれば、封水を形成するための溜水は、使用時も非使用時も同じように溜めておく必要は必ずしも無く、使用時と非使用時とで溜め方を工夫する余地があるものである。
【0064】
そこで実施形態では、溜水WSの一部をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dから引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる溜水利用機構を備えている。この溜水利用機構によって、ボウル部20dが汚物を一時的に受け止めてから、洗浄水と共に排出する際に、引込ポンプ505dを駆動させた後、帰還ポンプ506dを駆動させるものとしている。従って、非使用時には封水を確実に形成するようにある程度の余裕をもって溜水WSを保持するものの、汚物を流す際には引込ポンプ505dを先に駆動して汚物の影響を受けていない溜水を引き込んで引込水として一時貯留タンク50dに貯める。帰還ポンプ506dは、この引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させるので、汚物の搬送に引込水を寄与させることができる。
【0065】
さらに本実施形態では、引込ポンプ505dと帰還ポンプ506dの挙動を制御する制御装置80を有しており、制御装置80は、通常洗浄モード及び準備洗浄モードという二つの洗浄モードを実行可能である。
【0066】
通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)とは、使用者のリモコン操作により発信された電気信号など、制御装置80が所定の電気信号を受信することにより実行される通常の洗浄モードである。通常洗浄モードにおいては、溜水WSの水位が所定水位以上である状態において引込ポンプ505dを駆動させた後、洗浄水供給手段(電動開閉弁813、洗浄水供給穴30d)を駆動させることによる洗浄水の供給開始と、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が終了するよりも前の時点における帰還ポンプ506dの駆動と、を行う。尚、所定水位とは、引込ポンプ505dによる溜水WSの引き込みが可能な水位のことである。
【0067】
準備洗浄モードとは、通常洗浄モードが実行されるよりも前において、水洗大便器装置CSdへの通電が開始されたことを制御装置80が検知した場合に実行される洗浄モードである。準備洗浄モードにおいては、引込ポンプ505dの駆動を行うことなく洗浄水供給手段を駆動させることにより、入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて貯留していた溜水WSを供給された洗浄水によって置換し、溜水WSの水位が所定水位以上となるように洗浄水を供給する。
【0068】
本実施形態では、制御装置80は、水洗大便器装置CSdへの通電が開始されたことを検知すると、その後、最初に通常洗浄モードを実行する前に、準備洗浄モードを実行する。これにより、溜水WSの水位が低下していた場合であっても、引込ポンプ505dの駆動によって破封状態を引き起こすことがなく、洗浄水が供給されて溜水WSの水位が上昇する。また、溜水WSが汚物により汚染されていた場合であっても、汚染された溜水WSは一時貯留タンク50dに引き込まれることなく、供給された洗浄水によって置換される。
【0069】
準備洗浄モードを実行することにより、通常洗浄モードを実行する直前においては、溜水WSは必ず所定水位以上、すなわち、引込ポンプ505dによる溜水WSの引き込みが可能な水位以上となっており、且つ汚染されていない状態となっている。このため、通常洗浄モードを実行しても、排水トラップ管路40dにおいて破封状態が生じることがなく、一時貯留タンク50dが不衛生となってしまうこともない。
【0070】
また、準備洗浄モードにおいて洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量は、通常洗浄モードにおいて前記洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量よりも多い。
【0071】
準備洗浄モードにおいては、引込ポンプ505dの駆動を行うことなく洗浄水供給手段が駆動される。このため、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させたとしても、十分な量の引込水を帰還させることができない可能性が高い。
【0072】
水洗大便器装置CSdは、汚物の搬送時において引込水を帰還させることにより、洗浄水供給手段から供給される洗浄水を少量としながら、汚物の搬送を可能ならしめるものである。このため、溜水WS内に汚物が存在している状態で準備洗浄モードが行われると、十分な量の引込水を帰還させることができないために汚物が搬送されず、準備洗浄モードが終了した時点においても、溜水WS内に汚物が残留してしまう可能性がある。
【0073】
本実施形態では、準備洗浄モードにおいて洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量が、通常洗浄モードにおいて洗浄水供給手段から供給される洗浄水の量よりも多い。このため、溜水WS内に汚物が存在している状態で準備洗浄モードが行われた場合であっても、洗浄水供給手段から供給される洗浄水により確実に汚物を搬送し、溜水WSを置換した状態とすることができる。
【0074】
また、制御装置80は、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させる。
【0075】
準備洗浄モードが実行される際は、一時貯留タンク50d内には既に引込水が貯留されている可能性がある。一時貯留タンク50d内に引込水が貯留された状態のまま通常洗浄モードが実行されると、引込ポンプ505dを駆動させた際、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに存在していた溜水WSを十分に引き込むことができない。その状態において洗浄水供給手段により洗浄水が供給されると、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dは一時的に多量の溜水WSを蓄えた状態となり、溜水WSの置換や汚物の搬送の効率が低下してしまう。
【0076】
本実施形態では、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させることにより、一時貯留タンク50d内の引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dへ帰還させる。その結果、通常洗浄モードが実行される時点においては、一時貯留タンク50dは十分な量の溜水WSを引き込むことが可能な状態となっている。通常洗浄モードにおいて引込ポンプ505dを駆動させた際、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに存在していた溜水WSが十分に引き込まれるため、溜水WSの置換や汚物の搬送の効率が低下してしまうことが防止される。
【0077】
また、制御装置80は、準備洗浄モードにおいて、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が完了する時点よりも前に、帰還ポンプ506dの駆動を完了させる。
【0078】
停電などにより、水洗大便器装置CSdへの通電が行われない状態が長時間継続すると、一時貯留タンク50d内の引込水が不衛生な状態となっている可能性がある。この場合、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させた際には、かかる不衛生な状態の引込水がボウル部20d及び排水トラップ管路40dへ流入する。不衛生な水がそのままボウル部20d及び排水トラップ管路40dに残ってしまうと、水洗大便器装置CSdの周囲に悪臭を放つ恐れや、次回、引込ポンプ505dが駆動された際に再び一時貯留タンク50dに流入して、一時貯留タンク50dが更に不衛生な状態となる恐れがある。
【0079】
この好ましい態様では、準備洗浄モードにおいて帰還ポンプ506dを駆動させるが、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が完了する時点よりも前に、帰還ポンプ506dの駆動を完了させる。このため、帰還ポンプ506dの駆動によって、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに対し不衛生な水が流入したとしても、帰還ポンプ506dが駆動されている間は、洗浄水供給手段による洗浄水の供給が継続的に行われている。このため、不衛生な水は全て洗浄水によって排出されるため、ボウル部20d及び排水トラップ管路40dに残留することや、再び一時貯留タンク50dに流入してしまうことが防止される。
【0080】
さらに、上述した実施形態では、電動開閉弁(EV)813を開閉することによって便器本体10dのボウル部20dに洗浄水を流し、あるいはこれを止める態様について説明したが(図6等参照)、本実施形態の水洗大便器装置CSdにおいては、以下に説明するように、停電等の非通電時であっても溜水を利用したアシスト無しで汚物MBを確実に排出させることが可能である。
【0081】
すなわち、本実施形態では、リム洗浄水を供給するための供給流路91に、電動開閉弁813のみならず手動開閉弁814も併せて設置し、停電時やコンセント挿し忘れのような電力の供給を受けることができない非通電時等の場合(図17参照)にも対応できるようにしている。具体的に説明すると、本実施形態では、供給流路91と、電動開閉弁813と、手動開閉弁814とを備えるリム洗浄水供給手段90を構成し、該リム洗浄水供給手段90によってリム部202dへ洗浄水を供給するようにしている(図6等参照)。
【0082】
供給流路91は、洗浄水供給穴30dに連通するようにその一端が接続されているもので、該洗浄水供給穴30dを介してリム部202dへ洗浄水を供給する。供給流路91の途中には、上述の電動開閉弁813と手動開閉弁814とがそれぞれ設けられている。供給流路91等の具体的な構成は特に限定されないが、本実施形態では、電動開閉弁813よりも上流側で供給流路91から分岐し、且つ、電動開閉弁813よりも下流側の供給流路91に合流するバイパス流路92を設け、尚かつ、手動開閉弁814をこのバイパス流路92に設けている(図6等参照)。
【0083】
電動開閉弁813は、電力の供給を受けて駆動する装置であり、信号に応じて弁を電磁的に駆動させて開閉を行う。上述したように、この電動開閉弁813は制御装置80と接続されており、該制御装置80から発信される洗浄指示信号等に応じて作動する。
【0084】
手動開閉弁814は、使用者の手動操作による供給流路91の開閉を可能とする弁である。この手動開閉弁814は、電動開閉弁813の状態にかかわらずリム部202dへ洗浄水を供給することを可能とするもので、これによれば、停電時やコンセント挿し忘れのような電力の供給を受けることができない場合(非通電時)であっても洗浄水を供給することができる(図18参照)。
【0085】
なお、電動開閉弁813の状態にかかわらずリム部202dへの洗浄水供給を可能にするという手動開閉弁814の機能や目的からすれば、リム洗浄水供給手段90の供給流路91を2系統とし、各系統に電動開閉弁813と手動開閉弁814をそれぞれ配置する構成とすることも可能である。この点、上述したように、本実施形態では供給流路91にバイパス流路92を設け、該バイパス流路92に手動開閉弁814を設ける構成としているので、流路全体を2系統とした場合よりもコンパクトで簡易な構成とすることが可能である。
【0086】
手動開閉弁814は、開成または閉成するための操作を使用者が手動で行えるものであれば具体的な態様や構成は問わない。例示すれば、つまみを時計回りまたは反時計回りに回転させることによって開閉する弁を手動開閉弁814として採用することができるし、使用者の操作によって開成して通水を開始するとともに、使用者の操作によらず所定量の洗浄水を通水させるまで開成を継続し、その後自ら閉成する、いわゆるフラッシュバルブのような弁を手動開閉弁814として採用することもできる。
【0087】
また、後者のフラッシュバルブのような弁を手動開閉弁814として採用する場合には、使用者の操作によらず所定量通水する洗浄水の当該所定量を、通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)においてリム洗浄水供給手段90が供給する洗浄水の量よりも大きく設定することは好適な態様である。こうした場合、非通電時にリム部202dから供給される洗浄水の供給量(総流量)が、通常洗浄モード(溜水利用洗浄モード)において供給される量よりも多くなるように手動開閉弁814の開成状態が維持されてボウル部20dが洗浄されることとなる。このように、非通電時の洗浄水量を通常洗浄モード時の洗浄水量よりも多くすることで、非通電時、溜水を利用したアシストを受けなくとも、尚かつ使用者による1回の開成操作のみで、確実に汚物を排出させるようになるという点で好適である。
【0088】
上述した洗浄水の流量について、具体例を挙げて説明する。通電時のリム洗浄水供給量:X[L]、通電時の帰還ポンプからの供給量:Y[L] とした場合、通常洗浄モードの溜水利用洗浄における水供給量:X+Y[L] となる。これに対し、手動開閉弁814からの洗浄水供給量:Z[L] は、Z>X 、望ましくは、Z>X+Y となるようにして、帰還ポンプ506dのアシスト分も洗浄水量でカバーできるようにすることが好適である。
【0089】
なお、ここまでは電動開閉弁813および手動開閉弁814がそれぞれ別個の弁である構成を例示したが、このような構成に限らず、例えばこれら電動開閉弁および手動開閉弁の機能を併有するユニットを採用することとしてもよい。具体例を挙げて説明すると、例えば、水の供給流路91の吐水口911に配置されたタンクであって、手動式のレバーハンドル902、該レバーハンドル902の回転動作を排水弁904に伝達するための異なる長さの一対の玉鎖903、該玉鎖903に引っ張られて2種類の異なる開度で開弁し、洗浄水供給穴30dに洗浄水を供給する排水弁904、貯水量が一定値に達したところで吐水口911を閉じるボールタップ905、貯水量を一定(WL)に保つようにする管907等を備えた公知の給水タンク901がある場合に、上述のレバーハンドル902に電動操作ユニット906を併設し、電動開閉弁および手動開閉弁を有するリム洗浄水供給手段90として利用することができる(図19参照)。このようなリム洗浄水供給手段90を備える水洗大便器装置CSdにおいては、通常洗浄モードにおいては、電動にて作動する電動操作ユニット906(およびこれに付随して作動する玉鎖903、排水弁904)が電動開閉弁のごとく機能し、停電等の非通電時においては、手動にて作動するレバーハンドル902(およびこれに付随して作動する玉鎖903、排水弁904)が手動開閉弁のごとく機能する。このような構成のユニットを採用する場合において、手動開閉弁(レバーハンドル902)により供給される洗浄水の供給量は、電動開閉弁(電動操作ユニット906)により供給される洗浄水の供給量より多いことが好適である。
【0090】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0091】
例えば、本実施形態ではバイパス流路912を有する供給流路91を例示したが(図6等参照)、上述のごとく供給流路91を2系統とし、各系統に電動開閉弁813と手動開閉弁814をそれぞれ配置する構成とすることもできる(図20参照)。この場合においても、電動開閉弁813と手動開閉弁814の下流においては2系統の供給流路91が一本化され、洗浄水供給穴30dに対しては1系統の供給系となっていることが好適である(図20参照)。
【0092】
また、本実施形態では電動開閉弁813と手動開閉弁814とをそれぞれ配置する構成を例示したが(図6等参照)、両方の機能を併有する弁(例えば、電動式であって手動でも開閉させることができる弁)を採用し、これを1系統の供給流路91の途中に配置したリム洗浄水供給手段90とすることもできる(図21参照)。このようなリム洗浄水供給手段90によれば、電力の供給を受けることができない非通電時には、当該電動開閉弁を手動にて操作することによって洗浄水を供給することができる。
【符号の説明】
【0093】
MB:汚物
WS:溜水
CSd:水洗大便器装置
10d:便器本体
20d:ボウル部
40d:排水トラップ管路
50d:一時貯留タンク(貯留タンク)
80:制御装置(制御手段)
90:リム洗浄水供給手段
91:供給流路
92:バイパス流路
202d:リム部
505d:引込ポンプ(引込手段)
506d:帰還ポンプ(帰還手段)
813:電動開閉弁
814:手動開閉弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を洗浄水とともに汚水として排出させる水洗大便器装置であって、
汚物と洗浄水を貯留するボウル部と、該ボウル部の上部に設けられたリム部と、前記ボウル部の下流側に接続され、貯留する洗浄水である溜水によって前記ボウル部とともに封水を形成する排水トラップ管路と、を有する便器本体と、
前記ボウル部へ向けて前記リム部から洗浄水を供給するリム洗浄水供給手段と、
前記溜水の一部を一時的に貯留させる貯留タンクと、電力の供給を受けて駆動して前記ボウル部または前記排水トラップ管路から前記貯留タンクへ前記溜水の一部を引き込む引込手段と、電力の供給を受けて駆動して前記貯留タンクに貯留された前記溜水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路へ帰還させる帰還手段と、を有し、前記ボウル部または前記排水トラップ管路から前記溜水を引き込んでその一部を汚水の排出に利用する溜水利用洗浄手段と、
前記リム洗浄水供給手段と前記引込手段と前記帰還手段とを制御する制御手段であって、通電時に所定の電気信号を受けて前記ボウル部および前記排水トラップ管路に所定水位以上の溜水が貯留されている状態から前記引込手段を駆動させた後、前記リム洗浄水供給手段を駆動させて洗浄水の供給を開始させるとともに、その洗浄水の供給が終了する前に前記帰還手段を駆動させる溜水利用洗浄モードを実行させる前記制御手段と、
を有しており、
前記リム洗浄水供給手段は、前記リム部へ洗浄水を供給する供給流路と、電力の供給を受けて駆動して前記供給流路を開閉する電動開閉弁と、使用者の手動操作によって供給流路を開閉する手動開閉弁と、を備えることを特徴とする水洗大便器装置。
【請求項2】
前記電動開閉弁よりも上流側で供給流路から分岐し、且つ、前記電動開閉弁よりも下流側の前記供給流路に合流するバイパス流路を備え、前記手動開閉弁が前記バイパス流路に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器装置。
【請求項3】
手動開閉弁は、使用者の操作によって開成して通水を開始するとともに、使用者の操作によらず所定量の洗浄水を通水させるまで開成を継続し、その後自ら閉成するものであり、
上記所定量は、溜水利用洗浄モードにおいてリム洗浄水供給手段が供給する洗浄水の量よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器装置。
【請求項1】
汚物を洗浄水とともに汚水として排出させる水洗大便器装置であって、
汚物と洗浄水を貯留するボウル部と、該ボウル部の上部に設けられたリム部と、前記ボウル部の下流側に接続され、貯留する洗浄水である溜水によって前記ボウル部とともに封水を形成する排水トラップ管路と、を有する便器本体と、
前記ボウル部へ向けて前記リム部から洗浄水を供給するリム洗浄水供給手段と、
前記溜水の一部を一時的に貯留させる貯留タンクと、電力の供給を受けて駆動して前記ボウル部または前記排水トラップ管路から前記貯留タンクへ前記溜水の一部を引き込む引込手段と、電力の供給を受けて駆動して前記貯留タンクに貯留された前記溜水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路へ帰還させる帰還手段と、を有し、前記ボウル部または前記排水トラップ管路から前記溜水を引き込んでその一部を汚水の排出に利用する溜水利用洗浄手段と、
前記リム洗浄水供給手段と前記引込手段と前記帰還手段とを制御する制御手段であって、通電時に所定の電気信号を受けて前記ボウル部および前記排水トラップ管路に所定水位以上の溜水が貯留されている状態から前記引込手段を駆動させた後、前記リム洗浄水供給手段を駆動させて洗浄水の供給を開始させるとともに、その洗浄水の供給が終了する前に前記帰還手段を駆動させる溜水利用洗浄モードを実行させる前記制御手段と、
を有しており、
前記リム洗浄水供給手段は、前記リム部へ洗浄水を供給する供給流路と、電力の供給を受けて駆動して前記供給流路を開閉する電動開閉弁と、使用者の手動操作によって供給流路を開閉する手動開閉弁と、を備えることを特徴とする水洗大便器装置。
【請求項2】
前記電動開閉弁よりも上流側で供給流路から分岐し、且つ、前記電動開閉弁よりも下流側の前記供給流路に合流するバイパス流路を備え、前記手動開閉弁が前記バイパス流路に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器装置。
【請求項3】
手動開閉弁は、使用者の操作によって開成して通水を開始するとともに、使用者の操作によらず所定量の洗浄水を通水させるまで開成を継続し、その後自ら閉成するものであり、
上記所定量は、溜水利用洗浄モードにおいてリム洗浄水供給手段が供給する洗浄水の量よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2013−76213(P2013−76213A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215162(P2011−215162)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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