説明

水洗大便器

【課題】浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる水洗大便器を提供する。
【解決手段】本発明の水洗大便器1は、汚物を受ける汚物受け面10と、この汚物受け面10に洗浄水を吐水して旋回流を形成するリム部と、を備えたボウル部4と、このボウル部の下端に接続された入口8aから後方へ延びるように形成され、汚物を排出する排水トラップ部8と、この排水トラップ部の近傍で且つボウル部の下方に形成された溜水部20と、を有し、ボウル部の汚物受け面は、その後方側領域に棚状に形成される後方側汚物受け面10aを備え、この後方側汚物受け面は、リム部から後方側汚物受け面に吐水された洗浄水の一部が溜水部内の溜水面W0の後方の領域A1を飛び越えて前方の所定領域A2へ着水するように、後方側汚物受け面の前端部分と溜水部の後方側壁面20aの上端部分とをつなげる段部22を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、洗浄水によって洗浄され、汚物を排出する水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、洗浄水によって洗浄され、汚物を排出する水洗大便器として、例えば、特許文献1に記載されているように、サイホン作用を生じさせない洗い落し式便器が知られている。
このような従来の洗い落し式便器は、水の落差による流水作用で汚物を押し流す方式で構造がシンプルであり、かつ安価であることに加えて、サイホン作用を生じさせないため、便器洗浄に用いられる洗浄水の量が少なくて済むという利点を有する。したがって、従来から便器に要請されている洗浄水の節水化のニーズにも合致したものとなっている。
【0003】
しかしながら、このような従来の洗い落し式便器においては、溜水面が狭いため、ボウル部内の乾燥面に汚物が付着しやすい。
また、溜水面に浮遊するような比較的軽い浮遊系汚物は、洗浄操作を行っても溜水面を旋回するだけで、ボウル部の下方に設けられた排水トラップ部まで水没しにくいという問題もある。
したがって、特許文献1に記載されている洗い落し式便器では、このような浮遊系汚物を効果的に排出させるために、ボウル部のリム部の左右部分、前方の左右部分及び後方部分の複数の箇所に比較的大きい寸法の射水孔を設けることにより、溜水面に分散して浮遊する汚物を溜水面のほぼ中心に集めた後に排出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平1−37023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の節水化のニーズにより洗浄水量が少なくなっているため、上述した従来の洗い落し式便器においても、浮遊系汚物が排出しきれずに残ってしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる水洗大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、洗浄水によって洗浄され、汚物を排出する水洗大便器であって、汚物を受ける汚物受け面と、この汚物受け面に洗浄水を吐水して旋回流を形成するリム部と、を備えたボウル部と、このボウル部の下端に接続された入口から後方へ延びるように形成され、汚物を排出する排水トラップ部と、この排水トラップ部の近傍で且つ上記ボウル部の下方に形成された溜水部と、を有し、上記ボウル部の汚物受け面は、その後方側領域に棚状に形成される後方側汚物受け面を備え、この後方側汚物受け面は、上記リム部から上記後方側汚物受け面に吐水された洗浄水の一部が上記溜水部内の溜水面の後方の領域を飛び越えて前方の所定領域へ着水するように、上記後方側汚物受け面の前端部分と上記溜水部の後方側壁面の上端部分とをつなげる段部を備えていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、水洗大便器の洗浄時に、ボウル部のリム部から汚物受け面に吐水された洗浄水は、汚物受け面から溜水部にかけて旋回する旋回流により浮遊系汚物を溜水部の溜水面のほぼ中心に集めると共に、リム部から後方側汚物受け面に吐水された洗浄水の一部が、ボウル部の後方側汚物受け面の段部を通過し、溜水部内の溜水面の後方の領域を飛び越えて前方の所定領域へ着水し、溜水面の浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込む。この結果、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、上記ボウル部のリム部は、その後方側領域に形成されて横幅方向に長い扁平形状を備えた長孔から洗浄水を吐水し、上記後方側汚物受け面の段部を通過させて上記溜水部内の溜水面の前方の所定領域へ着水させる。
このように構成された本発明においては、ボウル部のリム部の後方側領域に形成されて横幅方向に長い扁平形状を備えた長孔から吐水された洗浄水は、所定の横幅を備えた束の流れとなって後方側汚物受け面の段部を通過し、この洗浄水の一部が溜水部内の溜水面の後方の領域を飛び越えて前方の所定領域へ着水し、旋回流により溜水部の溜水面のほぼ中心に集められた浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込む。この結果、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、上記後方側汚物受け面の段部は、上記リム部から上記後方側汚物受け面に吐水された洗浄水の一部について、上記溜水面の前後方向に対してほぼ中央の位置よりも前方側の所定領域に着水させる。
このように構成された本発明においては、リム部から後方側汚物受け面に吐水された洗浄水の一部が、後方側汚物受け面の段部により、溜水面の前後方向に対してほぼ中央の位置よりも前方側の所定領域に着水するため、旋回流により溜水部の溜水面のほぼ中心に集められた浮遊系汚物が上方且つ前方から溜水中に叩き込まれた後、そのまま溜水部の前方側壁面に沿ってスムーズに排水トラップ部の入口に流れ込む。この結果、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記後方側汚物受け面の段部を形成する面を前方側に延長した領域面は、洗浄開始前の上記溜水部の溜水面よりも上方に位置する。
このように構成された本発明においては、後方側汚物受け面の段部を形成する面を前方側に延長した領域面が洗浄開始前の溜水部の溜水面よりも上方に位置することにより、後方側汚物受け面の段部を流出した洗浄水は、確実に上方且つ前方から溜水面に着水することができる。この結果、旋回流により溜水部の溜水面のほぼ中心に集められた浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込んで効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、上記ボウル部のリム部の後方側領域に形成された長孔の長手方向の長さは、上記後方側汚物受け面の段部の横幅方向の長さよりも小さい。
このように構成された本発明においては、ボウル部のリム部の後方側領域に形成された長孔から吐水された洗浄水のすべてが後方側汚物受け面の段部を通過するため、長孔から吐水された洗浄水の無駄水をなくすことができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、上記ボウル部のリム部の後方側領域に形成された長孔から吐水される洗浄水の吐水量は、上記リム部の全体領域から上記ボウル部の汚物受け面へ吐水される洗浄水の総吐水量の15%〜35%に設定されている。
このように構成された本発明においては、ボウル部の汚物受け面全体を十分に洗浄することができると共に、旋回流により溜水部の溜水面のほぼ中心に集められた浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込む流れを形成することができる。この結果、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による水洗大便器を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す水洗大便器の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態による水洗大便器における洗浄水の流れの様子を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による水洗大便器における洗浄水の流れの様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態による水洗大便器について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態による水洗大便器を示す縦断面図であり、図2は図1に示す水洗大便器の平面図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、符号1は洗い落し式の水洗大便器を示し、この水洗大便器1は、陶器等からなる便器本体2を有し、この便器本体2は、ボウル部4と、導水路6と、ボウル部4の下部と連通する排水トラップ管路8を備えている。
なお、本実施形態の水洗大便器1においては、便器本体2の後方側が壁等に設置された、いわゆる、壁掛け式の水洗大便器のような形態であってもよいし、便器本体2の底部が床に設置された、いわゆる、床置き式の水洗大便器のような形態であってもよい。
【0016】
ボウル部4は、汚物受け面10と、その上縁部に形成されたリム部12を備え、このリム部12は、いわゆる「ボックスリム」とも呼ばれ、リム部12の内周面が、洗浄水が便器本体2の外に飛び出さないようにオーバーハングした形状の通水路14を形成している。
【0017】
また、リム部12の通水路14は、ボウル部4の汚物受け面10の上縁部に沿って形成され、通水路14の後方側は、便器本体2の導水路6と連通するように接続されている。導水路6の上流側(後方側)は、フラッシュバルブ等の給水弁(図示せず)を介して水道に接続されているか、或いは、給水タンク等の外部の給水源(図示せず)に接続されている。
【0018】
さらに、リム部12の通水路14の後方側領域には、便器本体2の横幅方向に長い扁平形状を備えた単一の長孔である射水孔16が形成されている。
また、通水路14における射水孔16よりも左右又は前方側の領域には、下方に開口するように形成された多数の吐水孔18が通水路14の経路に沿って所定間隔を置いて設けられている。
さらに、リム部12の多数の吐水孔18のそれぞれは、ほぼ円形断面を備えた丸孔であり、射水孔16の長孔形状とは異なっており、いずれの吐水孔18の開口断面積についても、射水孔16の開口断面積よりも小さくなっている。
【0019】
また、便器本体2を前側から見てリム部12の通水路14の前方左側領域には、多数の吐水孔18の中でも孔径が最も大きい吐水孔18aが設けられている。
さらに、便器本体2を前側から見てリム部12の通水路14の前方領域には、吐水孔18aよりも孔径が小さい吐水孔18bが設けられている。
また、便器本体2を前側から見てリム部12の通水路14の後方左側領域、前方右側領域及び後方右側領域には、吐水孔18bよりも孔径がさらに小さい吐水孔18cが設けられている。
これら吐水孔18a〜18cの孔径の関係により、汚物受け面10上に沿って旋回しながら溜水部20の溜水面W0に向けて流れる洗浄水を形成することが可能となっている。
【0020】
なお、本実施形態の水洗大便器1においては、一例として、リム部12について、通水路14の横断面を閉じた経路に設定して下方に開口した多数の吐水孔18を設けた、いわゆる、ボックスリムの形態を採用したものについて説明したが、このような形態に限定されず、多数の吐水孔18を設ける代わりに、通水路14の横断面の下面の一部を開いた経路に設定した、いわゆる、オープンリムの形態を採用してもよい。
また、上述したボックスリムの形態やオープンリムの形態とは異なる形態として、ボウル部4の汚物受け面10の上縁部に沿って形成されたリム部12の通水路14を省略し、汚物受け面10の上縁の内壁面が、ボウル部4の内方に向かって張り出しているリム部とし、導水路6からリム部に導かれた洗浄水をリム部の表面形状に直接的に沿わせて旋回させるような形態にしてもよい。要するに、リム部から吐水される洗浄水が旋回流を形成すればリム部はいずれの形状でも良い。
さらに、リム部12の通水路14の各領域に設けられた吐水孔18a,18b,18cの配置形態についても、本実施形態のような配置形態に限定されず、便器本体2の使用状況に応じて適宜変更してもよい。
【0021】
排水トラップ管路8の近傍で且つボウル部4の下方には、溜水部20が形成され、初期水位の溜水面がW0で示されている所定量の溜水が貯留されている。
溜水部20の下方には、排水トラップ管路8の入口8aが開口し、この入口8aから上昇路8bが後方に延びている。
また、排水トラップ管路8の上昇路8bの後方に位置する排水路8cの下流側は、排水ソケット(図示せず)等を介して下水側の排出管(図示せず)等に接続されている。
【0022】
ボウル部4の汚物受け面10は、溜水部20よりも後方側の領域に形成された後方側汚物受け面10aと、この後方側汚物受け面10aよりも前方側の領域に形成された前方側汚物受け面10bを備えている。
後方側汚物受け面10aは、後方側から前方に向って下方に凸状の曲面を形成して徐々に曲率が大きくなり、溜水部20の後方側壁面20aの上端部分付近、或いは、言い換えると、後方側汚物受け面10aの前端部分付近において、棚状のほぼ水平な面を形成している。
【0023】
すなわち、後方側汚物受け面10aは、より具体的に説明にすると、後方側汚物受け面10aの前端部分と溜水部20の後方側壁面20aの上端部分とをつなぐように形成する段部22を備えている。水洗大便器1の洗浄時に、便器本体2の導水路6からボウル部4のリム部12の各吐水孔18a,18b,18cから汚物受け面10に吐水された洗浄水が、汚物受け面10から溜水部20にかけて旋回する旋回流により浮遊系汚物を溜水部20の溜水面W0の中心に集めるようになっている。これと共に、リム部12の射水孔16から後方側汚物受け面10aに吐水された洗浄水の一部が、少なくともリム部12の射水孔16からの吐水量が最大時において、ボウル部4の後方側汚物受け面10aの段部22を通過し、溜水面W0の前後方向に対してほぼ中央の位置に上下方向に延びる中心線Cよりも後方側の領域A1を飛び越えて、溜水面W0の前後方向に対してほぼ中央の位置に上下方向に延びる中心線Cよりも前方側の所定領域A2に着水するか、或いは、溜水部20の前方側壁面20bに到達し、溜水面W0の浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込むようになっている。
【0024】
さらに、図1に示すように、後方側汚物受け面10aの段部22を形成する面を前方側に延長した領域面Fは、洗浄開始前の溜水部20の溜水面W0よりも上方に位置しており、少なくともリム部12の射水孔16からの吐水量が最大時において、後方側汚物受け面10aの段部22から流出して溜水部20内の溜水面W0の後方側の領域A1を飛び越えた洗浄水が、確実に上方且つ前方から溜水面W0の前方側の所定領域A2に着水するか、或いは、溜水部20の前方側壁面20bに到達することができるようになっている。
【0025】
また、図2に示すように、ボウル部4のリム部12の射水孔16の長手方向の長さ(横方向の長さ)L1は、後方側汚物受け面10aの段部22の横幅方向の長さL2よりも小さくなるように設定されており、リム部12の射水孔16から後方側汚物受け面10aに吐水された洗浄水のすべてが後方側汚物受け面10aの段部22を確実に通過するようになっている。
【0026】
さらに、ボウル部4のリム部12の射水孔16から吐水される洗浄水の吐水量については、リム部12の通水路14の射水孔16及び吐水孔18a,18b,18cのすべてから汚物受け面10に吐水される洗浄水の総吐水量に対して15%〜35%に設定するのが好ましく、20%〜27%に設定するのがより好ましい。
【0027】
また、射水孔16の開口断面積については、射水孔16及び吐水孔18a,18b,18cのすべての総開口断面積に対して15%〜35%に設定するのが好ましく、20%〜33%に設定するのがより好ましい。
【0028】
つぎに、図2〜図4により、本発明の一実施形態による水洗大便器の動作(作用)を説明する。
図3は、本発明の一実施形態による水洗大便器における洗浄水の流れの様子を示す断面図であり、図4は、本発明の一実施形態による水洗大便器における洗浄水の流れの様子を示す斜視図である。
【0029】
図2〜図4に示すように、まず、便器洗浄のための操作レバー(図示せず)を操作すると、導水路6の洗浄水の一部がリム部12の通水路14の射水孔16から後方側汚物受け面10aに向けて流出し、この後方側汚物受け面10aに沿って後方から前方の段部22に向う流れ(矢印f1)を形成する。このとき、射水孔16から吐水された洗浄水の流れ(矢印f1)は、射水孔16の長手方向の長さL1とほぼ等しく且つ段部22の横幅方向の長さL2よりも小さい横幅で束状の流れを形成する。
同時に、導水路6の洗浄水の残部が導水路6からリム部12の通水路14の射水孔16以外の吐水孔18a,18b,18cへ回り込み、各吐水孔18a,18b,18cから下方の汚物受け面10に向けて吐水される流れ(矢印f2)を形成し、汚物受け面10の汚物を汚物受け面10上に沿って旋回させながら溜水部20の溜水面W0に向けて流れ落ち、溜水部20の溜水の水位(溜水面)が、洗浄開始前の初期水位の溜水面W0よりも高い水位(溜水面)W1まで一時的に上昇する。このとき、溜水部20においては、溜水を水平方向に旋回させる流れ(矢印f3)となり、浮遊系汚物を溜水部20の溜水面W1のほぼ中心に集める。
【0030】
つぎに、射水孔16から流出して段部22を通過した洗浄水の流れ(矢印f1)は、少なくともリム部12の射水孔16からの吐水量が最大時において、後方側汚物受け面10aに沿って後方から前方に流れる勢いにより、溜水面W0,W1の中心線Cよりも後方側の領域A1を飛び越えて、前方側の所定領域A2に着水するか、或いは、溜水部20の前方側壁面20bに到達する。
また、溜水部20の溜水面W1では、水平方向に旋回させる流れ(矢印f3)により、浮遊系汚物が溜水部20の溜水面W1のほぼ中心に集められながら、前方側の所定領域A2に着水又は溜水部20の前方側壁面20bに到達した上方且つ前方からの洗浄水の流れ(矢印f1)により、溜水面W0の浮遊系汚物が溜水中に叩き込まれる。
【0031】
さらに、流れ(矢印f3)による旋回流により溜水部20の溜水面W0の中心に集められた浮遊系汚物が流れ(矢印f1)により上方且つ前方から溜水中に叩き込まれた後、溜水部20内の洗浄水は、そのまま溜水部20の前方側壁面20bに沿ってスムーズに排水トラップ管路8の入口8aに流れ込むような流れ(矢印f4)を形成し、溜水中に叩き込まれている浮遊系汚物を引き連れて排水トラップ管路8の入口8aから上昇路8bを上昇し、排水路8cから便器本体2の外部へ排出される。
【0032】
上述した本発明の一実施形態による水洗大便器1によれば、便器洗浄時に、ボウル部4のリム部12の各吐水孔18a,18b,18cから汚物受け面10に吐水された洗浄水の流れ(矢印f2)は、汚物受け面10の汚物を汚物受け面10上に沿って旋回させながら溜水部20の溜水面W0に向けて流れ落ち、溜水部20の溜水を旋回させる旋回流の流れ(矢印f3)となり、浮遊系汚物を溜水部20の溜水面W0,W1のほぼ中心に集める。
同時に、リム部12の射水孔16から後方側汚物受け面10aに吐水された洗浄水の流れ(矢印f1)が、ボウル部4の後方側汚物受け面10aの段部22を通過すると、少なくともリム部12の射水孔16からの吐水量が最大時において、溜水部20内の溜水面W0,W1の後方の領域A1を飛び越えて前方の所定領域A2に着水するか、或いは、溜水部20の前方側壁面20bに到達し、水平方向に旋回させる流れ(矢印f3)により溜水面W1のほぼ中心に集められた浮遊系汚物を溜水中に叩き込む流れ(矢印f1)を形成し、最終的には、溜水中に叩き込まれている浮遊系汚物を引き連れて排水トラップ管路8の入口8aから上昇路8bを上昇させて排水路8cから便器本体2の外部へ排出する流れ(矢印f4)を形成する。この結果、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器1の洗浄性能を向上させることができる。
【0033】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、後方側汚物受け面10aの段部22を形成する面を前方側に延長した領域面Fが洗浄開始前の溜水部20の溜水面W0よりも上方に位置することにより、後方側汚物受け面10aの段部22を流出した洗浄水は、少なくともリム部12の射水孔16からの吐水量が最大時において、後方側汚物受け面10aの段部22から流出して溜水部20内の溜水面W0の後方側の領域A1を飛び越え、確実に上方且つ前方から溜水面W0の前方側の所定領域A2に着水するか、或いは、溜水部20の前方側壁面20bに到達することができる。この結果、旋回流の流れ(矢印f3)により溜水部20の溜水面W0,W1のほぼ中心(中心線C)付近に集められた浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込んで効率的に排出することができ、水洗大便器1の洗浄性能を向上させることができる。
【0034】
さらに、本実施形態による水洗大便器1によれば、ボウル部4のリム部12の射水孔16の長手方向の長さ(横方向の長さ)L1が後方側汚物受け面10aの段部22の横幅方向の長さL2よりも小さくなるように設定されていることにより、リム部12の射水孔16から吐水された洗浄水のすべてが後方側汚物受け面10aの段部22を通過するため、射水孔16から吐水される洗浄水の無駄水をなくすことができる。この結果、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器1の洗浄性能を向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態による水洗大便器1によれば、ボウル部4のリム部12の射水孔16から吐水される洗浄水の吐水量について、リム部12の通水路14の射水孔16及び吐水孔18a,18b,18cのすべてから汚物受け面10に吐水される洗浄水の総吐水量に対して15%〜35%に設定し、射水孔16の開口断面積については、射水孔16及び吐水孔18a,18b,18cのすべての総開口断面積に対して15%〜35%に設定しているため、ボウル部4の汚物受け面10の全体を十分に洗浄することができると共に、溜水部20の旋回流の流れ(矢印f3)により溜水面W0,W1のほぼ中心(中心線C)付近に集められた浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込む流れを形成することができる。この結果、浮遊系汚物を効率的に排出することができ、水洗大便器1の洗浄性能を向上させることができる。
【0036】
なお、上述した本発明の一実施形態による水洗大便器1においては、例として、ボウル部内の水の落差による流水作用で汚物を押し流す、いわゆる、洗い落し式の水洗大便器の形態について説明したが、このような水洗大便器の形態に限定されず、サイホン作用を利用してボウル部内の汚物を吸い込んで排水トラップ管路から一気に外部に排出する、いわゆる、サイホン式の水洗大便器の形態等の他の水洗大便器の形態についても適用可能である。
要するに、洗い落し式の水洗大便器以外の形態であっても、リム部の射水孔から後方側の汚物受け面に吐水された洗浄水の一部が、少なくともリム部の射水孔からの吐水量が最大時において、ボウル部の後方側汚物受け面の段部を通過し、溜水面の後方側の領域を飛び越えて、溜水面の前方側の所定領域に着水するか、或いは、溜水部の前方側壁面に到達し、溜水面で旋回流によりほぼ中心付近に集められた浮遊系汚物を上方且つ前方から溜水中に叩き込むようにする流れを形成することにより、浮遊系汚物を溜水面上に残すことなく、効率的に排出することができ、水洗大便器の洗浄性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 水洗大便器
2 便器本体
4 ボウル部
6 導水路
8 排水トラップ管路(排水トラップ部)
8a 排水トラップ管路の入口
8b 排水トラップ管路の上昇路
8c 排水トラップ管路の排水路
10 汚物受け面
10a 後方側汚物受け面
10b 前方側汚物受け面
12 リム部
14 通水路
16 射水孔
18 吐水孔
20 溜水部
20a 溜水部の後方側壁面
20b 溜水部の前方側壁面
22 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水によって洗浄され、汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、この汚物受け面に洗浄水を吐水して旋回流を形成するリム部と、を備えたボウル部と、
このボウル部の下端に接続された入口から後方へ延びるように形成され、汚物を排出する排水トラップ部と、
この排水トラップ部の近傍で且つ上記ボウル部の下方に形成された溜水部と、を有し、
上記ボウル部の汚物受け面は、その後方側領域に棚状に形成される後方側汚物受け面を備え、この後方側汚物受け面は、上記リム部から上記後方側汚物受け面に吐水された洗浄水の一部が上記溜水部内の溜水面の後方の領域を飛び越えて前方の所定領域へ着水するように、上記後方側汚物受け面の前端部分と上記溜水部の後方側壁面の上端部分とをつなげる段部を備えていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
上記ボウル部のリム部は、その後方側領域に形成されて横幅方向に長い扁平形状を備えた長孔から洗浄水を吐水し、上記後方側汚物受け面の段部を通過させて上記溜水部内の溜水面の前方の所定領域へ着水させる請求項1記載の水洗大便器。
【請求項3】
上記後方側汚物受け面の段部は、上記リム部から上記後方側汚物受け面に吐水された洗浄水の一部について、上記溜水面の前後方向に対してほぼ中央の位置よりも前方側の所定領域に着水させる請求項1又は2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
上記後方側汚物受け面の段部を形成する面を前方側に延長した領域面は、洗浄開始前の上記溜水部の溜水面よりも上方に位置する請求項1乃至3の何れか1項に記載の水洗大便器。
【請求項5】
上記ボウル部のリム部の後方側領域に形成された長孔の長手方向の長さは、上記後方側汚物受け面の段部の横幅方向の長さよりも小さい請求項2記載の水洗大便器。
【請求項6】
上記ボウル部のリム部の後方側領域に形成された長孔から吐水される洗浄水の吐水量は、上記リム部の全体領域から上記ボウル部の汚物受け面へ吐水される洗浄水の総吐水量の15%〜35%に設定されている請求項2又は5に記載の水洗大便器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−117214(P2012−117214A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265271(P2010−265271)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】