説明

水洗大便器

【課題】排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫し、より節水性能を高めた水洗大便器を提供すること。
【解決手段】この水洗大便器CSdは、ボウル部20dが汚物を一時的に受け止めた後、洗浄水と共に排出する際に、洗浄水供給手段としての洗浄水供給穴30dから供給される洗浄水によって汚物が少なくとも上昇管路402dに搬送される前に、引込ポンプ505dを駆動させた後、洗浄水の供給が終了する前に、帰還ポンプ506dを駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器として、下記特許文献1に記載のものが提案されている。下記特許文献1に記載の水洗大便器は、下記特許文献の図1に示されているように、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面を有するボウル部と、ボウル部に洗浄水を供給する貯水タンクといった洗浄水供給手段と、ボウル部の下方に接続される入口部と、入口部から上方に延びるように形成される上昇管路と、上昇管路の末端から下方に延びるように形成される下降管路とを有し、非使用時には入口部から上昇管路の少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−31551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の従来の水洗大便器は、節水化に伴って、洗浄水が排水トラップ管路へ押し込まれる時間やサイホン作用に要する時間を短縮して効率的に汚物を排出することの重要性に鑑みたものとなっている。具体的には、浮遊系汚物をボウル部の溜水中に押し込んで排水トラップ側へ誘導する旋回流以外の洗浄水の流れを、水量を抑えつついかにして形成させるのかに着目している。そして、浮遊系汚物をボウル部の溜水面上に残すことなく確実に排出することができる水洗大便器を提供することを目的とし、新たな水洗大便器を提案している。
【0005】
このように、節水化の要求に対応するため、ボウル部への洗浄水の供給やボウル部における洗浄水の取り回しに対する様々な工夫が行われている。しかしながら、ボウル部の出口である下端から排水トラップ管路にかけては、封水を形成するために溜水が形成されているところ、この溜水に対する節水の側面からの取り組みは十分にはなされていない。より強い節水化の要求に対応するためには、ボウル部の洗浄面での工夫のみならず、排水トラップ管路における節水面での工夫も必要となってきている。
【0006】
そこで本発明者らは、排水トラップ管路において封水を形成するために溜められている溜水を一時的に排水トラップ管路から退避させ、汚物の洗浄時にその退避させた引込水を利用することに着目した。しかしながら、排水トラップ管路から一時的に引込水を退避させるためには、引込水を一時的に貯めておくための何らかの貯留手段が必要になる。排水トラップ管路から引込水を貯留手段に引き込むに当たっては、貯留手段の受け入れ容量を超えないような対策が必要になる。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫し節水性能を高めつつも、溜水を有効利用するために一時的に貯留する貯留手段に不具合を発生させない水洗大便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る水洗大便器は、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器であって、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面を有するボウル部と、前記ボウル部に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、前記ボウル部の下方に接続される入口部、前記入口部から上方に延びるように形成される上昇管路、および前記上昇管路の末端から下方に延びるように形成される下降管路を有し、非使用時には前記入口部から前記上昇管路の少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路と、前記溜水の一部を前記排水トラップ管路から引込水として引き込み、この引き込んだ引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路に帰還させる溜水利用機構と、を備える。
【0009】
前記溜水利用機構は、前記引込水を一時的に貯留する一時貯留タンクと、前記排水トラップ管路から前記一時貯留タンクに溜水の一部を引込水として引き込む引込手段と、前記一時貯留タンクに一時的に貯留された引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路へ帰還させる帰還手段と、を有すると共に、前記ボウル部または前記排水トラップ管路と前記一時貯留タンクとの間で、前記引込水を循環可能なように構成された循環経路を有する。
【0010】
本発明に係る水洗大便器は排水トラップ管路を備えており、排水トラップ管路は、ボウル部の下方に接続される入口部と、入口部から上方に延びるように形成される上昇管路と、上昇管路の末端から下方に延びるように形成される下降管路とを有する。そして、非使用時には入口部から上昇管路の少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成している。排水トラップ管路に形成される封水は、下水管からの臭気がトイレ室内に入ってくるのを防いだり、害虫がトイレ室内に入ってくるのを防いだりする役割を果たしている。その役割を確実に果たすため、排水トラップ管路に形成される封水の封水深は、封水を形成する溜水の蒸発などによって封水切れが起きないように設定されている。
【0011】
一方、水洗大便器の使用時に着目すると、ボウル部が一時的に受け止めた汚物は、ボウル部下方に落ちて行き、排水トラップ管路入口に一時的に貯留される。この状態で、洗浄水供給手段によって洗浄水が供給され、汚物は排水トラップ管路内を通って下水管側に流される。従って、排水トラップ管路に封水を形成する溜水の一部は、非使用時の封水切れ防止のために用いられるものである。一方、使用時にボウル部が受け止める汚物は、排水トラップ管路の入口付近に一時的に貯留され、その後洗浄水によって流される。この汚物の排出においては、汚物周辺から上流側(ボウル部側)にある溜水や洗浄水供給手段によって供給される洗浄水が寄与するので、排水トラップ管路の汚物周辺から下流側にある溜水は汚物の排出に必ずしも寄与していない。上述のような使用時および非使用時の水洗大便器の排水トラップ管路における特性に着目すれば、封水を形成するための溜水は、使用時も非使用時も同じように溜めておく必要は必ずしも無く、使用時と非使用時とで溜め方を工夫する余地があるものである。
【0012】
そこで本発明では、溜水の一部を排水トラップ管路から引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部または排水トラップ管路に帰還させる溜水利用機構を備えている。この溜水利用機構によって、ボウル部が汚物を一時的に受け止めてから、洗浄水と共に排出する際に、引込手段を駆動させた後、帰還手段を駆動させるものとしている。従って、非使用時には封水を確実に形成するようにある程度の余裕をもって溜水を保持するものの、汚物を流す際には引込手段を先に駆動して汚物の影響を受けていない溜水を引き込んで引込水として一時貯留タンクに貯める。帰還手段は、この引込水をボウル部または排水トラップ管路に帰還させるので、汚物の搬送に引込水を寄与させることができる。
【0013】
さらに本発明では、ボウル部または排水トラップ管路と一時貯留タンクとの間で、引込水を循環可能なように構成された循環経路を有している。この循環経路を有することで、引込手段が排水トラップ管路の溜水から引き込んだ引き込み水は、一時貯留タンクに送られ、帰還手段によってボウル部または排水トラップ管路に帰還させられる。従って、引込手段によって引込水の供給が過度に行われたとしても、一時貯留タンクに引込水が過度に滞留することなく帰還手段によって帰還させることができる。そのため、一時貯留タンクに必要以上の負担をかけることなく、溜水利用機構の性能を発揮させることができる。
【0014】
また本発明に係る水洗大便器では、前記引込手段は前記溜水から前記引込水を引き込む引込ポンプによって構成される一方で、前記帰還手段は前記引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路へ戻す帰還ポンプによって構成され、前記引込ポンプと前記帰還ポンプとは別個に設けられていることも好ましい。
【0015】
この好ましい態様では、引込手段を構成する引込ポンプと、帰還手段を構成する帰還ポンプとを独立して設けているので、溜水から引込水を引き込むのに最適な引込ポンプの動作と、一時貯留タンクから引込水を帰還させるのに最適な帰還ポンプの動作とを組み合わせることができる。従って、溜水の一部を排水トラップ管路から引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部または排水トラップ管路に帰還させる溜水利用機構をより有効に機能させることができる。
【0016】
また本発明に係る水洗大便器では、前記循環経路は、前記溜水から前記引込水を前記一時貯留タンクに導く引込管路と、前記一時貯留タンクから前記引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路に導く帰還管路と、前記帰還ポンプの駆動後に、前記ボウル部または前記排水トラップ管路を通る水が、前記帰還管路を逆流して前記一時貯留タンクに入り込まないように作用する逆流防止手段と、を有することも好ましい。
【0017】
この好ましい態様では、一時貯留タンクから引込水をボウル部または排水トラップ管路に導く帰還管路を設けているので、一時貯留タンク内と排水トラップ管路とが連通される可能性がある。一時貯留タンク内と排水トラップ管路とが連通されると、排水トラップ管路側の水位が一時貯留タンク内の水位よりも高くなった場合、排水トラップ管路側の水が一時貯留タンク内に逆流するおそれがある。そこで、ボウル部または排水トラップ管路を通る水が帰還流路を逆流しないように逆流防止手段を設けることで、汚水の一時貯留タンクへの逆流を確実に防止することができる。
【0018】
また本発明に係る水洗大便器では、前記逆流防止手段は、前記帰還管路が、その最頂部から前記一時貯留タンクに向けて下りながら繋がる第一帰還部分と、前記最頂部から前記ボウル部または前記排水トラップ管路に向けて下りながら繋がる第二帰還部分とによって構成されるとともに、前記最頂部における流路断面下端が前記上昇管路の最頂部における流路断面下端よりも高い位置に形成されることで構成されており、さらに、前記帰還ポンプの駆動後に、前記最頂部を挟んで前記第一帰還部分と前記第二帰還部分とによって構成される屈曲部に空気を導入することで、前記一時貯留タンクへの逆流を防止することも好ましい。
【0019】
本発明の水洗大便器において最も高い位置まで水位が上昇するのは、上昇管路の最頂部である。そこで、この好ましい態様では、帰還管路の最頂部の流路断面下端を、上昇管路の最長部の流路断面下端よりも高い位置に形成することで、帰還管路の最頂部に形成された屈曲部において空気による第一帰還部分側と第二基幹部分側との縁切りを行うことができる。従って、確実に汚水の一時貯留タンクへの逆流を防止することができる。
【0020】
また本発明に係る水洗大便器では、前記逆流防止手段は、前記一時貯留タンクから前記帰還管路を通る水が排出された後も前記帰還ポンプの駆動を継続し、この帰還ポンプの継続駆動によって前記屈曲部に空気を導入することも好ましい。
【0021】
この好ましい態様では、一時貯留タンクから帰還管路を通る水が排出された後も帰還ポンプの駆動を継続することで屈曲部に空気を導入するので、屈曲部に空気を導入する手段を別途設けることなく、逆流防止手段を構成することができる。従って、水洗大便器を簡易な構成で小型化することができる。
【0022】
また本発明に係る水洗大便器では、前記逆流防止手段は、前記一時貯留タンクから前記引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路に帰還させる際に、前記一時貯留タンクに貯められている引込水を押し出して流すことで、前記第二帰還部分の水、前記屈曲部の空気、前記第一帰還部分の引込水の順に帰還させることで、前記一時貯留タンクへの逆流を防止することも好ましい。
【0023】
この好ましい態様では、第二帰還部分の水と第一帰還部分の引込水とに挟んで空気を押し流すことで、圧縮性流体である空気が圧縮された状態で排水トラップ管路に帰還する。そのため、加圧された空気によって汚物を下流側に押し流すことができ、汚物の排出効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、排水トラップ管路における溜水の取り扱いを工夫し節水性能を高めつつも、溜水を有効利用するために一時的に貯留する貯留手段に不具合を発生させない水洗大便器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る水洗大便器を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る水洗大便器を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示す引込ポンプ近傍を拡大した図である。
【図4】排水トラップ管路と引込流路とが繋がる連通穴の形成位置を説明するための図である。
【図5】排水トラップ管路に対する引込流路の接続態様を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る水洗大便器の制御的な構成を示すブロック構成図である。
【図7】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図8】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図9】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図10】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図11】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図12】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図13】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図14】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図15】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図16】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するための模式的な断面図である。
【図17】図1および図2に示す水洗大便器の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0027】
本発明の実施形態に係る水洗大便器について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る水洗大便器CSdを示す概略斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る水洗大便器CSdを模式的に示す断面図である。図2に示す水洗大便器CSdは、主に便器本体10dを描いており、便座や便蓋や洗浄水の給水バルブ、リモコンやその操作パネルといったものは記載を省略している。
【0028】
図1に示すように、水洗大便器CSdは、便器本体10dと、衛生洗浄装置70dとを備えている。衛生洗浄装置70dは、洗浄ノズル701dから使用者の局部を洗浄するための洗浄水を吐出することができるように構成されている。
【0029】
図2に示すように、便器本体10dは、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器を構成するものであって、ボウル部20dと、排水トラップ管路40dと、一時貯留タンク50dとを備えている。ボウル部20は、便器本体10の一部であって、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面201dと、洗浄水を汚物受け面201dに流すためのリム部202dと、汚物を排水トラップ管路40dに流すためのボウル出口部203dとを有している。リム部202dは、汚物受け面201dの上方周縁部に形成されている。リム部202dには、洗浄水供給穴30dが臨んでいる。ボウル出口部203dは、汚物受け面201dの下方に形成されている。
【0030】
排水トラップ管路40dは、汚物及び洗浄水をボウル部20dから受け入れて、下水管方向に流す部分である。排水トラップ管路40dは、入口部401dと、上昇管路402dと、下降管路403dとを有している。入口部401dは、ボウル部20dの汚物受け面201d下方に形成されているボウル出口部203dに接続される部分である。入口部401dは、ボウル出口部203dから汚物及び洗浄水を受け入れて、上昇管路402dへと流し込む。
【0031】
上昇管路402dは、入口部401dよりも下流側に形成されている部分であって、入口部401dから上方に延びるように形成されている部分である。従って、ボウル出口部203dと、入口部401dと、上昇管路402dとは繋がっていて、全体としてU字形状の管路を形成している。
【0032】
下降管路403dは、上昇管路402dよりも下流側に形成されている部分であって、上昇管路402dの下流側端部から下方に延びるように形成されている部分である。従って、ボウル出口部203dと、入口部401dと、上昇管路402dとによって形成されているU字形状の管路に溜められる溜水WSは、上昇管路402dと下降管路403dとの接続部分まで溜めることができる。図2に示すように、水洗大便器CSdの非使用時には、入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成している。
【0033】
一時貯留タンク50dは、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから引きこんで、引込水として一時的に貯留するためのタンクである。排水トラップ管路40dと一時貯留タンク50dとは、引込管路503d(第一引込部分)、屈曲部508d(最頂部)、引込管路507d(第二引込部分)によって繋がれている。
【0034】
引込管路503dは、排水トラップ管路40dに繋がっている部分である。引込管路503dは、排水トラップ管路40dに繋がっている部分から上方に傾斜しながら延びている。引込管路503dには屈曲部508dが繋がり、屈曲部508dは引込管路507dに繋がっている。引込管路507dは、屈曲部508dに繋がる部分から下方に傾斜しながら延び、一時貯留タンク50dの上方端に繋がっている。一時貯留タンク50dの上方端には、引込管路507dと繋がっている部分からは離隔させて、通気口50daが形成されている。
【0035】
引込管路503dには、引込ポンプ505dが設けられている。引込ポンプ505dは、ターボ型ポンプである。引込ポンプ505dの拡大断面図を図3に示す。図3に示すように、引込ポンプ505dは、モーター505daと、羽根車505dbとを有している。モーター505daが回転することで羽根車505dbが回転し、羽根車505db周りにある水を吸い上げてモーター505da側に送り込む。従って、羽根車505d周りに水が無くなれば、引込ポンプ505dは水を吸い上げることができないように構成されている。
【0036】
引込管路503dは、排水トラップ管路40dの上昇管路402dに設けられた吸引口404dに繋がっている。吸引口404dの形成位置について、図4を参照しながら説明する。図4に示すように、排水トラップ管路40dは、入口部401dから上昇管路402dにかけて屈曲して形成されている。本実施形態の場合、排水トラップ管路40dは、面PLaに沿って屈曲している。吸引口404dは、上昇管路402の中心軸を通り、面PLaに直交する面PLbにその中心が貫かれるような位置に形成されている。
【0037】
また、引込管路503dは、排水トラップ管路40dの上流側に向けて、排水トラップ管路40dから分岐した直後の部分が向かうように繋がれている。この状態を子19に模式的に示す。図5に示すように、引込管路503dが、上昇管路402dの上流側に向かって繋がれていることで、上昇管路402d内を洗浄水が流れて汚物が搬送されると、汚物は引込管路503d側に入らず、むしろ引込管路503dから汚物を引き出すように上昇管路402dの下流側に向けて流れる。
【0038】
図2に戻って説明を続ける。一時貯留タンク50dに貯められた引込水は、排水トラップ管路40dに戻すことができるように構成されている。一時貯留タンク50dと排水トラップ管路40dとは、帰還管路509d、帰還管路510d(第一帰還部分)、帰還管路511d(第二帰還部分)、帰還管路504dによって繋がれている。
【0039】
帰還管路509dは、一時貯留タンク50dに繋がっている部分である。帰還管路509dは、一時貯留タンク50dの下方端から略水平方向に延びている。帰還管路509dには帰還管路510dが繋がっている。帰還管路510dは、帰還管路509dと繋がっている部分から略垂直方向に立ち上がるように延びている。帰還管路510dには帰還管路511dが繋がっている。帰還管路511dは、帰還管路510dと繋がっている部分から斜め下方に下がりながら延びている。帰還管路511dには帰還管路504dが繋がっている。帰還管路504dは、帰還管路511dと繋がっている部分から屈曲し、排水トラップ管路40dの、入口部401dに繋がっている。
【0040】
帰還管路509dと帰還管路510dとの間には、帰還ポンプ506dが設けられている。帰還ポンプ506dを駆動することで、一時貯留タンク50d内の引込水が排水トラップ管路40dに戻される。
【0041】
続いて、水洗大便器CSdの制御的な構成について図6を参照しながら説明する。図6は、水洗大便器CSdの制御的な構成を示すブロック図である。図6に示すように、水洗大便器CSdは、制御装置80(制御手段)と、一時貯留タンク内水位検知手段801と、トラップ内水位検知センサー802と、着座検知センサー803と、人体接近検知センサー804と、トラップ内汚物検知センサー805と、温度検知センサー806と、リモートコントローラー807と、引込ポンプモーター808と、帰還ポンプモーター809と、便座・便蓋開閉手段810と、計測手段811と、ランプ・スピーカー812と、給水弁813と、衛生洗浄装置70dとを備えている。
【0042】
一時貯留タンク内水位検知手段801、トラップ内水位検知センサー802、着座検知センサー803、人体接近検知センサー804、トラップ内汚物検知センサー805、温度検知センサー806、及びリモートコントローラー807は、所定の計測信号や指示信号を制御装置80に出力する。
【0043】
制御装置80は、引込ポンプモーター808、帰還ポンプモーター809、便座・便蓋開閉手段810、及び計測手段811との間で、所定の計測信号や制御指示信号の授受を行う。制御装置80は、ランプ・スピーカー812、給水弁813、及び衛生洗浄装置70dに所定の制御信号を出力する。
【0044】
続いて、図7、図8、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16を参照しながら、水洗大便器CSdの洗浄動作を説明する。待機段階では、図7に示すように、排水トラップ管路40dの上昇管路402d上端近傍まで溜水WSが溜められている。尚、本実施形態では、上昇管路402dの最も上の部分である最頂部における流路断面下端位置αよりも、帰還管路510dと帰還管路511dとが繋がる部分である帰還管路の最頂部における流路断面下端位置βが高い位置となるように構成されている。また、帰還管路510dと帰還管路511dとが繋がる部分である帰還管路の最頂部における流路断面下端位置βよりも、引込管路の最頂部である屈曲部508dにおける流路断面下端位置γが高い位置となるように構成されている。図7に示す待機状態では、帰還管路511d内にも、溜水WSの一部が流れこみ、排水トラップ管路40d内の溜水と同じ高さまで入り込んでいる。
【0045】
続いて、図8に示すように、引込ポンプ505dを駆動し、溜水WSから水を引き込んで、引込水として一時貯留タンク50dに供給する。一時貯留タンク50d内に入った引込水は、帰還管路509dに流れこむ。帰還管路509dに対して帰還管路510dは立ち上がっているので、帰還管路510dに入っている空気によって、引込水と溜水とが縁切りされている。
【0046】
続いて、図9に示すように、溜水WSの水位が下がり、やがて引込ポンプ505dを駆動しても水を引き込むことができなくなる。一時貯留タンク50dには、通気口50daが形成されているので、引込ポンプ505dの駆動を停止すると、引込管路503d内に引きこまれた水が排水トラップ管路40d内に戻る(図10参照)。
【0047】
図10に示す状態が、汚物を受け入れる準備が完了した段階となる。続いて、図11に示すように、溜水WS内に汚物MBが入り込む。続いて、図12に示すように、洗浄水供給穴30dから洗浄水がボウル部20dに供給され、汚物MBが上昇管路402d側に流される。
【0048】
続いて、図13に示すように、帰還ポンプ506dを駆動し、一時貯留タンク50d内の引込水を排水トラップ管路40d側に送り込む。このように帰還ポンプ506dを駆動すると、最初に溜水WSと繋がって帰還管路511d内に入り込んでいた水が排水トラップ管路40dに戻される。
【0049】
図13に示す状態から更に帰還ポンプ506dの駆動を継続すると、図14に示すように、溜水と引込水とを縁切っていた空気が排水トラップ管路40d内に吹き出される。そして最後に引込水が順次排水トラップ管路40dに戻され(図15参照)、最後には空気が噴出されるまで引込水が完全に排水トラップ管路40dに戻される(図16参照)。
【0050】
尚、本実施形態では、衛生洗浄装置70dを備えているので、溜水を補充することができる。このように溜水を補充すれば、常に一定の溜水があるものとして、引込ポンプ505dや帰還ポンプ506dの駆動制御が容易なものとなる。
【0051】
衛生洗浄装置70dを用いた溜水の補充制御について、図17を参照しながら説明する。図17は、溜水補充制御を示すフローチャートである。ステップS31では、タイマーである計測手段811による計時がスタートする。ステップS31に続くステップS32では、タイマー規定値を待機時間に記憶する。ステップS32に続くステップS33では、タイマーである計測手段811がリセットされる。
【0052】
ステップS33に続くステップS34では、溜水補充モードになっているか判断する。溜水補充モードになっていればステップS36の処理に進み、溜水補充モードになっていなければステップS35の処理に進む。ステップS35では、計測手段811による計時を停止する。
【0053】
ステップS36では、便器洗浄が行われたか判断する。便器洗浄が行われていればステップS33の処理に戻り、便器洗浄が行われていなければステップS37の処理に進む。ステップS37では、計測手段811によるタイマー計測値がタイマー規定値を超えているか判断する。タイマー計測値がタイマー規定値を超えていなければステップS36の処理に戻る。タイマー計測値がタイマー規定値を超えていればS38の処理に進む。
【0054】
ステップS38では、タイマーである計測手段811がリセットされる。ステップS38に続くステップS39では、タイマー規定値を吐水時間に記憶する。ステップS39に続くステップS40では、溜水補充手段である衛生洗浄装置70dを運転し、洗浄ノズル701から洗浄水を溜水WSに補給する。
【0055】
ステップS40に続くステップS41では、計測手段811によるタイマー計測値がタイマー規定値を超えているか判断する。タイマー計測値がタイマー規定値を超えていなければステップS41の処理を繰り返す。タイマー計測値がタイマー規定値を超えていればS42の処理に進む。ステップS42では、溜水補充手段である衛生洗浄装置70dの運転を停止する。
【0056】
上述したように本実施形態に係る水洗大便器CSdは、汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器であって、汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面201dを有するボウル部20dと、ボウル部20dに洗浄水を供給する洗浄水供給手段(給水弁813、洗浄水供給穴30d)と、ボウル部20dの下方に接続される入口部401d、入口部401dから上方に延びるように形成される上昇管路402d、および上昇管路402dの末端から下方に延びるように形成される下降管路403dを有し、非使用時には入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水WSの少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路40dと、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる溜水利用機構と、を備える。
【0057】
溜水利用機構は、引込水を一時的に貯留する一時貯留タンク50dと、排水トラップ管路40dから一時貯留タンク50dに溜水WSの一部を引込水として引き込む引込ポンプ505d(引込手段)と、一時貯留タンク50dに一時的に貯留された引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dへ帰還させる帰還ポンプ506d(帰還手段)と、を有すると共に、引込ポンプ505dが駆動しても、溜水WSが形成した封水の高さを破封する高さよりも低下させない破封防止手段を有する。
【0058】
本実施形態に係る水洗大便器CSdは排水トラップ管路40dを備えており、排水トラップ管路40dは、ボウル部20dの下方に接続される入口部401dと、入口部401dから上方に延びるように形成される上昇管路402dと、上昇管路402dの末端から下方に延びるように形成される下降管路403dとを有する。そして、非使用時には入口部401dから上昇管路402dの少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水WSとなし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成している。排水トラップ管路40dに形成される封水は、下水管からの臭気がトイレ室内に入ってくるのを防いだり、害虫がトイレ室内に入ってくるのを防いだりする役割を果たしている。その役割を確実に果たすため、排水トラップ管路40dに形成される封水の封水深は、封水を形成する溜水の蒸発などによって封水切れが起きないように設定されている。
【0059】
一方、水洗大便器CSdの使用時に着目すると、ボウル部20dが一時的に受け止めた汚物MBは、ボウル部20dの下方に落ちて行き、排水トラップ管路40d入口に一時的に貯留される。この状態で、洗浄水供給手段によって洗浄水が供給され、汚物MBは排水トラップ管路40d内を通って下水管側に流される。従って、排水トラップ管路40dに封水を形成する溜水WSの一部は、非使用時の封水切れ防止のために用いられるものである。
【0060】
一方、使用時にボウル部20dが受け止める汚物MBは、排水トラップ管路40dの入口付近に一時的に貯留され、その後洗浄水によって流される。この汚物MBの排出においては、汚物周辺から上流側(ボウル部20d側)にある溜水や洗浄水供給手段によって供給される洗浄水が寄与するので、排水トラップ管路40dの汚物周辺から下流側にある溜水は汚物の排出に必ずしも寄与していない。上述のような使用時および非使用時の水洗大便器CSdの排水トラップ管路40dにおける特性に着目すれば、封水を形成するための溜水は、使用時も非使用時も同じように溜めておく必要は必ずしも無く、使用時と非使用時とで溜め方を工夫する余地があるものである。
【0061】
そこで本実施形態では、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる溜水利用機構を備えている。この溜水利用機構によって、ボウル部20dが汚物を一時的に受け止めてから、洗浄水と共に排出する際に、引込ポンプ505dを駆動させた後、帰還ポンプ506dを駆動させるものとしている。従って、非使用時には封水を確実に形成するようにある程度の余裕をもって溜水WSを保持するものの、汚物を流す際には引込ポンプ505dを先に駆動して汚物の影響を受けていない溜水を引き込んで引込水として一時貯留タンク50dに貯める。帰還ポンプ506dは、この引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させるので、汚物の搬送に引込水を寄与させることができる。
【0062】
さらに本実施形態では、引込ポンプ505dが駆動しても、溜水が形成した封水の高さを破封する高さよりも低下させない破封防止手段を備えている。上述したように引込ポンプ505dは、溜水の一部を引き込んで一時貯留タンク50dに導入するものであるが、溜水の量は水洗大便器CSdの種類によっても様々である。より多くの溜水を利用しようとすれば、それぞれの水洗大便器に応じて溜水利用機構を調整する必要がある。特に引込ポンプ505dが溜水を引き込む場合には、例え短時間でも封水切れを起こすことは避けるべきものである。そこで、破封防止手段を設けることで、溜水が形成した封水の高さを破封する高さよりも低下させないようにしている。このように、引込ポンプ505dが引き込む引込水の量にかかわらず、封水を確保するための破封防止手段を備えることで、水洗大便器の機種ごとによる溜水の水量差や、引込ポンプ505dの過度の引込水の引き込みがあったとしても、封水を確実に確保することができる。従って、排水トラップ管路40dにおける溜水の取り扱いを工夫し節水性能を高めつつ、封水切れも起こさない水洗大便器を提供することができる。
【0063】
また、破封防止手段は、引込ポンプ505dが溜水WSから引込水を引き込む際に、溜水が形成した封水の高さが破封を回避する高さの下限値である下限値高さに到達すると、引込ポンプが溜水WSから引込水を引き込めないように規制するように構成されている。
【0064】
このように、破封を回避できる高さの下限まで溜水を引き込むと、引込ポンプ505dによる引込水の溜水からの引き込みを規制するので、確実に封水切れを回避することができる。
【0065】
また、引込ポンプ505dは、ターボ型ポンプであって、溜水WSから引込水を引き込むように構成されており、破封防止手段は、封水の高さが下限値高さに到達すると、ターボ型ポンプと溜水との間にエアギャップを形成し、ターボ型ポンプに空気を吸い込ませることで引込ポンプ505dが溜水WSから引込水を引き込めないように規制している。
【0066】
このように、引込ポンプ505dにターボ型ポンプを用いることで、ターボ型ポンプが空気を引き込むと水は引き込めなくなることを利用して封水切れが発生することを回避するものである。溜水によって形成される封水の高さが下限値高さに到達するとターボ型ポンプが空気を引き込むように配置することで、ターボ型ポンプはそれ以上溜水を引き込むことができなくなり、破封を確実に回避することができる。
【0067】
また、一時貯留タンク50dは、貯留可能な引込水の水量が、引込ポンプ505dがこの水量の引込水を溜水WSから引き込んだとしても、封水の高さが下限値高さを下回らないように構成されることも好ましい。
【0068】
この好ましい態様では、一時貯留タンク50dに貯留可能な水量を制限することで、その水量の引込水を溜水WSから引きこんでも破封しないように構成しているので、溜水WSからの過度の引き込みを確実に防止でき、破封を確実に回避することができる。
【0069】
また、溜水利用機構は、排水トラップ管路40dと一時貯留タンク50dとを繋ぐ引込管路503d,507dを有し、引込管路503d,507dは、一時貯留タンク50d内に貯留される引込水と、引込管路503dに残留する引込水とを繋がないような縁切構造を有しており(図9参照)、引込ポンプ505dによる溜水WSからの引込水の引き込みが停止すると、引込管路503dに残留する引込水が排水トラップ管路に戻るように構成されている。
【0070】
このように、一時貯留タンク50d内に貯留される引込水と、排水トラップ管路40dおよび引込管路503dに残留する引込水とを分離する縁切構造を有し、溜水WSからの引き込みが停止すると引込管路503dに残留する引込水を排水トラップ管路40dに戻すので、より確実に封水切れを防止できる。
【0071】
また、引込ポンプ505dが、引込管路503d,507dから一時貯留タンク50dに引込水の引き込みを継続し続けた場合に、帰還ポンプ506dは、封水の高さが下限値高さを下回らないように、引込ポンプ505dが一時貯留タンク50dに引き込む引込水の瞬間流量と同等の瞬間流量の引込水を帰還させることも好ましい。
【0072】
このように構成すれば、引込ポンプ505dが溜水WSからの引き込みを継続し続けた場合であっても、封水の高さが下限値高さを下回らないように、引込ポンプ505dが引き込む引込水の瞬間流量と同等の瞬間流量の引込水を帰還させるので、より確実に封水切れを防止できる。
【0073】
また本実施形態では、ボウル部20dまたは排水トラップ管路40dと一時貯留タンク50dとの間で、引込水を循環可能なように構成された循環経路(引込管路503d、屈曲部508d、引込管路507d、帰還管路504d、帰還管路509d、帰還管路510d、帰還管路511d)を有する。
【0074】
この循環経路を有することで、引込ポンプ505dが排水トラップ管路40dの溜水WSから引き込んだ引き込み水は、一時貯留タンク50dに送られ、帰還ポンプ506dによってボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させられる。従って、引込ポンプ505dによって引込水の供給が過度に行われたとしても、一時貯留タンク50dに引込水が過度に滞留することなく帰還ポンプ506dによって帰還させることができる。そのため、一時貯留タンク50dに必要以上の負担をかけることなく、溜水利用機構の性能を発揮させることができる。
【0075】
また、引込手段を構成する引込ポンプ505dと、帰還手段を構成する帰還ポンプ506dとを独立して設けているので、溜水WSから引込水を引き込むのに最適な引込ポンプ505dの動作と、一時貯留タンク50dから引込水を帰還させるのに最適な帰還ポンプ506dの動作とを組み合わせることができる。従って、溜水WSの一部を排水トラップ管路40dから引込水として引き込み、この引き込んだ引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる溜水利用機構をより有効に機能させることができる。
【0076】
また、循環経路には、帰還ポンプ506dの駆動後に、ボウル部20dまたは排水トラップ管路40dを通る水が、帰還管路504d,509d,510d,511dを逆流して一時貯留タンク50dに入り込まないように作用する逆流防止手段を有する。
【0077】
一時貯留タンク50dから引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに導く帰還管路504d,509d,510d,511dを設けているので、一時貯留タンク50d内と排水トラップ管路40dとが連通される可能性がある。一時貯留タンク50d内と排水トラップ管路40dとが連通されると、排水トラップ管路40d側の水位が一時貯留タンク50d内の水位よりも高くなった場合、排水トラップ管路40d側の水が一時貯留タンク50d内に逆流するおそれがある。そこで、ボウル部20dまたは排水トラップ管路40dを通る水が帰還流路504d,509d,510d,511dを逆流しないように逆流防止手段を設けることで、汚水の一時貯留タンク50dへの逆流を確実に防止している。
【0078】
逆流防止手段は、帰還管路が、その最頂部から一時貯留タンク50dに向けて下りながら繋がる第一帰還部分である帰還管路510dと、最頂部からボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに向けて下りながら繋がる第二帰還部分である帰還管路511dとによって構成されるとともに、最頂部における流路断面下端βが上昇管路402dの最頂部における流路断面下端αよりも高い位置に形成されることで構成されており、さらに、帰還ポンプ506dの駆動後に、最頂部を挟んで帰還管路510d(第一帰還部分)と帰還管路511d(第二帰還部分)とによって構成される屈曲部に空気を導入することで、一時貯留タンク50dへの逆流を防止している(図12参照)。
【0079】
本実施形態において最も高い位置まで水位が上昇するのは、上昇管路402dの最頂部である。そこで、帰還管路の最頂部の流路断面下端βを、上昇管路402dの最頂部の流路断面下端αよりも高い位置に形成することで、帰還管路の最頂部に形成された屈曲部において空気による帰還管路510d(第一帰還部分)側と帰還管路511d(第二帰還部分)側との縁切りを行うことができる。従って、確実に汚水の一時貯留タンク50dへの逆流を防止することができる。
【0080】
また本実施形態では、逆流防止手段の効果を奏するように、一時貯留タンク50dから帰還管路を通る水が排出された後も帰還ポンプ506dの駆動を継続し、この帰還ポンプ506dの継続駆動によって屈曲部に空気を導入する(図15、図16参照)。
【0081】
このように、一時貯留タンク50dから帰還管路を通る水が排出された後も帰還ポンプ506dの駆動を継続することで屈曲部に空気を導入するので、屈曲部に空気を導入する手段を別途設けることなく、逆流防止手段を構成することができる。従って、水洗大便器CSdを簡易な構成で小型化することができる。
【0082】
また、逆流防止手段の効果を奏するように、一時貯留タンク50dから引込水をボウル部20dまたは排水トラップ管路40dに帰還させる際に、一時貯留タンク50dに貯められている引込水を押し出して流すことで、帰還管路511d(第二帰還部分)の水、屈曲部の空気、帰還管路510d(第一帰還部分)の引込水の順に帰還させることで、一時貯留タンク50dへの逆流を防止している。
【0083】
このように、帰還管路511d(第二帰還部分)の水と帰還管路510d(第一帰還部分)の引込水とに挟んで空気を押し流すことで、圧縮性流体である空気が圧縮された状態で排水トラップ管路40dに帰還する。そのため、加圧された空気によって汚物を下流側に押し流すことができ、汚物の排出効果を高めることができる。
【0084】
また本実施形態では、引込ポンプ505dは、上昇管路402dから溜水WSの一部を引込水として引き込むものであって、上昇管路402dを流れる汚物の吸い込みを抑制しながら引込水を引き込むように構成されている。
【0085】
本実施形態では、溜水WSの一部を引込水として引き込むので、溜水中の汚物を水と一緒に引きこんでしまうと、引込管路503dが狭まり閉塞されたり、一時貯留タンク50d内が汚れるおそれがある。そこで、上昇管路402dを流れる汚物を吸い込まないように、引込手段を構成することで、引込管路503dの閉塞を予防することができ、一時貯留タンク50d内に汚物が入り込むことも抑制することができる。
【0086】
本実施形態ではこの抑制のため、溜水が排水トラップ管路40dにおいて封水を形成可能な高さよりも上部において、上昇管路402dから引込水を引き込んでいる。
【0087】
汚物がボウル部20d側から排水トラップ管路40dを進行し、上昇管路402dまで侵入することも想定される。そこで、上昇管路402dにおける封水形成可能な高さよりも高い位置において、溜水から引込水を引き込むように構成することで、汚物の引き込みを確実に抑制することができる。
【0088】
また、引込管路503dは、排水トラップ管路40dが屈曲しながら沿う面PLaを貫くように側方から排水トラップ管路40d内に繋がり、排水トラップ管路40dと一時貯留タンク50dとを連通し、この引込管路503dを通って引込水が排水トラップ管路40dから一時貯留タンク50dに引き込まれる。
【0089】
本実施形態において、排水トラップ管路40dは封水を形成するために屈曲しながら上流側から下流側へと形成されている。この屈曲しながら沿う面PLaと排水トラップ管路40dとが交差する部分は、排水トラップ管路40dを流れる水が外部に向かう傾向が強くなる。そこで、引込管路503dを、排水トラップ管路40dが屈曲しながら沿う面PLaを貫くように側方から排水トラップ管路40d内に繋がるように設けることで、溜水から引込水を引き込む際に汚物を引き込みにくいように構成している(図4参照)。
【0090】
また、排水トラップ管路40dの上流側に向けて、排水トラップ管路40dから分岐した直後の引込管路503dが向かうように、引込管路503dが排水トラップ管路40dに繋がれている(図5参照)。
【0091】
排水トラップ管路40dを流れる汚物は、排水トラップ管路40dのボウル部20d側である上流側から下流側に向けて流れる。そこで、引込管路503dを排水トラップ管路40dに対して上流側に向くように繋げることで、引込管路503dが引込水を引き込む方向を汚物が流れる方向とは逆に向かわせることができ、汚物の引き込みをより確実に抑制することができる。
【0092】
また本実施形態では、ボウル部20dが汚物を受け止めた後、洗浄水供給手段がボウル部20dに供給する洗浄水が、排水トラップ管路40dを排水されて流れる際に一時貯留タンク50dに引き込まれることを抑制する異常侵入抑制手段を設けている。
【0093】
本実施形態において引込ポンプ505dが引き込んで利用しようとする水は溜水WSの一部であるので、汚物を流す洗浄水も引きこんでしまうと、それは本来想定していない異常侵入となる。このような洗浄水の異常侵入を看過すれば、汚物の侵入や節水性能の低下が懸念される。そこで、異常侵入抑制手段を設けることで、溜水利用機構内に通常の洗浄水が侵入してしまうことを抑制している。
【0094】
具体的には、排水トラップ管路40dから一時貯留タンク50dに至る引込管路503dの流路抵抗を、排水トラップ管路40dの流路抵抗よりも高めることで構成している。このように、引込管路503dの流路抵抗を、排水トラップ管路40dの流路抵抗よりも高めるという簡単な構成で、引込管路503dに通常の洗浄水が異常侵入することを抑制することができる。
【0095】
また、引込管路503dの最頂部における流路断面下端γが、上昇管路402dの最頂部における流路断面下端αよりも高い位置に形成されている。このように構成することで、例え引込管路503dに通常の洗浄水が引き込まれたとしても、一時貯留タンク50dにその洗浄水が流れこむことを確実に抑制できる。
【0096】
また、引込管路は、最頂部を挟んで引込管路503d(第一引込部分)と引込管路507d(第二引込部分)とによって屈曲部508dが形成されている。このように、最頂部に屈曲部508dを形成することで、流路抵抗をより高めることができ、一時貯水タンク50dへの洗浄水の流入を確実に抑制できる。
【0097】
また、その最頂部は、ボウル部20dのリム部202dに形成された洗浄水供給穴30dと略同一高さとなるように設けられ、引込管路503d(第一引込部分)は、最頂部から排水トラップ管路40dに向けて下りながら繋がる部分として形成される一方で、引込管路507d(第二引込部分)は、最頂部から一時貯留タンク50dに向けて下りながら繋がる部分として形成されている。
【0098】
このように、引込管路503d(第一引込部分)は排水トラップ管路に向けて下りながら繋がる部分として形成される一方で、引込管路507d(第二引込部分)は一時貯留タンク50dに向けて下りながら繋がる部分として形成されるので、屈曲部508dの角度を急角度とすることで流路抵抗を高めることができる。さらに、最頂部をリム部202dと同等の高さとすることで、一時貯留タンク50dの位置を下げることが出来るため、配置自由度を高めることができる。
【0099】
また本実施形態では、引込管路503dの途上に引込ポンプ505dを設けることで、引込管路503dの流路抵抗をより高めることができ、洗浄水の引き込みをより確実に抑制することができる。
【0100】
また、引込ポンプ505dの駆動を開始した後、所定時間経過後にその駆動を停止するように構成している。このように、引込ポンプ505dの駆動を所定時間に制限することで、一時貯留タンク50dに引き込む水の量を確実に所定量に収めることができる。従って、排水トラップ管路40d内の溜水を必要以上に引き込んで、溜水によって形成されている封水が破れてしまうことを確実に防止することができる。
【0101】
また、引込ポンプ505dの駆動による封水の高さが破封する高さの下限値を下回らないように、溜水とは別に水を供給する封水追加手段として衛生洗浄装置70dを設けている。
【0102】
このように、溜水とは別に封水追加手段としての衛生洗浄装置70dによって水を供給するので、溜水が蒸発してその水量が減っている場合でも、所定量の溜水を回復することができる。従って、引込ポンプ505dの駆動時間が所定時間に定められていても、過度に溜水を引き込んでしまい封水切れを起こすことを確実に回避することができる。
【0103】
また、衛生洗浄装置70dによって溜水とは別に水を供給するので、新たに水を供給する装置を追加することなく、破封防止のための追加注水を行うことができる。
【0104】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0105】
MB:汚物
WS:溜水
CSd:水洗大便器
10d:便器本体
20d:ボウル部
30d:洗浄水供給穴
40d:排水トラップ管路
50d:一時貯留タンク
70d:衛生洗浄装置
201d:汚物受け面
202d:リム部
203d:ボウル出口部
401d:入口部
402d:上昇管路
403d:下降管路
404d:吸引口
503d:引込管路(第一引込部分)
504d:帰還管路
505d:引込ポンプ
506d:帰還ポンプ
507d:引込管路(第二引込部分)
508d:屈曲部
509d:帰還管路
510d:帰還管路(第一帰還部分)
511d:帰還管路(第二帰還部分)
701d:洗浄ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を一時的に受け止めて洗浄水と共に排出する水洗大便器であって、
汚物を一時的に受け止めるための汚物受け面を有するボウル部と、
前記ボウル部に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、
前記ボウル部の下方に接続される入口部、前記入口部から上方に延びるように形成される上昇管路、および前記上昇管路の末端から下方に延びるように形成される下降管路を有し、非使用時には前記入口部から前記上昇管路の少なくとも一部にかけて水を貯留して溜水となし、その溜水の少なくとも一部によって封水を形成する排水トラップ管路と、
前記溜水の一部を前記排水トラップ管路から引込水として引き込み、この引き込んだ引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路に帰還させる溜水利用機構と、を備え、
前記溜水利用機構は、
前記引込水を一時的に貯留する一時貯留タンクと、
前記排水トラップ管路から前記一時貯留タンクに溜水の一部を引込水として引き込む引込手段と、
前記一時貯留タンクに一時的に貯留された引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路へ帰還させる帰還手段と、を有すると共に、
前記ボウル部または前記排水トラップ管路と前記一時貯留タンクとの間で、前記引込水を循環可能なように構成された循環経路を有することを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記引込手段は前記溜水から前記引込水を引き込む引込ポンプによって構成される一方で、
前記帰還手段は前記引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路へ戻す帰還ポンプによって構成され、
前記引込ポンプと前記帰還ポンプとは別個に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記循環経路は、
前記溜水から前記引込水を前記一時貯留タンクに導く引込管路と、
前記一時貯留タンクから前記引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路に導く帰還管路と、
前記帰還ポンプの駆動後に、前記ボウル部または前記排水トラップ管路を通る水が、前記帰還管路を逆流して前記一時貯留タンクに入り込まないように作用する逆流防止手段と、を有することを特徴とする請求項2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記逆流防止手段は、
前記帰還管路が、その最頂部から前記一時貯留タンクに向けて下りながら繋がる第一帰還部分と、前記最頂部から前記ボウル部または前記排水トラップ管路に向けて下りながら繋がる第二帰還部分とによって構成されるとともに、前記最頂部における流路断面下端が前記上昇管路の最頂部における流路断面下端よりも高い位置に形成されることで構成されており、
さらに、前記帰還ポンプの駆動後に、前記最頂部を挟んで前記第一帰還部分と前記第二帰還部分とによって構成される屈曲部に空気を導入することで、前記一時貯留タンクへの逆流を防止することを特徴とする請求項3に記載の水洗大便器。
【請求項5】
前記逆流防止手段は、前記一時貯留タンクから前記帰還管路を通る水が排出された後も前記帰還ポンプの駆動を継続し、この帰還ポンプの継続駆動によって前記屈曲部に空気を導入することを特徴とする請求項4に記載の水洗大便器。
【請求項6】
前記逆流防止手段は、前記一時貯留タンクから前記引込水を前記ボウル部または前記排水トラップ管路に帰還させる際に、前記一時貯留タンクに貯められている引込水を押し出して流すことで、前記第二帰還部分の水、前記屈曲部の空気、前記第一帰還部分の引込水の順に帰還させることで、前記一時貯留タンクへの逆流を防止することを特徴とする請求項4に記載の水洗大便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−215007(P2012−215007A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80308(P2011−80308)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】