説明

水洗性布地用固形描写材料

【課題】 布地などに視認性の高い描写部を容易に記すことができ、かつ、記した描写部を水洗によって極めて容易に消去することができる、水洗性布地用固形描写材料を提供すること。
【解決手段】 着色材(A)、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を含む、水洗性布地用固形描写材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋裁または刺繍などの用途において用いることができる水洗性布地用固形描写材料に関する。
【背景技術】
【0002】
洋裁や刺繍の分野において、布地を裁断、縫製または刺繍する前に、予め布地の上に、縫製の模様、線を描写する手段が汎用されている。この手段においては、いわゆるチャコといわれる固体の描写材料、チャコペーパーといわれる複写紙、またはチャコマーカーといわれるマーキングペンなどが用いられる。これらの材料は、布地を裁断、縫製または刺繍する時点においては描写部が明確に視認できる一方で、裁断、縫製または刺繍後においては描写部を容易に消去することができる性能が必要とされる。
【0003】
チャコまたはチャコペーパーは、従来から広く用いられている。例えば特開昭49−96841号公報(特許文献1)は、チョーキングペーパーについて開示している。しかしながらこのようなチョーキングペーパーは、描写部を布地に記す際に、かなり強い圧着力が必要とされる。そのため、描写部を布地に記すのが容易ではない。また、こうして記された描写部は、水洗によって描写部を完全に落とすこと難しい。そしてこの場合は、描写部を完全に落とすまで強く水洗いすると、布地および刺繍を傷める可能性があるという問題もある。
【0004】
チャコマーカーといわれるマーキングペンは、近年においてその使用が拡大しつつある道具である。このようなチャコマーカーは、例えば特開平10−220675号公報(特許文献2)または特開2000−26783号公報(特許文献3)などに記載されている。これらのチャコマーカーによって記された描写部は、常温においては不透明であり視認できる一方で、アイロンなどを用いて描写部を加熱することによって描写部が透明となるという性質を有する。しかしながらこれらのチャコマーカーは、上記チャコまたはチャコペーパーによって記された描写部と比較して、視認性に劣る傾向がある。特に、濃色の布地に対して白色または淡色の描写部を記す場合において、視認性が劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−96841号公報
【特許文献2】特開平10−220675号公報
【特許文献3】特開2000−26783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、布地などに視認性の高い描写部を容易に記すことができ、かつ、記した描写部を水洗によって極めて容易に消去することができる、水洗性布地用固形描写材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
着色材(A)、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、および、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を含む、水洗性布地用固形描写材料、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0008】
上記長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)が、下記式(1)
【化1】

[式(1)中、Rは炭素数25〜75のアルキル基を示し、nは10〜80である。]
で示されるものであるのが好ましい。
【0009】
上記水洗性布地用固形描写材料は、
着色材(A)10〜35質量部、
長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)20〜40質量部、
界面活性剤(C)10〜30質量部、および
炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)15〜45質量部、
を含むのが好ましい。
【0010】
上記水洗性布地用固形描写材料は、紙状形態を有するのがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、視認性の高い描写部を布地に対して容易に記すことができる。こうして記された描写部は、裁断、縫製または刺繍後においては、水洗などの手段により、極めて容易に消去することができる性能を有する。本発明の水洗性布地用固形描写材料はさらに、長期保存後においても複写面において結晶の析出などが生じないといった利点も有する。本発明の水洗性布地用固形描写材料を、布地の裁断または刺繍の模様描写などに用いることによって、裁断または刺繍後において、極めて簡便な水洗によって、下地模様である描写部を容易に消去することができる。そのため、布地または刺繍の風合いに悪影響を及ぼすことなく、描写部を消去することができるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、着色材(A)、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)、界面活性剤(C)、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を含む。以下、各成分について詳述する。
【0013】
着色材(A)
本発明の水洗性布地用固形描写材料は着色材(A)を含む。本明細書において「着色材(A)」とは、水洗性布地用固形描写材料を用いて、布地上に描写部を記した場合において、描写部の視認が可能となる成分を意味する。この着色材(A)として、有彩色または無彩色を有する着色材が挙げられる。着色材(A)として各種顔料および染料を用いることができる。顔料の具体例としては、アゾ系顔料、ニトロソ系顔料、ニトロ系顔料、塩基性染料系顔料、酸性染料系顔料、建て染め染料系顔料、媒染染料系顔料、及び天然染料系顔料等の有機顔料、黄土、バリウム黄、群青、紺青、カドミウムレッド、硫酸バリウム、酸化チタン、弁柄、鉄黒、カーボンブラック等の無機顔料などが挙げられる。染料の具体例としては、酸性染料、直接染料、塩基性染料などが挙げられる。これらの着色材(A)は、単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。また2種以上の着色材(A)を混合して、所望の色相に調色してもよい。
【0014】
好ましい着色材(A)として、
ファーストスカイブルーエクストラ、ウルトラマリンブルー3000などの青色着色材、より好ましくはファーストスカイブルーエクストラ;
クロモファインレッド6835、カーミン6B−A、PVFastRedB、パーマネントレッドFGR、セイカファーストカーミン1476T−7KF、NOVOPERMRED F3RK−70、レーキレッドC#405、カーミン6B10BK−T(Y)、ピンクEなどの赤色着色材、より好ましくはカーミン6B−A;
セイカファーストエロー2400、NOVOPERM YELLOW FGL、SYMULER FAST YELLOW4400、Hostaperm Yellow YELLOW GR、マピコイエロー10Gなどの黄色着色材、より好ましくはSYMULER FAST YELLOW4400;
タイペークA−220などの白色着色材;
などが挙げられる。
【0015】
これらの着色材(A)において、無機顔料は、水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して1〜35質量部の量で含まれるのが好ましく、5〜35質量部の量で含まれるのがさらに好ましい。
有機顔料は、水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して1〜15質量部の量で含まれるのが好ましく、1〜8質量部の量で含まれるのがさらに好ましい。
また、必要に応じて、染料を、上記有機顔料および/または無機含量と併用してもよい。着色材(A)として染料を併用する場合は、水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して0.02〜5質量部の量で含まれるのが好ましく、0.05〜3質量部の量で含まれるのがさらに好ましい。
【0016】
本発明の水洗性布地用固形描写材料においては、これらの無機顔料、有機顔料および/または染料からなる着色材(A)の総含有量は、水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して10〜35質量部であるのが好ましい。着色材(A)の含有量が上記範囲であることによって、描写部の良好な視認性および水洗除去性を確保することができるという利点がある。
【0017】
長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)を含む。本発明の水洗性布地用固形描写材料に長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)が含まれることによって、記した描写部を水洗によって極めて容易に消去することが可能となった。
【0018】
チャコまたはチャコペーパーにおいては、布地に描写部を容易に付すことができるためのやわらかさが求められる。その一方で、描写部を付す場所以外において着色が色写りして布地を汚したりしないための硬さも求められる。さらに、裁断、縫製または刺繍後においては、水洗手段によって描写部を容易に消去することができる水洗消去性もまた求められる。
【0019】
従来のチャコにおいては、上記のやわらかさ、硬さおよび水洗性を発現するために、植物系ワックスなどのワックス成分が一般的に用いられている。このようなワックス成分を用いることによって、良好なやわらかさが発現することとなり、布地に描写部を容易に付すことが可能となる。しかしながら、ワックス成分は一般的に親油性が高いため、水洗消去性が劣ることとなるという問題があった。
【0020】
チャコにおいて、ワックス成分を用いる場合は、界面活性剤を一定量以上用いることによって、水洗消去性を向上させることができる。しかしながら、水洗消去性を向上させるために界面活性剤を一定量以上用いる場合は、描写部を付す場所以外における着色による布地の汚染が生じるという不具合があった。
【0021】
本発明においては、水洗性布地用固形描写材料において長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)を用いることによって、上記問題を解決することが可能となった。本発明の水洗性布地用固形描写材料においては、従来のチャコで一般的に用いられていた植物性ワックスは含まれないか、または従来における含有量と比較して極めて少量のみが含まれる。そして本発明においては、植物性ワックスの代わりに、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)という特定の化合物を用いることによって、布地に対する汚染性を防ぎつつ、極めて高い水洗消去性が確保されることとなった。
【0022】
長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)として、下記式(1)
【化2】

[式(1)中、Rは炭素数25〜75のアルキル基を示し、nは10〜80である。]
で示される化合物が挙げられる。
【0023】
Rが示すアルキル基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。本発明においては、Rが、炭素数25〜50の直鎖状アルキル基であるのがより好ましく、炭素数28〜45の直鎖状アルキル基であるのがさらに好ましい。式(1)においてRの炭素数が25以上であることによって、布地用固形描写材料において必要とされる固形性(形状保持性)が付与されることとなる。
【0024】
上記式(1)中、nは10〜80である。nは10〜50であるのが好ましく、20〜50であるのがより好ましい。式(1)で示される化合物が、−(CHCHO)−H基を有することによって、得られる布地用固形描写材料の親水性が向上し、優れた水洗消去性が得られるという利点がある。なおnが80以上である場合は、得られる水洗性布地用固形描写材料にべたつきが発生するという不具合がある。
【0025】
上記式(1)で示される長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)は、HLB4以上のものが好ましく、10以上のものがより好ましく、14〜18のものがさらに好ましい。
【0026】
上記式(1)で示される長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)として市販品を用いてもよい。例えば、東洋アドレ社によって市販される「ユニトックス450」(Rは炭素数31〜32の直鎖状アルキル基、nは約10、HLB=10)、「ユニトックス480」(Rは炭素数31〜32の直鎖状アルキル基、nは約40、HLB=16)、「ユニトックス550」(Rは炭素数38の直鎖状アルキル基、nが約12、HLB=10)、「ユニトックス750」(Rは炭素数48〜49の直鎖状アルキル基、nが約16、HLB=10)などが挙げられる。
【0027】
本発明の水洗性布地用固形描写材料に含まれる長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)の含有量は、水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して20〜40質量部であるのが好ましく、22〜35質量部であるのがさらに好ましい。
【0028】
界面活性剤(C)
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、ノニオン界面活性剤(C)を含む。ノニオン界面活性剤(C)が含まれることによって、布地に描写部を容易に付すことができるためのやわらかさを付与することができ、かつ、水洗消去性を高めることができる。ノニオン界面活性剤(C)として、当業者に通常用いられる一般的なノニオン界面活性剤を用いることができる。
用いることができるノニオン界面活性剤(C)の具体例として、
脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイドエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル);
ヒマシ油脂肪酸ポリオキシエチレングリコールエステル、ヒマシ油およびヒマシ硬化油のポリオキシエチレン付加物、ソルビタンヒマシ油脂肪酸エステルなどのヒマシ油誘導体(例えば、ヒマシ油脂肪酸ポリエチレングリコールエステル、ヒマシ油−エチレンオキサイド10モル付加物、ヒマシ油−エチレンオキサイド40モル付加物、ヒマシ硬化油−エチレンオキサイド10モル付加物、ヒマシ硬化油−エチレンオキサイド20モル付加物、ヒマシ硬化油−エチレンオキサイド40モル付加物、ヒマシ硬化油−エチレンオキサイド60モル付加物、ソルビタンモノリシノレートなど);
多価アルコール脂肪酸エステルのポリエチレンオキサイドエーテル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート);
脂肪族アルコールのポリプロピレンオキサイドエーテル(例えば、ポリオキシプロピレングリコールブチルグルシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコール2−エチルヘキシルグルシジルエーテル);
脂肪酸のポリプロピレンオキサイドエステル(例えば、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドの縮合物としてのプルロニクス(Pluronics)製L−14及びL−62);
多価アルコール脂肪酸エステルの(ポリ)プロピレンオキサイドエーテル(例えば、日本油脂製のエピオールB、エピオールEH、エピオールP);
などが挙げられる。
【0029】
ノニオン界面活性剤(C)として、ヒマシ油脂肪酸ポリオキシエチレングリコールエステル、ポリエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシラウリルエーテルなどを用いるのが好ましい。また、ノニオン界面活性剤(C)は、HLB10〜18を有するものがより好ましい。
【0030】
本発明の水洗性布地用固形描写材料に含まれるノニオン界面活性剤(C)の含有量は、水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して10〜30質量部であるのが好ましく、15〜25質量部であるのがさらに好ましい。
【0031】
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を含む。これらの化合物(D)が含まれることによって、布地に対する描写部付着性が向上し、良好な複写性を発現させることができる。
炭素数8〜30の脂肪酸として、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸などが挙げられる。脂肪酸として、炭素数15〜30の脂肪酸がより好ましく、炭素数18〜24の脂肪酸がさらに好ましい。
炭素数15〜30の第一級アルコールとして、例えば、ヘキサデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、トリコシルアルコール、ペンタコシルアルコール、トリアコンチルアルコール、オクタトリアコンチルアルコールなどが挙げられる。
ポリエチレングリコールとして、重量平均分子量(Mw)10000〜30000のポリエチレングリコールが用いられる。重量平均分子量は10000〜20000であるのがより好ましい。ここで重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0032】
(D)成分として、炭素数15〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜20000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を用いるのがより好ましく、成分(D)として炭素数15〜30の脂肪酸および重量平均分子量10000〜20000のポリエチレングリコールの少なくとも2種を併用するのがさらに好ましい。これらの成分(D)を用いることによって、得られる水洗性布地用固形描写材料、特にチャコペーパーなどの紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料において、長期保存後においても複写面(固形描写材料を有する層)において含有成分が結晶状に析出するといった不具合が生じず、さらに、硬さ調整をすることができ、使用時に布地を着色することを防ぐことができ、そして融点を好適な範囲に調整することができるという利点があり、より好ましい。
【0033】
本発明の水洗性布地用固形描写材料に含まれる、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)の含有量は、水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して15〜45質量部であるのが好ましく、20〜35質量部であるのがさらに好ましい。より好ましい態様である、成分(D)として炭素数15〜30の脂肪酸および重量平均分子量10000〜20000のポリエチレングリコールの少なくとも2種を併用する場合は、炭素数15〜30の脂肪酸を5〜20質量部、および重量平均分子量10000〜20000のポリエチレングリコールを10〜25質量部(それぞれ水洗性布地用固形描写材料100質量部に対して)の範囲で用いるのが特に好ましい。
【0034】
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、上記成分(A)〜(D)に加えて、添加剤などをさらに含んでもよい。添加剤として、例えば、流動改質剤、沈降防止剤などが挙げられる。流動改質剤として、例えば、酸化αオレフィン、ポリαオレフィンなどが挙げられる。沈降防止剤として、例えば、有機ベントナイト(ニューDオルベン、白石カルシウム社製)などが挙げられる。これらの添加剤は、水洗性布地用固形描写材料100重量部に対して3重量部を超えない量で含まれるのが好ましい。
【0035】
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、例えば、着色材(A)、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を加熱しながら溶解混合して均一に分散させ、次いで得られた分散体を冷却することによって調製することができる。例えば、着色材(A)、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、ノニオン界面活性剤(C)、および、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を、80〜120℃で0.5〜3時間混合することによって、これらの成分を均一に分散させることができる。水洗性布地用固形描写材料の調製においては、必要に応じて、着色材(A)とノニオン界面活性剤(C)の一部とを予め混合しておき、そしてこれらの成分以外の成分を別途混合し、次いで2種の混合物を一緒に混合してもよい。
【0036】
こうして得られた分散体を、例えば所望の形状を有する容器などに流し入れて、次いで所望の冷却手段を用いて冷却することによって、所望の形状を有する水洗性布地用固形描写材料を得ることができる。上記冷却手段として、例えば、空気中における放冷または水冷却などが挙げられる。
【0037】
また、紙状の形態を有する水洗性布地用固形描写材料を調製する場合は、上述より得られる分散体の層(複写面)を、支持体の片面または両面に設けることによって調製することができる。例えば、任意のホットメルト塗布機または印刷機を用いて、上記分散体を、支持体上に熱溶融塗布して形成することができる。より具体的には、ロールコーティング、メイヤーバーコーティング、グラビア印刷機などの通常用いられる機器を用いて、上述の分散体を融点以上(80〜120℃)に加熱溶融した状態で、支持体の片面または両面に、1面に対して2〜25g/m、より好ましくは8〜20g/mの塗布量で、全面または部分的に塗布し、水冷却ロールまたは空気で冷却固化させることによって調製することができる。
【0038】
支持体としてはこの分野で公知の支持体を用いることができ、例えば紙(複写紙MCP−64、上質紙、コンデンサーペーパー)、プラスチックフィルム(複写紙とPPのラミネート(DLF−64))、紙および樹脂の複合材料(例えば、日本製紙社製オーパー(登録商標))などを用いることができる。
【0039】
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、視認性の高い描写部を布地に対して容易に記すことができる。こうして記された描写部は、裁断、縫製または刺繍後においては、水洗などの手段により、極めて容易に消去することができる性能を有する。本発明の水洗性布地用固形描写材料はさらに、長期保存後においても複写面において結晶の析出などが生じないといった利点も有する。本発明の水洗性布地用固形描写材料を、布地の裁断または刺繍の模様描写などに用いることによって、裁断または刺繍後において、極めて簡便な水洗によって、下地模様である描写部を容易に消去することができる。そのため、布地または刺繍の風合いに悪影響を及ぼすことなく、描写部を消去することができるという利点がある。
【実施例】
【0040】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0041】
実施例1 紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料(1)の調製
下記表中に記載の材料を用いて、水洗性布地用固形描写材料を調製した。
【表1】

表中の成分(A)であるファーストスカイブルーエクストラ、タイペークA−220、そして成分(C)のうちサーフリックAQ−250を、3本ロールで混練りした。
成分(A)およびサーフリックAQ−250以外の材料全てを、別のタンク中に入れて、約110℃に加熱して溶融させた。次いで、予め3本ロールで混練りした成分(A)およびサーフリックAQ−250を含む混合物を、タンクに入れ、その後ホモミキサーを用いて混合した。
得られた混合分散物を、0.1〜0.2mmのメイヤーバーを有するホットメルト塗布機のホットパンに移し、90℃に保った。支持体である40g原紙の片面に、10g/mの塗布量となるように分散物を均一に塗布した後、塗布面を水による冷却ロールで固化させた後、巻き取って、紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料(1)を得た。
【0042】
実施例2 紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料(2)の調製
【表2】

表中の成分(A)であるシムラーファーストイエロー、タイペークA−220、そして成分(C)のうちサーフリックAQ−250を、3本ロールで混練りした。
成分(A)およびサーフリックAQ−250以外の材料全てを、別のタンク中に入れて、約110℃に加熱して溶融させた。次いで、予め3本ロールで混練りした成分(A)およびサーフリックAQ−250を含む混合物を、タンクに入れ、その後ホモミキサーを用いて混合した。

得られた混合分散物を、0.1〜0.2mmのメイヤーバーを有するホットメルト塗布機のホットパンに移し、90℃に保った。支持体である40g原紙の片面に、10g/mの塗布量となるように分散物を均一に塗布した後、塗布面を水による冷却ロールで固化させた後、巻き取って、紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料(2)を得た。
【0043】
比較例1 紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料(3)の調製
下記表中に記載の材料を用いて、水洗性布地用固形描写材料を調製した。
【表3】

表中の成分(A)であるファーストスカイブルーエクストラ、タイペークA−220、そしてノニオンS−215を、3本ロールで混練りした。
上記以外の材料全てを、別のタンク中に入れて、約110℃に加熱して溶融させた。次いで、予め3本ロールで混練りした成分(A)およびノニオンS−215を含む混合物を、タンクに入れ、その後ホモミキサーを用いて混合した。
得られた混合分散物を、0.1〜0.2mmのメイヤーバーを有するホットメルト塗布機のホットパンに移し、90℃に保った。支持体である40g原紙の片面に、10g/mの塗布量となるように分散物を均一に塗布した後、塗布面を水による冷却ロールで固化させた後、巻き取って、紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料(3)を得た。
【0044】
実施例および比較例により得られた水洗性布地用固形描写材料を用いて下記評価試験を行った。
【0045】
描写部視認性試験
実施例および比較例により得られた、紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料を、裁断用の布地(刺繍用オックス生地)の上に重ねた。この上から、ルレットを用いて裁断のパターンに従って1kgfの力で押し付けて、パターンに従った描写部を布地に付した。得られた布地について、下記基準に従い目視評価を行った。
◎:パターンの跡を鮮明に視認することができる。
○:パターンの跡を視認することができる。
△:パターンの跡の視認が困難である。
【0046】
水洗除去性試験
上述の試験によって得られた、描写部(パターン)を有する布地(刺繍用オックス生地)を、水に浸して、5〜20回、軽く左右に動かした。その後、布地を取り出して、通気性の良いステンレスの網の上に静置して、自然乾燥させた。乾燥した布地を、未処理の布地と目視で比較して、下記基準に従い目視評価を行った。
○:パターンの跡をほとんど視認することができない。
△:パターンの跡を視認できる。
×:パターンの跡をはっきりと視認できる。
【0047】
保存安定性試験
実施例および比較例により得られた、紙状の形態の水洗性布地用固形描写材料を、温度40℃、湿度80%の環境下で30日間保管した。保管後、下記基準に従い目視評価を行った。
○:結晶の析出を確認されない。
△:粉状の結晶の析出を少々確認できる。
×:粉状の結晶の析出を確認できる。
【0048】
【表4】

【0049】
実施例により得られた水洗性布地用固形描写材料は、視認性の高いパターンを容易に付すことができ、かつ、優れた水洗除去性を有していた。実施例により得られた水洗性布地用固形描写材料はさらに、保存安定性にも優れていた。
比較例により得られた水洗性布地用固形描写材料によって付されたパターンは、実施例のものと比較して視認性に劣っていた。その一方で、水洗を行った後においても、パターン跡が視認された。また保存後において、複写面に白色の粉がふいたような状態となり、結晶の析出が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の水洗性布地用固形描写材料は、視認性の高い描写部を布地に対して容易に記すことができる。こうして記された描写部は、裁断、縫製または刺繍後においては、水洗などの手段により、極めて容易に消去することができる性能を有する。本発明の水洗性布地用固形描写材料は、布地の裁断または刺繍の模様描写などの用途において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色材(A)、長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)、ノニオン界面活性剤(C)、および、炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)を含む、水洗性布地用固形描写材料。
【請求項2】
前記長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)が、下記式(1)
【化1】

[式(1)中、Rは炭素数25〜75のアルキル基を示し、nは10〜80である。]
で示される、請求項1記載の水洗性布地用固形描写材料。
【請求項3】
着色材(A)10〜35質量部、
長鎖脂肪族アルコールのポリエチレンオキサイド付加物(B)20〜40質量部、
界面活性剤(C)10〜30質量部、および
炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数15〜30の第一級アルコールおよび重量平均分子量10000〜30000のポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種(D)15〜45質量部、
を含む、請求項1または2記載の水洗性布地用固形描写材料。
【請求項4】
紙状形態を有する、請求項1〜3いずれかに記載の水洗性布地用固形描写材料。

【公開番号】特開2012−149172(P2012−149172A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8895(P2011−8895)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000225267)内外カーボンインキ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】