説明

水浄化用光触媒と水浄化用光触媒ユニットおよびこれを用いた光触媒水浄化装置

【課題】フッ素含有酸化チタンを用いた水浄化用光触媒ユニットとこれを用いた光触媒水浄化装置において、水中でのフッ素含有酸化チタンからのフッ素の脱離を抑制し、光触媒活性の低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】光触媒がフッ素を含有する酸化チタンであって、且つ光触媒に無機固体酸触媒が接触していることを特徴とする水浄化用光触媒ユニット303に、酸供給ユニット308及びフッ化物イオン濃度計307を備えた光触媒水浄化装置301を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒を利用して水中の有機物や微生物を除去する水浄化用光触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水中における有機物や微生物を除去するために、光触媒によって有機物の分解、あるいは殺菌を行う方式が知られている。光触媒はその多くが半導体であり、光照射によるエネルギーを受けて価電子帯から伝導帯に電子が励起し、反応性の高い電子と正孔を生成する。水中ではそれら電子と正孔が光触媒の表面で水分子や酸素分子と反応することで、スーパーオキサイドアニオンやヒドロキシラジカルといった活性種を生成し、有機物の分解や殺菌作用を生みだしている。中でも酸化チタンは光触媒として代表的な材料であり、多くの水浄化に特化したデバイスや装置に利用されている。
【0003】
さらに、光触媒材料の性能自体を向上させる方策も数多く提案されており、例えば酸化チタンにフッ化物を処理させることで酸化チタンの表面にフッ素元素を結合させ、電荷分離を促進させることでヒドロキシラジカルの発生効率を高めるといった方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−28494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来例のようなフッ素を結合させた酸化チタンは、気体中では問題なく使用することができるが、水中で使用するには大きな課題が生じる。すなわち、水中に存在する水酸化物イオンとフッ化物イオンの交換反応によって、酸化チタン表面のフッ素の脱離が生じてしまうという課題を有していた。特に塩基性の水質では水酸化物イオンの濃度が高く、より交換反応が促進されてしまい、光触媒の性能が低下してしまうと考えられる。また、酸化チタンのような金属酸化物触媒の場合、H2O分子の解離吸着によって、水酸基が触媒表面に吸着され易くなっているため、フッ素の脱離を助長する可能性が高い。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、水中での使用においても酸化チタン表面のフッ素の脱離を抑制し、光触媒の性能低下を抑制することのできる水浄化用光触媒と水浄化用光触媒ユニットおよびこれを用いた光触媒水浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、この目的を達成するために、本発明の水浄化用光触媒は、光触媒がフッ素を含有する酸化チタンであって、且つ光触媒に無機固体酸触媒が接触していることを特徴とするものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無機固体酸触媒に接触した光触媒は、無機固体酸触媒からのプロトンの受け渡しによって水酸化物イオンとフッ化物イオンとの交換反応を抑制し、水中での酸化チタンからのフッ素の脱離を抑制することができ、光触媒の性能低下の防止や、ユニットの交換メンテナンスを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】フッ素含有酸化チタンからのフッ素脱離量評価方法の概略図
【図2】フッ素含有酸化チタンシートからのフッ素脱離量評価方法の概略図
【図3】本発明の光触媒水浄化装置の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
(評価方法1)
図1に水中でのフッ素を含有した酸化チタンからのフッ素の脱離を評価する評価方法の概略図を示した。
【0012】
ポリプロピレン製の遠沈管101に超純水102を10mLを入れ、そこに光触媒を10mg加えて攪拌し、分散させた。それを遠心分離器にかけ、上澄みを0.2μmのシリンジフィルタでろ過した。ろ過したろ液をイオンクロマトグラフ(ICS−2100:ダイオネクス製)で分析した。また、ろ液のpHをpHメータ(B−212:堀場製作所製)で測定した。
【0013】
光触媒は、堺化学工業製のアナタース型酸化チタンSSP−25をフッ酸処理することによって、酸化チタン表面の水酸基の一部をフッ素に置き換えた、フッ素含有酸化チタンであり、フッ素の含有量は3.5wt%である。
【0014】
(比較例1)
上記の評価方法により、従来のフッ素含有酸化チタンにおけるフッ素の脱離量を測定した。表1に結果を示す。
【0015】
【表1】

【0016】
フッ素含有酸化チタンを超純水に分散させたろ液からはフッ化物イオンが検出され、酸化チタンからフッ素が脱離していることが確認された。また、pHの値から、ろ液は酸性領域になっていることが確認された。これは次の化1によって水素イオン濃度が上昇したためであると考えられる。
【0017】
【化1】

【0018】
(実施例1)
次に、フッ素含有酸化チタンに無機固体酸触媒であるゼオライトを混合したときのフッ素脱離への影響について調べた。
【0019】
まず、用いたゼオライトの物性を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
用いたゼオライトは東ソー製のHSZシリーズで、ハイシリカゼオライトと呼ばれる比較的Si/Al比の高い合成ゼオライトであり、処理方法によってSi/Al比やカチオン種を変化させることができる。
【0022】
カチオン種はH、NH4、Naの3タイプを選定した。Na型には固体酸触媒として基質との活性点となる酸点はなく、一般的にNa型をイオン交換することでNH4型が得られ、NH4型を加熱分解することでH型を得ることができ、それぞれ固体酸触媒として酸点を形成する。
【0023】
特にH型であるプロトン交換型ゼオライトは、接触した基質にプロトンを供給するブレンステッド酸として強い酸強度を有することが知られている。固体酸触媒の酸強度を表す尺度としてアンモニア昇温脱離法(以下NH3−TPDと記載)によるNH3脱離量を併記した。尚、890HOAと320NAAについては酸点がほとんど存在しないためNH3−TPDの値は表記していない。
【0024】
次に図1に示した方法と同様の方法によって、これらのゼオライトを超純水に所定量加えて攪拌し、そこにさらに光触媒を10mg加えて分散させた。ゼオライトに付着した不純物のpHへの影響を最小限に抑えるため、ゼオライトは超純水で繰り返し洗浄したものを用いた。また、ゼオライトを分散させてから光触媒を分散させる前後においてpHの変化を測定した。結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
Na型のゼオライトである320NAAを混ぜたものでは、比較例1と比べてフッ素の脱離量が大幅に増加していることが確認された。これは水中の水素イオンとNaがイオン交換することによって水中の水素イオンが減少し、相対的な水酸化物イオン濃度が上昇したことによってフッ化物イオンとの交換反応が助長されたためであると考えられる。
【0027】
また、NH4型のゼオライトである341NHAでは、濃度が低いときはフッ素の脱離が大きいが、ゼオライト濃度を高くすることで脱離が抑制されていることが確認された。これは、pHの値が7.3と高めであることから水酸化物イオン濃度が高く、NH4が酸点として働くよりもフッ素イオンと水酸化物イオンの交換反応が促されたことが要因と考えられる。ゼオライトの濃度を高くすることで酸点が増加し、フッ素脱離が抑制されたと思われる。
【0028】
H型のゼオライトでは、Si/Al比の低いゼオライトほどフッ素の脱離の抑制効果が高いことが確認された。これは、ゼオライトの固体酸性はもともと3配位元素であるAlが4配位のSi格子中に置換することで生まれる負電荷の不釣合いを保つために取り込むカチオンに由来するため、Alの存在比率が高いほどカチオン(H型の場合はプロトン)の存在量が多く、酸強度が高くなるためであると考えられる。Si/Al比は多くとも10以下であればH型のゼオライトを加えることによりフッ化物イオンの溶出濃度を抑制する効果を高めることができる。
【0029】
特にSi/Al比が小さい331HSAは効果が高く、ゼオライトを加えない場合に比べてフッ素の脱離を約10分の1に抑制できることが確認された。これはSi/Al比が小さいことに加えて、NH3−TPDの値が2.0と他のH型のゼオライトに比べて高く、このことはプロトン供給の活性点となる酸点が多いためであると考えられる。
【0030】
また、全体を通じて液のpHが低い(酸性度が高い)ほど、フッ素の脱離が少ない傾向ではあるが、例えば、390HUAと331HSAを比べれば、331HSAの方がpHが高いにも関わらず、フッ化物イオンの溶出は10分の1以上も抑制されており、固体酸触媒上の酸点とフッ素含有酸化チタンとの接触による局所的な相互作用によってフッ素の脱離が抑制されていることが示唆される。
【0031】
尚、本実施例では無機固体酸触媒にゼオライトを用いているが、固体酸として働く無機物質であれば効果に差異はなく、例えばγ−アルミナやイオン交換樹脂、カーボン系固体触媒などが挙げられる。
【0032】
(評価方法2)
次に、フッ素含有酸化チタンをシート状に加工したものについてフッ化物イオンの脱離を評価した。図2にその評価方法の概略図を示した。
【0033】
図2に示すように、光触媒シート201をガラスシャーレ202に入れ、そこに超純水を10mL入れてシートを浸し、振とうさせながら攪拌させた。上澄みを0.2μmのシリンジフィルタでろ過した。ろ過したろ液をイオンクロマトグラフ(ICS−2100:ダイオネクス製)で分析した。
【0034】
フッ素含有酸化チタンシートの作成方法として、イオン交換水8gにバインダ成分としてコロイダルシリカ(スノーテックスO:日産化学工業製)を2g加え、そこにフッ素含有光触媒0.5gを加えて分散させてスラリーとした。シート基材にはセラミックペーパー(日本板硝子製)を用いた。φ50mmにカットした円形状のセラミックペーパーをスラリーに浸漬させ、余剰液を取り除いた後、90℃で乾燥させ、フッ素含有酸化チタンシートとした。
【0035】
(比較例2)
上記の評価方法により、従来のフッ素含有酸化チタンシートにおけるフッ素の脱離量を測定した。表4に結果を示す。
【0036】
【表4】

【0037】
フッ素含有酸化チタンシートを超純水に分散させたろ液からはフッ化物イオンが検出され、酸化チタンからフッ素が脱離していることが確認された。
【0038】
(実施例2)
次に図2に示した方法と同様の方法によってゼオライトとフッ素含有酸化チタンを混合したものをシート状に加工したものについてフッ素の脱離を評価した。ゼオライトには331HSAを用い、混合量は酸化チタンの2倍量とした。
【0039】
表5に結果を示す。
【0040】
【表5】

【0041】
ゼオライトを混合したシートは、比較例2と比べて、シートに含有される酸化チタンの量はほぼ同量でありながら、フッ化物イオンの濃度が2分の1に抑えられていることが確認された。それぞれのろ液のpHを測定したところ、ゼオライトを混合したシートの方が高い値を示したことから、水酸化物イオンの濃度に関わらず、固体酸触媒上の酸点とフッ素含有酸化チタンとの局所的な相互作用によってフッ素の脱離が抑制されていることが示唆される。また、水中に光触媒と固体酸触媒を均一に分散させた状態ではなく、基材上に固定化した状態であっても、固体酸触媒と光触媒が近接している状態を形成することで、フッ素の脱離を抑制できる作用があると考えられる。
【0042】
尚、本実施例では光触媒を固定化する無機基材としてセラミックペーパーを用いているが、光触媒の酸化力によって劣化することのない基材であれば他のものを用いても効果に差異はなく、例えばガラスクロスのようなガラス繊維を織ったものを用いてもよい。
【0043】
(実施例3)
次に、図3を用いて本発明の光触媒水浄化装置における構成を説明する。
【0044】
図3に示すように、光触媒水浄化装置301は、筐体302内に水浄化用光触媒ユニット303と光源304とを備えており、入口305より導入された被処理水を水浄化用光触媒ユニット303で浄化した後に、出口306より処理水を放出するものである。光触媒浄化ユニット303には、無機基材上にフッ素含有酸化チタンと無機固体酸触媒を均一に混合させたものをバインダで固定化させたシートを複数枚積層させており、シートに均一に光が照射されるように光源304が配置されている。
【0045】
水浄化用光触媒ユニット303の後段には、フッ化物イオン濃度計307が取り付けられており、水中に含まれるフッ化物イオン濃度をモニタリングすることができる。
【0046】
水浄化用光触媒ユニット303の前段には、酸供給装置308が取り付けられており、無機固体酸触媒に含まれるプロトンが、他のカチオンとの交換反応によって減少した際には、酸供給装置308から酸性物質が投与されることにより、無機固体酸触媒を再生し、酸強度を向上させることができる。尚、フッ化物イオン濃度計307と酸供給装置308を連動させることにより、プロトンが不足してフッ素の脱離が増加したことを検知し、自動で酸を供給することができる。
【0047】
これにより、無機固体酸触媒からのプロトンの受け渡しによって水酸化物イオンとフッ化物イオンとの交換反応を抑制し、水中での酸化チタンからのフッ素の脱離を抑制することができ、光触媒の性能低下の防止や、ユニットの交換メンテナンスを減らすことができる光触媒水浄化装置を提供できる。
【0048】
具体的には塩酸や酢酸といった酸性溶液を用いるか、クエン酸といった固体酸性物質を投与して溶解する方法を用いることが好ましい。
【0049】
尚、本実施例2及び3では光触媒を固定化する無機基材としてシート状の基材を用いたが、無機基材であればシート状に限定するものではなく、例えばセラミックボールやガラスビーズなどの球状基材や、発泡セラミックなどの多孔体基材に固定化して用いても効果に差異はない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかる水浄化用光触媒ユニットは、フッ素を含有する酸化チタンに無機固体酸触媒を接触させることで、無機固体酸触媒からのプロトンの受け渡しによって水酸化物イオンとフッ化物イオンとの交換反応を抑制し、水中での酸化チタンからのフッ素の脱離を抑制することができるため、光触媒の性能低下の防止や、ユニットの交換メンテナンスを減らすといった効果が期待できる。
【符号の説明】
【0051】
101 遠沈管
102 超純水
201 光触媒シート
202 ガラスシャーレ
301 光触媒水浄化装置
302 筐体
303 水浄化用光触媒ユニット
304 光源
305 入口
306 出口
307 フッ化物イオン濃度計
308 酸供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を利用して水中の有機物や微生物を除去する水浄化用光触媒であって、光触媒がフッ素を含有する酸化チタンであって、且つ光触媒に無機固体酸触媒が接触していることを特徴とする水浄化用光触媒。
【請求項2】
無機固体酸触媒がプロトン交換型ゼオライトであることを特徴とする請求項1記載の水浄化用光触媒。
【請求項3】
プロトン交換型ゼオライトのSi/Al比が0より大きく10以下であることを特徴とする請求項2記載の水浄化用光触媒。
【請求項4】
プロトン交換型ゼオライトの酸強度がNH3−TPDにおいて少なくとも1.1mmol/g以上であることを特徴とする請求項2または3いずれか記載の水浄化用光触媒。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の水浄化用光触媒に使用される光触媒と無機固体酸触媒を均一に分散させ、無機系基材に固定化したことを特徴とする水浄化用光触媒ユニット。
【請求項6】
請求項5記載の水浄化用光触媒ユニットと、酸供給ユニット及びフッ化物イオン濃度計を備えたことを特徴とする光触媒水浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−217922(P2012−217922A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86043(P2011−86043)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】