説明

水浄化装置

【課題】 高い細菌類およびトリハロメタン除去効果を有し、安全性の高い小型の水浄化装置を提供する。
【解決手段】 本発明の水浄化装置は、処理水を通過させる反応容器と、該反応容器内に配置された光触媒機能を有する繊維の不織布からなる成形物と、該成型物に紫外線を照射するように前記反応容器に配置された紫外線LEDユニットとからなる水浄化装置であって、前記光触媒機能を有する繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒と紫外線照射手段とを有し、水中のトリハロメタンの分解、殺菌に好適な小型の水浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水の安全性に対する関心が高まる中、水道水をそのまま飲用に使用せず、家庭用浄水器を利用したり、市販のミネラルウォーターを利用する家庭が増加している。水の安全性については、水道法の水質基準によって安全性の確保が図られているものの、より安全でおいしい水を求め、水質基準をはるかに下回る水質の水が求められるようになっている。
【0003】
特にトリハロメタン、細菌類は水の味、臭いといった感覚に影響するとともに、健康への影響もあることから、家庭用浄水器ではこれらの物質の除去を目的としたものが多く市販されている。その方法は、多くの場合活性炭による吸着、フィルター・膜による除去であるが、安全性に対する問題点も指摘されている。
【0004】
活性炭は、吸着能力に優れているものの、活性炭の細孔径によって吸着する物質に対する指向性があり、全ての物質を除去することは困難である。また、その吸着能力にも限界があり、一定量の通水後には活性炭の交換が必要となる。さらに、水道水中には細菌類の繁殖を防ぐために一定量の遊離塩素を添加することが義務付けられているが、活性炭は遊離塩素を吸着し、除去するために浄水器内で細菌類の繁殖が生じる場合があり、安全性に非常に大きな問題を抱えている。また、活性炭の問題を補完するものとして、中空糸膜等の膜が活性炭とともに使用されている。これは、0.1μm程度の孔径のフィルターで数μm程度の細菌類を捕集する仕組みであるが、完全に細菌類を遮断することは現実的に不可能であり、膜の中で細菌類が繁殖し、これらの細菌類が生成するエンドトキシン等の毒素が水道水中に混入することを防止することは困難である。
【0005】
水の殺菌方法として紫外線殺菌が広く利用されるようになっている。これは、DNAの吸収スペクトルの最大吸収係数を示す260nmの波長に近い254nmの紫外線を効率的に放射する低圧水銀ランプを使用し、DNAを構成するチミン分子を二量体化させることにより、DNAの複製機能を失わせ、細菌の増殖を防止するものである。低圧水銀ランプは寿命が約1年と比較的短く、また小型化が難しいため、LEDを使用した殺菌装置も提案されている。
【0006】
特許文献1の殺菌装置は、容器の内壁に紫外線LEDユニットが備えられたもので、殺菌しようとする水を容器内に入れ、紫外線LEDユニットを点灯させることにより殺菌を行うものである。特許文献2の殺菌装置では、容器内壁に光触媒をコーティングし、内壁に取り付けられた紫外線LEDユニットにより、容器内の水を紫外線及び光触媒作用によって浄化しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−292902号
【特許文献2】特開2011−16074号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、殺菌効果は期待できるものの、トリハロメタンの除去効果が無いことから、活性炭等との組み合わせが必要となる。この場合、活性炭での細菌の増殖およびエンドトキシン流出といった問題が生じることになり、安全性の観点から課題が残される。特許文献2に記載された方法は、紫外線LEDユニットからの紫外線照射とともに、光触媒作用を組み合せることによって特許文献1の方法での課題を解決しようとするものである。光触媒作用とは、主としてチタニアからなる光触媒に紫外線を照射することにより光触媒を励起させ、励起された光触媒が生成するOHラジカルによって水中のトリハロメタンのような有機物を酸化分解するものである。また、細菌類も有機物と同様にOHラジカルによって酸化分解される。しかしながら、OHラジカルの寿命は、10−6秒と極めて短いため、OHラジカルが存在し、有機物を分解する効力は光触媒表面上に限定される。したがって、光触媒作用を効果的に利用するためには、水と光触媒との接触効率を高める必要があるが、特許文献2のように、容器内壁に光触媒をコーティングするだけでは光触媒作用は期待できない。以上のように、現在の技術では、安全性の高い小型の水浄化装置が実現できていない。
【0009】
そこで本発明は、高い細菌類およびトリハロメタン除去効果を有し、安全性の高い小型の水浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、図1のように、紫外線LEDユニットと円盤形状又は平板形状に加工された光触媒不織布からなる光触媒カートリッジとを備えた小型の水浄化装置を開発し、高い細菌類およびトリハロメタン除去性能を有し、長期にわたってこの効果を維持可能であることを見出した。
【0011】
本発明において用いられる光触媒は主としてチタニアからなるものであり、この場合、387nm以下の波長の光照射によって励起が可能であり、細菌類の殺菌およびトリハロメタン分解効果が期待できる。また、本発明では紫外線LEDユニットに対して水平方向に、平板形状に加工された光触媒不織布からなる光触媒カートリッジを配置することにより、紫外線LEDユニットから放射された紫外線を漏れなく光触媒に照射される構造にしている。また、光触媒不織布は直径の細い繊維から構成されており、水が光触媒不織布を通過する構造にしているため、水との接触効率も良好である。
【0012】
本発明は、処理水を通過させる反応容器と、該反応容器内に配置された光触媒機能を有する繊維の不織布からなる成形物と、該成型物に紫外線を照射するように前記反応容器に配置された紫外線LEDユニットとからなる水浄化装置であって、前記光触媒機能を有する繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している水浄化装置を提供する。
【0013】
本発明は、前記不織布からなる成形物が円盤形状又は平板形状のいずれかである前記の水浄化装置を提供する。
【0014】
本発明は、成形物が反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジとして使用される前記の水浄化装置を提供する。
【0015】
本発明は、前記不織布からなる成形物が、反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジを構成しており、反応容器内に配置されていることを特徴とする前記の水浄化装置を提供する。
【0016】
本発明は、前記不織布からなる成形物の円盤または平板の面が、被処理水の流れの方向に対してほぼ垂直に設置されていることを特徴とする前記の水浄化装置を提供する。
【0017】
本発明は、前記紫外線LEDユニットは、LEDから照射される紫外線が前記不織布からなる成形物の円盤または平板の面にほぼ垂直に照射されるように反応容器内及び/又は反応容器外に設けられていることを特徴とする前記の水浄化装置を提供する。
【0018】
本発明は、前記光触媒繊維がシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であり、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、繊維全体に対する第1相の存在割合が98〜40質量%、第2相の存在割合が2〜60質量%である前記の水浄化装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、水中の細菌類およびトリハロメタンを効率的に除去することが可能であり、さらにこうした性能を長期にわたって維持することが可能な安全性の高い小型水浄化装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の小型水浄化装置の概念図である。
【図2】光触媒カートリッジの拡大図である。
【図3】比較例1に示す小型水浄化装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る小型水浄化装置の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、紫外線LEDユニットが反応容器外に配置されている本発明の水浄化装置の概念図である。本実施の形態に係る小型水浄化装置は、反応容器1、紫外線LEDユニット2、光触媒カートリッジ3、水入口4、水出口5、紫外線照射窓6によって構成される。
【0022】
反応容器1は通常円筒形であり、下部に水入口4、上部に水出口5を備え、該反応器1の天井部および底部は紫外線を透過する素材からなる紫外線照射窓6となっており、反応容器1の外側に紫外線LEDユニット2が設けられており、紫外線照射窓6を通して紫外線が照射される。また、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布から形成した成形物が、反応容器内に配置されており、紫外線LEDユニット2から放射された紫外線の照射下に、成形物と水が接触するように構成されている。反応容器1が円筒状である場合、成形物は反応容器内径に合わせて円盤形状となり、反応容器1が直方体である場合は、成形物は反応容器内側形状に合わせた平板形状となる。水入口4から供給された水は、反応容器1内で、成形物を形成する繊維一本一本の隙間を通過する過程で、紫外線LEDユニット2から放射された387nm以下の波長の紫外線によって励起された成形物表面に生成するOHラジカルにより、水中に含まれる細菌類およびトリハロメタンが酸化分解、除去され、水出口5から排出される。
【0023】
紫外線LEDユニット2は反応容器1内に設置しても良い。この場合は、紫外線LEDユニットに適切な防水処置を施す必要があるが、一方紫外線照射窓を設ける必要はなくなる。紫外線LEDユニットに組み込まれるLEDチップ数に特に制限は無いが、光触媒不織布からなる成形物の面積を考慮して決定することが好ましい。通常、成形物の直径がφ12mmで、LEDチップ数は16個程度である。
【0024】
紫外線照射窓6の材質は、紫外線を透過するものであれば特に制限は無いが、紫外線透過率の高い石英ガラスが最適である。
【0025】
不織布9は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している光触媒繊維からなる。
【0026】
光触媒繊維の表面は、必要に応じて白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうちの1以上が担持されていてもよい。担持方法は、特に限定されないが、前記担持される金属イオンが含まれる液と光触媒繊維とを接触させながら、第2相を構成する金属酸化物のバンドギャップに相当するエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することによって、担持させることができる。
【0027】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0028】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98質量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95質量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0029】
一方、第2相は、チタンを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、チタンが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよいが、チタニアであることが好ましい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60質量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50質量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0030】
第2相に含まれる金属酸化物のチタンの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の質量%を示している。
【0031】
本発明の小型水処理装置において、不織布上の平均紫外線強度は、1mW/cm以上であることが好ましく、さらに2mW/cm以上であることが好ましい。不織布表面での紫外線強度が1mW/cm未満であると、細菌類およびトリハロメタンの分解・除去性能が不十分であるが、1mW/cm以上であれば十分な性能が期待できる。このような紫外線強度にするには、紫外線LEDユニットと不織布との距離等を適当な範囲になるようにすればよい。また、紫外線LEDユニットのLEDチップ数を増加させることにより必要な紫外線強度にすることもできる。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の中心部および端部箇所の紫外線強度を測定し、それらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0032】
次に、傾斜構造を有する光触媒繊維の製造方法について説明する。
(溶融紡糸法)
光触媒繊維は、主として一般式
【0033】
【化1】

(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと有機金属化合物との混合物を得る第A工程、溶融紡糸する第B工程、不融化処理する第C工程、及び空気中又は酸素中で焼成する第D工程により製造することができる。
【0034】
第A工程は、シリカ基複合酸化物繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。
【0035】
変性ポリカルボシランは、主として上記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR’)nあるいは、MR”m(Mは金属元素、R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基又はフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0036】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、前記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で、不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、有機金属化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0037】
なお、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、1官能しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0038】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物あるいは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に出発原料として使用できる。
【0039】
第B工程においては、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下、前駆体という場合がある。)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けてもよい。なお、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0040】
前記紡糸の他に、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他該変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により巻き取り速度を制御しながら紡糸してもよい。
【0041】
これらの紡糸工程において、必要ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、あるいは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、又は有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0042】
第C工程においては、第B工程で得られた紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力又は無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。第C工程は、第D工程の焼成の際に、繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に限定されないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えてもよい。
【0043】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。なお、第C工程並びに第B工程の際に、原料中に含まれる低分子量物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えられる。
【0044】
第D工程においては、第C工程により不融化された繊維を、張力又は無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が傾斜的に増大する光触媒繊維を得る。第D工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障をきたさない場合はそのまま使用されるが、支障をきたす場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成及び結晶構造に問題が生じない温度、及び処理時間が選択される。
【0045】
なお、光触媒繊維を不織布とするには、上記製法により得られた光触媒機能を有する光触媒繊維を短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより不織布とするとすることができる。
【0046】
(メルトブロー法)
平板状不織布は、メルトブロー法を用いて、第A工程で得られた前駆体を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出するとともに、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することもできる。
【0047】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、第A工程で得られた前記前駆体を紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより安定して紡糸を行うことができる。
【0048】
紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら紡糸することが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0049】
得られた不織布は、上記溶融紡糸法の場合と同様の不融化処理及び焼成(第C工程及び第D工程)を行うことにより、光触媒繊維からなる不織布が得られる。メルトブロー法により製造される光触媒繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸法で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される平板状不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50mm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルター等に加工する際に十分なプリーツ加工性を有する。
【0050】
次いで、上記により得られた不織布を所望の形状に成形し、得られた成形物を例えば連結棒7のような枠体により、反応器内に着脱可能な光触媒カートリッジが得られる。成形方法については、特に制限はないが、例えばステンレス製の金属棒を支持部材として特定形状物に成形することができる。不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが、通常目付けが50〜500g/m、厚みは0.5〜20mmであることが好ましい。厚みは、必要に応じて不織布を積層することにより調整できる。厚みは、0.5mmよりも薄い場合には、光触媒量そのものが少なすぎて細菌の分解効果が十分に得られない。20mmよりも厚い場合は不織布が抵抗となり、圧力損失が増大し、水処理が難しくなる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0052】
(製造例1)
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0053】
前記ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0054】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、製造例1に係るチタニア/シリカ繊維(光触媒繊維)を得た。
【0055】
(実施例1)
製造例1により得られた光触媒繊維を厚さ2mmの不織布9とし、これをステンレス製の金網(線径1mm、3メッシュ)を支持部材として直径約12mmの円盤形状成形物8として図2のような光触媒カートリッジを作製した。これを図1に示すように内径12mm、高さ100mmの反応容器1に配置した。反応容器1の天井部及び底部に、石英ガラス製紫外線照射窓6を設け、その紫外線照射窓6の外側に紫外線LEDユニットを設置した。紫外線LEDユニットは、日亜化学製LC−L2(LEDチップ数:16個、波長:365nm)を用いた。紫外線LEDユニットと光触媒カートリッジ間の距離は約50mmであり、平均紫外線強度は3mW/cmであった。
【0056】
水道水にトリクロロメタンを濃度が0.5mg/Lになるように定量ポンプを用いて添加しながら、図1の小型水浄化装置に導入した。処理流量は、1,000ml/minとし、6ヶ月間にわたって小型水浄化装置への導入を継続した。この期間中、小型水浄化装置入口及び出口の水について、一般細菌及びトリクロロメタンの測定を1ヶ月毎に行った。結果を表1に示す。表1から、6ヶ月にわたって一般細菌及びトリハロメタンともに水質基準内の水質が得られており、長期にわたって安定的に安全な水浄化が可能であることが確認された。
【0057】
(比較例1)
特許文献2を参考に図3に示す小型水浄化装置を作製した。水浄化装置はチタン製の円筒形状とし、内径12mm、長さ100mmとした。反応容器11両端部に紫外線LEDユニットを装着した。紫外線LEDユニットは、SET社製の中心波長275nmの製品であり、LEDチップ16個からなっている。反応容器11内壁へ、陽極酸化法により鏡面状チタニアからなる光触媒膜13を形成させた。
【0058】
実施例1の場合と同様に、水道水にトリクロロメタンを濃度が0.5mg/Lになるように定量ポンプを用いて添加しながら、図1の小型水浄化装置に導入した。処理流量は、1,000ml/minとし、6ヶ月間にわたって小型水浄化装置への導入を継続した。この期間中、小型水浄化装置入口及び出口の水について、一般細菌及びトリクロロメタンの測定を1ヶ月毎に行った。結果を表1に示す。表1から、トリクロロメタンの除去性能が不十分であり、また細菌類も水質基準を満たしているものの、実施例1と比較して水浄化性能が不十分であり、安全性に課題があることが明らかになった。
【0059】
【表1】

【符号の説明】
【0060】
1 反応容器
2 紫外線LEDユニット
3 光触媒カートリッジ
4 水入口
5 水出口
6 紫外線照射窓
7 連結棒
8 成形物
9 不織布
11 反応容器
12 紫外線LEDユニット
13 光触媒膜
14 水入口
15 水出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理水を通過させる反応容器と、該反応容器内に配置された光触媒機能を有する繊維の不織布からなる成形物と、該成型物に紫外線を照射するように前記反応容器に配置された紫外線LEDユニットとからなる水浄化装置であって、前記光触媒機能を有する繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している水浄化装置。
【請求項2】
前記不織布からなる成形物が円盤形状又は平板形状のいずれかである請求項1記載の水浄化装置。
【請求項3】
前記不織布からなる成形物が、反応容器内への脱着自在である光触媒カートリッジを構成しており、反応容器内に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の水浄化装置。
【請求項4】
前記不織布からなる成形物の円盤または平板の面が、被処理水の流れの方向に対してほぼ垂直に設置されていることを特徴とする請求項2記載の水浄化装置。
【請求項5】
前記紫外線LEDユニットは、LEDから照射される紫外線が前記不織布からなる成形物の円盤または平板の面にほぼ垂直に照射されるように反応容器内及び/又は反応容器外に設けられていることを特徴とする請求項2記載の水浄化装置。
【請求項6】
前記光触媒繊維がシリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物からなる繊維であり、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、繊維全体に対する第1相の存在割合が98〜40質量%、第2相の存在割合が2〜60質量%である請求項1記載の水浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−200672(P2012−200672A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67563(P2011−67563)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】