説明

水溶媒分散性銀微粉の製造方法

【課題】簡便な手法で水分散性の良好な銀ナノ粒子の粉末を製造する。
【解決手段】分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンと分子量200〜400の脂肪酸とを成分とする有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末を用意し、この銀粒子の粉末を、液状有機媒体中に分散させた状態で、アミノ基を有するシランカップリング剤と混合することにより、銀粒子表面に親水性を付与する水溶媒分散性銀微粉の製造方法。シランカップリング剤としては例えばアミノアルキルトリアルコキシシランが採用できる。また、シランカップリング剤の代わりに、HOOC(CH2)nNH2で表される直鎖アミノカルボン酸を使用しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶媒に対して良好な分散性を有する銀ナノ粒子の粉末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子の粉末は焼結温度が低く、かつ耐酸化性(耐候性)が比較的良好で取扱い性に優れることから、電子部品における微細配線用途を中心に実用化が進められようとしている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−89786号公報
【特許文献2】特開2004−162169号公報
【特許文献3】特開2006−35205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
銀ナノ粒子は通常、表面が有機保護材により保護された状態で合成される。合成後に有機保護材を別の種類のものに付け替える操作が行われることもある。液状媒体に対する銀ナノ粒子の分散性は、有機保護材の種類に大きく依存することから、使用する液状媒体の種類に応じて適切な有機保護材を選択する必要がある。
【0005】
これまで、有機溶媒に対して良好な分散性を呈する銀ナノ粒子が種々開発されてきた。しかし、水溶媒に対して分散性が良好な銀ナノ粒子を、工業的に実用化しやすい手法で実現した例は知られていない。水溶媒は有機溶媒に比べ環境に優しい。また、親水性基板に配線を描画する場合、銀ナノ粒子分散液(銀インク)として水溶媒を用いることはより密着性の高い導電皮膜を得る上で有利となる。さらに水溶媒は一般的に有機溶媒より表面張力が大きいことから、銀インクの細線を基板に塗布する際にインク付着高さが高くなり、同じ線幅でも銀の量(焼成後の導体の体積)をより増大させることができる。このことは電気抵抗の低減に繋がる。
【0006】
本発明は、簡便な手法で水分散性の良好な銀ナノ粒子の粉末を製造する技術を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンと分子量200〜400の脂肪酸とを成分とする有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末を、液状有機媒体中に分散させた状態で、アミノ基を有するシランカップリング剤と混合することにより、銀粒子表面に親水性を付与する水溶媒分散性銀微粉の製造方法が提供される。シランカップリング剤によって親水性を付与した後、その銀粒子の粉末を、有機溶媒を用いて洗浄し、洗浄後の銀粒子の粉末を固形分として回収する工程に供することがより好ましい。
【0008】
アミノ基を有するシランカップリング剤として、例えばアミノアルキルトリアルコキシシランが好適である。前記1級アミンとして、例えばオレイルアミンが好適である。前記脂肪酸として、例えばオレイン酸が好適である。
【0009】
また本発明では、分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンを成分とする有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末を、液状有機媒体中に分散させた状態で、HOOC(CH2)nNH2で表される直鎖アミノカルボン酸と混合することにより、銀粒子表面に親水性を付与する水溶媒分散性銀微粉の製造方法が提供される。直鎖アミノカルボン酸によって親水性を付与した後、その銀粒子の粉末を、有機溶媒を用いて洗浄し、洗浄後の銀粒子の粉末を固形分として回収する工程に供することがより好ましい。
【0010】
直鎖アミノカルボン酸としては、例えば12−アミノデカン酸が好適である。前記1級アミンとしては、例えばオレイルアミンが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水溶媒に分散可能な銀ナノ粒子の粉末が工業的に実施しやすい簡便な手法で得られる。前述のように、水溶媒は環境に優しい。水溶媒を用いた銀インクは、親水性基板に配線を描画する場合に密着性の面で有利となる。また、水溶媒は表面張力が大きいので銀インクの細線を基板に塗布する際にインク付着高さが高くなり、同じ線幅でも体積がより大きい導電膜を形成させることができ、電気抵抗が低減する。本発明はこのような水溶媒を用いた銀インクの普及に寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔銀ナノ粒子の合成〕
銀ナノ粒子の合成方法については、これまでに種々の手法が開発されており、本発明では、有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末が得られる湿式工程を利用することが好適である。例えば、アルコール溶媒中において、銀化合物を、有機保護材となる有機化合物の存在下で溶媒アルコールの還元力を利用して還元することにより銀粒子を析出させる公知の方法が採用できる。その詳しい方法については本発明者らが既に種々開示しているが、ここでは特開2008−84620号に開示した手法を例に挙げて簡単に説明する。
【0013】
溶媒と還元剤を兼ねるアルコールとしては、イソブタノール、2−プロパノールなどが好適である。
【0014】
有機保護材となる有機化合物としては、分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンを使用する。個々の銀ナノ粒子の表面に付着する有機保護材は、金属銀を保護する機能の他、液状媒体中で銀粒子に浮力を与える「浮き輪」の機能も有する。分子量200未満の有機化合物だと保護機能が不十分となりやすく、また粒子径20nm以下の銀ナノ粒子に対する浮き輪の機能も不十分となりやすい。浮き輪の機能が不足すると、後述のシランカップリング剤やアミノカルボン酸により親水性を付与する工程において液中での分散性が悪くなり、効率的にそれらの界面活性剤による表面処理を行うことが難しくなる。一方、分子量が過剰に大きいと分散液中の銀濃度を高めることが難しくなり、各工程で不利となる。種々検討の結果、有機保護材の分子量は400以下とすることが望ましい。また、不飽和結合を持つ1級アミンは、銀粒子から適度に脱着しやすい性質を有しており、親水性を付与する工程において有利となる。そのようなアミンとして、例えばオレイルアミン(C918=C917−NH2、分子量約267)を例示することができる。
【0015】
シランカップリング剤を適用する場合は、有機保護材として、上記の1級アミンとともに、分子量200〜400の脂肪酸を混在させる。分子量の限定理由は上記の1級アミンと同様である。この脂肪酸としては、例えばオレイン酸(C918=C815−COOH、分子量約282)が例示できる。
【0016】
銀の原料としては、溶媒アルコールによく溶ける各種銀塩や銀酸化物等の銀化合物が使用できる。例えば塩化銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀等が挙げられるが、工業的には硝酸銀を使用することが望ましい。
【0017】
その他、還元反応を進行させるに際して、還元補助剤を使用することができる。還元補助剤としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の第2級または第3級のアミンが好適である。
【0018】
反応元液として、溶媒と還元剤を兼ねるアルコール、有機保護材となる有機化合物、および銀化合物が良く溶け合った液を作る。液中のAgイオン濃度は例えば50〜500mmol/L程度とすればよい。有機保護材となる有機化合物に1級アミンと脂肪酸を混合して用いる場合は、脂肪酸/1級アミンのモル比を0.001〜0.01、好ましくは0.005〜0.01の範囲とすればよい。この反応元液を80〜200℃かつ溶媒アルコールの沸点以下の温度に昇温することにより、銀の還元析出反応が進行し、有機保護材に覆われた平均粒子径DTEMが20nm以下の銀粒子が銀ナノ粒子が得られる。還元を効率的に行うために上記の還元補助剤を使用することが有効である。還元補助剤は還元反応の終了近くで添加するのがよく、その添加量はAgに対するモル比で0.1〜20の範囲とするのがよい。
【0019】
反応後の銀ナノ粒子の懸濁液(反応直後のスラリー)を固液分離して固形分を回収し、これを良く洗浄する。必要に応じて固形分を極性の小さい分散媒(トルエン、テトラデカンなど当該銀微粉が非常に良く分散する液)に分散させ、遠心分離により上澄みを回収することにより、極めて分散性の良い粒子のみを液中に回収することも可能である。このようにして表面に有機保護材を有する銀ナノ粒子の粉末を得る。
この銀ナノ粒子の粉末を「原料銀微粉」と呼ぶ。
【0020】
〔シランカップリング剤による表面処理〕
本発明では、水溶媒分散性を有する銀微粉を得るための手法の1態様として、シランカップリング剤を用いて銀ナノ粒子の表面処理を行う手法を採用する。
シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤の1種以上を用いることが極めて効果的である。例えばアミノアルキルトリアルコキシシランが好適な対象として挙げられる。具体的には、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
発明者らの検討によれば、このようなアミノ基を有するシランカップリング剤を用いて銀ナノ粒子表面に親水性を付与するためには、原料銀微粉として、有機保護材に前記「1級アミン」と前記「脂肪酸」が複合で含有されるものを使用することが効果的である。その理由については現時点で明確ではないが、これまでの調査によれば、原料銀微粉の有機保護材が前記「1級アミン」を成分とし「脂肪酸」を成分としないものである場合に比べ、その両者を複合で成分とするものである場合には、極めて良好な親水性を安定して付与することが可能であった。原料銀微粉における有機保護材中の脂肪酸含有量は、TG−DTA測定によるDTA曲線において「1級アミン」と「脂肪酸」が複合して含有されていることが確認できる程度とすれば足りる。
【0022】
この原料銀微粉を、液状有機媒体(例えばトルエン、デカン、テトラデカン等の極性の小さい炭化水素)に分散させた状態とし、この液中で原料銀微粉と上記シランカップリング剤を混合する。シランカップリング剤はアルコール溶媒等に溶解させた希釈液の状態で原料銀微粉の分散液中に添加するとよい。その希釈液中には必要に応じて少量の水および弱酸を加えることができる。混合の手段としては超音波混合を行うことが望ましい。超音波混合は、超音波による振動を利用して液中の物質を撹拌混合する手法であり、実験室的規模であれば超音波洗浄機(超音波撹拌機)を使用することができる。超音波混合は常温で行うことができ、その混合時間は例えば5〜60分程度とすればよい。このようにしてシランカップリング剤による親水性付与効果が得られる。
【0023】
その後、親水性が付与された銀ナノ粒子の粉末を、有機溶媒中で十分に洗浄することが望ましい。有機溶媒中での超音波洗浄、および遠心分離による固液分離の操作を1回または2回以上行い、洗浄後の銀ナノ粒子の粉末を固形分として回収すればよい。このようにして水溶媒分散性を有する清浄な銀微粉が得られる。
【0024】
〔アミノカルボン酸による表面処理〕
水溶媒分散性を有する銀微粉を得るための別の態様として、上記シランカップリング剤を用いる手法に代えて、直鎖アミノカルボン酸を用いる手法を採用することができる。
発明者らの検討によれば、HOOC(CH2)nNH2で表される直鎖アミノカルボン酸は、銀ナノ粒子の表面に親水性を付与するための界面活性剤として好適に機能することが明らかになった。化学式HOOC(CH2)nNH2におけるnは10〜18程度とすればい。
【0025】
この場合、原料銀微粉としては前記「1級アミン」を成分とする有機保護材を有しているものを採用すればよく、前記「脂肪酸」を複合で含有する有機保護材であることは特に要求されない。
【0026】
この原料銀微粉を、液状有機媒体(例えばトルエン、デカン、テトラデカン等の極性の小さい炭化水素)に分散させた状態とし、この液中で原料銀微粉と上記直鎖アミノカルボン酸を混合する。直鎖アミノカルボン酸を予め溶媒中に溶解させた状態で原料銀微粉の分散液中に添加するとよい。その溶媒中には必要に応じてアルカリを加えることができる。混合の手段としては超音波混合を行うことが望ましい。超音波混合は常温で行うことができ、その混合時間は例えば5〜60分程度とすればよい。このようにして直鎖アミノカルボン酸による親水性付与効果が得られる。
【0027】
その後、親水性が付与された銀ナノ粒子の粉末を、有機溶媒中で十分に洗浄することが望ましい。洗浄操作は前述の要領で行えばよい。このようにして水溶媒分散性を有する清浄な銀微粉が得られる。
【実施例】
【0028】
《実施例1》
〔原料銀微粉の合成〕
溶媒と還元剤を兼ねるアルコールとしてイソブタノール64g、有機保護材となる有機化合物として1級アミンであるオレイルアミン110gおよび脂肪酸であるオレイン酸0.6g、銀化合物として硝酸銀結晶14gを用意し、これらを混合して、マグネットスターラーにて撹拌することにより硝酸銀を溶解させ、反応元液とした。反応元液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、マグネットスターラーにより回転速度100rpmで撹拌し、容器内に窒素ガスを400mL/minで導入しながら、108℃まで2℃/minで昇温させた。その後、撹拌と窒素ガス導入を維持して108℃の温度で6時間還流を行った。108℃に到達してから5時間経過した時点で還元補助剤としてジエタノールアミン26gを添加した。
【0029】
反応終了後の液が約50℃以下に降温したのち、遠心分離機(日立工機株式会社製;CF7D2)にて3000rpmで30分間の遠心分離を行い、固形分を回収した。その後、「固形分とメタノールを混合→超音波洗浄→遠心分離→固形分回収」の操作を3回行った。回収された固形分を、極性の小さいテトラデカンの液状媒体に超音波分散させ、この分散液を上記の遠心分離機にて3000rpmで30分間遠心分離し、上澄み液を回収した。この上澄み液中には、表面に有機保護材を有する銀ナノ粒子の粉末(原料銀微粉)が約70質量%の金属銀濃度で存在している。
【0030】
上記の原料銀微粉がテトラデカンに約70質量%の金属銀濃度で分散している分散液から1.0mLを分取し、これに100mLのメタノールを加えて5分間の超音波洗浄を施した後、上記遠心分離機にて3000rpmで10分間の遠心分離を行い、固形分を回収した。その後、「固形分と100mLのメタノールを混合→超音波洗浄→遠心分離→固形分回収」の操作を2回行った。回収された固形分にトルエンを10mL加えて分散させ、十分に洗浄された原料銀微粉が分散した分散液(原料銀インク)を得た。
【0031】
この原料銀インクについてTEM(透過型電子顕微鏡)観察を行った。TEM画像において、重なっていない独立した銅粒子300個を無作為に選んでその径(長径)を測定し、測定した全粒子の径の平均値を平均粒子径DTEMとした。その結果、DTEMは6.58nmであった。
【0032】
〔シランカップリング剤による表面処理〕
シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製)を0.5mL秤量し、これと、2−プロパノール10mL、純水0.2mL、酢酸0.005gを混合した液(シランカップリング剤含有液)を用意した。
【0033】
上記シランカップリング剤含有液の全量を、上記原料銀インク0.01gに添加し、超音波混合を30分間行った後、室温で12時間静置した。この液にエタノール10mLを加え、超音波洗浄を10分間行い、さらにその液にトルエン5mLとエタノール5mLを加え、超音波洗浄を10分間行った。その後、上記遠心分離機にて3000rpmで30分間の遠心分離を行い、固形分を回収した。
【0034】
〔水溶媒分散性試験〕
この固形分に純水100mLと酢酸0.05gを添加し、液を撹拌したところ、沈殿物のない透明な分散液となった。この液における銀ナノ粒子のTEM写真を図1に例示する。
この液を30日間室温で放置した結果、液に濁り、沈殿は生じなかった。すなわち、この例で得られた銀微粉は極めて良好な水溶媒分散性を呈することが確認された。
【0035】
《比較例1》
実施例1の「原料銀微粉の合成」において、有機保護材となる有機化合物としてオレイン酸を添加しなかったこと、還流時の液温を100℃としたこと、および還元補助剤を添加しなかったことを除き、実施例1と同様の実験を行った。すなわちこの例では、「オレイルアミンを成分とし、オレイン酸を含まない有機保護材」を粒子表面に有する原料銀微粉が分散した原料銀インク(金属銀濃度;約70質量%)を使用した。この例で得られた原料銀微粉のDTEMは9.52nmであった。
【0036】
実施例1と同様にシランカップリング剤による表面処理を終えた固形分について水溶媒分散性試験を行った。固形分に実施例1と同じ水溶媒を添加して撹拌した液における銀ナノ粒子のTEM写真を図2に例示する。
この液を1日間室温で放置した段階で沈殿物を生じ、凝集していることが確認された。
【0037】
《比較例2》
シランカップリング剤を使用しなかったことを除き、実施例1と同様の実験を行った。すなわちこの例では、実施例1の「シランカップリング剤含有液」の代わりに、2−プロパノール10mL、純水0.2mL、酢酸0.005gを混合した液を用い、実施例1をトレースした。
水溶媒分散性試験の結果、銀微粉は分散せず、液中に沈殿した。
【0038】
《比較例3》
シランカップリング剤を使用しなかったことを除き、比較例1と同様の実験を行った。すなわちこの例では、実施例1に記載した「シランカップリング剤含有液」の代わりに、2−プロパノール10mL、純水0.2mL、酢酸0.005gを混合した液を用い、比較例1をトレースした。
水溶媒分散性試験の結果、銀微粉は分散せず、液中に沈殿した。
【0039】
《実施例2》
〔原料銀微粉の合成〕
比較例1と同様の方法で原料銀微粉を合成し、それが分散した原料銀インクを得た。すなわちこの例では、「オレイルアミンを成分とし、オレイン酸を含まない有機保護材」を粒子表面に有する原料銀微粉が分散した原料銀インク(金属銀濃度;約70質量%)を使用した。この例で得られた原料銀微粉のDTEMは8.98nmであった。
【0040】
〔アミノカルボン酸による表面処理〕
アミノカルボン酸として12−アミノドデカン酸(HOOC(CH2)11NH2)を0.01g秤量し、これと、純水0.5mL、水酸化ナトリウム0.002gを10分間超音波混合した液(12−アミノドデカン酸含有液)を用意した。
【0041】
上記12−アミノドデカン酸含有液の全量を、上記原料銀インク0.01gに添加し、超音波混合を20分間行った。この液を上記遠心分離機にて3000rpmで10分間遠心分離して固形分を回収した。この固形分にトルエン10mLを加え、超音波洗浄を10分間行い、その後、上記遠心分離機にて3000rpmで10分間の遠心分離を行い、固形分を回収した。
【0042】
〔水溶媒分散性試験〕
この固形分に純水100mLを添加し、液を撹拌したところ、沈殿物のない透明な分散液となった。この液における銀ナノ粒子のTEM写真を図3に例示する。
この液を30日間室温で放置した結果、液に濁り、沈殿は生じなかった。すなわち、この例で得られた銀微粉は極めて良好な水溶媒分散性を呈することが確認された。
【0043】
《比較例4》
12−アミノドデカン酸を使用しなかったことを除き、実施例2と同様の実験を行った。すなわちこの例では、実施例2の「12−アミノドデカン酸含有液」の代わりに、純水0.5mL、水酸化ナトリウム0.002gを10分間超音波混合した液を用い、実施例2をトレースした。
水溶媒分散性試験の結果、銀微粉は分散せず、液中に沈殿した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1における水溶媒中の銀ナノ粒子のTEM写真。
【図2】比較例1における水溶媒中の銀ナノ粒子のTEM写真。
【図3】実施例2における水溶媒中の銀ナノ粒子のTEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンと分子量200〜400の脂肪酸とを成分とする有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末を、液状有機媒体中に分散させた状態で、アミノ基を有するシランカップリング剤と混合することにより、銀粒子表面に親水性を付与する水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項2】
分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンと分子量200〜400の脂肪酸とを成分とする有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末を、液状有機媒体中に分散させた状態で、アミノ基を有するシランカップリング剤と混合することにより、銀粒子表面に親水性を付与する工程、
前記親水性を付与した銀粒子の粉末を、有機溶媒を用いて洗浄し、洗浄後の銀粒子の粉末を固形分として回収する工程、
を有する水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項3】
銀粒子の粉末とシランカップリング剤との混合は、超音波混合とする請求項1または2に記載の水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項4】
アミノ基を有するシランカップリング剤は、アミノアルキルトリアルコキシシランである請求項1〜3のいずれかに記載の水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項5】
前記1級アミンは、オレイルアミンである請求項1〜4のいずれかに記載の水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪酸は、オレイン酸である請求項1〜5のいずれかに記載の水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項7】
分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンを成分とする有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末を、液状有機媒体中に分散させた状態で、HOOC(CH2)nNH2で表される直鎖アミノカルボン酸と混合することにより、銀粒子表面に親水性を付与する水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項8】
分子量200〜400の不飽和結合を有する1級アミンを成分とする有機保護材を表面に有し、TEM観察により求まる平均粒子径DTEMが20nm以下である銀粒子の粉末を、液状有機媒体中に分散させた状態で、HOOC(CH2)nNH2で表される直鎖アミノカルボン酸と混合することにより、銀粒子表面に親水性を付与する工程、
前記親水性を付与した銀粒子の粉末を、有機溶媒を用いて洗浄し、洗浄後の銀粒子の粉末を固形分として回収する工程、
を有する水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項9】
銀粒子の粉末と直鎖アミノカルボン酸との混合は、超音波混合とする請求項7または8に記載の水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項10】
直鎖アミノカルボン酸は、12−アミノデカン酸である請求項7〜9のいずれかに記載の水溶媒分散性銀微粉の製造方法。
【請求項11】
前記1級アミンは、オレイルアミンである請求項7〜10のいずれかに記載の水溶媒分散性銀微粉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65267(P2010−65267A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232077(P2008−232077)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】