説明

水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物及びその製造方法

【課題】耐蝕性、耐水性、乾燥性、撥水性及び水分散性に優れた水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物及び水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物の製造方法の提供。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂と分子内不飽和結合を有する第1の脂肪酸をエステル化反応させて生成したエポキシエステル化合物に、ビニルモノマーと分子内二重結合を有する第2の脂肪酸を投入して重合させた後、塩基性中和剤で中和させた中和物、及び水を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料に含まれる水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料は、樹脂、顔料、溶剤、添加剤などから構成され、各種製品の基材保護や外観向上などを目的として使用される。その中、基材保護は、塗料の最も重要な用途であるため、塗料には、種々の用途に合致した物性を有する塗膜を形成できることが求められている。例えば、自動車部品や船舶などの金属製品に塗装される塗料は、水などによる金属基材の腐食を防止するため、耐水性、耐蝕性、乾燥性などに優れた塗膜を形成できることが求められている。
【0003】
樹脂は、塗料の物性に最も大きな影響を及ぼすもので、耐水性、耐蝕性、乾燥性及び水分散性(水に分散される性質)に優れた樹脂組成物を開発するため、種々の研究が行われているが、油溶性樹脂組成物に比べ、産業界で求められるレベルの物性を有する水溶性樹脂組成物や水性塗料の開発は、未だ初期段階にある。
即ち、水性塗料は、樹脂が水性媒体中に溶解又は分散されるもので、樹脂を水性媒体中に分散させる方法としては、乳化剤を使用する方法が挙げられるが、乳化剤を多量使用した水性塗料は、得られる塗膜の耐水性及び耐蝕性に劣るという問題点がある。その他、樹脂中に多量の親水性基を導入して樹脂を分散させる方法が挙げられるが、同じく、耐蝕性に優れた塗膜が得られないという問題がある。
【0004】
このような問題点を改善するため、一定量の有機溶剤を併用して樹脂組成物を製造することにより、親水性基の導入量や乳化剤の使用量を抑制しながらも樹脂組成物の水分散性を維持することができ、且つ塗料の耐水性及び耐食性を向上することができる技術が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この技術では、10重量%以上の有機溶剤を使用しなければ、顔料の分散安定性が大きく低下し、また粒子が凝集して沈降などが起こるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−119245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、産業界で求められているレベルの物性、具体的には、耐蝕性、耐水性、乾燥性、撥水性及び水分散性に優れた水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物及び水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、エポキシ樹脂と分子内不飽和結合を有する第1の脂肪酸をエステル化反応させて生成したエポキシエステル化合物に、ビニルモノマーと分子内二重結合を有する第2の脂肪酸を投入して重合させた後、塩基性中和剤で中和された中和物、及び水を含む水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物であって、
前記第1の脂肪酸が、大豆油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、キリ油脂肪酸、ぬか油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸及びサフラワー油脂肪酸からなる群から選択され、
前記第2の脂肪酸が、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、エラエオステアリック酸及びリカン酸からなる群から選択され、
前記ビニルモノマーが、スチレン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボニル(メタ)アクリレートからなる群から選択されることを特徴とする水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物を提供する。
【0008】
本発明の水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物は、固体状添加剤又は親油性添加剤を更に含むことができる。
なお、本発明に係る水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物の固形分含量は、前記樹脂組成物100重量部を基準にして37重量部〜45重量部が好ましく、40重量部〜43重量部がより好ましい。このとき、前記固形分とは、樹脂組成物に含まれた水及び有機溶剤を除外した固体成分と定義され、固形分含量とは、水への分散がなされた後に測定した含量と定義される。
【0009】
また、本発明は、(a)エポキシ樹脂を分子内不飽和結合を有する第1の脂肪酸とエステル化反応させてエポキシエステル化合物を生成するステップ、
(b)上記のステップ(a)で生成したエポキシエステル化合物にビニルモノマーと分子内二重結合を有する第2の脂肪酸を投入して重合させるステップ、
(c)上記のステップ(b)で重合された重合物を塩基性中和剤で中和させるステップ、及び
(d)上記のステップ(c)で中和された中和物を水に分散させるステップ、
を含む水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の脂肪酸が、大豆油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、キリ油脂肪酸、ぬか油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸及びサフラワー油脂肪酸からなる群から選択され、
前記第2の脂肪酸が、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、エラエオステアリック酸及びリカン酸からなる群から選択され、
前記ビニルモノマーが、スチレン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボニル(メタ)アクリレートからなる群から選択されることを特徴とする製造方法を提供する。
【0010】
更に、本発明は、上記の製造方法で製造された樹脂組成物を含む塗料を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、エポキシエステル化合物とビニルモノマーとの重合過程で第2の脂肪酸を投入することで固形分含量の高い樹脂組成物を製造しており、このような固形分含量の高い樹脂組成物を塗料に使用する場合は、後塗膜が円滑に形成されるため、塗膜の耐蝕性、耐水性を向上させることができ、塗料の乾燥性を高くすることができる。
また、本発明の水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物は、固体状添加剤又は親油性添加剤を含むことができるため、このような樹脂組成物を塗料に使用する場合は、耐水性、撥水性及び乾燥性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
<水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物及びその製造方法>
本発明に係る水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物(以下「樹脂組成物」と略する)は、エポキシ樹脂、第1の脂肪酸、第2の脂肪酸、ビニルモノマー、塩基性中和剤、及び水を含み、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0013】
このような本発明の樹脂組成物は、まず、エポキシ樹脂を無溶剤或いは少量の有機溶剤の存在下で溶解させた後、分子内不飽和結合を有する第1の脂肪酸とエステル化反応させて生成したエポキシエステル化合物にビニルモノマーと第2の脂肪酸とを共重合させて重合物を製造し、次いで、当該重合物の末端に存在するカルボキシル基を塩基性中和剤で中和させた後、水に分散させる。以下、これについて詳述する。
【0014】
(a)エポキシエステル化合物の生成
本発明は、樹脂組成物を製造するため、エポキシ樹脂と第1の脂肪酸をエステル化反応させるステップを含む。
このとき、使用可能なエポキシ樹脂は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、好ましくは、分子量が350〜2,000のビスフェノールA型エポキシ樹脂(例えば、KUKDO化学社製のYD−128、YD−011、YD−012及びYD−014)、分子量が350〜2,000のフェノールノボラック型エポキシ樹脂(例えば、KUKDO化学社製のYDPN−631)、及び分子量が350〜2,000のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(例えば、KUKDO化学社製のYDCN−500−80P)からなる群から選択されることができる。また、錦湖P&B社製品、ベークライト製品などの同じグレードのエポキシ樹脂製品を適用することができる。
【0015】
なお、前記エポキシ樹脂の分子量が大きくなる場合は、エステル化反応により生成されるエポキシエステル化合物の粘度が上昇して水分散性が低下することがあり、逆にエポキシ樹脂の分子量が小さくなる場合は、水分散性が向上するが、最終塗膜の耐水性、耐蝕性及び乾燥性が低下することがあり得るため、使用されるエポキシ樹脂の分子量は、350〜2,000であることが好ましい。
また、エポキシエステル化合物の粘度が高くて水分散性が低下する場合、分散性を高くするため、エポキシ樹脂を溶解させる有機溶剤の使用量を増加させ、生成されるエポキシエステル化合物の粘度を下げることができるが、有機溶剤の使用量が増加するに従い最終産物のVOC(揮発性有機化合物)含量が増加してしまい、環境への悪影響が大きくなるため、エポキシ樹脂の分子量は、上記の範囲内であることが好ましい。
このようなエポキシ樹脂は、樹脂組成物100重量部を基準に、8重量部〜24重量部含まれることが好ましい。前記エポキシ樹脂の含有量が、8重量部未満であると、基材との密着性が低下して塗膜の耐蝕性及び耐水性が低下することがあり、24重量部を超えると、製造される樹脂組成物の粘度が上昇して固形分の樹脂組成物の製造が困難であり、塗料を適用するにあたって、流れ性の増大による付着性、耐蝕性などの低下が発生することがある。
【0016】
なお、前記エポキシ樹脂と第1の脂肪酸とを反応させるにあたって、液状のエポキシ樹脂(例えば、KUKDO化学社製のYD−128)を使用する場合は、エポキシ樹脂を溶解させる過程を行うことなく第1の脂肪酸と反応させることができるが、固体状のエポキシ樹脂を使用する場合は、有機溶剤に溶解させて第1の脂肪酸と反応させることが好ましい。
このとき、エポキシ樹脂を溶解させるために使用される有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばハイドロカーボン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系などが挙げられ、具体的には、石油スピリット、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、MEK、MIBK、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールなどが挙げられる。
【0017】
前記有機溶剤は、少量使用されるため、樹脂組成物の製造時に別の除去過程を行わなくてもよいが、最終産物のVOC含量を調節するためには、水に分散させる前に減圧蒸留の方法などで一部を除去することができる。具体的に、有機溶剤は、水分散性、樹脂組成物の粘度、塗料への適用時に顔料分散性及び塗膜形成能を考慮すると、樹脂組成物100重量部を基準に、2重量部〜8重量部含まれることが好ましい。
前記エポキシ樹脂とエステル化反応する第1の脂肪酸は、分子内不飽和結合を有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、分子内不飽和度を示すヨード価が100以上の(半)乾性油脂肪酸(詳しくは、ヨード価が100〜140のものは、半乾性油脂肪酸と、140を超えるものは、乾性油脂肪酸とみなされる)であることが好ましい。
前記第1の脂肪酸は、一次的に、分子の末端に存在するカルボキシル基がエポキシ樹脂とエステル反応し、二次的に、分子内不飽和結合が後でビニルモノマーとグラフト重合して形成される重合物の主鎖として作用するようになるが、このように第1の脂肪酸をエポキシ樹脂と反応させることで樹脂組成物の架橋密度が高くなり、塗膜の耐水性及び耐食性を向上させることができる。
【0018】
前記第1の脂肪酸としては、例えば、大豆油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、キリ油脂肪酸、ぬか油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸及びサフラワー油脂肪酸からなる群から選択されることができ、必要に応じて単独又は2種以上を混合して使用することができる。
前記第1の脂肪酸は、樹脂組成物100重量部を基準に、12重量部〜28重量部含まれることが好ましい。前記第1の脂肪酸の含有量が、12重量部未満であると、樹脂組成物の架橋密度が低下し、塗膜の形成時に耐水性及び耐蝕性が低下することがあり、28重量部を超えると、塗膜の乾燥性が低下することがある。
【0019】
(b)重合物の製造
本発明は、樹脂組成物を製造するため、前記エポキシエステル化合物にビニルモノマーと第2の脂肪酸を投入して重合反応させることで重合物を製造するステップを含む。
このとき、使用可能なビニルモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボニル(メタ)アクリレートからなる群から選択されることができる。
【0020】
前記ビニルモノマーは、ビニルモノマーに存在するビニル基の二重結合部分が前記エポキシエステル化合物に存在する不飽和結合部分とグラフト重合反応することで最終塗膜の乾燥性及び硬度を向上させることができ、ビニルモノマーに含まれた(メタ)アクリル酸に由来するカルボキシル基が、製造された重合物の水への分散時に親水性基として作用することで重合物の水分散性を更に向上させることができる。
前記ビニルモノマーは、水分散性、塗膜の強度、乾燥性、耐水性などを考慮すると、樹脂組成物100重量部を基準に、6重量部〜22重量部含まれることが好ましい。
【0021】
なお、エポキシエステル化合物とビニルモノマーとのグラフト重合の際に重合開始剤が用いられる。使用可能な重合開始剤は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2,2−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物やベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの過酸化物が挙げられ、これらは、単独又は2種以上を混合して使用することができる。なお、前記重合開始剤の使用量は、特に限定されない。
【0022】
また、本発明は、樹脂組成物の固形分含量を高めるため、エポキシエステル化合物とビニルモノマーとの重合反応の際に第2の脂肪酸を添加する。即ち、前記エポキシエステル化合物とビニルモノマーとのグラフト重合の際に分子内二重結合を有する第2の脂肪酸を添加すると、第2の脂肪酸が持っている二重結合がビニルモノマーのビニル基と重合することで樹脂組成物に含まれる親水性成分(例えば、水)と親油性成分(例えば、有機溶剤)との混合を促進するような乳化剤の役割を果たし、これにより、製造される樹脂組成物の粘度が低下し、固形分含量の高い樹脂組成物を製造することができる。
【0023】
通常、固形分含量の高い樹脂組成物を塗料に使用する場合は、後塗膜が円滑に形成され、塗膜の耐蝕性、耐水性などを向上させることができるが、本発明では、樹脂組成物の製造時、第2の脂肪酸を含めることで、固形分含量の高い樹脂組成物、具体的には、固形分の含量が37重量%〜45重量%、好ましくは、40重量%〜43重量%である樹脂組成物を製造することができ、これにより、塗膜の耐蝕性及び耐水性を向上させることができる。
また、グラフト重合の際に第2の脂肪酸を添加して重合物を製造すると、第2の脂肪酸に存在するカルボキシル基(ただし、カルボキシル基は、重合反応に関与せず、重合物の末端に存在する)が親水性基として作用するため、製造された重合物を後で水へ分散させるにあたって水分散性を更に向上させることができる。
【0024】
前記第2の脂肪酸は、分子内少なくとも1つの二重結合を有する物質から構成された1塩基酸であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、エラエオステアリック酸及びリカン酸からなる群から選択することができ、必要に応じて単独又は2種以上を混合して使用することができる。また、場合によっては、前記第1の脂肪酸と同様なものを使用することができる。
前記第2の脂肪酸は、樹脂組成物100重量部を基準に、0.8重量部〜3重量部含まれることが好ましい。前記第2の脂肪酸の含有量が、0.8重量部未満であると、樹脂組成物の粘度低下効果が得られないことがあり、3重量部を超えると、樹脂組成物の安定性が低下することがあり得る。
【0025】
(c)中和物の製造
本発明は、樹脂組成物を製造するため、上記のように得られた重合物を塩基性中和剤で中和させるステップを含む。即ち、塩基性中和剤は、前記エポキシエステル化合物に前記ビニルモノマーと前記第2の脂肪酸とを重合させた重合物の末端に存在するカルボキシル基を中和させる役割を果たす。このとき、中和されるカルボキシル基は、具体的に、前記ビニルモノマーに含まれた(メタ)アクリル酸に由来するカルボキシル基及び前記第2の脂肪酸が持っているカルボキシル基である。
【0026】
このとき、塩基性中和剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、アンモニア、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどを使用することができ、必要に応じて単独又は2種以上を混合して使用することができる。
なお、塩基性中和剤で中和する前、前記重合物の酸価は、20mgKOH/g〜55mgKOH/g程度であり、このように前記重合物は、低酸価であっても中和過程を経ることで水に安定的に分散され、後で顔料の分散安定性を向上させることができ、低酸価の重合物を含む樹脂組成物を塗料に使用すると、耐水性及び耐蝕性が向上した塗膜が得られる。
上記のように製造された前記中和物は、2,000〜15,000の数平均分子量を有することができる。
【0027】
(d)水への分散
本発明は、樹脂組成物を製造するため、上記のように製造した中和物を水に分散させるステップを含む。
本発明では、樹脂組成物を製造することにあたって、前記中和物を水に分散させる前、固体状添加剤又は親油性添加剤(例えば、ワックス又は親油性金属ドライヤなど)を更に投入して分散が安定的になされた樹脂組成物を製造することができ、固体状添加剤又は親油性添加剤が含まれることで、最終塗膜の乾燥性、耐水性、及び撥水性を向上させることができる。
以上のような本発明の樹脂組成物は、100cps〜20,000cpsである範囲の粘度を示すことができる。但し、本発明に係る樹脂組成物の粘度と固形分含量は、前記重合物の酸価、樹脂組成物に含まれる有機溶剤及び塩基性中和剤の種類と量に応じて変化させることができる。
【0028】
<塗料>
本発明は、上記のような樹脂組成物を含む塗料、具体的には、水性塗料を提供することができる。なお、本発明の塗料は、前記樹脂組成物の他に、顔料、金属ドライヤ、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを含むことができる。
本発明の塗料に含まれる顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄などの金属酸化物、アルミニウムフレーク、雲母、ケイ酸塩類、硫酸バリウム、炭酸カリシウム等の無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ベンゾイミダゾロン、スレン、ペリレン等の有機顔料などが挙げられ、これらを単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0029】
前記金属ドライヤは、塗料の乾燥性を向上させる触媒の役割を果たすもので、このような金属ドライヤを含むことで耐水性及び耐蝕性が向上した塗膜を形成することができる。使用可能な金属ドライヤとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトライソプロピルチタネート、ジブチルスズラウレート、ジブチルスズアセテート、ジブチルスズジオクテート、ナフテン酸コバルト等の金属化合物類などが挙げられる。
【0030】
本発明の塗料に含まれる紫外線吸収剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物などが挙げられる。
【0031】
本発明の塗料は、基材にブラシ又はローラなどを用いて塗装を行い、次いで、自然乾燥することで塗膜を形成することができる。具体的に、塗料を基材に塗装する方法としては、スプレー法、静電法、電着法などの方法が挙げられる。
なお、本発明の塗料を塗装することができる基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属基材、プラスチック基材、木質基材、ガラス基材、スレート基材、紙やゴムなどの種々の分野で一般に使用できる基材などが挙げられる。
【0032】
このような本発明の塗料は、本発明の前記樹脂組成物を含んでいるため、本発明の塗料による塗装物は、耐蝕性、耐水性、撥水性などに優れた塗膜が得られる。前記塗装物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば自動車、電車、自転車、船舶、飛行機や、テレビ、ラジオ、冷蔵庫、洗濯機、クーラー、クーラー室外機、コンピュータなど、又はこれらに使用される金属やプラスチック製の部品、瓦、屋根材料、壁材料、窓枠、ドア、道路、道路標識、ガードレール、橋梁、タンク、煙突、ビルなどが挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述するが、本発明は、これらに限定されない。
【0034】
[実施例1]
コンデンサ、温度計、還流水分離装置、及び滴下漏斗を備え、窒素の供給と温度調節及び攪拌が可能な4つ口フラスコに、亜麻仁油脂肪酸6.0重量部、ヒマワリ油脂肪酸6.0重量部、YD−128(KUKDO化学社製、ビスフェノールA型エポキシ)5.5重量部、YD−014(KUKDO化学社製、ビスフェノールA型エポキシ)6.5重量部、無水マレイン酸0.5重量部、及びキシレン1.3重量部を定量投入した後、混合攪拌しながら180℃に昇温した。生成水が流出し始めると、キシレンを還流させ、脱水状態を確認しながら230℃にまで昇温し、反応部温度を5時間維持しながらエステル化反応を行った。反応物の酸価が20mgKOH/g〜23mgKOH/gになる時点で減圧して還流溶剤として使用されたキシレンの回収を開始し、回収量が投入量の90%以上になるまで回収を行った後、冷却した。このとき、反応物の酸価は、15mgKOH/g〜17mgKOH/gであり、150℃以下でブチルセロソルブ3.5重量部を更に加えて希釈し、エポキシエステル化合物を得た。
次いで、温度を130℃に維持し、前記反応部にリノール酸1.5重量部、スチレン15.5重量部、アクリル酸1.5重量部、及びDTBP 1.0重量部を別に混合し、この混合液を3時間かけて注入し、6時間更に反応させて重合物を得た。
次いで、溶液を70℃にまで冷却し、反応部にトリエチルアミン(TEA)2.0重量部を加えて中和し、イオン交換水49.2重量部を少量ずつ添加して水分散させ、乳白色の水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物を製造した。
【0035】
[実施例2]
実施例1において、下記の表1に示す含量を適用した以外は、実施例1と同様にして、水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物を製造した。
【0036】
[実施例3]
実施例1において、下記の表1に示す含量を適用し、実施例1で得られた重合物に親油性添加剤であるMPP−620XFを付加した後、中和させた以外は、実施例1と同様にして、水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物を製造した。
【0037】
[比較例1]
実施例3において、第2の脂肪酸に該当するリノール酸を除外し、下記の表1に示す含量を適用した以外は、実施例3と同様にして、水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物を製造した。
【0038】
[比較例2]
比較例1において、親油性添加剤であるMPP−620XFを除外し、下記の表1に示す含量を適用した以外は、比較例1と同様にして、水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物を製造した。
【0039】
【表1】

【0040】
[試験例1]
上記の実施例1〜3及び比較例1〜2で製造した水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物の物性を下記のような方法で評価した。結果を表2に示す。
【0041】
1.固形分含量(不揮発分)
内径が約80mmのフラットな皿に、上記で製造したそれぞれの樹脂組成物を採取して円滑に乾燥されるように一様に広げた後、恒温器(105℃±2℃)に入れ、3時間乾燥させた後、下記の数式1によって固形分含量を測定した。
<数式1>
N=100−(A−B)/C×100
ただし、式中、Nは、固形分含量(%)を示し、Aは、皿と乾燥前の樹脂組成物との重量(g)、Bは、加熱後の皿と樹脂組成物との重量(g)、Cは、採取した樹脂組成物の重量(g)を示す。
【0042】
2.数平均分子量
ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)で数平均分子量を測定した。なお、GPC機器の品名は、ワタース410(waters410)で、検出器は、RI、コラムは、Shodex KT−802、803、804、805、溶離剤は、テトラヒドロフラン(THF)を使用した。
【0043】
3.水分散安定性
水分散終了後、透明なサンプル瓶に入れて恒温器(60℃±2℃)で14日間保管した後、それぞれの樹脂組成物の状態を目視で判定し、粘度の変化程度によって下記のような4つの基準で評価した。
1)樹脂組成物の外観変化が認められなく、粘度変化が初期の50%未満:◎
2)樹脂組成物の外観変化が認められなく、粘度変化が初期の50%以上100%未満:○
3)樹脂組成物の外観変化が認められるか又は粘度変化が初期の100%以上:△
4)沈殿物が観察されるか又は水層が分離される:×
【0044】
【表2】

表2の結果から、本発明に係る樹脂組成物(実施例1〜3)は、固形分含量が高く、水分散安定性が比較例1〜2の樹脂組成物に比べて良好であることが確認された。
【0045】
[製造例1]
実施例1で製造した樹脂組成物に、酸化チタン(Dupont、Ti−pure R−706)、炭酸カリシウム(Korea Calcium)、分散剤(BYK、BYK−190)、及び消泡剤(BYK、BYK−021)を下記の表3に示す含量で混合してサンドミルで1時間軟化した。得られた軟化物にドライヤ(JINYANG CHEM.、AMD−60)、沈降防止剤(Sud−Chemie、Optical LX)、及び増粘剤(Rohm&haas、RM−825)を下記の表3に示す含量で攪拌及び混合して水性塗料を製造した。
【0046】
[製造例2]
製造例1において、実施例1で製造した樹脂組成物に代えて実施例2で製造した樹脂組成物を使用した以外は、製造例1と同様にして、水性塗料を製造した。
【0047】
[製造例3]
製造例1において、実施例1で製造した樹脂組成物に代えて実施例3で製造した樹脂組成物を使用した以外は、製造例1と同様にして、水性塗料を製造した。
【0048】
[製造例4]
製造例1において、実施例1で製造した樹脂組成物に代えて比較例1で製造した樹脂組成物を使用した以外は、製造例1と同様にして、水性塗料を製造した。
【0049】
[製造例5]
製造例1において、実施例1で製造した樹脂組成物に代えて比較例2で製造した樹脂組成物を使用した以外は、製造例1と同様にして、水性塗料を製造した。
【0050】
【表3】

【0051】
[試験例2]
上記の製造例1〜5で製造した水性塗料を下記のような方法で評価した。結果を表4に示す。
【0052】
1.乾燥性(固化)
指触乾燥試験と同様な試験片を用意し、常温で水平に置き、乾燥させながら手で強く擦っても塗膜が剥がれない時点を判定し、その程度によって下記の4つの基準で評価した。
1)乾燥時間が8時間未満:◎
2)乾燥時間が8時間以上12時間未満:○
3)乾燥時間が12時間以上16時間未満:△
4)乾燥時間が16時間以上:×
【0053】
2.60°光沢度
KS M 5000−3312の塗料の60°鏡面光沢度試験方法で光沢計を用いて入射角と水平角がそれぞれ60°である時の反射率を測定し、標準のガラス表面の鏡面光沢度を100とする時の百分率で表示し、5回測定した平均値をもって評価した。
【0054】
3.耐水性
試験片に塗膜を80μm塗装し、常温で24時間乾燥して得られた塗装板を常温の水中に3日間浸漬した後、塗膜のふくれ、接着性低下、塗膜の軟質化又は硬質化、剥離程度を目視で判定し、その程度によって下記の4つの基準で評価した。
1)塗膜に異常が認められない:◎
2)塗膜に微細なふくれが認められる:○
3)塗膜のふくれが認められるが、剥離は認められない:△
4)塗膜のふくれ及び剥離が認められる:×
【0055】
4.耐食性
試験片の塗膜に素地が表われるようにクロスカットを施し、塩水噴霧試験機(35℃±2℃、5%塩化ナトリウム水溶液)で200時間試験を行った後、塗膜の剥離及び腐食程度を目視で判定し、クロスカット部の発錆程度によって下記の4つの基準で評価した。
1)クロスカット部に発錆が認められない:◎
2)クロスカット部に発錆が0.5mm未満認められる:○
3)クロスカット部に発錆が0.5mm異常1mm未満認められる:△
4)クロスカット部に発錆が1mm以上認められる:×
【0056】
【表4】

表4の結果から、本発明の樹脂組成物で製造された水性塗料(製造例1〜3)は、製造例4〜5で製造された水性塗料に比べて優れた乾燥性、耐水性、及び耐食性が得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と分子内不飽和結合を有する第1の脂肪酸をエステル化反応させて生成したエポキシエステル化合物に、ビニルモノマーと分子内二重結合を有する第2の脂肪酸を投入して重合させた後、塩基性中和剤で中和された中和物、及び水を含む水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物であって、
前記第1の脂肪酸が、大豆油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、キリ油脂肪酸、ぬか油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸及びサフラワー油脂肪酸からなる群から選択され、
前記第2の脂肪酸が、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、エラエオステアリック酸及びリカン酸からなる群から選択され、
前記ビニルモノマーが、スチレン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボニル(メタ)アクリレートからなる群から選択されることを特徴とする水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂が、分子量がそれぞれ350〜2,000であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選択される請求項1に記載の水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂組成物の固形分含量は、前記樹脂組成物100重量部を基準にして37重量部〜45重量部である請求項1から2のいずれかに記載の水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物。
【請求項4】
水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物100重量部を基準に、
エポキシ樹脂8重量部〜24重量部、
第1の脂肪酸12重量部〜28重量部、
第2の脂肪酸0.8重量部〜3重量部、
ビニルモノマー6重量部〜22重量部、
塩基性中和剤1重量部〜5重量部、及び
水 残量
を含む請求項1から3のいずれかに記載の水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物。
【請求項5】
(a)エポキシ樹脂を分子内不飽和結合を有する第1の脂肪酸とエステル化反応させてエポキシエステル化合物を生成するステップ、
(b)上記のステップ(a)で生成したエポキシエステル化合物にビニルモノマーと分子内二重結合を有する第2の脂肪酸を投入して重合させるステップ、
(c)上記のステップ(b)で重合された重合物を塩基性中和剤で中和させるステップ、及び
(d)上記のステップ(c)で中和された中和物を水に分散させるステップ、
を含む水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物の製造方法であって、
前記第1の脂肪酸が、大豆油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、キリ油脂肪酸、ぬか油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸及びサフラワー油脂肪酸からなる群から選択され、
前記第2の脂肪酸が、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、エラエオステアリック酸及びリカン酸からなる群から選択され、
前記ビニルモノマーが、スチレン、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソ−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボニル(メタ)アクリレートからなる群から選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
ステップ(a)におけるエポキシ樹脂は、有機溶剤に溶解させた後、第1の脂肪酸と反応させる請求項5に記載の水溶性のアクリル変性エポキシエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法で製造される樹脂組成物を含み、塗膜を形成することを特徴とする塗料。

【公開番号】特開2011−122155(P2011−122155A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275042(P2010−275042)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500305117)三和ペインツ工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】