説明

水溶性アゾ化合物又はその塩、インク組成物及び着色体

【課題】インクジェット記録に適する高い鮮明性をもつ色相を有し、且つ記録物の各種堅牢性が高く、又インク組成物を調製した時のインク組成物の保存安定性に優れたイエロー色素、及びこれを含有するインク組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される水溶性アゾ化合物又はその塩、及びこれを含有するインク組成物を用いることにより、インクジェット記録に適する鮮明性と色相を有し、記録物の各種堅牢性が高く、記録画像の保存安定性等にも優れたインク組成物が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性のジスアゾ化合物又はその塩、これを含有するインク組成物及びこれにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法は、インクの吐出方式が各種開発されているが、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材料とが直接接触しない為、音の発生がなく静かであり、また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、水溶性の染料を水性媒体に溶解したインクが使用されており、これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性の有機溶剤が添加されている。これらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また形成される記録画像には、耐水性、耐湿性、耐光性、および耐ガス性等の堅牢度が求められている。
インクジェットのノズル詰まりは、ノズル付近でインク中の水分が他の溶剤や添加剤よりも先に蒸発し、水分が少なく溶剤や添加剤が多いという組成状態になったときに色素が結晶化し析出することに由来するものが多い。よって、インク中の水分が少ない状態になった場合においても結晶が析出しにくいということが非常に重要な要求性能の一つである。この理由から、溶剤や添加剤に対する高い溶解性も色素に求められる性質のひとつである。
【0003】
ところで、コンピューターのカラーディスプレー上の画像又は文字情報をインクジェットプリンタによりカラーで記録するには、一般にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクによる減法混色が用いられ、これにより記録画像がカラーで表現される。CRT(ブラウン管)ディスプレー等におけるレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)による加法混色画像を減法混色画像で出来るだけ忠実に再現するには、インクに使用される各色素、中でもY、M、Cのそれぞれが、標準に近い色相を有し且つ鮮明であることが望まれる。又、インクは長期の保存に対して安定であり、また前記のようにプリントした画像の濃度が高く、しかもその画像が耐水性、耐湿性、耐光性及び耐ガス性等の堅牢度に優れている事が求められる。
【0004】
近年のインクジェット技術の発達により、インクジェット印刷のスピードの向上がめざましく、電子トナーを用いたレーザープリンタと同様に、オフィス環境での主用途である普通紙へのドキュメントの印刷に、インクジェットプリンタを用いる市場の動きがある。インクジェットプリンタは記録紙の種類を選ばない、機械の価格が安いという利点があり、特にスモールオフィス・ホームオフィス(SOHO)等の小〜中規模オフィス環境で普及が進んでいる。このように普通紙への印刷用途でインクジェットプリンタを使用する場合、印刷物に求められる品質の中では、色相、発色濃度及び耐水性がより重視される傾向がある。これらの性能を満たす為に顔料インクを用いるという方法が提案されているが、顔料インクは色素が水性インク中には溶解しない、分散状態のインクであるため、これを用いるとインク自体の安定性の問題や記録ヘッドのノズル詰まりの問題などが生じる。また、顔料インクを使用した場合、耐擦性にも問題が出ることが多い。染料インクの場合このような問題は比較的起こりにくいとされるが、特に耐水性において顔料インクと比較して著しく劣り、それに対する改良が強く望まれている。また、染料インクは顔料インクと異なり、普通紙の表面に印刷された後における、紙の深さ方向への浸透が速く、発色濃度が低下するという問題が起こりやすい。
【0005】
普通紙上での耐水性向上という問題に対しては古くから多くの提案がなされている。耐水性に優れ、色相や耐光性などの改良を行ったインクジェット用のイエロー色の色素としては、例えば特許文献1に記載の染料が提案されている。特許文献1に記載の染料は、特定の種類の普通紙に対しては耐水性が非常に優れているが、市販されている数多くの種類の普通紙に対して、幅広く、その高い耐水性が発揮されているとは言えない。また、特許文献1に記載の染料は、印刷した際のイエロー色としての彩度が低く、特に普通紙上では色出し範囲が狭くなってしまう。更に、特許文献1に記載の染料は普通紙上でのイエロー色としての発色濃度が低いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−233975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は水又は水溶性有機溶剤に対する溶解性が高く、記録紙の種類、すなわち普通紙又は光沢紙のいずれに記録した場合であっても、インクジェット記録に適する色相と彩度を有し、印字濃度が高く、且つ記録物の耐光性及び耐水性に優れた水溶性のイエロー色の色素(化合物)及びそれを含有するインク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、特定の式で表される水溶性ジスアゾ化合物及びそれを含有するインク組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち本発明は、
1)下記式(1)で表される水溶性アゾ化合物又はその塩、
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、RはC1−C4アルキル基、nは1又は2、xは2から4の整数、m及びpは、それぞれ独立に1から3の整数を、それぞれ表す。)、
【0011】
2)
式(1)において、Rがメチル基であり、nが1であり、xが3であり、m及びpが1である上記1)に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩、
3)
下記式(2)で表される上記1)に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩、
【0012】
【化2】

【0013】
4)
上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩を含有するインク組成物、
5)
水溶性有機溶剤をさらに含有する上記4)に記載のインク組成物、
6)
インクジェット記録用である上記4)又は5)に記載のインク組成物、
7)
上記4)乃至6)のいずれか一項に記載のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させ、記録を行うインクジェット記録方法、
8)
被記録材が情報伝達用シートである上記7)に記載のインクジェット記録方法、
9)
情報伝達用シートが普通紙又は多孔性白色無機物を含むインク受容層を有するシ−トである上記8)に記載のインクジェット記録方法、
10)
(a)上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩、
(b)上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩を含有するインク組成物、又は、
(c)上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩及び水溶性有機溶剤を含有するインク組成物のいずれかにより着色された着色体、
11)
着色がインクジェットプリンタによりなされた上記10)に記載の着色体、
12)
上記4)に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記式(1)で表される水溶性アゾ化合物又はその塩は、水や水溶性有機溶剤に対する溶解性に優れる。またインク組成物を製造する過程での、例えばメンブランフィルターに対するろ過性が良好という特徴を有し、普通紙及びインクジェット専用紙上で非常に鮮明で、彩度の高い高濃度なイエロー色の色相を与える。又、この化合物を含有する本発明のインク組成物はイエロー色の色相として理想的な色相であり、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。
更に本発明のインク組成物は、従来の染料インクと比較して、記録紙の種類、すなわち普通紙又はインクジェット専用紙を問わず、耐水性及び耐光性が良好であり、写真調の記録画像の長期保存安定性にも優れている。このように、式(1)の水溶性アゾ化合物はインク用、特にインクジェット記録インク用のイエロー色の色素として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を詳細に説明する。
本発明の式(1)の水溶性アゾ化合物又はその塩は、水溶性の黄色色素である。尚、本明細書においては特に断りがない限り、スルホ基およびカルボキシ基などの酸性官能基は遊離酸の形で表す。
また本発明は、上記の通り、式(1)で表される化合物又は該化合物の塩の両者を含むものであるが、両者を常に「化合物又はその塩」等と併記するのは煩雑である。このため特に断りがない限り、便宜上、本発明の「化合物又はその塩」の両者を含めて単に「化合物」と簡略して、以下記載する。
【0016】
本発明の化合物は上記式(1)で表される。
式(1)中、RにおけるC1−C4アルキル基としては、直鎖、分岐鎖又は環状のものが挙げられ、直鎖又は分岐鎖のものが好ましく、直鎖のものがより好ましい。具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルといった分岐鎖のもの;シクロプロピル、シクロブチルといった環状のもの;が挙げられる。特に好ましくはメチルである。
【0017】
式(1)においてnは1又は2を表し、好ましくは1である。なお、−(CO2H)nで表されるカルボキシ基の置換位置は特に制限されず、アゾ基に対して、オルト位、メタ位又はパラ位の何れでもよいが、好ましくはnが1のときメタ位、nが2のとき2つのメタ位に置換するのがよい。
xは2から4を表し、好ましくは3である。
【0018】
式(1)におけるm及びpは、それぞれ独立に1から3の整数を表す。m及びpは同じ数であるのが好ましく、両者が共に1であるのがより好ましい。
【0019】
式(1)における置換位置が特定されていない、スルホ基の置換位置は特に制限されず、アゾ基に対してオルト位、メタ位又はパラ位の何れでもよいが、好ましくはパラ位である。
【0020】
上記のR、n、x、m及びpのうち、好ましいものを組み合せた化合物はより好ましく、より好ましいものを組み合せた化合物はさらに好ましい。好ましいものと、より好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0021】
上記式(1)の化合物は遊離酸、あるいはその塩としても存在する。上記式(1)の化合物の塩としては、無機又は有機の陽イオンとの塩が挙げられる。無機陽イオンの塩の具体例としてはアルカリ金属塩、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩、及びアンモニウム塩が挙げられる。また、有機の陽イオンとしては、たとえば下記式(3)で表される4級アンモニウムが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
【化3】

【0023】
上記式(3)中、Z1〜Z4はそれぞれ独立に水素原子、C1−C4アルキル基、ヒドロキシC1−C4アルキル基又はヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基を表わし、Z1〜Z4の少なくとも1つは水素原子以外の基である。
【0024】
ここで、Z1〜Z4における上記アルキル基の例としてはメチル、エチル等があげられ、同じく上記ヒドロキシアルキル基の例としてはヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等があげられ、更に上記ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−(ヒドロキシエトキシ)プロピル、3−(ヒドロキシエトキシ)ブチル、2−(ヒドロキシエトキシ)ブチル等が挙げられる。
【0025】
前記塩のうち好ましいものは、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンの塩等の有機の4級アンモニウム塩;及び、アンモニウム塩;等が挙げられる。これらのうち、より好ましくは、リチウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩であり、アンモニウム塩がさらに好ましい。
【0026】
当業者においては明らかなように、前記式(1)の化合物の塩又は遊離酸は以下の方法などにより容易に得ることができる。
例えば、式(1)の化合物の合成反応における、最終工程終了後の反応液、あるいは式(1)の化合物を含むウェットケーキ又は式(1)の化合物の乾燥品などを溶解した水溶液に食塩を加えて塩析し、析出固体を濾過することにより、前記式(1)の化合物のナトリウム塩をウェットケーキとして得ることができる。
又、得られたナトリウム塩のウェットケーキを水に溶解後、塩酸などの酸を加えてそのpHを適宜調整し、析出した固体を濾過することにより、前記式(1)の化合物の遊離酸を、あるいは式(1)の化合物の一部がナトリウム塩である遊離酸とナトリウム塩の混合物を得ることもできる。
また、得られたナトリウム塩のウェットケーキ又はその乾燥品を水に溶解後、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩を添加し、塩酸などの酸を加えてそのpHを適宜、例えばpH1〜3に調整し、析出した固体を濾過することにより、前記式(1)の化合物のアンモニウム塩を得ることができる。添加する塩化アンモニウムの量又は/及びpHを適宜調整することにより、式(1)の化合物のアンモニウム塩と式(1)の化合物のナトリウム塩との混合物、又は式(1)の化合物の遊離酸とアンモニウム塩との混合物等を得ることもできる。
また、後記するように上記反応終了後の反応液に、鉱酸を加えて直接遊離酸の固体を得ることもできる。この場合には、式(1)の化合物の遊離酸のウェットケーキを水と共に撹拌しながら、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水又は式(3)の水酸化物等を添加してアルカリ性にすれば、各々添加した化合物に応じたカリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、又は4級アンモニウムの塩を得ることもできる。遊離酸のモル数に対して、加える上記の塩のモル数を制限することにより、例えばリチウム塩とナトリウム塩の混塩など、さらにはリチウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩の混塩なども調製することが可能である。
上記式(1)の化合物の塩は、その塩の種類により溶解性などの物理的な性質、あるいはインクとして用いた場合のインクの性能が変化する場合もある。このため目的とするインク性能などに応じて塩の種類を選択することも好ましい。
【0027】
本発明の上記式(1)で表される化合物は、例えば次のようにして製造することができる。なお下記式(A)から(E)において適宜使用されるR、n、x、mおよびpは、それぞれ上記式(1)におけるのと同じ意味を表す。
下記式(A)で表されるアミノベンゼンカルボン酸類をジアゾ化し、次いで、下記式(B)の化合物と0〜25℃、pH3〜4でカップリング反応を行うことにより、下記式(C)の化合物が得られる。
【0028】
【化AC】

【0029】
また、アニリン(D)を重亜硫酸ナトリウム及びホルマリンを用いてメチル‐ω‐スルホン酸誘導体(E)に変える。次いで、常法により、下記式(F)で示されるアミノベンゼンスルホン酸類をジアゾ化し、先に得られた式(E)のメチル‐ω‐スルホン酸誘導体と0〜15℃、pH3〜6でカップリング反応を行い、引き続き、80〜95℃、pH10.5〜11.5で加水分解反応を行うことにより、下記式(G)の化合物が得られる。
【0030】
【化DG】

【0031】
次に得られた上記式(G)の化合物(1当量)とハロゲン化シアヌル(1当量)、例えば塩化シアヌル(1当量)とを、温度0〜15℃、pH4〜6で縮合することにより、下記式(H)の化合物が得られる。続いて、式(C)の化合物(1当量)と式(H)の化合物とを、温度20〜40℃、pH6〜8で縮合することにより、下記式(I)の化合物が得られる。
【0032】
【化HI】

【0033】
さらに得られた上記式(I)の化合物中の塩素原子を、好ましくは75〜90℃、pH7〜9の条件下において、下記式(J)で表される2級アミンで置換することにより、前記式(1)で表される本発明の色素を得ることができる。
【0034】
【化J】

【0035】
前記式(A)の化合物としては、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、2−アミノ安息香酸、5−アミノイソフタル酸、2−アミノテレフタル酸などが具体例として挙げられ、前記式(B)の化合物としては、2−(スルホエトキシ)−5−メチルアニリン、2−(スルホプロポキシ)−5−メチルアニリン、2−(スルホブトキシ)−5−メチルアニリンなどが具体例として挙げられる。
また、前記式(F)の化合物としては、4−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノベンゼンスルホン酸、2−アミノベンゼンスルホン酸などが具体例として挙げられる。
【0036】
次に本発明の上記式(1)の化合物の具体例を下記表1に示す。表1において、カルボキシ基及びスルホ基等の酸性官能基は、遊離酸の形で表す。なお、表1中、「Me」はメチル基を表し、n、x、m及びpは、式(1)におけるのと同じ意味を表す。
【0037】
【表1】

【0038】

【0039】

【0040】
本発明の前記式(1)の化合物は、反応終了後、塩酸などの鉱酸の添加により固体の遊離酸として単離する事ができ、得られた遊離酸の固体を水又は例えば塩酸水などの酸性水で洗浄することなどにより、不純物として含有する無機塩(無機不純物)、例えば塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムなどを除去することができる。
上記のようにして得られる本発明の化合物の遊離酸は、前記の通り、得られたウェットケーキを、水中で所望の無機又は有機塩基と処理することにより、対応する化合物の塩の溶液を得ることができる。
無機塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;および水酸化アンモニウム(アンモニア水)などが挙げられる。
有機塩基の例としては、例えば前記式(3)で表される4級アンモニウムに対応する有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0041】
本発明の化合物は、天然及び合成繊維材料又は混紡品の染色、さらには、筆記用インク及びインクジェット記録用インク組成物の製造に適している。
例えば、本発明の前記式(1)の化合物の合成反応における、最終工程終了後の反応液は、本発明のインク組成物の製造に直接使用する事も出来る。しかし、反応液から該化合物を単離、例えばスプレー乾燥などの方法により反応液などを乾燥して該化合物を単離した後、得られた化合物をインク組成物に加工することもできる。本発明のインク組成物は、インク組成物の総質量中に、前記式(1)の化合物を通常0.1〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは2〜8質量%含有する。
【0042】
本発明のインク組成物は、前記式(1)の化合物を水又は、水と水溶性有機溶剤(水との混和が可能な有機溶剤)との混合溶液(水性媒体ともいう)に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、不純物として含有する金属陽イオンの塩化物、例えば塩化ナトリウム;硫酸塩、例えば硫酸ナトリウム;等の無機不純物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。この場合、例えば塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの総含有量は、式(1)の化合物の総質量に対して1質量%以下程度であり、下限値は0質量%、すなわち検出機器の検出限界以下でよい。無機不純物の少ない化合物を製造するには、例えばそれ自体公知の逆浸透膜による方法又は本発明の化合物又はその塩の乾燥品あるいはウェットケーキを、メタノールなどのC1−C4アルカノール等と水との混合溶媒中で撹拌して懸濁精製し、析出した式(1)の化合物の固体を濾過分離し、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0043】
本発明のインク組成物は水を媒体として調製され、必要に応じて、水溶性有機溶剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しても良い。水溶性有機溶剤は、染料溶解剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等の機能を有する場合もあり、本発明のインク組成物には含有する方が好ましい。その他のインク調製剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、乳化安定剤、表面張力調整剤、消泡剤、分散剤、及び分散安定剤等の公知の添加剤が挙げられる。水溶性有機溶剤の含有量はインクの総質量に対して0〜60質量%、好ましくは10〜50質量%であり、インク調製剤はインク全体に対して0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%、より好ましくは0〜10質量%用いるのが良い。前記式(1)の化合物、上記水溶性有機溶剤及びインク調製剤以外の残部は水である。
【0044】
上記の水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はチオジグリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;トリメチロールプロパン、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(好ましくはトリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4モノアルキルエーテル;γ−ブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等があげられる。
【0045】
なお、上記の水溶性有機溶剤には、例えばトリメチロールプロパン等のように、常温で固体の物質も含まれている。しかし、該物質等は固体であっても水溶性を示し、さらに該物質等を含有する水溶液は水溶性有機溶剤と同様の性質を示し、同じ目的で使用することができる。このため本明細書においては、便宜上、このような固体の物質であっても上記同じ目的で使用できる限り、水溶性有機溶剤の範疇に含むこととする。
【0046】
上記の水溶性有機溶剤として好ましいものは、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ピロリドン、ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、トリメチロールプロパンおよびブチルカルビトールであり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、トリメチロールプロパンおよびブチルカルビトールである。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0047】
上記の防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、および無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤として酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等があげられる。防腐防黴剤のその他の具体例としては、例えば、アーチケミカル社製 商品名プロクセルRTMGXL(S)およびプロクセルRTMXL−2(S)等が挙げられる。
なお、本明細書中、「RTM」は登録商標を意味する。
【0048】
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸;などが挙げられる。
【0049】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0050】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
【0051】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物、又はベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0052】
粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物があげられ、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
【0053】
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等があげられる。尿素を使用するのが好ましい。
【0054】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及びヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、及び亜鉛錯体などがある。
【0055】
表面張力調整剤としては、界面活性剤があげられ、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤などがあげられる。
【0056】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。
【0057】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。
【0058】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体などがある。
【0059】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール(アルコール)系、その他の具体例として例えば、日信化学工業株式会社製 商品名サーフィノールRTM104、82、465、オルフィンSTGやSIGMA−ALDRICH社製のTergitolRTM15−S−7等が挙げられる。
【0060】
消泡剤としては、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物が必要に応じて用いられる。
【0061】
これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。なお、本発明のインクの表面張力は通常25〜70mN/m、より好ましくは25〜60mN/mである。また本発明のインクの粘度は30mPa・s以下が好ましい。更に20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
【0062】
本発明のインク組成物を製造するにあたり、添加剤などの各薬剤を溶解させる順序には特に制限はない。インクを調製するにあたり、用いる水はイオン交換水又は蒸留水など不純物が少ない物が好ましい。さらに、必要に応じメンブランフィルターなどを用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよく、インクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合は精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは、0.8μm〜0.1μmである。
【0063】
本発明の化合物を含有するインク組成物は、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、又は記録(印刷)、特にインクジェット記録における使用に適する。また本発明のインク組成物は、インクジェットプリンタの記録ヘッドのノズル付近における乾燥に対しても固体の析出は起こりにくく、この理由により該記録ヘッドの閉塞もまた起こりにくい。
【0064】
インクジェットプリンタにおいて、高精細な画像を供給することを目的に、含有する色素濃度が高濃度のインクと低濃度のインクの2種類のインクが1台のプリンタに装填されたものもある。その場合、本発明の化合物の濃度が高濃度のインク組成物と、低濃度のインク組成物をそれぞれ調製し、それらをインクセットとして使用してもよい。またどちらか一方だけに該化合物を用いてもよい。また本発明の化合物と公知のイエロー色素とを併用してもよい。また他の色、例えばブラックインクの調色用途、あるいはマゼンタ色素やシアン色素と混合して、レッドインクやグリーンインクを調製する目的で本発明の化合物を用いることもできる。
【0065】
本発明の着色体とは本発明の化合物、又は該化合物を含有するインク組成物で着色された物質のことである。着色体の材質に特に制限はなく、例えば紙、フィルムなどの情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等、着色されるものであればなんでも良く、これらに限定されないが、情報伝達用シートが好ましい。着色方法としては、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェットプリンタによる方法等があげられるが、インクジェットプリンタによる方法が好ましい。
【0066】
情報伝達用シートとしては、特に制限はなく、普通紙はもちろん、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものなどが用いられる。ここでインク受容層とは、インクを吸収して乾燥を早める等の作用を有する層で、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工する方法;又は多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る無機微粒子をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工する方法;などにより設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙、又は光沢フィルム等と呼ばれる。
普通紙とは、特にインク受容層を設けていない紙のことを指し、用途によってさまざまなものが数多く市販されている。市販されている普通紙の一例を挙げると、インクジェット用としては、両面上質普通紙(セイコーエプソン株式会社製);PB PAPER GF−500(キヤノン株式会社製);Multipurpose Paper、All−in−one Printing Paper(Hewlett Packard社製);などがある。この他、特に用途をインクジェット印刷に限定しないプレーンペーパーコピー(PPC)用紙なども普通紙である。
インクジェット専用紙として代表的な市販品の一例を挙げると、キヤノン(株)製、商品名プロフェッショナルフォトペーパー、および光沢ゴールド;セイコーエプソン(株)製、商品名写真用紙クリスピア(高光沢)、写真用紙(光沢);日本ヒューレット・パッカード(株)製、商品名アドバンスフォト用紙(光沢);富士フィルム(株)製、商品名画彩 写真仕上げPro;等がある。
本発明のインク組成物は、上記のような普通紙上での耐水性が特に優れているが、その他の光、オゾン、湿度や摩擦などに対する耐性にも優れる。また、インクジェット専用紙、専用フィルム、光沢紙又は光沢フィルムなどでの耐水性にも優れ、またそれらの情報伝達用シート上での耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性及び耐擦性などの各種堅牢性も良好である。
【0067】
本発明のインクジェット記録方法で、被記録材に記録するには、例えば上記のインク組成物が充填された容器をインクジェットプリンタの所定位置に装填し、本発明のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させる通常の記録方法で、被記録材に記録すればよい。本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物と共に、マゼンタ、シアン、必要に応じて、グリーン、ブルー(又はバイオレット)、レッド、及びブラック等の各色のインクを併用しうる。この場合、各色のインクは、それぞれの容器に注入され、それらの容器を、インクジェットプリンタの所定位置に装填して使用する。
インクジェットプリンタには、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生ずる泡を利用したバブルジェットRTM方式;等を利用したものがある。本発明のインクジェット記録方法は、いかなる方式であっても使用が可能である。
【0068】
本発明の上記式(1)で表される水溶性アゾ化合物は、水や水溶性有機溶剤に対する溶解性に優れる。またインク組成物を製造する過程での、例えばメンブランフィルターに対するろ過性が良好という特徴を有し、普通紙及びインクジェット専用記録紙上で非常に鮮明で、彩度の高い高濃度なイエロー色の色相を与える。
また、該化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の固体析出、物性変化、色相変化等もなく、貯蔵安定性が極めて良好である。
本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用した場合、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体析出は非常に起こりにくく、噴射器(記録ヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は連続式インクジェットプリンタを用い、比較的長い時間間隔においてインクを再循環させて使用する場合においても、又はオンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用においても、物理的性質の変化を起こさない。
本発明のインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用した記録物は、被記録材(例えば紙、フィルム等)を選択することなくイエロー色の色相として理想的な色相であり、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。
更に本発明のインク組成物は、従来の染料インクと比較して普通紙上での耐水性が極めて向上している。また、写真画質用インクジェット専用紙やフィルムのような多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録しても各種堅牢性、すなわち耐水性、耐湿性、耐オゾンガス性、および耐光性が良好であり、写真調の記録画像の長期保存安定性にも優れている。
このように、本発明の式(1)の水溶性アゾ化合物は、各種インク用、特にインクジェット記録インク用のイエロー色の色素として極めて有用である。
【実施例】
【0069】
以下に本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。尚、特別の記載のない限り、本文中「部」及び「%」とあるのは質量基準であり、また反応温度は内温である。
なお合成した各化合物のλmax(最大吸収波長)は、pH7〜8の水溶液中での測定値を示した。
さらに、実施例中で得た化合物の各構造式において、カルボキシ基及びスルホ基等の酸性官能基は、遊離酸の形で記載した。
実施例で得られた本発明の化合物の室温における水に対する溶解度はいずれも100g/L以上であった。
【0070】
実施例1
(工程1)
3−アミノ安息香酸13.7部を水酸化ナトリウムでpH6に調整しながら水100部に溶解し、次いでそこに亜硝酸ナトリウム7.2部を加えた。この溶液を0〜10℃で、5%塩酸100部中に30分間かけて滴下した後、10℃以下で1時間攪拌し、ジアゾ化反応を行い、ジアゾ反応液を得た。
次に、2−(スルホプロポキシ)−5−メチルアニリン24.5部を、水酸化ナトリウムでpH7に調整しながら水100部に溶解し、得られた溶液を、先に得たジアゾ反応液中に加え、0〜25℃、pH3〜4で5時間攪拌した。析出固体を濾過分離することにより下記式(4)のアゾ化合物120部をウェットケーキとして得た。
【0071】
【化4】

【0072】
(工程2)
4−アミノベンゼンスルホン酸17.3部を水酸化ナトリウムでpH6に調整しながら水200部に溶解し、次いで亜硝酸ナトリウム7.2部を加えた。この溶液を0〜10℃で、5%塩酸300部中に30分間かけて滴下した後、10℃以下で1時間攪拌してジアゾ化反応を行い、ジアゾ反応液を調製した。
一方、アニリン9.3部を、130部の水、10.4部の重亜硫酸ナトリウム及び8.6部の35%ホルマリンを用いて、常法によりメチル−ω−スルホン酸誘導体とした。
得られたメチル−ω−スルホン酸誘導体を、先に調製したジアゾ反応液中に加え、0〜15℃、pH3〜6で5時間攪拌した。反応液を水酸化ナトリウムでpH11とした後、同pHを維持しながら80〜95℃で5時間攪拌し、さらに100部の塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出固体を濾取することにより下記式(5)で表される化合物80部をウェットケーキとして得た。
【0073】
【化5】

【0074】
(工程3)
250部の氷水中にライオン社製、商品名:レオコールRTMTD90(界面活性剤)0.10部を加えて激しく攪拌し、その中に塩化シアヌル12.9部を添加し0〜5℃で30分間攪拌し、懸濁液を得た。
続いて上記式(5)で表される化合物のウェットケーキ80部を水200部に溶解し、この溶液に上記の懸濁液を30分間かけて滴下した。滴下終了後pH4〜6、0〜15℃で6時間撹拌した。
【0075】
(工程4)
上記実施例1(工程1)で得られた上記式(4)の化合物120部のウェットケーキを水300部に溶解し、上記の溶液に30分間かけて滴下した。滴下終了後pH6〜8、20〜40℃で6時間撹拌し、イミノジ酢酸26.3部を加え、pH7〜9、75〜90℃で3時間攪拌した。得られた反応液を20〜25℃まで冷却後、この反応液にアセトン800部を加え、20〜25℃で1時間攪拌した。析出固体を濾過分離することによりウェットケーキ120.0部を得た。このウェットケーキを80℃の熱風乾燥機で乾燥することにより、下記式(6)で表される本発明の水溶性アゾ化合物(λmax:394nm)35.0部を得た。
式(6)
【0076】
【化6】

【0077】
実施例2
実施例1(工程1)の3−アミノ安息香酸13.7部を4−アミノ安息香酸13.7部とする以外は実施例1と同様にして、下記式(7)で表される本発明の水溶性アゾ化合物35.5部(λmax:397nm)をナトリウム塩として得た。
式(7)
【0078】
【化7】

【0079】
実施例3
実施例1(工程1)の3−アミノ安息香酸13.7部を5−アミノイソフタル酸18.1部とする以外は実施例1と同様の方法で、下記式(8)で表される本発明の水溶性アゾ化合物(λmax:396nm)をナトリウム塩として得た。
式(8)
【0080】
【化8】

【0081】
実施例4
実施例1で得られた前記式(6)で表される本発明の水溶性アゾ化合物35.0部を水270部に溶解させ、その水溶液に塩化アンモニウムを45部添加した。その後、塩酸でpH1〜3にし、30分撹拌することにより、ナトリウム塩からアンモニウム塩への塩交換反応を行った後に、析出固体を濾過分離し、ウェットケーキ120部を得た。このウェットケーキをメタノール200部で洗浄した後、熱風乾燥機を用いて、80℃で乾燥することにより、前記式(5)で表される本発明の水溶性アゾ化合物のアンモニウム塩(λmax:396nm)30.0部を得た。
【0082】
実施例5
実施例4の上記式(6)で表される本発明の水溶性アゾ化合物35.0部を上記式(7)で表される水溶性アゾ化合物35.5部とする以外は実施例4と同様にして、上記式(7)で表される本発明の水溶性アゾ化合物のアンモニウム塩(λmax:399nm)29.5部を得た。
【0083】
実施例6
実施例4の前記式(6)で表される本発明の水溶性アゾ化合物36.0部の代わりに、上記式(8)で表される水溶性アゾ化合物31.0部を用いる以外は実施例4と同様にして、前記式(8)で表される本発明の水溶性アゾ化合物のアンモニウム塩(λmax:395nm)28.0部を得た。
【0084】
実施例7〜9
(A)インクの調製
上記実施例4〜6で得られた本発明のアゾ化合物(式(6)〜(8)のアンモニウム塩)のそれぞれを、下記表2に示した組成比で他の成分と混合して、それぞれの化合物を含む本発明のインク組成物を得た。
得られたインク組成物を、それぞれ0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、夾雑物を除き、本発明の化合物を含有する評価試験用のインクを調製した。尚、水はイオン交換水を使用し、インク組成物のpHがおよそ8.0〜9.5となるようにアンモニア水で調整後、水を加えてインクの総量を100部に調整した。実施例4、実施例5の化合物及び、実施例6の化合物を使用したインクの調製を、それぞれ実施例7、実施例8、及び実施例9とする。
【0085】
表2(インク組成物の組成比)
実施例4、5又は6で得られた化合物 4.0部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
タウリン 0.3部
エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム 0.1部
界面活性剤[日信化学(株)社製、商品名 サーフィノールRTM104PG50]
0.1部
水+アンモニア水 76.5部
計 100.0部
【0086】
比較例1
実施例4〜6で得られたアゾ化合物のかわりに、特許文献1の例10に記載の色素のアンモニウム塩を用いる以外は、実施例7〜9と同様にして比較用のインクを調製した。このインクの調製を比較例1とする。
比較例1に用いた化合物の構造式を下記式(9)に示す。
【0087】
【化9】

【0088】
比較例2
実施例1(工程4)のイミノジ酢酸26.3部の代わりにタウリン26.3部を用いる以外は実施例1と同様にして、下記式(10)の化合物のナトリウム塩を得た。得られたナトリウム塩を用いて、実施例4と同様にしてナトリウム塩からアンモニウム塩への塩交換を行い、式(10)の化合物のアンモニウム塩を得た。各実施例で得た化合物のかわりに、式(10)の化合物のアンモニウム塩を用いる以外は、実施例7〜9と同様にして、比較用のインクを調製した。このインクの調製を比較例2とする。
【0089】
【化10】

【0090】
比較例3
実施例1(工程4)のイミノジ酢酸26.3部の代わりにジエタノールアミン15.0部を用いる以外は実施例1と同様にして、下記式(11)の化合物のナトリウム塩を得た。得られたナトリウム塩を用いて、実施例4と同様にしてナトリウム塩からアンモニウム塩への塩交換を行い、式(11)の化合物のアンモニウム塩を得た。各実施例で得た化合物のかわりに、式(11)の化合物のアンモニウム塩を用いる以外は、実施例7〜9と同様にして比較用のインクを調製した。このインクの調製を比較例3とする。
【0091】
【化11】

【0092】
比較例4
実施例1(工程4)のイミノジ酢酸26.3部の代わりに6−アミノヘキサン酸16.0部を用いる以外は実施例1と同様にして、下記式(12)の化合物のナトリウム塩を得た。得られたナトリウム塩を用いて、実施例4と同様にしてナトリウム塩からアンモニウム塩への塩交換を行い、式(12)の化合物のアンモニウム塩を得た。各実施例で得た化合物のかわりに、式(12)の化合物のアンモニウム塩を用いる以外は、実施例7〜9と同様にして比較用のインクを調製した。このインクの調製を比較例4とする。
【0093】
【化12】

【0094】
(B)インクジェット記録
上記実施例7〜9、及び比較例1〜4で調製した各インクを、インクジェットプリンタ(キヤノン株式会社製 商品名:PIXUSRTM ip4100)を用いて、下記表3に示す2種類の普通紙、及び1種類の光沢紙にインクジェット記録を行った。上記3種類の紙のそれぞれについて、以下の3つの画像パターンをインクジェット記録にて作成し、これを試験片として、各種の評価試験を行った。
画像パターン1:
インクジェット記録により、チェック柄のパターン(濃度階調100%と0%の1.5mm角正方形を交互に組み合わせたパターン)を作成し、コントラストの高いイエロー/ホワイトの記録物を得た。なお、ホワイトの部分はインクによって着色されていない、普通紙の地肌の部分である。得られた記録物を試験片とし、耐水試験1に用いた。
画像パターン2:
インクジェット記録により、濃度100%で記録されたベタ塗りの画像を得た。得られた記録物を試験片とし、耐水試験2に用いた。
画像パターン3:
インクジェット記録により、100%、85%、70%、55%、40%、25%濃度の6段階の階調が得られるようにグラデーションの画像パターンを作り、ハーフトーンの記録物を得た。耐光性試験には、グラデーションの印字物を用い、試験前の印字物の反射濃度Dy値が1に最も近い部分について試験前後の反射濃度の測定を行った。また、反射濃度は測色システム(商品名SpectroEyeRTM、GretagMacbeth社製)を用いて測定した。測色は、濃度基準にDIN、視野角2°、光源D65の条件で行なった。得られた記録物を試験片とし、耐光性試験に用いた。
【0095】
表3
普通紙1:
Hewlett Packard社製
商品名Multipurpose Paper
普通紙2:
セイコーエプソン株式会社製
両面上質普通紙 KA4250NPD
光沢紙1:
キヤノン株式会社製
写真用紙・光沢ゴールド
【0096】
(C)記録画像の評価
画像パターン3の試験片中で、最も記録(印刷)濃度の高い階調部において、彩度C*値、色相角h値、および印字濃度Dy値、の3つの値を測定した。それぞれの評価基準を下記(D)〜(F)に、また評価結果を下記表4〜6に示す。
(D)彩度C*値
記録物の鮮明性を表わすC*は、その値が大きいほど鮮明な画像であることを示し、優れる。
(E)色相角h値
色相角hは90度付近が標準的な黄色の色相である。評価は以下の3段階で示す。
色相角hが90±5°の範囲内にある・・・・・・・・・・・・○
色相角hが90±5°を超えて±8°未満の範囲内にある・・・△
色相角hが90±8°の範囲内にない・・・・・・・・・・・・×
(F)印字濃度Dy値
印字濃度Dyはその値が大きいほど、濃度感の有る画像が得られ、優れる。
普通紙1及び2については以下に示す3段階の評価を行なった。
印字濃度Dyが1.0以上・・・・・・・・・・・・○
印字濃度Dyが0.9以上1.0未満・・・・・・・△
印字濃度Dyが0.9未満・・・・・・・・・・・・×
また、光沢紙1については以下に示す3段階の評価を行なった。
印字濃度Dyが2.1以上・・・・・・・・・・・・○
印字濃度Dyが2.0以上2.1未満・・・・・・・△
印字濃度Dyが2.0未満・・・・・・・・・・・・×
【0097】
表4
普通紙1
C* h Dy
実施例7 69.2 ○ ○
実施例8 66.8 ○ ○
実施例9 74.7 ○ ○
比較例1 74.7 ○ ○
比較例2 60.7 ○ ×
比較例3 64.0 ○ ○
比較例4 60.8 ○ ×
【0098】
表5
普通紙2
C* h Dy
実施例7 68.3 ○ ○
実施例8 68.2 ○ ○
実施例9 75.1 ○ ○
比較例1 68.6 ○ ○
比較例2 60.6 ○ △
比較例3 65.5 △ ○
比較例4 60.3 ○ △
【0099】
表6
光沢紙1
C* h Dy
実施例7 107.7 ○ ○
実施例8 114.2 ○ ○
実施例9 108.5 ○ ○
比較例1 93.8 △ ×
比較例2 103.6 ○ △
比較例3 106.7 ○ ○
比較例4 102.7 ○ ○
【0100】
(G)耐水性試験1
インクジェット記録後、1時間自然乾燥を行なった画像パターン1の試験片に、イオン交換水を1滴滴下した。水滴がそのまま自然蒸発するまで放置し、乾燥後のパターンの白色部への黄色の滲みの程度を目視で評価し、以下の3段階の基準で評価した。
白色部への滲み出しがほとんど確認できない・・・・○
白色部への滲み出しがやや確認できる・・・・・・・△
白色部への滲み出しが明らかである・・・・・・・・×
結果を下記表7〜9に示す。
【0101】
(H)耐水性試験2
インクジェット記録後、1時間自然乾燥を行なった画像パターン2の試験片に、イオン交換水を1滴滴下した。水滴はそのまま自然蒸発するまで放置し、乾燥後の印刷物の滲み(水滴が付着した痕跡)の程度を目視で評価し、以下の基準で3段階に評価した。
滲みがほとんど確認できない・・・・・・・・・・・・・・・・・○
滲みがやや確認できる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・△
滲みが明らかである(水滴の痕跡がはっきりと確認できる)・・・×
結果を下記表7〜9に示す。
【0102】
表7
普通紙1
(G) (H)
実施例7 ○ ○
実施例8 ○ ○
実施例9 ○ ○
比較例1 ○ ○
比較例2 △ △
比較例3 △ ×
比較例4 ○ ○
【0103】
表8
普通紙2
(G) (H)
実施例7 ○ ○
実施例8 ○ ○
実施例9 ○ ○
比較例1 ○ ○
比較例2 ○ ○
比較例3 ○ ×
比較例4 ○ ○
【0104】
表9
光沢紙1
(G) (H)
実施例7 ○ ○
実施例8 ○ ○
実施例9 ○ ○
比較例1 ○ ○
比較例2 ○ ○
比較例3 ○ ○
比較例4 ○ ○
【0105】
(I)キセノン耐光性試験
画像パターン3の試験片をホルダ−に設置して、キセノンウェザオメータXL75(スガ試験機(株)社製)を用い、温度24℃、湿度60%RH、0.36W/平方メートル照度で50時間照射した。この試験の印刷紙には、光沢紙1を用いて試験を実施した。
試験後、反射濃度を上記測色システムを用いて測色し、反射濃度の残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算して求め、3段階で評価した。
色素残存率が70%以上・・・・・・・・・・○
色素残存率が60%以上70%未満・・・・・△
色素残存率が60%未満・・・・・・・・・・×
結果を下記表10に示す。
【0106】
表10
実施例7 ○
実施例8 ○
実施例9 ○
比較例1 ○
比較例2 ○
比較例3 ○
比較例4 ○
【0107】
表4〜6の結果より明らかなように、本発明の実施例7〜9はいずれの印刷紙においても良好な彩度C*、色相角h、印字濃度Dyを示した。
それに対し、比較例1は光沢紙上で彩度が低く、且つ標準的な色相角からやや外れており、さらにはその印字濃度も低いことが明らかとなった。また、比較例2および4は普通紙上での彩度および印字濃度が低いことが明らかである。
【0108】
また、表7および8の耐水性試験では、本発明の実施例が良好な耐水性を示すのに対し、比較例2及び3は耐水性が劣ることが明らかとなった。
【0109】
上記の試験結果より、本発明の実施例は、普通紙や光沢紙を問わず、良好な彩度、印字濃度を有し、且つ良好な色相角を持つ黄色染料であることが明らかである。また、耐水試験の結果からその耐水性が優れていることは明白である。さらに、光沢紙に記録(印刷)した際も耐光性などの堅牢性に優れることが明らかであり、これらの特徴から、本発明のアゾ化合物は各種の記録用インク色素、特にインクジェットインク用のイエロー色の色素として非常に有用な化合物であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0110】
以上の結果から、本発明の水溶性アゾ化合物はインクジェット記録用のインク組成物を調製するのに適しており、各種の堅牢性、特に従来の色素と比較して、多種類の普通紙における耐水性に極めて優れ、また水溶解性が高く、また特に普通紙さらには光沢紙上での発色性に優れ、彩度が良好で鮮明な色相を持つ。これらの特徴から、本発明のアゾ化合物は各種の記録用インク色素、特にインクジェットインク用のイエロー色の色素として非常に有用な化合物であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される水溶性アゾ化合物又はその塩、
【化1】

(式中、RはC1−C4アルキル基、nは1又は2、xは2から4の整数、m及びpは、それぞれ独立に1から3の整数を、それぞれ表す。)。
【請求項2】
式(1)において、Rがメチル基であり、nが1であり、xが3であり、m及びpが1である請求項1に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩。
【請求項3】
下記式(2)で表される請求項1に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩。
【化2】

【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩を含有するインク組成物。
【請求項5】
水溶性有機溶剤をさらに含有する請求項4に記載のインク組成物。
【請求項6】
インクジェット記録用である請求項4又は5に記載のインク組成物。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載のインク組成物をインクとして用い、該インクのインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材に付着させ、記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項8】
被記録材が情報伝達用シートである請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
情報伝達用シートが普通紙又は多孔性白色無機物を含むインク受容層を有するシ−トである請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
(a)請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩、(b)請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩を含有するインク組成物、又は、
(c)請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水溶性アゾ化合物又はその塩及び水溶性有機溶剤を含有するインク組成物のいずれかにより着色された着色体。
【請求項11】
着色がインクジェットプリンタによりなされた請求項10に記載の着色体。
【請求項12】
請求項4に記載のインク組成物を含む容器が装填されたインクジェットプリンタ。

【公開番号】特開2010−184985(P2010−184985A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29126(P2009−29126)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】