説明

水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩及びその製造方法、並びにそれを用いた固体表面への反応性付与方法及び表面反応性固体

【課題】アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を合成し、これを用いて固体表面にチオール基を導入することにより固体表面に反応性を付与する技術を提供する。
【解決手段】アミノ基を有するアルコキシシラン化合物を用いてアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドを合成し、これをチオール化してアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を合成する。得られたアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩は、固体と反応して表面にチオール基を付与するので、固体同士の界面結合の生成に有効である。例えば、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の水溶液中で表面にOH基を含有する固体を浸漬処理すると、アルコキシシラン基とOH基が反応してチオール基含有固体表面が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩及びその製造方法、並びに該アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を用いて水中での処理により、金属、セラミックス、無機粉体及び高分子材料などの固体表面に反応性を付与する方法及びそれによって表面に反応性を付与された固体に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアジンジチオール誘導体については、すでに工業的に生産((株)三協化成等)がなされており、架橋剤、接着促進剤、表面処理剤、重金属処理剤及び防錆剤などに使用されている(下記特許文献1参照)。また、アルコキシシラン化合物も、シランカップリング剤としてすでに広く使用されている。トリアジンジチオール誘導体は、金属や樹脂との反応性に特徴があり、一方、アルコキシシラン化合物は、無機物表面のOH基との反応性に特徴を持つ。
【0003】
しかしながら、金属、セラミックス、樹脂及び無機物のいずれに対しても反応性を有し、機能を付与できる処理剤は、現在知られていない。したがって、金属と表面処理樹脂との接着、金属と表面処理セラミックスとの接着、表面処理セラミックスと樹脂との接着など異種材料間の接着を接着剤無しで実現することは不可能である。
【0004】
また、最近では、接着界面に、有機物、金属及び無機物の三者が共存する場合もあり、多種の材料間に結合を発生させて機能を発揮するナノ機能物質の実現が待たれているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平2−298284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況の下、新しい分子構造を有する化合物の分子設計と合成手法の探索を重ね、鋭意研究の結果完成したものである。
【0007】
本発明の目的は、水中で処理でき、金属材料、有機材料及び無機材料表面に反応性を付与することが可能なアルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、従来の常識では製造が困難であった上記アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体を、副反応を抑制しつつ、効率よくかつ経済的に製造することができる方法を提供することにある。
【0009】
更に、本発明のその他の目的は、水中で金属材料、有機材料及び無機材料などの固体表面に上記アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体を反応させ、固体表面に反応性官能基を導入する方法とその利用法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、下記一般式(IA)又は下記一般式(IB):
【化1】


[式中、R1は、H-, CH3-, C2H5-, n-C3H7-, CH2=CHCH2-, n-C4H9-, C6H5-又はC6H13-であり;R2は、-CH2CH2-, -CH2CH2CH2-, -CH2CH2CH2CH2CH2CH2-, -CH2CH2SCH2CH2-, -CH2CH2NHCH2CH2CH2-, -CH2CH2OCONHCH2CH2CH2-又は-CH2CH2NHCONHCH2CH2CH2-であり;R3は、-(CH2CH2)2N-CH2CH2CH2-又は-(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2-であり;Xは、CH3-, C2H5-, n-C3H7-, i-C3H7-, n-C4H9-, i-C4H9-又はt-C4H9-であり;Yは、CH3O-, C2H5O-, n-C3H7O-, i-C3H7O-, n-C4H9O-, i-C4H9O-又はt-C4H9O-であり;nは、1から3までの整数を意味し;Mは、アルカリ金属である]で示される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩に関する。ここで、上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)中のMとしては、Li, Na, K及びCeが挙げられる。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、
(1)下記一般式(IIA)又は下記一般式(IIB):
R1NHR2SiX3-nYn ・・・ (IIA)
HNR3SiX3-nYn ・・・ (IIB)
[式中、R1、R2、R3、X、Y及びnは、上記と同義である]で表されるアルコキシシラン含有アミン化合物と塩化シアヌルとを反応させ、下記一般式(IIIA)又は下記一般式(IIIB):
【化2】


[式中、R1、R2、R3、X、Y及びnは、上記と同義である]で表されるアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドを合成し、
(2)次いで、得られたアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドと水硫化アルカリとを反応させ、上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を製造することを特徴とする。ここで、前記(2)工程におけるアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドの濃度は、0.01mol/lから5mol/lの範囲が好ましい。
【0012】
更に、請求項5に記載の発明は、上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を固体表面に付着させることを特徴とする固体表面への反応性の付与方法に関する。ここで、具体的には、前記水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を含有する溶液に固体を浸漬して、固体表面に該水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を付着させることが好ましく、また、使用する溶液中の水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の濃度は、0.001g/lから20g/lの範囲が好ましい。
【0013】
また更に、請求項8に記載の発明は、上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を表面に付着させることによって、表面に反応性を付与された表面反応性固体に関する。ここで、該固体としては、金属、セラミックス、無機粉体及び高分子材料などが挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を用いて、固体表面に反応性を付与することにより、異種材料間の界面にナノスケイルの界面相を形成させることができ、多様な応用分野に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩は、上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表されることを特徴とする。式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩は、トリアジンジチオール誘導体部分が金属や樹脂との反応性に優れ、一方、アルコキシシラン部分が無機物表面のOH基との反応性に優れる。従って、式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩で表面処理することにより、金属と表面処理樹脂との接着、金属と表面処理セラミックスとの接着、表面処理セラミックスと樹脂との接着など異種材料間の接着を接着剤無しで実現することができる。
【0016】
式(IA)中のR1は、H-, CH3-, C2H5-, CH2=CHCH2-, C4H9-, C6H5-, C6H13-などである。これ以上の鎖長になると、アルコキシシラン基の安定性が増すが、反応性が抑制される傾向にある。また、式(IA)中のR2が、-CH2CH2-, -CH2CH2CH2-, -CH2CH2CH2CH2CH2CH2-, -CH2CH2SCH2CH2-, -CH2CH2NHCH2CH2CH2-である時、市販品からの原料の供給が容易であるため、合成が簡単である。一方、式(IB)中のR3は、-(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2-又は-(CH2CH2)2N-CH2CH2CH2-であり、この場合、NとR3とで環状構造を形成する。
【0017】
式(IA)及び式(IB)中のXは、主として、CH3-, C2H5-, n-C3H7-, i-C3H7-, n-C4H9-, i-C4H9-, t-C4H9-などである。Xの炭化水素鎖長が大きくなり、嵩張りが大きくなると、Yのアルコキシ基の反応性が抑制されるため、固体表面に反応性を付与することが不可能となる。
【0018】
式(IA)及び式(IB)中のYは、主として、CH3O-, C2H5O-, n-C3H7O-, i-C3H7O-, n-C4H9O-, i-C4H9O-, t-C4H9O-,などのアルコキシ基である。アルコキシ基の炭化水素鎖長が大きくなるとやはり、アルコキシ基の反応性が抑制されるので、反応性付与の目的が達成できなくなる。
【0019】
式(IA)及び式(IB)中のnは、1、2又は3である。反応性付与の観点からn=3の場合が最も望ましいが、合成が難しくかつ保存安定などに問題が生ずる場合がある。一方、n=1の場合は、合成も簡単で、保存安定性に優れているが、反応性に劣る場合がある。
【0020】
式(IA)及び式(IB)中のMは、アルカリ金属であり、該アルカリ金属としては、Li, Na, K及びCeなどが挙げられるが、これらの中でも、主としてNaが使用される。Liが使用される時は、水に対する溶解性が低いので低濃度で使用することが好ましい。一方、Ceを使用する場合は、水に対する溶解性が高いので高濃度で使用することができる。
【0021】
本発明の上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩は、
(1)上記一般式(IIA)又は上記一般式(IIB)で表されるアルコキシシラン含有アミン化合物と塩化シアヌルとを反応させ、上記一般式(IIIA)又は上記一般式(IIIB)で表されるアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドを合成する工程と、
(2)得られたアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドと水硫化アルカリとを反応させ、上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を合成する工程と
を経て製造することができる。この方法によれば、シリル基部分のゲル化を抑制して、効率よく且つ経済的に式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を製造することができる。
【0022】
上記(1)工程のアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドの代表的合成反応を下記に示す。
【化3】


[式中、R1、R2、R3、X、Y及びnは、上記と同義である。]
【0023】
具体的には、塩化シアヌルを無水アルコールに溶解又は分散させ、これを-5℃まで冷却後、式(IIA)又は式(IIB)のアルコキシシラン含有アミン化合物を温度が0℃以上に上がらない速度で滴下する。その後、第三級アミンの無水アルコールを同様に滴下後、冷却をやめて20℃になるまで攪拌する。攪拌終了後、生成した三級アミン塩酸塩をろ過により除去し、無水アルコール溶液から溶剤を留去することで、式(IIIA)又は式(IIIB)のアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドが得られる。使用する溶剤としては、無水アルコールの他に、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジブチルエーテルなどのエーテル類が有効である。また、第三級アミンとしては、トリエチルアミンやジメチルアニリンが使用される。得られた式(IIIA)又は式(IIIB)のアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドは、そのまま使用できる場合もあるが、減圧蒸留して使用する場合もある。なお、式(IIA)又は式(IIB)のアルコキシシラン含有アミン化合物の使用量は、塩化シアヌル1molに対して1.00から1.05molの範囲が好ましい。
【0024】
次に、上記(2)工程のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の代表的な生成反応を下記に示す。
【化4】


[式中、R1、R2、R3、X、Y、n及びMは、上記と同義である。]
【0025】
具体的には、上記の反応により得られた式(IIIA)又は式(IIIB)のアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドをアルコール系溶剤に溶解させ、これに水硫化アルカリ(MSH)のアルコール溶液を50℃以下の温度保持しながら滴下する。この時、硫化水素が生成するので、苛性ソーダの水溶液でトラップすることが好ましい。反応溶液を少量取り水に注ぎ、濁りなく透明な水溶液であることを確認する。さらに10wt%の塩酸を少量取り、これに反応溶液を注ぐことで白色沈殿が生成することも確認する。反応溶液からアルコール類を留去すると白色固体の目的生成物である式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩が得られる。なお、水硫化アルカリの使用量は、式(IIIA)又は式(IIIB)のアルコキシシラン含有トリアジンジクロリド1molに対して2.00から4.00molの範囲が好ましい。
【0026】
使用するアルコール系溶剤は、アルコキシ基Yに相当するアルコールであり、一般には、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなどを挙げることができる。
【0027】
式(IIIA)又は式(IIIB)のアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドの濃度は、0.01mol/lから5mol/lの範囲が好ましく、0.1mol/lから2mol/lの範囲が更に好ましい。アルコキシシラン含有トリアジンジクロリドの濃度が0.1mol/l未満では、反応の効率が悪く、また、2mol/lを超えると、反応の制御が困難になる場合がある。
【0028】
反応温度は、アルコール系溶剤の沸点を考慮に入れると、0℃から沸点までは可能である。反応は発熱反応であるから、低温でも反応溶液の温度は上昇する。反応温度としては、30℃から50℃の範囲内の温度が、温度制御が容易でかつ副反応も起こらないので有効である。
【0029】
反応時間は、式(IIIA)又は式(IIIB)のジクロリドの反応性、水硫化物の反応性および反応温度の影響を受けるため、限定しがたいが、一般には20分から200分の範囲である。ただし、反応量が小規模の場合は、20分以下でも可能である。また、反応量が多くなると反応溶液の分散に時間がかかるため、200分以上必要な場合もある。
【0030】
反応時間は、反応溶液を少量取り水に注ぐことで濁りなく透明な水溶液であること、さらに10wt%の塩酸を少量取り、これに反応溶液を注ぐことで白色沈殿が生成することとの二点を確認することで経験的に決めることができる。
【0031】
反応生成物は、結晶性でなく、かつ低沸点化合物でもないため、通常の再結晶化および蒸留などの方法で分離精製することはできないが、溶剤に対する溶解性が明確であるため、洗浄によって純粋な物質に精製することができる。
【0032】
水やアルコール系溶剤には非常によく溶解するため、三次元化合物はすべて濾過により除去できる。また、アセトンやエーテルのような極性及び非極性の非プロトン系溶剤で洗浄することにより、有機物はすべて溶解洗浄することができる。このような方法で原料、予想できる有機物、反応過程で複製する不純物はすべて除去することができる。
【0033】
式(IA)又は式(IB)で表されるアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の溶液を調製し、これに金属、セラミックス、無機粉体および高分子材料などからなる固体を浸漬すると、固体の表面のOH基とアルコキシシラン基が反応して、固体表面にトリアジンジチオール基が導入され、固体表面にチオール基による反応性が付与される。このチオール基含有固体表面は、金属、セラミックス、無機粉体や高分子材料と反応するため、金属と高分子材料などの異種材料の接着、高分子材料表面の金属化、処理した無機粉体と高分子材料との反応による高分子材料への補強性付与などの応用展開が可能である。
【0034】
式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の溶剤は、該アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩が溶解する溶剤であれば何でも良く、水およびアルコール系溶剤がこれに該当する。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、カルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコールなどとこれらの混合溶媒も使用可能である。
【0035】
表面処理用溶液中の式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の濃度は、0.001g/lから20g/lの範囲内が好ましく、0.01g/lから10g/lの範囲内が更に好ましい。アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の濃度が0.01g/l未満では、反応性付与に時間がかかりすぎ、また、10g/lを超えると、濃度が高すぎて扱いにくいという問題が発生する。
【0036】
処理温度は0℃から100℃の範囲が好ましく、20℃から80℃の範囲内が更に好ましい。処理温度が20℃未満では、冷却操作が必要となり、80℃を超えると、試料の扱いに不都合が生ずる場合がある。
【0037】
処理時間は、1分間から200分間の範囲が好ましく、3分間から120分間の範囲が更に好ましい。処理固体の温度を一定に保つ場合には、少なくとも3分間の処理時間が必要であり、また、粉体などの表面を処理するためには長い時間を必要とせず、120分間程度が適当となる。
【0038】
上記のようにして反応性を付与された固体の利用分野としては、接着、転写、補強及び離型などの分野が挙げられる。例えば、プラスチックメッキにおけるプラスチックと生成銅メッキとの接着のように、化学的に成長した銅原子とプラスチックの接着に関してはこれまで全く知見や発明はないが、式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を用いることで、化学的に成長した銅原子とプラスチックの接着が可能となる。
【0039】
また、例えば、式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を用いて未粗化エポキシ樹脂表面にトリアジンジチオール基を導入したトリアジンチオール反応性付与エポキシ樹脂表面を調製し、これをパラジウム触媒に浸漬すると、チオール基がPdメルカプチド化した反応性付与エポキシ樹脂表面が得られる。その後、これをプラスチックメッキ用還元性銅水溶液に浸漬すると、樹脂表面に銅が析出し、樹脂面が高い接着力の銅で被覆される。
【0040】
更に、無機粉体を式(IA)又は式(IB)のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の溶液に浸漬して処理すると、表面がチオール基で被覆された粉体が得られ、これを還元性金属イオン溶液(金、銅、銀、ニッケル、鈴、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの金属塩と、亜燐酸、ホルマリン、リチウムボロンハイドライド、ヒドラジンなどの還元剤)に入れると、表面が金属で被覆された金属微粒子が得られる。
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
(実施例1〜7)
500mlの三口フラスコに無水エタノール200mlと塩化シアヌル(試薬一級)0.2mol(36.8g)を取り、混合物を攪拌しながら溶液とする。得られた反応溶液を細氷と塩を用いて0℃まで冷却後、これに蒸留生成したアルコキシシリルプロピルアミン類(0.204mol)のアルコール溶液200mlを、反応温度を0〜5℃の範囲に維持しながら攪拌して滴下する。滴下終了後、トリエチルアミン0.22molのアルコール溶液5mlを、やはり反応温度を0〜5℃の範囲に維持しながら攪拌して滴下する。滴下終了後、冷却をやめて常温まで攪拌しながら放置する。12時間放置後、反応溶液をろ過してトリエチルアミン塩酸塩を除去し、得られたアルコール溶液から減圧でアルコールを留去して、粗製のアルコキシシリルプロピルアミノトリアジンジクロリドを得る。これを0.2mmHgの減圧下で減圧蒸留すると、85〜160℃の温度範囲で精製された6-アルコキシシリルプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジクロリドが60-95%の収率で得られた。
【0043】
上記ジクロリド0.1molとアルコール200mlを三口フラスコにとり、攪拌しながらNaSH 0.3mol(16.8g)のアルコール溶液200mlを滴下する。反応溶液を昇温し、この際発生する硫化水素を5wt%のNaOH水溶液に吸収させ、50℃に近づいたら沸騰しないように冷却し、40℃付近に維持しながら滴下を続け、滴下終了後30分間そのまま攪拌を続ける。反応終了後、生成した白色沈殿NaClをろ過して除去し、得られたアルコール溶液からアルコールを留去して、白色粉末を得る。この粉末を再度無水アルコール200mlに溶解し、不溶物があればろ過し、50mlまで濃縮後、エチルエーテル200mlを加えると、精製された有機溶媒には溶解しない6-アルコキシシリルプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム(アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩)が85-95%の収率で得られた。
【0044】
得られたアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の炭素、水素及び窒素の元素分析は、柳本CHNコーダーで行った。また、チオール(SH%)基は、硝酸銀とロダンカリを用いるホルハルト法によって測定した。IRスペクトルは、Jasco-FT/IR7300を用いて測定した。これらの化合物はアルコキシシラン基を含有し、80℃以上に加熱すると三次元化して水に不溶になるため、融点は存在しない。しかし、有機溶媒には溶解しないが、水溶液中で加熱してもすぐには三次元化して水に不溶にはならない。
【0045】
合成例とその結果を表1に示す。化合物の元素分析値は計算値にいずれもよく一致しており、十分に精製された化合物が合成されていることが分かる。IRスペクトルは全体的にシャープな吸収態からなり、不純物が含まれていないことが伺われる。6-アルコキシシリルプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール金属塩の特性基であるN-H基、C-H基、C=N基、C-N基、およびSi-O基のシャープな吸収がmまたはsレベルの強度で観察されたことから、目的の化合物が得られていることが明らかである。また、実施例1〜7で合成したアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩は、中性で水に溶けるが、有機溶媒に溶けない性質を有している。これに対し、比較例1で用いた6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール(DB)は、水に溶けず、有機溶媒に溶けることから、本発明のアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩は、一般的なトリアジンジチオール(例えば、DB)とは性質が異なることが分る。
【0046】
【表1】

【0047】
(比較例2〜7及び実施例8〜15)
市販されているエポキシプリプレグ(30×50×2mm、味の素(株) ABF-G45)にテフロン(登録商標)フィルム(40×60×0.3mm)を被せて、150℃で5時間プレス硬化してエポキシ板を調製した(以下、エポキシ板とする)。水又はアルコールに40℃で10分間浸漬したエポキシ板をXPSで表面分析した結果、161.8と164.0eVのS2pに基づくピーク強度(S2p値)はいずれも0.02cps、399.2eVのN1sに基づくピーク強度(N1s値)は0cpsであった。(以上は比較例2,3)
【0048】
これに対して、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の水溶液又はアルコール溶液にエポキシ板を浸漬し、トリアジンジチオール基表面含有エポキシ板を調製した。このトリアジンジチオール基表面含有エポキシ板を表面分析したところ、S2p値およびN1s値は、実施例8〜11に示されるように0.02又は0cps以上であり、飽和値1.36(S2p)及び1.54(N1s)に達する有意な値を示した。
【0049】
また、アセトン洗浄してよく脱脂したガラス板においても、10分間の浸漬で飽和値2.20(実施例12)に達した。
【0050】
5%ヒドラジン水溶液に60℃×30分間浸漬処理して表面がAlOOHの酸化皮膜で被覆されたアルミニウム板についても10分間、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の水溶液に浸漬すると、表面に硫黄及び窒素の存在を示すS2p=2.11およびN1s=2.32(実施例13)が有意な値を示した。
【0051】
シリカゲル粉体をアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の水溶液に浸漬処理すると、処理粉体はS2p=25.7及びN1s=29.8(実施例14)であった。
【0052】
また、種類の異なるアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を用いて処理しても、エポキシ板はS2p=1.26及びN1s=1.38(実施例15)となり、同様に処理されることが分かった。
【0053】
このように処理固体の表面にS2p及びN1sの存在が確認されることは、表面にトリアジンジチオール基が存在することを示しており、固体表面に反応性が付与されたことを意味する。以上の結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
(比較例8〜9及び実施例16〜17)
固体表面に反応性が付与されたかどうかを確認する目的で、比較例3と実施例8のエポキシ板をPd触媒液(上村工業(株)NP-8)に40℃で5分間浸漬後、水洗して、無電解銅めっき浴(上村工業(株)PSY)に40℃で5分間浸漬した。その結果、表面にトリアジンジチオール基がない比較例(比較例8)では銅メッキが生成しないが、表面にトリアジンジチオール基が存在するトリアジンジチオール基表面含有エポキシ板の実施例(実施例16)では100%面積に銅が析出し、1mm角の碁盤目に切り目を入れ、セロハンテープをはり付けて剥ぎとる碁盤目試験において銅面の剥離がなかった。これは、トリアジンジチオールと触媒Pdが反応してPdメルカプチドを形成し、これが銅メッキ浴中で触媒効果を発揮して金属銅を析出させたことと、金属銅と接着性があることとによるものである。
【0056】
また、トリアジンジチオール基表面含有エポキシ板の50%面積を被覆し、紫外線ランプを照射し、その後Pd触媒浴、無電解銅めっき浴で同様に銅めっきしたところ、紫外線照射部分にはめっきが付着せず、紫外線の非照射部分にのみ銅めっきが析出し、もちろん碁盤目試験にも合格した(実施例17)。このことから、エポキシ板表面をアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩で処理して得られたトリアジンジチオール基表面含有エポキシ板のチオール基が金属と反応すること、また紫外線照射中でSS基に反応することが確認された。この結果から、トリアジンジチオール基表面含有エポキシ板の反応性や接着性は明らかである。以上の結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
(比較例10及び実施例18)
ブタジエンゴム(Nipol BR-1220)100重量部(以下部と略記する)、HAFブラック30部、硫黄1.2部、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾイル スルフェンアミド)1部、酸化亜鉛5部、及びステアリン酸1部の混合ゴムに対して、未処理シリカ粉末5部を添加したゴムコンパウンド(比較例10)、またはアルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の水溶液に浸漬して得られた実施例14の表面反応性シリカ粉末5部を添加したゴムコンパウンド(実施例18)を作製した。これらをそれぞれ金型に入れ、160℃で30分間、10MPaの加圧下で加硫して加硫BRゴムを得た。得られた加硫BRゴムの物性値を、引張試験機(島津オートグラフAGS-1kgND, 温度:20℃、速度:100mm/min)で測定した。具体的には、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス(それぞれの伸びにおける強度)及び破壊強度と伸びを測定し、表4に示す結果を得た。
【0059】
【表4】

【0060】
比較例10に比べて実施例18は補強効果のため、モジュラス及び強度が高いことが分かる。これは、シリカ粉末表面のチオール基が加硫過程でBRと反応して補強効果を発揮したものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(IA)又は下記一般式(IB):
【化1】


[式中、R1は、H-, CH3-, C2H5-, n-C3H7-, CH2=CHCH2-, n-C4H9-, C6H5-又はC6H13-であり、R2は、-CH2CH2-, -CH2CH2CH2-, -CH2CH2CH2CH2CH2CH2-, -CH2CH2SCH2CH2-, -CH2CH2NHCH2CH2CH2-, -CH2CH2OCONHCH2CH2CH2-又は-CH2CH2NHCONHCH2CH2CH2-であり、R3は、-(CH2CH2)2N-CH2CH2CH2-又は-(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2-であり、Xは、CH3-, C2H5-, n-C3H7-, i-C3H7-, n-C4H9-, i-C4H9-又はt-C4H9-であり、Yは、CH3O-, C2H5O-, n-C3H7O-, i-C3H7O-, n-C4H9O-, i-C4H9O-又はt-C4H9O-であり、nは、1から3までの整数を意味し、Mは、アルカリ金属である]で示される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩。
【請求項2】
上記一般式(IA)又上記一般式(IB)中のMが、Li, Na, K又はCeであることを特徴とする請求項1に記載の水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩。
【請求項3】
(1)下記一般式(IIA)又は下記一般式(IIB):
R1NHR2SiX3-nYn ・・・ (IIA)
HNR3SiX3-nYn ・・・ (IIB)
[式中、R1、R2、R3、X、Y及びnは、上記と同義である]で表されるアルコキシシラン含有アミン化合物と塩化シアヌルとを反応させ、下記一般式(IIIA)又は下記一般式(IIIB):
【化2】


[式中、R1、R2、R3、X、Y及びnは、上記と同義である]で表されるアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドを合成し、
(2)次いで、得られたアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドと水硫化アルカリとを反応させることを特徴とする上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の製造方法。
【請求項4】
前記(2)工程におけるアルコキシシラン含有トリアジンジクロリドの濃度が0.01mol/lから5mol/lの範囲であることを特徴とする請求項3に記載の水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の製造方法。
【請求項5】
上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を固体表面に付着させることを特徴とする固体表面への反応性付与方法。
【請求項6】
前記水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を含有する溶液に固体を浸漬して、固体表面に該水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を付着させることを特徴とする請求項5に記載の固体表面への反応性付与方法。
【請求項7】
前記溶液中の水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩の濃度が0.001g/lから20g/lの範囲であることを特徴とする請求項6に記載の固体表面への反応性付与方法。
【請求項8】
上記一般式(IA)又は上記一般式(IB)で表される水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を固体表面に付着させてなる表面反応性固体。
【請求項9】
前記固体が、金属、セラミックス、無機粉体及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項8に記載の表面反応性固体。

【公開番号】特開2006−213677(P2006−213677A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30134(P2005−30134)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】