説明

水溶性クロマノール誘導体を有効成分とする生体防御剤

【課題】優れた抗酸化能を有し、注射剤または内服液として使用することが可能な水溶性化されたクロマノール誘導体を有効成分とする生体防御剤を提供する。
【解決手段】6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の水溶性無機塩、または1価ないし多価脂肪族アルコールとの水溶性エステルを有効成分とする生体防御剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性のクロマノール誘導体を有効成分とする放射線などに暴露した場合の生体防御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマノール誘導体のビタミンEは、脂溶性ビタミンで、天然にはα−、β−、γ−およびγ−トコフェロールとα−、β−、γ−およびδ−トコトリエールの8種類が存在する。ビタミンEは動植物界に広く存在し、動物体内の臓器組織に広く分布し、特に副腎、卵巣、肝、脾などに多く含まれている。また、細胞内では細胞小器官の膜にも多く含まれている。これらはいずれも、無色ないし淡黄色の粘ちょう性の油状物質で、有機溶媒には良く溶けるが、水には全く溶けない。
【0003】
水溶性のビタミンE誘導体としては、テトラメチルクロマノールグルコシドが知られている(特許文献1)。この特許文献1によれば、クロマノール配糖体はα−グルコシダーゼの存在下に、テトラメチルクロマノールアルコールとマルトースを反応させて得られている。そしてクロマノール配糖体の抗酸化活性は、リノール酸メチルの酸化によって生じるリノール酸メチルハイドロパーオキサイド生成の抑制などによって示されている。
【0004】
しかし、クロマノール配糖体は水溶性で、かつ優れた抗酸化能を有するが、その製造コストはきわめて高いことが問題である。
【0005】
一方、ビタミンEの誘導体である6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(以下、「TMCC」と略す)は「トロロックス」とも称され、脂溶性の抗酸化物質であり、食品添加物などの抗酸化力評価の標準物質として広く知られている。しかし、水に対する溶解度は0.02g/100gであって、その極めて低い水溶性のために、生体を防御するために必要な量を注射剤または内服液として使用することは不可能である。
【0006】
TMCCを水溶性にするためには、界面活性剤の添加やシクロデキストリンによる包摂化等の手段が考えられるが、水溶性化のためには多くの量の界面活性剤やシクロデキストリンが必要になり、本来不必要な不純物の混入が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−118287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた抗酸化能を有し、注射剤または内服液として使用することが可能な水溶性化されたクロマノール誘導体を有効成分とする生体防御剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(TMCC)の水溶性無機塩、または1価ないし多価脂肪族アルコールとの水溶性エステル(以下、合わせて単に「TMCC水溶性誘導体」ともいう)を有効成分とする生体防御剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のTMCC水溶性誘導体は優れた抗酸化能を持っており、しかも水溶性であることから、注射剤や内服剤の形態に製剤化でき、放射線に対して優れた防御能を有する生体防御剤を安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(TMCC)の水溶性無機塩としては、アンモニウム塩、またはアルカリ金属(Na、Kなど)もしくはアルカリ土類金属(Ca、Mgなど)の塩があげられる。なかでも、アルカリ金属塩、特にナトリウム塩やカリウム塩が水溶性に優れる点から好ましい。
【0012】
TMCCの水溶性無機塩は、TMCCと無機塩基、たとえばアンモニアもしくはその誘導体、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物、たとえば重炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムなどを加えて中和し、減圧してエーテルなどの溶媒を蒸発させることにより粉末として得ることができる。
【0013】
TMCCの水溶性エステルを構成する1価ないし多価脂肪族アルコールとしては、エチルアルコールに代表される1価アルコール、エチレングリコールやその重合体などの2価アルコール、グリセリンなどの多価アルコールなどがあげられる。なかでもグリセリンが水溶性に優れる点から好ましい。なお、従来公知のTMCCの配糖体は2位のカルボキシル基に糖が反応しエーテル結合でTMCCに結合している点で、本発明で用いるTMCC水溶性誘導体と異なる。
【0014】
TMCCの水溶性エステルは、上記アルコールを用いたTMCCのエステル化反応によって製造できる。エステル化反応は、無溶媒、またはエーテルなどの非水性溶媒中で行い、触媒として微量の酢酸や硫酸などの液体酸の存在下に進めることができる。得られたエステルは溶媒を減圧分離することにより粉末として得ることができる。
【0015】
本発明で用いるTMCC水溶性誘導体は、水溶性である点以外はTMCCおよびその配糖体と同様の抗酸化活性を有しており、放射線または抗癌剤に対して優れた生体防御能を有しているほか、毒性はない。
【0016】
本発明の生体防御剤は、水溶性が向上していることから、注射剤や内服液としても処方でき、製剤化の範囲が大きく広がる。具体的には、水溶液、水分散液のほか、錠剤、顆粒剤などに製剤化できる。
【0017】
投与方法は、経口、腹腔、筋肉注射、静脈内注射などでよい。また、たとえば癌の放射線治療を受ける場合や、原子力発電所などメンテナンスをする場合は、被曝の数時間前ないし直前に投与することが好ましいが、被曝直後の投与でもよい。
【0018】
本発明の生体防御剤の投与量は、体内に有効な濃度で存在することにより効果的な防御作用が発揮される。この観点から、投与量は、経口投与や静脈内投与の場合には、0.01〜200mg/kgである。
【実施例】
【0019】
本発明の生体防御剤について、実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
製造例1(TMCCのナトリウム塩の製造)
10ミリモル(2.5g)のTMCCを80mlの水に投入し、撹拌して懸濁液を得た。これに1規定(40g/L)の水酸化ナトリウムを懸濁液が清澄になるまで滴下して中和し、pHが約7.5の水溶液を得た。この水溶液を減圧乾燥して粉末状のTMCCのナトリウム塩(分子量273.3)を2.6g得た。
【0021】
なお、水に対する溶解度はTMCCで0.02質量%、TMCCのナトリウム塩で0.13質量%であり、ナトリウム塩にすることにより、水への溶解度が6.5倍に増大した。
【0022】
製造例2(TMCCのグリセリンエステルの製造)
10ミリモル(2.5g)のTMCCにグリセリン(0.9g)を加え、室温で30分間撹拌して充分に分散させた。この水性分散液に、触媒として5μLの硫酸を加え、よく攪拌しながら80℃で3時間反応させた。得られた反応液を減圧乾燥して白色の粉末状のTMCCのグリセリンエステル(分子量324.3)を3.4g得た。
【0023】
TMCCのグリセリンエステルの水に対する溶解度は0.625質量%であり、グリセリンエステルにすることにより、水への溶解度が13倍に増大した。
【0024】
試験例
プラスミドDNAのアルカリ性水溶液(プラスミドDNA濃度:10μg/ml。緩衝剤としてリン酸緩衝剤含有)に生体防御剤を加え、放射線(線量率0.5Gy/分、照射線量25Gy)を照射したのち、Comet試験法、すなわちゲルクロマトグラフィ(寒天ゲルの電気泳動法)によって、プラスミドDNAの損傷(主鎖の切断による環構造の開環化度)の程度を調べた。
【0025】
供試剤としては、製造例1で得たTMCCナトリウム塩1ミリモルおよび製造例2で得たTMCCグリセリンエステル1ミリモルを用い、何も加えなかった場合を対照とした。
【0026】
その結果、対照では損傷率は54%であったが、TMCCナトリウム塩では18%(防御率:67%)、TMCCグリセリンエステルでは5%(防御率:90.7%)と大幅に損傷が防御されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の水溶性無機塩、または1価ないし多価脂肪族アルコールとの水溶性エステルを有効成分とする生体防御剤。
【請求項2】
水溶性無機塩がナトリウム塩である請求項1記載の生体防御剤。
【請求項3】
水溶性エステルがグリセリンエステルである請求項1記載の生体防御剤。
【請求項4】
注射剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体防御剤。
【請求項5】
内服液である請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体防御剤。

【公開番号】特開2011−256152(P2011−256152A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134114(P2010−134114)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(503266079)株式会社京都ライフサイエンス研究所 (7)
【Fターム(参考)】