説明

水溶性グラフト重合体の製造方法

【課題】モノカルボン酸からなるグラフト鎖に分子量の大きいポリアルキレングリコールを導入でき、分散剤として優れた性能を示すグラフト重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】第一の特定のポリアルキレングリコールに、少なくとも不飽和モノカルボン酸エステルを含む不飽和モノカルボン酸系単量体をグラフト重合させて重合体を得る工程I、及び、工程Iで得られた重合体を、さらに第二の特定のポリアルキレングリコールでエステル化する工程II、を有する水溶性グラフト重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性グラフト重合体の製造方法、該製造方法で得られた重合体を含む分散剤、及び水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレングリコールに不飽和カルボン酸を重合したグラフト重合体は、分散剤などの用途に応用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリアルキレンオキシドをエチレン性不飽和モノ又はジカルボン酸もしくはその無水物とラジカルグラフト重合させ、引き続き第一又は第二アミン及び/又はアルコールで誘導体化することによって製造されたものであることを特徴とする、水溶性グラフト重合体と該重合体が分散剤として有用であることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、特定の活性水素をもつ化合物の残基にカルボキシル基を有する側鎖をもつオキシアルキレン鎖が1つ結合した構造を有する重合体を含むことを特徴とする水硬性材料用収縮低減剤が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、α,β−不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物を必須とする不飽和カルボン酸系単量体を必須成分として含むエチレン性不飽和単量体をポリエーテル化合物にグラフト重合してなる重量平均分子量6千以上の親水性グラフト重合体を必須成分として含むセメント添加剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−211949号
【特許文献2】特開2001−247346号
【特許文献3】特開平11−139855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3では、ポリアルキレングリコールに、不飽和カルボン酸系単量体に由来する構成単位を必須構成単位として含有する重合体がグラフトした構造が開示されているが、グラフト鎖の構成単位にさらにポリアルキレングリコールを導入すれば、例えば、セメント分散剤で効果を生じるグラフト鎖による立体反発がさらに増大し、セメント分散性が向上する等の効果が得られると予想される。
【0008】
特許文献2及び3には、グラフト鎖の構成単位となりうる単量体として、例えばポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルの記載はあるが、具体的にそれをグラフトした構造の重合体は記載されていない。その理由としては、ポリアルキレングリコールにグラフト重合させる際、単量体としてポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルを用いると、その単量体構造中のポリアルキレングリコール部分にもグラフト反応が生じ、所望のポリマーが得られないためと考えられる。また、特許文献1では、ポリアルキレングリコールに不飽和カルボン酸系単量体に由来する構成単位を必須構成単位として含有する重合体がグラフトした構造の重合体に、ポリアルキレングリコールをエステル化することが記載されているが、具体的にはグラフト重合にマレイン酸よりもエステル化反応が進みやすい無水マレイン酸を用いているか、イタコン酸を用いて重量平均分子量が小さい200のポリアルキレングリコールを導入した例しか開示されていない。
【0009】
ポリアルキレングリコールに、不飽和カルボン酸系単量体に由来する構成単位を必須構成単位として含有する重合体がグラフトした構造において、グラフト鎖による立体反発を増大するには、カルボン酸からなるグラフト鎖に分子量の大きいポリアルキレングリコールを導入することが有利である。しかしながら、分子量の大きいポリアルキレングリコールをカルボン酸からなるグラフト鎖に導入することは容易でなく、例えば、特許文献1では、分子量の大きいポリアルキレングリコールを導入する場合は、エステル化反応が進行しやすい無水マレイン酸を用いている。グラフト鎖を構成する不飽和カルボン酸として無水物が存在しないモノカルボン酸からなるグラフト鎖に分子量の大きいポリアルキレングリコールを導入できれば、分散剤の構造設計の範囲が拡大する。
【0010】
本発明の課題は、モノカルボン酸からなるグラフト鎖に分子量の大きいポリアルキレングリコールを導入でき、分散剤として優れた性能を示すグラフト重合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記工程I及び工程IIを有する水溶性グラフト重合体の製造方法に関する。
<工程I>
一般式(1)で表される第一のポリアルキレングリコールに、少なくとも不飽和モノカルボン酸エステルを含む不飽和モノカルボン酸系単量体をグラフト重合させて重合体を得る工程
1O(A1O)n12 (1)
〔式中、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基でありR1とR2は同一でも異なってもよい。A1Oは炭素数2〜18のオキシアルキレン基、n1は5〜500の数である。n1個のA1Oは同一でも異なっていてもよい。〕
<工程II>
工程Iで得られた重合体を、さらに一般式(2)で表される第二のポリアルキレングリコールでエステル化する工程
3O(A2O)n2H (2)
〔式中、R3は水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基、A2Oは炭素数2〜18のオキシアルキレン基、n2は5〜500の数である。n2個のA2Oは同一でも異なっていてもよい。〕
【0012】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られた水溶性グラフト重合体を含む分散剤に関する。
【0013】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られた水溶性グラフト重合体、水硬性粉体、骨材及び水を混合する水硬性組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モノカルボン酸からなるグラフト鎖に分子量の大きいポリアルキレングリコールを導入でき、分散剤として優れた性能を示すグラフト重合体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
工程Iでは、一般式(1)で表される第一のポリアルキレングリコールに不飽和モノカルボン酸系単量体をグラフト重合させて重合体を得る。不飽和モノカルボン酸系単量体としては、少なくとも不飽和モノカルボン酸エステルを用いる。
【0016】
一般式(1)で表される第一のポリアルキレングリコールとしては、ポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテル又はポリアルキレングリコールのジアルキルエーテルが挙げられる。
【0017】
一般式(1)で表される化合物において、A1Oは炭素数2〜18のオキシアルキレン基であり、グラフト共重合体の水溶性向上の観点から、炭素数2〜8のオキシアルキレン基、更に2〜4のオキシアルキレン基が好ましい。一般式(1)で表される化合物を構成するA1O部分としては、A1Oは同一でも異なっていてもよい。具体的には、A1Oが、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等の単一のオキシアルキレン基のみからなる重合体が挙げられる。また、A1Oが、オキシエチレン基とオキシプロピレン基、オキシエチレン基とオキシブチレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とオキシブチレン基等の複数のオキシアルキレン基からなる重合体が挙げられる。好ましくは、本発明の製造方法で得られるグラフト重合体の水への溶解性の観点からオキシエチレン基からなるものが好ましい。n1はオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、5〜500であり、8〜200、更に10〜120が好ましい。
【0018】
また、一般式(1)のR1とR2は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基であり、水素原子又は1〜8の炭化水素基が好ましい。R1とR2の少なくとも一方は炭化水素基であることが好ましい。
【0019】
本発明では、第一のポリアルキレングリコールとして、例えば、ポリエチレングリコール等の両末端が水素原子の化合物や、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテル等の片端が封鎖された化合物、ポリエチレンオキサイドジアルキルエーテル等の両末端が封鎖された化合物を使用することができる。これらの中でも、工程IIのエステル化で第一のポリアルキレングリコールがエステル化することを抑制する観点から、片端が封鎖された化合物又は両末端が封鎖された化合物を使用することが好ましい。
【0020】
工程Iで用いられる不飽和モノカルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸並びにそれらの塩及びそれらのエステルが挙げられる。不飽和モノカルボン酸の炭素数は3〜5が好ましい。エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルコールとのエステル、なかでも不飽和モノカルボン酸、好ましくは炭素数は3〜5の不飽和モノカルボン酸、と炭素数1〜5の低級アルコールとのエステルが挙げられる。不飽和モノカルボン酸系単量体として、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を含むことが好ましい。不飽和モノカルボン酸の塩は、グラフト重合前から塩のもの又はグラフト重合後に塩を形成したものの何れでもよい。
【0021】
本発明では、不飽和モノカルボン酸系単量体として、少なくとも不飽和モノカルボン酸エステルを用いる。工程IIにおける反応率向上の観点から、不飽和モノカルボン酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、クロトン酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチルのような、炭素数3〜5の不飽和モノカルボン酸と炭素数1〜5の低級1価アルコールのエステルが好ましく、具体的にはメタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチルがより好ましく、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチルが更に好ましい。
【0022】
工程IIにおける反応率を向上させる観点からは、アルコールとカルボン酸の脱水よりもアルコールとカルボン酸エステルとのエステル交換が進行し易く、不飽和モノカルボン酸系単量体中の不飽和モノカルボン酸エステルの比率が多いことが好ましい。一方、得られるグラフト重合体の水溶性を向上及び分散剤として用いた際の吸着基を有する観点からは、不飽和モノカルボン酸のエステルの比率が少ないことが好ましい。したがって、不飽和モノカルボン酸系単量体中の不飽和モノカルボン酸エステルの割合は、本発明で得られる重合体の使用目的に応じて適切な範囲を選択することができる。例えば、重合体を、後述のように分散剤として使用する場合、不飽和モノカルボン酸系単量体中の不飽和モノカルボン酸エステルの割合は、1〜70モル%、更に5〜50モル%、より更に10〜30モル%が好ましく、不飽和モノカルボン酸系単量体中のアクリル酸、メタクリル酸及びクロトン酸から選ばれる不飽和モノカルボン酸又はその塩の割合は、99〜30モル%、更に95〜50モル%、より更に90〜70モル%が好ましい。
【0023】
工程Iにおける第一のポリアルキレングリコールと不飽和モノカルボン酸系単量体をグラフト重合させる反応において、第一のポリアルキレングリコールのモル数(n’)と不飽和モノカルボン酸系単量体の総モル数(n)との比は、効率の良いグラフト反応を行わせる観点から、n/n’=99.9/0.1〜50/50が好ましく、99.7/0.3〜60/40がより好ましく、99.5/0.5〜70/30が更に好ましい。
【0024】
工程Iでは、優れた分散性能を有する重合体を得る観点から、第一のポリアルキレングリコールと不飽和モノカルボン酸系単量体の重量比を、不飽和モノカルボン酸系単量体/第一のポリアルキレングリコール=1/30〜30/1、更に1/20〜20/1、より更に1/15〜15/1とすることが好ましく、1/1〜15/1が更に好ましく、2/1〜15/1がより更に好ましい。
【0025】
工程Iでは、第一のポリアルキレングリコールに不飽和モノカルボン酸系単量体をグラフト重合させて重合体を得る。例えば、反応容器に第一のポリアルキレングリコールを仕込み、窒素雰囲気下で昇温し、不飽和モノカルボン酸系単量体と重合開始剤を滴下により反応容器に導入し、100〜160℃で反応させる方法が挙げられる。
【0026】
工程Iでは、不飽和モノカルボン酸系単量体を、反応容器に収容された第一のポリアルキレングリコールに滴下してもよいし、第一のポリアルキレングリコールと共に予め反応容器に仕込んでもよい。
【0027】
工程Iでは、重合開始剤としてジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機化酸化物を用いることが出来る。重合開始剤は単独で滴下してもよいし、不飽和モノカルボン酸系単量体と混合して滴下してもよい。重合開始剤の第一のポリアルキレングリコール100重量部に対する重量比は、0.1〜300、0.5〜150、1〜120が好ましい。
【0028】
工程Iでは、反応溶媒を用いても用いなくてよい。反応率を向上させる観点から、溶媒を用いない方法が好ましい。反応溶媒を用いない場合は、ポリアルキレングリコールを予め反応容器に仕込むことが好ましい。
【0029】
工程Iで得られる重合体の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレンオキサイド換算)は、2000〜150000が好ましく、5000〜100000がより好ましく、10000〜50000が更に好ましい。
【0030】
工程IIでは、工程Iで得た重合体の不飽和モノカルボン酸系単量体由来のグラフト鎖に、一般式(2)で表される第二のポリアルキレングリコールでエステル化する。
【0031】
一般式(2)で表される第二のポリアルキレングリコールとしては、ポリアルキレングリコールのモノアルキルエーテル又はポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0032】
一般式(2)で表される化合物において、A2Oは炭素数2〜18のオキシアルキレン基であり、グラフト共重合体の水溶性向上の観点から、炭素数2〜8のオキシアルキレン基、更に2〜4のオキシアルキレン基が好ましい。一般式(1)で表される化合物を構成するA2O部分としては、A2Oは同一でも異なっていてもよい。具体的には、A2Oが、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等の単一のオキシアルキレン基のみからなる重合体が挙げられる。また、A2Oが、オキシエチレン基とオキシプロピレン基、オキシエチレン基とオキシブチレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とオキシブチレン基等の複数のオキシアルキレン基からなる重合体が挙げられる。好ましくは、本発明の製造方法で得られるグラフト重合体の水への溶解性の観点からオキシエチレン基からなるものが好ましい。n2はオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、5〜500であり、8〜200、更に10〜120が好ましい。
【0033】
優れた分散性能を有する重合体を得る観点から、第二のポリアルキレングリコールのオキシアルキレン基の平均付加モル数n2が、第一のポリアルキレングリコールのオキシアルキレン基の平均付加モル数n1以下であることが好ましい。優れた分散性能を有する重合体を得る観点から、n2とn1の比率(n2/n1)は1/1〜15/1がより好ましく、1/1〜10/1が更に好ましく、1/1〜6/1がより更に好ましい。また、第一のポリアルキレングリコールのオキシアルキレン基及び第二のポリアルキレングリコールのオキシアルキレン基は両方ともオキシエチレン基であることが好ましい。
【0034】
また、一般式(2)のR3は水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基であり、炭素数1〜8の炭化水素基が好ましい。
【0035】
本発明では、第二のポリアルキレングリコールとして、例えば、ポリエチレングリコール等の両末端が水素原子の化合物や、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテル等の片末端が封鎖された化合物を使用することができる。
【0036】
工程IIでポリアルキレングリコールのエステルの構成単位を形成するための第二のポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、メトキシポリエチレングリコール等のモノアルコキシポリエチレングリコール、等を用いることが出来る。
【0037】
工程IIでは、工程Iで得られた重合体に、第二のポリアルキレングリコールでエステル化を行う。工程Iで得られた重合体と第二のポリアルキレングリコールとをエステル化する際の反応温度は80〜200℃が好ましく、100〜150℃がより好ましい。また、反応時間は、2〜24時間、更に5〜18時間が好ましい。
【0038】
工程IIでは、触媒としてパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化ホウ素、等を用いることが好ましい。工程Iでの未反応の不飽和モノカルボン酸系単量体が共重合することを抑制する観点から、酸触媒が好ましく、具体的にはパラトルエンスルホン酸及びメタンスルホン酸が好ましい。酸触媒の使用量は、っ工程Iでの反応率を向上する観点から、工程Iで得た重合体/酸触媒の重量比で500/1〜1/1、200/1〜1/1、50/1〜1/1、が好ましい。
【0039】
工程IIでは、分散性に優れる重合体を得る観点から、工程Iで得た重合体と第二のポリアルキレングリコールの重量比を、工程Iで得た重合体/第二のポリアルキレングリコール=5/95〜95/5、更に6/94〜85/15、より更に7/93〜70/30、8/92〜50/50、8/92〜40/60とすることが好ましい。
【0040】
工程IIで得られる重合体の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレンオキサイド換算)は、5000〜200000が好ましく、10000〜100000がより好ましく、15000〜50000が更に好ましい。
【0041】
本発明の製造方法で得られた水溶性グラフト重合体は、分散剤として好適に用いることができる。さらに水硬性粉体用の分散剤として好適に用いることができる。従って、本発明は、工程I及び工程IIを有する水硬性粉体用分散剤の製造方法として実施できる。
【0042】
水硬性粉体は、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏などが挙げられる。好ましくはセメントであり、普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸セメント等のセメントであり、またこれらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加されたものでもよい。その他、早強セメント、超早強セメント、高ビーライト系セメント、エコセメント等でもよい。
【0043】
本発明の製造方法で得られた水溶性グラフト重合体は、水硬性粉体、骨材及び水と共に混合して、水硬性組成物を調製することができる。本発明の製造方法で得られた水溶性グラフト重合体の分散効果により、水硬性組成物の流動性を向上することができる。骨材として砂等の細骨材、砂利等の粗骨材が挙げられ、水硬性組成物としてモルタル及びコンクリートが挙げられる。
【実施例】
【0044】
実施例1及び比較例1
(1)工程I(重合体1−1の製造)
攪拌機付きガラス製四つ口フラスコにメトキシポリエチレングリコール(エチレンオキシド平均付加モル数23)10.0gを仕込み、窒素気流を通しながら140℃まで昇温した。140℃に達したところで、メタクリル酸92.3gとメタクリル酸メチル35.8gからなる不飽和モノカルボン酸系単量体混合物とジ−t−ブチルパーオキサイド10.5gを別々の投入口から滴下し始め、一定速度で2時間かけて滴下を終了した。その後、140℃で2時間熟成した後冷却し、重合体1−1を得た。同定はH1-NMRで行った。
【0045】
(2)工程II(重合体2−1の製造)
工程Iで得た重合体1−1を148.6gと、メトキシポリエチレングリコール(エチレンオキシド平均付加モル数23)373.4gとパラトルエンスルホン酸の70%水溶液9.7gを添加し、窒素気流下、攪拌しながら135℃まで昇温した。135℃で4時間保ち、脱水及びエステル交換を行った。水及び/又はメタノールの留出が停止後更に2時間熟成を行い、反応終了とした。100℃まで冷却し、48%水酸化ナトリウム水溶液47.7gで中和し、重合体2−1の50%水溶液を得た。同定はH1-NMRで行った。
【0046】
他の重合体については、メトキシポリエチレングリコールのエチレンオキシド平均付加モル数(表中、n1又はn2で表す)、不飽和モノカルボン酸系単量体の比率、触媒の種類等を、表1、表2のように変更し、上記と同様に反応を行った。結果を表1、表2に示す。なお、以下、工程Iにより得られた重合体を「グラフト重合体」、工程IIで得られた重合体を「エステル化グラフト重合体」と表記する。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
* 触媒の使用量は、第二のポリアルキレングリコールに対するモル%である。
【0050】
実施例2〜5及び比較例2〜4
実施例1及び比較例1で得られたエステル化グラフト重合体を用いて調製したモルタルについて、モルタルフローの測定を行った。モルタル配合は表3の通りとした。セメント100重量部に対するエステル化グラフト重合体の添加量は表4に示した通りとした。表3の配合条件で、モルタルミキサーに、細骨材、セメントを投入して15秒間空練りを行い、次いで、脂肪酸エステル系消泡剤0.05gとエステル化グラフト重合体を配合した水を加えて更に2分間練り混ぜ、モルタルを製造した。モルタル製造直後(0分)、30分後、60分後及び90分後にそれぞれモルタルフローを測定した。フロー試験はJIS R5201に従って行った。なお、JIS R 5201記載の落下運動は行っていない。結果を表4に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3中の配合成分は以下のものである。
W:和歌山市水道水
C:普通ポルトランドセメント、太平洋セメント(株)製、密度3.16g/cm3
S:細骨材、城陽産山砂 密度2.55g/cm3
【0053】
【表4】

【0054】
* エステル化グラフト重合体の添加量は、セメントに対する重量%である。
【0055】
比較例2〜4は、0分の流動性が低いため、その後のモルタルフローの測定を行わなかった。比較例2及び3は、工程Iで得られたグラフト重合体であり、第二のポリアルキレングリコールを導入していない重合体を用いた例である(特許文献2及び3に相当する)。また、比較例4は、工程Iにおいて不飽和モノカルボン酸系単量体に不飽和モノカルボン酸エステルを使用せずに、工程I及び工程IIを経て得られたエステル化グラフト重合体である(特許文献1に相当する)。実施例2〜5に示されるように、本発明品であるエステル化グラフト重合体2−1〜2−4は、これらの比較例の重合体よりもセメント分散剤として流動性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程I及び工程IIを有する水溶性グラフト重合体の製造方法。
<工程I>
一般式(1)で表される第一のポリアルキレングリコールに、少なくとも不飽和モノカルボン酸エステルを含む不飽和モノカルボン酸系単量体をグラフト重合させて重合体を得る工程
1O(A1O)n12 (1)
〔式中、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基でありR1とR2は同一でも異なってもよい。A1Oは炭素数2〜18のオキシアルキレン基、n1は5〜500の数である。n1個のA1Oは同一でも異なっていてもよい。〕
<工程II>
工程Iで得られた重合体を、さらに一般式(2)で表される第二のポリアルキレングリコールでエステル化する工程
3O(A2O)n2H (2)
〔式中、R3は水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基、A2Oは炭素数2〜18のオキシアルキレン基、n2は5〜500の数である。n2個のA2Oは同一でも異なっていてもよい。〕
【請求項2】
工程IIにおいて、酸触媒を用いる請求項1記載の水溶性グラフト重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られた水溶性グラフト重合体を含む分散剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られた水溶性グラフト重合体、水硬性粉体、骨材及び水を混合する水硬性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−140489(P2012−140489A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292288(P2010−292288)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】