説明

水溶性ケイ素化合物及び水溶性ケイ素化合物の製造方法

【課題】任意の水で希釈が可能な水溶性ケイ素化合物の製造方法を提供することであり、本製造方法で得られる水溶性ケイ素化合物を使用し、多孔質の酸化ケイ素の粉体や酸化ケイ素を含むガラス体を得ることが可能な水溶性ケイ素化合物を提供すること。
【解決手段】
下記式(1)で表されるケイ素化合物又は下記式(1)で表されるケイ素化合物の縮合物と、分子内に少なくとも1以上の水酸基及び/又はアミノ基を有する水溶性化合物とを接触させた後に、酸性物質を接触させることを特徴とする水溶性ケイ素化合物の製造方法。


[式(1)中、RないしRは、互いに同一でも異なってもよい、水素原子、ヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、RないしRの少なくとも1つの基は、中心のSi原子とSi−O結合をする酸素原子を有する基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は任意の割合で水に可溶な水溶性ケイ素化合物及びその製造方法に関し、特に、ケイ素化合物に、水酸基又はアミノ基を含有する水溶性化合物を接触させた後に、酸性物質を接触させることによって、水に任意の割合で溶解することが可能な水溶性ケイ素化合物の製造方法に関するものである。また、多孔質の酸化ケイ素構造体を得ることが可能な水溶性ケイ素化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケイ素化合物は、アルコキシ基の加水分解により縮合し、酸化ケイ素を形成する。そのため、特にテトラアルコキシシランのようなケイ素化合物は、ゾル−ゲル反応の酸化ケイ素前駆体として、様々な用途に使用されている(非特許文献1参照)。このようなテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランが広く用いられているが、これら化合物は水に不溶であり、酸や塩基性物質との接触なしでは縮合反応が進行しないことが知られている。
【0003】
これらテトラアルコキシシランを縮合反応させることによって酸化ケイ素の前駆体を合成するには、有機溶剤を使用する必要があり、環境負荷への観点から望ましくない。また、環境負荷の観点より有機溶剤を使用せず、テトラアルコキシシランをエタノールと混合後、酸や塩基性物質を接触させて酸化ケイ素の前駆体を合成する方法も知られているが、多量の水との接触により直ぐに反応し、均一な水溶液を得ることができない。
【0004】
一方、ケイ素化合物の水溶化については、イオン交換樹脂等の固体触媒を用いて合成する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、本方法で得られた水溶性のケイ素化合物は、水との反応性が高く、水で50質量%に希釈を行うと、ゲル化してしまうという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2007−070353号公報
【非特許文献1】ゾル−ゲル法の科学(アグネ承風社)p.9〜p.24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、任意の量の水で希釈が可能であり、保存安定性に優れた水溶性ケイ素化合物の製造方法、及び水溶性ケイ素化合物を提供することにある。また、多数の空隙を有するポーラスな酸化ケイ素の粉体や、そのような酸化ケイ素を含むガラス体を得ることが可能な水溶性ケイ素化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ケイ素化合物(成分A)に特定の化合物(成分B)を接触させた後に、酸性物質(成分C)を接触させることによって、水に任意の割合で溶解し、安定性の高い水溶性ケイ素化合物を製造することが可能であることを見出して本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、下記式(1)で表されるケイ素化合物又は下記式(1)で表されるケイ素化合物の縮合物(成分A)と、分子内に少なくとも1以上の水酸基及び/又はアミノ基を有する水溶性化合物(成分B)とを接触させた後に、酸性物質(成分C)を接触させることを特徴とする水溶性ケイ素化合物の製造方法を提供するものである。
【化1】

[式(1)中、RないしRは、互いに同一でも異なってもよい、水素原子、ヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、RないしRの少なくとも1つの基は、中心のSi原子とSi−O結合をする酸素原子を有する基である。]
【0009】
また、本発明は、上記の水溶性ケイ素化合物の製造方法を使用して得られるような化学構造を有するものであることを特徴とする、製造方法が限定されていない水溶性ケイ素化合物を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記の水溶性ケイ素化合物の製造方法を使用して得られたことを特徴とする、製造方法が上記に限定されている水溶性ケイ素化合物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、焼成して多孔質の酸化ケイ素構造体(多孔質の酸化ケイ素の粉体、多孔質の酸化ケイ素のガラス体等が含まれる)を得るための上記の水溶性ケイ素化合物を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記の水溶性ケイ素化合物を焼成して得られたものであることを特徴とする多孔質の酸化ケイ素構造体(多孔質の酸化ケイ素の粉体、多孔質の酸化ケイ素のガラス体等が含まれる)を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水溶性ケイ素化合物の製造方法によれば、簡便な方法で水に任意の割合で溶解が可能で、安定性の高い水溶性ケイ素化合物の製造方法が提供でき、この製造方法で得られた水溶性ケイ素化合物は、多孔質の酸化ケイ素の粉体や多孔質の酸化ケイ素のガラス体(の前駆体)の原料として極めて好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0015】
本発明は、下記成分Aと下記成分Bとを接触させた後に下記成分Cを接触させることを特徴とする水溶性ケイ素化合物の製造方法である。
<成分A>
下記式(1)で表されるケイ素化合物又は下記式(1)で表されるケイ素化合物の縮合物
【化1】

[式(1)中、RないしRは、互いに同一でも異なってもよい、水素原子、ヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、RないしRの少なくとも1つの基は、中心のSi原子とSi−O結合をする酸素原子を有する基である。]
<成分B>
分子内に少なくとも1以上の水酸基及び/又はアミノ基を有する水溶性化合物
<成分C>
酸性物質
【0016】
<成分A>
成分Aは上記のものであれば特に限定はないが、上記式(1)中のRないしRの少なくとも1つの基は、中心のSi原子とSi−O結合をする酸素原子を有する基である。かかる基が1つもないと、得られるケイ素化合物の水に対する溶解性が不足する場合がある。すなわち、成分Aは、これらの基を1以上有し、2以上有するものが好ましく、3以上有するものが特に好ましい。
【0017】
上記式(1)中のRないしRのうちの少なくとも1つの基が、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基であることが、得られるケイ素化合物をより水溶化する点で好ましい。すなわち、成分Aは、これらの基を1以上有するものが好ましく、2以上有するものがより好ましく、3以上有するものが特に好ましい。
【0018】
式(1)中のRないしRがアルコキシ基、アルキル基又はアリール基のとき、その基はそこに置換基を有していてもいなくてもよいが、置換基を有する場合、その置換基としては、アミノ基、エポキシ基又はメルカプト基が、焼成して得られる多孔質の酸化ケイ素構造体(多孔質の酸化ケイ素の粉体、多孔質の酸化ケイ素のガラス体等が含まれる)の強度を高めるために好ましい。
【0019】
成分Aは、上記式(1)で表されるケイ素化合物が縮合した縮合物であることも、得られる水溶性ケイ素化合物の加水分解性等の不安定性を低減する点で好ましい。この縮合は、水等を使用して常法に従って行うことができる。この縮合した縮合物に関しては、2〜100分子に縮合したものを用いることが好ましく、2〜50分子に縮合したものがより好ましく、2〜20分子に縮合したものが特に好ましい。「上記式(1)で表されるケイ素化合物が縮合した縮合物」は、縮合していないものと組み合わせて用いてもよく、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0020】
成分Aとしては、以下の具体例に限定はされないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシシラン等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0021】
また、成分Aの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラノルマルプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルアミノエチルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシシラン等が、前記範囲に縮合した化合物も挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0022】
<成分B>
成分Bは、分子内に少なくとも1以上の水酸基及び/又はアミノ基を有する水溶性化合物である。成分Bは、水に任意の割合で溶解可能な水溶性ケイ素化合物を得るために、上記ケイ素化合物と接触させる成分である。成分Bについては、特に限定はないが、グリコール類、脂肪族アミン類及びアルカノールアミン類からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが、下記式(1)で表されるケイ素化合物の加水分解等に対する安定性を向上させ、得られる水溶性ケイ素化合物をより水溶化する点で好ましい。
【0023】
以下の具体例に限定はされないが、グリコール類としては、例えば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0024】
脂肪族アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、アミルアミン、sec−アミルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族アミン類;ピペリジン、ピロリジン等の脂肪族環状アミン類等が挙げられる。
【0025】
アルカノールアミン類とは、分子内に少なくとも1以上のアミノ基と1以上の水酸基を有する化合物であり、具体的には例えば、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルエタノールアミン、N−ノルマルブチルジエタノールアミン、N−tert−ブチルエタノールアミン、N−tert−ブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等が挙げられる。
【0026】
グリコール類、脂肪族アミン類及びアルカノールアミン類からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物は、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0027】
<成分C>
成分Cは酸性物質である。本発明において、酸性物質とは、少なくとも一定割合では水に可溶で、水に溶解したときに水素イオンを出す物質をいい、例えばイオン交換樹脂等の固体酸触媒は含まれない。成分Cは、水に任意の割合で溶解可能な水溶性ケイ素化合物を得るために、上記成分Aと成分Bを接触させた後に、それに次いで更に接触させる成分である。酸性物質としては、特に水に溶解する酸が好ましく、塩酸、硝酸、硫酸、カルボン酸類又は「分子内にP原子又はS原子を1以上有する有機酸類」であるであることが、任意の割合で水に溶解する水溶性ケイ素化合物を簡便に合成できる点で好ましい。
【0028】
成分Cとしては、以下の具体例には限定されないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸類;ギ酸、酢酸、吉草酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、ヒドロキシ酪酸、シトラマル酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、グリセリン酸等のカルボン酸類;リン酸、亜リン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、10−カンファ−スルホン酸、スルフィン酸、スルフェン酸等の「分子内にP原子又はS原子を1以上有する有機酸類」等が挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0029】
このようにして得られた水溶性ケイ素化合物は、Siを有する化学構造単位が複数個縮合したものである。縮合度は特に限定はないが、2〜500個縮合したものが好ましく、2〜300個縮合したものがより好ましく、2〜100個縮合したものが特に好ましい。また、これらの混合物であってもよい。
【0030】
成分Cは、成分Aと成分Bとを接触させた後に接触させることが必須である。成分Cを成分Aに、成分Bを接触させずに接触させると、沈殿生成やゲル化等により、水溶性ケイ素化合物が得られず、成分Cを成分Aに、成分Bを成分Aに接触させる前に接触させると、沈殿生成やゲル化等により、水溶性ケイ素化合物が得られず、成分Cを成分Aに、成分Bを成分Aに接触させるのと同時に接触させると、沈殿生成により、水溶性ケイ素化合物が得られない。
【0031】
成分Cは、成分Aと成分Bとを接触させた後に接触させることが必須であるが、反応温度20〜30℃の場合、成分Aと成分Bとを接触させた24〜100時間後に接触させることが好ましく、24〜72時間後に接触させることがより好ましく、48〜72時間後に接触させることが特に好ましく、60〜72時間後に接触させることが更に好ましい。また、反応温度40〜60℃の場合には、成分Aと成分Bとを接触させた24〜100時間後に接触させることが好ましく、24〜72時間後に接触させることがより好ましく、24〜48時間後に接触させることが特に好ましく、36〜48時間後に接触させることが更に好ましい。成分Aと成分Bとが充分に反応した後に成分Cを接触させないと、得られた水溶性ケイ素化合物は任意の量の水に溶解せず、二層分離する場合がある。なお、「接触」とは、「反応」及び/又は「混合」を言う。
【0032】
本発明に係る水に任意の割合で溶解する水溶性ケイ素化合物の製造方法については、以下の4形態であれば何れでもよい。以下、「室温」とは、15〜40℃を言い、「加熱」とは、好ましくは40〜200℃、特に好ましくは50〜150℃である。
(1)成分Aと成分Bを室温下で反応又は混合後、成分Cを添加した後、室温下で反応又は混合する方法
(2)成分Aと成分Bを加熱し反応又は混合後、成分Cを添加した後、室温下で反応又は混合する方法
(3)成分Aと成分Bを室温下で反応又は混合後、成分Cを添加した後、加熱し反応又は混合する方法
(4)成分Aと成分Bを加熱し反応又は混合後、成分Cを添加した後、加熱し反応又は混合する方法
【0033】
このうち、成分Aと成分Bを加熱し反応又は混合後、成分Cを添加した後、加熱し反応又は混合後する方法(4)が、任意の割合で水に溶解する水溶性ケイ素化合物を簡便に合成できる点から好ましい。
【0034】
成分Aと成分Bの使用割合は特に限定はないが、モル比で、
(成分A)/(成分B)=0.1/10〜10/0.1が好ましく、
(成分A)/(成分B)=0.3/10〜10/0.3がより好ましく、
(成分A)/(成分B)=0.5/10〜10/0.5が特に好ましい。
【0035】
成分Aと成分Cの使用割合は特に限定はないが、モル比で、
(成分A)/(成分C)=0.1/5〜10/0.01が好ましく、
(成分A)/(成分C)=0.3/3〜10/0.03がより好ましく、
(成分A)/(成分C)=0.5/1〜10/0.05が特に好ましい。
【0036】
成分Bと成分Cの使用割合は特に限定はないが、モル比で、
(成分B)/(成分C)=10/5〜0.1/0.01が好ましく、
(成分B)/(成分C)=10/3〜0.2/0.03より好ましく、
(成分B)/(成分C)=10/1〜0.3/0.05が特に好ましい。
【0037】
(成分A)/(成分B)/(成分C)の比率に対して、成分Aが少なすぎると、ケイ素含有量が少なくなり、酸化ケイ素構造体にする際の収率の低下が起こる場合があり、一方、成分Aが多すぎると、水に対する溶解性や加水分解性等の安定性が不足する場合がある。
【0038】
また、成分Bの比率が少なすぎると、水に対する溶解性や加水分解性等の安定性が不足する場合があり、一方、成分Bが多すぎると、酸化ケイ素構造体にする際の収率が不足する場合や、酸化ケイ素構造体にする際の有機成分の脱離の際に非常に時間がかかる場合がある。
【0039】
また、成分Cの比率が少なすぎると、水に対する溶解性や加水分解性等の安定性が不足する場合があり、一方、成分Cが多すぎると、酸化ケイ素構造体の強度が不足する場合がある。
【0040】
上記の製造方法を使用して得られるものであることを特徴とする水溶性ケイ素化合物であれば、多孔質の「酸化ケイ素の粉体や酸化ケイ素のガラス体等」(本発明においては括弧内を「酸化ケイ素構造体」と略記する場合がある)の原料、又はその前駆体の原料として極めて好適に使用することができる。かかる水溶性ケイ素化合物の化学構造については、上記製造方法で得られる構造を有するものであれば、上記の特定の製造方法で製造されたものには限定されない。多孔質の酸化ケイ素構造体(の前駆体)の原料として、本発明のものほど優れていて、水に任意の割合で溶解する水溶性ケイ素化合物が従来なかったので、本発明の水溶性ケイ素化合物は新規な化合物又は新規な混合物である。そのため製造方法は限定されない。また、かかる水溶性ケイ素化合物の化学構造については明確ではなく、また、混合物であることも考えられるので文言では記載することができない。
【0041】
ただし、本発明の水溶性ケイ素化合物は、上記の製造方法を使用して得られたものであることが、簡便である点等から好ましい。
【0042】
本発明の水に任意の割合で溶解する水溶性ケイ素化合物は、多孔質の酸化ケイ素や多孔質の酸化ケイ素のガラス体(多孔質の酸化ケイ素構造体)を合成する際に好適に使用できる。すなわち、従来溶剤を用いた多孔質の酸化ケイ素やガラス体の合成に使用される前駆体等の代替として使用でき、溶剤を使用しないため、作業環境の点で好ましく、また、成分Aに成分Bを接触させることにより、溶剤を用いた多孔質の酸化ケイ素やガラス体の合成でのテトラアルコキシシランの残存と揮発による歩留まりの低下を抑えることができる。
【0043】
本発明の水溶性ケイ素化合物から、多孔質の酸化ケイ素構造体等の酸化ケイ素構造体を製造する方法は特に限定はないが、具体的には以下が挙げられる。すなわち、本発明の水溶性ケイ素化合物を直接焼成することによって、多孔質の酸化ケイ素の粉体が得られる。また、本発明の水溶性ケイ素化合物から、水や低沸点の有機物を留去した後、室温放置してゲル化させ、それを焼成することによって、多孔質の酸化ケイ素のガラス体が得られる。
【0044】
得られる酸化ケイ素構造体に機能性を付与するために、種々の水溶性金属塩等を、本発明の水溶性ケイ素化合物の水溶液に配合することができる。そのようにして得られた水溶液を、例えば上記のようにして焼成すれば、種々の用途に有用な機能性の酸化ケイ素構造体が得られる。本発明の水溶性ケイ素化合物は、水と任意に混合させることが可能であるので、種々の水溶性金属塩等を含有させて機能性の高い酸化ケイ素構造体を得るために特に好適である。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0046】
製造例1
[水溶性ケイ素化合物Aの合成]
テトラメトキシシラン15.2g(0.1モル)に対して、1,2−プロパンジオール30.4g(0.4モル)を添加し、液温が54℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、塩酸を0.1g(0.001モル)添加し、液温が54℃で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物A]とする。
【0047】
製造例2
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)に対して、1,5−ペンタンジオール41.6g(0.4モル)を添加し、液温が54℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、硫酸を0.1g(0.001モル)添加し、液温が54℃で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物B]とする。
【0048】
製造例3
テトラノルマルプロポキシシラン26.4g(0.1モル)に対して、ポリエチレングリコール80.0g(0.4モル)を添加し、液温が54℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、2Mクエン酸溶液を0.1g(0.0002モル)添加し、液温が54℃で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物C]とする。
【0049】
製造例4
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)に対して、1,2−プロパンジオール22.8g(0.3モル)を添加し、液温が54℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、乳酸を2g(0.02モル)添加し、液温が54℃で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物D]とする。
【0050】
製造例5
モノメチルトリメトキシシラン13.6g(0.1モル)に対して、2,3−ブタンジオール27.0g(0.3モル)を添加し、液温が54℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、2Mリンゴ酸溶液を0.5g(0.001モル)添加し、液温が54℃で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物E]とする。
【0051】
製造例6
テトラメトキシシラン15.2g(0.1モル)に対して、ポリプロピレングリコール60.0g(0.3モル)を添加し、液温が54℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、酢酸を0.6g(0.01モル)添加し、液温が54℃で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物F]とする。
【0052】
製造例7
テトラエトキシシラン20.8g(0.1モル)に対して、1,2−プロパンジオール15.2g(0.2モル)を添加し、室温下でスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、硝酸を0.1g(0.002モル)添加し、室温下で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物G]とする。
【0053】
製造例8
テトラメトキシシラン15.2g(0.1モル)に対して、1,2−プロパンジオール15.2g(0.2モル)を添加し、液温が54℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、酢酸を0.6g(0.01モル)添加し、室温下で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物H]とする。
【0054】
製造例9
テトラメトキシシラン15.2g(0.1モル)に対して、1,5−ペンタンジオール31.2g(0.3モル)を添加し、室温下でスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。その後、酢酸を0.6g(0.01モル)添加し、液温が54℃で更に1時間混合し、水溶性ケイ素化合物を得た。これを[水溶性ケイ素化合物I]とする。
【0055】
比較製造例1
テトラメトキシシラン15.2g(0.1モル)に対して、1,2−プロパンジオール15.2g(0.2モル)を添加し、液温が100℃になるようにホットスターラーを用いて攪拌しながら24時間混合した。これを[水溶性ケイ素化合物J]とする。
【0056】
実施例1〜9、比較例1
製造例1〜9及び比較製造例1で製造した水溶性ケイ素化合物を、5、10、50、90質量%の水溶液にし、溶解後の水への溶解性を確認した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜9で得られた5、10、50、90質量%の水溶液は、溶解後に透明液体であり、室温で5ヶ月経過しても同様な外観を示しており、白濁、沈殿の無い透明な液体であった。一方、比較例1で得られた5、10、50、90質量%の水溶液は溶解後には既に白濁液体であった。そのため、以下の焼成にまで至らなかった。
【0059】
実施例10〜18
製造例1〜9で製造した水溶性ケイ素化合物を50質量%の水溶液に調整した後、室温下で、開放状態で溶媒を揮発させ、固化させた。更に、この固形物を450℃で3時間焼成させ、酸化ケイ素構造体の状態を電子顕微鏡で観察した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2の結果から分かるように、製造例1〜9で製造した水溶性ケイ素化合物からは、何れも、優れた多孔質の酸化ケイ素構造体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の水に任意の割合で溶解するケイ素化合物は、トルエン等の溶剤を使用することがないため、環境負荷が小さい化合物であり、焼成することで多孔質のセラミックス、ガラス等の「多孔質の酸化ケイ素構造体」を得ることができる。そのため、固体触媒、悪臭成分を吸着することによる消臭剤や吸着剤、多孔質シリカに芳香性を有する化合物を吸着させることによって徐芳性を有するセラミックス材料を提供することができることから、電気産業分野や化粧品分野等様々な産業分野に広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるケイ素化合物又は下記式(1)で表されるケイ素化合物の縮合物(成分A)と、分子内に少なくとも1以上の水酸基及び/又はアミノ基を有する水溶性化合物(成分B)とを接触させた後に、酸性物質(成分C)を接触させることを特徴とする水溶性ケイ素化合物の製造方法。
【化1】

[式(1)中、RないしRは、互いに同一でも異なってもよい、水素原子、ヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、RないしRの少なくとも1つの基は、中心のSi原子とSi−O結合をする酸素原子を有する基である。]
【請求項2】
式(1)中のRないしRのうちの少なくとも1つの基が、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基である請求項1記載の水溶性ケイ素化合物の製造方法。
【請求項3】
式(1)中のRないしRが有する置換基が、アミノ基、エポキシ基又はメルカプト基である請求項1又は請求項2記載の水溶性ケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
成分Aが、下記式(1)で表されるケイ素化合物が2〜20分子縮合してなる縮合物である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の水溶性ケイ素化合物の製造方法。
【化2】

[式(1)中、RないしRは、互いに同一でも異なってもよい、水素原子、ヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示し、RないしRの少なくとも1つの基は、中心のSi原子とSi−O結合をする酸素原子を有する基である。]
【請求項5】
成分Bが、グリコール類、脂肪族アミン類又はアルカノールアミン類である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の水溶性ケイ素化合物の製造方法。
【請求項6】
成分Cが、塩酸、硝酸、硫酸、カルボン酸類又は分子内にP原子又はS原子を1以上有する有機酸類である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の水溶性ケイ素化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載の水溶性ケイ素化合物の製造方法を使用して得られるものであることを特徴とする水溶性ケイ素化合物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載の水溶性ケイ素化合物の製造方法を使用して得られたことを特徴とする水溶性ケイ素化合物。
【請求項9】
焼成して多孔質の酸化ケイ素構造体を得るための請求項7又は請求項8記載の水溶性ケイ素化合物。
【請求項10】
請求項9記載の水溶性ケイ素化合物を焼成して得られたものであることを特徴とする多孔質の酸化ケイ素構造体。

【公開番号】特開2010−7032(P2010−7032A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171301(P2008−171301)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000188939)マツモトファインケミカル株式会社 (26)
【Fターム(参考)】