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水溶性セレンの分析方法
説明

水溶性セレンの分析方法

【課題】セレン化水素ガス検知器を利用してセレン化水素ガスの測定を行うことにより、試料水(分析用試料)の水溶性セレン濃度の分析を行う方法において、試料水に含まれ得る硫黄化合物に起因する硫化水素ガスの発生を回避して、正確な分析値を得る。
【解決手段】試料水に対し、有機物分解剤として過マンガン酸カリウムを添加して加熱する第一前処理と、6価セレンを4価セレンに還元する還元剤として塩酸を添加して加熱する第二前処理とを順に実施した後、試料水に含まれる4価セレンをテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応させてセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて、試料水の水溶性セレン濃度を分析する方法において、第一前処理の際にさらに硫酸を添加して、試料水に含まれる有機物と共にテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して硫化水素ガスを生成し得る硫黄化合物を分解するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性セレンの分析方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、特に硫黄化合物を含み得る排水、例えば石炭火力発電所から排出される脱硫排水等の分析に適用して好適な水溶性セレンの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)は、産業界において広く利用されている元素である。例えば、ガラスの着色剤や脱色剤等に用いられる他、金属セレンの半導体性・光伝導性を利用して、コピー機の感光ドラムや整流器等に利用されている。したがって、セレンを含む工業製品を製造する過程で水溶性セレンを含む排水が排出されたり、セレンを含む工業製品の使用や廃棄によって、環境中に水溶性セレンが溶出することがある。
【0003】
電気事業においては、石炭に含まれる微量のセレンに起因して、石炭火力発電所の排煙脱硫排水に水溶性セレン(4価セレン:SeO2−、6価セレン:SeO2−)が含まれることがある。また、石炭灰処分場においても、石炭に含まれる微量のセレンに起因して、石炭灰処分場溶出水に水溶性セレンが含まれることがある。
【0004】
ここで、セレンは、過剰摂取により各種障害を引き起こす元素として知られている。例えば、神経障害、胃腸障害、筋衰弱、低血圧等の症状が起き、最終的には循環虚脱や肺水腫を引き起こすことが知られている。したがって、排水中にセレンが溶存していると、人体に悪影響を及ぼす虞があることから、わが国では、平成5年にセレンの水質環境基準(0.01mg−Se/L)が制定され、平成6年に水質汚濁防止法施行令の一部が改正されてセレンの排水基準(0.1mg−Se/L)が制定された。
【0005】
上記排水基準値を遵守するためには、排水中のセレン濃度の継続的な監視及び管理が必要となる。
【0006】
かかる状況下において、本件出願人は、特許文献1において、分析用試料に溶存している4価セレンの分析方法を提案している。具体的には、4価セレンが溶存している分析用試料に塩酸及び硫酸の少なくともいずれか一方を添加して酸性分析用試料を作製し、この酸性分析用試料にテトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加して4価セレンとテトラヒドロホウ酸ナトリウムを反応させることによりセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器で検出することにより得られる信号値に基づいて分析用試料に溶存している4価セレン濃度を定量分析する方法を提案している。また、この分析方法を脱硫排水に対して適用する際には、分析用試料をJIS法(JIS−K0102.67.3.、非特許文献1参照)に準じた公定法により前処理することで、分析用試料に含まれる分析の妨害成分(有機物等)の影響を排除でき、しかもこの前処理により分析用試料が酸性化されるので、酸性化処理を省略できることも提案している。
【0007】
また、公定法に準じた上記前処理法は、分析用試料に硫酸及び硝酸を添加し、加熱して硫酸白煙を発生させる手法であることから、その操作が極めて煩雑であると共に、処理に要する時間も4〜5時間と長時間であった。そこで、本件出願人は、特許文献2において、特許文献1にて提案した分析方法について、分析用試料に対し、過マンガン酸カリウムを添加して加熱する第一前処理と、塩酸を添加し加熱して6価セレンを4価セレンへ還元する第二前処理とを順に行い、酸性化処理を省略することによって、分析用試料に含まれる分析の妨害成分(有機物等)の影響を公定法よりも簡易且つ迅速に排除しながら、4価セレン濃度だけでなく6価セレン濃度も含めた水溶性セレンの全濃度を高精度に分析する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−8668号
【特許文献2】特開2011−2424号
【0009】
【非特許文献1】日本工業標準調査会、工業排水試験方法、JIS K 0102.67.3、(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、排水には、有機物だけでなく、硫黄化合物が含まれる場合がある。硫黄化合物の一部はテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して還元されることによって、硫化水素ガスとなることが文献1及び2において報告されている(文献1:W.kijowski and P.A.Steudler, "Determination of total reduced sulfur in natural waters", Limnol.Oceanogr., 27(5),975-978,(1982)、文献2:J.F.Tysona and C.D.Palmerb, "Simultaneous detection of selenium by atomic fluorescence and sulfur by molecular emission by flow-injection hydride generation with on-line reduction for the determination of selenate, sulfate and sulfite", Anal. Chim. Act.,652(1-2),251-258,(2009))。
【0011】
ここで、硫化水素ガスは、セレン化水素ガス検知器によるセレン化水素ガスの測定を妨害する成分となり得る。また、本願発明者等が鋭意研究を行った結果、脱硫排水にもテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって硫化水素を発生してセレン化水素ガスの測定を妨害する種類の硫黄化合物が含まれることがあり、このことに起因して、正確な分析値を得られない場合があることが明らかとなった。
【0012】
そこで、本発明は、セレン化水素ガス検知器を利用してセレン化水素ガスの測定を行うことにより、試料水(分析用試料)の水溶性セレン濃度の分析を行う方法において、試料水に含まれ得る硫黄化合物に起因する硫化水素ガスの発生を回避して、正確な分析値を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意研究を行った結果、特許文献2に記載の方法における第一前処理(有機物分解処理)において、過マンガン酸カリウムと硫酸を併用することによって、過マンガン酸カリウムの酸化力を増強させて、試料水の硫黄化合物(テトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して硫化水素ガスを生成し得る硫黄化合物)を分解させ、硫化水素の発生を回避できるという新たな知見を得るに至り、さらに種々検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明の水溶性セレン分析方法は、試料水に対し、有機物分解剤として過マンガン酸カリウムを添加して加熱する第一前処理と、6価セレンを4価セレンに還元する還元剤として塩酸を添加して加熱する第二前処理とを順に実施した後、試料水に含まれる4価セレンをテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応させてセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて、試料水の水溶性セレン濃度を分析する方法において、第一前処理の際にさらに硫酸を添加して、試料水に含まれる有機物と共にテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して硫化水素ガスを生成し得る硫黄化合物を分解するようにしている。
【0015】
ここで、本発明の水溶性セレン分析方法において、硫酸の添加により、試料水の硫酸濃度を1.3〜3mol/Lに調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セレン化水素ガス検知器を利用してセレン化水素ガスの測定を行うことにより、分析用試料(試料水)の水溶性セレン濃度の分析を行う方法において、試料水に含まれ得る有機物の影響を回避するだけでなく、さらに硫黄化合物に起因する硫化水素ガスの発生を回避して、正確な分析値を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の水溶性セレン分析の工程概略図である。
【図2】実施例において使用した水溶性セレン分析システムを示す図である。
【図3】第一前処理における硫酸の濃度及び添加量の影響について検討した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明の水溶性セレン分析方法は、試料水に対し、有機物分解剤として過マンガン酸カリウムを添加して加熱する第一前処理と、6価セレンを4価セレンに還元する還元剤として塩酸を添加して加熱する第二前処理とを順に実施した後、試料水に含まれる4価セレンをテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応させてセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて、試料水の水溶性セレン濃度を分析する方法において、第一前処理の際にさらに硫酸を添加して、試料水に含まれる有機物と共にテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して硫化水素ガスを生成し得る硫黄化合物を分解するようにしている。つまり、本発明では、過マンガン酸カリウムと硫酸を併用した第一前処理(S1)→第一前処理済み試料水に含まれる6価セレンを4価セレンに還元する第二前処理(S2)→セレン化水素ガス生成・測定(S3)が行われ、試料水の水溶性セレン濃度の分析が行われる(図1)。
【0020】
試料水に有機物が含まれる場合、これがセレン化水素ガスの生成を阻害し、分析精度を低下させる要因となり得る。また、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって硫化水素が発生する種類の硫黄化合物が試料水に含まれる場合がある。このような硫黄化合物が試料水に含まれる場合、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって生じる硫化水素によりセレン化水素ガスの検出が妨害されて、分析精度を低下させる要因となり得る。本発明では、第一前処理において、試料水に過マンガン酸カリウムと硫酸を添加することによって、過マンガン酸カリウムの酸化力を増強させ、試料水に含まれる有機物のみならず、硫黄化合物をも分解して硫化水素の発生を防ぎ、有機物及び硫黄化合物に起因する分析精度の低下を回避するようにしている。硫黄化合物の分解についてより詳細に説明すると、ジチオン酸やヒドロキシルアミンスルホン酸化合物(NS化合物)などの硫黄化合物は、硫酸により酸化力が増強された過マンガン酸カリウムによって酸化分解され、最終的に硫酸イオンとなる。硫酸イオンは化学的に安定であり、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加しても硫化水素ガスは発生しない。したがって、硫酸により酸化力が増強された過マンガン酸カリウムによって、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応によって硫化水素ガスを発生し得る硫黄化合物、即ち、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとは反応しない安定な硫黄化合物(硫酸やペルオキソ二硫酸等)以外の硫黄化合物によるセレン化水素ガスの測定の妨害を排除して、精度良く分析することが可能となる。
【0021】
第一前処理における過マンガン酸カリウムの添加量は、試料水に含まれる有機物を分解し得る量で、且つ余剰分が第二前処理における還元を阻害しない量で添加される。即ち、過マンガン酸カリウムの添加量が多すぎると、余剰分が第二前処理において還元剤である塩酸と以下のように反応し、塩酸の量が低下する。その結果、6価セレンの4価セレンへの還元反応が阻害され得る。
2KMnO+16HCl→2MnCl+2KCl+5Cl+8HO ・・・(1)
【0022】
過マンガン酸カリウムの具体的な添加量については、試料水のCOD量の3〜10倍量とすることが好適であり、5〜10倍量とすることがより好適である。COD濃度が16mg−O/Lの試料水を5mL採取した場合を例に挙げて説明すると、1g/L〜3g/Lの過マンガン酸カリウム水溶液を1mL添加すればよい。
【0023】
尚、試料水は、その出所に応じてCOD濃度の変動が一定範囲内に収まっていることが多い。例えば、脱硫排水の場合、COD濃度は概ね10〜30mg−O/Lである。したがって、試料水の出所に応じて、過マンガン酸カリウムの添加量を適切な値に設定することができる。勿論、試料水のCOD濃度を測定し、この測定値に基づいて過マンガン酸カリウムの添加量を分析毎に設定するようにしても構わない。
【0024】
第一前処理における硫酸の添加量は、硫酸と過マンガン酸カリウム(水溶液)を添加した後の試料水の硫酸濃度が1.3〜3mol/Lに調整される量とすることが好適であり、2.3mol/Lに調整される量とすることがより好適である。硫酸濃度が低すぎると、硫酸による過マンガン酸カリウムの酸化力を高める効果が低くなるため、有機化合物の分解を十分に行うことができず、分析精度が低下し得る。硫酸濃度を高めすぎると、硫酸の添加量が多くなりすぎて、試料水の総量が増加し、反応時間の増加を招くこととなる。具体例を挙げると、硫黄化合物を含む脱硫排水5mLを試料水とした場合、6〜18mol/Lの硫酸を1〜2mL添加して上記濃度とすればよく、9〜12mol/Lの硫酸を1〜2mL添加して上記濃度とすることが好適であり、9mol/Lの硫酸を2mL添加して上記濃度とすることがより好適である。
【0025】
ここで、第一前処理においては、試料水→硫酸→過マンガン酸カリウムの順で、あるいは過マンガン酸カリウム→試料水→硫酸の順で、試料水と過マンガン酸カリウムと硫酸の添加タイミングを制御することが好ましい。あるいは、試料水と硫酸を十分に撹拌混合してから過マンガン酸カリウムを添加すること、または試料水と過マンガン酸カリウムを十分に撹拌混合してから硫酸を添加することが好ましい。これにより、硫酸の中和反応による試料の沸騰を抑制でき、かつ過マンガン酸カリウムと硫酸とが直接接触して固体生成が生じることによる有機物及び硫黄化合物の分解能の低下を防ぐことができる。
【0026】
第一前処理における過マンガン酸カリウム及び硫酸添加済みの試料水の加熱温度は、100℃以上とすることが好適である。これよりも低い温度だと、有機物と硫黄化合物を分解しきれず、分析精度が低下し得る。尚、加熱温度を高めすぎると、試料水が激しく沸騰することから、加熱温度は、100〜120℃とすることが好適である。
【0027】
第一前処理における加熱時間は、上記温度で15分以上とすることが好適である。これよりも短いと、有機物と硫黄化合物を分解しきれず、分析精度が低下し得る。尚、分解処理時間を長くし過ぎても、特に有利な効果は見られず、むしろ分析時間の長時間化に繋がる。したがって、分解処理時間は、上記温度で概ね15〜30分程度とすればよく、15分〜20分とすることが好適であり、分解処理の確実性を考慮すると、20分程度とすることがより好適である。
【0028】
試料水に対し、第一前処理を行った後、第二前処理を行う。第二前処理は、第一前処理済みの試料水に含まれる6価セレン(第一前処理において酸化されて6価セレンとなった試料水に元々含まれていた4価セレン、及び試料水に元々含まれていた6価セレン)を4価セレンに還元する処理を行うものである。テトラヒドロホウ酸ナトリウムは、4価セレンと反応してセレン化水素ガスを生成させることはできるものの、6価セレンとは反応しない。そこで、還元剤として塩酸を添加することで、6価セレンを4価セレンに還元して、第一前処理済み試料水に含まれる水溶性セレンを全て4価セレンとして、水溶性セレンの全量をテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応に供することができる。
【0029】
第二前処理における塩酸の添加量は、第一前処理済み試料水の塩酸濃度が4mol/L〜6.7mol/Lとなる量とすることが好適であり、6.7mol/Lとなる量とすることがより好適である。塩酸濃度が低すぎると、6価セレンの全量を4価セレンに還元できないことがある。塩酸濃度を高め過ぎると、塩酸の添加量が多くなりすぎて、第一前処理済み試料水の総量が増加し、分析時間の長時間化を招くこととなる。具体例を挙げると、脱硫排水5mLを試料水とした場合、濃塩酸(12mol/L)を5mL程度添加することが好適である。
【0030】
第二前処理における塩酸添加後の第一前処理済み試料水の加熱温度は、100℃以上とすることが好適である。これよりも低い温度だと、4価セレンに還元されない6価セレンが残り、分析精度が低下し得る。尚、加熱温度を高めすぎると、試料水が激しく沸騰することから、加熱温度は、100〜120℃とすることが好適である。
【0031】
第二前処理における加熱時間は、上記温度で10分以上とすることが好適である。これよりも短いと、4価セレンに還元されない6価セレンが残り、分析精度が低下することがある。尚、6価セレンを4価セレンに還元する時間を長くし過ぎても、特に有利な効果は見られず、むしろ分析時間の長時間化につながる。したがって、6価セレンを4価セレンに還元する時間は、上記温度で概ね10分〜15分程度とすればよい。
【0032】
以上、試料水に対し、第一前処理と第二前処理とを施すことによって、試料水の有機物及び硫黄化合物が分解され、分析精度を低下させる要因を取り除くことができる。さらには、試料水に含まれる水溶性セレンの全量を4価セレンに変換して、水溶性セレンの全量をテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応に供することができ、水溶性セレン濃度の正確な分析が可能になる。
【0033】
第一前処理と第二前処理とを順に実施することにより得られた試料水を用いて、水溶性セレンの定量分析が行われる。水溶性セレンの定量分析は、例えば、特開2009−8668号公報及び特開2011−2424号公報に記載された方法と同様の方法で実施することができる。以下、第一前処理と第二前処理とを順に実施することにより得られた試料水を用いて、水溶性セレンの定量分析を行う方法について説明する。尚、以降の説明では、第一前処理と第二前処理とを順に実施することにより得られた試料水を前処理済み試料水と呼ぶ。
【0034】
前処理済み試料水には、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加して4価セレンとテトラヒドロホウ酸ナトリウムを反応させてセレン化水素ガスを発生させ、セレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器にて測定する。
【0035】
セレン化水素ガス検知器は、セレン化水素ガスを検出することができる各種方式の検知器を用いることができるが、特に、隔膜ガルバニ方式又は濃淡電池方式のセンサ部を有するセレン化水素ガス検知器の使用が好適である。この方式の検知器は、センサ自身が電池を構成するために、検知対象ガスが存在しない場合には残余電流が極めて少なく、そのためゼロ点の安定性が高いと共に、ランニングコストも低いという利点を有している。このような検知器としては、例えばバイオニクス機器製の1GWA/V70等が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えばセンサ部が定電位電解方式である新コスモス電機製PS−7(セレン化水素専用センサユニットCDS−7)等を用いるようにしてもよい。
【0036】
テトラヒドロホウ酸ナトリウムは、水溶液の状態で、前処理済み試料水に添加される。添加速度は、前処理済み試料水からの水素の発生を抑制し得る速度で添加される。これにより、前処理済み試料水に含まれる塩酸とテトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応による急激な水素発生に起因する、セレン化水素ガス検知器における検出信号値のピーク分裂を回避することができ、セレン化水素ガス検知器における検出信号値の信頼性を高めて、高精度な分析を可能とする。前処理済み試料水からの水素の発生を抑制し得る速度は、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液のテトラヒドロホウ酸ナトリウム濃度と前処理済み試料水の塩酸濃度により異なり、一概には規定できないが、前処理済み試料水の塩酸濃度が2.5mol/L〜3.5mol/Lであり、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液のテトラヒドロホウ酸ナトリウム濃度が3g/Lである場合には、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液10mLを20秒よりも長時間かけて添加すればよく、40〜60秒間かけて添加することが好適である。添加速度に換算すると、30mL/分未満、好適には10〜15mL/分である。
【0037】
テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液は、テトラヒドロホウ酸ナトリウムのみを含むアルカリ性の溶液としてもよいが、例えば、エチレンジアミン四酢酸、水酸化ナトリウムを含むものとしてもよい。テトラヒドロホウ酸ナトリウムは、還元剤として広く用いられている安価で入手し易い物質である反面、分解し易い性質がある。そこで、エチレンジアミン四酢酸を加えることによって、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に溶解させて室温で30日間安定に保存できることが知られている(A. D.Idowu, P. K. Dasgupta, Z. Genfa, and K. Toda: “A Gas-Phase Chemiluminescence -Based Analyzer for Waterborne Arsenic”, Anal. Chem., 78, 7088-7097 (2006))。つまり、使用の簡便性と安定性とを兼ね備えた試薬であり、現場分析に用いる試薬として非常に好適である。また、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を長期に亘って一定の場所に貯蔵して用いる場合には、0℃〜25℃、好適には0℃〜10℃に冷却可能な冷蔵庫に入れて貯蔵することが好適である。これにより、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を分析環境に影響されることなく、保存することができ、分解劣化していない安定なテトラヒドロホウ酸ナトリウムを長期に亘って添加することができる。
【0038】
テトラヒドロホウ酸ナトリウム溶液の添加は、例えば、分液漏斗やビュレットのように、コック(バルブ)の開度の調節によって添加速度を制御可能なものを用いることもできるし、バルブが開状態の時にのみ一定の速度で添加可能なものを用いることもできる。また、ペリスタルティックポンプのような制御性の高いものを用いることで、より正確な定量分析が可能となる。
【0039】
テトラヒドロホウ酸ナトリウムの添加量については、前処理済み試料水に存在していると考えられる4価セレンの全量をセレン化水素に還元しうる量以上の量が適宜選択される。1molのHSeO(SeO2−)を還元させてセレン化水素を発生させるためには、3/4molのNaBH(BH)が必要である。したがって、4価セレン1mgに対して最低でも0.38mgのNaBHが必要である。ここで、前処理済み試料水に存在している4価セレンの全量を確実にセレン化水素に還元するためには、前処理済み試料水に含まれていると考えられる4価セレンの全量に対して過剰量のテトラヒドロホウ酸ナトリウムの量を添加することが好ましい。即ち、前処理済み試料水の4価セレン濃度が1mg/L以下であると仮定した場合には、前処理済み試料水1Lに対して0.38mg〜6.7gのテトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加することが好ましく、3.8mg〜3.4gとすることがより好ましく、38mg〜2.0gとすることがさらに好ましい。6.7gを超える量のテトラヒドロホウ酸ナトリウムを添加しても、セレン化水素の測定に影響を及ぼすことは無いが、セレン化水素発生反応には関与しないので、無駄である。
【0040】
また、前処理済み試料水へのテトラヒドロホウ酸ナトリウムの添加開始時からセレン化水素ガス検知器による測定が終了するまでの間は、前処理済み試料水を撹拌し続けることが好ましい。撹拌を十分に行わないと、前処理済み試料水に添加したテトラヒドロホウ酸ナトリウムが十分に拡散せずに前処理済み試料水と不均一に反応しやすくなり、セレン化水素ガス検知器によるセレン化水素の信号強度が低下する虞がある。
【0041】
セレン化水素ガスは、セレン化水素ガス検知器により随時測定され、測定値が出力される。ここで、発生したセレン化水素ガスには、キャリアガスを供給し、キャリアガスに同伴させてセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導くのが好適である。さらには、セレン化水素ガス検知器のガス吸引機能を利用してセレン化水素ガスを単独であるいはキャリアガスと共に吸引することが好適である。キャリアガスとしては、窒素やアルゴンなどの不活性ガスだけでなく、空気を利用することもできる。
【0042】
セレン化水素ガス検知器により測定された測定値(信号値)に基づいて、試料水の水溶性セレン濃度を検量線法により分析することができる。
【0043】
検量線法に用いる検量線は、水溶性セレン濃度が既知の複数の標準試料から予め求めた水溶性セレン濃度とセレン化水素ガス検知器により検出された信号値との相関に基づいて作成されたものである。さらに具体的に説明すると、水溶性セレン濃度が既知の複数の標準試料それぞれに対し、実際に試料水を分析する際と同じ条件で分析を行い、水溶性セレン濃度とセレン化水素ガス検知器により検出された信号値との相関を例えば最小二乗法などの公知の手法によりフィッティングして検量線を得ることで、試料水を分析した際の信号値から、この検量線を利用して、試料水の水溶性セレン濃度を求めることができる。
【0044】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0046】
(1)実験装置
図2に示すフロー方式の水溶性セレン分析システムを用いた。この水溶性セレン分析システムは、大まかには、試料水採取部と、試料水採取部から送液される試料水に含まれる分析妨害成分を分解する第一処理部と、第一処理部から送液される第一処理済み試料水に含まれる6価セレンを4価セレンに還元する第二処理を行う第二処理部と、第二処理部から送液される第二処理済み試料水に含まれる4価セレンをセレン化水素ガスに還元気化する還元気化部と、還元気化部からガス導入管を介して送り込まれるセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器で検出して得られる信号値に基づいて試料水の水溶性セレン濃度を分析する分析部とを有するものとしている。以下、本実施例における図2に示す水溶性セレン分析システムの各構成及び稼働条件について、詳細に説明する。尚、図2に示すフローシステムを以下の稼働条件で稼働させた場合、有機物を含むが硫黄化合物を含まない脱硫排水については、水溶性セレン濃度を精度良く分析できることは確認済みである。
【0047】
<試料水採取部>
試料水採取部は、2つの調整槽11及び12と、標準試料貯留槽13とを有し、バルブ11a、バルブ12a及びバルブ13aの開閉によって、いずれかの槽から試料水または標準試料が試料水送液装置15を備える試料水送液ライン16を介して第一処理槽21に送液されるものとした。尚、2つの調整槽を備えることで、例えば一方の槽にセレン除去処理前の脱硫排水を採取し、他方の槽にセレン除去処理後の脱硫排水を採取して、これらを連続測定することができ、セレン除去処理の状況を検討しやすくなる利点がある。但し、調整槽を2つ備えることは必須条件ではなく、調整槽を1つとしてもよいし、3つ以上としてもよい。
【0048】
試料水は、調整槽11及び12のいずれかより5mLを採取して、分析に供した。尚、図2に示すセレン分析システムでは、試料水採取量5mLで概ね0.02〜0.3mg−Se/Lの水溶性セレン濃度の分析が可能である。
【0049】
<第一処理部>
第一処理部は、以下の(1a)〜(1f)を有するものとした。第一処理部は、本発明における第一前処理(S1)に該当する。
(1a)試料水を収容する第一処理槽21
(1b)第一処理槽21内に有機物分解剤として有機物を分解し得る量で且つ第二処理部における還元を阻害しない量の過マンガン酸カリウムを添加する有機物分解剤添加手段22
(1c)第一処理槽21内の試料水と有機物分解剤とを撹拌混合して第一混合液とする第一撹拌装置24
(1d)第一混合液を第二処理部に向けて送液する第一送液装置25を備える第一送液ライン26
(1e)第一送液ライン26を通過中の第一混合液を、有機物が分解される温度に加熱する第一加熱装置27
(1f)第一混合液が通過した後の第一送液ライン26に、洗浄剤として塩酸を供給する洗浄剤供給手段28
【0050】
第一処理槽21には、試料水採取部から送液された試料水を収容した。第一処理槽21の容量は30mLとした。
【0051】
有機物分解剤添加手段22は、第一処理槽21内に、分析妨害成分である有機物を分解するための有機物分解剤として過マンガン酸カリウムを添加するものである。具体的には、有機物分解剤添加手段22は、有機物分解剤貯蔵タンク22a内に2g/Lの過マンガン酸カリウム水溶液を貯留しておき、シリンジポンプにより、これが第一処理槽21内に1mL添加されるように制御した。尚、本実施例では、第一処理槽21に試料水を収容する前に、過マンガン酸カリウム水溶液を第一処理槽21に添加した。
【0052】
第一撹拌装置24は、試料水と有機物分解剤とを撹拌混合して第一混合液とするためのものである。本実施例では、第一撹拌装置24を、第一処理槽21内にキャリアガス(空気)を供給してバブリングすることにより撹拌混合を行うキャリアガス供給手段とした。キャリアガス(空気)供給速度は500mL/分とした。
【0053】
第一混合液は、第一処理槽21と第二処理槽31を接続する第一送液ライン26を介して、第一送液装置25により第一処理槽21から第二処理槽31に向けて送液されるようにし、その過程で第一加熱装置27により加熱されて分析妨害成分が分解処理されるようにした。これにより、フロー方式による分析妨害成分の分解処理を可能とした。
【0054】
本実施例では、第一加熱装置27を円柱状のヒーターとし、このヒーターに第一送液ライン26としてキャピラリの一部を螺旋状に巻き付けて備えるようにし、第一送液装置25(ペリスタルティックポンプ)により、第一混合液の流量を制御するようにした。これにより、第一送液装置25により設定された第一混合液の流量とヒーターに巻き付けられたキャピラリの長さとによって、第一混合液の分析妨害成分の分解処理時間を制御するようにした。本実施例では、キャピラリとして、内径1mm、長さ6mのPTFE製キャピラリを用い、流量は0.5mL/分に設定し、ヒーターの加熱温度を100℃として、第一混合液が100℃で20分間加熱されるようにした。尚、有機物を含むが硫黄化合物を含まない脱硫排水については、加熱時間を10分とした場合にも水溶性セレン濃度を精度良く分析することができる。
【0055】
尚、第一混合液が通過した後の第一送液ライン26には、第一混合液に含まれる過マンガン酸カリウムに起因する二酸化マンガン等が析出して、第一送液ライン26を閉塞する、あるいは第一送液ライン26の径が狭まって、次回の分析の際に第一混合液のスムーズな流通が阻害され得る。そこで、本実施例では、第一混合液が通過した後の第一送液ライン26に、洗浄液として塩酸を供給する洗浄剤供給手段28を備えるようにした。具体的には、洗浄剤供給手段28は、洗浄剤貯蔵タンク28a内に塩酸を貯蔵しておき、シリンジポンプを用いて、2.5mLの濃塩酸(12mol/L)が第一処理槽21を介して第一送液ライン26内に添加されるように制御した。尚、塩酸を供給することで、以下に示す化学反応により、第一送液ライン26を閉塞し得る主要な析出物である二酸化マンガンが除去される。
MnO + 4HCl → MnCl + HO +Cl ・・・(2)
【0056】
<第二処理部>
第二処理部は、以下の(2a)〜(2e)を有するものとした。第二処理部は、本発明における第二前処理(S2)に該当する。
(2a)第一処理槽21と第一送液ライン26で接続され、第一処理済み試料水が送液されて収容される第二処理槽31
(2b)第二処理槽31内に6価セレンを4価セレンに還元する還元剤として塩酸を添加する還元剤添加手段32
(2c)第二処理槽31内の第一処理済み試料水と還元剤とを撹拌混合して第二混合液とする第二撹拌装置33
(2d)第二混合液を還元気化部に向けて送液する第二送液装置35を備える第二送液ライン36
(2e)第二送液ライン36を通過中の第二混合液を、6価セレンの4価セレンへの還元反応が進行する温度に加熱する第二加熱装置37
【0057】
第二処理槽31には、第一処理部から送液された第一処理済み試料水、即ち試料水に含まれる有機物が分解処理された試料水を収容した。第二処理槽31の容量は30mLとした。
【0058】
還元剤添加手段32は、第二処理槽31内に、第一処理済み試料水に含まれる6価セレン(第一処理部において酸化されて6価セレンとなった、試料水に元々含まれていた4価セレン、及び試料水に元々含まれていた6価セレン)を4価セレンに還元しうるための還元剤として塩酸を添加するものである。本実施例では、還元剤添加手段32は、洗浄剤貯蔵タンク28aから、シリンジポンプを用いて、5mLの塩酸(12mol/L)が第二処理槽31内に添加されるように制御した。尚、本実施例では、バルブ32aによって、洗浄剤貯蔵タンク28aからの塩酸の送液箇所を、第一処理槽21及び第二処理槽31のいずれか一方の槽に切り換え可能とした。
【0059】
第二撹拌装置33は、本実施例では、第二処理槽31内の第一処理済み試料水と還元剤にキャリアガス(空気)を供給してバブリングを行うキャリアガス供給手段とした。これにより、第一処理済み試料水と還元剤とを撹拌して第二混合液とした。また、第一処理済み試料水と塩酸を接触させると塩素ガスが発生するので、バブリングにより塩素ガスの除外を行うようにした。具体的には、空気500mL/分によるバブリングを2〜3分実施した。これにより、セレン化水素ガス検知器52において、塩素ガスに起因する負のピークの発生による分析の妨害を排除するようにした。
【0060】
第二混合液は、第二処理槽31と反応槽41を接続する第二送液ライン36を介して、第二送液装置35により第二処理槽31から反応槽41に向けて送液されるようにし、その過程で第二加熱装置37により加熱されて6価セレンが4価セレンに還元処理されるようにした。これにより、フロー方式による6価セレンの4価セレンへの還元処理を可能とした。
【0061】
本実施例では、第二加熱装置37を円柱状のヒーターとし、このヒーターに第二送液ライン36としてキャピラリの一部を螺旋状に巻き付けて備えるようにし、第二送液装置35(ペリスタルティックポンプ)により、第二混合液の流量を制御するようにした。これにより、第二送液装置35により設定された第二混合液の流量とヒーターに巻き付けられたキャピラリの長さとによって、第二混合液に含まれる6価セレンを4価セレンに還元する還元処理時間を制御するようにした。本実施例では、キャピラリとして、内径1mm、長さ6mのPTFE製キャピラリを用い、流量は1.5mL/分に設定し、ヒーターの加熱温度を100℃として、第二混合液が100℃で10分間加熱されるようにした。
【0062】
<還元気化部>
還元気化部は、以下の(3a)〜(3f)を有するものとした。還元気化部は、本発明におけるセレン化水素ガス生成(S3前段)に該当する。
(3a)第二処理槽31と第二送液ライン36で接続され、第二処理済み試料水が送液されて収容される密閉構造の反応槽41
(3b)反応槽41内に第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生を抑制し得る量の水を供給する水供給手段42
(3c)反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するキャリアガス供給手段43
(3d)反応槽41内の水が供給された第二処理済み試料水を撹拌する第三撹拌装置44
(3e)反応槽41内とガス導入管51内とガス流通経路とをキャリアガスで置換した後に、第三撹拌装置44により撹拌されている反応槽41内の水が供給された第二処理済み試料水に、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を、セレン化水素ガス検知器52にて検出される信号値のピークが分裂する速度未満で添加するセレン化水素ガス生成剤添加手段45
(3f)テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を0℃〜25℃に冷却して貯蔵する冷蔵庫45a
【0063】
反応槽41には、第二処理部から送液された第二処理済み試料水、即ち試料水に含まれる有機物さらには硫黄化合物が分解処理され、且つ6価セレンが4価セレンに還元処理された試料水を収容した。反応槽41の容量は50mLとした。また、反応槽41は密閉構造とした。
【0064】
水供給手段42は、反応槽41内に、第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生を抑制し得る量の水を供給するものである。これにより、第二処理済み試料水が水で希釈されて(以下、希釈された第二処理済み試料水と呼ぶこともある)、第二処理済み試料水からの塩化水素ガスの発生を抑えて、セレン化水素ガス検知器において異常ピークが生じることによる分析の妨害を排除するようにした。本実施例では、反応槽41に第二処理済み試料水が送液されて収容される前に、水供給手段42から反応槽41に蒸留水5mLを添加するようにし、希釈された第二処理済み試料水の塩酸濃度を3mol/Lとした。
【0065】
キャリアガス供給手段43は、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するものである。これにより、セレン化水素ガス検知器52の信号のベースラインを安定させて、安定した信号値に基づいて精度良く分析を行うようにした。本実施例では、希釈された第二処理済み試料水にキャリアガス(空気)を供給してバブリングすることにより、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換するようにした。キャリアガス流量は500mL/分とし、バブリング時間は7分とした。尚、バブリングを行う際には、バルブ49aは開とし、バルブ49bは閉とした。
【0066】
第三撹拌装置44は、撹拌翼とし、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換した後、テトラヒドロホウ酸ナトリウムとの反応をスムーズに進行させるべく、希釈された第二処理済み試料水を撹拌した。
【0067】
セレン化水素ガス生成剤添加手段45は、反応槽41内とガス導入管51内とガス導入管51からセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るまでのガス流通経路とをキャリアガスで置換した後、第三撹拌装置44により撹拌されている希釈された第二処理済み試料水に、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を添加して、4価セレンからセレン化水素ガスを生成するものである。本実施例では、セレン化水素ガス生成剤添加手段45は、セレン化水素ガス生成剤貯蔵タンク45aから、ペリスタルティックポンプを用いて、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液が反応槽41内に15mL/分で10mL添加されるように制御した。また、セレン化水素ガス生成剤貯蔵タンク45aは冷蔵庫とし、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液を0℃〜10℃に冷却して保存した。
【0068】
テトラヒドロホウ酸ナトリウムを含む溶液は、テトラヒドロホウ酸ナトリウム濃度を3g/L、EDTA濃度1.0mmol/L、NaOH濃度を0.1mol/Lとした。
【0069】
<分析部>
分析部は、以下の(4a)〜(4c)を有するものとした。分析部は、本発明におけるセレン化水素ガス測定(S3後段)に該当する。
(4a)反応槽41内のヘッドスペース41aのセレン化水素ガスをガス導入管51を介してセレン化水素ガス検知器52に送り込むため同伴ガスとしてのキャリアガスをヘッドスペースに供給する同伴ガス供給手段53
(4b)ガス導入管51全体を、ガス導入管の内壁に結露が生じない温度に加熱する第三加熱装置54
(4c)セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて試料水の水溶性セレン濃度を分析する分析手段55
(4d)ガス流通経路を、ガス流通経路の内壁に結露が生じない温度で且つセンサ部の電解液が蒸発乾固しない温度に加熱する第四加熱装置55
【0070】
セレン化水素ガス検知器52は、バイオニクス機器製の1GWA/V70とした。
【0071】
ガス導入管51は、管内型4mm、長さ2mとした。
【0072】
同伴ガス供給手段53は、反応槽41のヘッドスペース41aに滞留するセレン化水素ガスを、キャリアガス(空気)に同伴させ、ガス導入管51を介してセレン化水素ガス検知器52に送り込むためのものである。本実施例では、同伴ガスとして、空気を250mL/分の流量で反応槽41のヘッドスペース41aに供給した。この際、バルブ53aを開、バルブ53bを閉とした。
【0073】
第三加熱装置54は、コードヒーターとし、ガス導入管51の外周面全体を覆って、ガス導入管51の内壁に結露が生じない温度(90℃)に加熱した。これにより、ガス導入管51の内壁に生じた結露水にセレン化水素ガスが溶け込むことによる分析精度の低下を防止するようにした。
【0074】
第四加熱装置55は、セレン化水素ガス検知器52のセンサ部に至るガス流通経路を加熱する装置である。ガス導入管51から送り込まれるセレン化水素ガスは、セレン化水素ガス検知器52の台座部52aに設けられた貫通孔(ガス流通経路)を介してセレン化水素ガス検知器52のセンサ部に導入される。分析環境が15℃を下回ると、この貫通孔の壁面に結露が生じて、結露水にセレン化水素ガスが溶け込むことにより分析精度が低下し得る。そこで、本実施例では、分析環境に依存することなく正確な分析を可能とするために、台座52aを加熱する第四加熱装置55を備えるようにして、ガス流通経路の内壁に結露が生じない温度で且つセンサ部の電解液が蒸発乾固しない温度(65℃)に加熱した。
【0075】
尚、図2に示す水溶性セレン分析システムにおいて、符号61は廃液タンクであり、反応槽41内の液体を高濃度廃液として排出するためのものである。符号62は廃液ラインであり、第一処理部、第二処理部、還元気化部において試料水が送液された槽及びラインに送液された洗浄水を集めて低濃度廃液として排出するためのものである。
【0076】
(1)実施例1
排水に含まれ得る硫黄化合物の影響を排除する方法について検討した。
【0077】
本実施例では、図2に示すように、第一処理槽21内に所定濃度の硫酸を所定量添加することが可能な硫酸添加手段23を備えるようにした。具体的には、硫酸添加手段23は、硫酸貯蔵タンク23a内に所定濃度の硫酸を貯留しておき、シリンジポンプにより、所定濃度の硫酸が第一処理槽21内に所定量添加されるように制御するようにした。
【0078】
硫酸添加条件は以下の通りとした。尚、硫酸は、第一処理槽21内に試料水が送液されて収容された後に添加した。
(1)硫酸添加なし
(2)3mol/L、1mL
(3)3mol/L、2mL
(4)6mol/L、1mL
(5)6mol/L、2mL
(6)9mol/L、1mL
(7)9mol/L、2mL
(8)12mol/L、1mL
(9)12mol/L、2mL
(10)18mol/L、1mL
(11)18mol/L、2mL
【0079】
結果を図3及び表1に示す。硫酸を添加しない場合、3mol/Lの硫酸を1mLまたは2mL添加した場合、6mol/Lの硫酸を1mL添加した場合には、硫化水素による妨害(異常ピーク)が確認された。これに対し、6mol/Lの硫酸を2mL添加した場合、硫酸濃度を9mol/L以上とした場合には、異常ピークは確認されなかった。
【表1】

【0080】
この結果から、第一混合液の硫酸濃度を1.3〜3.0mol/Lとすれば、硫黄化合物を分解して、硫黄化合物に起因する異常ピークを回避できることが明らかとなった。
【0081】
次に、ブランク試料、セレン標準試料、脱硫排水試料に硫黄化合物8種を100mg/Lとなるように標準添加し、硫化水素発生によるセレン化水素ガス検知器52に対する妨害について検討した。結果を表2に示す。尚、表2中、HAOSはヒドロキシルアミン−O−スルホン酸である。また、HABSはヒドロキシルアミン−N,O−ビススルホン酸である。また、前処理なしとは、第一処理部による第一処理を省略したことを意味している。前処理10分とは、第一処理部において100℃で10分間加熱したことを意味している。前処理20分とは、第一処理部において100℃で20分間加熱したことを意味している。
【0082】
【表2】

【0083】
前処理20分の場合は、どの試料においても異常ピークは認められなかった。
【0084】
前処理10分の場合は、ジチオン酸イオンを添加した試料において異常ピークが認められた。
【0085】
前処理なしでは、亜硫酸、チオ硫酸、ジチオン酸、HAOS、イミドジスルホン酸、HABSイオンを添加した6試料において異常ピークが認められた。
【0086】
次に、脱硫排水5種において排水中の硫黄化合物濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
5種試料全てにおいてジチオン酸イオンが100mg/L以上含まれ、HABSイオンが4種で0.9〜58mg/L含まれていた。
【0089】
5種試料全てについて、第一処理部において100℃で20分間加熱したところ、異常ピークは認められなかった。但し、10分間加熱では異常ピークが認められた。
【0090】
次に、セレン標準試料(0.1mg/L)に100mg/Lのジチオン酸を添加した試料水5mL(標準試料と呼ぶ)、脱硫排水試料(Se:0.042mg/L、ジチオン酸イオン:160mg/L)に100mg/Lのジチオン酸イオンを添加した試料水5mL(排水試料)について、第一処理部における加熱時間を各種変更して異常ピークの有無を検討した。結果を表4に示す。
【表4】

【0091】
加熱時間が10分、12分の場合には、いずれの試料においても異常ピークが検出されたのに対し、15分以上とした場合には、いずれの試料においても異常ピークは検出されなかった。
【0092】
また、加熱時間15分の場合について、セレン濃度を分析した結果、標準試料で0.115mg/L、排水試料で0.04mg/Lであり、試料のセレン濃度とほぼ一致していた。
【0093】
以上の結果から、第一処理部における加熱時間は、15〜30分、好適には20分であることがわかった。
【0094】
(2)実施例2
第一処理部における過マンガン酸カリウムの添加量について検討した。
【0095】
試料水は、水溶性セレン濃度が0.055mg/LでCOD濃度が16mg−O/Lの脱硫排水とした。また、過マンガン酸カリウム水溶液の濃度(g/L)は、1.0、2.0、4.0、8.0とした。硫酸は9mol/L(1+1)を2mL添加した。その他は上記基本条件として水溶性セレン分析を実施した。また、分析終了後の還元気化部の反応槽41内の残液を回収し、水溶性セレン濃度をJIS K0102により測定した。結果を表5に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
過マンガン酸カリウム濃度1.0g/L、2.0g/Lの場合には、セレン測定値に差は見られなかった。しかし、過マンガン酸カリウム濃度が4.0g/L、8.0g/Lの場合には、過マンガン酸カリウム濃度が高濃度になるに従ってセレン測定値が低下し、残液中セレンが増加する傾向が認められた。
【0098】
この原因は、余剰の過マンガン酸カリウムが第二処理部において還元剤である塩酸と反応してしまい、6価セレンの還元不足を引き起こしたことによるものと考えられた。
【0099】
ここで、6価セレンの還元処理には濃塩酸(12M)を用いているため、塩酸濃度を上げることは困難である。また、塩酸の添加量の増加は6価セレン還元処理時間の増加に繋がり、システム全体としての分析時間の増加を引き起こすこととなる。
【0100】
したがって、この問題を解決するためには、試料水の採取量を少なくするか、排水のCOD濃度に適した過マンガン酸カリウム濃度となるように過マンガン酸カリウムの添加量を調整するのがよいと考えられた。
【0101】
ここで、KMnOによる酸化反応は以下の式で表される。
MnO+8H+5e → Mn2++4HO ・・・(a)
3Mn2++2MnO+2HO → 5MnO+4H ・・・(b)
被酸化性物質に対してKMnOが過剰に存在する場合、(a)及び(b)式が逐次進行し、MnOが生成される。
次に、酸素による酸化反応は以下の式で表される。
+4H+4e → 2HO ・・・(c)
(a)式と(c)式より、1molのMnOは、(c)式における酸素一原子の2.5倍の被酸化性物質を酸化することがわかる。つまり、158g(1mol)のKMnOは40g−O相当の被酸化性物質を酸化することになる。
ここで、排水の被酸化性物質に必要な酸素量は、COD濃度16mg−O/Lの排水5mLを酸化する場合、0.08mg−Oとなる。
KMnOが供給できる酸素量は、例えば4g/LのKMnO水溶液1mLを添加する場合、1.0mg−Oとなる。つまり、4g/LのKMnO水溶液1mLを添加する場合、有機物分解処理に必要な酸素原子量の12.5倍(1.0/0.08)となる。
同様の計算を行うと、1g/Lでは3.1倍、2g/Lでは6.3倍、8g/Lでは25倍となる(添加量はすべて1mL)。
【0102】
上記計算結果から、排水のCOD量の3〜10倍量、好適には5〜10倍量とすれば、第二処理部における還元反応を阻害することなく、試料水中の有機物を分解処理できるものと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に対し、有機物分解剤として過マンガン酸カリウムを添加して加熱する第一前処理と、6価セレンを4価セレンに還元する還元剤として塩酸を添加して加熱する第二前処理とを順に実施した後、前記試料水に含まれる4価セレンをテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応させてセレン化水素ガスを発生させ、このセレン化水素ガスをセレン化水素ガス検知器に導いて、前記セレン化水素ガス検知器により検出された信号値に基づいて、前記試料水の水溶性セレン濃度を分析する方法において、
前記第一前処理の際にさらに硫酸を添加して、前記試料水に含まれる有機物と共にテトラヒドロホウ酸ナトリウムと反応して硫化水素ガスを生成し得る硫黄化合物を分解することを特徴とする水溶性セレン分析方法。
【請求項2】
前記硫酸の添加により、前記試料水の硫酸濃度を1.3〜3mol/Lに調整する請求項1に記載の水溶性セレン分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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