説明

水溶性ニス組成物および該ニス層を有する積層シート

【課題】密着性、印刷物の諸物性に優れ、かつ、成型性を兼ね備えたポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物および該ニスより形成されるニス皮膜層を有するポリスチレントレイ成型用積層シートを提供する。
【解決手段】本発明の構成は、コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60であるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)とコア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150であるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)とを含有するポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物であることを特徴とするポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物であり、無延伸ポリスチレンフィルム層、印刷インキ層、ニス層、ポリスチレン系シート層をこの順に有するポリスチレントレイであって、該ニス層が前記した水溶性ニスの皮膜からなるポリスチレントレイ用積層シートであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性、成型性に優れ、かつ、印刷物の諸物性を兼ね備えたポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物および該ニスを用いたポリスチレントレイ成型用積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品包装用を始め各種の成型トレイが用いられている。トレイ成型用積層シートとして、ポリスチレン系素材等が広く用いられている。トレイには意匠性を付与するために、従来から溶剤系グラビアインキによって印刷されている。溶剤系インキに含まれる有機溶剤は、被印刷体であるポリスチレンフィルムを溶解或いは侵すため、印刷、塗工時にフィルム強度の劣化を招きフィルムの柔軟性・引っ張り強度などを低下させる。このため印刷工程、加工工程での破断トラブルが発生する問題がある。インキおよびニスの塗布量が多い場合や薄膜のポリスチレンフィルムでは特にこの問題が顕著となっている。このような問題をインキおよびニスから改善を図るため、水溶性インキに関する検討が行われているが、ポリスチレントレイ成型用積層シートに対して十分な密着性、成型性は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−181915号公報
【特許文献2】特開2005−179512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、密着性、成型性に優れ、かつ、印刷物の諸物性を兼ね備えたポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物および該ニスを用いたポリスチレントレイ成型用積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリスチレン系素材に対して、ガラス転移点(Tg)および酸価の異なる2種のコアシェル型エマルジョン樹脂を併用したニスを用いることにより、上記の課題を解決することを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明の第一の発明は、コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)とコア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150であるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)とを含有するポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物において、
コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アク リル系コアシェル型エマルジョン(a)が、
コア部のガラス転移点(Tg)20〜100℃
および
シェル部のガラス転移点(Tg)60〜80℃
であり、かつ
コア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/ア クリル系コアシェル型エマルジョン(b)が、
コア部のガラス転移点(Tg)−40〜25℃
および
シェル部のガラス転移点(Tg)70〜90℃
であることを特徴とするポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物に関するものである。
【0007】
本発明の第二の発明は、前記コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェルエマルジョン(a)の固形分重量(W1)と
前記コア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)の固形分重量(W2)との
固形分重量比(W1/W2)が、90/10〜50/50
であることを特徴とする第一の発明に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物に関するものである。
【0008】
本発明の第三の発明は、コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)が、コア部分は、スチレン樹脂またはスチレン/アクリル共重合樹脂のいずれかであり、かつシェル部分は、スチレン/アクリル共重合樹脂であることを特徴とする第一の発明または第二の発明に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物に関するものである。
【0009】
本発明の第四の発明は、コア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)が、コア部分およびシェル部分は、スチレン/アクリル共重合樹脂であることを特徴とする第一の発明〜第三の発明のいずれか1項に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物に関するものである。
【0010】
本発明の第五の発明は、無延伸ポリスチレンフィルム層、印刷インキ層、ポリスチレンフィルム用水溶性ニス層およびポリスチレン系シート層をこの順に有するポリスチレントレイ成形用積層シートであって、該ニス層が、第1の発明〜第4の発明のいずれか1項に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物により形成してなることを特徴とするポリスチレントレイ成型用積層シートに関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、フィルムへの密着性および成型性に優れ、かつ、印刷物の諸物性を兼ね備えたポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物および該ニスを有するポリスチレントレイ成型用積層シートを提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物および該ニスの皮膜を有するポリスチレントレイ成型用積層シートに関するものであり、まず、本発明のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物に関して以下に説明する。
【0013】
スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)は、コア部のガラス転移点(Tg)は20〜100℃、シェル部のガラス転移点(Tg)が60〜80℃であることを特徴としている。特に、コア部のガラス転移点が20℃未満となるとラミネート、成型後に水溶性ニス組成物から形成された皮膜(以後、ニス皮膜とする。)/ポリスチレンのシート間で浮きが発生もしくはラミネート強度が著しく低下する。同時に、印刷時の巻き取りブロッキング性が著しく低下し実用上問題となる。また、ガラス転移点が100℃を超えてもフィルムへの密着性、ラミネート強度が著しく低下する。シェル部のガラス転移点については、60℃未満では巻き取りブロッキング性が低下する傾向がある。また、ガラス転移点が80℃を超えてもフィルムへの密着性、ラミネート強度が低下する傾向がある。
【0014】
スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)としては、コア部とシェル部を含めた酸価が30〜60mgKOH/gである事を特徴としている。コア部とシェル部を含めた酸価が30mgKOH/g未満となると、ラミネート、成型後にニス皮膜/ポリスチレンのシート間で浮きが発生もしくはラミネート強度が著しく低下する。同時に、印刷時の巻き取りブロッキング性が著しく低下し実用上問題となる。また、酸価が60mgKOH/gを超えてもフィルムへの密着性、ラミネート強度が著しく低下する。
【0015】
スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)としては、用いられるモノマーに特に制限はなく、通常の芳香族ビニルモノマー、エチレン性不飽和カルボン酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸等のラジカル重合可能なビニルモノマーが使用できる。これらは単独、または2種以上併用できる。
【0016】
芳香族ビニルモノマーとしてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類が挙げられ、これらは1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0017】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキル(好ましくは炭素数 1〜22のアルキル)エステル類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有エチレン性不飽和化合物、グリシジル(メタ)アクリレート,メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有エチレン性不飽和化合物等が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0018】
スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)は、ポリマー粒子の分散保護能を有するアルカリ可溶型水溶性樹脂等高分子の存在下で、上記記載のラジカル重合可能なビニルモノマーを乳化重合することにより得ることができる。このようにして得られたスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョンは、流動性、再溶解性に優れる。
【0019】
重合開始剤としては通常のラジカル重合開始剤、例えば過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、過酸化t−ブチル等の有機過酸化物等を用いることができる。使用量は、モノマー総重量成分100重量部あたり0.1〜5重量部が適当である。
【0020】
本発明においては、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョンの合成に際し、溶剤としてイソプロピルアルコール、開始剤として1段目では過酸化ベンゾイル、2段目では過硫酸カリウムを使用することが好ましい。アクリルモノマーとしては、スチレン(St)、メチルメタクリレート(MMA)、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)、メタクリル酸(MAA)等を使用することが好ましい。
【0021】
なお、本発明におけるガラス転移温度(Tg)は、下式から算出される値である。1/Tg=W/T+W/T+・・・W/T式中、W、W・・・Wは各モノマーの重量%[(各モノマーの配合量/モノマー全重量)×100]であり、T、T・・・Tは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)である。また、酸価とは、樹脂1g中に含有するカルボキシル基を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数で、JIS K0070に従って測定した値である。
【0022】
スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)は、コア部のガラス転移点(Tg)は−40〜20℃、シェル部のガラス転移点(Tg)が70〜90℃であることを特徴としている。特に、コア部のガラス転移点が−40℃未満となるとラミネート、成型後にニス皮膜/ポリスチレンのシート間で浮きが発生もしくはラミネート強度が著しく低下する。同時に、印刷時の巻き取りブロッキング性が著しく低下し実用上問題となる。また、ガラス転移点(Tg)が25℃を超えてもフィルムへの密着性、ラミネート強度が著しく低下する。シェル部のガラス転移点については、70℃未満では巻き取りブロッキング性が低下する傾向がある。また、ガラス転移点が90℃を超えてもフィルムへの密着性、ラミネート強度が低下する傾向がある。
【0023】
スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)としては、コア部とシェル部を含めた酸価が70〜150mgKOH/gである事を特徴としている。コア部とシェル部を含めた酸価が70mgKOH/g未満となると、ラミネート、成型後にニス皮膜/ポリスチレンのシート間で浮きが発生もしくはラミネート強度が著しく低下する。同時に、印刷時の巻き取りブロッキング性が著しく低下し実用上問題となる。また、酸価が150mgKOH/gを超えてもフィルムへの密着性、ラミネート強度が著しく低下する。
【0024】
スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)としては、用いられるモノマーに特に制限はなく、前記した芳香族ビニルモノマー、エチレン性不飽和カルボン酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸等のラジカル重合可能なビニルモノマーが使用できる。これらは単独、または2種以上の併用ができる。また、重合方法はスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)と同様である。
【0025】
本発明は、2種類のコアシェル型エマルジョン(a),(b)を含有することを特徴としている。スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)単独では、印刷時の巻き取りブロッキング性が著しく低下し実用上問題となる。また、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)単独では、ラミネート、成型後にニス皮膜/ポリスチレンのシート間で浮きが発生もしくはラミネート強度が著しく低下する。
【0026】
2種のコアシェル型エマルジョン(a),(b)の混合比率については、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)の固形分重量、W1とスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)の固形分重量、W2の固形分重量比W1/W2が90/10〜50/50であることが好ましい。より好ましくは固形分重量比W1/W2が90/10〜70/30である。固形分重量W1の比率が90%を超えると、印刷時の巻き取りブロッキング性が低下する傾向である。同様に、固形分重量W1の比率が50%未満では、ラミネート、成型後にニス皮膜/ポリスチレンのシート間で浮きが発生もしくはラミネート強度が低下する傾向である。
【0027】
本発明のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物に使用するスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)のコア部は、スチレン樹脂またはスチレンアクリル共重合樹脂のいずれか1種類であることが好ましい。また、シェル部はスチレン/アクリル共重合樹脂であることが好ましい。スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)のコア部およびシェル部はスチレン/アクリル共重合樹脂であることが好ましい。
【0028】
本発明のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物に用いる希釈溶剤としては、基本的には水を使用することが出来る。他の溶剤として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール等のアルコールを併用することが出来る。配合比は、水/アルコールで100/0〜30/70であることが好ましい。
【0029】
本発明のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物には、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、ワックス、有機溶剤等の添加剤を用いることが出来る。
【0030】
次に、本発明のポリスチレントレイ成型用積層シートについて詳述する。本発明のポリスチレントレイ成型用積層シートは、無延伸ポリスチレンフィルム層、印刷インキ層、前記したポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物から形成されたニス皮膜層およびポリスチレン系シート層をこの順に有することを特徴としている。基材フィルムとしては、無延伸のポリスチレンフィルムが用いられる。フィルムの厚さは、15〜80μm程度が好ましく、より好ましくは15〜40μmが好ましい。また、フィルムの表面は、放電コロナ処理が施されていることが好ましい。
【0031】
印刷インキとしては、ポリスチレン基材への密着性を有するものが好ましく、例えば公知のウレタン樹脂をバインダーとする印刷インキであることが好ましい。成型用積層シートの水溶性インキおよび水溶性ニス層の厚みは、乾燥状態で、0.1〜5.0μm程度になるように印刷または塗工することが好ましい。より好ましくは、0.1〜2.0μm程度である。
【0032】
印刷の塗工方式としては、グラビア印刷方式およびフレキソ印刷方式が適用できる。
【0033】
ポリスチレン系シートとしては、ポリスチレンを原料とし、厚さ50〜300μmに発泡させたシートが好ましい。より好ましくは100〜150μm程度である。また、表面は平滑性があるものが好ましい。
【0034】
基材フィルムである無延伸ポリスチレンフィルムに印刷インキを印刷した後、前記したポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物から形成されたニス皮膜層を設けた後、ポリスチレン系シート層を熱圧着ラミネート方式で印刷層に積層する方法等が採られる。
【0035】
熱ラミネートの条件は、150〜190℃、ニップ圧1〜10kg/cmラミネート速度50〜100m/min程度が好ましい。より好ましくは、160〜180℃程度である。
【0036】
本発明のポリスチレントレイ成型用積層シートは、例えば、食品用トレイ、弁当箱用トレイ等に用いられる形状に成型される。成型方法としては主として真空成型法が用いられる。真空成型の中でも詳しくは、ストレート法、ドレープ法、エアースリップ法、プラグアシスト法等が好ましく用いられる。
【0037】
本発明のポリスチレントレイ成型用積層シートを用いて成型したトレイは、成型加工後もポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物から形成されたニス皮膜層/ポリスチレンのシート間の密着性に優れ、インキ乾燥皮膜の浮きの発生も防止することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定するものではない。本発明において、部および%は特に断らない限り質量部、質量%を表すものとする。
【0039】
(合成例1)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口のフラスコに、イソプロピルアルコールを100部仕込み、窒素ガスを導入しつつ攪拌しながら温度を80〜82℃に上げた後、滴下ロートに仕込んだスチレン15部、メチルメタクリレート15部、2−エチルヘキシル15部、メタクリル酸5部、過酸化ベンゾイル1部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、過酸化ベンゾイルを0.5部追加し、更に2時間反応させた。温度を40℃に下げ、3%アンモニア水、イオン交換水を添加した。その後、反応フラスコの温度を80〜82℃に上げ、ストリッピングを行いアルコールを除去、最終的に固形分30%の水を溶媒とする水溶性樹脂を得た。
上記で得た水溶性樹脂、イオン交換水10部を反応フラスコに仕込み、温度を80〜82℃に上げた後、過硫酸カリウムを0.8部添加し、スチレン25部、2−エチルヘキシルアクリレート25部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、過硫酸カリウムを0.2部添加し、2時間反応させた。このようにして得られたスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a−1)の樹脂固形分は45%であった。
【0040】
(合成例2〜26)
合成例2〜26については、合成例1と同様な方法で重合を行い、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a−2〜26)を得た。それらのモノマーの配合を表1に示す。
【0041】
(合成例27〜50および52)
合成例27〜50および52については、合成例1と同様な方法で重合を行い、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b−1〜b−24およびb−26)を得た。それらのモノマーの配合を表2に示す。
【0042】
(合成例51)
温還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口のフラスコにイソプロピルアルコール100部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ攪拌しながら温度を80〜82℃に上げた後、滴下ロートに仕込んだスチレン15部、2−エチルヘキシル40部、メタクリル酸45部、過酸化ベンゾイル1部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、過酸化ベンゾイルを0.5部追加し、更に2時間反応させた。温度を40℃に下げ、3%アンモニア水、イオン交換水を添加した。その後、反応フラスコの温度を80〜82℃に上げ、ストリッピングを行い、最終的に固形分30%の水を溶媒とするアルカリ可溶型スチレン/アクリル樹脂(b−25)を得た。
【0043】
使用した印刷インキは下記組成のものを使用し、前記ポリスチレンフィルム用水溶性ニスと同様乾燥膜圧が1μmとなるようにフレキソ印刷した。
(印刷インキ組成)
顔料(LIonol Blue FG−7358、東洋インキ製造(株)社製) 18.0部
水溶性ウレタン樹脂(下記により合成した樹脂) 42.0部
ワックス(ケミパールW500、三井化学社製) 5.0部
消泡剤(テゴフォーメックス1488、テゴ(株)社製) 0.2部
イソプロピルアルコール 5.0部
水 34.8部
【0044】
なお、前記したウレタン樹脂については下記の通り合成を行った。
(ウレタン樹脂合成法)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツ口のフラスコに平均分子量約2,000(水酸基価55.8)のポリテトラメチレングリコール111.0部、平均分子量約2,000(水酸基価56.3)のポリエチレングルコール10.7部、1,4シクロヘキサンジメタノール4.3部、ジメチロールブタン酸23.4部、ジブチル錫ジラウレート0.1部、メチルエチルケトン200部を仕込み、乾燥窒素で置換し80℃まで昇温した。攪拌下、イソホロンジイソシアネート80.4部を20分で滴下し3時間反応させた。反応物を40℃に冷却し、N,N-ビス(アミノプロピル)メチルアミン12.6部、イソホロンジアミン7.7部、メチルエチルケトン100部からなる混合物を30分で滴下し、更に同じ温度で1時間反応させ鎖延長を行った。次に水880部、アンモニア水9.6部を添加し、温度を上げ溶剤430部を脱溶剤し、固形分が25%になるよう調整し、水溶性ウレタン樹脂が得られた(数平均分子量38,700)。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
(実施例1)
合成例1で得られた、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a−1)24部と、合成例27で得られた、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b−1)36部、ポリエチレンワックス1部、シリコーン系消泡剤0.1部、レベリング剤0.2部、水38.7部を添加し、ディスパーで10分攪拌して、ポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物を得た。調整したポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物をコロナ処理した厚さ15μmのポリスチレンフィルムに水溶性ウレタン樹脂系インキを塗布した後、乾燥塗膜が1μとなるようにフレキソ印刷し、この印刷物を厚さ100μmのポリスチレンシートと180℃の熱を掛けて熱ラミネートして成型用積層シートを得た。
【0048】
(実施例2〜12)
表3に記載の配合により、実施例1と同様の方法でポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物を得た。得られたポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物は、実施例1と同様の手法にて成型用積層シートを得た。
【0049】
(比較例1〜15)
表4に記載の配合により、実施例1と同様の方法でポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物を得た。但し、比較例14は、スチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a−26)のみであり、比較例15はスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b−26)のみとした。得られたポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物は、実施例1と同様の手法にて成型用積層シートを得た。
【0050】
厚さ15μmのコロナ処理を行った無延伸ポリスチレンフィルム(サントクリア、三菱化学(株)社製)に印刷インキを塗布した後、本発明の実施例1~12および比較例1〜15の調整したポリスチレンフィルム用水溶性ニスで乾燥膜圧が1μmとなるようにフレキソ印刷した。得られた印刷物のテープ接着性、耐ブロッキング性を下記の通りに評価を実施した。なお、評価方法およびその判定基準は以下の通りである。
【0051】
<テープ接着性>
セロハン粘着テープ25mm(ニチバン社製)をニス面に均一になるように押さえつけ、次にセロハン粘着テープを素早く剥離する。この時、セロハン粘着テープに取られたポリスチレンフィルム用水溶性ニスに割合を調べる。
なお、評価基準は次の通りとした。
(判定基準)
◎:印刷皮膜の取られ無し。
○:印刷皮膜が全体の10%以内取られる。
△:印刷皮膜が全体の10%〜30%取られる。
×:印刷皮膜が全体の50%以上取られる。
【0052】
<耐ブロッキング性>
印刷物を乾燥後、印刷面とポリスチレンフィルム未処理面を重ね合わせ、荷重5kg/cm2(耐ブロッキング性(1))および10kg/cm2(耐ブロッキング性(2))にて温度40℃、湿度80%で24時間放置した後、これを剥離したときの剥離抵抗および印刷皮膜の外観の状態を目視にて判定した。
なお、評価基準は次の通りとした。
(判定基準)
◎:剥離抵抗が無く、印刷皮膜が全く剥がれない。
○:剥離抵抗はあるが、印刷皮膜は全く剥がれない。
△:剥離抵抗があり、剥離の際、印刷皮膜が少し剥がれる。
×:剥離抵抗があり、剥離の際、印刷皮膜が50%以上剥がれる。
【0053】
厚さ15μmのコロナ処理を行った無延伸ポリスチレンフィルム(サントクリア、三菱化学(株)社製)に印刷インキを塗布した後、本発明の実施例1~12および比較例1〜15の調整したポリスチレンフィルム用水溶性ニスで乾燥膜圧が1μmとなるようにフレキソ印刷し、得られた印刷物を厚さ100μmのポリスチレンシートと180℃の熱を掛けて熱ラミネートし、成型用積層シートを得た。得られた成型用積層シートを真空成型機(成光産業(株)製)を使用して、トレイ状に成型した後、成型後の積層シートについて成型後の割れ、ラミネート強度について、下記の通り評価を実施した。なお、評価方法およびその判定基準は以下の通りである。
【0054】
<成型加工性/割れ>
成型した際の積層シートにおける層間剥離の有無を目視にて判定した。
(判定基準)
○:割れや層間の剥離がない。
△:変形部分において割れや層間の剥離が僅かにある。
×:全面的に割れや層間の剥離が僅かにある。
【0055】
<成型加工性/ラミネート強度>
セロハン粘着テープ25mm(ニチバン社製)をフィルム面均一になるように押さえつけ、次にセロハン粘着テープを素早く剥離する。この時、セロハン粘着テープに取られたポリスチレンフィルム用水溶性ニスの割合を目視にて判定した。
(判定基準)
◎:印刷皮膜の取られ無し。
○:印刷皮膜が全体の10%以内取られる。
△:印刷皮膜が全体の10%〜30%取られる。
×:印刷皮膜が全体の50%以上取られる。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
以上の結果から、実施例においてコア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)とコア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)とを含有するポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物で、コア部とシェル部のガラス転移点を規定することにより、耐ブロッキング性および成型加工時のラミネート強度が共に向上した。比較例では、いずれか1種のスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョンでは、耐ブロッキング性および成型加工時のラミネート強度の両立が困難であった。したがって、本発明により密着性、印刷物の諸物性に優れ、かつ、成型性を有するポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物において、2種のスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョンを併用する効果が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)とコア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)とを含有するポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物において、
コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アク リル系コアシェル型エマルジョン(a)が、
コア部のガラス転移点(Tg)20〜100℃、
および
シェル部のガラス転移点(Tg)60〜80℃
であり、かつ
コア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/ア クリル系コアシェル型エマルジョン(b)が、
コア部のガラス転移点(Tg)−40〜25℃、
および
シェル部のガラス転移点(Tg)70〜90℃
であることを特徴とするポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物。
【請求項2】
前記コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/ア クリル系コアシェルエマルジョン(a)の固形分重量(W1)と
前記コア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/ アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)の固形分重量(W2)との
固形分重量比(W1/W2)が、
90/10〜50/50
であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物。
【請求項3】
コア部とシェル部とを含めた酸価が30〜60mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(a)が、
コア部分は、スチレン樹脂またはスチレン/アクリル共重合樹脂
のいずれかであり、かつ
シェル部分は、スチレン/アクリル共重合樹脂
であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物。
【請求項4】
コア部とシェル部とを含めた酸価が70〜150mgKOH/gであるスチレン/アクリル系コアシェル型エマルジョン(b)が、
コア部分およびシェル部分は、スチレン/アクリル共重合樹脂
であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物。
【請求項5】
無延伸ポリスチレンフィルム、印刷インキ層、ニス層およびポリスチレン系シートをこの順序に有するポリスチレントレイ成型用積層シートであって、
該ニス層が、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリスチレンフィルム用水溶性ニス組成物により形成してなることを特徴とするポリスチレントレイ成型用積層シート。

【公開番号】特開2012−184320(P2012−184320A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48090(P2011−48090)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】