説明

水溶性ビタミンE含有物より成る生体防御剤

【課題】放射線被曝や癌の治療時の放射線照射あるいは抗癌剤投与に起因する副作用として発現する健康障害の抑制(緩和)に有効な薬剤を提供する。
【解決手段】ビタミンEを、油脂および親油性乳化剤に分散したビタミンE分散油と、糖質を、水および親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して作製した、ビタミンE−糖質被覆分散液またはその粉末素材から成る水溶性ビタミンE含有物を有効成分とすることを特徴とする癌治療の副作用抑制剤。
【効果】放射線被曝や癌の治療時に、水溶性ビタミンE含有物を有効成分とする健康障害抑制剤を投与することにより、副作用を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の水溶性ビタミンE含有物より成る生体防御剤に関するものであり、更に詳しくは、放射線被曝による健康障害の予防、癌の治療時の放射線照射や抗癌剤投与に起因する副作用として発現する健康障害の副作用の抑制(緩和)に有効な新規薬剤に関するものである。本発明は、癌の放射線治療、化学治療に伴う副作用を効果的に抑制することを可能とする水溶性ビタミンE含有物を有効成分とする新規生体防御剤に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
抗癌剤や放射線による治療においては、生体の正常組織も傷害を受けることが副作用の原因である。また、放射線防護の研究は、癌の放射線診断や原子力発電所における従業員の健康を守るための重要な課題である。更に、抗癌剤による、いわゆる化学治療の副作用を抑制する問題も患者の苦痛を防ぐ意味において重要な課題である。
【0003】
これらの課題の中でも、特に後者の抗癌剤による治療は、副作用のために治療を放棄せざるを得なくなり、癌を治癒するために必要な抗癌剤の量を投与できないため、癌を治癒できないという致命的な治療上の問題を抱えている。
【0004】
原子力発電に携わる作業者、レントゲン検査技術者、または放射線による癌の診断や治療を行う技術者や治療医師は、放射線の被曝を物理的に防護している。しかしながら、物理的な防護法は、完全とはいえず、微量の放射線の慢性被曝による健康被害が心配されている。また、放射線診断による被曝は、癌を発生させる重要な要因となっていることが社会的な問題になっている。
【0005】
放射線治療においては、正常組織の被曝障害を可能な限り防護し、患部に放射線を集中的に照射しているが、患者は、副作用による吐き気や下痢などの健康障害に悩まされる場合が多い。一方、癌の抗癌剤による化学治療においては、副作用を抑制するために抗癌剤の投与量を制限しているが、それでも治療を受けている患者は、副作用による嘔吐や下痢などの健康障害に苦しんでいるのが実状である。
【0006】
したがって、これらの放射線や抗癌剤による癌治療の副作用である健康障害を効果的に防御する薬剤の開発は緊急の研究課題である。また、近年、慢性の微量被曝や抗癌剤による晩発影響としての発癌も問題になっているが、有効な予防対策は全く行われていない。従来、放射線防護剤として、各種アミノチオール類が提案されているが(非特許文献1)、これらの化合物は、いずれも強い副作用のため、いまだ実用化されていない。
【0007】
また、抗癌剤の副作用を効果的に抑制する薬剤は開発されておらず、止瀉(吐き止め)剤などを投与する対症療法だけでは、患者の苦痛を除くことができていないのが現状である。すなわち、放射線による診断を受ける者、癌の放射線治療や抗癌剤治療を受ける患者、放射線の取扱い者、あるいは微量の放射線を被曝している航空機の搭乗員に対して、健康障害を予防するために、放射線防護剤や副作用抑制剤を摂取させる、または投与することは、今日まで全く行なわれていなかったのが実情である。
【0008】
現在の癌治療における放射線の最大照射線量、あるいは抗癌剤の最大投与量は、副作用によって生じる健康障害によって制限されている。したがって、癌治療における副作用を抑制することが実現可能になれば、放射線の最大照射線量や抗癌剤の最大投与量を現在より増やすことができることになり、放射線や抗癌剤による癌の治癒率は、向上すると考えられる。
【0009】
従来、癌治療の副作用として、放射線治療による急性障害および晩発障害、化学治療による急性障害および晩発障害の問題を解決するために、様々な副作用抑制法が採用されている。しかし、これまでの副作用抑制法は、不十分であって、副作用に苦しんだ患者は、抗癌剤治療を拒否する場合が少なくない。
【0010】
これまでの副作用抑制法としては、たとえば、活性酸素を消去するビタミンCやビタミンEなどの抗酸化性ビタミン類の誘導体、亜鉛、マンガン、銅、セレンなどの抗酸化性ミネラル含有酵母などによる副作用抑制法が知られており、特に、脂溶性ビタミンとして知られるビタミンEの側鎖炭化水素基の代わりにブドウ糖を結合させた化合物であるα−トコフェロール配糖体(TMG)や、ビタミンCの配糖体(AsAG)は、いずれも水溶性のフリーラジカル捕捉剤で、活性酸素を消去する性質がある。
【0011】
本発明者は、以前より、放射線や抗癌剤による癌治療の副作用である健康障害を効果的に防御する薬剤を研究しており、これまでに、例えば、クロマノール配糖体を開発し(特許文献1)、これらの防御剤の効果について発表している(1996年の日本放射線影響学会第39回大会、大阪、および2003年の第9回日本癌治療増感研究会、京都)。
【0012】
更に、本発明者らは、TMGによる抗癌剤の副作用抑制(解毒)効果、臨床研究、AsAG(L−アルコルビン酸2−グルコシドによる放射線防護の研究、抗酸化ミネラル酵母による副作用抑制、抗癌剤毒性の抑制研究、放射線照射前投与(防護)効果および放射線照射直後の治療効果などについて鋭意研究を進めて来た(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−72356号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】菅原努ほか著、「放射線と医学」、共立出版株式会社、1986年
【非特許文献2】癌の臨床、第55巻、第4号、2009年4月号、第301(77)〜307(83)頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、放射線被曝や癌の治療時の放射線照射、あるいは抗癌剤投与に起因する副作用として発現する健康障害の抑制や緩和に有効な薬剤を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、放射線被曝あるいは癌の放射線治療や抗癌剤治療における健康障害(副作用)を効果的に防御する薬剤として、水溶性ビタミンE含有物を使用することが効果的であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明者らは、そもそも、ビタミンEは、水には全く溶けない脂溶性物質であり、この非水溶性のために、生体を有効に防御するために必要な量を注射剤または内服として利用することは不可能であるが、この脂溶性ビタミンEに、油脂、デキストリンなどの糖質を作用させて複合体を形成し、水溶性にすることによって、生体における健康障害(副作用)を抑制できることを見出した。
【0017】
本発明は、放射線や抗癌剤から健康を守る、すなわち生体防御のために有効な薬剤として、特定の水溶性ビタミンE含有物を使用する新しい副作用抑制法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、水溶性ビタミンE含有物を有効成分とする放射線や抗癌剤治療における副作用による健康障害を抑制することを可能とする生体防御剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)脂溶性ビタミンEを、油脂および親油性乳化剤に分散したビタミンE分散油と、糖質を、水および親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して作製した、ビタミンE−糖質被覆分散液またはその粉末素材から成る水溶性ビタミンE含有物を有効成分とすることを特徴とする癌治療の副作用抑制剤。
(2)糖質が、デキストリン(DE5〜15)、澱粉の加水分解物、またはサイクロデキストリンである、前記(1)に記載の癌治療の副作用抑制剤。
(3)油脂が、植物起源の油、又は動物起源の油である、前記(1)に記載の癌治療の副作用抑制剤。
(4)乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、又はレシチン類である、前記(1)に記載の癌治療の副作用抑制剤。
(5)水溶性ビタミンE含有物より成る化学治療の副作用抑制剤である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の癌治療の副作用抑制剤。
(6)水溶性ビタミンE含有物より成る放射線治療の防護剤である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の癌治療の副作用抑制剤。
【0019】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、癌治療の副作用抑制剤であって、ビタミンEを、油脂および親油性乳化剤に分散したビタミンE分散油と、糖質を、水および親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して作製した、ビタミンE−糖質被覆分散液またはその粉末素材から成る水溶性ビタミンE含有物を有効成分とすることを特徴とするものである。
【0020】
本発明では、脂溶性ビタミンEの油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末からなる脂溶性ビタミンEの油脂−糖質素材を製造する際に、脂溶性ビタミンEを、油および親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンE分散油と、糖質を、水および親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して、脂溶性ビタミンEの油脂−糖質被覆分散液を作製し、任意に、これを乾燥することにより、脂溶性ビタミンEの油脂−糖質被覆分散液、又はその油脂−糖質粉末素材を調製する。
【0021】
また、本発明の、上記脂溶性ビタミンEの油脂−糖質被覆素材は、脂溶性ビタミンEを、油脂および親油性乳化剤に分散した脂溶性ビタミンE分散油と、糖質を、水および親水性乳化剤に分散した糖質水分散液との混合物からなり、脂溶性ビタミンEが、油皮膜で被覆され、更に、その外層が、糖質で被覆されて、脂溶性ビタミンEが安定化された構造を有する。
【0022】
本発明では、脂溶性ビタミンEの安定化と水への溶解性を高めて、利用しやすい素材とするために、乳化剤として、親油性乳化剤と親水性乳化剤を組み合わせて用いる。乳化剤の化学構造は、水に対して親和性を持つ親水基と、油(水以外のもの)に対して親和性を示す親油基(疎水基)とからなっている。乳化剤は、同一分子中に親水基と親油基を同時に備えているために、それが、親水性となるか親油性となるかは、同一分子中での親水基と親油基の相対的な強さによって決まる。
【0023】
こうした関係を定量的に表現した指標が、親水−親油バランス(HLB)、であり、このHLB値を用いて表現すれば、親油性乳化剤とは、HLB値が0〜11未満、望ましくはHLB値が1〜5の乳化剤、であり、一方、親水性乳化剤とは、HLB値が11〜20、望ましくはHLB値が14〜18の乳化剤、である。
【0024】
本発明において使用できる乳化剤は、食用可のもので、たとえば、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、レシチン類など、である。尚、グリセリン脂肪酸エステル類とは、グリセリン脂肪酸モノエステル(モノグリセリド)、グリセリン脂肪酸有機酸エステル(有機酸モノグリセリド)、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど、である。
【0025】
また、ここで、レシチン類とは、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、酵素修飾レシチンなど、である。本発明においては、同族で、種々のHLB値を有する乳化剤が作り分けられているショ糖脂肪酸エステルならびにポリグリセリン脂肪酸エステルが好適に用いられる。これらは、水に分散または溶解させた液を、これに合わせることにより、脂溶性ビタミンEを、水溶性、水分散性とすることができ、また、このままでも、利用することができる。
【0026】
油としては、植物起源のナタネ油、ダイズ油、トウモロコシ油、コメ油、パーム油、ヤシ油などの油脂、動物起源の各種魚油、鯨油、豚脂、牛脂、乳脂など、がある。これらは、経済性、作業性、効果を考慮して選択すべきであり、この他、不飽和脂肪酸含有トリグリセリドを含む油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂など、があり、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂は、効果、作業性に優れているので、本発明では、特に、有利である。
【0027】
糖質としては、粉末化しやすいもの、脂溶性ビタミンEの物理的・化学的な安定化に効果のあるものを選択すべきであり、澱粉の一部加水分解物、たとえば、α−アミラーゼ、サイクロデキストリン合成酵素などで加水分解したもの、デキストリン、市販粉あめ、サイクロデキストリン製品など、も利用できる。
【0028】
次に、本発明の脂溶性ビタミンE油脂−糖質被覆分散液、およびその油脂−糖質粉末素材の製造方法について説明する。本発明では、まず、脂溶性ビタミンEと、油および親油性乳化剤を撹拌、混合して、脂溶性ビタミンE分散油(油相)を作製する。また、糖質と、水および親水性乳化剤を、撹拌、混合して、糖質水分散液(水相)を作製する。
【0029】
次いで、これら二種の液を、せん断、撹拌、振盪などの方法で混合して、油脂−糖質被覆分散液を作製し、必要に応じて、これを乾燥して、脂溶性ビタミンEを安定化させた脂溶性ビタミンEが、油皮膜で被覆され、更に、その外側が糖質で被覆された構造を有する油脂−糖質粉末素材を作製する。
【0030】
ビタミンEは、生体の抗酸化性物質として知られる健康食品のひとつであるが、該ビタミンEを有効成分とする水溶性ビタミンE含有物が生体における健康障害を防御する作用を有することについては未知であった。
【0031】
本発明の水溶性ビタミンE含有物の健康障害抑制の機序については必ずしも明らかでないが、ビタミンEは、フリーラジカルを消去する機能を有することから、放射線被曝や癌の放射線治療、あるいは抗癌剤治療によって発生するフリーラジカルに起因する細胞の損傷を、ビタミンEと同じ作用機序で防御するものと考えられる。
【0032】
また、水溶性ビタミンE含有物は、ビタミンEよりも体内での持続性が高いが、このことが、事前に水溶性ビタミンE含有物を摂取することによる健康障害の優れた予防効果を発現する原因と考えられる。
【0033】
本発明で用いる水溶性ビタミンE含有物を構成するビタミンE自体は、健康食品の成分としても広く用いられている安全な化合物であるが、水溶性ビタミンE含有物は、これを構成するビタミンEおよびデキストリンなどの糖質が無害な化合物であり、また、既に食品添加物として使用されており、重篤な毒性がないことは明らかである。
【0034】
こうした効果を有する本発明の抑制剤は、次のような具体的な用途の薬剤、1)各種の放射線による診断や治療における副作用予防剤および副作用緩和剤、2)抗癌剤治療における副作用予防剤および副作用緩和剤、3)航空機の搭乗員、放射線技師および原子炉作業員の被曝による健康障害予防剤、として有用である。
【0035】
本発明の水溶性ビタミンE含有物を健康障害予防剤として投与するのは、放射線の全身被曝が予期される場合、または放射線の局所照射や抗癌剤投与の場合であって、被曝あるいは抗癌剤投与の直前ないし5時間前に投与するときに健康障害の優れた抑制効果が奏される。また、常態的に微量の放射線に曝されている航空機の搭乗員、放射線技師や原子炉作業員などは、作業日には数時間毎に投与することが望ましい。
【0036】
本発明が対象とする抗癌剤は、シクロホスファミドやメルファランなどのアルキル剤、メトトレキサートやフルオロウラシルなどの代謝拮抗剤、マイトマイシンやアドリアマイシンなどの抗癌性抗生物質、ビンクリスチンやエトポシドなどの抗癌性植物由来物質、シスプラチンなどのDNA合成阻害剤のほか、ジェムザールやタキサン系の抗癌剤などであって、投与すると副作用を発現する細胞障害性の抗癌剤である。
【0037】
たとえば、乳癌に対しては、タキソールの単独投与やアドリアマイシン、シクロホスファミド、メトトレキサート、ドセタキセル、フルオロウラシルなどの多剤を併用投与することが行われている。これらの抗癌剤治療法においては、吐き気や嘔吐などの副作用を発現する。本発明の水溶性ビタミンE含有物は、これらの抗癌剤による副作用として発現する健康障害を抑制することができる。
【0038】
次に、水溶性ビタミンE含有物の製法について説明する。本発明においては、デキストリンなどの糖質を作用させて脂溶性ビタミンE(脂溶性ビタミンE誘導体を含む)を水溶化する。この場合、たとえば、公知の方法である脂溶性ビタミンないし脂溶性ビタミン様物質の油脂−糖質粉末素材及びその製造方法(特開2010−046002号公報)に従って、脂溶性ビタミンのビタミンEを糖質、水、親水性乳化剤に分散し、糖質被膜油脂−糖質素材を製造することによって、脂溶性ビタミンEを水溶化させることができる。
【0039】
次に、本発明の脂溶性ビタミンE油脂−糖質素材の実際の製造法について説明する。先ず、製造の前段階として、油相と水相を作製する。油相は、油脂(パーム油、ナタネ油、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む油脂など)、または脂溶性ビタミンEが分散している油脂に、親油性乳化剤、例えば、「リョートーシュガーエステルS−170」(三菱化学フーズ(社)製)など、を添加して、たとえば、温度10〜30℃で、30分間撹拌して、脂溶性ビタミンEを分散させる。
【0040】
その後、たとえば、液温を50℃に上げて、乳化剤を溶解させる。また、脂溶性ビタミンEが、粉体の場合は、乳化剤が分散溶解した油脂に、脂溶性ビタミンEを添加、撹拌して、脂溶性ビタミンEを液中に分散させることで、分散油を調製する。一方、水相では、水に親水性乳化剤、たとえば、「リョートーシュガーエステルS−1570」(三菱化学フーズ(社)製)など、を添加して、例えば、30分間撹拌して分散させ、温度50℃で溶解させる。
【0041】
次に、糖質として、たとえば、デキストリン(DE5〜15)を添加して、分散溶解させて、デキストリン分散液を調製する。水相を撹拌しながら油相を徐々に添加して、均質な反応液を調製する。これにより、脂溶性機能成分を、油脂で被覆し、その周りをデキストリンで被覆させた、脂溶性ビタミンE油脂−糖質素材を製造することができる。
【0042】
一般的に、油と水を分散均一化させるためには、両親媒性(水と油どちらにも馴染みやすい性質)を持つ乳化剤などを、油と水に添加して行う方法、があり、油中水滴(W/O)型乳化と、水中油滴(O/W)型乳化、の2つの方法がある。いずれの方法も、両親媒性物質である乳化剤が、油相と水相との界面に存在することで、両者の分散均一化を実現している。しかし、乳化剤では、分散した油、またはその油に含まれる成分の安定性を向上させる効果は、認められない。
【0043】
一方、本発明では、脂溶性成分を油脂で被膜し、その外側を、更に、糖質で被膜した構造としている。この構造の中で、脂溶性成分を被膜している油脂は、脂溶性成分の酸素、光、熱による変質を抑制する役割、その外側を被膜している糖質は、水との分散性を向上させる役割を担っている。これらのことから、本発明で製造される油脂−糖質素材は、従来にない構造、及び効果を備えている。
【0044】
本発明によって得られる油脂−糖質素材は、脂溶性成分の物理的、及び化学的安定化にも効果があり、たとえば、粉末は、溶解性に優れ、利用範囲が広く、主に医薬品などの分野において、利用することができる。
【0045】
本発明では、親油性乳化剤と油脂の混合物に、脂溶性ビタミンEを添加して、油脂中に、脂溶性ビタミンEを分散させた液を作製し、一方で、糖質を、水および親水性乳化剤に分散した糖質溶液、または分散液を作製する。
【0046】
次に、これら二種の液を合わせて撹拌し、水溶液中で、油脂で被覆された脂溶性ビタミンEを糖質で被覆した分散液とし、また、この分散液を乾燥することで、脂溶性ビタミンEを油脂で被覆してその周りに、糖質で被覆した粉末を製造する。
【0047】
本発明では、脂溶性ビタミンEを油で被膜することで、脂溶性ビタミンEの酸化を防ぎ、油被膜を、更に糖質で被膜することで、水分散または溶解性を向上させる二重の効果が得られる。本発明により、多量に脂溶性ビタミンEを使用する場合でも、水に対する溶解・分散性、および酸化防止効果を向上させる、脂溶性ビタミンE油脂−糖質粉末を製造することが可能となる。
【0048】
また、たとえば、ビタミンE/デキストリン複合体の組成としては、たとえば、ビタミンE(13.5%)、デキストリン(64.5%)、中鎖脂肪酸トリグリセライド(13.5%)、乳化剤(0.8%)から成る組成とすることが好適であり、それらの粉末状の複合体が用いられる。本発明における水溶性ビタミンE含有物の水に対する溶解度は、約50%である。
【0049】
製剤としては、粉剤、液剤、錠剤などがあり、薬理学的に許容し得る賦形剤を適宜使用して製剤化することができる。本発明の水溶性ビタンミンE含有物の投与法は、経口、腹腔、静注、筋注などの方法によって行われ、水溶液の経口投与で充分に有効であるが、静脈内投与などでもよい。また、投与量は、経口投与の場合は10〜1000mg/kg体重であり、50〜500mg/kg体重が好んで用いられるが、静脈内投与の場合は10〜100mg/kg体重である。
【発明の効果】
【0050】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)水溶性ビタミンE含有物よりなる生体防御に有効な新規健康障害抑制剤を提供することができる。
(2)本発明の健康障害抑制剤を用いることにより、放射線被曝や癌治療のための放射線照射、あるいは抗癌剤投与に起因する副作用として発現する健康障害を効果的に抑制ないし緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】水溶性ビタミンE含有物による抗癌剤の毒性抑制試験の結果を示す。該試験及び図1において、実験動物はICR雄マウス、抗癌剤はシスプラチン、投与量は16mg/Kg(致死量)、投与方法は抗癌剤、水溶性ビタミンEともに経口投与、抑制効果の測定方法は30日間の生存率、である。
【図2】水溶性ビタミンE含有物による放射線防護効果試験の結果を示す。該試験及び図2において、実験動物はICR雄マウス、放射線照射量は7.5Gy(致死量)、水溶性ビタミンE投与方法は、1)放射線照射の2時間前に腹腔投与、2)放射線照射の直前に腹腔投与、3)放射線照射の30分後に腹腔投与、防護効果の測定方法はマウスの生存日数、である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
(有効成分としての水溶性ビタミンE含有物の作製)
本実施例では、脂溶性ビタミンEを用いて、ビタミンE油脂−糖質粉末を作製した。油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド「パナセート800」(日本油脂(株)製)100gを使用し、これに、親油性乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル「リョートーシュガーエステルS−170」(三菱化学フーズ(株)製)2.5gを添加して、温度10〜30℃で、30分間撹拌して、これらを分散させ、分散液を調製した。
【0054】
次に、上記分散液の液温を、50℃に上げて、上記乳化剤を溶解させた。乳化剤を溶解させた油脂に、脂溶性ビタミンE(キシダ化学(株)製)100gを加え、これを撹拌して、脂溶性ビタミンEを液中に分散させた分散油(O液)を調製した。
【0055】
次に、水500gに、親水性乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル「リョートーシュガーエステルS−1570」(三菱化学フーズ(株)製)2.5gを添加して、30分間撹拌して、これらを分散させ、これを温度60℃で溶解させた。これに、糖質として、デキストリン(DE7〜9)60gを添加して、デキストリン分散液(W液)を調製した。上記W液を撹拌しながら、これに、上記O液を徐々に添加して、均質になるように、室温で、約30分間撹拌した。この操作により、脂溶性ビタミンEを含有した分散液を調製した。
【0056】
このビタミンEを含有した分散液は、分散性に優れ、4ヶ月間の冷蔵庫保存でも、分離しなかった。この分散液を、凍結乾燥、又は噴霧乾燥により乾燥処理することにより、ビタミンE油脂−糖質粉末を製造した。油脂として、上記中鎖脂肪酸トリグリセリド「パナセート800」(日本油脂(株)製)とは別に、「ナタネ油」、中鎖脂肪酸トリグリセリド含有油脂「ヘルシーリセッタ」(日清オイリオグループ(株)製)、及び「パーム油」を用いて、上記と同様の操作により、ビタミンE油脂−糖質粉末(水溶性ビタミンE含有物)を製造した。
【実施例2】
【0057】
(水溶性ビタミンE含有物による抗癌剤の毒性抑制試験)
本実施例では、水溶性ビタミンE含有物による抗癌剤の毒性の抑制について試験を行った。ICR雄マウスに致死量(16mg/kg)のシスプラチン(cDDP)と所定量の水溶性ビタミンE含有物を経口投与し、30日間生存率を調べた。
【0058】
cDDPのみの場合の生存率は0%、cDDPと水溶性ビタミンE(100mg/kg)の生存率は20%、cDDPと水溶性ビタミンE(500mg/kg)の場合の生存率は40%で、本発明の水溶性ビタミンE含有物によるcDDPの毒性を抑制する効果が示された。尚、水溶性ビタミンE含有物の原料である脂溶性ビタミンEは、疎水性のため試験に供試できなかった。
【実施例3】
【0059】
(水溶性ビタミンE含有物による放射線防護効果試験)
本実施例では、水溶性ビタミンE含有物による放射線防護効果について試験を行った。ICR雄マウスに致死量(7.5Gy)の放射線を照射すると、マウスは10日間生存した。照射の2時間前に本発明の水溶性ビタミンE含有物を100mg/kg、腹腔に投与した場合にも、マウスの生存日数は10日間であったが、放射線照射の直前および30分後に投与した場合には、17日間生存した。これらの結果から、放射線被曝の直後、あるいは30分後に、本発明の水溶性ビタミンE含有物の放射線防護効果が示された。尚、水溶性ビタミンE含有物の原料である脂溶性ビタミンEは、疎水性のため試験に供試できなかった。
【0060】
これらの実施例から明らかなように、本発明の水溶性ビタミンE含有物である水溶性ビタミンE/デキストリン複合体は、放射線防護効果および抗癌剤防護効果を有することが示された。これらの実施例によって、放射線や抗癌剤による治療の副作用が、本発明の水溶性ビタミンE含有物によって効果的に予防できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上詳述したように、本発明は、水溶性ビタミンE含有物を有効成分とする生体防御剤に係るものであり、本発明により、水溶性ビタミンE含有物よりなる生体防御に有効な新規健康障害抑制剤を提供することができる。本発明の健康障害抑制剤を用いることにより、放射線被曝や癌治療のための放射線照射、あるいは抗癌剤投与に起因する副作用として発現する健康障害を効果的に抑制ないし緩和することができる。本発明は、癌の治療時の放射線照射や抗癌剤投与に起因する副作用として発現する健康障害の抑制ないし緩和に有効な新規生体防御剤を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂溶性ビタミンEを、油脂および親油性乳化剤に分散したビタミンE分散油と、糖質を、水および親水性乳化剤に分散した糖質水分散液とを混合して作製した、ビタミンE−糖質被覆分散液またはその粉末素材から成る水溶性ビタミンE含有物を有効成分とすることを特徴とする癌治療の副作用抑制剤。
【請求項2】
糖質が、デキストリン(DE5〜15)、澱粉の加水分解物、またはサイクロデキストリンである、請求項1に記載の癌治療の副作用抑制剤。
【請求項3】
油脂が、植物起源の油、又は動物起源の油である、請求項1に記載の癌治療の副作用抑制剤。
【請求項4】
乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、又はレシチン類である、請求項1に記載の癌治療の副作用抑制剤。
【請求項5】
水溶性ビタミンE含有物より成る化学治療の副作用抑制剤である、請求項1から4のいずれかに記載の癌治療の副作用抑制剤。
【請求項6】
水溶性ビタミンE含有物より成る放射線治療の防護剤である、請求項1から4のいずれかに記載の癌治療の副作用抑制剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−1479(P2012−1479A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137295(P2010−137295)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(305007551)株式会社毛髪クリニックリーブ21 (6)
【Fターム(参考)】