説明

水溶性ポリマーの製造方法

【課題】水溶性ポリマースラリー中の水溶性ポリマーの二次粒子を解砕する湿式破砕工程を設けた水溶性ポリマーの製造方法であって、湿式破砕機の運転が良好に行われるように改良した上記の製造方法を提供する。
【解決手段】疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、N−ビニルカルボン酸アミド又はこれと他の共重合成分および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合させて(共)重合体粒子のスラリーを得る重合工程、得られた(共)重合体粒子のスラリーに酸を添加して変性する変性工程、得られた水溶性ポリマースラリーの蒸留脱水工程、疎水性有機溶媒の分離工程、回収された水溶性ポリマーの乾燥工程を順次に包含する水溶性ポリマーの製造方法であって、蒸留脱水工程と疎水性有機溶媒の分離工程との間に、水溶性ポリマースラリーの温度を40〜55℃の範囲に維持して水溶性ポリマースラリー中の水溶性ポリマーの二次粒子を解砕する湿式破砕工程を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリマーの製造方法に関し、詳しくは、ポリビニルアミン又はポリアミジンから成るスラリー状又は粒状の水溶性ポリマーの製造方法に関する。ポリビニルアミン及びポリアミジンは、凝集剤、製紙用薬剤、繊維処理剤、塗料添加剤などとして広く利用されている有用な物質である。なお、以下の説明において、水溶性ポリマーの用語は、ポリビニルアミン又はポリアミジンを意味するものとする。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアミンはN−ビニルカルボン酸アミドを重合した後に加水分解することにより得られ、また、ポリアミジンはN−ビニルカルボン酸アミド及び(メタ)アクリロニトリルを共重合した後に加水分解およびアミジン化することによって得られる。なお、以下の説明において、上記の加水分解またはこれとアミジン化をまとめて「変性」と総称する。
【0003】
上記の(共)重合法としては、水溶液重合や断熱重合の他、(逆相)懸濁重合が知られている。この懸濁重合は、(共)重合体粒子を得る方法であり、疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、単量体および重合開始剤を含む水溶液を懸濁させて重合する方法である。
【0004】
水溶性ポリマーを得るための変性方法としては、懸濁重合後の反応液に酸を導入する方法が知られている。そして、粒状の水溶性ポリマーは、変性で得られた水溶性ポリマースラリー(懸濁液)を(共沸)蒸留脱水し、疎水性有機溶媒を分離し、更に、回収した水溶性ポリマーを乾燥することにより得られる(特許文献1〜6)。
【0005】
ところで、上記の乾燥工程から取り出される粒状製品には一次粒子が数個凝集した二次粒子が混入しており、それにより乾燥ムラが生じるという問題が見出された。また、一般に、上記の乾燥工程の後には製品の粒径を揃えるための篩分工程が設けられるが、この場合は、上記の二次粒子の混入により、製品歩留まりが低下することになる。また、篩分工程と共に粉砕工程を設けて製品の粒度調整などを行う場合は、上記の二次粒子の混入により、粉砕工程の負荷が増大することになる。
【0006】
本発明者は、前記の二次粒子の発生について検討した結果、次のような知見を得た。すなわち、水溶性ポリマースラリー(共沸)蒸留脱水においては、水溶性ポリマーの粒子中の水分が表面から除去されるが、この際、粒子表面の粘性が増加する結果、二次粒子が発生する。従って、蒸留脱水工程と疎水性有機溶媒の分離工程との間に、二次粒子を解砕する湿式破砕工程を設けるならば、乾燥工程における乾燥ムラや粉砕工程における不可の増大を阻止することが出来る。
【0007】
しかしながら、湿式破砕機を使用した場合、処理温度条件が重要であり、温度条件によっては重大な問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−86115号公報
【特許文献2】特開平5−86127号公報
【特許文献3】特開平5−97931号公報
【特許文献4】特開平5−125117号公報
【特許文献5】特開平5−255565号公報
【特許文献6】特開平6−329718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、水溶性ポリマースラリー中の水溶性ポリマーの二次粒子を解砕する湿式破砕工程を設けた水溶性ポリマーの製造方法であって、湿式破砕機の運転が良好に行われるように改良した上記の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、N−ビニルカルボン酸アミド又はこれと他の共重合成分および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合させて(共)重合体粒子のスラリーを得る重合工程、得られた(共)重合体粒子のスラリーに酸を添加して変性する変性工程、得られた水溶性ポリマースラリーの蒸留脱水工程、疎水性有機溶媒の分離工程、回収された水溶性ポリマーの乾燥工程を順次に包含する水溶性ポリマーの製造方法であって、蒸留脱水工程と疎水性有機溶媒の分離工程との間に、水溶性ポリマースラリーの温度を40〜55℃の範囲に維持して水溶性ポリマースラリー中の水溶性ポリマーの二次粒子を解砕する湿式破砕工程を設けたことを特徴とする水溶性ポリマーの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば工業的に有利な水溶性ポリマーの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<(共)重合>
本発明においては、(共)重合方法としては、懸濁重合、すなわち、疎水性有機溶媒(分散媒)中、乳化剤の存在下、単量体および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合する方法を採用する。
【0014】
疎水性有機溶媒としては、基本的に水に難溶性で且つ重合反応に不活性であれば、如何なるものも使用できる。その一例を挙げれば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環状炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。水と共沸する溶媒(共沸脱水溶媒)を選択するならば、後述の蒸留脱水工程を有利に行うことが出来る。上記の列挙した疎水性有機溶媒は何れも共沸脱水溶媒である。疎水性有機溶媒と後述の単量体水溶液の量比(容量比)は、通常10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5である。
【0015】
乳化剤としては、通常、W/O(油中水滴)型乳化が可能な界面活性剤が使用される。斯かる界面活性剤としては、HLB(Hydrophilic Lipophilic Balance)が通常9〜20、好ましくは12〜19のノニオン系界面活性剤が好適であり、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、モリグリセリド、ソルビトールアルキルエステル、スクロースアルキルエステル等であり、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである。具体的には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート等の化合物が例示される。乳化剤の使用量は、疎水性有機溶媒に対し、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%の範囲から適宜選択される。
【0016】
本発明で使用するN−ビニルカルボン酸アミドとしては、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピルアミド等が例示される。これらの中では、N−ビニルホルムアミド(CH=CHNHCHO)は、重合性が高くて高分子量重合体が得られ易いこと、加水分解によるポリビニルアミンへの変換が容易なこと等から好ましい。N−ビニルカルボン酸アミドは、単独重合させてもエチレン性不飽和結合を有する任意の単量体と共重合させてもよい。
【0017】
共重合させ得る単量体としては、(メタ)アクリル酸およびその塩、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミド及びその塩あるいは4級化物、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びその塩あるいは4級化物、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート及びその塩あるいはその4級化物、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル等が例示される。
【0018】
ポリビニルアミンを製造する際、単量体組成物中のN−ビニルホルムアミドの含有割合は、通常50モル%以上、好ましくは90〜100モル%である。
【0019】
一方、ポリアミジンを製造する際はN−ビニルカルボン酸アミドと(メタ)アクリロニトリルとの共重合が行われる。N−ビニルカルボン酸アミドと(メタ)アクリロニトリルとのモル比は、後述するアミジン化反応の観点から、通常20:80〜80:20、好ましくは30:70〜70:30である。
【0020】
上記の単量体は水溶液として使用され、その濃度は、通常20〜80重量%、好ましくは50〜80重量%、更に好ましくは60〜80重量%である。単量体水溶液は、回分仕込みでも連続滴下仕込みでもよい。また、分散媒と単量体水溶液の量比(容量比)は、通常10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5である。
【0021】
重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤を使用することが出来るが、アゾ化合物が好ましい。特に好ましいラジカル重合開始剤は水溶性のアゾ化合物であり、その具体例としては、2,2′−アゾビス−2−アミジノプロパンの塩酸塩、硫酸塩および酢酸塩、アゾビス−N,N′−ジメチレンイソブチルアミジンの塩酸塩、硫酸塩および酢酸塩、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩などが例示される。ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体に対し、重量基準として、通常100〜10000ppm、好ましくは500〜5000ppmである。ラジカル重合開始剤は単量体水溶液に溶解して使用される。
【0022】
本発明においては、緩衝液などの重合安定剤を使用してもよい。重合安定剤としては、塩化アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。重合安定剤の使用量は、単量体に対し、通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%である。
【0023】
重合温度は、通常30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。pHは通常5〜9である。pHがこの範囲を外れると、N−ビニルカルボン酸アミド、特にN−ビニルホルムアミドの加水分解によるロスが増加する。また、重合時間は、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜8時間である。なお、重合に際しては、重合熱が発生するので、通常、重合系を冷却することにより、重合温度が上記範囲内に保持されるように調節される。
【0024】
重合操作としては、乳化剤を含む有疎水性有機溶媒(分散媒)を重合温度に保持し、窒素ガス気流中、攪拌下、重合開始剤を含む単量体水溶液を分散媒中に添加する方法が例示されるが、単量体、溶媒、助剤の混合順次は特に限定されるものではない。
【0025】
本発明においては、前記の(共)重合の後、公知の不溶化防止剤を使用して不溶化防止処理を行うことが好ましい。不溶化防止処理とは、加水分解に先立ち又は加水分解と平行して、アルデヒド基とオキシム化反応や酸化還元反応などを起こす、アルデヒド基との反応性が高い物質(不溶化防止剤)を添加する処理である。不溶化防止剤としては、特開平5−86127号公報や特開5−125109号公報に示されているような、ヒドロキシルアミン又はその塩酸塩若しくは硫酸塩、過酸化水素、水素化硼素ナトリウム、アスコルビン酸、硫酸水素ナトリウム、二酸化硫黄、亜二チオン酸ナトリウム、アミノグアニジン、フェニルヒドラジン、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、アンモニア、塩化アンモニウム、或いは硫酸アンモニウム等が挙げられる。特に、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン塩酸塩、ヒドロキシルアミン硫酸塩、水素化硼素ナトリウム、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が好適である。
【0026】
不溶化防止剤の使用量は、(共)重合体中に残存する単量体量によって異なるが、重合時の転化率が98%以上の場合、(共)重合体100重量部に対し、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜2重量部である。
【0027】
前記の(共)重合においては(共)重合体粒子はスラリーとして得られる。重合体粒子の装置などへの付着を緩和するため付着防止剤を使用することが出来る。付着防止剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、アルキレングリコールアルキルエーテル等のノニオン界面活性剤;テトラアルキル4級アンモニウム塩、トリアルキルベンジル4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などのカチオン界面活性剤;シリコーンオイル、シリコーンエマルション等のシリコーン類などが例示される。これらは2種以上を併用してもよい。付着防止剤の使用量は、(共)重合体100重量部に対し、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。付着防止剤は、重合段階から使用することも可能である。
【0028】
<加水分解>
加水分解には水溶性の一価の強酸のいずれもが使用できる。例えば、塩化水素、臭素水素、フッ化水素、硝酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などが例示されるが、塩化水素が特に好ましい。この場合、塩化水素はガス状で反応系に導入してもよいし、塩酸水溶液として添加してもよい。酸の使用量は、所望する加水分解率によって異なるが、目的とするポリビニルアミン中のビニルアミン単位に対し、通常0.8〜2倍当量、好ましくは1〜1.5倍当量である。加水分解率は、N−ビニルカルボン酸アミド単量体単位に対する割合として、通常0.1〜100モル%、好ましくは1〜95モル%である。
【0029】
加水分解は通常20℃〜90℃で行われる。反応時間は、温度によって異なるが、通常1分から1週間である。加水分解により、N−ビニルカルボン酸アミド重合体は、カチオン性のポリビニルアミン(塩)に変換される。(メタ)アクリロニトリルを共重合している場合は、加水分解条件によっては生成したアミンの一部が後述のアミジン化することがある。
【0030】
<アミジン化>
アミジン化は、分子内にアミジン環を形成する反応であり、アミノ基と隣接するシアノ基が反応してアミジン環を形成する。アミジン化は加水分解後に行っても加水分解と共に行ってもよい。そして、アミジン化率は、通常60〜150℃、好ましくは70〜120℃、更に好ましくは80〜100℃の熱処理(加熱熟成)により高めることが出来る。加熱熟成の時間は通常0.5〜24時間である。
【0031】
<蒸留脱水工程>
通常、蒸留脱水工程は、(共)重合体粒子のスラリーを撹拌下に加熱する単蒸留方式によって行われるが、疎水性有機溶媒として共沸脱水溶媒を選択している場合は、水の沸点以下の温度で水を除去することが出来る利点がある。この場合、蒸留脱水の前に水溶性ポリマースラリーにメタノールを添加し、酸変性によって副生したギ酸をエステル化して蒸留脱水により除去するのが好ましい。これにより、不純物の少ない粒状の水溶性ポリマーが得られる。なお、ギ酸は、水分と共に留去可能であるが、エステル化することにより、その腐食性が抑えられると共に、その沸点が大幅に下がるので除去が容易になる。
【0032】
<湿式破砕工程>
蒸留脱水工程で得られる水溶性ポリマースラリー中には、水溶性ポリマーの一次粒子(通常0.2〜0.3mm)が数個凝集して形成された二次粒子が含まれている。本発明では、水溶性ポリマーの二次粒子を一次粒子に解砕する。
【0033】
湿式破砕機(解砕機とも呼ばれる)としては、上記の機能を有する限り、如何なる構造のものでもよい。例えば、相川鉄工(株)製の「インクラッシャー」(商品名)(「ゴラトー」:旧商品名)や小松ゼノア(株)製のディスインテグレーター(商品名)等の構造を持つものが好ましい。
【0034】
相川鉄工(株)製の「インクラッシャー」は、破砕と同時に圧送を行うことが出来る傾斜円盤湿式破砕ホンプであり、具体的な構造は次の通りである。すなわち、遠心渦巻きポンプ同様に、回転するローターの中心の延長線上に吸引配管の中心が設置されており、ローターの回転運動による遠心力により、被粉砕物を含むスラリー液は本体内に吸い込まれる。そして、本体内において、スラリー液は傾斜円盤状のローターに衝突し、遠心力により、円盤に沿う形でライナー部に到達する。ローターの端面は、鋸刃状に加工されており、ライナーには、その加工に凹凸部を合わせる溝の加工がされている。ライナーの溝に集められた被粉砕物は、回転するローターとライナーの間隙に押しつけられながら、溝に沿って移動する間に、破砕・粉砕される。ローターとライナーの間隙の調節により破砕の程度を調節することが可能である。因に、ローター・ライナーと被粉砕物との摩擦により熱を発し、本体内は温度が上昇することなる。
【0035】
本発明においては、水溶性ポリマーの二次粒子を解砕する際に水溶性ポリマースラリーの温度を40〜55℃の範囲に維持することが重要である。水溶性ポリマースラリーの温度が55℃を超える場合は、水溶性ポリマーの粒子が湿式破砕機の内部で凝集して肥大化し、更に、剪断部に挟み込まれることによって生じる摩擦熱により粒子が溶融一体化して配管を閉塞するという重大な問題が発生する。一方、水溶性ポリマースラリーの温度が40℃未満の場合は、スラリーの粘性が上昇し、最悪の場合は乳化剤が分離して2相になってしまう。水溶性ポリマースラリーの好ましい温度は45〜50℃である。
【0036】
<疎水性有機溶媒の分離工程および乾燥工程>
通常、疎水性有機溶媒の分離工程は、簡単な手段、例えば、濾過などによって行われる。一方、乾燥工程の乾燥機としては公知の種々の装置を使用し得る。具体的には、バンド乾燥機、振動流動乾燥機、ディスク乾燥機、コニカル乾燥機などが使用される。乾燥温度は、適宜選択することが出来るが、温度が低すぎる場合は、乾燥効率が悪く水分の調節に時間が掛かりすぎるため、組成が変化することがある。一方、温度が高すぎる場合は、(共)重合体劣化の原因となる。従って、乾燥温度は、通常50〜140℃、好ましくは60〜130℃、更に好ましくは70〜100℃である。また、減圧にする方法は低温で短時間に処理でき、製品の劣化を防ぐ点で優れている。この際、空気や窒素などの乾燥ガスを流通してもよい。
【0037】
<篩分工程および粉砕工程>
篩機としては、例えば、振動式篩機、回転式篩機などが挙げられ、これらの中では回転式篩機が好ましい。回転式篩機としては、ロータリーシフター等が挙げられる。篩分工程で得られる重合体粒子の粒径は、目的に応じて適宜設定すればよく、篩網も粒径に合わせて選択すればよい。高分子凝集剤として使用する水溶性ポリマーの場合は、通常0.1〜2.0mm程度である。使用する篩網は、粗粒除去の網が通常8〜42メッシュ、微粉除去の網が通常60〜200メッシュである。一方、粉砕工程で使用する粉砕機としては、例えば、ロールミル粉砕機などが挙げられる。篩分工程で回収された粗粒は粉砕工程で処理されて篩分工程に循環される。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1:
攪拌機および薬品滴下口を備えた反応容器を使用した。先ず、シクロヘキサン400Lに乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB14)9.4kgを加えて連続相を調製し、これに、分散層として、脱イオン水で調製した63重量%の単量体水溶液(N−ビニルホルムアミド/アクリロニトリル=45/55モル%)220kgに2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を対単量体3000ppmを加えたものを、55℃加温攪拌下、窒素気流下3時間かけて滴下して重合し、その後、1時間同温で熟成し、N−ビニルホルムアミド重合体水溶液のシクロヘキサン分散物を得た。
【0040】
次いで、50℃に冷却し、ポリエチレングリコール(MW6000)5kg、硫酸ヒドロキシルアミン25重量%水溶液23kgを添加し、1時間攪拌した。その後、攪拌できる加圧反応容器に反応物を移し、攪拌下、N−ビニルホルムアミドに対して1.05倍モルの塩酸ガスを吹き込み、密閉下加水分解及びアミジン化反応を行った(両反応は共に105℃で3時間)。その後、加圧下にある場合は放圧し、温度を50℃に下げ、メタノール28mを添加し、攪拌した。更に、油水分離機を装着したコンデンサーを付け、シクロヘキサンのみを還流させ、水を除去しながら炊き上げ、脱水処理を2時間行った。
【0041】
次いで、上記で得た水溶性ポリマースラリーを50℃の温度に維持し、相川鉄工(株)製の「インクラッシャー」に連続供給して約6時間に亘る湿式破砕処理を行った。処理された水溶性ポリマースラリーは連続的に配管を通して濾過装置に供給した。湿式破砕処理および濾過処理は何のトラブルもなく順調に行えた。回収した水溶性ポリマーをバンド乾燥機で85℃で乾燥し、回転式篩機で処理して、平均粒径約1mmの製品を回収した。
【0042】
比較例1:
実施例1において、湿式破砕処理の際の水溶性ポリマースラリーを60℃に変更した以外は、実施例1と同様に水溶性ポリマーを製造した。湿式破砕処理終了後、「インクラッシャー」の出口側に接続された配管を調べた結果、水溶性ポリマーの閉塞が確認された。
【0043】
比較例2:
実施例1において、湿式破砕処理の際の水溶性ポリマースラリーを35℃に変更した以外は、実施例1と同様に水溶性ポリマーを製造した。湿式破砕処理された水溶性ポリマースラリーは乳化剤が析出し、しかも、粘性が高くて濾過速度が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、N−ビニルカルボン酸アミド又はこれと他の共重合成分および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合させて(共)重合体粒子のスラリーを得る重合工程、得られた(共)重合体粒子のスラリーに酸を添加して変性する変性工程、得られた水溶性ポリマースラリーの蒸留脱水工程、疎水性有機溶媒の分離工程、回収された水溶性ポリマーの乾燥工程を順次に包含する水溶性ポリマーの製造方法であって、蒸留脱水工程と疎水性有機溶媒の分離工程との間に、水溶性ポリマースラリーの温度を40〜55℃の範囲に維持して水溶性ポリマースラリー中の水溶性ポリマーの二次粒子を解砕する湿式破砕工程を設けたことを特徴とする水溶性ポリマーの製造方法。


【公開番号】特開2012−121989(P2012−121989A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273559(P2010−273559)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】