説明

水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法

【課題】水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法を提供する。
【解決手段】アルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを、2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤の存在下反応させる工程を含む水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法。アルデヒド基を有する水溶性ポリマーの水溶性ポリマー部分が、デキストラン、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリビニルアルコールからなる群から選択されるポリマーである上記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド基を有する水溶性ポリマーと生理活性ポリペプチドを、2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤の存在下反応させることを特徴とする水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの生理活性ポリペプチドが特定の疾病に対する治療薬として有用であることが知られている。しかしながら、血中では、その不安定性のために十分な薬理効果が期待できない場合が多い。例えば、分子量約60,000以下のポリペプチドは、血中に投与されても腎臓の糸球体によりろ過され、大部分が尿中に排泄される。このため、満足行く治療効果が得られず、繰り返し投与が必要になる場合が多い。また、血中に存在する加水分解酵素などによっても分解され、その作用を失うこともある。外因性のポリペプチドや遺伝子組換えなどによって製造されたポリペプチドの場合は、内因性のポリペプチドと構造が異なるため、血中に投与された場合には免疫反応を誘発し、アナフィラキシーショックなどの重篤な副作用を起こす可能性のあることが知られている。さらに、生理活性ポリペプチドによってはそれが治療剤として用いられる際に、溶解性が悪いなどの物性が問題になることも多い。
【0003】
生理活性ポリペプチドを治療剤として用いる場合のこれらの問題を解決する方法の一つとして、1分子以上の不活性型ポリマー鎖で生理活性ポリペプチドを化学的に修飾する方法が知られている。多くの場合、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレングリコール類でポリペプチドを化学的に修飾することによって、ポリペプチドに望ましい特性を付与することができる。
【0004】
例えば、ポリオキシエチレングリコールで修飾されたスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)は、血中の半減期が著しく延長され、作用が持続すること知られている(ファーマシューティカル リサーチ コミュニケーション(Pharm.Research Commun.)、19巻、287頁、1987年)。また、ポリエチレングリコールで修飾した顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)に関する報告もある(ジャーナル オブ バイオケミストリー(J.BioChem.)、115巻、814頁、1994年)。さらに、アスパラギナーゼ、グルタミナーゼ、アデノシンデアミナーゼ、ウロキナーゼなどのポリペプチドをポリエチレングリコールで修飾(PEG化)した修飾ポリペプチドの例がまとめられている(ファーマシューティカル バイオテクノロジー(Pharmceutical BioTechnology.)、3巻、Stability of Protein Pharmaceuticals, Part B、235頁、1992年)。また、生理活性ポリペプチドをポリアルキレングリコールで修飾することで得られる効果として、熱安定性が高まること(生物物理、38巻、208頁、1998年)、有機溶媒に可溶になること(バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.:BBRC)、122巻、845頁、1984年)などが知られている。
【0005】
一方、ポリアルキレングリコールなどの水溶性ポリマーでポリペプチドを化学的に修飾する方法、即ち水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法としては、各種の方法が知られている。例えば、特許文献1には、ポリエチレングリコール分子を酵素と結合させる方法として、還元的アルキル化反応を用いる方法が記載されている。特許文献7には、還元剤として水素化ホウ素化ナトリウムまたはシアノ水素化ホウ素ナトリウムを用いた還元的アルキル化反応を利用したリンホカインをアルデヒド基を有するポリエチレングリコールで化学修飾(PEG化)したポリペプチドの製造方法が記載されている。特許文献8には、G−CSF組成物およびコンセンサスインターフェロンのN末端に選択的にポリエチレングリコール分子を導入する方法として、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素化ナトリウム、ホウ酸ジメチルアミン、ホウ酸トリメチルアミンおよびホウ酸ピリジンから選択される還元剤を用いた還元的アルキル化反応による製造方法が記載されている。さらに各種の製造方法が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)。
【0006】
生理活性ポリペプチドとアルデヒド基を有する水溶性ポリマーを還元的アルキル化反応を利用して結合させる場合、該ポリペプチドや該水溶性ポリマーの性質を考慮すると、水中で、または水を含む溶媒中で反応を行うことが望ましい。上記で記載したように、シアノ水素化ホウ素ナトリウムを用いた方法がよく知られているが、シアノ水素化ホウ素ナトリウムは強い毒性を有し、取り扱いが難しいこともよく知られている。
【0007】
一方、水中で使用できる還元剤として、ピリジンボランが知られている。ピリジンボランは常温では液体(融点:10−11℃)で、様々な官能基を還元する緩和な還元剤である(C.F.Lane,Aldrichim.Acta,1973,6,51−58.)が、加熱条件など条件によっては不安定であることが知られている(G.E.Ryschkewitsch and E.R.Birnbaum,Inorg.Chem.,1965,4,575−578.;H.C.Brown and L.Domash,J.Am.Chem.Soc.,1956,78,5384−5386;R.A.Baldwin and R.M.Washburn,J.Org.Chem.,1961,26,3549−3550.)。
【0008】
特許文献9には、長期間安定に保存することができる還元剤として2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランが記載されている。これらの還元剤を用いた、イミン類からアミン類を得る方法や低分子化合物に関する還元的アルキル化反応も記載されている。
【特許文献1】米国特許第4002531号
【特許文献2】ヨーロッパ特許第0539167号
【特許文献3】米国特許第4904584号
【特許文献4】ヨーロッパ特許第0401384号
【特許文献5】ヨーロッパ特許0473268号
【特許文献6】ヨーロッパ特許第0442724号
【特許文献7】ヨーロッパ特許第0154316号
【特許文献8】特開平11−310600号公報
【特許文献9】特開2004−256511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランから選ばれる還元剤を用いた還元的アルキル化反応による簡便な水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の(1)〜(7)に関する。
(1) アルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを、2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤の存在下反応させる工程を含む水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法。
(2) アルデヒド基を有する水溶性ポリマーの水溶性ポリマー部分が、デキストラン、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリビニルアルコールからなる群から選択されるポリマーである(1)記載の方法。
(3) 水溶性ポリマーがポリエチレングリコール類である(1)記載の方法。
(4) 2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤をアルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを含む混合物に添加し、反応させる工程を含む(1)記載の方法。
(5) 還元剤が有機溶媒に溶解した2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤である(4)記載の方法。
(6) ポリペプチドが生理活性ポリペプチドである(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) ポリペプチドが、組換え型ヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG−CSF)誘導体または組換え型ヒトインターフェロン−β(rhIFN−β)である(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、生理活性ポリペプチドの活性を低下させることなく、好ましくは該ポリペプチドのN末端を選択的に水溶性ポリマーで修飾するための、水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法が提供される。該製造方法として、生理活性ポリペプチドとアルデヒド基を有する水溶性ポリマーを2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランから選ばれる還元剤の存在下反応させる簡便な製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、例えば(i)アルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを適当な溶媒に溶解する工程、(ii)2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランから選ばれる還元剤をアルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを含む溶液に添加し、反応させる工程、(iii)得られた混合物を精製し水溶性ポリマーで修飾されたポリペプチドを単離する工程からなる。本発明の製造方法により、生理活性ポリペプチド分子に存在するアミノ基(例えばN末のα−アミノ基、リジン残基のε−アミノ基など)、好ましくはN末のα−アミノ基を水溶性ポリマーで修飾することができる。
(i)アルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを適当な溶媒に溶解する工程
本工程で用いられるアルデヒド基を有する水溶性ポリマーとしては、水溶性ポリマー1分子にアルデヒド基が好ましくは1個存在する水溶性ポリマーであり、該アルデヒド基はアミノ基などと反応性を有していることが好ましい。アルデヒド基を有する水溶性ポリマーの水溶性ポリマー部分としては、分岐状または直鎖状の水溶性ポリマーであればいずれでもよいが、薬学的に許容されるものがより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリエチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ−1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸類(ホモポリマーまたはランダムコポリマー)、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオールなどがあげられ、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、デキストラン、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコールなどが好ましく、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマーなどのポリアルキレングリコールがより好ましく、ポリエチレングリコールなどがさらに好ましい。該水溶性ポリマーの分子量は特に限定されないが、例えばポリアルキレングリコールの場合は、好ましくは約2,000〜約20,000である。これらアルデヒド基を有する水溶性ポリマーは、市販品などとして得ることができる。
【0013】
本工程で用いられるポリペプチドとしては、例えば生理活性ポリペプチドなどがあげられ、医薬品として用いられる生理活性ポリペプチドが好ましい。具体的には、例えば、アスパルギナーゼ、アモドキソビル(DAPD)、アンタイド、ベカプレルミン、カルシトニン、シアノビリン、デニロイキンジフチトックス、エリスロポエチン(EPO)、EPOアゴニスト(例えば、約10〜40アミノ酸の長さで、WO96/40749に記載されているような特定のコア配列を含むペプチド)、ドルナーゼアルファ、造血刺激タンパク質(NESP)、凝固因子(例えば、第V因子、第VII因子、第VIIa因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XII因子、第XIII因子、フォンウィルブラント因子)、セレダーゼ、セレザイム、アルファ−グルコシダーゼ、コラーゲン、シクロスポリン、アルファデフェンシン、ベータデフェンシン、エキセジン−4、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、トロンボポエチン(TPO)、アルファ−Iプロテイナーゼインヒビター、エルカトニン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、フィブリノゲン、フィルグラスチム、成長ホルモンヒト成長ホルモン(hGH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、GRO−ベータ、GRO−ベータ抗体、骨形成蛋白質(例えば、骨形成蛋白質−2、骨形成蛋白質−6、OP−1)、酸性繊維芽細胞増殖因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、CD−40リガンド、ヘパリン、ヒト血清アルブミン、低分子量ヘパリン(LMWH)、インターフェロン(例えば、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、インターフェロンオメガ、インターフェロンタウ、コンセンサスインターフェロン)、インターロイキンとインターロイキン受容体(例えば、インターロイキン−1受容体、インターロイキン−2、インターロイキン−2融合タンパク質、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−4受容体、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−12、インターロイキン−13受容体、インターロイキン−17受容体)、ラクトフェリンとラクトフェリン断片、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、インスリン、プロインスリン、インスリン類似体(例えば、モノアシル化インスリン(米国特許第5,922,675号))、アミリン、C−ペプチド、ソマトスタチン、ソマトスタチン類似体(オクトレオチドを含む)、バソプレシン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インフルエンザワクチン、インスリン様増殖因子(IGF)、インスリントロピン、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、プラスミノーゲンアクチベーター(例えば、アルテプラーゼ、ウロキナーゼ、レテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、パミテプラーゼ、ラノテプラーゼ、およびテネテプラーゼ)、神経増殖因子(NGF)、オスエオテゲリン、血小板由来増殖因子、組織増殖因子、トランスフォーミング増殖因子−1、血管内皮増殖因子、白血病阻害因子、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、グリア増殖因子(GGF)、T細胞受容体、CD分子/抗原、腫瘍壊死因子(TNF)、単球化学誘因タンパク質−1、内皮増殖因子、副甲状腺ホルモン(PTH)、グルカゴン様ペプチド、ソマトトロピン、サイモシンアルファ1、サイモシンアルファ1 IIb/IIIaインヒビター、サイモシンベータ10、サイモシンベータ9、サイモシンベータ4、アルファ−1アンチトリプシン、ホスホジエステラーゼ(PDE)化合物、VLA−4(超後期抗原−4)、VLA−4インヒビター、ビスホスホネート、RSウイルス抗体、嚢胞性繊維症トランスメンブランレギュレーター(CFTR)遺伝子、デオキシリボヌクレアーゼ(Dnase)、殺菌性/透過性上昇タンパク質(BPI)、抗CMV抗体、モノクローナル抗体などがあげられる。モノクローナル抗体としては、例えばエタネルセプト(IgG1のFc部分に結合したヒト75kD TNF受容体の細胞外リガンド結合部分からなるダイマー性融合タンパク質)、アブシキシマブ、アフェリオモマブ、バシリキシマブ、ダクリズマブ、インフリキシマブ、イブリツモマブチウエキセタン、ミツモマブ、ムロモナブ−CD3、ヨウ素131トシツモマブ結合体、オリズマブ、リツキシマブ、トラツズマブ(ヘルセプチン)などがあげられる。より好ましくは、ヒト顆粒球コロニー刺激因子(hG−CSF)、組換え型ヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG−CSF)誘導体(例えば、配列番号1に示したrhG−CSF誘導体)、インターフェロンβ(IFN−β)、組換え型ヒトインターフェロン−β(rhIFN−β)などがあげられる。これら生理活性を有するポリペプチドは従来より公知の方法によって得ることができる。例えば組換え型ヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG−CSF)誘導体は、哺乳類動物から単離された形態であるか、または化学合成により得られたものであるか、またはゲノムまたはcDNAクローニングまたはDNA合成によって得られる外来性DNA配列の原核生物または真核生物の宿主発現による産物であってよい。適当な原核生物宿主には、種々の細菌(例えばE.coli)が包含され、適当な真核生物宿主には酵母(S.cervisiae)および哺乳類細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞、サル細胞)が包含される。使用する宿主に応じて、rhG−CSF誘導体は、哺乳類またはその他の真核生物炭水化物によりグルコシル化されていてもよいし、またはグルコシル化されてなくてもよい。また、IFN−βは、哺乳類動物から単離された形態であるか、または化学合成により得られたものであるか、またはゲノムまたはcDNAクローニングまたはDNA合成によって得られる外来性DNA配列の原核生物または真核生物の宿主発現による産物であってよい。適当な原核生物宿主には、種々の細菌(例えばE.coli)が包含され、適当な真核生物宿主には酵母(S.cervisiae)および哺乳類細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞、サル細胞)が包含される。使用する宿主に応じて、IFN−β発現産物は、哺乳類またはその他の真核生物炭水化物によりグルコシル化されていてもよいし、またはグルコシル化されてなくてもよい。
【0014】
本工程に使用する、アルデヒド基を有する水溶性ポリマーおよびポリペプチドの使用量の比率は、それぞれを溶解した場合の溶液中でのそれぞれのモル濃度に応じて適宜選択すればよい。一般に、最適な比率(未反応のポリペプチドまたはポリマーが過剰に存在しないという反応の効率の点で)は選択されたアルデヒド基を有する水溶性ポリマーの分子量によって決定される。またポリペプチド自身が含有するアミノ基の個数にもよる。
【0015】
本工程で用いられる適当な溶媒としては、アルデヒド基を有する水溶性ポリマーおよびポリペプチドが溶解する溶液であれば特に限定されないが、好ましくは水または水を含む溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、1,4−ジオキサン、アセトニトリルなどの有機溶媒と水との混合溶媒など)などがあげられる。また、溶液のpHを適宜調節できるようリン酸緩衝液などの各種緩衝液を用いることもできる。更に、塩化ナトリウムなどの塩類などを含有していても良い。次工程(ii)での反応を促進させるために、また後述するように、ポリペプチドのα−アミノ基のみが修飾されるよう、用いる溶媒のpHは適当な値を選択することが好ましい。
【0016】
上記の溶媒は、上記のアルデヒド基を有する水溶性ポリマーと上記のポリペプチドが共に溶解する量を適宜選択し使用することができる。
アルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを上記の溶媒に溶解させるためには、そのまま混合し撹拌することで溶解することもあるが、溶解し難い場合には、例えば混合液に超音波による振動を与えるか、基質が分解しない温度までの範囲で混合液を加熱することより溶解させることができる。
【0017】
また、溶液のpHは、ポリペプチドのN末端のみに選択的な化学修飾が可能となるよう、好ましくはポリペプチド中のリジン残基のε−アミノ基とα−アミノ基のpKaの差を利用できるようなpHであることが好ましい。このような条件を選択することで、N末端へのポリマー結合の選択性を優位に増加することができる。従って、この目的のためには、本工程で用いられる溶媒は例えば緩衝液であることが好ましく、溶液に酸または塩基を加えて適切なpHに調整することができる。
(ii)2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランから選ばれる還元剤をアルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを含む溶液に添加し、反応させる工程
本工程で用いられる2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランは、例えば市販品として得ることができる。用いる還元剤としては、2−ピコリンボランがより好ましい。
【0018】
本工程の還元剤の添加方法は、上記(i)で得られた溶液を撹拌しながら、−20℃と60℃の間の温度で、好ましくは0℃と10℃の間の温度で、還元剤をそのまま添加するか、好ましくは還元剤を適当な量の溶媒に溶解または懸濁させゆっくり添加する。還元剤を溶解または懸濁させる溶媒としては、例えば水または有機溶媒、好ましくは有機溶媒があげられ、具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、DMF、DMA、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ピリジンなどがあげられ、好ましくはDMFなどがあげられる。
【0019】
本工程における反応は、還元剤を添加した混合物を、好ましくは撹拌しながら、−20℃と60℃の間の温度で、好ましくは0℃と10℃の間の温度で、5分間〜100時間(好ましくは反応の進行が終了するまで)実施することが好ましい。
なお、反応の進行はSDS−PAGE、ゲル濾過高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析などにより確認できる。
(iii)得られた混合物を精製し水溶性ポリマーで修飾されたポリペプチドを単離する工程
上記(ii)で得られた反応混合物を、通常ペプチド化学で用いられるよく知られた手法を用い精製することにより、該混合物中に存在する水溶性ポリマーで修飾されたポリペプチドを単離することができる。通常ペプチド化学で用いられるよく知られた手法としては、例えば、上記(ii)で得られた反応混合物をCM−sepharose F.Fカラムなど各種クロマトグラフィーに通塔する方法などがあげられる。
【0020】
本発明において、調製された水溶性ポリマーで修飾されたポリペプチドは医薬品などとしての使用が可能である。
医薬品として使用する場合は、水溶性ポリマーで修飾されたポリペプチドをそのまま単独で投与することも可能であるが、通常各種の医薬製剤として提供するのが望ましい。また、それら医薬製剤は、動物または人に使用されるものである。
【0021】
本発明に係わる医薬製剤は、活性成分として水溶性ポリマーで修飾されたポリペプチドを単独で、または任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬学的に許容される一種またはそれ以上の担体(例えば、希釈剤、溶剤、賦形剤など)、および必要により例えばトリス−HCl、酢酸、リン酸のような緩衝成分、pHおよびイオン強度の希釈剤、洗剤、例えばTween80、ポリソルベート80のような可溶化剤、例えばアスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウムのような抗酸化剤、例えばチメルソール、ベンジルアルコールのような保存料、増量剤などと一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0022】
投与経路としては、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば静脈内などの非経口をあげることができる。
投与形態としては、例えば錠剤、注射剤などがあげられる。
経口投与に適当な、例えば錠剤などは、乳糖などの賦形剤、澱粉などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロースなどの結合剤などを用いて製造できる。
【0023】
非経口投与に適当な、例えば注射剤などは、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合液などの希釈剤または溶剤などを用いて製造できる。
以下の実施例は本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0024】
rhG−CSF誘導体のN末端選択的PEG化
参考例1で調整したrhG−CSF誘導体を、100mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.0)で1.0mg/mLの濃度に調製し、これにrhG−CSF誘導体1モル当たり5モルのメトキシポリエチレングリコールアルデヒド(日本油脂製,SUNBRIGHT ME−200AL,平均分子量 20kDa)を加え、溶解した。次に、1.0mol/Lに調製した2−ピコリンボランのDMF溶液を、上記で調整した溶液に、2−ピコリンボランの濃度が20mMになるよう添加し、4℃で20時間反応させた。
【0025】
反応終了後、SDS−PAGEおよびゲルろ過HPLC分析を行ったところ、rhG−CSF誘導体の88.7%がMono−PEG−rhG−CSF誘導体に変換されていることがわかった。
得られた反応混合物を濃縮フィルターデバイス(アミコンウルトラ−15、10,000 MWCO、ミリポア社製)を用いて、20mmol/L酢酸緩衝液(pH4.5)に緩衝液交換し、精製前の反応液を回収した。
【0026】
これをSP−sepharose F.Fカラム(Amersham−Pharmacia Biotech製)に通塔し、カラムサイズの約5倍量の20mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で洗浄し、500mmol/Lの塩化ナトリウムを含む同緩衝液を0〜100%の直線300分勾配で目的物を溶出し、PEG化されたrhG−CSF誘導体を含む画分を分取した。分取した画分を濃縮フィルターデバイス(アミコンウルトラ−15、10,000 MWCO、ミリポア社製)を用いて濃縮および50mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)に緩衝液交換し、1.8mg/mLのMono−PEG−rhG−CSF誘導体溶液を得た。
【0027】
次に得られたMono−PEG−rhG−CSF誘導体の分析試験を実施した。
(1)下記の条件で電気泳動試験を実施した。分子量約40,000の誘導体のみが得られたことを確認した。
(2)下記の条件でゲルろ過HPLC分析を実施した。11.52分のピークのみが得られ、未反応のrhG−CSFがないことを確認した。
(3)下記の条件でマトリックスアシステッドレーザーデソープション質量分析を実施した。分子量は39,968.0であった。rhG−CSF誘導体にPEG鎖が1本だけ導入されていることがわかった。
(4)下記の条件で末端のポリペプチドシーケンシングを実施した。1残基目のメチオニンは確認できず、2残基目のアラニンから確認できた。N末端が選択的に修飾されていることがわかった。
【0028】
以上(1)〜(4)の分析結果から、PEG鎖がN末端に1本だけ導入されたことが証明できた。
<電気泳動>
2−メルカプトエタノールの存在下、以下の条件でSDS−PAGEを行った。
ゲル:PAGEL SPG 520L(アトー社製)
染色:RAPID STAINTM (ナカライテスク社製)
分子量マーカー:Low Molecular Weight Standard(バイオラッド社製)
<ゲルろ過HPLC分析>
以下の分析条件でゲルろ過HPLC分析を実施した。
移動相:150mM 塩化ナトリウム、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)
流量:0.7mL/分
検出:UV280nm
分離カラム:TSK gel G−3000SWXL (7.8×300mm)(東ソー社製)
<分子量測定>
マトリックスアシステッドレーザーデソープション質量分析(MALDI TOF MASS)によって求めた。
<N末端のPEG鎖導入確認>
調製したMono−PEG−rhG−CSF結合体の構造は、N末端のポリペプチドシーケンシングによって確認した。
【実施例2】
【0029】
rhIFN−βのN末端選択的PEG化
参考例2で調整したrhIFN−βを60% エチレングリコールおよび1mol/L 塩化ナトリウムを含む20mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.0)で1.1mg/mLの濃度に調整し、これに、rhIFN−β1モルあたり10モルのメトキシポリエチレングリコールアルデヒド(日本油脂製,SUNBRIGHT ME−200AL,平均分子量 20kDa)を加え、溶解した。
【0030】
次に、1.0mol/Lに調製した2−ピコリンボランのDMF溶液を、上記で調整した溶液に、2−ピコリンボラン濃度が20mmol/Lになるよう添加し、4℃で72時間反応させた。
反応終了後、SDS−PAGEによる分析を行ったところ、Mono−PEG−rhIFN−βが選択的に生成していることが分かった。
【0031】
得られた反応混合物をSephadexG−25 Mediumを含むNAP−5カラム(アマシャムバイオサイエンス製)を用いて、20%エチレングリコールを含む50mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.0)に緩衝液交換し、精製前の反応液を回収した。
これをCM−sepharose F.Fカラム(Amersham−Pharmacia Biotech製)に通塔し、カラムサイズの約4倍量の20%エチレングリコールを含む50mmol/Lリン酸緩衝液(pH4.5)で洗浄し、120mmol/L〜300mmol/Lの塩化ナトリウムを含む同緩衝液を段階的に通塔させ目的画分を溶出し、PEG化されたrhIFN−βを含む画分を分取した。分取した画分を濃縮フィルターデバイス(アミコンウルトラ−15、10,000 MWCO、ミリポア社製)を用いて濃縮し、0.4mg/mLのMono−PEG−rhIFN−β誘導体溶液を得た。
【0032】
次に得られたMono−PEG−rhIFN−β誘導体の分析試験を実施した。
(1)下記の条件で電気泳動を実施した。分子量約40,000の誘導体のみが得られたことを確認した。
(2)下記の条件でペプチドマップを実施した。N末端選択的に修飾されていることを確認した。
【0033】
以上の分析結果から、PEG鎖がN末端に1本だけ導入されたことが証明できた。
<電気泳動>
2−メルカプトエタノールの存在下、以下の条件でSDS−PAGEを行った。
ゲル:PAGEL SPG 520L(アトー社製)
染色:RAPID STAINTM (ナカライテスク社製)
分子量マーカー:Low Molecular Weight Standard(バイオラッド社製)
<ペプチドマップ>
rhIFN−βのペプチドマップは「ジャーナル オブ ファーマコロジー アンド エクスペリメンタル セラピューティクス(Journal of Pharmacology & Experimental Therapeutics.)」、297(3)巻、1059頁、2001年、記載の方法に従い実施した。未修飾のrhIFN−βと取得したMono−PEG−rhIFN-βのHPLCデータを比較することで、PEG鎖の導入位置を特定した。
(参考例1) rhG−CSF誘導体の調製
配列番号1に示したアミノ酸配列を有するhG−GCSFの2番目のスレオニンをアラニンに、3番目のロイシンをスレオニンに、4番目のグリシンをチロシンに、5番目のプロリンをアルギニンに、および17番目のシステインをセリンにそれぞれ置換したrhG−CSF誘導体を、特公平7−96558に記載の方法により取得した。
【0034】
上記のrhG−CSF誘導体をコードするDNAを含むプラスミドpCfBD28を保有する大腸菌W3110strA株(Escherichia coli ECfBD28 FERM BP−1479)をLG培地[バクトトリプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム5g、およびグルコース1gを水1Lに溶かし、水酸化ナトリウムでpHを7.0とする]で37℃、18時間培養し、この培養液5mLを25μg/mLのトリプトファンと50μg/mLのアンピシリンを含むMCG培地(NaHPO 0.6%、KHPO 0.3%、塩化ナトリウム 0.5%、サガミノ酸 0.5%、MgSO 1mmol/L、ビタミンB1 4μg/mL、pH7.2)100mLに接種し、30℃で4〜8時間培養後、トリプトファンの誘導物質である3β−インドールアクリル酸(3β−indoleacrylic acid、以下IAAと略す)を10μg/mL加え、さらに2〜12時間培養を続けた。培養液を8,000rpmで、10分間遠心して集菌し、30mmol/L塩化ナトリウム水溶液、および30mmol/Lトリス・塩酸緩衝液(pH7.5)で洗浄した。洗浄菌体を上記緩衝液30mLに懸濁し、0℃で10分間超音波破砕(BRANSON SONIC POWER COMPANY社、SONIFIER CELL DISRUPTOR 200、OUTPUT CONTROL 2)した。該超音波破砕物を9,000rpmで30分間遠心分離して菌体残渣を得た。
【0035】
菌体残渣からマーストンらの方法[バイオ・テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY)、第2巻、800頁(1984年)]に準じ、rhG−CSF誘導体を抽出・精製・可溶化・再生した。
(参考例2) rhIFN−βの製造
rhIFN−βは、水上ら[Biotechnology Letter、第8巻、605頁(1986年)]および久我ら[現代化学増刊12:医学における遺伝子工学、135頁(1986年)、東京化学同人]の方法に従って製造した。
【0036】
rhIFN−βをコードするDNAを含むプラスミドpMG−1を保有する大腸菌K−12株をLGTrpAp培地(バクトトリプシン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、グルコース1g/L、L−トリプトファン50mg/L、アンピシリン50μg/L)でシード培養した。rhIFN−βの生産には2Lジャー発酵槽でMCGAp培地(M9培地にカザミノ酸0.5%、アンピシリン50μg/mLを添加)を用い、グルコース濃度を1%に、pHを6.5に維持して数日間20℃で培養した。なお、培養液は750rpmで振とうし、毎分1Lでエアレーションした。培養液から凍結融解法[DNA、2巻、265頁(1983年)]で抽出液を調製した。さらに菌体残渣から特開61−69799に開示された方法に従ってrhIFN−βを得た。
【配列表フリーテキスト】
【0037】
配列番号1−人工配列の説明:変異蛋白質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを、2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤の存在下反応させる工程を含む水溶性ポリマー修飾ポリペプチドの製造方法。
【請求項2】
アルデヒド基を有する水溶性ポリマーの水溶性ポリマー部分が、デキストラン、ポリ(N−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリビニルアルコールからなる群から選択されるポリマーである請求項1記載の方法。
【請求項3】
水溶性ポリマーがポリエチレングリコール類である請求項1記載の方法。
【請求項4】
2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤をアルデヒド基を有する水溶性ポリマーとポリペプチドを含む混合物に添加し、反応させる工程を含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
還元剤が有機溶媒に溶解した2−ピコリンボランおよび3−ピコリンボランからなる群から選択される還元剤である請求項4記載の方法。
【請求項6】
ポリペプチドが生理活性ポリペプチドである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ポリペプチドが、組換え型ヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG−CSF)誘導体または組換え型ヒトインターフェロン−β(rhIFN−β)である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2008−156283(P2008−156283A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347183(P2006−347183)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】