説明

水溶性又は不水溶性の治療剤の身体管腔表面への局所的送達

不水溶性の治療剤を正常な身体管腔又は罹患している身体管腔の組織へ局所的に送達するための方法及び装置が開示されている。バルーンカテーテルのバルーンの様な医療用使い捨て装置の展開式構造物を、ヨウ素と複合化されていて実質的に不水溶性の治療剤を分散させている非耐久性のコーティングでコーティングする。医療用使い捨て装置を身体管腔の中へ挿入して展開させ、非耐久性コーティングを身体管腔に当てて接触させ、実質的に不水溶性治療剤を身体管腔組織へ送達させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2010年2月24日に出願されている係属中の米国特許出願第12/712,134号に関連しており、同特許出願を参考文献として援用し、これによりその優先権の恩典を主張する。
【0002】
本発明の実施形態は、医学的治療剤の送達の分野に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、水溶性又は不水溶性治療剤を正常な身体管腔表面又は罹患している身体管腔表面へ局所的に送達するために使用される方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
顕著な罹病率及び死亡率と関係のある散在性、遺伝性、環境性、及び医原性の疾患は、内皮細胞に裏打ちされている身体管腔や上皮細胞に裏打ちされている身体管腔の壁に発症する。例えば、アテローム性動脈硬化症及び処置後再狭窄が動脈壁に発症する。腺癌、食道静脈瘤、及び胆管癌が、消化管壁に発症する。これらの疾患に対する全身的薬物療法の効能は、罹患組織への不適切な薬物送達及び/又は非罹患組織の中毒作用を抑える用量のせいで制限される場合がある。薬物を身体管腔壁の罹患組織へ局所的に送達することにより、これらの制限を克服することができ、即ち、薬物の治療濃度を全身的な中毒性無しに実現させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第12/712,134号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.V.M. Weaver et al. (Macromolecules 2004, 37, 2395-2403)
【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、身体管腔表面への局所的治療剤送達に使用することのできるバルーンカテーテルのバルーンの様な医療用の使い捨て装置の展開式構造物をコーティングするための新奇性のある手法を開示している。本手法は、治療剤(例えばパクリタキセル)を高レベルで含んだコーティングを形成できるようにしており、単純で再現性のある、ひいては簡単に製造できる応用プロセスを使用して、バルーン表面に亘って均一な治療剤濃度を提供するコーティングの形成を可能にするように設計された独自の化学的配合を利用している。この新奇性のあるコーティングプロセスは、身体管腔壁に発生する様々な疾患を治療するべく水溶性治療剤又は不水溶性治療剤の均一用量を局所的に送達するのに使用することができる。加えて、新奇性のあるコーティング手法は、処置の治療効果を高めるべく相異なる治療標的を狙って治療剤を組み合わせる(例えばパクリタキセルとデキサメタゾンアセテート)という療法レベルに対応することができる。
【0007】
或る実施形態では、脈管構造の環状動脈又は末梢動脈の何れかに有用な血管形成術用バルーンの様な外表面を有する展開式構造物に対し、当該展開式構造物の外表面に両親媒性ポリマーコーティングを形成することを目的に、コーティング溶液が単回浸漬コーティングされる。コーティング溶液は、その大部分を占めるか排他的に含まれている非水溶媒中の両親媒性ポリマー又はコポリマーと、治療剤又は治療剤の組合せ(例えば、パクリタキセルとデキサメタゾンアセテート)と、随意的な可塑剤及び/又はワックスと、を含有するものであってもよい。或る実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーはヨウ素と複合化されており、ヨウ素は両親媒性のポリマー又はコポリマーに共有結合しているわけではない。コーティング溶液は、更に、複数の両親媒性ポリマー又はコポリマーを含んでいてもよい。コーティング後、バルーンは乾燥され、送達に向けて折り畳まれる。
【0008】
コーティングされた医療用使い捨て装置は療法施術に使用することができるであろう。或る実施形態では、コーティングされた医療用使い捨て装置を身体管腔の中へ挿入し展開させ、非耐久性の両親媒性ポリマーコーティングを身体管腔に当てて接触させる。コーティングが生体内で血液の様な水性の流体に曝されると直ちに水和が起こり、非耐久性の両親媒性ポリマーコーティングを溶解させ、治療剤を身体管腔の組織の中へ放出させる。或る実施形態では、血液中に両親媒性ポリマー又はコポリマーの相当量又は全量が溶けるおかげで、両親媒性ポリマーコーティングに付きまとう塞栓性の有害事象を回避することができ、療法施術中にコーティングを医療用使い捨て装置から急速且つ均一に離脱させることができる。故に、両親媒性ポリマーコーティングは、体液により離脱し得るという意味では生物浸食性であり、非耐久性である。或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングの体積で少なくとも50%が、生体内膨張から180秒以内に装置から離脱する。或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングの少なくとも90%が、生体内膨張から300秒以内、より好適には生体内膨張から180秒又は90秒以内に、装置から離脱する。更に、両親媒性ポリマーコーティングのこの活発な溶解は、パクリタキセルの様な疎水性で実質的に不水溶性の治療剤の、装置(例えばバルーン)から組織への移動を支援することができるであろう。
【0009】
本発明の実施形態によれば、両親媒性ポリマー又はコポリマーはヨウ素と複合化されていてもよい。ヨウ素複合化は、パクリタキセル、ラパマイシン、及びエベロリムスの様な不水溶性治療剤の、水溶液条件での溶解度を高めることが実証されている。これは、ヨウ素複合化が、その上、生体内での不水溶性治療剤の組織摂取を支援することができることを示唆している。或る実施形態では、乾燥させた両親媒性ポリマーコーティングは、ヨウ素と複合化された少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーを備えるポリマーマトリックス中に分散させた治療剤と随意的な可塑剤及び/又はワックスを含んでいる。
【0010】
両親媒性ポリマー又はコポリマーは、完全な両親媒性であってもよいし、不完全な両親媒性であってもよい。或る実施形態では、コーティングの連続集成ポリマーマトリックスは、水溶媒中にはカテーテルアッセンブリの展開式構造物の外表面から均一に溶解、離脱でき、非水溶媒中には少なくとも不完全ながら溶解できる。水溶媒中に相当又は完全に溶解できるということは、血液中に全量が溶けるなら両親媒性ポリマーコーティングに付きまとう塞栓性の有害事象を回避できることから有利である。非水溶媒中に少なくとも不完全ながら可溶性を有していることは、両親媒性ポリマー又はコポリマーと不水溶性治療剤を同じ溶液中に溶解させるコーティングプロセスで有利である。
【0011】
或る実施形態では、乾燥させた両親媒性ポリマーコーティングは、ヨウ素と複合化された少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーと、ヨウ素と複合化されていない少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーを備えている。或る実施形態では、乾燥させたコーティング中の両親媒性ポリマー又はコポリマーの全量の25−100wt%がヨウ素と複合化されている。例えば、乾燥させたコーティングは、ヨウ素と複合化されていない両親媒性ポリマーを0−75wt%と、25−100wt%のヨウ化PVPと、を両親媒性ポリマー成分として含んでいてもよい。
【0012】
或る実施形態では、バルーン上に存在する乾燥させたコーティングは、1−30%のヨウ素対ヨウ素複合化可能両親媒性ポリマー及び/又はコポリマー重量比(I/P)と、25−100%からの治療剤(薬物)対ポリマーマトリックス重量比(D/P)と、大凡0.1−10.0μg/mm2の薬物濃度を有している。或る実施形態では、乾燥させたコーティングをカテーテルバルーン上に存在させており、薬物はパクリタキセルであり、両親媒性ポリマーはPVPである。乾燥させたコーティングは、1−30%のヨウ素対PVP重量比(I/P)と、25−100%からのパクリタキセル対ポリマーマトリックス重量比(D/P)と、大凡0.1−5.0μg/mm2のパクリタキセル濃度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】バルーンカテーテルの側面図であり、バルーンは展開した位置にある。
【図1B】コーティング溶液に浸漬されているバルーンカテーテルの等角図であり、バルーンは、展開した位置にある。
【図1C】コーティングされたバルーン表面を有するバルーンカテーテルの側面図である。
【図2A】後退させることのできるシースに覆われて身体管腔の中へ挿入されるバルーンカテーテルの未展開バルーンの外表面に配置されている両親媒性ポリマーコーティングの側面図である。
【図2B】身体管腔内の局所的に治療剤が送達される焦点区域に隣接するバルーンカテーテルの未展開バルーンの外表面に配置されている両親媒性ポリマーコーティングの側面図である。
【図2C】バルーンカテーテルの展開後のバルーンの外表面に配置されている両親媒性ポリマーコーティングと身体管腔内の局所的に治療剤が送達される焦点区域との界面の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、水溶性又は不水溶性の治療剤を正常な身体管腔表面又は罹患している身体管腔表面へ局所的に送達するために使用される方法及び装置を開示している。
【0015】
ここに記載されている様々な実施形態は、図を参照しながら説明されている。しかしながら、一部の特定の実施形態は、これらの固有の詳細事項の1つ又はそれ以上がなくても実践することができるであろうし、或いは他の既知の方法及び構成と組み合わせて実践することもできるであろう。次に続く説明では、本発明が完全に理解されるようにするために、固有の構成、組成、及びプロセス、など、の様な多数の固有の詳細事項が示されている。本発明を不必要に曖昧にしないために、場合によっては、周知のプロセス及び製造技法は取り立てて細かに記述されていない。本明細書全体を通して「1つの実施形態」又は「或る実施形態」という言い方は、当該実施形態に関連付けて説明されている特定の特徴、構成、組成、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味する。従って、本明細書全体を通して様々な箇所で「1つの実施形態では」又は「或る実施形態」という語句が出てきても、それらが必ずしも本発明の同じ実施形態を指しているとは限らない。更に、特定の特徴、構成、組成、又は特性は、何らかの適したやり方で、1つ又はそれ以上の実施形態の中で組み合わせることもできるであろう。
【0016】
1つの態様では、本発明の実施形態は、両親媒性ポリマーコーティングが展開式構造物の外表面に配置されている医療用使い捨て装置を開示している。両親媒性ポリマーコーティングは、少なくとも1つの治療剤と、少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーを含んでいる。両親媒性ポリマーコーティングは、随意的に、可塑剤及び/又はワックスの様な添加成分を含んでいてもよい。治療剤は、水溶性であってもよいし、不水溶性であってもよい。両親媒性ポリマーコーティングが生体内で血液の様な水性の流体に曝されると直ちに水和が起こり、両親媒性ポリマーコーティングを溶解させ、治療剤を身体管腔の組織の中へ放出させる。故に、両親媒性ポリマーコーティングは、体液により離脱し得るという意味では生物浸食性であり、非耐久性である。或る実施形態では、血液中に両親媒性ポリマー又はコポリマーの相当量又は全量が溶けるおかげで、両親媒性ポリマーコーティングに付きまとう塞栓性の有害事象を回避することができ、療法施術中にコーティングを医療用使い捨て装置から急速且つ均一に離脱させることができる。
【0017】
或る実施形態では、医療用使い捨て装置は、治療剤を分散させた両親媒性ポリマーコーティングを有する展開式バルーンを備えたカテーテルである。カテーテルを体内で前進させてバルーンを標的組織と整列させ、バルーンを2−20気圧に展開させて両親媒性ポリマーコーティングを標的組織と接触させ、両親媒性ポリマーコーティングを溶解させて治療剤ペイロードを生体内の標的組織へ急速に放出させるようにしているが、それは装置を大凡5乃至300秒という短時間しか標的組織に接触させないからである。装置は、短期間しか使用されずその後身体から抜去されることになるので、「植込み式」ではなく「医療用使い捨て」の装置であると見なされる。
【0018】
ここに使用されている両親媒性という用語は、限定するわけではないが生体内の血液の様な水溶媒中に少なくとも不完全ながら溶解でき、なお且つ限定するわけではないがエタノール、メタノール、及び/又はイソプロパノールの様な非水溶媒中に少なくとも不完全ながら溶解できることを意味している。従って、本発明の実施形態による「両親媒性ポリマーコーティング」及び「両親媒性ポリマー又はコポリマー」は、水溶媒と非水溶媒の両溶媒中に少なくとも不完全ながら溶解できる。
【0019】
一部の実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーは、完全な両親媒性であり、つまりは水溶媒と非水溶媒の両溶媒中に完全に溶解できることを意味する。水溶媒中に完全に溶解できるということは、血液中に全量が溶けるなら両親媒性ポリマーコーティングに付きまとう塞栓性の有害事象を回避でき、療法施術中にコーティングを医療用使い捨て装置から急速且つ均一に離脱させることができることから有利である。非水溶媒中に完全に溶解できることは、展開式構造物を、両親媒性ポリマー又はコポリマーと不水溶性治療剤を溶解させた非水コーティング溶液の中へ浸漬コーティングするコーティングプロセスでは有利である。
【0020】
一部の実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーは、完全な両親媒性ではない。例えば、両親媒性ポリマー又はコポリマーは、両親媒性ポリマーコーティングに付きまとう塞栓性の有害事象を回避し、療法施術中にコーティングを医療用使い捨て装置から急速且つ均一に離脱させることができるようにするために、水溶媒中に相当量の又は全量の可溶性を示すものであってもよい。更に、両親媒性ポリマー又はコポリマーは、非水溶媒中に不完全な可溶性しか示さないものであってもよい。場合によっては、両親媒性ポリマー又はコポリマーを溶解させるために、コーティング溶液に水が添加されていてもよい。例えば、両親媒性ポリマー又はコポリマーと不水溶性治療剤を水溶媒と非水溶媒の混合溶媒中に溶解させたコーティング溶液を調製してもよい。或る実施形態では、コーティング溶液は、大部分を非水溶媒が占めている。或る実施形態では、コーティング溶液は、非水溶媒を100%乃至80%及び水溶媒を0%乃至20%の範囲の比で含んでいる。
【0021】
或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングには、必ずしも水溶媒と非水溶媒の両溶媒中に溶解できるわけではない添加成分が含まれているが、それでもなお、両親媒性ポリマーコーティングの集成ポリマーマトリックスは、水溶媒及び非水溶媒の両溶媒中に少なくとも不完全ながら溶解できる。例えば、本発明の実施形態は、水溶性治療剤及び/又は不水溶性治療剤に加え不水溶性ワックス又は他の成分を両親媒性ポリマーコーティングの集成ポリマーマトリックス中に相互分散させて利用していてもよい。或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングのポリマーマトリックスには、疎水性ポリマー又はコポリマーを少ない重量パーセント比で含むことができる。微量の疎水性ポリマー又はコポリマーを添加すると、生体内でのコーティングの急速且つ均一な溶解は可能なままに、コーティングの生体内での寿命を延ばす或いは治療剤の放出速度を僅かに遅らせることができる。
【0022】
或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングは、実質的に不水溶性の成分を、水溶媒中には相当又は完全に溶解できるが非水溶媒中には完全には溶解できない両親媒性ポリマー又はコポリマー内に分散させて含んでいてもよい。その様な或る実施形態では、コーティングの連続集成ポリマーマトリックスは、(ウシ血清又は生体内血液の様な)水溶媒中に基質から均一に溶解、離脱でき、なお且つ非水溶媒中にも基質から少なくとも不完全ながら溶解、離脱できる。
【0023】
或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングは、実質的に不水溶性の成分を、水溶媒と非水溶媒の両溶媒中に完全に溶解できる両親媒性ポリマー又はコポリマー内に分散させて含んでいてもよい。その様な或る実施形態では、コーティングの連続集成ポリマーマトリックスは、(ウシ血清又は生体内の血液の様な)水溶媒と非水溶媒の両溶媒中に基質から均一に溶解、離脱できる。両親媒性ポリマーコーティングの特定の溶解速度は、両親媒性の(単数又は複数の)ポリマー及び/又は(単数又は複数の)コポリマーの特定の溶解速度と、コーティング中の可塑剤、ワックス、疎水性ポリマー又はコポリマー、など、の様な何らかの添加成分の含有と、に依って決まる。或る実施形態では、コーティングを体液に短時間しか曝露させないタッチアンドゴー処置で利用するために、水溶液中に十分に高い溶解速度を有する両親媒性ポリマー又はコポリマーが選択されている。或る実施形態では、非水コーティング溶液中に、又は実質的に不水溶性治療剤も溶かされている水/非水コーティング溶液中に、溶解させることのできる両親媒性ポリマー又はコポリマーが選択されている。
【0024】
両親媒性ポリマー又はコポリマー
1つの態様では、本発明の実施形態は、1つ又はそれ以上の両親媒性ポリマー又はコポリマーを含む両親媒性ポリマーコーティングを開示している。或る実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーは、非イオン性の熱可塑性ポリマー又はコポリマーである。或る実施形態では、両親媒性ポリマーは、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はN‐ビニルピロリドンと、スチレン、アクリル酸、ビニルアセテート、又はビニルカプロラクタムの様な他の反応性二重結合含有モノマーとのコポリマーである。PVP及びHPCは、水溶媒中に、PEGよりも高い溶解速度を示す。ポリマーの分子量も溶解速度に影響を与える因子となり得る。或る実施形態では、PEGは、分子量として1.5KD乃至50KDを有している。
【0025】
両親媒性ポリマーは、ポリ(HEMA)としても知られているポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)であってもよい。或る実施形態では、ポリ(HEMA)は、大凡8KDより下の数平均分子量Mnを有している。或る実施形態では、ポリ(HEMA)は、大凡7KDの数平均分子量Mnを有している。或る実施形態では、両親媒性ポリマーは、HEMAと、限定するわけではないがグリシジルメタクリレート(GMA)又はアクリル酸の様なモノマーとのコポリマーであってもよい。コポリマーは、ブロックであってもよいし、ランダムであってもよい。
【0026】
本発明の実施形態によるHEMAモノマーは、水及び低級アルコール中に不完全又は完全に可溶であるが、ポリマーが遊離ラジカル重合又はアニオン重合の様な従来の合成法によって作製されている場合、その様なポリマーは水中に膨潤はしても不溶である。この性質は、目の中で水に触れて膨潤し軟化するが溶解しないソフトコンタクトレンズには有用であるが、疎水性治療剤を組織の中へ急速に放出させるためのコーティングでは急速放出を実現するためにポリマーの溶解と浸食が所望されていることから、その様なコーティングとしては適していない。
【0027】
代わりの合成法が、J.V.M. Weaver et al. (Macromolecules 2004, 37, 2395-2403) によって記述されており、そこでは、ポリ(HEMA)は、モルホリンを主成分とする開始剤(ME‐Brと呼称)を使用する原子移動ラジカル重合(ATRP)により合成されている。著者は、開示されている合成法を使用した場合、得られるポリ(HEMA)は水中の溶解度について分子量に基づく応答を有し、数平均分子量Mnが大凡8KDより下のポリマーは水溶性を有していると結論付けた。Mnが10KDと14KDの間のものは、くもり点が重合の度合いにつれて増加する逆温度可溶性を呈し、大凡15KDより上のものは何れの温度でも水中に不溶であった。
【0028】
本発明の一部の実施形態によれば、J.V.M. Weaverらによって使用された手順の修正が開示されており、それらは実施例10及び11に記載されている。その様な実施形態では、10KD及び7KDの合成ポリ(HEMA)は、J.V.M. Weaverらによって開示されているものと同様の可溶性を示すことが分かった。10Kのポリ(HEMA)は不水溶性であることが分かったのに対し、7KDのポリ(HEMA)は水溶性であることが分かった。或る実施形態では、7KDのポリ(HEMA)は、両親媒性ポリマーとしの使用に適している。
【0029】
或る実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーはヨウ素と複合化されており、ヨウ素は両親媒性ポリマー又はコポリマーと共有結合しているわけではない。例えば、PVP、PEG、HPC、及びポリ(HEMA)は、ヨウ素と複合化されていてもよく、他の適したポリマーである、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びN‐ビニルピロリドンと、スチレン、アクリル酸、ビニルアセテート、又はビニルカプロラクタムの様な他の反応性二重結合含有モノマーとのコポリマーなど、をヨウ素と複合化することも想定される。或る実施形態では、ヨウ素と複合化されたポリ(HEMA)は、数平均分子量Mnが大凡8KDより下、例えば7KDである。或る実施形態では、ヨウ素と複合化されたPEGは、分子量として1.5KD乃至50KDを有している。ヨウ素と複合化されたPVPは、ポビドンヨードとしても知られている。意外にも、表I及び表IIの結果により示唆されている様に、非イオン性の両親媒性ポリマーとヨウ素との複合化は、パクリタキセル、ラパマイシン、及びエベロリムスの様な不水溶性治療剤の生体内での溶解度を高めることができ、ひいては不水溶性治療剤の組織摂取を支援することになる。これにより、医療処置の時間要件や、展開式構造物の持続膨張によって引き起こされる機械的圧力の量及び/又は新陳代謝不足が軽減される。或る実施形態では、コーティング中のヨウ素複合化可能両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーと複合化されるヨウ素の量は、乾燥ヨウ素複合化可能両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーの重量の1乃至30重量%である。
【0030】
或る実施形態では、乾燥させたコーティングは、ヨウ素と複合化された少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーと、ヨウ素と複合化されていない少なくとも1つの両親媒性ポリマー又はコポリマーと、を備えている。或る実施形態では、乾燥させたコーティング中の両親媒性ポリマー又はコポリマーの全量の25−100wt%がヨウ素と複合化されている。例えば、ポリマーマトリックス中の両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーの全量の25−100wt%が、ポビドンヨードであってもよい。
【0031】
ヨウ素との複合化は追加の機能を供することにもなる。複合化は、両親媒性ポリマーコーティングに琥珀色の色相を付与し、身体の外からの視覚化及びコーティングプロセスに係る視覚化に役立つ。更に、ヨウ素は、大きな核半径を有しているので、蛍光透視下の放射線不透過性を提供することになり、即ち展開式構造が蛍光下に視認できるようになり、また両親媒性ポリマーコーティングの溶解を時間の関数として監視することができるようになる。
【0032】
或る実施形態では、両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーは、イオン性の熱可塑性コポリマー又はコポリマーである。例えば、両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーは、ポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノブチルエステル)(ニュージャージー州ウェーンのInternational Specialty Products (ISP)社から商標Grantrez ES-425の下に市販)、又はポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノエチルエステル)(ニュージャージー州ウェーンのInternational Specialty Products (ISP)社から商標Grantrez ES-225の下に市販)とすることができる。
【0033】
或る実施形態では、両親媒性の(単数又は複数の)ポリマー又は(単数又は複数の)コポリマーは、完全な両親媒性である。HPC(非ヨウ化)、ヨウ化HPC、PVP(非ヨウ化)、ヨウ化PVP(ポビドンヨード)、PEG(非ヨウ化)、ヨウ化PEG、Mnが大凡8KDより下のポリ(HEMA)(非ヨウ化)、Mnが大凡8KDより下のヨウ化ポリ(HEMA)、ポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノエチルエステル)は、水を一切使用していない低級アルコール中に溶けることができ、低表面張力と急速蒸発をもたらす。ここに使用されている「低級アルコール」という用語は、炭素原子が4又はそれより少ないアルコールを意味する。それらは、水中に溶け易く、生体内での急速溶解をもたらす。或る実施形態では、これは、治療剤移動が膨張から90乃至300秒以内に起こることが望ましいとされるときに好都合である。上記両親媒性ポリマー又はコポリマーが、単独であれ組合せとしてであれ、十分なエタノール中に溶解しているとき、それらはアセトンとも混和し易い。このことは、治療剤がパクリタキセルを含んでいる或る実施形態では、パクリタキセルが、低級アルコール(例えば、エタノール、2‐プロパノール、n‐ブタノール)と温かいアセトンの混合液中に非常に溶け易くなるため好都合であり、溶媒の組合せが高い薬物積載量を可能にする。
【0034】
別の実施形態では、両親媒性の(単数又は複数の)ポリマー又は(単数又は複数の)コポリマーは、完全な両親媒性でなくてもよい。例えば、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースは、非水溶媒中には完全に可溶ではないが、大凡10%の水と90%の非水溶媒を含有する溶液中にはある程度可溶である。更に、N‐ビニルピロリドンと、スチレン、アクリル酸、ビニルアセテート、又はビニルカプロラクタムの様な他の反応性二重結合含有モノマーとの他の適したコポリマーは、非水溶媒中には完全に可溶ではないが、非水溶媒を100%乃至80%及び水溶媒を0%乃至20%の範囲の比で含んでいる溶液中には可溶であると期待される。
【0035】
或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングは、随意的に、ポリマーマトリックス中に可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤は、延性を高め、コーティングを乾燥状態で曲げたり折り畳む際にコーティングがひび割れたり剥離されたりするのを防ぐのに特に有用である。適切な可塑剤には、限定するわけではないが、プロピレングリコール、トリエチルシトレート、グリセロール、及びジブチルセバケートが含まれる。或る実施形態では、両親媒性ポリマーは、PVP(ヨウ化又は非ヨウ化)を主成分とし、可塑剤はPVPの30重量%乃至85重量%で含まれている。或る実施形態では、両親媒性ポリマーは、HPC(ヨウ化又は非ヨウ化)を主成分とし、可塑剤は、HPCの5重量%乃至15重量%で含まれている。或る実施形態では、更に、可塑剤は、少なくとも不完全ながら両親媒性を有するポリマーであってもよい。例えば、分子量が10Kダルトンより下のPEGは適した可塑剤である。或る実施形態では、可塑剤は、PEG400である。
【0036】
或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングは、随意的に、ポリマーマトリックス中にワックスを含んでいてもよい。ワックス様の表面は、身体管腔面との関係及び/又は両親媒性ポリマーコーティングを覆う随意的な保護シースとの関係における両親媒性ポリマーコーティングの滑走性を支援する。適したワックスには、限定するわけではないが、蜜蝋、カルナウバ蝋、ポリプロピレングリコール、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、及びPDMS誘導体が含まれる。
【0037】
或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングは、随意的に、生体内でのコーティングの急速且つ均一な溶解は可能なままに、コーティングの生体内での寿命を僅かに延ばす或いは治療剤の放出速度を僅かに遅らせるために、微量の疎水性ポリマー又はコポリマーをポリマーマトリックス中に含んでいてもよい。
【0038】
或る実施形態では、コーティングの連続集成ポリマーマトリックスは、水溶媒中に展開式構造物の外表面から均一に溶解、離脱でき、非水溶媒中には少なくとも不完全ながら溶解できる。その様なコーティングは、治療剤移動が例えば90乃至300秒以内に起こるタッチアンドゴー処置での適用に適しているであろう。或る実施形態では、コーティングは、37℃のウシ血清に浸軟させてから300秒以内、より好適には90秒以内に、コーティングの90体積%が離脱する程度にウシ血清中に溶解できる。例えば、その様な溶解は、ヨウ化又は非ヨウ化PVP又はHPCを利用した場合に達成することができる。或る実施形態では、コーティングは、37℃のウシ血清に浸軟させてから後180秒以内に、コーティングの50体積%が離脱する程度にウシ血清中に溶解できる。例えば、その様な実施形態は、ヨウ化又は非ヨウ化PVP、HPC、又はPEG(MW1.5KD乃至50KD)を利用した場合に達成することができる。或る実施形態では、コーティングは、37℃のウシ血清に浸軟させてから180秒以内に、コーティングの90体積%が離脱する程度にウシ血清中に溶解できる。例えば、その様な実施形態は、ヨウ化又は非ヨウ化ポリ(HEMA)Mn7KDを利用した場合に達成することができる。他のヨウ化又は非ヨウ化ポリマーである、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びN‐ビニルピロリドンと、スチレン、アクリル酸、ビニルアセテート、又はビニルカプロラクタムの様な他の反応性二重結合含有モノマーとのコポリマーなどの他、ポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノエチルエステル)も、治療剤移動が例えば90乃至300秒以内に起こるタッチアンドゴー処置での適用に適した溶解速度を示すものと期待される。
【0039】
治療剤
別の態様では、本発明の実施形態は、身体管腔壁に発生する様々な疾患を治療するべく治療剤を送達するための器具及び方法を開示している。本発明に係る有用な治療剤は、単独で使用されていてもよいし、組み合わせて使用されていてもよい。治療剤は、非水可溶性(即ち溶媒可溶性)及び/又は水可溶性とすることができる。或る実施形態では、乾燥させたコーティングは、25−100%からの治療剤(薬物)対ポリマーマトリックス重量比(D/P)を有している。ここで使用されているD/P比のDは、D/P比が特定的にコーティング中に薬物が1つしか含まれていないことを表現するという様に異なる用いられ方をしていない限り、コーティング中の薬物を全て含む。ここで使用されているD/P比のPは、(単数又は複数の)両親媒性のポリマー及び/又はコポリマーとポリマーマトリックス中に分散しているか又は別のやり方でポリマーマトリックスへ均一に一体化されている可塑剤及びワックスの様な添加成分を全て含む。D/Pは、両親媒性ポリマー及び/又はコポリマーの分子量と、可塑剤及び/又はワックスの様な添加成分の存在に依って決まる。D/P比が100%より高いと、生体内での溶解時間が長びき、それにより、送達バルーンが膨らまされている時間が300秒又はそれ以下である療法施術での薬物送達効率が低下する。その上、D/P比が100%より高いと、不水溶性薬物の場合は特に、微粒子生成の可能性が大きくなる。D/P比が25%より下であれば、医療用使い捨て装置への要求される治療剤積載量を実現するためには過剰なコーティング厚さが必要になるかもしれない。或る実施形態では、D/P比は35−60%である。
【0040】
或る実施形態では、乾燥させたコーティングは、大凡0.1−10.0μg/mm2の治療剤(薬物)濃度を有している。薬物濃度は、個々の薬物及びポリマーマトリックスの選択の様な要因に依って変化する。或る実施形態では、乾燥させたコーティングをカテーテルバルーン上に存在させており、薬物はパクリタキセル、両親媒性ポリマーはPVPであり、乾燥させたコーティングは、大凡0.1−3.0μg/mm2のパクリタキセル濃度を有している。
【0041】
或る実施形態では、非水可溶性及び/又は不水溶性の治療剤は、非水溶媒が大部分を占めるか又は排他的に含まれているコーティング組成中の成分として特に有用である。例えば、パクリタキセルの様な非水可溶性抗増殖剤が、抗炎症剤デキサメタゾンの様な別の治療剤と組み合わせて使用されていてもよい。或る実施形態では、単独で又は組み合わせて、正常な身体管腔又は罹患している身体管腔の表面へ局所的に送達される治療剤は、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤の種類に分類することができる。これらのクラスは、更に、細分することができる。例えば、抗増殖剤は、抗有糸分裂性であるかもしれない。抗有糸分裂剤は、細胞分裂を阻害するか又は細胞分裂に影響を及ぼし、それにより、正常なら細胞分裂に係わるプロセスを起こせなくする。抗有糸分裂剤の下位クラスの1つにビンカアルカロイド類が挙げられる。非水可溶性ビンカアルカロイド類の代表的な例には、限定するわけではないが、パクリタキセル(アルカロイドそのもの及びその自然発生型や誘導体、並びにその合成及び半合成型)、ビンクリスチン、エトポシド、インジルビン、及びアントラサイクリン誘導体である、例えば、ダウノルビシン、ダウノマイシン、及びプリカマイシンが挙げられる。抗有糸分裂剤の他の下位クラスには、抗有糸分裂アルキル化剤である、例えば非水可溶性のホテムスチンや、抗有糸分裂代謝物質である、例えば、非水可溶性のアザチオプリン、ミコフェノール酸、レフルノミド、テリフルノミド、フルオロウラシル、及びシタラビンが含まれる。抗有糸分裂アルキル化剤は、DNA、RNA、又はタンパク質を共有結合修飾することによって細胞分裂に影響を及ぼし、それにより、DNA複製、RNA転写、RNA翻訳、タンパク質合成、又は上記の組合せを阻害する。
【0042】
同様に使用することのできる非水可溶性抗炎症剤の例には、限定するわけではないが、デキサメタゾン、プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、エストラジオール、トリアムシノロン、モメタゾン、フルチカゾン、クロベタゾール、及び非ステロイド系抗炎症剤である、例えば、アセトアミノフェン、イブプロフェン、及びスリンダクなどが挙げられる。アラキドン酸代謝物であるプロスタサイクリン又はプロスタサイクリン類似体は、血管作用性の抗増殖性物質の例である。
【0043】
細胞増殖、免疫調整、及び炎症に対する多面発現効果を有する治療剤を使用することもできるであろう。その様な非水可溶性薬剤の例には、限定するわけではないが、マクロライド類及びその誘導体である、シロリムス(例えばラパマイシン)、タクロリムス、エベロリムス、テムシロリムスなどが挙げられる。
【0044】
抗血小板剤は、(1)血小板の表面への付着、典型的には血栓形成性の表面への付着を阻害する、(2)血小板の凝集を阻害する、(3)血小板の活性化を阻害する、又は(4)上記の組合せ、によって働きかける療法的実在物である。血小板付着の阻害物質として働きかける非水可溶性抗血小板剤には、限定するわけではないが、gpIIbIIIa又はアルファ.v.ベータ3への結合を阻害するチロフィバン及びRGD(Arg‐Gly‐Asp)を主成分とするペプチド類(ペグ化)、P‐セレクチン又はE‐セレクチンの各々のリガンドへの結合を遮断する化合物が含まれる。ADP媒介血小板凝集を阻害する薬剤には、限定するわけではないが、シロスタゾールが含まれる。
【0045】
抗血栓剤には、凝固経路の何れかの段階に介入することのできる化学的及び生物学的実在物が含まれる。個々の非水可溶性実在物の例としては、限定するわけではないが、因子Xaの活性を阻害する小分子が挙げられる。更に、例えば、アルガトロバン、イノガトランの様な、直接トロンビン阻害剤も含まれる。
【0046】
使用することのできる他の非水可溶性治療剤には、例えばアポトーシス誘発剤やイリノテカン及びドキソルビシンを含むトポイソメラーゼ阻害剤の様な細胞毒性薬物、及びバルプロ酸を含むヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の様な細胞分化を調節する薬物がある。
【0047】
使用することのできる他の非水可溶性治療剤には、限定するわけではないがフェノフィブラート、クロフィブラート、及びロシグリタゾンを含む抗高脂血症剤や、例えばバチミスタットの様なマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、及び例えばダルセンタンの様なエンドセリン‐A受容体拮抗薬が含まれる。
【0048】
別の実施形態では、水可溶性治療剤を使用することができる。水可溶性抗有糸分裂剤には、エポチロンA、エポチロンB、エポチロンD、及びその他の全エポチロン類が含まれる。水可溶性抗血小板剤には、gpIIbIIIa又はアルファ.v.ベータ3への結合を阻害するRGD(Arg‐Gly‐Asp)を主成分とするペプチド類が含まれる。水可溶性抗血栓剤には、直接的又は間接的の何れでもよいがFXとトロンビンの両方を阻害することのできるヘパリノイド型薬剤である、例えば、ヘパリン、ヘパリンサルフェート、例えば商標Clivarin.RTM.を有する化合物の様な低分子量ヘパリン類、及び例えば商標Arixtra.RTM.を有する化合物の様な合成オリゴ糖類が含まれる。水可溶性血栓溶解剤は、血栓(血餅)を分解させるのを助ける薬剤と定義することもできる薬剤であって、血餅を崩壊させる作用が血栓のフィブリンマトリックス内に閉じ込められている血小板を分散させるのに手を貸すので、補助剤として使用することもできる。血栓溶解剤の代表的な例としては、限定するわけではないが、ウロキナーゼ又は組換えウロキナーゼ、プロウロキナーゼ又は組換えプロウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化物質又はその組換え型、及びストレプトキナーゼが挙げられる。更に、水可溶性治療剤には、抗血小板及び抗エンドセリン用途のための組換え抗体が含まれる。
【0049】
上記又は他の治療に使用される場合、本発明の実施形態の非水可溶性又は水可溶性の治療剤のうちの1つの薬剤の治療有効量は、純粋な形態で採用されてもよいし、或いは薬学的に許容され得る塩、エステル、又はプロドラッグの形態が存在する場合はその様な形態で採用されてもよい。代わりに、治療剤は、関心対象の化合物を1つ又はそれ以上の薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせて含んでいる医薬組成物として投与されてもよい。ここでの使用に際し、本発明の治療剤の「治療有効量」という語句は、障害を何れかの医学的治療にとって適用でき得る合理的な恩恵/リスク比で治療するのに十分な治療剤の量を意味する。とはいえ、本発明の実施形態の治療剤及び組成物の合計1日用量は、主治医により、健全な医学的判断の範囲内で決定されることになるものと理解しておきたい。誰か特定の患者にとっての個々の治療有効用量レベルは、治療しようとする障害及び当該障害の重篤度、採用される特定の化合物の活性、採用される特定の組成、患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別、及び食餌、採用される特定の化合物の投与期間、投与経路、及び排泄速度、治療の継続期間、採用される特定の化合物と組み合わせて使用されるか又は同時に使用される薬物、並びに医療分野で周知されている同種の要因、を含む各種要因に依って決まることになろう。例えば、治療剤の用量を所望の治療効果を実現するのに必要とされるより低いレベルから開始して、所望の効果が実現されるまで用量を徐々に増やしてゆくことは、十分に当技術分野の技量の範囲内である。
【0050】
コーティングプロセス
単数又は複数の治療剤と両親媒性ポリマー又はコポリマーとを含有する両親媒性ポリマーコーティングは、堆積、噴霧コーティング、及び浸漬コーティングを含め、様々な技法を用いて形成することができる。図1A−図1Cは、バルーンカテーテルのバルーンの様な、医療用使い捨て装置の展開式構造物をコーティング溶液又はコーティング混合液の中へ浸漬コーティングすることによって両親媒性ポリマーコーティングを形成させる或る特定の実施形態の説明図である。本発明の実施形態を利用すると、浸漬コーティングプロセスは、バルーン表面に亘って均一な治療剤濃度を、単純で再現可能な単回浸漬を使用して提供することができ、それにより、治療剤をコーティングへ積み込むのに多回浸漬の必要性はなくなる。
【0051】
図1Aは、未コーティングのバルーン112が展開した位置にある(例えば膨らまされている)状態のバルーンカテーテル110の説明図である。図1Bに示されている様に、未コーティングの展開したバルーン112をコーティング溶液又は混合液114の中へ浸漬し、当該コーティング溶液114から0.05乃至0.4インチ/分の速度で引き出す。上述の様に、コーティング溶液114は、水溶媒又はより好適には非水溶媒と、両親媒性ポリマー又はコポリマーと、治療剤と、を含むものとすることができる。コーティング溶液114は、随意的に、可塑剤及び/又はワックスの様な添加成分を含んでいてもよい。
【0052】
或る実施形態では、コーティング溶液114の粘性は、少なくとも5cpsであり、大凡75cpsより低い。展開したバルーン112が、コーティング溶液114の中へ浸漬された後、コーティング溶液114から取り出されると、図1Cに示されている様に、展開したバルーン112上に均一コーティング116が得られる。或る実施形態では、コーティングの接着性を高めるために、随意的に、コーティングに先立ってカテーテルにガス(例えば、アルゴン、酸素)プラズマを使用してもよい。
【0053】
或る実施形態では、両親媒性ポリマー又はコポリマーと非水可溶性治療剤とを使用することで、ポリマー又はコポリマーと治療剤を溶解させるのに非水溶媒の使用が可能になる。治療剤及び/又は両親媒性ポリマー又はコポリマーが非水溶液中に完全に可溶でない代わりの実施形態では、水溶液又は水溶媒と非水溶媒の混合溶媒を含む溶液が使用されてもよい。非水溶媒がコーティング溶液中に大部分を占めるか又は排他的に含まれているなら、水溶液と比較して、急速蒸発、低表面張力、及び基質湿潤改善がもたらされ、コーティングの均一性を得る上で支援となる。或る実施形態では、適した溶液は、非水溶媒を100%乃至80%及び水溶媒を0%乃至20%の範囲の比で含んでいる。例えば、エタノール、メタノール、又はメチルエチルケトン、イソプロパノール(2‐プロパノール)、及び/又はブタノールの様な、水より低い沸点を有する溶媒は大気条件では急速に蒸発するものであって、それらをコーティング溶液114中に単独で又は組み合わせて使用すれば、必然的にスナッギングの様な重力誘発性表面欠陥が低減される。非水溶媒が大部分を占めるか又は排他的に含まれているコーティング溶液の中への浸漬コーティングは、単純で再現性のある、ひいては簡単に製造できる応用プロセスを使用していながら、治療剤を高レベルで含んだコーティングの形成を可能にするとともに、バルーン表面に亘って均一な治療剤濃度を提供するコーティングの形成を可能にする。例えば、HPC(非ヨウ化)、ヨウ化HPC、PVP(非ヨウ化)、ヨウ化PVP(ポビドンヨード)、PEG(非ヨウ化)、ヨウ化PEG、Mnが大凡8KDより下のポリ(HEMA)(非ヨウ化)、Mnが大凡8KDより下のヨウ化ポリ(HEMA)、ポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノブチルエステル)、及びポリ(メチルビニルエーテル‐alt‐マレイン酸モノエチルエステル)が十分なエタノール中に溶解しているとき、それらはアセトンとも混和し易い。このことは、治療剤がパクリタキセルを含んでいる或る実施形態では、パクリタキセルが、低級アルコール(例えば、エタノール、2‐プロパノール、n‐ブタノール)とアセトンの混合液中に非常に溶け易くなるため好都合であり、溶媒の組合せが高い薬物積載量を可能にする。或る実施形態では、治療剤は、ラパマイシン又はエベロリムスである。メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び/又はN‐ビニルピロリドンと、スチレン、アクリル酸、ビニルアセテート、又はビニルカプロラクタムの様な他の反応性二重結合含有モノマーとのコポリマー、を含んでいる或る実施形態では、溶液は、非水溶媒対水溶媒比80対20までとして水を含有することができる。
【0054】
コーティング溶液114は、治療剤、(単数又は複数の)溶媒、(単数又は複数の)ポリマー、及び可塑剤の様な他の成分を、単一の容器の中へ混ぜ合わせることによって調製されてもよい。複数の溶液を組み合わせてコーティング溶液114を形成するに先立って、幾つかの混合及び/又は溶解操作が施行されてもよい。例えば、両親媒性ポリマー又はコポリマーをヨウ素と複合化させる場合、複合化させるポリマー溶液が調製されることになろう。例えば、I2を、アルコール(又は、非水溶媒と水溶媒を80/20までの比で含んでいる溶液)中に溶解させ、次いで、当該I2及びアルコールへ乾燥ポリマー粉末を添加する。ポリマーを溶解させるのに、溶液に撹拌及び/又は加熱を施してもよい。例えば、I20.05グラムを、2‐プロパノール12グラムに溶かす。次に、PVP(360KD、ISP)1.00グラムを加える。懸濁液をPVPが溶けるまで約1時間継続的に振盪する。或る実施形態では、得られる溶液は、ポビドンヨードの20%2‐プロパノール溶液である。
【0055】
次いで、治療薬を、別のアルコール、アルコールとアセトンの溶液、又は非水溶媒と水溶媒を80/20までの比で含んでいる溶液中に溶解させる。例えば、0.1グラムのパクリタキセルを、0.1グラムのエタノールとPEG‐400の50%アセトン溶液0.18グラムとの溶液に40℃で溶かす。次いでこの溶液を室温まで冷まし、ポビドンヨードの20%2‐プロパノール溶液0.55グラムに加える。或る実施形態では、組み合わされたコーティング溶液は、50%の薬物(即ちパクリタキセル)対ポリマーマトリックス(即ちヨウ化PVP及びPEG‐400)比(D/P)を有し、当該溶液は、31.8%が不揮発分で、薬物(即ちパクリタキセル)は不揮発分の33%である。コーティング後、バルーンを乾燥させ、萎ませて、送達に向けて折り畳む。或る実施形態では、ワックスを両親媒性ポリマーコーティングの中へ組み入れるのではなしに、バルーンを乾燥させた後、但し萎ませて送達に向けて折り畳む前に、バルーンを、随意的に、ワックスを含有する別のコーティング溶液の中へ浸漬コーティングして、両親媒性ポリマーコーティングの上から薄いワックスコーティング(図示せず)を形成させてもよい。
【0056】
局所的治療剤送達プロセス
図2A−図2Cは、治療剤と両親媒性ポリマー又はコポリマーを備える両親媒性ポリマーコーティングが身体管腔の表面へ局所的に送達される或る特定の実施形態の説明図である。図2Aに示されている様に、未展開のバルーン212に配置されている両親媒性ポリマーコーティング216を有するバルーンカテーテル210が用意され、身体管腔220の中へ挿入される。カテーテル210は、追加的に、カテーテルが身体管腔220の中へ挿入されたときに両親媒性ポリマーコーティング216が過早に溶解するのを防ぐために随意的な保護シース218を未展開のバルーン212の上から含んでいてもよい。或る実施形態では、身体管腔220は、頑固な原発性のアテローム硬化性又は再狭窄性病変部の様な焦点区域222を含んでいる動脈である。或る実施形態では、身体管腔220は、総胆管又は総胆管の分枝であるかもしれず、そうすると焦点区域222は管腔内腫瘍である。
【0057】
図2Bに示されている様に、未展開のバルーン212を焦点区域222に隣接して配置し、保護シース218を後退させる。次いで、バルーン212を(膨らませるか又はそれ以外のやり方で)展開させて、展開したバルーン212上の両親媒性ポリマーコーティング216を焦点区域222が存在する身体管腔220に当てて接触させる。或る実施形態では、展開させるバルーン212はバルーンカテーテルであり、バルーンは2−20気圧まで展開させられる。コーティング216は、両親媒性であるため、生体内で血液の様な水性流体に曝されると直ちに溶解する。或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティングの少なくとも50体積%が、生体内で膨張してから180秒以内にバルーンから離脱する。或る実施形態では、両親媒性ポリマーコーティング216の少なくとも90体積%が、膨張から300秒以内にバルーンから離脱する。或る実施形態では、個々の配合にもよるが、両親媒性ポリマーコーティング216の少なくとも90体積%が、生体内で膨張してから180秒又は90秒以内の様なより短時間の内にバルーンから離脱する。
【0058】
血管形成術の臨床的使用では、バルーン212をタッチアンドゴー処置で5乃至300秒しか展開させないのが好適である。この時間制限は医療処置の型式に起因するものであり、というのも、バルーンを膨らませた状態で長時間使用すれば焦点組織又は隣接組織の損傷が引き起こされかねず、処置の治療意図に有害となるからである。この損傷は、バルーンの持続膨張によって引き起こされる機械的圧力及び/又は新陳代謝不足から生じるものであり、限定するわけではないが、組織構築、組織炎症、細胞死、及び器官内の反応性瘢痕化の誘発を含む。或る実施形態では、コーティングされた血管形成術用バルーンは、標準的な技法を使用して標的病変部へ進めることができ、随意的な保護シースを後退させると、血管形成術用バルーンが動脈壁に当てて膨らまされる。直ちにコーティングの水和が起こって、治療剤を組織の中へ放出させ、コーティングポリマー又はコポリマーを溶解させ、両親媒性ポリマーコーティングの一部をバルーンから動脈壁へ移動させる。この舗装は、薬物貯蔵部の役目を果たし、一時的なものである。血液中にポリマー又はコポリマーの相当量又は全量が溶けるおかげで、コーティングに付きまとう塞栓性の有害事象を回避することができる。更に、両親媒性ポリマーコーティングのこの活発な溶解は、パクリタキセルの様な疎水性で実質的に不水溶性の治療剤の、バルーンから組織への移動を支援する。本発明の実施形態によれば、コーティングに含有されている治療剤の相当部分が、処置中に、周囲の管腔の組織へ移動する。或る実施形態では、コーティングに含有されている治療剤の少なくとも5%が、タッチアンドゴー処置から1時間以内に脈管腔の組織の中へ吸収される。或る実施形態では、コーティングに含有されている治療剤の少なくとも25%が、タッチアンドゴー処置から1時間以内に脈管腔の組織の中へ吸収される。
【0059】
本発明の幾つかの実施形態を、次のPET及びナイロン12のクーポンのコーティングに関する非限定的な実施例を参照しながら以下に説明する。提示されている溶液のパーセンテージは重量による。
【0060】
実施例1
60KダルトンHPCの7.5%エタノール溶液1(1.0)グラムを、プロピレングリコール(可塑剤)の1%アセトン溶液0.15グラム、パクリタキセル0.075グラム、及びn‐ブタノール0.08グラムと混合する。混合物を水槽の中で加熱してパクリタキセルを溶解させ、透明な溶液を得る。PETクーポンに約10インチ/分の浸漬速度で浸漬コーティング(単回浸漬)し、室温で乾燥させると、僅かに乳白色の乾燥コーティングが得られる。クーポン毎にクーポン表面の約3cm2をコーティングする。重量分析によって求めた平均コーティング濃度は6μg/mm2であり、推定パクリタキセル濃度は3μg/mm2である。乾燥コーティングは、180度の曲げに対してひび割れたり剥離したりすることなく耐えるのに十分な延性を有する。
【0061】
上記の様にコーティングされたクーポンを、37℃の水3ml中に3分間、攪拌しながら浸し、その後クーポンを取り出し、混濁した懸濁液を9mlのジメチルスルホキシド(DMSO)で希釈して透明な溶液を作製する。260nm及び280nm対標準曲線の定量UV分析は88%の回収率を示している。この結果は、生体内での両親媒性ポリマーコーティング及び薬物の急速溶解及び薬物放出を実証するものである。生体内環境は、血清タンパク質に界面活性剤効果を与え、それが生体内での薬物及びコーティングポリマーの溶解速度を高めることになると予想される。
【0062】
実施例2
パクリタキセル0.075グラムを、ポビドンヨードの20%2‐プロパノール溶液0.9グラム、プロピレングリコールの10%2‐プロパノール溶液0.06グラム、及びアセトン0.04グラムと混合する。PETクーポンを10インチ/分の浸漬速度で浸漬コーティング(単回浸漬)し、室温で乾燥させると、透明な琥珀色の乾燥コーティングが得られる。約2.5μg/mm2のパクリタキセルが堆積している。
【0063】
上記のクーポンを、37℃の水1.5ml中に30秒間浸す。コーティングが全て水中に溶けると、溶液は完全に透き通った琥珀色であり、実施例1のように濁っていない。
【0064】
実施例3
実施例2と同一の配合物を作製するが、但しポビドンヨードの代わりに、同じ分子量(40Kダルトン)の非ヨウ化PVPを採用している。PETクーポンを10インチ/分の浸漬速度で浸漬コーティング(単回浸漬)し、室温で乾かすと、透明な白色の乾燥コーティングが得られる。約2.5μg/mm2のパクリタキセルが堆積している。
【0065】
このクーポンを、37℃の水1.5ml中に30秒間浸す。コーティングポリマーが全て水中に溶けると、溶液は針状結晶の懸濁を示す。上記の実施例2の琥珀色の溶液は透き通ったままであるのに対して、この懸濁液は24時間後更に濁りを来している。このことは、ポビドンヨードがパクリタキセルの水溶解度を変化させることを実証している。
【0066】
実施例4
ラパマイシン(マサチューセッツ州ウォバーンのLC Laboratories社から市販)0.1グラムを、プロピレングリコールの10%2‐プロパノール溶液0.08グラムとアセトン0.053グラムとの溶液に40℃で溶かす。溶液は、室温まで冷まし、次いで、ポピドンヨードの20%2‐プロパノール溶液1.2グラムに加える。配合物を、ナイロン12クーポンに浸漬コーティング(単回浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを、37℃の水1ml中に1分間浸す。コーティングが全て水中に溶けると、溶液は透明な琥珀色である。
【0067】
実施例5
実施例4と同一の配合物を作製するが、但しポビドンヨードの代わりに、非ヨウ化C−30PVPを採用している。配合物を、ナイロン12クーポンに浸漬コーティング(単回浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを37℃の水1ml中に1分間浸す。コーティングが全て水中に溶けると、溶液は不水溶性ラパマイシンのせいで濁っている。
【0068】
実施例6
エベロリムス(マサチューセッツ州ウォバーンのLC Laboratories社から市販)0.1グラムを、プロピレングリコールの10%2‐プロパノール溶液0.08グラムとアセトン0.053グラムとの溶液に40℃で溶かす。溶液は、室温まで冷まし、次いで、ポビドンヨードの20%2‐プロパノール溶液1.2グラムに加える。配合物を、ナイロン12クーポンに浸漬コーティング(単回浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを37℃の水1ml中に1分間浸す。コーティングが全て水中に溶けると、溶液は透明な琥珀色である。
【0069】
実施例7
実施例6と同一の配合物を作製するが、但しポビドンヨードの代わりに、非ヨウ化C‐30PVPを採用している。配合物を、ナイロン12クーポンに浸漬コーティング(単回浸漬)し、室温で30分間乾燥させる。上記クーポンを37℃の水1ml中に1分間浸す。コーティングが全て水中に溶けると、溶液は不水溶性エベロリムスのせいで濁っている。
【0070】
600nm及び700nmでの光散乱実験を行い、実施例2、4、及び6(ポビドンヨード含有)の薬物(パクリタキセル、ラパマイシン、及びエベロリムス)及びポリマー溶出水溶液を、実施例3、5及び7(非ヨウ化PVP含有)のものと比較した。下表Iに示されている結果は、実施例2、4、及び6のポビドンヨード溶出水溶液中のパクリタキセル、ラパマイシン、及びエベロリムスの溶解度が、実施例3、5、及び7の非ヨウ化PVP溶出水溶液に比べて、予想以上に増加していることを提示している。必然的に、このことは、予想以上にヨウ素複合化PVPポリマーが生体内で非水可溶性の治療剤の組織摂取を支援することができることを示唆している。
【0071】
表I 光学濃度測定

【0072】
本発明の幾つかの実施形態を、次のナイロン12クーポンのコーティングに関する非限定的な実施例を参照しながら以下に説明する。提示されている溶液のパーセンテージは重量による。
【0073】
実施例8
ヨウ素(Sigma-Aldrich社)0.2グラムをメタノール10グラムに添加し、加熱と撹拌を加えながら溶かした。次いで、PEG(4Kダルトン、Fluka社)4.29グラムを添加し、弱い加熱と撹拌を加えながら溶かした。上記PEG-ヨウ素溶液1.66グラムに、パクリタキセル0.20グラムを添加した。パクリタキセルを溶かすために弱い加熱と撹拌を用いた。
【0074】
ナイロン12クーポンに配合物をコーティングし、約1時間乾燥させた。次いでクーポンを37℃のウシ血清1.5ml中に3分間浸軟させた。血清サンプル200マイクロリットルを、プレートリーダー上で600nm及び700nmでの光学濃度について試験した。
【0075】
実施例9
実施例8と同一の配合物を、反例としてヨウ素抜きに作製する。ナイロン12クーポンに配合物をコーティングし、約1時間乾燥させた。次いで、クーポンを37℃のウシ血清1.5ml中に3分間浸軟させた。血清サンプル200マイクロリットルを、プレートリーダー上で、600nm及び700nmでの光学濃度について試験した。
【0076】
600nm及び700nmでの光散乱実験を行い、実施例8(ヨウ化PEG)の薬物(パクリタキセル)及びポリマー溶出ウシ血清溶液を、実施例9(非ヨウ化PEG)のものと比較した。下表IIに示されている結果は、実施例8のPEG溶出ウシ血清溶液中のパクリタキセルの溶解度が、実施例9の非ヨウ化PEG溶出ウシ血清溶液に比べて、予想以上に増加していることを提示している。必然的に、このことは、予想以上にヨウ素複合化PEGポリマーが生体内で非水可溶性の治療剤の組織摂取を支援することができることを示唆している。
【0077】
表II 光学濃度測定

【0078】
実施例10
モルホリンを主成分とする開始剤(ME‐Br)を、以下の手順に従って合成した。18mlの4‐(2‐ヒドロキシエチル)モルホリンを、200mlのトルエンに溶かした。21.2mlのトリエチルアミン(Na2SO4にかざして乾燥済み)を添加した。混合液を氷槽の中で冷却した。かき混ぜながら、18.36mlの2‐ブロモイソブチリルブロミドを30分に亘って液滴式に添加した。混合液を冷却槽の中で更に1時間そして室温で40時間かき混ぜた。沈降したトリエチルアンモニウム塩を、濾過して取り除き、50mlのトルエンで洗浄した。溶媒を、組合せ溶液から回転蒸発させた。生成物である茶色がかった油をNMRによって分析したところ、極めて純粋であることが分かった。更なる精製を加えずにそのままを使用した。
【0079】
10KDポリマーを、ME‐Br開始剤を利用する以下のATRP手順に従って合成した。上記ME‐Br開始剤4.076グラムを、撹拌棒を備える100mlの丸底フラスコに装入した。0.0280グラムのトリス[(2‐ピリジル)メチル]アミン(TPMA)と0.0215のCuBr2と0.0795グラムのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を100mlのエタノール中に含んだ溶液を調製し、加えた。この溶液へ、100mlのHEMAを加え、フラスコを蓋して、氷槽の中で冷却し、窒素で2時間パージした。その後、60℃で3時間に亘って反応を実行させた。30%の転化を実現した。ポリマーをエーテル中に沈降させ、エーテルで洗浄し、乾燥させた。GPCによる分子量は、モル当たり10,000グラムであった。10KDの材料は、不水溶性であることが分かった。
【0080】
実施例11
モルホリンを主成分とする開始剤(ME‐Br)を実施例10に記載されている手順に従って合成した。7KDのポリマーを以下の手順に従って合成した。上記ME‐Br開始剤12.24グラムを、撹拌棒を備える100mlの丸底フラスコに装入した。0.0280グラムのトリス[(2‐ピリジル)メチル]アミン(TPMA)と0.0215のCuBr2と0.0795グラムのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を100mlのエタノール中に含んだ溶液を調製し、加えた。この溶液へ、100mlのHEMAを加え、フラスコを蓋して、氷槽の中で冷却し、窒素で2時間パージした。その後、60℃で2時間に亘って反応を実行させた。32%の転化を実現した。ポリマーをエーテル中に沈降させ、エーテルで洗浄し、メタノール中に再度溶解させ、エーテル中に再度沈降させ、乾燥させた。GPCによる分子量は、モル当たり7,000グラムであった。7KDの材料は、水溶性であることが分かった。
【0081】
実施例12
7KDポリ(HEMA)の30%2‐プロパノール溶液を、実施例11の手順に従って調製した。この溶液0.79グラムに、プロピレングリコールの10%2‐プロパノール溶液0.12グラムと、0.06グラムのアセトンと、0.1グラムのパクリタキセルを加えた。弱い加熱を用いて透明な溶液を形成した。このパクリタキセル含有溶液を用いてナイロン12クーポン上へ浸漬コーティングした。クーポンを室温で乾燥させた。得られたコーティングは、透明で、明白な相分離は無かった。
【0082】
実施例13
7KDポリ(HEMA)の30%2‐プロパノール溶液を、実施例11の手順に従って調製し、そこへポリ(HEMA)に基づきヨウ素レベル7%でヨウ素を添加した。透明な琥珀色の溶液が得られた。この溶液0.79グラムに、プロピレングリコールの10%2‐プロパノール溶液0.12グラムと、0.06グラムのアセトンと、0.1グラムのパクリタキセルを加えた。弱い加熱を用いて透明な溶液を形成した。このパクリタキセル含有溶液を用いてナイロン12クーポン上へ浸漬コーティングした。クーポンは、室温で乾燥させた。得られたコーティングは、透明な琥珀色で、明白な相分離は無かった。
【0083】
実施例12と実施例13のクーポンを、次いで、37℃の成牛血清1.5mlに3分間浸し、撹拌した。その後の重量分析は、両方のコーティングの90%がこのプロセスによって離脱したことを示した。血清サンプル200マイクロリットルを、プレートリーダー上で、600nm及び700nmでの光学濃度について試験した。結果を下表IIIに提供しており、それは、実施例13のヨウ化ポリ(HEMA)溶出ウシ血清溶液中のパクリタキセルの溶解度が、実施例12の非ヨウ化ポリ(HEMA)溶出ウシ血清溶液に比べて増加していることを示している。必然的に、このことは、ヨウ素が、コーティングが生物系と接触したときの当該コーティングに含有される疎水性材料の溶解度を高めることを示唆している。表IIIのデータは、更に、ATRP開始剤(ME‐Br)を使って合成されたポリ(HEMA)は、薬物の水溶性とそれに続く急速放出を実現する完全両親媒性コーティングを形成する、即ち、ポリ(HEMA)はヨウ素と複合化させるとパクリタキセルの様な実質的に不水溶性で疎水性の薬物の溶解度の改善をもたらすことができること、ATRP開始剤(ME‐Br)を使って合成されたポリ(HEMA)は、薬物の組織内への急速放出のための医療装置コーティングとして有用であること、及び、ヨウ素のポリ(HEMA)への添加は、パクリタキセルの様な実質的に不水溶性で疎水性の薬物の溶解度及び組織摂取を向上させること、を指し示している。
【0084】
表III 光学濃度測定

【0085】
臨床研究1
0.1グラムのパクリタキセルを、0.1グラムのエタノールとPEG‐400の50%アセトン溶液0.18グラムとの溶液中に45℃で溶かした。次いで溶液を室温まで冷まし、ポビドンヨードの20%2‐プロパノール溶液0.55グラムに加えた。得られたコーティング溶液は、D/P比が50%で、31.8wt%の不揮発性成分を含んでおり、パクリタキセルは不揮発性成分の33.3wt%に相当する。
【0086】
2.0x20のワイヤー外挿式バルーンカテーテル(ミネソタ州プリマスのev3 Inc.社から市販)2つを膨らませ、2‐プロパノールの中で超音波処理により30秒間洗浄した。次いで、カテーテルを室温で乾燥させ、アルゴン雰囲気中にバルーンを0.17インチ/分で回転させながら18秒間プラズマ処理した。バルーンを、得られたコーティング溶液の中へ浸漬し、バルーンを30rpmで回転させながら水平方向から30度の角度で引き出した。乾燥させると、バルーン上の乾燥したコーティングの量は、約1.1−1.2mgであった。第1のバルーンは0.17インチ/分で引き出し、その結果、乾燥させたときのバルーン表面のパクリタキセル濃度は大凡2.8μg/mm2であった。第2のバルーンは0.15インチ/分で引き出し、その結果、乾燥させたときのバルーン表面の薬物濃度は約2.4μg/mm2であった。パクリタキセル組織摂取の有効性を、3匹のニュージーランドホワイドラビットの生体内で試験した。頚動脈及び大腿動脈を切開により露出し、カテーテルを動脈部分に直接挿入し、公称直径へ膨らませ、60秒してから萎ませ、取り出した。治療した動脈部分を、萎ませてから40分後に取り出し、直ちにドライアイス上に保存した。パクリタキセルについての液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)によるその後の分析は、組織中の平均薬物濃度が、第1のバルーンについては500μgパクリタキセル/グラム組織であり、第2のバルーンについては381μgパクリタキセル/グラム組織であることを示した。
【0087】
臨床研究2
パクリタキセルを含んだヨウ化PEG溶液を、実施例8に記載されている通りに調製したが、但し使用したPEGの分子量は10Kダルトン(Fluka社)であった。2.5x20のワイヤー外挿式バルーンカテーテル(ev3, Inc.社から市販)3つを膨らませ、2‐プロパノールの中で超音波処理により30秒間洗浄した。カテーテルを室温で乾燥させ、続いて、アルゴンプラズマ雰囲気中に18秒間プラズマ処理し、その間バルーンをプラズマジェットの中で30rpmで回転させた。次いで、バルーンを、コーティング溶液の中へ浸漬し、引き出した。乾燥させると、バルーン上の乾燥したコーティングの量は、約1.8mg乃至1.9mgであり、バルーン表面の薬物濃度は、3μg/mm2に近似していた。乾燥させたカテーテルをシースで覆った。
【0088】
パクリタキセル組織摂取の有効性を、3匹のニュージーランドホワイドラビットの生体内で実験した。頚動脈及び大腿動脈を切開により露出し、カテーテルを動脈部分に直接挿入し、公称直径へ膨らませ、60秒してから萎ませ、取り出した。治療した動脈部分を、萎ませてから40分後に取り出し、直ちにドライアイス上に保存した。パクリタキセルについてのLC/MSによるその後の分析は、組織中の平均薬物濃度が、867μg/g(μg薬物/グラム組織)であることを示した。
【0089】
両方の臨床研究では、組織による平均パクリタキセル摂取量は、SeQuent(登録商標)Please製品カタログ番号6050120(ドイツ、ベルリン、B. Braun Vascular Systems社から市販)の中で提示されているデータで、ポリマーを含まないコーティング中のパクリタキセル薬物積載量3μg/mm2を用いた場合のブタの冠状動脈における萎ませてから略同時間(大凡40分)後の組織濃度が大凡325μgパクリタキセル/グラム組織であると報告されているデータよりも大きかった。
【0090】
脈管構造の疾患
本発明の実施形態を適用できるであろう1つの治療分野は、脈管構造の管腔障害の治療である。一般的に、管腔障害は、自生的(アテローム硬化性、血栓塞栓性)疾患か又は医原性疾患(再狭窄)かに分類することができる。これらの管腔障害には、限定するわけではないが、アテローム性動脈硬化症、アテローム性病変、不安定粥腫、血栓塞栓症、血管移植片疾患、動静脈瘻疾患、動静脈移植片疾患、及び再狭窄を含めることができる。
【0091】
アテローム性動脈硬化症は、炎症、増殖、脂質沈着、及び血栓形成の相互作用が係わる脈管壁の複合疾患である。アテローム性動脈硬化症は、数年をかけてゆっくりと進行し脈管腔を徐々に詰まらせ臨床学的に狭心症として徴候が表われる原因となる粥状斑の形成を助長する。粥状斑は、更に、白血球(主にマクロファージ)と脂質(コレステロールを含む)が動脈壁に不安定に集まるせいで「不安定粥腫」となり、特に破裂し易くなる。不安定粥腫の破裂は、破裂部位の急速な血餅形成による脈管腔の突発的血栓性閉塞が原因であると一般に考えられており、臨床学的には心臓発作又は脳梗塞の徴候発現を引き起こす。不安定粥腫は、破裂するまでは脈管腔を大きく塞ぐことはなく、よって閉塞前病変である。望ましい治療目標は、不安的粥腫をそれらが破裂するより前に治療することによって脈管腔の閉塞を予防することであると想定している。具体的には、本発明の実施形態は、管腔の粥状斑又は不安定粥腫に均一且つ完全に接触して治療剤を送達させられるように展開式になっている先端を有するカテーテルに適用することができるであろう。治療剤の局所的送達は、全身的送達によって実現され得る前記薬剤の濃度より遥かに高い的を絞った局所濃度を可能にすることであろう。その上、局所的送達戦略は、全身的送達では生物学的利用能の欠如及び/又は治療剤の効能を実現するのに必要な濃度での望ましくない或いは中毒性の副作用のせいで劣った候補とされる治療剤の使用を可能にすることであろう。
【0092】
再狭窄
本発明の実施形態を適用できるであろう1つの治療分野は、再狭窄のプロセスを阻害することである。再狭窄は、経皮的又は外科的脈管介入への応答によって活性化される炎症及び増殖が係わる複合的プロセスの結果である。これらの経皮的又は外科的介入の例には、限定するわけではないが、脈管バイパス移植片、動静脈瘻、動静脈移植片、並びに冠状血管、大腿血管、及び頸動脈の経皮的血管再開通術を挙げることができる。動脈壁から発生するアテローム硬化性粥腫は、断面流れ面積を減少させ、すると下流器官への流れが制限されてしまう。断面流れ面積は、病変部の変位(例えば展開式バルーン又はステント)又は除去(例えば方向性又は回転性粥腫切除術)によって回復させることができる。血管再開通術後の数カ月乃至数週間の内に、元のアテローム硬化性粥腫部位で動脈壁の平滑筋細胞の局所増殖が流れに詰まりを生じさせないとも限らない。パクリタキセルは、微小管重合を促すことによって細胞質分裂を阻害する、複素タキサン環を含有するジテルペン分子である。パクリタキセルは、哺乳類の動脈でのバルーン血管形成術後の平滑筋細胞増殖及び再狭窄を阻害する。パクリタキセルは、ヒトでの冠状動脈血管再開通術後の再狭窄について、血管再開通処置後、保定させた植込み金属製ステントから数日乃至数週間に亘って送達されれば再狭窄を阻害する。パクリタキセルへの短時間(20分以下)の曝露で、持続的期間(14日間)に亘って平滑筋細胞増殖を阻害することができる。臨床研究は、パクリタキセルが、大腿血管及び冠状動脈の血管再開通術後の再狭窄についても、薬物をコーティングされた展開式バルーンから短時間(数分)に亘って送達させれば有効に阻害できることを示している。
【0093】
再狭窄は、炎症プロセスに平滑筋細胞増殖も加わり両方のプロセスが関与する複合的な分子プロセスである。デキサメタゾンは、哺乳類の動脈でのバルーン血管形成術後の炎症及び再狭窄を低減するグルココルチコイドである。このことは、パクリタキセルの様な抗有糸分裂剤を、デキサメタゾンの様な抗炎症剤と組み合わせ、当該2つの治療剤をコーティングした展開式バルーンから送達すれば、臨床学的な恩恵がもたらされることを示唆している。
【0094】
肺疾患
本発明の実施形態を適用でき得る別の治療区域は、肺及び気道の限局性疾患の治療又は予防の対象である正常な気道又は罹患している気道の管腔表面である。この実施形態は、標的治療区域へのアクセス及び同区域の視覚化を容易にするために普通に使用されている剛性又は可撓性どちらの気管支鏡とも関連付けて使用することができるであろう。
【0095】
一般的に、気道区域新生物の限局性疾患は、良性又は悪性の何れかに分類される。原発性新生物は、上皮系、間葉系、又はリンパ系の腫瘍に類別でき、20種類を超える気管新生物が記されている。
【0096】
カルチノイド腫瘍は気管気管支樹の腺腫の大凡85%に相当する。腺様嚢胞癌は、最好発の気管腺腫である。腺様嚢胞癌(又は円柱腫)は、二番目によく見られる悪性腫瘍であり、二番目によく見られる原発性気管新生物でもある。
【0097】
肺癌に対する従来の治療には、腫瘍の外科的除去、化学療法、又は放射線療法、並びにこれらの方法の組合せが係わる。どの治療が適切であるかについての決定には、腫瘍の局在性及び範囲や患者の全身的健康状態が考慮に入れられることになろう。補助療法の一例には、腫瘍の外科的除去後に確実に全腫瘍細胞が死滅するようにするために施される化学療法又は放射線療法がある。
【0098】
個々の新生物の型及び挙動や診断時期に依って、新生物は気道管腔への物理的障害又は突起物となっていることもあればそうでない場合もあろう。機能的管腔開存性を回復させる手法は、腫瘍をバルーンで変位させることによって機械的に管腔開存性を回復させるか、又は腫瘍の嵩を減少させ、次に腫瘍成長及び/又は腫瘍存続を阻害する薬物を局所的に送達する、というものになろうと想定される。本発明の実施形態を使用する局所的薬物送達は、良性又は悪性の新生物に効果のある化学療法剤を腫瘍のある管腔面へ送達する有効な方法となることであろう。具体的には、本発明の実施形態をカテーテル又は気管支鏡に適用し、局所的薬物送達の意図される部位へ順行式又は逆行式に前進させればよい。本発明の実施形態は、生物活性(治療)剤の正常な気道管腔又は罹患している気道管腔の表面への局所的送達を可能にすることであり、単独で使用することもできるし、或いは外科的切除、化学療法、及び放射線療法と組み合わせて使用することもできるものと考えている。治療剤の局所的送達は、全身的送達によって実現され得る前記薬剤の濃度より遥かに高い的を絞った局所濃度を可能にすることであろう。その上、局所的送達戦略は、全身的送達では生物学的利用能の欠如及び/又は治療剤の効能を実現するのに必要な濃度での望ましくない或いは中毒性の副作用のせいで劣った候補とされる治療剤の使用を可能にすることであろう。治療剤の的を絞った局所的送達は、外科的除去を容易にするために腫瘍の大きさを減少させるのに使用することもでき、そうすれば数々の不快な副作用を有する全身的な化学療法又は放射線療法の必要がなくなり、及び/又はその様な化学療法又は放射線療法の期間又は強さが軽減されることであろう。
【0099】
消化管疾患
本発明の実施形態を適用でき得る別の治療分野は、限定するわけではないが、食道、胆管、結腸、及び小腸の良性及び悪性の腫瘍を含む消化管疾患である。
【0100】
食道の腫瘍は、食道の平滑筋又は上皮細胞の分裂調節異常によって引き起こされる。腫瘍は、良性(例えば平滑筋腫)又は悪性(扁平上皮癌又は腺癌)のどちらのこともある。これらの腫瘍は、管腔の中へと成長し、食道の機能的断面積を危うくし、嚥下障害(飲み込み異常)及びその結果としての栄養失調を引き起こす恐れがある。
【0101】
機能的管腔開存性を回復させる手法は、腫瘍をバルーン又は金属製拡張器で変位させることによって機械的に管腔開存性を回復させるか、又は腫瘍の嵩を減少させ(例えばレーザー焼灼)、次に腫瘍成長及び/又は腫瘍存続を阻害する治療剤を局所的に送達する、というものになろうと想定される。本発明の実施形態を使用する局所的薬物送達は、良性又は悪性の食道腫瘍に効果のある化学療法剤を腫瘍のある管腔面へ送達する有効な方法となることであろう。具体的には、本発明の実施形態をカテーテル又は内視鏡に適用し、局所的薬物送達の意図される部位へ順行式又は逆行式に前進させればよい。このやり方で効果を発揮できる化学療法剤には、限定するわけではないが、微小管安定化剤(例えば、パクリタキセルを含むタキサン類及びエポチロン類)、トポイソメラーゼI阻害剤(例えばイリノテカン)、白金誘導体類(例えば、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)、アントラサイクリン類(ダウノルビシン、エピルビシン)、5-FU、及び標的化生物学的療法剤(例えば、ベバシズマブの様な抗VFGF抗体)が含まれる。この方法の利点は、有効な化学療法剤の高用量を全身的な中毒性無しに腫瘍へ送達させることができること、食物嵌入を予防するべく患者の食餌を変更しなくてもすむこと、及びステント留置に係わる間接的気管圧迫やステント移動及びステント閉塞を含む機械的な合併症を回避できることである。以上に指し示されている、カルボプラチン、シスプラチン、エポチロン類、及び標的化タンパク質である抗体類(例えば抗VEGF抗体ベバシズマブなど)の様な、水限定の可溶性を示す治療剤、即ち可溶化には水が要る治療剤は、開示されている両親媒性ポリマーコーティングの中へ、水を溶媒の一部又は全部として使用することによって配合することができる。
【0102】
同様の手法は胆管の悪性腫瘍についても使用することができるであろう。最もよく見られる胆管の悪性腫瘍は胆管癌である。それは、胆管細胞の分裂調節異常によって引き起こされる。これらの腫瘍は、肝内胆管又は肝外胆管の樹状構造の機能的管腔を危うくし、胆汁うっ滞、及びその結果である胆管炎、掻痒、脂肪吸収不全症、及び食欲不振を引き起こす恐れがある。
【0103】
機能的管腔開存性を回復させる手法は、腫瘍をバルーン、ブレード、又は金属製拡張器で変位させることによって機械的に管腔開存性を回復させるか、又は腫瘍の嵩を減少させ(例えばレーザー焼灼)、次に腫瘍成長及び/又は腫瘍存続を阻害する薬物を、本発明の実施形態を利用して局所的に送達する、というものになろうと想定される。このやり方で効果を発揮できる化学療法剤には、限定するわけではないが、微小管安定化剤(例えば、パクリタキセルを含むタキサン類及びエポチロン類)、白金誘導体類(例えば、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)、アントラサイクリン類(ダウノルビシン、エピルビシン)、5-FU、DNA架橋剤(ミトマイシン‐C)、アルキル化ニトロソウレア類(ロムスチン)、インターフェロン類(インターフェロン‐アルファ)、及び標的化生物学的活性剤(例えば、セツキシマブ(cetuximax)の様なEGFR阻害剤)が含まれる。この方法の利点は、有効な化学療法剤の高用量を全身的な中毒性無しに腫瘍へ送達させることができること、及びステント留置に係わるステント移動及びステント閉塞を含む機械的な合併症を回避できることである。
【0104】
食道及び胆管の悪性腫瘍について上述されているのと同様の手法は、小腸及び結腸の悪性腫瘍について発展させることができるであろう。類似の手法は、治療剤を非悪性の消化管疾患へ局所的に送達する(例えば、炎症性腸疾患を治療するため抗炎症剤を送達する)のにも使用することができるであろう。以上に指し示されている、カルボプラチン、シスプラチン、エポチロン類、インターフェロン類(インターフェロン‐アルファ)、及び標的化タンパク質類(例えばEGFR阻害剤のセツキシマブなど)の様な、水限定の可溶性を示す治療剤、即ち可溶化には水が要る治療剤は、開示されている両親媒性ポリマーコーティングの中へ、水を溶媒システムの一部又は全部として使用することによって配合することができる。
【0105】
以上の明細書の中で、本発明の様々な実施形態を説明してきた。しかしながら、それら実施形態には、付随の特許請求の範囲に示されている本発明のより広い精神及び範囲から逸脱することなく様々な修正及び変更がなされ得ることは明らかであろう。本明細書及び図面は、従って、限定を課すという意味ではなしにむしろ説明を目的とする意味で捉えられるべきである。
【符号の説明】
【0106】
110 バルーンカテーテル
112 バルーン
114 コーティング溶液
116 コーティング
210 バルーンカテーテル
212 バルーン
216 コーティング
218 保護シース
220 身体管腔
222 焦点区域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈管構造の中へ挿入するためのカテーテルアッセンブリにおいて、
外表面を有する展開式構造物と、
前記展開式構造物の前記外表面上に配置されている、ヨウ素と複合化された非耐久性コーティングと、
前記非耐久性コーティング中に分散させた実質的に不水溶性の治療剤と、を備えているカテーテルアッセンブリ。
【請求項2】
前記非耐久性コーティングの連続集成ポリマーマトリックスは、水溶媒中には前記展開式構造の前記外表面から均一に溶解、離脱でき、非水溶媒中には少なくとも不完全ながら溶解できる、請求項1に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項3】
前記連続集成ポリマーマトリックスは、非水溶媒を100%乃至80%及び水溶媒を0%乃至20%の範囲で有する溶液中に完全に溶解できる両親媒性ポリマー又はコポリマーを備えている、請求項2に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項4】
前記ヨウ素は、ポリ(HEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、メチルセルロース、及N‐ビニルピロリドンと反応性二重結合含有モノマーとのコポリマーから成る群より選択されたポリマーと複合化されている、請求項2に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項5】
前記非耐久性コーティングは、水溶媒中に前記展開式構造物の前記外表面から均一に溶解、離脱できる、請求項4に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項6】
前記ポリ(HEMA)は、8KDより下のMn分子量を有している、請求項5に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項7】
前記非耐久性コーティングは、37℃のウシ血清中に浸軟してから180秒以内に当該非耐久性コーティングの90体積%が離脱する程度にウシ血清中に溶解できる、請求項4に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項8】
前記ポリ(HEMA)は、モノマーと共重合されている、請求項4に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項9】
前記モノマーは、グリシジルメタクリレート(GMA)又はアクリル酸である、請求項8に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項10】
前記反応性二重結合含有モノマーは、スチレン、アクリル酸、ビニルアセテート、及びビニルカプロラクタムから成る群より選択されている、請求項4に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項11】
前記ヨウ素は、前記コーティング中に、当該コーティング乾燥重量の1−30%の重量比で存在している、請求項4に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項12】
前記不水溶性治療剤は、パクリタキセルである、請求項4に記載のカテーテルアッセンブリ。
【請求項13】
カテーテルバルーンをコーティングする方法において、
カテーテルバルーンを、ポリ(HEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、メチルセルロース、及びN‐ビニルピロリドンと反応性二重結合含有モノマーとのコポリマーから成る群より選択されているポリマーと、ヨウ素と、有機溶媒と、実質的に不水溶性の治療剤とを備えているコーティング溶液に、浸漬コーティングする段階と、
前記カテーテルバルーンを乾燥させて、当該カテーテルバルーン上に水溶性コーティングを形成する段階であって、前記ポリマーは当該水溶性コーティング中に前記ヨウ素と複合化されている、水溶性コーティングを形成する段階と、から成る方法。
【請求項14】
前記実質的に不水溶性の治療剤は、抗増殖剤、抗血小板剤、抗炎症剤、抗血栓剤、及び血栓溶解剤から成る群より選択されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記実質的に不水溶性の治療剤は、パクリタキセルである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリ(HEMA)は、モルホリンを主成分とする開始剤(ME‐Br)を使用する原子移動ラジカル重合(ATRP)によって調製されている、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記PEGは、1.5KD乃至50KDの分子量を有している、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリ(HEMA)は、大凡7KDのMnを有している、請求項13に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公表番号】特表2013−520277(P2013−520277A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554976(P2012−554976)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/027731
【国際公開番号】WO2011/106027
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(511138032)シーヴィー インジェニュイティ コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】