説明

水溶性塗布膜材料、水溶性塗布膜材料の粘度調整方法、及び水溶性塗布膜材料用粘度調整剤

【課題】所望の厚さの塗布膜を形成でき、且つ粘度上昇が抑制された水溶性塗布膜材料を提供すること。また、水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料の粘度調整方法と、当該粘度調整方法において用いられる粘度調整剤とを提供すること。
【解決手段】水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料に、下式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1以上のメチロール基を有する化合物1を配合する。式(1)中、Aは、式(2)、又は式(3)で表される2価の基である。式(2)及び式(3)中、*は結合手の末端を表す。式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、メチロール基、及び水酸基からなる群より選択される基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性塗布膜材料、水溶性塗布膜材料の粘度調整方法、及び水溶性塗布膜材料用粘度調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の電子部品や、液晶パネル等の表示装置等の製造において、種々の目的で、様々な有機材料を含む塗布膜材料により基板上に塗布膜を形成するプロセスが実施されている。かかる塗布膜材料としては、所定の工程が終了した後に、水によって、塗布膜を基板上から容易に除去できることから、水溶性樹脂を含む水溶性塗布膜材料が広く用いられている。
【0003】
半導体デバイス等の電子部品や、液晶パネル等の表示装置等の製造における、水溶性樹脂を含む水溶性塗布膜材料の使用としては、例えば、レジスト膜上に設けられる反射防止膜形成用組成物としての使用(特許文献1)や、レジストパターンを微細化するためにレジストパターン上に被覆膜を形成する被覆膜形成用材料としての使用(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−265647号公報
【特許文献2】特開2009−053547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水溶性塗布膜材料について、用途によっては、水溶性塗布膜材料中の水溶性樹脂濃度を上げて、形成される塗布膜の膜厚を厚くする場合がある。しかし、かかる場合、水溶性樹脂の濃度の上昇により、水溶性塗布膜材料の粘度が急激に上昇する問題がある。
【0006】
水溶性塗布膜材料においてかかる粘度上昇が生じた場合、基板上に水溶性塗布膜材料を供給する装置におけるポンプの容量の不足による送液不良や、成膜時に乾燥に長時間を要することによる成膜効率低下や、成膜時の水溶性塗布膜材料の糸引きによる、塗布膜の欠陥の発生等、種々の問題が生じやすくなる。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、所望の厚さの塗布膜を形成でき、且つ粘度上昇が抑制された水溶性塗布膜材料を提供することを目的とする。また、本発明は、水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料の粘度調整方法と、当該粘度調整方法において用いられる粘度調整剤とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料において、1以上のメチロール基を有する特定の構造の化合物を配合することにより、所望の厚さの塗布膜を形成でき、且つ水溶性塗布膜材料の粘度上昇を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
本発明の第一の態様は、水溶性樹脂と、低分子水溶性化合物と、溶媒とを含み、
低分子水溶性化合物が、下式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1以上のメチロール基を有する化合物である、水溶性塗布膜材料である。
【化1】

(式(1)中、Aは、式(2)、又は式(3)で表される2価の基である。式(2)及び式(3)中、*は結合手の末端を表す。式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、メチロール基、及び水酸基からなる群より選択される基である。)
【0010】
本発明の第二の態様は、水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料に、上記式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1種以上のメチロール基を有する化合物である低分子水溶性化合物を添加する、水溶性塗布膜材料の粘度調整方法である。
【0011】
本発明の第三の態様は、水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料用の粘度調整剤であって、上記式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1種以上のメチロール基を有する化合物である低分子水溶性化合物からなる、粘度調整剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望の厚さの塗布膜を形成でき、且つ粘度上昇が抑制された水溶性塗布膜材料を提供することができる。また、本発明によれば、水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料の粘度調整方法と、当該粘度調整方法において用いられる粘度調整剤とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、水溶性塗布膜材料について説明する。水溶性塗布膜材料は、水溶性樹脂と、特定の水溶性低分子化合物と、溶媒とを必須に含む。また、水溶性塗布膜材料は、その使用目的に応じて種々の任意成分を含んでいてもよい。水溶性塗布膜材料の用途は特に限定されないが、例えば、用途として、レジストパターンを微細化するためにレジストパターン上に被覆膜を形成するための被覆膜形成材料、レジスト膜上に形成される反射防止膜を形成するための反射防止膜形成材料、ウエーハをレーザー加工する際にウエーハ上に保護膜を形成するための保護膜形成材料等が挙げられる。以下、水溶性樹脂、水溶性低分子化合物、溶媒、任意成分、及び水溶性塗布膜材料の調製方法について説明する。
【0014】
≪水溶性樹脂≫
水溶性樹脂の種類は、所望の膜厚の塗布膜を形成可能な濃度で溶媒に対して溶解可能であって、溶媒に溶解させた場合にゲル化しないものであれば特に限定されない。
【0015】
水溶性樹脂の好適な例としては、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、及びアミド系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0016】
アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロイルモルホリン等のモノマーを構成成分とするポリマー又はコポリマーが挙げられる。
【0017】
ビニル系樹脂としては、例えば、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾリジノン、N−ビニルイミダゾール、酢酸ビニル、アリルアミン等のモノマーを構成成分とするポリマー又はコポリマーが挙げられる。ポリマー又はコポリマーが酢酸ビニルに由来する構成単位を有する場合、かかる構成単位のエステル基を加水分解して、ビニルアルコール単位としてもよい。また、そのビニルアルコール単位の水酸基をアセタール等で保護していてもよい。
【0018】
セルロース系樹脂としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースヘキサヒドロフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロール、セルロールアセテートヘキサヒドロフタレート、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。
【0019】
さらに、アミド系樹脂の中で水溶性のものも用いることができる。
【0020】
これら中でも、ビニル系樹脂が好ましく、特にはポリビニルピロリドンやポリビニルアルコールが好ましい。
【0021】
これらの水溶性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。水溶性塗布膜材料における、水溶性樹脂の使用量は特に限定されず、形成したい塗布膜の膜厚や、水溶性塗布膜材料の粘度を考慮して適宜定められる。水溶性塗布膜材料における、水溶性樹脂の使用量は、典型的には、水溶性塗布膜材料の質量に対して、0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%が好ましく、1〜20質量%が特に好ましい。
【0022】
また、水溶性塗布膜材料には、水溶性樹脂として水溶性ペプチドを用いることもできる。
【0023】
水溶性ペプチドは、室温で水への溶解性が高く、低温でもゲル化しにくいペプチドであればよく、特に制限されない。水溶性ペプチドの質量平均分子量は10000以下であることが好ましく、5000以下がより好ましい。質量平均分子量が10000以下である場合、水への溶解性が高く、低温でもゲル化しにくいため、溶液の安定性が高くなる。なお、質量平均分子量の下限は500以上が好ましい。また、水溶性ペプチドは天然物由来であってもよく、合成物であってもよい。また、水溶性ペプチドの誘導体であってもよい。
【0024】
水溶性ペプチドとしては、例えば、コラーゲン由来の加水分解ペプチド、絹糸タンパク由来の加水分解ペプチド、大豆タンパク由来の加水分解ペプチド、小麦タンパク由来の加水分解ペプチド、コメタンパク由来の加水分解ペプチド、ゴマタンパク由来の加水分解ペプチド、エンドウタンパク由来の加水分解ペプチド、羊毛タンパク由来の加水分解ペプチド、カゼイン由来の加水分解ペプチド等が挙げられる。
【0025】
≪水溶性低分子化合物≫
水溶性低分子化合物としては、下式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1以上のメチロール基を有する化合物を用いる。水溶性低分子化合物が1以上のメチロール基を有することにより、所望の厚さの塗布膜を形成でき、且つ粘度上昇が抑制された水溶性塗布膜材料を調製できる。
【0026】
【化2】

(式(1)中、Aは、式(2)、又は式(3)で表される2価の基である。式(2)及び式(3)中、*は結合手の末端を表す。式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、メチロール基、及び水酸基からなる群より選択される基である。)
【0027】
式(2)において、R、及びRがアルキル基である場合の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基が挙げられる。これらのアルキル基の中では、メチル基、又はエチル基が好ましい。
【0028】
式(1)で表される化合物のうち、好適な化合物の具体例としては、以下の(A1)〜(A16)が挙げられる。
【0029】
【化3】

【0030】
これらの中では、入手が容易であり、粘度調整効果に優れることから、A1(TMP:トリメチロールプロパン)、A2(TME:トリメチロールエタン)、A3(NPG:ネオペンチルグリコール)、A4(ペンタエリスリトール)、及びA16(エリスリトール)が好ましい。
【0031】
水溶性低分子化合物が、五炭糖、又は六炭糖である場合、これらの糖の種類は、少なくとも1つのメチロール基を有する限り特に限定されない。また、単糖類は、一般的に水中で、鎖状構造と環状構造との平衡状態を形成する。水溶性低分子化合物として用いる、五炭糖、又は六炭糖は、このような平衡を形成する複数の構造のうちの何れかが、メチロール基を有する構造のものを用いることができる。水溶性低分子化合物として用いる五炭糖、又は六炭糖が水中でとりうる環状構造は特に限定されず、ピラノース環であっても、フラノース環であってもよい。以下、五炭糖、又は六炭糖の好適な例を挙げる。
【0032】
五炭糖としては、以下の化合物が挙げられる。
【0033】
<五炭糖>
【化4】

【0034】
六炭糖としては、以下の化合物が挙げられる。
【0035】
<六炭糖>
【化5】

【0036】
上記の好適な五炭糖、又は六炭糖について、D体、及びL体のうち、代表的なものについて記載したが、これらの糖は、D体、及びL体の何れも水溶性低分子化合物として使用することができる。
【0037】
五炭糖、又は六炭糖が、アルデヒド型の還元末端を有する場合、その末端を還元することにより糖アルコールが得られる。これらの糖アルコールも、メチロール基を有するため、水溶性低分子化合物として利用することができる。本出願の明細書、及び特許請求の範囲では、「五炭糖、又は六炭糖」には、炭素数5、又は6の糖アルコールも含める。五炭糖、又は六炭糖である、糖アルコールの好適な例としては、キシリトール、アラビニトール、ガラクチトール、ソルビトール、及びマンニトール等が挙げられる。
【0038】
五炭糖、又は六炭糖の中では、入手が容易であり、粘度調整効果に優れることから、D−キシロース、D−フルクトース、D−グルコース、D−マンノース、D−ガラクトース、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールが好ましい。
【0039】
水溶性低分子化合物は、水溶性塗布膜材料の粘度を調整しやすいことから、その分子中に2〜4のメチロール基を有するものがより好ましい。
【0040】
以上説明した、式(1)で表される化合物と、五炭糖、又は六炭糖とは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
水溶性塗布膜材料における、水溶性低分子化合物の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、水溶性塗布膜の膜厚と、水溶性塗布膜材料の粘度とを考慮して適宜定められる。典型的には、水溶性塗布膜材料における、水溶性低分子化合物の使用量は、水溶性樹脂100質量部に対して、1〜500質量部が好ましく、10〜300質量部がより好ましく、50〜200質量部が特に好ましい。
【0042】
≪溶媒≫
水溶性塗布膜材料に含まれる溶媒は、特に限定されず、従来から、水溶性樹脂を含む塗布膜形成用の材料に用いられている溶媒から適宜選択できる。好適に使用できる溶媒の具体例としては、水や、アルコール、エステル、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等の有機溶媒が挙げられる。これらの中では、水、及びアルキレングリコールモノアルキルエーテル等が好ましい。アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい。作業環境の点からは、水、又は、水と上記の有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
【0043】
水溶性塗布膜材料における溶媒の使用量は、特に限定されず、水溶性塗布膜材料における、水溶性樹脂の含有量と、水溶性低分子化合物の含有量とが所望の値となるように、適宜調整される。
【0044】
≪任意成分≫
本発明の水溶性塗布膜材料は、その用途に応じて、水溶性樹脂、水溶性低分子化合物、及び溶媒の他に、界面活性剤、消泡剤、及び防腐剤等の種々の任意成分を含んでいてもよい。以下、水溶性塗布膜材料が、レジストパターン微細化用被覆形成材料として使用される場合、レジスト膜上に形成される反射防止膜形成材料として使用される場合、ウエーハレーザー加工用保護膜形成材料として使用される場合について、特徴的な任意成分について、順に説明する。
【0045】
<レジストパターン微細化用被覆形成材料>
水溶性塗布膜材料が、レジストパターンの微細化を目的に、レジストパターン上に形成される被覆膜の材料である場合、水溶性塗布膜材料は、水溶性の架橋剤を含んでいてもよい。また、かかる用途で使用される水溶性塗布膜材料について、水溶性樹脂が水溶性ペプチドを含む場合、水溶性塗布膜材料は、防腐剤を含むのが好ましい。
【0046】
(水溶性架橋剤)
水溶性架橋剤は、その構造中に少なくとも1個の窒素原子を有する。このような水溶性架橋剤としては、少なくとも2個の水素原子がヒドロキシアルキル基及び/又はアルコキシアルキル基で置換された、アミノ基及び/又はイミノ基を有する含窒素化合物が好ましく用いられる。これら含窒素化合物としては、例えばアミノ基の水素原子がメチロール基又はアルコシキメチル基あるいはその両方で置換された、メラミン系誘導体、尿素系誘導体、グアナミン系誘導体、アセトグアナミン系誘導体、ベンゾグアナミン系誘導体、スクシニルアミド系誘導体や、イミノ基の水素原子が置換されたグリコールウリル系誘導体、エチレン尿素系誘導体等を挙げることができる。
【0047】
これら含窒素化合物の中でも、架橋反応性の点から、少なくとも2個の水素原子がメチロール基、又は(低級アルコキシ)メチル基、あるいはその両方で置換されたアミノ基あるいはイミノ基を有する、ベンゾグアナミン系誘導体、グアナミン系誘導体、メラミン系誘導体等のトリアジン誘導体、グリコールウリル系誘導体、及び尿素系誘導体のうちの1種以上が好ましい。
【0048】
水溶性架橋剤の使用量は、水溶性塗布膜材料の固形分の質量中、1〜35質量%が好ましい。
【0049】
(防腐剤)
水溶性塗布膜材料が水溶性ペプチドを水溶性樹脂として含む場合、水溶性塗布膜材料の腐敗やバクテリアの発生を防止するために、水溶性アミン化合物及び第4級アンモニウム水酸化物等のアルカリ性化合物や、酢酸及び過酢酸等の酸性化合物を防腐剤として添加するのが好ましい。
【0050】
[水溶性アミン化合物]
水溶性アミン化合物としては、25℃の水溶液におけるpKa(酸解離定数)が7.5以上のアミン類を挙げることができる。具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、及びトリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、プロピレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、N−エチル−エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、及び1,6−ヘキサンジアミン等のポリアルキレンポリアミン類;2−エチル−ヘキシルアミン、ジオクチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリアリルアミン、ヘプチルアミン、及びシクロヘキシルアミン等の脂肪族アミン類;ベンジルアミン、及びジフェニルアミン等の芳香族アミン類;ピペラジン、N−メチル−ピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジン等の環状アミン類等が挙げられる。
【0051】
[第4級アンモニウム水酸化物]
第4級アンモニウム水酸化物としては、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、テトラプロピルアンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム水酸化物、メチルトリプロピルアンモニウム水酸化物、メチルトリブチルアンモニウム水酸化物、及びコリン等が挙げられる。
【0052】
防腐剤を添加する場合の添加量は、水溶性樹脂と、水溶性低分子化合物との合計100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、2〜15質量部がより好ましい。
【0053】
<反射防止膜形成材料>
水溶性塗布膜材料を、レジスト膜上に形成される反射防止膜の形成材料として用いる場合、水溶性塗布膜材料は、有機フッ素化合物を含むのが好ましい。また、かかる場合、水溶性塗布膜材料は、有機フッ素化合物に加えて、フッ素系界面活性剤を含むのが好ましい。以下有機フッ素化合物と、フッ素系界面活性剤とについて説明する。
【0054】
(有機フッ素化合物)
有機フッ素化合物の種類は、反射防止膜が所望の性能を備える限り特に限定されないが、以下の式(I)で表される化合物が好ましい。
【0055】
【化6】

(式(I)中、lは1〜3の整数であり、mは0、又は1であり、nは3〜5の整数であり、m+lは3以下である。)
【0056】
式(I)で表されるフッ素化合物は、芳香族環にフッ素原子が結合しているので、同じく芳香族環に結合するカルボキシル基の酸性が高まり、強酸として作用する。このため、上記式(I)で表されるフッ素化合物を反射防止膜形成材料に添加することにより、反射防止膜形成材料のpHを容易に調整することが可能となる。
【0057】
また、式(I)で表されるフッ素化合物は、フッ素原子を有しているため、これを含有する反射防止膜において、屈折率(n値)や消衰係数(k値)を低く保つことができる。
【0058】
式(I)で表されるフッ素化合物は、多量に添加したとしても、反射防止膜形成材料の塗布性を低下させることがない。このため、式(I)で表されるフッ素化合物は、pH調整剤として、又は反射防止膜の光学特性の調整剤として、好適に用いることができる。
【0059】
式(I)で表されるフッ素化合物の具体例としては、テトラフルオロフタル酸、テトラフルオロ安息香酸、テトラフルオロヒドロキシ安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、及びトリフルオロ安息香酸等が挙げられる。式(I)で表されるフッ素化合物の中では、l=2である化合物を好ましく用いることができ、式(II)で表されるテトラフルオロフタル酸、及びトリフルオロフタル酸を用いるのがより好ましい。
【0060】
【化7】

(式(II)中、n1は、3又は4である。)
【0061】
式(II)で表される化合物の中でも、テトラフルオロフタル酸が特に好ましい。
【0062】
水溶性塗布膜材料における有機フッ素化合物の使用量は、水溶性塗布膜材料の全質量に対して、0.03〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましい。
【0063】
(フッ素系界面活性剤)
フッ素系界面活性剤は、下記式(III)から(VI)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0064】
【化8】

(式(III)〜(VII)において、oは10〜15の整数を表し、pは1〜5の整数を表し、qは2、又は3を表し、rは2、又は3を表し、Rは水素原子、又は水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子により置換されている炭素数1〜16のアルキル基を表す。アルキル基は、水酸基、アルコキシアルキル基、カルボキシル基、又はアミノ基を有していてもよい。ここで、R、及びRの有する炭素原子の合計数は1、又は2である。)
【0065】
ここで、式(III)で表されるフッ素系界面活性剤としては、具体的には、C1021COOHが好ましい。
【0066】
また、式(IV)で表されるフッ素系界面活性剤としては、(CSONH、又は(CSONHが好ましい。
【0067】
式(V)で表されるフッ素系界面活性剤としては、以下の化合物が好ましい。
【0068】
【化9】

【0069】
式(VI)で表されるフッ素系界面活性剤としては、以下の化合物が好ましい。
【0070】
【化10】

【0071】
これらのフッ素系界面活性剤を用いた場合、屈折率の良好な反射防止膜を形成しやすく、また水溶性塗布膜材料の塗布性も良好である。
【0072】
水溶性塗布膜材料における、フッ素系界面活性剤の使用量は、水溶性塗布膜材料の全質量に対して、0.1〜15.0質量%が好ましく、1.0〜3.0質量%がより好ましい。
【0073】
<ウエーハレーザー加工用保護膜形成材料>
水溶性塗布膜材料を、半導体製造における、ウエーハのレーザー加工において、ウエーハ表面の保護膜形成に用いる場合、水溶性塗布膜材料に、水溶性着色剤と、水溶性紫外線吸収剤とを添加するのが好ましい。
【0074】
好適な水溶性着色剤としては、アゾ染料(モノアゾ及びポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンアゾ染料、チアゾールアゾ染料)、アントラキノン染料(アントラキノン誘導体、アントロン誘導体)、インジゴイド染料(インジゴイド誘導体、チオインジゴイド誘導体)、フタロシアニン染料、カルボニウム染料(ジワェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料)、キノンイミン染料(アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料)、メチン染料(シアニン染料、アゾメチン染料)、キノリン染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン及びナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、及びペリノン染料等から選択される水溶性染料や、食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色NY、食用黄色4号タートラジン、食用黄色5号、食用黄色5号サンセットエローFCF、食用オレンジ色AM、食用朱色No.1、食用朱色No.4、食用朱色No.101、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号、食用メロン色B、及び食用タマゴ色No.3等の食用色素が挙げられる。
【0075】
好適な水溶性紫外線吸収剤としては、例えば、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン−4−カルボン酸、2−カルボキシアントラキノン、1,2−ナフタリンジカルボン酸、1,8−ナフタリンジカルボン酸、2,3−ナフタリンジカルボン酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、及び2,7−ナフタリンジカルボン酸等の芳香族カルボン酸化合物、これらの芳香族カルボン酸化合物のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、又は第4級アンモニウム塩等、2,6−アントラキノンジスルホン酸ナトリウム、2,7−アントラキノンジスルホン酸ナトリウム、フェルラ酸等が挙げられる。これらの水溶性紫外線吸収剤の中では、フェルラ酸がより好ましい。
【0076】
水溶性着色剤と、水溶性紫外線吸収剤とを含む水溶性塗布膜材料を、半導体製造におけるウエーハのレーザー加工において、ウエーハ表面の保護膜形成に用いる場合、ウエーハの切断時に生じるシリコン蒸気等の凝集付着物(デブリ)の半導体チップへの付着を抑制しやすくなる。
【0077】
水溶性着色剤、及び水溶性紫外線吸収剤の使用量は、形成される保護膜の光学特性に応じて、適宜調整される。
【0078】
≪水溶性塗布膜材料の調製方法≫
水溶性塗布膜材料の調製方法は、上記の、水溶性樹脂と、水溶性低分子化合物と、任意成分とを、溶媒に溶解させることができれば特に限定されない。典型的な方法としては、これらの成分を、所定の比率で、混合機に仕込み、均一な溶液となるまで攪拌する方法が挙げられる。このようにして得られた水溶性塗布膜材料は、微細な不溶物を除去する目的で、必要に応じてろ過した後に用いてもよい。
【0079】
以上説明した水溶性塗布膜材料は、所望の厚さの塗布膜を形成でき、且つ粘度上昇が抑制されているため、半導体デバイス等の電子部品や、液晶パネル等の表示装置等の製造工程において、種々の目的で好適に使用される。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例、及び比較例において、水溶性低分子量化合物としては、下記の化合物を用いた。
WSC1:トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製)
WSC2:トリメチロールエタン(三菱ガス化学株式会社製)
WSC3:ネオペンチルグリコール(三菱ガス化学株式会社製)
WSC4:グルコース(群栄化学株式会社製)
WSC5:ソルビトール(群栄化学株式会社製)
WSC6:マンニトール(群栄化学株式会社製)
WSC7:フルクトース(群栄化学株式会社製)
WSC8:2−メチル−2,4−ペンタンジオール(純正化学株式会社製)
WSC9:2−ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製)
WSC10:セロビオース(関東化学株式会社製)
WSC11:スクロース(純正化学株式会社製)
【0082】
〔実施例1〜7〕
下表1に記載の種類の水溶性低分子量化合物と、PVP(ポリビニルピロリドン、第一工業製薬株式会社製、ピッツコールK−90、分子量約60万)とを、それぞれ表1に記載の濃度となるようにイオン交換水に溶解させて、実施例1〜7の水溶性塗布膜材料を調製した。実施例1〜7の水溶性塗布膜材料の粘度(cP)を、キャノンフェンスケ粘度計(株式会社離合社製、VMC−252)を用いて測定した。実施例1〜7の水溶性塗布膜材料の評価結果を表1に記す。
【0083】
【表1】

【0084】
〔比較例1〜5〕
水溶性低分子量化合物の種類を、表2に記載の種類に変更することの他は、実施例1と同様にして、比較例1〜5の水溶性塗布膜材料を調製した。比較例1では、水溶性低分子化合物を使用しなかったため、水溶性樹脂の濃度を10質量%とした。得られた水溶性塗布膜材料について、実施例1と同様にして粘度(cP)を測定した。比較例1〜5の水溶性塗布膜材料の評価結果を表2に記す。なお、比較例3について、水溶性塗布膜材料の粘度が、装置の測定上限を超える高い粘度であったため、水溶性塗布膜材料の粘度を測定できなかった。
【0085】
【表2】

【0086】
表1によれば、水溶性塗布膜材料が水溶性低分子化合物として、上記式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1以上のメチロール基を有する化合物を含有する場合、その粘度は何れも110cP未満であり、水溶性塗布膜材料が良好に低粘度化されていることが分かる。
【0087】
一方、表2によれば、水溶性低分子化合物を用いない場合や、メチロール基を持たないポリオール(WSC8)、多糖類(WSC9)、及び五炭糖、及び六炭糖ではない2糖類(WSC10、及びWSC11)を水溶性低分子化合物として用いる場合には、何れも、水溶性塗布膜材料の粘度が110cP以上であり、水溶性塗布膜材料が良好に低粘度化されていないことが分かる。
【0088】
また、実施例4と実施例7との比較によれば、メチロール基を1つ有するグルコース(WSC4)を用いた実施例4の水溶性塗布膜材料よりも、メチロール基を2つ有するフルクトース(WSC7)を用いた実施例7の水溶性塗布膜材料の方が、より良好に低粘度化されていることが分かる。
【0089】
〔比較例6、及び実施例8〜11〕
WSC1(トリメチロールプロパン)と、水溶性樹脂(PVP)とを、表3に記載の濃度となるようにイオン交換水に溶解させて、比較例6、及び実施例8〜11の水溶性塗布膜材料とを調製した。比較例6、及び実施例8〜11の水溶性塗布膜材料の粘度(cP)を実施例1と同様にして測定した。また、比較例6、及び実施例8〜11の水溶性塗布膜材料を用いて形成される塗布膜の厚さを、下記方法に従って測定した。比較例6、及び実施例8〜11の水溶性塗布膜材料の評価結果を表3に記す。
【0090】
<塗布膜の厚さ測定方法>
水溶性塗布膜材料を、8インチのシリコーンウエーハにスピンナー(大日本スクリーン製造株式会社製、SC−80BW)で、回転数2000rpmにて塗布して水溶性塗布膜を形成した。形成された水溶性塗布膜の膜厚を、NanoSpec(東朋テクノロジー株式会社製、M−3000)を用いて、屈折率(RI)=1.50の条件で測定した。
【0091】
【表3】

【0092】
表3によれば、比較例6と、実施例8〜11との比較により、水溶性樹脂の一部を、所定の水溶性低分子化合物に置き換えることにより、水溶性塗布膜材料の粘度を大幅に低下させつつ、水溶性低分子化合物を用いない場合と同等の厚さの塗布膜を形成できることが分かる。
【0093】
〔比較例7、及び実施例12〜15〕
WSC1(トリメチロールプロパン)と、水溶性樹脂(PVA、ポリビニルアルコール、株式会社クラレ製、PVA−505C、分子量約2万)とを、表4に記載の濃度となるようにイオン交換水に溶解させて、比較例7、及び実施例12〜15の水溶性塗布膜材料とを調製した。比較例7、及び実施例12〜15の水溶性塗布膜材料の粘度(cP)を実施例1と同様にして測定した。また、比較例7、及び実施例11〜15の水溶性塗布膜材料を用いて形成される塗布膜の厚さを、比較例6と同様に測定した。比較例7、及び実施例12〜15の水溶性塗布膜材料の評価結果を表4に記す。
【0094】
【表4】

【0095】
表4によれば、水溶性樹脂としてPVPに変えてPVAを用いた場合でも、水溶性樹脂の一部を、所定の水溶性低分子化合物に置き換えることにより、水溶性塗布膜材料の粘度を大幅に低下させつつ、水溶性低分子化合物を用いない場合と同等の厚さの塗布膜を形成できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂と、低分子水溶性化合物と、溶媒とを含み、
前記低分子水溶性化合物が、下式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1以上のメチロール基を有する化合物である、水溶性塗布膜材料。
【化1】

(式(1)中、Aは、式(2)、又は式(3)で表される2価の基である。式(2)及び式(3)中、*は結合手の末端を表す。式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、メチロール基、及び水酸基からなる群より選択される基である。)
【請求項2】
前記低分子水溶性化合物が、分子中に2以上のメチロール基を有するものである、請求項1記載の水溶性塗布膜材料。
【請求項3】
水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料に、下式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1種以上のメチロール基を有する化合物である低分子水溶性化合物を添加する、水溶性塗布膜材料の粘度調整方法。
【化2】

(式(1)中、Aは、式(2)、又は式(3)で表される2価の基である。式(2)及び式(3)中、*は結合手の末端を表す。式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、メチロール基、及び水酸基からなる群より選択される基である。)
【請求項4】
水溶性樹脂と溶媒とを含む水溶性塗布膜材料用の粘度調整剤であって、
下式(1)で表される化合物、五炭糖、及び六炭糖からなる群より選択される1種以上のメチロール基を有する化合物である低分子水溶性化合物からなる、粘度調整剤。
【化3】

(式(1)中、Aは、式(2)、又は式(3)で表される2価の基である。式(2)及び式(3)中、*は結合手の末端を表す。式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、メチロール基、及び水酸基からなる群より選択される基である。)

【公開番号】特開2013−95844(P2013−95844A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239805(P2011−239805)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】