説明

水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤及びこの吸着剤を用いた水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置

【課題】水溶性VOCを含む排ガスや液相の水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤及びこの吸着剤を用いた水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置を提供すること。
【解決手段】本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤は、有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤からなることを特徴とする。このハニカム状吸着剤を使用すると、20℃〜60℃の空気又は窒素ガスで吸着された水分を脱着させることができ、水分脱着のために必要なエネルギーを従来例のものよりも大幅に減少させることができるようになる。また、本発明は、水溶性VOCを含む排ガスや液相の水溶性有機化合物含有流体の脱水に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性の有機化合物含有流体の脱水用吸着剤及びこの吸着剤を用いた水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置に関し、特に、大気中に放散される極く希薄な水溶性の揮発性有機化合物(以下、「VOC」という。)を含む大量の排ガス中のVOCを回収する装置の前処理や液相吸着法を用いて有機化合物中の水分を除去する際の脱水処理等に最適な、水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤及びこの吸着剤を用いた水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置に関する。
【0002】
なお、「揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)」とは、広義には「常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質の総称」を意味するが、大気汚染防止法や関連政令等においては、広義の揮発性有機化合物のうち「浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質を除く」と定められている。本願発明においては、「揮発性有機化合物」ないし「VOC」という用語は前者の「常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質の総称」の意として用いられている。
【0003】
従来、地球温暖化防止及び公害防止上の観点から、希薄なVOCを含む排ガスからVOCを回収して再利用すると共に、排ガスを浄化することが求められている。このような希薄なVOC含む多量の排ガスからVOCを回収する方法としては、下記特許文献1に開示されているように、ハニカム状のメソポア活性炭を使用する方法を前段濃縮に適用し、後段は濃縮されたVOCをPSA(Pressure Swing Adsorption)法等の公知の技術で回収する方法を採用し得る。この希薄なVOCを含む排ガスからVOCを回収する方法は、前段濃縮、後段回収という方法であって、数百ないし数千ppmの希薄なVOCを含み、かつ、毎時一万mを越す大量の排ガスを処理することができるという優れた効果を奏するものである。
【0004】
しかしながら、排ガス中のVOCに水溶性VOCが含まれている場合、水溶性VOCを含む排ガス中には高濃度に水分が含まれているため、水分の存在が問題となる。すなわち、予め脱湿しないと吸着された水溶性VOCと共に水分も吸着されてしまうために、純度が高い水溶性VOCを回収することができなくなる。このような場合は、純度の高いVOCを得るためには更なる処理が必要とされる。そのため、水溶性VOCを含む排ガスを予め吸着剤を用いて脱湿してからVOCを回収することが行われている。
【0005】
また、アルコール類、ケトン類といった水溶性有機化合物は、微量の水分を吸収したり、エチルアルコールのように水と共沸混合物となることから、高純度の有機化合物を得るためには、その精製工程において高度な水分除去が要求される。有機化合物の脱水処理方法としては、従来、共沸蒸留法や固体吸着剤を用いた吸着法等が用いられてきた。例えば下記特許文献2には、有機化合物を蒸気として水分を吸着剤に吸着させる吸着工程と、減圧した状態で吸着剤の水分を脱着するという減圧スイング吸着法を採用して、エネルギー効率よく、経済的、高度に脱水した有機化合物を得ることができる有機化合物の脱水方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−038201号公報
【特許文献2】特開2000−334257号公報
【特許文献3】特開平06−048728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、吸着剤に吸着された水分を脱着して吸着剤を再生するためには吸着剤を高温に加熱することが必要である。例えば、上記特許文献3には、吸着剤として有効細孔径3Åの3A型ゼオライトを用いた場合、水分吸着操作を終えた吸着剤を再生するには200℃〜300℃に加熱することが必要であることが示されている。また、上記特許文献2に記載されている発明においては、吸着剤から水分を脱着させる際に吸着熱による熱エネルギーを用いているものの、脱着させるために高温が必要であることに変わりはないし、液相の有機化合物を脱水処理するためには、予め液相の有機化合物に熱エネルギーを加えて蒸気とする必要がある。
【0008】
このように、水分吸着剤の再生や液相の有機化合物中の水分の吸着に高温が必要であると、エネルギー消費が大きくなって、昨今の省エネルギー化の要望に応えることができなくなる。そのため、吸着剤を用いて脱水処理する際には、常温ないし僅かに加温した条件下で水分を吸着すると共に脱着できる吸着剤の開発が要望されている。
【0009】
発明者等は、従来から水分吸着剤として知られている3A型ゼオライトの水分吸着状態及び脱着状態について種々実験を重ねた結果、水分吸着剤である3A型ゼオライトをハニカム状とし、水溶性VOCを含む排ガス中の水分の吸着剤や液相の水溶性有機化合物中の水分吸着剤として用いると、水溶性VOCや液相の水溶性有機化合物を見かけ上吸着せずに水分の大部分を吸着して脱水することができ、しかも水分の脱着を20℃程度の常温から60℃程度に加熱されたパージガスを使用することによって急速に脱着することができることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、水溶性有機化合物含有流体の脱水処理に最適な、水分を脱着する際に高温を必要としない吸着剤、及びこの吸着剤を用いた水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤は、有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤からなることを特徴とする。
【0012】
水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤として有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤を用いると、VOCや液相のアルコールなどの有機化合物を見かけ上吸着せずに水分の大部分を吸着して脱湿することができ、しかも水分の脱着を20℃程度の常温から60℃程度に加熱されたパージガスを使用することによって急速に脱着することができるようになる。しかも、脱水用吸着剤がハニカム状となっているので、多量の水溶性有機化合物含有流体を処理することができるようになる。
【0013】
なお、本発明で使用する合成ゼオライトとしては、有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトであればよく、モレキュラーシーブ3A(商品名)、ゼオラム3A(商品名)等の有効細孔径3Å以下の市販の合成ゼオライトを使用し得る。なお、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤は、ハニカム状であることが必要である。有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトをハニカム状とすることによって粒状の有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトとは異なる吸着特性を有するようになり、本発明の効果が良好に奏されるようになる。
【0014】
更に、上記目的を達成するため、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置は、有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤が回転するローター内に配置された吸着部と、前記吸着部に水溶性有機化合物含有流体を供給するための導入配管と、前記吸着部にパージガスを供給するパージガス供給配管と、前記吸着部で脱水処理された水溶性有機化合物含有流体を導出する導出配管と、前記吸着部から脱着された水分を回収するための水分回収配管と、を備え、前記吸着部が一回転する間に、吸着工程及び脱着工程が順次行われることを特徴とする。
【0015】
本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置によれば、いわゆるハニカムローター式の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置が得られる。すなわち、水溶性有機化合物含有流体をこのローターを通して水分だけを吸着させ、このローターの回転により水分を吸着した吸着部を脱着部に移行させてパージガスによって吸着された水分を脱着させ、再生された吸着部を最初の位置で再度水溶性有機化合物含有流体の脱水処理に供することができる。
【0016】
また、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置においては、前記パージガスは、20℃〜60℃の空気又は窒素ガスからなるものとすることができる。
【0017】
本発明で用いた有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤は、水分の脱着効率がよいので、パージガスとして従来例の場合よりも低温である20℃〜60℃の空気又は窒素ガスで吸着された水分を脱着させることができ、水分脱着のために必要なエネルギーを従来例のものよりも大幅に減少させることができるようになる。なお、脱着に必要な時間を短縮するには温度が高い方が良いが、60℃を超えてもあまり脱着効果の向上は認められないので、上限としては60℃が望ましい。温度が20℃未満であると水分の脱着効率が大きく低下するので好ましくない。
【0018】
また、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置は、前記水溶性有機化合物含有流体として水溶性VOC含有排ガスないし液相のものに対して適用することができる。
【0019】
更に、上記目的を達成するため、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置は、有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤が塔状体内部に配置された吸着部と、前記吸着部の下部に形成された前記吸着部に水溶性有機化合物含有流体を供給するための導入配管及び前記吸着部から脱着された水分を回収するための水分回収配管と、前記吸着部の上部に形成された前記吸着部で脱水処理された水溶性有機化合物含有流体を導出する導出配管及び前記吸着部にパージガスを供給するパージガス供給配管と、前記吸着塔から脱着された水分を回収するための水分回収配管と、前記導入配管、前記パージガス供給配管、前記導出配管及び前記水分回収配管のそれぞれと前記吸着部との間に配置された切替弁とを備え、前記切替弁を切り替えることによって吸着工程及び脱着工程が順次行われることを特徴とする。
【0020】
本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置によればいわゆる塔式の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置が得られ、係る塔式の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置においても、上述のハニカムローター式の場合と同様に、良好な水分吸着特性及び水分脱着特性を奏することができる。
【0021】
また、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置においては、前記吸着部は複数形成され、前記導入配管、前記水分回収配管、前記導出配管及び前記パージガス供給配管はそれぞれの吸着部の吸着工程及び脱着工程に応じて所定の時間間隔で前記複数の吸着部に接続されるようになされていることを特徴とすることが好ましい。
【0022】
本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置によれば、いわゆるPSA方式の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置が得られ、複数の吸着部を用いてそれぞれ吸着工程及び脱着工程を互いに切り替えて吸着及び脱着を繰り返すことができるので、多量の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理を効率よく行うことができるようになる。
【0023】
また、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置においては、前記切替弁は一つのロータリー式切替弁であり、前記ロータリー式切替弁を作動させることによって前記吸着工程及び前記脱着工程が順次行われるものとすることが好ましい。
【0024】
本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置によれば、複数個の切替弁が一つのロータリー式切替弁に集約されているので、切り替え操作が簡単となり、故障も少なくなる。
【0025】
また、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置においては、前記パージガスは、20℃〜60℃の空気又は窒素ガスからなることが好ましい。
【0026】
本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置によれば、塔式の脱水処理装置においても、上述のハニカムローター式の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置の場合と同様に、水分脱着のために必要なエネルギーを従来例のものよりも大幅に減少させることができるようになり、また、少なくとも20℃〜60℃の範囲であれば実用上十分な効果を奏する。
【0027】
この場合においても、本発明の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置は、前記水溶性有機化合物含有流体として水溶性VOC含有排ガスないし液相のものに対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】吸着剤の特性を測定するための実験装置の概略図である。
【図2】粒状吸着剤へ酢酸エチルを吸着させた結果を示す図である。
【図3】粒状吸着剤へメタノール蒸気を吸着させた結果を示す図である。
【図4】ハニカム状吸着剤へメタノール蒸気を吸着させた結果を示す図である。
【図5】水の吸着量と飽和到達後乾燥Nガスによる脱着量を測定した結果示す図である。
【図6】メタノールの吸着量と飽和到達後乾燥Nガスによる脱着量を測定した結果示す図である。
【図7】減圧時による脱着率曲線を示す図である。
【図8】40℃に加温した空気での脱着状態を示す図である。
【図9】Nガスと空気との脱着現象を示す図である。
【図10】40℃のNガスにおける流量の影響を示す図である。
【図11】脱着開始の10分と20分の脱着率からガス流速との関係を調べた結果を示す図である。
【図12】図11の結果が得られた際の吸着剤の温度変化を示す図である。
【図13】脱着ガスの温度の影響を示す図である。
【図14】5分後、10分後、20分後の脱着率と温度との関係を示す図である。
【図15】流通法によって測定したゼオラム3Aハニカム吸着剤の水の吸着等温線を示す図である。
【図16】図16Aは回転ローター式に適用した実施形態の装置の概略図であり、図16Bは単一塔式に適用した実施形態の装置の概略図であり、図16Cは複塔式に適用した実施形態の装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について各種実験例及び図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、図面は、各種吸着剤の特性を調べるための実験装置を例示すものであって、本発明をこの実実験装置に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適応し得るものである。
【0030】
先ず、各種実験に使用した実験装置の概略を図1を用いて説明する。この実験装置10は、コンプレッサー11、ガス混合器12、水蒸気発生器13、VOC発生器14、VOC及び水分混合器15、吸着塔16、窒素ガスボンベ17、湿度計18、VOC測定用の炭化水素(HC)濃度計19及びガスクロマトグラフ装置(GC)20を備えている。なお、水蒸気発生器13、VOC発生器14、VOC及び水分混合器15からの出口配管にはそれぞれ流量計Fが接続されている。
【0031】
そして、それぞれの流路に接続されている各種弁を切り替えることにより吸着塔16に供給されるガスの成分を適宜変更することができるようになっている。なお、使用した吸着塔16は直径3.18cm、高さ15cmのガラス管で、吸着剤には合成ゼオライト3Aを球状及びハニカムに成型したものを用いた。キャリヤーガスには、通常の空気と窒素ガスを用いた。湿度計18としてはSATO SK−110TRHを、VOC測定用の炭化水素(HC)濃度計19としてはジーセルビス(株)製のGOM−3A及びGLC20としてはPEG−1500をカラムものを用いた。
【0032】
なお、測定条件の詳細は以下のとおりである。
吸着剤 :(i)東ソー(株) ゼオラムA−3 球状(Size:4−8mesh)
(ii)ユニックス(株) ゼオライト3Aハニカム(白)
ガス流量 :1L/min(球状)、2.3L/min(ハニカム型)
空塔速度 :2〜10cm/s
吸着剤充填高さ:2cm(球状)、4.9cm(ハニカム型)
接触時間 :1〜0.51s
VOC :酢酸エチル、メチルアルコール
VOC濃度:2,000〜10,000ppm
湿 度 :相対湿度0〜93%
キャリヤーガス温度:室温〜60℃
減 圧 :35〜65mmHg
(なお、ゼオラムA−3もゼオライト3Aも同一の材料から形成されているので、以下においては両者共に「ゼオラム3A」と称する。)
【0033】
[測定結果の説明]
(1) 粒状吸着剤への酢酸エチル、メタノール、水の吸着
図2に相対湿度(RH)71.8%の空気に酢酸エチル蒸気を混合し、5,000ppmの濃度に調製したガスを吸着させた結果を示す。吸着後の吸着量を重量法で測定した結果、0.2099g/gであった。ゼオラム3Aへの水だけの吸着量は0.2177g/gであることと、酢酸エチルの分子径が約4.2Å、水の分子径が2.65Åであり、ゼオラム3Aの細孔径が3Åであることから、ゼオラム3Aには酢酸エチルは吸着されず水だけが吸着されることを確認した。
【0034】
次に、図3に粒状吸着剤へメタノール蒸気を混合し手吸着させた場合の結果を示す。メタノールの分子径は3.8Åとされているが、この結果においては吸着塔流入直後からメタノールが吸着されている現象を示した。そして、水の吸着と共に吸着塔出口のメタノール濃度はC/C=1.0以上となり濃縮されて脱着したような現象を示した。その後、水が飽和吸着されるとメタノールは吸着されなくなり、入り口濃度と出口農が等しくなった。つまり、メタノールは吸着剤内を単に通過しているような現象が現れた。この吸着曲線によるメタノール吸着量とメタノール脱着量はほぼ等しいことと吸着後の吸着量が0.2199g/gで水の吸着量に等しいことなどから、メタノールと水とは交換吸着が行われたものと考えられる。
【0035】
(2)ハニカム型吸着剤へのメタノールの吸着
ゼオラム3Aをハニカム型に成型した吸着剤にメタノール蒸気を吸着させた結果を図4に示す。この結果、ゼオラム3A粒子ではメタノールは吸着されなかったが、ゼオラム3Aをハニカム型に成型した吸着剤においては0.0628g/g吸着された。
【0036】
(3)ハニカム型吸着剤への水、メタノールの吸着
キャリヤーガスとしてNガスを用いてRH87.6%に湿潤したガスの吸着量と飽和到達後乾燥Nガスによる脱着量を測定した結果を図5に示す。図中には吸着剤の温度変化も示した。この結果、ハニカム型吸着剤への水分の吸着量は0.1125g/gで、粒状吸着剤の約50%程度であった。また、Nガスを流すだけで脱着は吸着水分量の約62%の水分が脱着されることがわかった。しかし、Nの分子径は3.0Åであることからゼオラム3Aの細孔に入るかどうか疑問である。
【0037】
次に、メタノールを混合した場合の結果を図6に示す。メタノールの吸着は認められなかった。これは同じゼオラム3Aを用いているにも係わらず図4の結果と異なっている。この原因については追究する必要性はあるが、希薄メタノール含有排ガスの処理においては好都合であると考えられる。
【0038】
(4)脱着再生について
(4−1)減圧脱着
図7に減圧時による脱着率曲線を示す。この結果、40mmHg前後の減圧で90分間脱着することで約82%脱着でき、20分前後でも約55%の脱着が行えることがわかる。
【0039】
(4−2)温風脱着
図8に40℃に加温した空気での脱着状態を示す。図中に吸着剤温度と出口ガスの湿度の変化を示した。この結果、脱着開始から30分間までは温度の低下現象が見られることから脱着は30分間までは急激に行われているものと考えられる。次に、図9に脱着ガスとして用いたNガスと空気との脱着現象を示す。この結果、脱着率においてはNガスの方が脱着率が良好であることがわかった、以後Nガスによって流量、ガスの温度などの影響を調べた。
【0040】
図10に40℃のNガスにおける流量の影響を示す。この結果、流速が速くなるほど脱着効率は良くなる。脱着開始の10分と20分の脱着率からガス流速との関係を調べた結果を図11に示すような関係が得られた。この結果、ガス流速と脱着率はほぼ直線関係が成立することが認められ、空塔速度10cm/sの場合、20分間で約60%脱着することが明らかとなった。
【0041】
また、この時の吸着剤の温度変化を図12に示す。この結果、流速が速い場合には温度変化の結果から約30分間で脱着が終了することと、脱着熱の影響で吸着剤の温度の上昇が抑制され、逆に温度低下が認められた。そして、温風による吸着剤の温度上昇は60分後から始まることが明らかとなった。また、脱着サイクル時間を短くするには脱着ガス流速を速くすることが必要である。
【0042】
次に脱着ガスの温度の影響を図13に示す。この結果、60℃で約80%の脱着が可能であることがわかる。また、5分後、10分後、20分後の脱着率と温度との関係を図14に示す。この結果からは60℃以上の高い温度での著しい効果は現れないと推測できる。
【0043】
以上の温風による脱着現象の測定結果から、温風の温度は60℃程度で脱着時間20分間行えばその脱着率は約70%前後となり、吸着剤の温度上昇も脱着熱で抑制され、新たに吸着剤の冷却工程を設定する必要はないと考えられる。
【0044】
(5)ゼオラム3Aハニカム吸着剤の水の吸着等温線
流通法によって測定したゼオラム3Aハニカム吸着剤の水の吸着等温線を図15に示す。この結果、ヘンリー型に近い吸着等温線が得られ、次式で整理できた。
q= 1.33×10−3RH
q:吸着量 [g/g]
RH:相対湿度 [%]
【0045】
以上述べたとおり、ゼオラム3Aの粒状吸着剤とそれを成型したゼオラム3Aハニカム型吸着剤に対する水溶性VOCである酢酸エチル、メタノールと水の吸・脱着特性を測定した結果を要約すると次のとおりとなる。すなわち、ゼオラム3Aをハニカム型に成型することによって粒状のゼオラム3Aとは異なる吸着特性を持つことがわかった。この原因としては成型時のバインダーが影響しているものと考えられるが、ハニカム型吸着剤で水分を吸着し、その脱着再生は60℃程度の温風ガスを空塔速度10cm/s以上の流速で流すことによって、吸着水分量の約70%が脱着されることが明らかとなった。また、ゼオラム3Aハニカム型吸着剤の水の吸着等温線はヘンリー型に近い平衡式で整理できた。
【0046】
以上、本発明の有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤を用いると気体状の水溶性有機化合物含有流体を脱水した後、室温〜60℃という従来よりも低い温度のパージガスによって吸着された水分を脱着できることを示した。このような有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤は、周知の回転するローター内に配置した回転ローター型吸着装置や吸着塔内に配置した定置型吸着装置に適用することが可能である。なお、回転ローター型吸着装置や定置型吸着装置の構成自体は周知であるので、それらの装置の概略構成を図16を用いて説明する。なお、図16Aは回転ローター型に適用した実施形態の装置の概略図であり、図16Bは定置型の単塔式に適用した実施形態の装置の概略図であり、図16Cは定置型の複塔式に適用した実施形態の装置の概略図である。
【0047】
回転ローター型吸着装置30は、図16Aに示すように回転ローター31内に本発明の有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤32が配置され、この回転ローター31の所定位置に水溶性有機化合物含有流体を供給するための導入配管33と吸着剤32で脱水処理された水溶性有機化合物含有流体を導出する導出配管34とが互いに対向するように配置され、この回転ローター31の別の位置にパージガスを供給するパージガス供給配管35と脱着された水分を回収するための水分回収配管36とが対向配置されている。
【0048】
この回転ロータ型吸着装置30によれば、所定位置において導入配管33より回転ローター31内に供給された気体状の水溶性有機化合物含有流体は、有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤32に水分が吸着されて脱水され、脱水された水溶性有機化合物含有流体は導出配管34より取り出される。その後回転ローター31が回転を続けることにより、別の位置でパージガス供給配管35より供給された室温〜60℃の空気又は窒素ガスからなるパージガスによって吸着されていた水分が脱着され、脱着された水分はパージガスと共に水分回収配管36から回収される。このように、水分が脱着されたハニカム状吸着剤32は、回転ローター31が回転を続けることにより所定位置にまで移動するので、再度水分の吸着操作が行われる。そのため、この回転ロータ型吸着装置30によれば、連続的に気体状の水溶性有機化合物含有流体からの水分の吸着操作と、吸着剤に吸着された水分の脱着操作が行われる。
【0049】
また、単塔式の定置型吸着装置40は、図16Bに示すように、塔型の吸着塔41に本発明の有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤42が配置され、吸着塔41の下部に気体状の水溶性有機化合物含有流体を供給するための導入配管43及びハニカム状吸着剤42から脱着された水分を回収するための水分回収配管44が配置され、吸着塔41の上部には脱水処理された水溶性有機化合物含有流体を導出する導出配管45及びパージガス供給配管46が配置されている。そして、これらの導入配管43、水分回収配管44、導出配管45及びパージガス供給配管46のそれぞれには、吸着塔41との間にそれぞれ切替弁47a〜47dが設けられている。
【0050】
吸着工程では、切替弁47b及び47dを閉じることによって水分回収配管44及びパージガス供給配管46を吸着塔41から遮断し、切替弁47a及び47cを開くことによって導入配管43及び導出配管45を吸着塔41と接続することにより気体状の水溶性有機化合物含有流体が導入配管43を経て吸着塔41内に導入され、吸着塔41内で有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤42に水分が吸着されて脱水され、脱水された水溶性有機化合物含有流体は導出配管45より取り出される。
【0051】
所定量の気体状の水溶性有機化合物含有流体が処理された後、脱着工程に移行する。脱着工程では、切替弁47b及び47dを開くことによって水分回収配管44及びパージガス供給配管46を吸着塔41と接続し、切替弁47a及び47cを閉じることによって導入配管43及び導出配管45を吸着塔41から遮断し、パージガス供給配管46より供給された室温〜60℃の空気又は窒素ガスからなるパージガスによってハニカム吸着剤42い吸着されていた水分が脱着され、脱着された水分はパージガスと共に水分回収配管44から回収される。このように、この単塔式の定置型吸着装置40では、切替弁47a〜47dを切り替えることによって、吸着工程及び脱着工程が順次行われる。なお、切替弁47a〜47dは、導入配管43、水分回収配管44、導出配管45及びパージガス供給配管46のそれぞれに個別に設けることができるが、これらの切替弁47a〜47dを一つのロータリー式切替弁(図示省略)に集約して、吸着工程及び脱着工程を順次行わせることもできる。
【0052】
また、図16Cに示したように、吸着塔、導入配管、導出配管パージガス供給配管、及び水分回収配管を備えた定置型吸着装置を複数備えた複塔式の定置型吸着装置50とすることもできる。なお、図16CにおけるA系統及びB系統のそれぞれの単塔式定置型吸着装置は、図16Bに示した単塔式の定置型吸着装置40と実質的に構成の差異はないので、図16Bに示した単塔式の定置型吸着装置40と同一の構成部分には同一の参照符号に添え字「A」ないし「B」を付与し、その詳細な説明は省略する。
【0053】
この複塔式の定置型吸着装置50では、例えばA系統を吸着工程で作動させている際にはB系統を脱着工程で作動させるようにし、逆にA系統を脱着工程で作動させている際にはB系統を吸着工程で作動させるようにし、連続的に気体状の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理を行うことができる。この場合の各切替弁47Aa〜47Ad、47Ba〜47Bdの作動関係は、図16Bの場合と同様であるので、その詳細な説明は省略する。この場合においても、各切替弁47Aa〜47Ad、47Ba〜47Bdは、導入配管43A、43B、水分回収配管44A、44B、導出配管45A、45B及びパージガス供給配管46A、46Bのそれぞれに個別に設けることができるが、これらの切替弁47Aa〜47Ad、47Ba〜47Bdを一つのロータリー式切替弁に集約して、吸着工程及び脱着工程を順次行わせることもできる。
【0054】
なお、上記実施形態においては、水溶性有機化合物含有流体として気相のものを用いた例を述べた。しかしながら、水溶性有機化合物含有流体がエタノール水溶液等のような液相のものであったとしても、吸着剤としてのゼオラム3Aに水分が吸着されることは周知である。また、ゼオラム3Aハニカム型吸着剤に吸着された水分の脱着処理については、上記で述べたとおりであり、従って、本発明が液相の水溶性有機化合物含有流体に対しても適用できることは自明である。
【符号の説明】
【0055】
10…実験装置 11…コンプレッサー 12…ガス混合器 13…水蒸気発生器 14…VOC発生器 15…VOC及び水分混合器 16…吸着塔 17…窒素ガスボンベ 18…湿度計 19…HC濃度計 20…ガスクロマトグラフ装置 30…回転ロータ型吸着装置 31…回転ローター 40…単塔式の定置型吸着装置 50…複塔式の定置型吸着装置 41、41A、41B…吸着塔 32、42、42A、42B…ハニカム状吸着剤、33、43、43A、43B…導入配管 34、44、44、45B…水分回収配管 35、45、45A、45B…導出配管 36、46、46A、46B…パージガス供給配管 47a〜47d、47Aa〜47Ad、47Ba〜47Bd…切替弁
F…流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤からなることを特徴とする水溶性有機化合物含有流体の脱水用吸着剤。
【請求項2】
有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤が回転するローター内に配置された吸着部と、前記吸着部に水溶性有機化合物含有流体を供給するための導入配管と、前記吸着部にパージガスを供給するパージガス供給配管と、前記吸着部で脱水処理された水溶性有機化合物含有流体を導出する導出配管と、前記吸着部から脱着された水分を回収するための水分回収配管と、を備え、前記吸着部が一回転する間に、吸着工程及び脱着工程が順次行われることを特徴とする水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項3】
前記パージガスは、20℃〜60℃の空気又は窒素ガスからなることを特徴とする請求項2に記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項4】
前記水溶性有機化合物含有流体は、水溶性揮発性炭化水素含有排ガスであることを特徴とする請求項2又は3に記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項5】
前記水溶性有機化合物含有流体は、液相であることを特徴とする請求項2又は3に記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項6】
有効細孔径3Å以下の合成ゼオライトを含むハニカム状吸着剤が塔状体内部に配置された吸着部と、前記吸着部の下部に形成された前記吸着部に水溶性有機化合物含有流体を供給するための導入配管及び前記吸着部から脱着された水分を回収するための水分回収配管と、前記吸着部の上部に形成された前記吸着部で脱水処理された水溶性有機化合物含有流体を導出する導出配管及び前記吸着部にパージガスを供給するパージガス供給配管と、前記吸着塔から脱着された水分を回収するための水分回収配管と、前記導入配管、前記パージガス供給配管、前記導出配管及び前記水分回収配管のそれぞれと前記吸着部との間に配置された切替弁とを備え、前記切替弁を切り替えることによって吸着工程及び脱着工程が順次行われることを特徴とする水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項7】
前記吸着部は複数形成され、前記導入配管、前記水分回収配管、前記導出配管及び前記パージガス供給配管はそれぞれの吸着部の吸着工程及び脱着工程に応じて所定の時間間隔で前記複数の吸着部に接続されるようになされていることを特徴とする請求項6に記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項8】
前記切替弁は一つのロータリー式切替弁であり、前記ロータリー式切替弁を作動させることによって前記吸着工程及び前記脱着工程が順次行われることを特徴とする請求項6又は7に記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項9】
前記パージガスは、20℃〜60℃の空気又は窒素ガスからなることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項10】
前記水溶性有機化合物含有流体は、水溶性揮発性炭化水素含有排ガスであることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。
【請求項11】
前記水溶性有機化合物含有流体は、液相であることを特徴とする請求項請求項6〜9のいずれかに記載の水溶性有機化合物含有流体の脱水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−264441(P2010−264441A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95536(P2010−95536)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(594051622)システム エンジ サービス株式会社 (6)
【出願人】(599141227)学校法人関東学院 (14)
【Fターム(参考)】