説明

水溶性架橋剤

【課題】化粧料、トイレタリー等の分野で好適に用いることのできる親水性の架橋重合物を、逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件で製造することを可能にする、新規な水溶性架橋剤を提供すること。
【解決手段】アリルエーテル基及び水酸基を有する水溶性ショ糖アリルエーテルを含む水溶性架橋剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性架橋剤に関する。
【背景技術】
【0002】
逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件で架橋重合体を製造するために用いられる水溶性架橋剤としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等の化合物が広く使用されている。これらの水溶性架橋剤により架橋された架橋重合体は、オムツ及び衛生材料等に使用される吸水性樹脂をはじめとして、種々の産業分野における添加剤として用いられている。
【0003】
一方、化粧料、トイレタリー等の分野では、長年実績があり、安全性の高い油溶性のショ糖アリルエーテル(アリルスクロース)及びペンタエリスリトールトリアリルエーテル(アリルペンタエリスリトール)等の油溶性架橋剤により架橋された、カルボキシル基を有する親水性の架橋重合体が用いられている(特許文献1)。この親水性の架橋重合体としては、カルボキシルビニルポリマーが代表的である。カルボキシル基を有する親水性の架橋重合体は、少量の使用量で優れた増粘性を示すことから、化粧品、トイレタリー等の分野で増粘、分散および乳化安定剤等の添加剤として広く使用されている。
【0004】
カルボキシル基を有する親水性の架橋重合体は、例えば、アクリル酸と、重合性不飽和基を有する油溶性架橋剤と、特定の有機溶媒とを用いた沈殿重合法により製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−217017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、親水性の架橋重合体からなるポリマー粒子の増粘特性等の特性は、粒子のサイズ及び形状、並びに架橋重合体の架橋度及び分子量等の性状と密接に関連している。したがって、所望の特性を得るためには、これらの性状を精密に制御することが必要とされる。
【0007】
しかし、沈殿重合法では、得られるポリマー粒子の性状が有機溶媒に対するポリマーの溶解性の影響を大きく受けることから、これを任意に制御することは非常に困難である。そのため、沈殿重合法により製造される従来の親水性の架橋重合体を用いた親水性増粘剤の場合、増粘特性等の性能を、要求特性の異なる多様な用途それぞれに応じて適正化する上で制約が多いという問題があった。
【0008】
一方、逆相懸濁重合等の水系の重合条件によれば、攪拌速度等の重合条件を調整することにより、所望の粒子径、架橋度、分子量等の性状を有するポリマー粒子として架橋重合体を容易に得ることができる。したがって、架橋重合体の特性を各種の用途に適するように容易に調整することが可能である。
【0009】
ところが、水系の重合条件に用いることのできる水溶性架橋剤については、これまでに、化粧料、トイレタリー等の一部の分野において十分な使用実績のあるものがない。また、使用実績のある油溶性架橋剤を用いても、水系の重合条件では架橋反応が起こらないため、十分に架橋された架橋重合体を製造することができない。
【0010】
したがって、特定の分野においては、水溶性架橋剤を用いた水系の重合による方法は回避され、架橋重合体の製造方法は、油溶性架橋剤を用いた沈殿重合法に実質的に限られていた。
【0011】
そこで、本発明は、化粧料、トイレタリー等の分野で好適に用いることのできる親水性の架橋重合物を、逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件で製造することを可能にする、新規な水溶性架橋剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、アリルエーテル基及び水酸基を有する水溶性ショ糖アリルエーテルを含む水溶性架橋剤に関する。
【0013】
本発明に係る水溶性架橋剤によれば、化粧料、トイレタリー等の分野で好適に用いることのできる親水性の架橋重合物を、逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件で製造することができる。
【0014】
水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、好ましくは1.8〜4.0である。このエーテル化度は、水溶性ショ糖アリルエーテルに対する、当該水溶性ショ糖アリルエーテルが有するアリルエーテル基のモル比の平均値に相当する。エーテル化度が1.8〜4.0の範囲内にあるショ糖アリルエーテルは、良好な水溶性を維持しつつ、より効果的に架橋剤として機能する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る水溶性架橋剤によれば、化粧料、トイレタリー等の分野で好適に用いることのできる親水性の架橋重合物を、逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件で製造することができる。本発明に係る水溶性架橋剤によれば、水系の重合条件で優れた増粘性を有する親水性の架橋重合体を得ることができる。
【0016】
化粧品、トイレタリー等の分野においては、使用実績のない材料の使用は回避される傾向があるが、ショ糖アリルエーテルであれば、化粧品、トイレタリー等の分野において十分な使用実績があることから、これらの分野でも実用化が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
従来、親水性の架橋重合体を製造するための架橋剤として用いられている、アリルエーテル基及び水酸基を有するショ糖アリルエーテルは、主原料のショ糖(グラニュー糖)の水酸基を、臭化アリルとの反応により高度にエーテル化して得られる油溶性のものである。油溶性ショ糖アリルエーテルは、化粧料、トイレタリー等の分野において長年の使用実績があり、安全面での信頼性が高い。また、エーテル化度が高いことにより、油溶性ショ糖アリルエーテルは、有機溶媒への良好な溶解性を有するとともに、高い反応性も有する。油溶性ショ糖アリルエーテルは、一般に、5.0〜8.0の高いエーテル化度にまで高度に置換されている。油溶性ショ糖アリルエーテルは、水に実質的に不溶であり、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等と同様に、有機溶媒を使用した沈殿重合法による架橋重合体の製造に広く使用されている。
【0019】
これに対して、本実施形態に係るショ糖アリルエーテルは、エーテル化度を低く抑えることにより残存する水酸基の割合を多くして、水溶性が付与されたものである。本実施形態に係る水溶性ショ糖アリルエーテルの水溶液は、少なくとも、水溶液の質量を基準として10質量%以下の濃度の範囲で、油分の分離のない単一相を維持することができる。このような良好な水溶性を有するショ糖アリルエーテルによれば、逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件で親水性の架橋重合体を容易に製造することが可能である。
【0020】
本実施形態に係る水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、1.8〜4.0程度の低置換度であることが好ましい。このエーテル化度は、水溶性ショ糖アリルエーテルに対する、当該水溶性ショ糖アリルエーテルが有するアリルエーテル基のモル比の平均値に相当する。エーテル化度(平均エーテル化度)は、例えば、ショ糖アリルエーテル中に残存する水酸基を、ピリジン中で無水酢酸と反応させ、このとき消費される無水酢酸の量から算出することができる。ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、その化学構造から最大で8.0である。
【0021】
水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度が低いと、架橋反応に関わる官能基であるアリル基が不足して、架橋反応が効果的に進行し難くなる傾向がある。水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度が高いと、水に対する溶解性が低下するため、水相中においてショ糖アリルエーテルと水溶性エチレン性不飽和単量体との架橋反応が進行し難くなる傾向がある。係る観点から、水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、より好ましくは2.0〜3.5、更に好ましくは2.2〜3.2である。
【0022】
水溶性ショ糖アリルエーテルは、例えば、ショ糖水溶液に触媒の水酸化ナトリウムを加え、ショ糖をアルカリショ糖に転化した後、臭化アリルを滴下してエーテル化を行う方法により得ることができる。このとき、臭化アリルの量を、ショ糖に対して2〜6倍モルの、好ましくは2〜5倍モルの範囲に調整することにより、効率的に水溶性ショ糖アリルエーテルを得ることができる。エーテル化の反応温度は、例えば80℃程度である。通常、臭化アリルの滴下後3時間程度で反応が完結する。反応液から分離した水相にアルコールを添加し、析出する塩類を濾別した後、余分なアルコールと水分を留去させることにより、水溶性ショ糖アリルエーテルを回収することができる。
【0023】
なお、油溶性のショ糖アリルエーテルは、通常、ショ糖に対して約12〜16倍モルの大過剰量の臭化アリルを用いて、できるだけ多くの水酸基がアリルエーテル化されるような条件で合成される。ショ糖1モル中が有する、臭化アリルと反応する水酸基は8当量である。すなわち、油溶性のショ糖アリルエーテルを合成する場合は、水酸基に対して1.5倍〜2倍モルの臭化アリルが使用される。
【0024】
有機溶媒を用いた沈殿重合法による従来の方法で親水性の架橋重合体を合成する場合、重合の進行に伴い高分子化したポリマーの析出が起こり、一旦、析出したポリマーに関しては、それ以上の重合反応は実質的に進行しないものと考えられている。そのため、架橋剤として用いるショ糖アリルエーテルの親油性を、エーテル化度をできるだけ高くすることにより高めて、ポリマーの有機溶媒に対する溶解性を保つとともに、より効果的に架橋反応を進行させる必要があった。すなわち、架橋剤として用いられるショ糖アリルエーテルのエーテル化度を低くするという発想は、これまでなかった。
【0025】
一方、水溶性架橋剤を用いる逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件の場合、重合反応中に高分子化したポリマーの析出が起こることもなく、反応終了まで均一な状態が保たれる。このため、従来の油溶性ショ糖アリルエーテルに比べて架橋点の少ない、即ち、エーテル化度の低い水溶性ショ糖アリルエーテルであっても、効果的に架橋反応が進行して、十分に架橋された架橋重合体を製造することができると考えられる。
【0026】
ペンタエリスリトールのアリルエーテルのエーテル化度は、その化学構造から最大4までになり得る。エーテル化度3のペンタエリスリトールトリアリルーテル、及びエーテル化度4のペンタエリスリトールテトラアリルエーテルが、油溶性ショ糖アリルエーテルと同様に、有機溶媒を用いる沈殿重合法等の架橋剤として使用されている。このペンタエリスリトールのアリルエーテルは、そのエーテル化度が2であっても油溶性である。そのため、ペンタエリスリトールのアリルエーテルを逆相懸濁重合及び水溶液重合等の水系の重合条件下で架橋剤として用いても、架橋反応を十分に進行させることは極めて困難である。
【0027】
本実施形態に係る水溶性架橋剤は、水溶性ショ糖アリルエーテルから構成される。この水溶性架橋剤は、水溶性エチレン性不飽和単量体の重合体の架橋剤として好適に用いられる。例えば、水溶性エチレン性不飽和単量体を、水溶性架橋剤の存在下で、逆相懸濁重合又は水溶液重合により重合させる工程を含む方法により架橋重合体を製造するために用いられる。逆相懸濁重合では、水溶性エチレン性不飽和単量体、水溶性架橋剤及び水を含む水相の液滴を疎水性溶媒中に分散させながら重合反応が行われる。
【0028】
上記水溶性エチレン性不飽和単量体は、特に限定されるものではないが、好ましくは、アクリル酸及びその塩、メタクリル酸及びその塩、2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、並びに、N,N−ジメチルアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である。これらの中でも、水溶性エチレン性不飽和単量体は、十分な増粘性を得やすいこと等の観点から、カルボキシル基を有する単量体、すなわち、アクリル酸及びその塩、並びに、メタクリル酸及びその塩から選ばれる化合物を含むことが好ましい。カルボキシル基を有する単量体を用いることにより、カルボキシル基を有する親水性の架橋重合体を容易に得ることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
エーテル化度の測定方法
ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、以下の手順で測定した。
(1)還流冷却管を取り付けた100mLのフラスコに、ショ糖アリルエーテルを0.6g精秤する。
(2)精秤されたショ糖アリルエーテルを、無水酢酸:ピリジン(1:3容積比)の混合溶媒10mLに溶解させる。
(3)溶液を90℃で45分間加熱し、その後、蒸留水10mLを添加し、更に溶液を冷却する。
(3)溶液の冷却の後、20mLのn―ブタノールおよび20mLの蒸留水によりフラスコの内壁を洗浄する。
(4)得られた溶液を200mLのビーカーに移し、さらに20mLの蒸留水によりフラスコの内壁を洗浄する。洗浄液は、ビーカーに加える。
(5)1N−NaOH標準溶液を用いた滴定を滴定装置により行い、サンプル滴定量を求める。
(6)ブランク滴定として、ショ糖アリルエーテルが添加されない無水酢酸:ピリジン(1:3容積比)の混合溶液10mLを同様に処理し、1N−NaOH標準溶液を用いた滴定を滴定装置により行い、ブランク滴定量を求める。
(7)サンプル滴定量およびブランク滴定量の値を用いて、式1にしたがってショ糖アリルエーテルの残存OH基含量(%)を求める。次いで式2にしたがって、ショ糖中の8個の水酸基のうちアリルエーテル化された基により置換されたものの割合の平均値、即ちエーテル化度nを算出する。
OH基含量(%)=(Bml−Sml)×f×N×17/(Swt×10)・・・式1
ml:ブランク滴定量(ml)
ml:サンプル滴定量(ml)
wt:サンプル量(g)
f:ファクター(1N−NaOH標準溶液の濃度補正係数)
N:1(NaOH標準溶液の規定数)
OH基含量(%)=17×(8−n)×100/(40×n+342)・・・式2
n:エーテル化度(ショ糖中の水酸基のうちアリルエーテル基の置換度)
【0031】
粘度の測定方法
架橋重合体をそれぞれ水に溶解して、0.5質量%濃度の水溶液を調製する。この水溶液の粘度を、粘度計(芝浦システム株式会社製、ビスメトロンVS−1H)を用いて、温度25℃、ローターNO.6(20回転/分)の条件下で測定し、1分後の粘度の値を測定値として読み取った。
【0032】
実施例1
撹拌機、還流冷却管、滴下ロートを取り付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコにイオン交換水50gと水酸化ナトリウム24g(0.6モル)を加え、水酸化ナトリウムをイオン交換水に溶解させた。さらにショ糖68.4g(0.2モル)を添加して、80℃で90分間、撹拌しながら反応させてアルカリショ糖水溶液を得た。このアルカリショ糖水溶液に対して、エーテル化反応に伴う急激な発熱を制御しながら、臭化アリル73g(0.6モル)を2時間かけて滴下した。その後、反応液を80℃で3時間熟成してエーテル化反応を完結させた。冷却後、セパラブルフラスコから取り出した反応液にイオン交換水400gを添加して不要な油分を分離し、水溶性の粗ショ糖アリルエーテル水溶液660gを得た。さらに塩酸を加えてpHを7に調整した後、ロータリーエバポレーターを用いてこの水溶液を約200gまで濃縮した。複生成物の臭化ナトリウム等の塩類は、エタノール200gを添加し、析出させてから濾別することで水溶液から除いた。次いでロータリーエバポレーターを用いて余分な水分およびエタノールを留去させることで、精製された水溶性ショ糖アリルエーテル82gを取得した。この水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、2.4であった。
【0033】
実施例2
撹拌機、還流冷却管、滴下ロートを取り付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコにイオン交換水72gと水酸化ナトリウム32g(0.8モル)を加え、水酸化ナトリウムをイオン交換水に溶解させた。さらにショ糖68.4g(0.2モル)を添加して、80℃で90分間、撹拌しながら反応させてアルカリショ糖水溶液を得た。このアルカリショ糖水溶液に対して、エーテル化反応に伴う急激な発熱を制御しながら、臭化アリル97g(0.8モル)を2時間かけて滴下した。その後、反応液を80℃で3時間熟成してエーテル化反応を完結させた。冷却後、セパラブルフラスコから取り出した反応液にイオン交換水400gを添加して不要な油分を分離し、水溶性の粗ショ糖アリルエーテル水溶液685gを得た。さらに塩酸を加えてpHを7に調整した後、ロータリーエバポレーターを用いてこの水溶液を約225gまで濃縮した。副生成物の臭化ナトリウム等の塩類は、エタノール200gを添加し、析出させてから濾別することで水溶液から除いた。次いでロータリーエバポレーターを用いて余分な水分およびエタノールを留去させることで、精製された水溶性ショ糖アリルエーテル85gを取得した。この水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、2.6であった。
【0034】
実施例3
撹拌機、還流冷却管、滴下ロートを取り付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコにイオン交換水86gと水酸化ナトリウム40g(1.0モル)を加え、水酸化ナトリウムをイオン交換水に溶解させた。さらにショ糖68.4g(0.2モル)を添加して、80℃で90分間、撹拌しながら反応させてアルカリショ糖水溶液を得た。このアルカリショ糖水溶液に対して、エーテル化反応に伴う急激な発熱を制御しながら、臭化アリル121g(1.0モル)を2時間かけて滴下した。その後、反応液を80℃で3時間熟成してエーテル化反応を完結させた。冷却後、セパラブルフラスコから取り出した反応液にイオン交換水400gを添加して不要な油分を分離し、水溶性の粗ショ糖アリルエーテル水溶液700gを得た。さらに塩酸を加えてpHを7に調整した後、ロータリーエバポレーターを用いてこの水溶液を約240gまで濃縮した。副生成物の臭化ナトリウム等の塩類は、エタノール200gを添加し、析出させてから濾別することで水溶液から除いた。次いでロータリーエバポレーターを用いて余分な水分およびエタノールを留去させることで、精製された水溶性ショ糖アリルエーテル88gを取得した。この水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、2.8であった。
【0035】
比較例1
撹拌機、還流冷却管、滴下ロートを取り付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコにイオン交換水120gと水酸化ナトリウム120g(3.0モル)を加え、水酸化ナトリウムをイオン交換水に溶解させた。さらにショ糖68.4g(0.2モル)を添加して、80℃で90分間、撹拌しながら反応させてアルカリショ糖水溶液を得た。このアルカリショ糖水溶液に対して、エーテル化反応に伴う急激な発熱を制御しながら、臭化アリル363g(3.0モル)を2時間かけて滴下した。その後、反応液を80℃で3時間熟成してエーテル化反応を完結させた。冷却後、セパラブルフラスコから取り出した反応液にイオン交換水400gを添加して不要な水溶性成分を油分から分離し、油溶性の粗ショ糖アリルエーテルを得た。次いでイオン交換水250gを加えて、ロータリーエバポレーターで加えた水と共に余分な揮発成分を留去させた。さらにn−ヘキサン120gとイオン交換水60gを添加し、再度、水溶性の不純物を分液により取り除いた。分液した油相からn−ヘキサンをロータリーエバポレーターを用いて留去し、精製された油溶性ショ糖アリルエーテル112gを取得した。この油溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度は、6.5であった。
【0036】
実施例および比較例で調製したショ糖アリルエーテルを用いてカルボキシビニルポリマーを製造した結果を以下に示す。
【0037】
合成例1
500mL三角フラスコに80質量%のアクリル酸水溶液90gを加え、外部よりフラスコを冷却しながら30質量%の水酸化ナトリウム94gを滴下して水溶液を中和した。さらにイオン交換水56g、架橋剤として実施例1で得られた低置換度の水溶性ショ糖アリルエーテル0.09g(アクリル酸水溶液に対して0.1質量%)、アゾ系開始剤である2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(和光純薬工業株式会社製 V−50)0.064gを加えて水溶性エチレン性不飽和単量体水溶液を調製した。これとは別に、撹拌機、還流冷却管、滴下ロート、窒素ガス導入管を取り付けた2Lの四つ口セパラブルフラスコにn−ヘプタン330gを加え、さらに界面活性剤としてソルビタンモノステアレート(日油株式会社製 SP−60R)2.7gを分散及び溶解させた。そこに、先に調製した水溶性エチレン性不飽和単量体水溶液を加え、撹拌速度1000回転/分で攪拌しながら、系内を窒素置換すると共に浴温を60℃に保持して、1時間、重合を行った。重合終了後、水およびn−ヘプタンを留去して架橋重合物の粉体103gを得た。得られた架橋重合物の0.5質量%水溶液を調製したところ、曳糸性は認められなかった。この水溶液の粘度は18500mPa・sであった。
【0038】
合成例2
実施例1で得られた低置換度の水溶性ショ糖アリルエーテルの添加量を0.35g(アクリル酸水溶液に対して0.4質量%)に変更したこと以外は合成例1と同様の操作により、架橋重合物の粉体102gを得た。得られた架橋重合物0.5質量%水溶液を調製したところ、曳糸性は認められなかった。この水溶液の粘度は30000mPa・sであった。
【0039】
合成例3
実施例1で得られた低置換度の水溶性ショ糖アリルエーテルの添加量を0.7g(アクリル酸水溶液に対して0.8質量%)に変更したこと以外は合成例1と同様の操作により、架橋重合物の粉体100gを得た。得られた架橋重合物の0.5質量%水溶液を調製したところ、曳糸性は認められなかった。この水溶液の粘度は42000mPa・sであった。
【0040】
合成例4
架橋剤を実施例3で得られた低置換度の水溶性ショ糖アリルエーテル0.35g(アクリル酸水溶液に対して0.4質量%)に変更したこと以外は合成例1と同様の操作により、架橋重合物の粉体100gを得た。得られた架橋重合物の0.5質量%水溶液を調製したところ、曳糸性は認められなかった。この水溶液の粘度は32000mPa・sであった。
【0041】
比較合成例1
500mL三角フラスコに80質量%のアクリル酸90gを加え、外部よりフラスコを冷却しながら30質量%の水酸化ナトリウム水溶液94gを滴下して水溶液を中和した。さらにイオン交換水56g、および2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(和光純薬工業株式会社製 V−50)0.064gを加えて水溶性エチレン性不飽和単量体水溶液を調製した。これとは別に、撹拌機、還流冷却管、滴下ロート、窒素ガス導入管を取り付けた2Lの四つ口セパラブルフラスコにn−ヘプタン330gと、架橋剤として比較例1で合成した油溶性のショ糖アリルエーテル0.35g(アクリル酸水溶液に対して0.4質量%)を加え、さらに界面活性剤としてソルビタンモノステアレート(日油株式会社製 SP−60R)2.7gを分散及び溶解させた。そこに、先に調製した水溶性エチレン性不飽和単量体水溶液を加え、撹拌速度1000回転/分で攪拌しながら、系内を窒素置換すると共に浴温を60度に保持して、1時間重合を行った。重合終了後、水およびn−ヘプタンを留去して、架橋重合体の粉体102gを得た。得られた架橋重合体の0.5質量%水溶液を調製したところ、曳糸性のある粘稠液となった。架橋反応が充分に進行しなかったためであると考えられる。この水溶液の粘度は4100mPa・sであった。
【0042】
以上の実験結果に示されるように、水溶性の低置換度のショ糖アリルエーテルを用いて、水系の逆相懸濁重合により十分に架橋されたカルボキシルビニルポリマーの架橋重合体を合成できることが確認された。更に、得られた架橋重合体は、少量の添加で水溶液を増粘させる優れた増粘性を示し、本発明の水溶性ショ糖アリルエーテルが水溶性架橋剤として効果的に反応することが確認された。
【0043】
一方、比較例1により調製された油溶性の高置換度のショ糖アリルエーテルの場合、逆相懸濁重合の条件では、十分な架橋が進行しなかった。その結果、得られた重合体を水に添加したときの増粘効果が少なく、得られる水溶液は曳糸性のある粘稠液となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルエーテル基及び水酸基を有する水溶性ショ糖アリルエーテルを含む水溶性架橋剤。
【請求項2】
前記水溶性ショ糖アリルエーテルのエーテル化度が1.8〜4.0である、請求項1記載の水溶性架橋剤。

【公開番号】特開2012−167050(P2012−167050A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28934(P2011−28934)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】